2014年03月21日

刑事コロンボ「忘れられたスター」台詞編A結末部(※ネタバレあり)

(グレースとネッドの会話を聴きながら静かに目をそらすコロンボ)
二人の会話にうなずきながら目をそらすコロンボ - コピー.jpg
(Image Credit: Youtube)


「忘れられたスター」は、往年のミュージカル女優グレース(ジャネット・リー)が、自身の再起をかけた舞台への出資を断った富豪の夫ヘンリーを殺害するという物語。

 ※2021年11月現在、動画配信サイトhuluで、新旧「刑事コロンボ」シリーズが視聴可能





今回は結末部の台詞についてご紹介させていただく。

(※以下ネタバレご注意)




(場面)グレース宅で、コロンボがネッドに彼女の犯行を立証する場面。(※この場面の詳細についてはネタバレ編でご紹介


 グレースは自宅で自分の作品を観ている間に、部屋から抜け出して夫ヘンリーを自殺にみせかけて射殺。2階にある夫の部屋から木をつたって出ていき、部屋に戻った。

 コロンボはいくつかの状況の不自然さから、グレースが犯人であると確信するが、捜査のために医師であるヘンリーのカルテを調べていた際に、グレースが、実はもって2か月という脳の深刻な病にかかっていたことを知る。

 ヘンリーはそのことを妻には秘密にしつつ、舞台に立ったりすれば、それが命取りになりかねないからと、復帰を反対していたのだが、グレースはヘンリーの思いを知らずに、彼を殺してしまった。

 だが、記憶障害が出る病にかかっている彼女は、もはや自分の犯行を忘れてしまっているかもしれない。

 コロンボからその話を聞かされたネッドは言葉を失う。


 現在のネッドは舞台の指導者として、グレースの復帰を後押しする立場だが、元々は彼女の舞台でのパートナーであり、思いを告げることはできずにいたが、長年彼女のことを愛していた。

 そのグレースが、夫の思いも知らずに彼を殺してしまった。

 この残酷な事実を、コロンボがグレースに告げようとしたとき、ネッドは二人の間に割って入る。

(結末)※英語音声


(以下英語の台詞とブログ筆者私的直訳、そして吹き替え版の台詞〈コロンボの吹き替えは、声も台詞も、とても素晴らしいので、是非聴き比べてみていただきたい〉)。
【ネッド】

This has gone on long enough. I killed Henry.

(直)もう十分だ。僕がヘンリーを殺した。

(吹)もう茶番劇はこの辺で幕にしよう。僕が殺したんだ。


I took the gun out of the glove compartment.

(直)僕がグローブボックスから拳銃を取り出して

(吹)僕が彼の車から拳銃を持ち出して

glove compartment……車のダッシュボードについている小物入れ



I came through a rear window.I went up to his room and I shot him.

(直)裏窓を通って、彼の部屋に上り、彼を撃った。

(吹)書斎の窓から入り、二階へ行って彼を撃った。

rear……後ろ・背面


and I made good my escape over the balcony.

(直)そしてバルコニーからうまく出て行った。

(吹)そしてあのバルコニーから木へ飛び移った。

ネッドの言葉に驚くグレース - コピー - コピー.jpg
(グレース、ショックを受けた様子でネッドに詰め寄る)

You don’t know what you are saying!

(直)あなた何を言っているのか自分でわかっていないのよ!

(吹)嘘よネッド!嘘よ!


【ネッド】

It's true, Grace. It’s true.

(直・吹)本当だグレース。本当なんだよ。


【グレース】

No, it can’t be true.

(直)いいえ、本当なわけないわ!

(吹)嘘よそんなこと嘘!


Why? Why would you do anything like that? Why?

(直)どうして?どうしてそんなことをしたの?どうして?

(吹)ねえ…ねえ、どうしてそんなことをしたの、どうして?


(ネッドにすがりついて泣くグレース)


【ネッド】

For you, Grace.For you Grace. For you.

(直・吹)君のためさ。君のためだ。君のね……。


【グレース】

For me?

(直・吹)わたしの?


【ネッド】

Henry was preventing you from assuming your rightful position as a star.

(直)ヘンリーは君がスターとしてしかるべき立場を引き受けることを邪魔していた。

(吹)ヘンリーは君が再びスターの座につくことに反対していたからね。


prevent from doing……(を)妨げて〜させない

assume………(役目などを)引き受ける

rightful……正当な


【グレース】

What am I going to do?

(直・吹)私はどうなるの?


【ネッド】

Oh, you will be all right, Grace. My Grace will be all right.

(直)ああ、君は大丈夫さ。僕のグレースは大丈夫だ。

(吹)君は大丈夫さ、グレース・ウィラーはスターだ。

グレースは大丈夫だ - コピー - コピー.jpg
(Image Credit: Youtube)

【グレース】

No, I can’t do anything without you.

(直・吹)だめ、あなたなしじゃわたしなんにもできない。

あなたがいないと何もできない - コピー - コピー.jpg
(Image Credit: Youtube)

I’ll just wait. That’s what I’ll do.

(直)私、待つわ、そうする。
(吹)私、待ってる。そう、待ってるわ。


I’ll take a long rest. A rest.

(直)私、長い休みをとるわ。休暇を。

(吹)私、休暇をとるわ。休む。


I’ll just a rest. Isn’t that a good idea?

(直)休むわ。いい考えじゃない?

(吹)しばらく休むわ。そのほうがいいわね?


【ネッド】

That’s what you should do, Grace.

(直)それこそ君のすべきことだグレース。

(吹)そうだ、それが一番良い。


Now, you sit over here and you watch Rosie.

(直)さあ、ここに座ってロージー(グレースが若い頃演じた役名)を観るんだ。

(吹)さあ、いい子だ。あそこに座って、ロージーを観ていなさい。


Just watch Rosie.

(直)ただ、ロージーを観ているんだ。

(吹)君の、大好きなロージーをね……。


Shall we go, Lieutenant?

(直)行きますか。警部補(Lieutenant)?

(吹)さあ、行きましょう、警部。

(※吹き替え版ではコロンボの役職が、当時なじみの薄かった「警部補」ではなく「警部」に変更されている。)


【コロンボ】

It’s not going to take much to break your story.

(直)あなたの(作り)話を打ち破るのにそう時間はかかりませんよ?

(吹)あなたの自白なんてすぐひっくりかえされますよ?


【ネッド】

It might take a couple of months.

(直)おそらく2か月はかかるだろう。

(吹)頑張ってみせる。ふた月間は。


(玄関の扉を開けていたコロンボ、振り返る。ネッドは覚悟を決めた目でコロンボを見つめ返している。しばらく言葉を失うコロンボ。)
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(Image Credit: Youtube)

【コロンボ】

Yes. Yes, it might.

(直)はい……はい、そうかもしれません。

(吹)そう……それがいいね。

 コロンボより先にグレースの屋敷を出ていくネッド。

 扉を閉める前に、部屋の中のグレースに目をやるコロンボ。

 若く美しかった「ロージー」の頃の自分の演技に見入り、もはやネッドやコロンボが来ていたことも覚えていないように背中を向けているグレース、幸せそうに微笑む。

 コロンボはうつむき、静かに扉を閉める。


(完)



英語版の

「It might take a couple of months.(自分が犯人でないという結論が出るまでに、グレースの余命である)二か月はかかるだろう」、

「Yes. Yes, it might.そう、そう(二か月はかかる)かもしれません」

と、

「頑張ってみせる。ふた月間は」

「そう……それがいいね……」

は、意味合いが少し異なるが、どちらも見事な台詞だ。


 ネッド・ダイヤモンドを演じたジョン・ペインは、実際にミュージカル俳優としても活躍した名優で、この「忘れられたスター」を最後に、引退した。

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(1949年 37歳のジョン・ペイン)Image Credit:Wikipedia

 温かみのある優しい声と、愛する人のために汚名を被り、戦うことを決めた者の、意思を秘めたまなざし。

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(Image Credit: Youtube)

 彼の素晴らしい演技を、映像に収めた最後の作品として観ると、ドラマの結末で、屋敷を去る彼の、舞台人らしいエレガントな歩き方、洗練された姿勢の後ろ姿が、より心に残る。

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(Image Credit: Youtube)




 ※2021年11月現在、動画配信サイトhuluで、新旧「刑事コロンボ」シリーズが視聴可能

posted by pawlu at 22:56| 刑事コロンボ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年03月18日

刑事コロンボ「忘れられたスター」(台詞編@)「スター」であったことの危うさ

(舞台の稽古場を訪れたコロンボ。振付師のネッドにオフィスに来るように言われる)
稽古場を訪ねたコロンボ、ネッドのオフィスに呼び出される - コピー.jpg
(Image Credit: Youtube)


「忘れられたスター」は、往年のミュージカル女優グレースが、自身の再起をかけた舞台への出資を断った富豪の夫ヘンリーを殺害するという物語。



 【当ブログ「忘れられたスター」関連記事】




本日は、この作品の中の名場面の英語の台詞についてご紹介させていただく。


(場面)振付師ネッドとコロンボのやりとり


早くから夫ヘンリーの死が自殺ではなくグレースの手によるものではないかと疑っていたコロンボ。


捜査のために何度も彼女の前に姿を現し、ネッドはそれにいらだつグレースを心配する。


今回は彼女の復帰舞台の指導者として彼女を支える立場だが、ネッドはかつては役者として彼女とコンビを組み、その名演で喝采を浴びた大スターであり、またひそかにグレースを愛してもいた。


そんなネッドは、グレースの精神状態を気遣って、コロンボにこれ以上無駄に彼女の周辺をうろつくのはやめるようにと強く迫る。
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(Image Credit: Youtube)

(ネッドの抗議に黙り込むコロンボ)
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(Image Credit: Youtube)

以下、そのときの二人の会話とブログ筆者意訳。


(コロンボに抗議するネッド)※英語音声

Let me tell you something, Lieutenant, about being a star,which Grace was.

君に教えておいてやろう警部補(=Lietenant〈コロンボのこと〉)グレースがそうであったような「スター」であるということを。


It’s a crazy, ecstatic, explosive blow to the ego.

それは狂気じみていて、有頂天で、爆発的に自己顕示欲に打ち付けてくる(=自己顕示欲を満足させる)。

ecstatic……有頂天の

exploseve……爆発的な


Very few people are lucky enough to be able to handle it.


それをうまくさばける運の良い人間というのはほんどいない。

 ・handle……(動詞)操縦する


And unfortunately Grace wasn’t one of those.

気の毒だがグレースはそういう人の一員ではなかった。


She’s really ambitious. I know that.

彼女は確かに野心的だった。それは知っている。

ambitious……野心のある


But murder? By someone I ‘ve known……and loved for years. I can’t accept that. I won’t accept that.


だが殺人(を犯した)だって?僕のずっと知っている……愛している人が。

(グレースへの想いを語るネッド〈背後にあるのはおそらく若い頃のグレースの写真〉)
愛していた人だ - コピー.jpg
(Image Credit: Youtube)

僕は受け入れられない。そんなのは認めない。


ネッドの話をつらそうに聴くコロンボ - コピー.jpg
(Image Credit: Youtube)

(コロンボ、つらそうにうつむき、片手をあげてネッドをさえぎり。)

ネッドとの会話を終わらせるコロンボ - コピー.jpg
(Image Credit: Youtube)


I think she did it.

彼女がやったんです。

あの人がやったんです - コピー.jpg
(Image Credit: Youtube)


(ネッドのオフィスを出て行こうとするコロンボ、足を止め)


She invited me to her house tonight to watch a film. I'm going.

今晩、彼女の映画を観に来るようにグレースさんに招待されました。行くつもりです。


If she means anything to you, you ought to be there, because I think she did it.


もし彼女があなたにとって大切な人なら、あそこに行くべきです。私は彼女が犯人だと思って居ますから。

ought……〜すべきである

(X means 〜 to 人で、「人にとってXは〜という意味がある」というニュアンス。「She means a lot to me」で「彼女は僕にとって大切な人なんだ」という意味合いになる)




 このときのネッドの言葉から、スターとして成功するということの、栄光と表裏の危険がまざまざと浮かび上がってくる。

 どんなに成功した人でも永遠に同じ境遇に居続けるということはできない。

 老いや時代の移り変わりなど、なんらかの形で立ち位置を変えざるをえない。

 それが「若くて美しい、喝采を浴び続けるスター」という立ち位置だった場合、時とともに絶対に、ゆるやかにその場から滑り落ちていかざるをえない。

 だけど、その陶酔を知ってしまった人は、ある種強すぎる酒におぼれるように、その快感でしか満足できなくなる。

 アメリカが迎えた歴史上まれにみる未曽有の繁栄、その富と文化の頂点ともいえるエンターテイメントの世界。

 そうした、トップの中のトップの光を燦然と浴び、それに目がくらんだ人間が、あたりまえの人生に戻っていくことの難しさ。

 いかにして、「スター」という生き物から「等身大の人間」に帰っていくか。あるいは、はじめから等身大の自分を見失わずにいられるか。

 それは今現在も続くあの世界の大きな、非常に難しい課題なのだろう。

 こうして、コロンボと一緒にグレースの家に行ったネッド。

 真相を知った彼は、ここでなおもグレースをかばおうとする。




【参照動画】




posted by pawlu at 06:13| 刑事コロンボ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年03月15日

刑事コロンボ「忘れられたスター」結末部と動画ご紹介(※ネタバレ)

(コロンボと犯人グレース〈ジャネット・リー(映画「サイコ」でシャワールームで殺害される美女マリオンを演じた)〉)

コロンボとグレース - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube)


 刑事コロンボ「忘れられたスター」は、往年のミュージカル女優グレースが、自身の再起をかけた舞台への出資を断った、富豪の夫ヘンリーを殺害するという物語。


 ※2021年11月現在、動画配信サイトhuluで、新旧「刑事コロンボ」シリーズが視聴可能




 本日はこの作品の結末についてご紹介させていただく。


 (※以下、ネタバレご注意)


 グレースは自分が若かりし頃出演した映画のフィルムを所蔵し、自宅の映写機で毎日のように観るのが習慣だった。

 犯行の日は、この映画の上演中に抜け出してヘンリーを拳銃自殺に見せかけて殺害。

 そして、「フィルムの準備」、「フィルムへの交換」、「片づけ」の数回戻ってくる執事に、映画を観ている自分を目撃させることで「旦那様が亡くなった時刻には、奥様はずっと映画を観ていた」と証言させる。


 しかしコロンボは、執事の証言から、本来1時間45分の上演時間のはずの映画が、終わりまでに2時間かかったことに気づく。

 この空白の15分に何があったのか。
おそらく、老朽化していたフィルムが上演中に1度切れてしまったのだ。

 しかし、何度もフィルムを観ていたグレースなら、自分でフィルムの修復をするのに4分程度しかかからない。

 最後に執事が来るまでの残りの11分はなおも空白。その間、グレースは何をしていたのか。


 11分間、続きの映らない白いスクリーンを見つめてから、やがて、切れたフィルムを直しに映写機のところへ行った?
いや、それは不自然すぎる。

 グレースは11分間、フィルムが切れたことに気づかなかったのだ。

 その場にいなかったから。

 ヘンリーを殺しに行っていたから。


 この、状況の不自然さを犯人に告げて、逮捕で終わりなら、普通のミステリー作品だが、この作品はここからより深いドラマが展開する。


 グレースは事件直後、コロンボ(と彼の「カミさん」)が自分の作品の熱烈なファンであると聞いて、自宅でのフィルム上演にコロンボ夫妻を招く。


 しかし、上演会の日、なぜか「カミさん」を連れてこず、かつて自分のミュージカル映画のパートナーであったネッドと一緒に来たコロンボ。


 コロンボの妻が来なかったことを残念がりながらも、コロンボのリクエストした映画「ウォーキングマイベイビー」(犯行の日にもグレースが観ていたもの)の上演を始めるグレース。


 だが、そのフィルムが途中で切れてしまう。

 必要以上に苛立ちながら映写機に駆け寄るグレース。

 実はフィルムはコロンボが途中で切れるように細工済だった。

 それを知る由もないグレースは、あっという間にフィルムを直す。

あまりにも無心に。

自ら、犯行時11分間の空白があったことを証明してしまう手際の良さで。


 コロンボは既に気づいていた。

昔のことは鮮明に覚えているのに、最近のことはすぐに忘れてしまうグレースの異変に。

 そして、医者であったヘンリーが、ひそかに「ローズメリー」という女性のカルテを書いていたことも。

「ローズメリー」は脳に重い病気を抱えており、この病気では記憶に障害が出、激しい運動をすれば死ぬ危険がある。

安静にしていても余命は長くてふた月。


 「再起のステージに立つなどという夢は忘れて、一緒にクルーズの旅にでも出ないか?」

殺される直前、ヘンリーがグレースに言っていたこと。

「ローズメリー」

ロージー。

それは、かつてグレースが演じた役の名前。

 余命いくばくもないグレースが、ステージに立てば命取りになることを知っていたヘンリーは、彼女の復帰を反対した。

 そうとは知らないグレースは、自分の夢を阻む夫に怒りを覚え、おそらくは症状のひとつとして、感情のコントロールが利かなくなって彼を殺害した。

 しかし、今となってはそのことを覚えているか……。

 そう、ネッドに話しているコロンボに対し、映写室から出てきて話の断片を聞きつけたグレースは、

「あなたはまだ夫が誰かに殺されたとおっしゃるつもり!?この家の人間がヘンリーを殺すなんてありえないわ!!」

と詰め寄る。


 やはりもう記憶は無いのだ。

 (実は、執事がヘンリーの寝室の異変に気付いてドアを叩いているとき、グレースは怪訝な顔で様子を見に行っていて、おそらく、もうこの時点で自分の犯行を忘れている。)


 グレースに真相を話そうとするコロンボに、ネッドが割って入る。

「もうたくさんだ。ヘンリーを殺したのは私だ」

それを聞いたグレースは、ネッドにすがりついて悲痛な声で叫ぶ。

「あなたが!?嘘よ、そんなこと嘘!!なんでそんなことを!?」

ネッドの言葉に驚くグレース - コピー - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube)

「君のためだ。ヘンリーが君の復帰を阻んだからだ。」

 かつて想いを告げることができず、しかし本当は今も愛しているグレースの魂を守るため、彼の胸で泣きじゃくるグレースにそう言うネッド。


「あなたなしじゃ私何もできない。私待っている。あなたが帰ってくるまで復帰はやめて休暇を取るわ……」

涙ながらに力弱くそう言うグレース。

ネッドはその折れそうに細い両肩を抱くと、グレースをソファに座らせる。

「それがいい。さあ、いい子だ。座ってロージーを観ていなさい」

君の大好きなロージーを。

腰かけたグレースの頬に、そっと口づけをするネッド。
グレースにキスするネッド - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube)


 「あんたの自白なんてすぐひっくり返されますよ?」

そう言いながら玄関の扉を開けるコロンボ。

「頑張ってみせる。ふた月間は」

シルエット帽をすこしかしげた形でかぶり、真面目な顔で答えるネッド。
忘れられたスター ネッド - コピー - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube)

その、覚悟を秘めたまっすぐな目に、コロンボは言葉を失う。
忘れられたスター 驚くコロンボ - コピー - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube)

そして、目を伏せ、うなずきながら小さくつぶやいた。

「そう……それがいいね……」


 コロンボを追い越して屋敷を出るネッド。

扉を閉めようとしたコロンボは、残されたグレースの後ろ姿を見る。

ソファに腰かけ、コロンボたちに振り向きもせず。

若く、完璧な美を誇る自分の、軽やかな歌声とダンスの輝きを浴びるグレース。

忘れられたスター スクリーンの中の美しいグレース - コピー - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube)

 彼女を守るつもりだったとも知らず彼女自身が殺した男。

 彼女のために汚名を被ることを決意した男

 彼女の残り2か月のために、心からの愛を捧げた二人の男の存在すらも忘れてしまったように、その顔に笑みが広がり……。

忘れられたスター スクリーンに見入るグレース - コピー - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube)

 幸せに満ち溢れたため息のような歌声と音楽が、物語の幕切れを告げる。



(エンディング グレースを残して、屋敷を出ていくネッドとコロンボ)※英語音声



【感想】

 栄光を忘れられないかつてのスターの悲哀と言えば、以前ご紹介させていただいた「サンセット大通り」もあり、この映画に影響を受けて作られた作品とも言われているが、一歩も譲らぬ見事なラスト。


 はかなく美しい余情と言う点では、「忘れられたスター」をおすすめしたい。
この作品には古きよきアメリカの舞台や映画の美しさと、それを愛した人たちの哀愁がある。
(ちなみにこのとき、グレースが観ている「ウォーキングマイベイビー(原題Walking my baby back home)(1953年)」という映画は実際にジャネット・リーが主演した映画。)

 アメリカの1950年代以前のミュージカル作品はあまりにも美しい。
ストーリーは幸せと明るさに彩られ、あらゆる意味で技術が高く、登場する人々は軽やかで善良。

 それは一抹の影さえ差さない光の美しさ。

 こういう作品は、今の我々が観ると、感動しつつ、なぜか曇天の向こうにこの世のものではないものを垣間見たように、胸がしめつけられる。

 このため、後々の名作映画の中で「現実との哀しい落差」を示すものとして、引用されるようになった。


 以前ご紹介した「レオン(1994年)」の中でも、殺し屋レオンが、人の少ない映画館で、ジーン・ケリーが歌いながらローラースケートで街中を滑る場面のある「いつも上天気(1955年)」という作品に目をキラキラさせて魅入る場面がある。



(レオンが映画館で観ていた「いつも上天気」の一場面)

 また、「グリーンマイル(1999年)」には、最悪の犯罪の冤罪を被ることとなった癒しの人コーフィーが、フレッド・アステアの「トップハット(1935年)」を観る場面がある。


 恋の芽生えたフレッド・アステアとジンジャー・ロジャースが優雅にダンスを踊る場面。
コーフィーは、暗がりの中で映画の光を受けて目をきらめかせ、思わず「この二人は天使だ」と呟く。

(コーフィーが観た「トップハット」の一場面)


(ウェストエンドミュージカル版「TOP HAT」のTVでのパフォーマンス)

 「なにもかも無くしても、世界が不条理でも、バレエだけは美しかった。あそこには幸福の青い鳥がいた」

 萩尾望都さんのバレエ漫画「青い鳥」の台詞だが、アメリカの古き良き美しいミュージカル映画には、この幸福の青い鳥が宿っているように思われる。

(『ローマへの道』(「青い鳥」収録))


 その中に生き、そこから出られなかった人間の、哀しみと罪。

 そして永遠に夢を見るその人の、苦しい無垢をいたわり愛する周囲の人々。

 おそらくは昔、彼女たちにとても美しい夢をみさせてもらった。その思い出のために。

 「忘れられたスター」の中では、ネッドや、夫ヘンリーだけでなく、執事夫妻もグレースのそういう一面を愛している。

映画を観るグレースへの執事の目や、彼女のドレスアップを手伝う妻の態度がとても優しい。

そして、結局罪を追求しきれなかったコロンボも、彼らのうちの一人なのかもしれない。

こういう情や、現実と美との哀しい落差が、温もりの残る複雑な陰影を成す。


 この、現実と美の哀しい落差の陰影は、「忘れられたスター」の中で、実際に映像で表現されている。

グレースのためにネッドが嘘をつくシーン。

二人は、スクリーンに映し出される「ウォーキングマイベイビー」の前に立っている。
現実の二人を、映画の中の明るく歌う人々が照らし、映画の世界に、現実の二人のシルエットが影を落とす。

映画が二人を照らし、二人の陰が映画を切り取る - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube)

 君は大丈夫だ、僕のグレースは大丈夫だ。
グレースは大丈夫だ - コピー - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube)

そう優しく告げるネッドと、あなたがいなければ何もできない、と泣くグレースの中に、映画の中の幸せな人々の姿が、涙の向こうの光のように、淡くゆらめいている。
あなたがいないと何もできない - コピー - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube)

(ネッドがグレースのために嘘をつき、二人が映画の光の中で話すシーン)※英語音声

 陰の無い世界は現実には無い。

でも、そこが温かく眩しいということは何故かもう知っていて、憧れる。

多分そこに立ったことは一度も無いし、絶対にたどり着けないことはもう知っているのに。

この、私たち全員の知っている胸かきむしられる感覚が、罪を犯しながら、それさえ忘れて夢に魅入るグレースの涙混じりの微笑に重なる。

「忘れられたスター」はそういう、忘れがたい余情を漂わせた作品だ。




(参照動画)※英語音声(注、作品の重要シーンあり)

(被害者の妻がグレースだと知って驚くコロンボ)

(結末)


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2014年02月03日

刑事コロンボ「愛情の計算」コロンボの犬(ある意味)大活躍の場面紹介

(コロンボと彼の愛犬「ドッグ」)
犬を預かってもらえるか聞いてみる - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube (C) 1973 Universal City Studios LLLP. All Rights Reserved.)

 刑事コロンボの「愛情の計算」はシンクタンク所長ケーヒルが、彼の息子の研究盗作を暴露しようとした研究者を殺害するストーリー。

※2022年2月現在、動画配信サイトhuluで、新旧「刑事コロンボ」シリーズが視聴可能


 ケーヒルが高性能ロボットを共犯にする近未来的なトリックが展開する一方で、コロンボの犬の「ドッグ」がコロンボの捜査に同行するが、とくに何もしないという、ある種の存在感を発揮している。

(ケーヒル〈ホセ・フェラー〉と共犯となったロボット)
共犯ロボット - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube (C) 1973 Universal City Studios LLLP. All Rights Reserved.)


 今回は、ドッグが登場する名場面の動画と英語の台詞を紹介させていただく。(※カッコ内はブログ筆者意訳)

(コロンボが「校長」と話しているシーン)


 とある、賞状などが飾られている一室、銀髪に蝶ネクタイの厳格そうな紳士が口を開く。
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(Image Credit:Youtube (C) 1973 Universal City Studios LLLP. All Rights Reserved.)
Lieutenant(※), I’ve been dealing with this academy for over twenty years
警部補(※)、私はこの学園を20年以上経営してきました)

・Lieutenant……警部補〈コロンボの本当の肩書き〉
※ドラマ内吹き替えではコロンボは「警部」と呼ばれているが、語呂やわかりやすさを考えて意訳されている模様。これをもとに脚本家三谷幸喜はドラマ「警部補・古畑任三郎(田村正和主演)」で主人公の肩書を「警部補」にした。
Deal with……〜を扱う、対処する 
and we have never had a situation like this.
(そしてこのような状況になったのは初めてのことです)
 椅子に座ったコロンボ。うんざり顔で紳士の話に同意する。
返す言葉がないコロンボ - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube (C) 1973 Universal City Studios LLLP. All Rights Reserved.)
Believe me, sir, I know you’ve done your best.
(信じてください先生。あなたがベストを尽くしてくださったのはわかっています)
・Sir……男性への敬称
・Do (one’s) best……(その人の)ベストを尽くす

If a student fails we consider it our failure, not his.
(もし生徒が落第した場合、我々はそれが我々の失敗だと考えています。彼(の責任)ではなく)
・Consider……考慮する・みなす
・Failure……失敗(動詞=Fail)
To be honest with you, I was afraid of something like this.
(正直に申しますと、こんなことになるんじゃないかと心配していました)

We’ve had a lot of problems with him at home.
(彼は家でもたくさん問題を起こしまして)
・To be honest with you……正直に言えば
Then you do understand we consider it best that you withdraw him.
(それでは彼を退学させるのが一番だという我々の考えをご理解くださいますね)」
・Withdraw……この場合は「退学する」の意味(預金を引き出すの意味もある)
Yes, sir
(はい、先生)
 立ち上がるコロンボ。
I’m very sorry Lieutenant.
(残念です。警部補)
退学を申し渡される - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube (C) 1973 Universal City Studios LLLP. All Rights Reserved.)

 コロンボの足元でくつろいでいるドッグ、ぽってりした前脚を伸ばし、コロンボを無心に見上げる。
コロンボ、そのドッグの様子を〈犬訓練学校の〉校長に指し示しながら。
He just sits around house and drools. Never moves.
(〈ご覧の通り〉家で座ってよだれをたらしているだけで、ちっとも動きません)(←ひどい形容)
Drool……よだれをたらす 

We love him but a dog should do something.
(可愛いとは思っていますが、犬なんだからなにかするべきです)
Even if he just barks now and then.
(たとえ時々吠えはするとしても……)
Even if……たとえ〜としても (even thoughより起こる確率が低い〈笑〉)
Now and then……時々
 渋々ドッグを抱き上げるコロンボ(なすがままのドッグ)。
 そこに電話がかかってきて、校長がコロンボに取り次ぐ。
Where? ……I’ll be right over.
(どこで?……すぐ行くよ)
電話を切るコロンボ。

(校長に頼みごとをするコロンボ)
I got to go to work. My wife and kids, they are visiting my mother-in law up in Fresno.
(仕事に行かなければなりません。カミさんと子供たちはお義母さんを訪ねてフレズノ(カリフォルニアの地名)に行っていまして)
Got to go……もう行かないと got to はここでは「〜しないと」のhave toに近い意味
mother-in law……義理の母親

You don’t suppose you could keep him for another week?
(もう一週間こいつを預かってもらえないでしょうか?)
(I don’t suppose you couldで、「〜してくれませんか」という意味合い)
ほかの生徒になまけ癖が伝染る - コピー.jpg

校長、言いにくそうに、だが毅然と
I’m sorry, he demoralizes the other students.
(申し訳ありませんが彼は他の生徒たち(犬)に悪影響を与えるので……)
Demoralize……士気を下げる・混乱させる・風紀を乱す
預かり拒否 - コピー.jpg

 コロンボ、返す言葉無く、仕方なさそうにドッグを抱え直して背を向ける。
 ドッグの尻尾と脚がゆらゆら揺れて部屋から消える。



 こうして歴史と実績ある犬の訓練学校からも「前代未聞の何もしない犬で、預かるだけでもほかの犬に悪影響がある」として退学させられてしまったドッグ(ある意味凄い)。

 事件現場である研究所に一緒に行くことになるが、コロンボが「警官の犬だけど警察犬じゃない」と、言う通り、現場に行ってもやはり何もしない。

 ただし、この研究所には、ロボット工学の天才少年スペルバーグがいて、コロンボと犬と仲良くなった彼が、捜査の心強い味方になってくれた。

(コロンボがスペルバーグに犬のしつけを頼む場面)
(コロンボとスペルバーグと犬)
警察犬じゃない - コピー.jpg
(スペルバーグの開発したロボットに散歩に連れて行かれる犬〈ちょっと迷惑そう〉)
ロボットに散歩されるコロンボの犬 - コピー.jpg

 犬は何もしなかったが、そのかわいさと愛嬌で、一応コロンボの役に立ったと言えるだろう。
※2022年2月現在、動画配信サイトhuluで、新旧「刑事コロンボ」シリーズが視聴可能
当ブログ 刑事コロンボ「愛情の計算」関連記事
【補足】
コロンボの犬について詳しく知りたい方には、『刑事コロンボ完全捜査ブック』がお勧め。
可愛いイラストとともに、ドッグの登場回や詳細な情報が紹介されている。(p.132「プジョー403&ドッグ徹底解説!」より)


(画像引用動画)※英語音声、作品の結末部等重要シーンを含む

(作品10分ダイジェスト)
Columbo in 10 Minutes | Season 3 Episode 6 | Mind Over Mayhem

(コロンボと天才少年とロボット)
Boy Genius | Columbo

(コロンボの犬登場シーン集 ※「愛情の計算」以外の作品の場面を含む)
The Best Of Columbo's Dog | Columbo
posted by pawlu at 21:30| 刑事コロンボ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年01月22日

犯人役ドナルド・プレザンスの名演技にご注目 刑事コロンボ「別れのワイン」


(コロンボと犯人エイドリアン〈ドナルド・プレザンス〉)
別れのワイン 一緒にワインを飲む - コピー - コピー - コピー.jpg
Image Credit:Youtube 

 『刑事コロンボ』第19話「別れのワイン」は、ワインづくりに生涯を捧げてきた男エイドリアン(ドナルド・プレザンス)が、ワイナリーの所有権を持つ弟リックを殺害するストーリー。


 ワイナリーを大手ワインメーカーに売却されるのを阻止しようとしたエイドリアンが、リックを気絶させて、ワイン蔵に閉じ込めて窒息死させたのち、死体を海に投げ込んで、ダイビング中の事故に見せかけようとする。

 名犯人エイドリアンのワインへの情熱と、それを捜査の中で知ったコロンボとエイドリアンの、互いに敬意を払う者同士の「対決」そして「対話」が描かれ、その品格と情緒で、全シリーズ中最高傑作とも言われている。

別れのワイン エイドリアン・カッシーニ - - -.jpg
Image Credit:Youtube

作品の注目ポイント

名作だが、エイドリアンが自白に至るまでの経緯が一回観ただけではわかりにくいので、二度観がおすすめだ。

 (コロンボの推理と罠はよくできているが、実はこの時点でのエイドリアンは、「ミスをした」とシラを切れば切りとおせなくもない状況。しかし、コロンボシリーズの犯人たちには、後で自分の行動の不自然さを絞られて白状させられるよりは、観念して罪を認める、エイドリアンのようなタイプが少なくない)

 とりあえず、全て失ったという実感とともに、罪を認めるという心境に至ったことを、心の片隅に留めておいていただければ、ラストシーンがしっくりくるかと。

 注目ポイントは、ワインに命をかけたエイドリアンに対する、コロンボの執念深い追及(エイドリアンと話をするために、短期間でワインのティスティング力を身に着けるというコロンボの意外な才能も観られる)の奥にある、そこはかとない敬意と不思議な心の交流(これぞコロンボシリーズの味)。

 エイドリアンの犯罪に気づきながら、彼に同情し、おそらくはかねてより押し殺していたであろう好意を打ち明け、彼をかばうことと引き換えに、彼との結婚を懇願する秘書カレンの想い。
(ジェームス・ディーンの傑作「エデンの東」で恋人アブラを演じたジュリー・ハリスが哀愁のある演技で作品の趣をより深めている)

 そして、今回ご紹介させていただく、殺害までのエイドリアンの激昂、殺害を決行した後のさまよう心を演じたドナルド・プレザンスの名演技だ。

見どころ1 エイドリアンとリックの口論の場面

(リックに経営方針を責められるエイドリアン)
別れのワイン 経営状況を責めるリック - コピー - コピー.jpg
Image Credit:Youtube

 自分が全身全霊を捧げて育ててきたワイナリーを、リックが金儲け主義の量産ワイン会社「マリノ・ブラザーズ」に売り渡すと聞かされた時、それまで英国上流階級の紳士のように物静かに、しかし、享楽的な弟への皮肉たっぷりな態度で接していたエイドリアンの様子が一変する。

別れのワイン 愕然とするエイドリアン - -.jpg
Image Credit:Youtube
 エイドリアンがリックに小遣いを渡した直後からのやりとりにご注目。
(※以下この場面の台詞と英語抜粋〈DVD内字幕+ブログ筆者意訳〉)
「この土地〈ワイナリー〉を売る(I’m selling the land)」

「何?(What?)」

「マリノ・ブラザーズ社から申し出があった(The Marino Brothers have made me an offer)」

「で、受けるつもりだ(and I’m accepting it)」
 マリノ・ブラザーズ社だと……?

みるみる息が切れ、顔が紅潮してくるエイドリアン。

 マリノブラザーズ社だと!?
「1ガロン(約3.5リットル)69セントの(安酒を売る)マリノ・ブラザーズ社だと!?(Sixty-nine cents a gallon Marino Brothers?)

奴らが作っているのはワインじゃない!(They don’t make wine!)」

奴らの作っているものなんぞ、うがい薬にもなりゃしない!(They don’t even make good mouthwash!)」

「だが金になってるだろう!(But they make money, huh?)

 あんたら気取り屋はワインが飲めればいいんだろうが、俺は金が欲しいんだ(You snobs can drink the wine but I want the cash」

(リックにワイナリーは売却させないと激怒するエイドリアン)
別れのワイン ここに人生を捧げてきた - -.jpg
Image Credit:Youtube


 怒りのあまり何度も言葉を切りながら、エイドリアンは叫ぶ。(特に「達人」の名演技の瞬間)
「私は…私は…私は25年間、ここに人生を捧げてきたんだぞ!(I’ve given twenty-five years of my life to this land!)」

「ほかに選択肢は無いと思うね(I don’t think you have any choice)」
 目を見開いて震えていたエイドリアンはかすれた声で言った。
「……あるさ(Yes, I do.)」
 そして、いきなりリックを近くにあった陶器で殴りつけて気絶させる。

 ここでのドナルド・プレザンスの演技は、それまでの品よく、しかし、つかみどころのない感じから一気に切り替わり、顔色、目の見開きかた、荒い息での間のとりかたなどで、「怒り・激昂」を巧みに表現していて圧倒される。

(冷笑するリックに「落ち着けよ」と顔を触られて振り払うエイドリアン。激情と憎悪に溢れている)
別れのワイン リックの手をよける - コピー - コピー.jpg
別れのワイン弟の手を払うエイドリアン - -.jpg
Image Credit:Youtube

(エイドリアンとリックの口論(売却先が「マリノ・ブラザーズ」であると聞かされたシーンから、リックの手を振り払うまで) ※英語音声、音量注意)
Columbo‘s Spookiest Stars | Columbo

見どころ2 ニューヨークへ向かう飛行機機内でのエイドリアンのうつろな様子

 気絶したリックを縛り上げてワイン蔵に閉じ込めて窒息死させることにしたエイドリアンは、ワイン蔵を後にし、秘書のカレンとともにニューヨークへの出張に出かける。

(余談:このとき飛行機の中でピアノ〈エレクトーン?〉演奏をしていて、乗客の何人かがその周りに立ってお酒を飲んでいる。今では安全基準上見られない光景だろう)

 この時の彼の演技も見事だ。

 ワイン業界の名士としての優雅な登場から、弟を殴りつけるまでの演技の切り替えが「静から動」なら、その後の機内での演技は「動から虚無」。

 大きなファーストクラスのシートに、ぐったりと沈み込んだエイドリアン。

 実際には酒蔵の中でリックが窒息死するのを待っているのだが、秘書のカレンには、彼はアカプルコにいるから連絡をとるようにと伝える。
(この日は日曜日、リックは二日後の火曜日に死亡した)

 電報にしますか?と尋ねるカレンに、うつろな目をしたエイドリアンは、「手紙が良い、電報は嫌いだ」と答え、
「電報は……何か悲劇が起きたような気を起こさせるから(Something about telegram makes one feel that…… some kind of tragedy has occurred.)」
 と、口走る。

 この奇妙なセリフや、彼の口調、しぐさの虚脱感を傍で見ていたことが、カレンが後にエイドリアンの犯罪に気づくきっかけになる。

 コロンボ登場からエイドリアンとコロンボの対決場面は、ワインの薀蓄もあり、少なくとも表面上は穏やかで、非常に粋だ。

 しかし、こうしてその前の段階から、役者の演技力が堪能できるという点でもこの作品は素晴らしい。

(これ以外だと、犯罪前の演技力が光るのは「毒のある花」。)

 コロンボは吹き替えが本当に素晴らしいのだが、英語版も聴き比べてみると、名優の演技が二倍楽しめてお勧めだ。

「あともうひとつだけ」(Just one more thing)「ティッツァーノの赤」

この作品は、グラスになみなみとそそがれた美しい赤ワインの輝きで幕を開ける。
友人達にワインを注いだエイドリアン。
「あのティツィアーノが苦心しようとも、これほどの赤を作り上げることはできなかったでしょう(Titian would have gone mad trying to mix so beautiful a red)」
 エイドリアンの語る、「ティツィアーノ」は1500年代ヴェネツィアの画家。

 2008年には彼の代表作「ウルビーノのヴィーナス」が来日して話題を集めた。

(ティツィアーノ作「ウルビーノのヴィーナス」)
ティッツァーノ ウルビーノのビーナス.jpg
Image Credit:Wikipedia

 エイドリアンもこの絵を思い浮かべ、この美にもまさるものとして、「我が人生ワインあるのみ」というワインへの愛と誇りを語っていたのかもしれない。

※補足:ドナルド・プレザンスが出演する名画『大脱走』が2022年2月放送予定

大脱走 (アルティメット・エディション) [DVD] - スティーブ・マックィーン, ジョン・スタージェス
大脱走 (アルティメット・エディション) [DVD] - スティーブ・マックィーン

BSプレミアム 2022年2月28日(月)午後1時00分〜3時53分

第二次大戦下、ドイツの捕虜収容所からの脱走を計画した兵士たちの物語。スティーヴ・マックィーンのバイクでの脱走シーンが有名。

プレザンスは兵士たちの国外脱出のために偽造パスポートを作る贋作師コリンを演じている。

(※2022年1月28日 記事改定)



posted by pawlu at 06:11| 刑事コロンボ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年01月16日

コロンボ史上最もセクシーな被害者(刑事コロンボ「毒のある花」より、若き日のマーティン・シーンの名演技)

(「毒のある花」の被害者カールを演じたマーティン・シーン)
コロンボ、マーティン シーン1 - コピー.jpg
Image Credit:Youtube(以下同)

「刑事コロンボ」の「毒のある花」(1973)は、化粧品業界のやり手社長で、その美しさで自社の広告塔も務めるビベカが、会社の命運を左右するような画期的な化粧品の機密をライバル会社に持ち込もうとしたスタッフ、カール(彼女の元愛人)を殺害するというストーリー。

(コロンボと犯人ビベカ〈ヴェラ・マイルズ〉)
コロンボとヴィヴェカ - コピー.jpg
Image Credit:Youtube

 原題は「Lovely but lethal(直訳:美しい、しかし、致命的)」。

(コロンボがビベカの会社に聞き込みに行くシーン)
 ヴェラ・マイルズはサスペンス映画「サイコ(1960)」で、行方不明になった姉マリオン(実は宿泊先のモーテルで殺害されている。シャワールームでの刺殺の描写が有名)を探す妹ライラを演じている。
(ちなみに姉のマリオンを演じたジャネット・リーはコロンボシリーズの傑作「忘れられたスター」で犯人を演じている)

 サイコの妹ライラ役のときはしとやかな雰囲気のヴェラ・マイルズが、この作品ではきついまなざしに優雅な声の、まさしく毒のある花の美を披露している。
(日本語吹替の伊藤幸子さんの声も素晴らしい。)

 そして、被害者カール役で登場しているマーティン・シーン

 最近でも映画「アメイジング・スパイダーマン」やドラマ「ザ・ホワイトハウス」に出演している名優だ。
 (チャーリー・シーンの父親としても有名)

 この、今はいぶし銀の名優が、まだ若くてハンサムな姿(当時30代前半、チャーリー・シーンに似ているが、やや小柄で、大きな瞳に憂いがある)で、ヴェラ・マイルズと交わす殺気立ったやりとりが、短いながらこの作品最大の見どころだ。

 彼女にとって、彼は若い遊び相手の一人。

 しかし、彼は何もかもなげうってもいいほどに愛してしまった。

 本気の恋が、一時の玩具のようにあっさりと捨てられてしまったとき、彼の心は怒りに震え、復讐を誓った。

 そういう過去や、激しくうずまく狂気にも似た愛憎を、虚無的な表情やくずれたしぐさの奥から漂わせている。

 場所はカールの部屋。彼が重要な化粧品の秘密を盗み出したと知ったビベカが、彼に詰め寄る。

(カールとビベカの対決シーン)

 化粧品の開発に必要な分子式は、今や彼の頭の中にしか無いと知らされたビベカは、彼が他社に移ることを恐れ、大金を支払うことを申し出るが、彼はそれだけでは首を縦に振らない。

 以下、一部台詞(DVD字幕より)。(※日本語訳は筆者意訳)
「何が望みなの?(What do you want?)」
 苛立ち交じりに聞くビベカ。

 ソファに足を投げ出し、背もたれに頬杖をしながら座っているカール。

 大きな瞳が、ただ、じっと、彼女を見つめる。
ビベカを見つめるカール - コピー.jpg
Image Credit:Youtube

 そのまなざしに、ビベカはとても意外に思いながら尋ねる。

「(望みは)……私?(You want……Me?)」

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Image Credit:Youtube

 表情を動かさずに、かすかにカールはそれを認める。

 そんなことならなんの問題も無い、とすり寄るビベカに、カールはさらに、もうひとつ、自分を共同経営者にしろと言い放つ。

マーティンシーンとヴェラマイルズ - コピー.jpg
Image Credit:Youtube

 はじめは激しく拒絶するが、他にどうしようもないと思ったビベカは、屈辱を押し殺しながら、笑顔で同意する。

 そのビベカの返事に、カールははじめて笑みを浮かべ、彼女に手を伸ばし、その髪を撫でながらつぶやく。

マーティンシーンとヴェラマイルズ2 - コピー.jpg
Image Credit:Youtube
「君にはわからないだろう(You have no idea)」
「どんなに長い間この瞬間を待ち望んだか(how long I’ve waited for this moment.)」
「待って、計画して、そして今!(Waited and planed, and now!)」
 カールはビベカの首を折らんばかりに髪をつかんで、その目を見据え
「お断りするよ。ダーリン(No thank you darling)」
 憎しみを込めて言い放つ。
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Image Credit:Youtube

 突きはなされたビベカは、背を向けたカールを、傍にあった顕微鏡で殴りつけて殺してしまう。

 この殺人直前の二人のやりとり、特に、ビベカに「望みは私?」と言わせ、静かに認めるまでの数秒のマーティン・シーンの沈黙とまなざし。

 ごく短いやりとりだが、二人の美しさと殺気に引き込まれる。

 先ほど言及したコロンボシリーズの名作「忘れられたスター」に、コロンボの「もしもあなたにとって彼女が大切な人ならば(If she means anything to you)」という台詞がある。

 「あなたにとって意味がある女性(She means anything to you)

 それは、「大切な人」「愛している」という意味の言葉だが、憎み、心から徹底的な破滅を望んでも、カールにとって、ビベカは「意味がある女」。

 マーティン・シーンは、それを、頬杖をついたまま、まなざしだけで表現している。
 
 ビベカが、ソファの向かいのテーブルに腰をかけ、カールの顔を覗き込みながら、そのクリームが会社にとっていかに重要かを訴えるシーン。

 ビベカの言葉を完全に聞き流し、ただ、「自分に懇願するビベカ」を堪能するカール。
まばたきをしない大きな瞳に、冷酷と恍惚が入り混じる。
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Image Credit:Youtube
ビベカの懇願を見つめるカール - コピー.jpg
Image Credit:Youtube

 「条件を聞こうか」

そう言い放たれたビベカは、笑みを消して、アイブロウペンシルで、分子式に支払う金額を雑誌に書き込む。

 カールは視線を下げて、それを見つめる。

かつて彼が死ぬほど愛していた女のそのしぐさと、書き出される数字を。

ビベカの書く金額を見つめるカール - コピー.jpg
Image Credit:Youtube

 彼の魂から湧き上がる愛を捨てた女が、彼の頭の中にある分子式のために吐き出す金の値を。


 これほど美しい男が、自分自身も焼き尽くすような愛の裏腹の憎しみをこめて、一人の女を刺し貫くように見つめる演技は、なかなか観られない。

 この作品で、透き通った残酷な破片のような存在感をのこした、マーティン・シーン

 彼は後に、彼の長男エミリオ・エステヴェス監督の映画「星の旅人たち」(2010年)で、スペインのサンティアゴ巡礼の途中で世を去った息子の遺灰を運んで、息子の代わりに巡礼の旅をする父親を演じた。


(彼の旅路を幻の中で導く亡き息子を、エミリオ・エステヴェス自身が演じている)
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Image Credit:Youtube
星の旅人たち マーティンシーン - コピー.jpg
Image Credit:Youtube

 見事な作品なので、ぜひ併せてご覧いただきたい。
posted by pawlu at 19:56| 刑事コロンボ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年01月09日

二つの顔(刑事コロンボ・「優しい嘘と贈り物」のマーティン・ランドー出演)

 本日は簡単にご紹介まで。

 2014年1月11日(15:00〜16:44)BSプレミアムで1「刑事コロンボ『二つの顔』」が放映されます。

 NHKの放送予定紹介はコチラ

 富豪の叔父が、若い娘と結婚寸前、甥にミキサー(泡だて器)を浴槽に放り込まれて感電死。
 
 コロンボはすぐに遺産相続権のある甥を疑いますが、実は動機を持ちうる甥は二人、そして、双子でした。

 料理研究家で陽気なデクスターと、冷静な銀行員ノーマン。

 不仲の二人は、互いに自分の無実と兄弟の有罪を主張します。

 犯人が最初から分かっているケースが多いコロンボシリーズの中で、映像には犯人の顔が出つつ、デクスターとノーマンのどちらが犯人かがわからないという異色作です。

 実は、後味や謎解きの出来からいうと、個人的にはそんなに好きな作品ではありません。コロンボ・第一シリーズにつまらない作品などありませんが中の中。

 でも、この作品は、私がこよなく愛する映画「優しい嘘と贈り物(年配カップルの暖かく切ない恋のお話)」で主演した、マーティン・ランドーが容疑者役(デクスター/ノーマンの二役)です。(あんまり感じが違うので最近まで気づきませんでした〈汗〉)

 「優しい嘘と贈り物」では、子犬のような目をした、シャイでチャーミングな銀髪紳士を演じているマーティン・ランドーが、いずれにせよクセのある容疑者二人を声音や表情を使い分けて演じているところが見ものです。

 「優しい嘘と贈り物」がお気に入りの方は、彼の演技力や年の重ね方がわかって興味深いと思います。よろしければご覧になってみてください。

 「優しい嘘と贈り物」をご紹介した過去記事はコチラです。@ご紹介編 Aネタバレ編(ご覧になっていない方は絶対にお読みにならないでくださいね……)

 BSプレミアムではこの後「毒のある花」「別れのワイン」を放映するようなので、それぞれ個人的に好きな部分を追ってご紹介させていただきます。よろしければご覧ください。

posted by pawlu at 07:05| 刑事コロンボ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年07月04日

別れのワイン(刑事コロンボ)

刑事コロンボを演じた名優、ピーター・フォークさんが六月二十三日にお亡くなりになりました。

NHK BSで彼の追悼企画として本日(2011年7月4日)から刑事コロンボ3話が放映されます。

BSの番組紹介ページはコチラです。

特にお勧めは明日(2011年7月5日)火曜日22時00分〜23時38分放送の「別れのワイン」です。

ワイン作りに命を懸けていた男エイドリアンが、不仲の弟に自分のワイナリーを売却されそうになったために弟を殴り、ワインセラーに閉じ込めて窒息死させます。

ダイビング中の事故死に見せかけたエイドリアンでしたが、コロンボは彼に疑いの目を向けます。

ワインを、ワインだけを愛するエイドリアン役のドナルド・プレザンスの、ワイン作りを奪われそうになって怒りに震える姿と、殺人による虚脱感の演技は、コロンボの名犯人たちの中でも屈指の迫力と味わいを持っています。

一方、ワインに対する造詣を深めることで、犯人としてのエイドリアンを追い詰めるコロンボですが、同時に、ワインを通じて、エイドリアンとの間に敬意や共感のような気配も芽生えます。

コロンボと犯人とのやりとりの中にひそかに流れる、緊迫と親和。

これぞ「刑事コロンボ」の魅力の真骨頂であり、この点において、「別れのワイン」は「祝砲の挽歌」に並ぶ傑作です。

そもそも、「刑事コロンボ」の魅力は、どことなくワインの酔いに似ています。

人生酸いも甘いも知った後でなければ、その味わいの深みはわからず、殺人という題材を扱いながらも、その刺激はどきつくはなく、台詞や設定や演技の洗練から、どこか観る者をふわりとした非現実の心地に誘う。けれども、いつまでもそこに浸っていてはいけないような、危うさの気配。

描写も、犯人の殺伐度合いも、罪の重さもどっぷり現実的で、額面どおりに受け取ったら寝込みそうなドラマとは一線を画し、コロンボは「犯罪」ではなく「ミステリー」という、現実に疲れた大人たちをしばし酔わせる娯楽を我々に与えてくれました。

そんな「刑事コロンボ」シリーズの中で、もっとも「らしさ」が良く出ていると思われる作品。俳優陣の演技力や題材、起承転結の巧みさからいっても、これをナンバー1に推すファンは多いでしょう。

 名優への「別れのワイン」を傾けながら、ご覧になってはいかがでしょうか。


 (補足)
 エイドリアンの秘書である女性の額やあごの線の美しさに、「おや」と思う方もいらっしゃるでしょう。
 彼女はジェームス・ディーンの永遠の名作「エデンの東」で、主人公キャル(ジェームス・ディーン)を包み込むように見守るヒロイン、アブラを演じた女優、ジュリー・ハリスです。お若いときとあんまり変わらないですね。

 勿論、彼女の演技力にふさわしい、複雑な役どころを演じておいでです。併せてご注目ください


 
(さらに補足)

 刑事コロンボの過去記事がいくつかありますので、お読みいただければ幸いです。

@「祝砲の挽歌
 
A「愛情の計算(コロンボの犬ファンの方必見)」←(コロンボ記事内で一番アクセスをいただいております。私を含めてあのワンちゃんに心奪われるかた多いんですね【笑】)
 
B「ロンドンの傘」

C「サイコ」と「忘れられたスター」
posted by pawlu at 22:33| 刑事コロンボ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年05月05日

「サイコ」と「忘れられたスター」(刑事コロンボ)

 本日(2010年5月5日)22:00〜23:51、ハイビジョンシネマで、いよいよ、サスペンスの神様ヒッチコック監督の代表作「サイコ」が放映されます。

 この「サイコ」でヒロインを演じた美女ジャネット・リーは、さらに明後日金曜(2010年5月7日)の22:00〜23:40の「刑事コロンボ(同じくハイビジョン)」で名作「忘れられたスター」の犯人役を演じます。

(聡明なNHKのこと、意図的に番組を組んだんでしょうか……粋なはからいだなあ。)

 いかにもヒッチコック好みの、パーフェクトなブロンド美女が、年月の経過とともに、悲哀を醸す演技派女優となっている姿にもご注目ください。


(以下、ややネタバレです。あらかじめご了承ください)


@「サイコ」とその他ヒッチコック映画のオススメ。

「サイコ」は 美しい女性が金を横領して、訪れたモーテルで、身の毛もよだつ惨劇に遭遇する物語。
 
 シャワーを浴びる女性に襲い掛かるナイフのシーンは、あまりにも有名です。
 
 いや、「サイコ」をご存知でなくても、十人中十二人が、あの神経を逆なでする不気味な音楽が流れれば、「あーあー!!」と思われるでしょう。

 個人的な話をさせていただくと、昔観たうす〜い記憶しかないんで、今回初めてちゃんと観るといえなくもありません。
 
 基本ビビリなんで、推理物は好きなくせに、ショッキングなものは苦手という、ややこしい嗜好でお届けしております。

(というわけで、キツイ場面をほとんど映さない「刑事コロンボ」好き)

 
 昔は「鳥」(※1)も駄目だったなあ。身内も嫌がってましたが(ビビリの一族)。

 おまえ「ヒッチコックは良い」とか書いといて、じゃあなにを観てそう思ったんだぁよ、おぁぅ?(志村けん氏風詰問)と問われたら返すことばがないのですが、「裏窓」(※2)と「ハリーの災難」(※3)が面白かったのです……。

(今回は放映されないみたいで残念です)。

 ストーリーの妙味や洒落た台詞回し、ギリギリの線で、下品にもグロテスクにもならない作品全体の空気感が、非常に新鮮でした。

(※1)「鳥」
 なぜか、あらゆる種類の鳥が、突如として襲い掛かってくるという不条理に見舞われた人々の恐怖を描いた作品。

 高度な合成映像技術と鳥たちの演技は驚異的。

 むしろ鳥が人を襲っている最中よりも、いつのまにか「その時」を前に大挙して群れている鳥の静けさが怖い。

(※2)「裏窓」
 撮影中の事故で足を怪我してしまったカメラマンが、暑さと退屈さのために、家の窓を開けて眺めていたことからわかる、向かいの家々の人間模様。

 ある日を境に、その中のひとつの部屋から、妻の姿が消えたことに気づき、不審を抱いて真相を調べ始める。

 カメラマンがやっていることは、平たく言えばのぞきなんで、現実ならご近所から警察に通報されますが、主役ジェームス・スチュアート(「アメリカの良心」ともいわれた名優【ウィキペディア記事より】)の知的な端正さが「ま、映画だから……」と観る者をなんとなく納得させてしまう。

 ヒッチコック作品に、整った感じの美男美女が多いのは、陰鬱あるいは扇情的になりがちな筋に、圧倒的な美貌という非現実のヴェールをかけて、受け入れやすくするためなんですかね。

 窓から見渡せる各家庭の斬新なセットや、恋人役のグレース・ケリーの魅力とファッションも見所です。


(※3)「ハリーの災難」
 とあるのどかな雰囲気の町で発見された、男(ハリー)の死体。

 発見した人々は、それぞれの理由で自分が彼を殺してしまったと思い込み、死体を隠すために奔走する。

 描き方ひとつで不気味になるストーリーを、愛嬌ある登場人物たちにより、ユーモラスにまとめている異色作。

 

 話を「サイコ」に戻させていただきますが「描き方」といえば、そもそもこの作品でも、「人の体にナイフが突き刺さる映像」はなく(※)、効果音と音楽、悲鳴、カメラワークで、あの有名な恐怖シーンが描かれたそうです

(※……NHKのプレミアム8「シリーズ巨匠たちの肖像 ヒッチコック・サスペンスの深層」という番組で紹介されていたかと……。違う特集番組だったかな……うろおぼえですみません。)
 
 この、映画製作上の工夫と抑制(しかし、だからこそいっそう印象的)がヒッチコック映画の魅力です。


A 刑事コロンボの「忘れられたスター」

 ジャネット・リーは再起を夢見るベテラン女優を演じます。

 女優グレース(ジャネット・リー)はカムバックを賭けた舞台のために、裕福な医師である夫に資金援助を求めますが、彼はそれを拒絶します。

 思い余った彼女は、財産目当てで夫を殺害、この事件にコロンボが挑みます。

 彼女を愛していた男性(誰であるかは是非ごらんになってみてください)との物語がからみ、コロンボ・シリーズの中でも屈指の余韻をもつ作品です。

 単なる推理物ではなく、愛情や、役者の執念、過去の栄光を忘れられない悲哀などが絡んだ人間ドラマとして印象に残ります。

 「別れのワイン」と「祝砲の挽歌」に並ぶ、僕的コロンボ三大傑作です。

 「忘れられたスター」ネタバレ編はコチラです。よろしければ併せてお読みください。

(刑事コロンボは「祝砲の挽歌」「愛情の計算」「ロンドンの傘」についても、既に記事を書かせていただいておりますので、よろしければクリックしてお読みください。)

posted by pawlu at 14:05| 刑事コロンボ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年04月22日

ロンドンの傘(「刑事コロンボ」)



@あらすじ


 「ロンドンの傘」はその名の通り、ロンドンが話の舞台。



 犯人は、最近人気が落ちているベテランの役者夫婦。ニックとリリー。


 夫婦共謀し、妻リリーが、資産家サー・ロジャー(※「サー」は、この場合、イギリスの身分の高い人につける敬称)に気のあるそぶりを見せて、彼の劇場で公演できるようになります。


 しかし、からくりに気付いたサー・ロジャーは激怒。公演を中止すると言い、いざこざの最中に、夫妻ははずみでサー・ロジャーを殺してしまいます。


 夫妻は、サー・ロジャーの死体を彼の邸宅に運び、事故に見せかけますが、アメリカから視察にきていたコロンボが、彼らの小さなミスから、犯罪を暴いていきます。



A感想


 作品の出来、それ自体としては、コロンボシリーズの中では標準なのですが、とにかくコロンボ(ひいてはアメリカ)の目から見たロンドン(しかも1970年代)、が見られるという意味では、とても興味深いです。


 ただし、登場人物たちのキャラクターが、コロンボ・シリーズの中では結構異色なので、


「大胆にして緻密な犯罪隠蔽工作を遂行する名士たちと、したたかなコロンボとの、静かなる頭脳合戦」


という標準的な構図を期待すると、かなり意外に思われるかと。


 「外国人コロンボが垣間見た、やや善悪の価値基準が一般と異なる人々のシュールな人間ドラマ(40年前のロンドン観光つき)」といったスタンスでご覧になると、しっくりくるのではないでしょうか。


(以下、かなりネタばれなので、気になさらない方だけお読みください。)



B特色


 (1)犯人像


・完全複数犯


 コロンボ・シリーズは、たいてい単独犯で、手を貸す人物がいても、主犯は一人だけというケースが多いのですが、この作品では、犯人二人が、犯罪後の打ち合わせを台詞で綿密にしています。



 音楽や、目つきや、小さな仕草で、じりじりとした焦燥や、乾いた冷静さを醸す他作品にくらべると、わりと賑やかな構成といえるかもしれません。


・犯人の性格



 よりにもよって、アメリカ以外の人を描く際に、この性格設定にしなくてもと思うのですが、

(イギリス人から見たら、「これが我が国の典型と思われたらどうする!」と結構不服だったのでは)

この二人、コロンボ・シリーズ史上最も、殺害後も平常運転の人々です。  


 サー・ロジャーの死をしおらしく嘆いて見せたかと思うと、夫婦で庭仕事に出るみたいに軽口をたたきながら、悪だくみを進めていきます。


 そして、公演の成功に大はしゃぎ。まるで誰も殺していないかのようです。


 舞台人の、成功への飽くなき渇望というのは、コロンボ内屈指の名作「忘れられたスター」の犯人にも共通しているのですが、この夫婦は、パーティーでチヤホヤされたり、新聞評を読んでご満悦なので、あの作品とはだいぶ味わいが違います。


 彼らが、作品内の公演で演じたのは「マクベス」ですが、このシェークスピアの四大悲劇、主君である王を殺して王位を奪った武将マクベスと、彼をそそのかしたマクベス夫人が、迫りくる良心の呵責と、運命の皮肉によって破滅していくという筋。


(ノックの音におびえるマクベスと、王の血が落ちないという強迫観念に襲われて、夜な夜な手を洗うしぐさをするマクベス夫人のシーンは有名)



マクベス (新潮文庫)

マクベス (新潮文庫)

  • 作者: シェイクスピア
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1969/08
  • メディア: 文庫





 この舞台の台詞は、事件と重ね合わせるようにして、たびたび登場していますが、この二人が本当に「マクベス」夫婦の、重苦しい罪のおののきを演じられたのかと、疑問に思うほどです。


 少なくともこの二人が、実体験から演技の真髄を掴んでいくタイプでないことは間違いが無いですね……。



 もう一人、「人が亡くなったというのに、その感覚でいいんですか……?」という人が出てきますが、これはドラマ内でご確認ください。



 (2)「イギリスらしさ」



 これが本当のイギリスの典型かどうかはともかく、外国人から見ると、「ぽいな〜」というところが、結構シニカルな部分まで描かれています。


・ロンドン観光 


 カメラを持って駆けずり回るコロンボとともに、兵隊の行進や、タワーブリッジ、警視庁の建物などが登場します。ちょっとした観光映像的。


(排ガスの影響でしょうか。今より黒ずんだ建物が多い気が……)



 もちろん、ロンドン、というかイギリスの象徴ともいえる、昔ながらのパブも出てきます。



 「刑事コロンボ」ではおなじみの「豪邸訪問」シーンもイギリス調。

重厚な書棚や家具が、特にイギリスの古い邸宅を感じさせます。


(ちなみにこのシーンの執事氏の台詞で、エドガー・ポーの短編にも登場する酒アモンティリャアドが登場します。)



 途中で、ロンドンの刑事部長たちとコロンボが食事をする行きつけのクラブ(夜の飲食店というより、常連が集う高級カフェのようなものらしいです。どうもこの刑事部長は、かなり古い家柄の人の模様)のインテリアも豪勢です。


 こういう凄い内装のレストランやカフェは、今でも結構残っているんですよね。ご注目ください。



・帽子と傘


 警察関係者たちが、黒いシルエット帽を被っています。


 最近は、イギリスでも、帽子をかぶっている人が減りましたが(ハンチングの中高年男性は、今でも地方で多く見かけます。おしゃれですねー)、わたしは帽子支持派です。


  •  

 三十代以上の人の帽子文化が、男女問わず、このくらいの日常性で復権してほしいと思います。


(職場に当たり前に被っていけるってのがミソ)


 また、邦題通り(※)、ロンドンの立派な傘が、重要な小道具として登場します。


(原題は「Dagger of the mind」、「心の短刀」と訳せばいいのでしょうか。「Dagger(短刀)」は暗殺の象徴だとか。「マクベス」に登場する武器です。)


 ……が、雨が多いにも関わらず、現代のイギリスの人が傘をさしている姿は、意外と見かけません。


 フードやレインコートでなんとかしてしまうことが多いみたいですね。


 一部イギリス人には、「にわか雨で、傘をさしている人は外国人観光客」という見わけがあるとか無いとか。

(余談ですが、「アジア人はマスクをする」ってのもあるみたいですよ。以前の記事「豚インフルエンザについて」をご参照ください。)


 しかし、一方で、ロンドンには高級な老舗傘店が今でもあり、フンパツする方には良いお土産とされています。


(コロンボも、「傘をお土産にする」といっていますが、彼は乾燥したロサンゼルス在住。一種の笑いどころですね。


【沖縄の人に、ダウンコートお土産にする的な。そもそも、コロンボがレインコート愛用しているのも矛盾なのですが】)


 ロンドンの老舗傘店では、丁寧な縫製に洒落た布地、美しい木目や、銀の細工の握りなど、ほれぼれするような立派な傘が所狭しと並べられています。


 高級品は、心棒から柄の部分までが一木で継ぎ目が無く、身長に合わせて選ばれ、ある程度体重をかけることも可能という話を聞きました。


 つまり、ロンドンの傘は、かつてはステッキ同様、補助かつ護身の役割を果たし、高級な物の場合、ひとつのステイタスの象徴だったのではないでしょうか?


 大英博物館の側にJames Smith & Sons(←こちらのHPで傘についての蘊蓄も英語で読めます)という有名な老舗傘店があります。


 お値段も品質に正比例しているようですが、店構えも、束になった高級傘のディスプレイも、あたかも「傘の歴史博物館」といった趣ですので、通りすがりに眺めてみるだけでも楽しいです(経験者談)。



(3)イギリス式心臓(?)


 この作品で、個人的に最も印象深かったのは、コロンボが地元の刑事部長や医師とともに、前述した重厚なクラブで話す場面です。


 優雅な軽食が始まると思いきや、医師が、平然と遺体の写真を食事の隣に並べてしまい、コロンボは、極力見ないようにしながら、刑事部長に写真を渡しますが、刑事部長も、これまた平然と見ながら、コロンボに返してしまいます。


 コロンボは、有能ながら血に弱く、死体はおろか、生きている人の傷口を見ても青くなるという繊細さ。

 ドラマ自体も露骨な殺害シーンや死体はほとんど映りません。


 一方、イギリス人の一部の人は、案外そういうの平気です。


(全員ってわけではないので念のため。わたしの知人たちは違いました。)


 刑事部長や医師はプロだからということではなく、ロンドン、ヨーク、エディンバラなどには「○○(都市名)Dungeon(ダンジョン)」なる犯罪博物館兼お化け屋敷みたいなもの(兼ねちゃっていいのか?)があり、人々は恐怖刺激を求め、過去の凶悪犯罪の再現蝋人形なんかを観に行ったりするのです。

(Dungeon=土牢・地下牢)



 わたしは昔「London Dungeon」に行ったことがありますが、

(もっと学術的な場所かと思っていたら、暗闇に蝋人形で人間の闇の歴史の光景が延々と……連れはナイーヴだったので、悪いことをしました。)、切り裂きジャックの犯罪現場を巡るシュミレーションツアーなんてありました。確か遺体の写真も見せられた気が……(怖いので下向いていました)。


(補足:さっき改めてHPチェックしたら、もっと積極的に襲いかかってくるタイプのアトラクションに変わっていました。HPそれ自体が僕的にはもはや無理です。)


 それに、この「ロンドンの傘」に登場する蝋人形館のモデルになっているであろう、観光名所「マダム・タッソー(Madame Tussauds)」にも、有名人たちの蝋人形と記念撮影できる楽しいコーナーの先に、そのような怖い場面の展示などがありました。


 こちらも、動画を観たらもっと手に負えない感じのものになっていました(上記HPをクリックなさるかたはお気をつけてください)。

かえすがえすも時代が……(以下略)。


 日本の場合、実在の事件や人物に関して、滅多なことでは展示はしないし、観光の一環にもならないと思うので、感覚が少し違うと思いました。


 本当にあった話の怖さは、いわゆるお化け屋敷の恐怖と違って、「その場を出ても残る」「申し訳ない気がする」というのが、個人的意見なんですが……。


 そういう、「イギリスの一部の人……気が重くならないのかな……」という疑問が、この一場面に象徴されている気がしたんです。


 ですが、イタリア人の知人いわく、イタリアにも類似した観光名所(?)があるそうなので、べつにイギリスに限った話ではないのかもしれません。


 まあ、今やアメリカだろうがイギリスだろうが日本だろうが、すっかり各国「ショッキング」に目が慣れてしまいましたから、コロンボの感性こそが少数派になりつつあるのかもしれませんが……。




 こんなところです。よろしければご覧になる際の一助になさってください。


 最後に、マニアックな余談。


 今回、物語冒頭で登場する、リリー扮するマクベス夫人がつけているネックレス、別の回の「歌声の消えた海」(犯人役はロバート・ボーン)で、被害者のジュエリーボックスからチラっと出てくるのと同じ物のようです。


posted by pawlu at 18:54| 刑事コロンボ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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