(コロンボと葬儀会社社長で犯人のエリック〈パトリック・マクグーハン〉)
(Image Credit:Youtube)(C) 1998 Universal City Studios, Inc. All Rights Reserved.
新刑事コロンボ「復讐を抱いて眠れ」(1998年)は、葬儀会社の社長が、自分のスキャンダルを暴露しようとした元愛人の芸能ゴシップレポーターを殺害するストーリー。
犯人役は、コロンボシリーズに4回登場したパトリック・マクグーハン。今回は、ピーター・フォークとともに、製作総指揮と演出も手掛けている。
旧シリーズ「祝砲の挽歌」(1974年)では、陸軍幼年学校の校長ラムフォードを演じ、冷徹と孤独の入り混じる名犯人像で強烈な印象を残した名優だ。
(Image Credid:Youtube (C) 1974 Universal City Studios LLLP. All Rights Reserved.)
今回は、良心のかけらもない役だが、際立った長身と洗練されたしぐさが醸す風格が、悪どい所業とのギャップを生み出している。
俗っぽい犯人や生々しい展開の多い「新」シリーズの中で、むしろ「俗」を極めてブラックユーモアに仕立てたことで、成功した作品でもある。
NHKBS 放送情報 2023年1月7日(土)午後4:30 〜6:00
※2023年1月現在、動画配信サイトhuluでも、新旧「刑事コロンボ」シリーズが配信中
『刑事コロンボ 完全捜査ブック』でも、「ミステリとしての脚本の上手さや、個々の演出の見事さ以前に特筆しておかねばならないのは、本作で、本当にようやく、「刑事コロンボ」らしい品格がシリーズに戻ってきたことだろう(p.188)」と高く評価されているこのドラマ。
ただし、その「品格」はキャラクターたちのものではない。
むしろ、犯人エリックはもちろん、それ以外の主要キャラクターも「どうかと思う」ところがある。
遺体を探ることで、故人が文字通り「墓場まで持っていこうとした」秘密を暴き、それをマスコミに売り渡していた葬儀業者。
自分を捨てた男を破滅させるためには手段を選ばず、復讐のあとで暴露祝いパーティーまで開くつもりだったゴシップレポーター。
夫の葬式後、一晩も喪に服せず、葬儀業者にしなだれかかる未亡人(いつも酔っている)。
(こういう未亡人たちを「お慰め」したことも、エリックの「成功の秘訣」だった)
マクグーハンとともに、ベテランの名女優二人が、こういう「どうかと思う」主要キャラクターを演じている。
(犯人エリックと、エリックに「よろめく未亡人」ヒューストン夫人(サリー・ケラーマン)(左)被害者のゴシップレポーター、ヴェリティ〈ルー・マクラナハン〉(右)。「ついていけない」感じの人々に囲まれ、「やれやれ」とお手上げ状態のコロンボ)
(Image Credit:trakt.tv)
ほかにも、不仲だった夫の葬式代をケチって、裕福なのに段ボールの棺を使おうとする妻や、スムーズに式を進めるために、ストップウォッチでタイムを計られながら弔辞を組み立てる牧師など、葬儀の「実際にある話なのだろうけれど、知りたくなかった」一面も、容赦なく登場する。
被害者すら「因果応報」感が漂い、「俗物」の人口密度が高いドラマだが、それでもこの作品は確かに品格がある。
こういう人間模様を、殺伐としたリアルではなく、軽妙な「ブラックユーモア」、観る人が苦笑いするべきものとして描いているからだ。
この作品が、あくまで「ブラックユーモア」であることを示している、短いが重要な場面がある。
往年の名ダンサーの葬儀で、銀髪の紳士が、棺の前でタップダンスを踊るシーン。
Sending Them Away In Style | Columbo
踵に羽の生えているような軽やかなタップはもちろん、人々に壇上へと送り出される背中、チャーミングな微笑、シルクハットのつばを整える指先の動きまで、暖かなエレガンス漂うこの人物は、アメリカタップダンス界のレジェンド、アーサー・ダンカン氏。
(Image Credit:IDMB)
「素晴らしい、実に素晴らしい……」
彼のダンスにコロンボが見惚れるこのシーンにだけ、敬愛する人を見送る「葬い」の本当の思いやりがあり、彼だけが、ほかの主要人物には著しく欠けている優しい気品を持っている。
(Image Credit:IDMB)
エリックとコロンボが話しているその真ん中で、ステンドグラスを背景に、踊りながら光に浮かび上がる姿は、二人の対決の天秤がどちらに傾くかを見守っている、運命の天使のようだ。
(コロンボの良作には、こうした一枚絵のようにぴたりと「決まっている」シーンがある。)
この美しいダンスがキラリと閃くことで、ドラマの中の俗物模様は、人間の「スタンダード」ではなく、「コメディ」だとはっきりわかるのだ。
(タップの音色そのものまで、軽やかで心地よく、どこか、天使のくすくす笑いのようにも聞こえる)
エンディングテーマは、彼が踊った「二人でお茶を」。
コロンボとエリック(そして、常に「名犯人」であったマクグーハンが演じたキャラクターたち)の、ある意味で「息の合った」関係を暗示させながら、「葬式泥棒」を繰り返した男自身の「葬式」というエンディングを、悪残りさせずに軽やかに幕引きしている。
「こんな立派な葬儀で送られたら気分いいでしょうねえ」
天使のようなダンスを見つめるエリックに、去り際のコロンボがそっと言い残した言葉を、観る人に思い出させながら。
時代が変わり、視聴者の嗜好が変わり、悪人すら、凄みや憐れがあった、かつての名犯人を登場させることができなかった(と判断してしまっていた)コロンボシリーズに、違う形ででも品格を呼び戻すため、実力者たちが「笑い」を演じ、美しいダンスが、犯人エリックには持たせられない「気品」をドラマの中に含ませた。
アメリカを代表するドラマシリーズだった「コロンボ」の意地を感じさせる、新シリーズトップクラスの名作だ。
(画像引用動画)
Tea for Two | Columbo
(参照)
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