2023年01月30日

映画「エデンの東」(ジェームズ・ディーン渾身の演技、すれ違う家族を描いた不朽の名作)

(主人公キャル〈ジェームズ・ディーン〉と父アダム〈レイモン・マッセイ〉)
テーブル越しのキャルとアダムリサイズ - コピー.jpg
CREDITS: TM & c Warner Bros. (1955)

 映画「エデンの東」(1955年)は、第一次大戦期のアメリカで、厳格な父に反発しつつ、愛されようともがく青年キャルの葛藤を描いた作品。



24歳の若さで亡くなった伝説の大スター・ジェームズ・ディーンの初主演作で、愛に飢えた孤独な青年キャルを演じ、一躍大スターとなった名作。ジョン・スタインベックの長編小説をエリア・カザン監督が映画化、アカデミー賞4部門にノミネートされ、母を演じたジョー・ヴァン・フリートが助演女優賞を受賞した。あまりにも有名なレナード・ローゼンマンのテーマ曲、撮影監督テッド・マッコードのダイナミックな映像美もみどころ。


 ジェームズ・ディーンこの映画が公開された年に、わずか24歳で自動車事故によって世を去った。


(あらすじ)

 1917年、第一次大戦中のカリフォルニアに住むキャルは、町の名士である父親アダムと、双子の兄アロンとともに暮らしていた。

 アロンは父に従順で品行方正だったため、父の愛はアロンにばかり向けられ、生まれながらに奔放な魂の持ち主であるキャルは、父を愛しつつも、疎外感からますます反抗的な態度をとるという悪循環から抜け出せずにいた。

 そんな日々の中、キャルは、彼ら兄弟を生んですぐに死んでしまったと聞かされていた母が、実は別の町で生きているという噂を耳にする。

 母ケートは、アダムと正反対、そしてキャルによく似た奔放な性格で、アダムが自分を支配しようとしていると感じ、子供たちを残して家を出てしまっていた。

 今は娼館を営んでいるケート。

(ケート〈ジョー・ヴァン・フリート〉)
キャルを見てかすかに笑う母リサイズ - コピー.jpg


 キャルはケートの居場所を突き止めた後、父から真実を聞き出そうとする。 
 しかし、アダムは、妻との離婚は認めても、その居場所は知らないと言った。

(キャルとアダムの会話の場面)※二人の不安定な関係を象徴するように斜めにかしいだカメラワークが用いられている。
East of Eden (1/10) Movie CLIP - Talk to Me, Father (1955) HD

 時期を同じくして、アロンはアブラという女性を婚約者として連れてきた。

 キャルは、アブラと話をするうち、彼女にも父に愛されていないと思い孤独だった時期があったことを知り、彼女にそれまで女性に感じたことのない親近感を抱く。

(アブラ〈ジュリー・ハリス〉)
この話を気に入ると思った - コピー.jpg

指輪は見つからなかったリサイズ - コピー.jpg

(アブラの少女時代の思い出を聞くキャル 暗い部屋での父との会話と対照的に、明るい菜の花に囲まれている)
James Dean Ultimate Collector's Edition | East of Eden -- Ring | Warner Bros. Entertainment

 その頃、アダムが販売する予定だった野菜が、雪崩で運送列車が止まったために全て駄目になり、アダムは大きな負債を抱えてしまう。


 父の窮状を救いたいと考えたキャルは、戦争で高騰するであろう豆に投資するべく、資金集めに奔走する。

 金を儲けて父を救えば、今度こそ父は、自分を愛してくれるはずだ。

 しかし、キャルの切なる願いは、この後一家を揺るがす事件へとつながっていく。




(見どころ)

 映画音楽の傑作として今も愛される美しいテーマとともに、すれ違う家族の悲哀が丁寧に描かれている。

East of Eden(1955) - Theme Music


 実人生でも父親と縁が薄かったジェームズ・ディーンの、魂の奥底から絞り出されるような演技が心に迫る。

アロンはどこだリサイズ - コピー.jpg

(ジェームズ・ディーンの父は、彼が9歳で母を亡くした後、幼い彼を親戚に預けた。成長後も、役者への夢を反対するなど、生涯良好な関係を築けなかった。)

 口ごもるようなしゃべり方と、曇天の向こうの不愉快な光に目を細めるような、鬱屈と寂しさを秘めた若者独特の表情、人々の隙間をふわりとすり抜けていくしぐさは、演技達者な役者陣の中でも異彩を放っている。

理由を聞くキャル - コピー.jpg

 それでいて時折見せる笑みは無垢そのもの。


 映画内のキャルは未成年と思われるが、既に24歳になっていたジェームズ・ディーンが、愛に飢えたまま成長したキャルの少年のような魂を見事に表現している。

 キャルが、父への感情をあらわにする、ある場面は、アメリカ映画の一つの頂点だ。

(この場面は、ジェームズ・ディーンがアドリブで演じ、父親役のレイモン・マッセイの動揺がそのままカメラにおさめられている)

 また、母ケートの、「善良さ」「貞淑さ」に閉じこめられることを嫌うあまり子供たちを捨てて出奔した激しさと、キャルに対する複雑な思い。

お前は私に似ているリサイズ - コピー.jpg

(キャルにアダムと別れた理由を話すケート)
Nobody Holds Me (1955) HD


 兄の婚約者アブラの、孤独を克服した者の強さと、キャルへの深い優しさも印象的。


 監督のエリア・カザンは撮影のとき、気分屋のジェームズ・ディーンと、正統派俳優のレイモンド・マッセイが折り合いが悪かったことを、父子の緊張感を出すのにちょうどいいと考え、わざと対立を放置した。
 生い立ちで苦しんだジェームズ・ディーンにとっては、本物の心の傷から血が噴き出しかねない、危うい状況だったのだが、この作品に限って言えば、それが、あの見事なアドリブにつながっている。

 ジェームズ・ディーン自身、演技と悲しい記憶の狭間で翻弄されながらも、この作品をとても愛していた。

 アブラを演じたジュリー・ハリスが、撮影が終了した直後の彼の様子を語っている。

 八月、『エデンの東』の撮影もついに今日で終わりという日、ジュリーはジミー(※ジェームズ・ディーンのこと)を探しにセット内のトレーラーのなかにある彼の部屋を訪ねた。何度かノックして、ようやくドアが開いた。

「そこに彼が立っていたの。ぶるぶる震えながらすすり泣いていたわ。『終わっちゃった!終わっちゃった!』そう何度も繰り返してるの。『でもジミー、これはあなたにとって始まりなのよ』そう言っても、ジミーはすすり泣きをやめなかった。『だけど、これは……もう終わっちゃった!』」

 その映画は彼にとって唯一の家族、唯一の目的だったのだ。ジュリーはそう実感した。「そのときの彼は、いつもにもまして小さな迷い子のように見えたわ、あの反逆者、人にショックを与え、イライラさせるのが大好きな若者はいなくなっていて、傷つきやすく心優しいジミー・ディーンがいきなり現れたの」

(『ジェームズ・ディーン/反逆児、その生涯と伝説』「8 エデンの東」p.226 )
 スターになることと、これが自分が役者になった理由だと思えるほど、本当に演じたい役を演じられることとは別だ。

 ジェームズ・ディーンは、本当の人生では伝えられなかっただろう、父親への愛情や自分の悲しみを、『エデンの東』のキャルの全身全霊の演技に込めた。

 それをぶつける相手だった「父アダム」は、子供を捨てたわけではない(むしろ妻が去ったあと、男手で、彼なりに真剣に息子たちを育ててきた)、キャルとわかりあえずにいら立っていても、善良な部分もある人物だった。

(アダムは、自分が名士であるために、地元の若者を戦場に送る手続きをしなければならないことに悩んでいる。この背景が、戦争による物価高騰で大金を得たキャルとの溝を深めてしまう)

 対立しながらも、愛するに値するアダム。 

 そして、キャルの孤独を深く理解し、包み込むアブラ。

 この作品の「終わり」は、彼らと、そしてジェームズ・ディーンがキャルとして生きられる時間との「別れ」だった。

 だから涙が止まらなかったのだろう。

 まだ人生が続いていれば、新しい「始まり」も、現実の幸福も彼に巡ってきたかもしれない。

たが、彼がそれを知ることはなかった。


 『エデンの東』の撮影中、エリア・カザンはジェームズ・ディーンに囁いた。

演技にも精神面にもむらのある彼の、「黄金」のように輝いている瞬間を撮るために。

「ぼくらが死んでも、この映画はずっと残るよ。みんなこれを見て、素晴らしい映画だと思うだろう」
カザンは回想する。「こう言うと、ジミーはとてもうれしそうな顔をした」

 (同 p.222)



(※2018年2月16日公開記事加筆修正)


パパどうすべきか早く教えてください - コピー.jpg

 『エデンの東』と同じく父と息子の葛藤を描いた作品。こちらは1950年代の「物はあるけれど愛に飢えている若者」を描いている。『エデンの東』のジェームズ・ディーンの演技にほれ込んだニコラス・レイ監督が、『エデンの東』完成直後に、まるで対のような作品を手掛けた。こちらも痛切な傑作であり、現代社会の問題に通じる点が多い。




posted by pawlu at 00:06| おすすめ映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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