(アパートの住人フランクの寝顔を見つめる宇宙人)
「ニューヨーク東8番街の奇跡」(1987年 アメリカ〈原題「*batteries not included」〉)は、再開発が進むニューヨークで、立ち退き問題に悩まされる人々のもとに、小さなロボットのような宇宙人たちが訪れるSFファンタジー映画。
(スティーブン・スピルバーグ製作総指揮)
※当ブログのあらすじご紹介記事はこちら
ノスタルジックな食堂「ライリーズカフェ」を経営する老夫婦フェイとフランクを、実生活でも夫婦だった名優ジェシカ・タンディとヒューム・クローニンが演じている。
そして、脇役の人々の演技とキャラクターも素晴らしい。
ハリーと宇宙人の末っ子赤ちゃん
老夫婦と同じアパートに暮らすハリー(フランク・マクレー)は、かつて「人間機関車」と呼ばれたボクサーだった。
引退後の今は、テレビを観るか、ぼろぼろのアパートの修繕をするかという、つつましい暮らしをしている。
地上げ屋のいやがらせに困り果てているアパートに、物を直すのが得意なかわいい宇宙人たちが住み着いてから、住人達それぞれの暮らしが明るくなり、無口なハリーにも笑顔が増えた。
(胸元に選手時代のトロフィーを持っているハリー。金属も宇宙人たちの食料なので、プレゼントするつもりらしい)
ハリーは体は逞しいがとても内気で、喋るときはテレビのCMや番組のフレーズを引用する形で、自分の気持ちを伝えている。
(※「出かけるときは忘れずに」は、当時のアメリカンエクスプレスカードのCMのフレーズ)
そんなある日、アパートのみんなが見守る中、宇宙人夫婦に赤ちゃんが生まれる。
しかし、最後に産み落とされた、三番目の赤ちゃんは、目を開かなかった。
ハリーは、ぽつりとつぶやいた。
「『電池は入っていません』」
(「*batteries not included」……アメリカの家電製品CMの定番フレーズ。「電池は別売り」の意味で、映画の原題はここからきている)
屋上のプランターに埋葬された赤ちゃんを、住人達の目を盗んで掘り返すハリー。
みんなの制止を振り切って、部屋に戻ったハリーは、大切なテレビを分解して、その部品で赤ちゃんを修理(蘇生)しようとする。
ハリーの試行錯誤に偶然が重なって、末っ子赤ちゃんは生き返った。
ハリーに教えられて、犬笛で呼ばれたら、彼の上着のポケットに入る練習をする赤ちゃん。
赤ちゃんが助かったことを知り、アパートのみんなはハリーに感謝する。
(元気に遊ぶ赤ちゃんたちを見て笑うハリーと老夫婦)
しかし、宇宙人の存在に気づいた地上げ屋の下っ端カルロスに、危険な目に遭わされた宇宙人一家は、アパートから姿を消してしまった。
床のはがれたタイル
(※以下、物語後半重要シーン)
その後、地上げ屋の放火で、建物は崩壊。
老夫婦の妻フェイは入院、住人たちが病院に付き添う中、かろうじて焼け残った玄関の階段に、肩を落としてぼんやりと座り込むハリー。
犬笛でいなくなった赤ちゃんたちを探すうちに出会った野良犬が、ハリーに同情するように寄り添う。
周辺の取り壊し作業をしていた人々も、老夫婦の店を惜しみ、ハリーの気持ちを尊重して、命令されても、彼が動くまで建物を壊さないことにした。
夜になってもまだ動けないハリー。しかし、犬が何かに気づいて立ち上がった。
ドアの向こうに舞い降りた、小さな音と光。
ハリーは急いでドアにかけた上着のポケットをさぐったが、そこはからっぽ。
でも、赤ちゃんはいた。焼け残ったタイルの床に。
まん丸く光る緑の目を、今はしょんぼりと伏せ、はがれたタイルを口にくわえ、欠けてしまったところにそっと置く。
そして、タイルに小さな両足を乗せて、「キコキコ……」と、体をねじって、埋める。
少しでも建物を直そうとしている赤ちゃんの気持ちに、胸が熱くなるハリー。
よちよち歩いて、もう一つタイルを拾い上げた赤ちゃんが、降り注ぐ光に顔を上げた。
ハリーが振り向くと、宇宙人一家が光る目で彼らを見おろしていた。
赤ちゃんを大きな両手に包み込んで、ハリーは後ずさった。
今の自分は、住む家も燃えてしまった。仲良くなれたアパートの人たちとも、もう一緒にいられない。
この子を連れていかないでほしい。
ハリーの必死の悲しい顔を照らす、一家の瞳の光。
その光の粒が、少しずつ、少しずつ、増えていった……。
この、床のタイルは、物語の最初から最後まで、大切な意味を持っている。
ハリーが物語に登場した時、彼はアパートの玄関に腹這いになって、床のはがれを補修している。
空き瓶に大事に集めた小さなタイルで、文字通りコツコツと。
そのハリーの思いを守ろうとするように、焼け跡でタイルをひとつひとつ置いては、踏みしめる宇宙人の赤ちゃん。
実は、かつてアパートの入り口の床には、この建物の「ニューヨーク東8番街」の番地を示す「817」の数字がタイルで書かれていた。
はがれたタイルをあきらめずに埋め込む作業は、建物がそこに存在し続けること、人々の「住所」がそこに在り続けることを、土地に記す作業でもあったのだ。
映画を観た人々の感想
1987年、経済的繁栄と開発の裏側で、昔ながらの街並みが壊されていった時代。
(映画オープニング、かつての下町の風景写真)
(廃墟になってしまった町を歩くフェイ)
夢のあるSFと温かいユーモアに包んで、地元の歴史と人々の暮らしを守ることの大切さを届けようとしたこの映画は、公開当時、「感動の押し付け」とも言われ、評価が分かれた。
(アパートを守りたい画家メイソンの同棲相手は、「80年代にははやらない考え方」だと呆れて出て行ってしまう。映画公開当時にも、そんな冷めた見方をした人々がいたのだろう)
それでも、古くても大切な建物を残そうと頑張った人たちのように、この映画も愛されて、今まで生き残ってきた。
この映画のYoutubeの動画コメント欄には、当時親や祖父母とこの映画を観たと、映画とともに自分の子供時代と家族を懐かしむいくつもの感想のほか、「どうしてこういう映画をもう作らなくなってしまったのだろう、大好きだったのに」という、寂しそうな言葉も書き込まれていた。
そして、こんなコメントがあった。
「80年代の子供の頃、私は壊れた家庭から逃げるために、近所の家にふらふらと行って、これを観ていました。この映画はすべてからの逃げ場でした。(自分の心は)あの(映画の中の)古い朽ちたアパートに住んで、ライリーズカフェで食事をしているふりをしていました。(略)この映画は、今でも私に故郷のような感覚を与えてくれます、そして、ある意味、私の一部はあのアパートから出たことがないのかもしれません」
このコメントを投稿した方は、つらい子供時代を送った記憶があっても、この映画を見て育ったことについては、「私は幸運でした」と書いている。
この方のような困難はなかったとしても、この映画をいつまでも忘れられない人たちにとって、やはり、この映画は、心の故郷のような存在なのだろう。
(お店で踊るフランクとフェイ、笑顔の住人たち)
そして、自分があの映画を観たときとは時代や状況が変わり、それに合わせなければいけないことがあっても、「古い」とか「甘い」とか、誰に笑われたとしても、自分の心の一部には、あの映画のような温かい物語を大切に思う気持ちを、ずっと持っていたいのだ。
観た人の心の故郷になった名作
映画の美しい音楽は「フィールド・オブ・ドリームス」など数々の名作映画も手掛けたジェームズ・ホーナー作曲(「タイタニック」でアカデミー音楽賞を受賞)。
万感の思いで赤ちゃんを見つめるハリーの優しい顔と、赤ちゃんがタイルを埋め込むささやかな音と、この音楽が重なり合う瞬間、まるで心の中心から剥がれ落ちた大切な宝石が拾い上げられ、もう一度優しく、でも、ぎゅっとしっかり埋めこまれるような、本当に温かい気持ちが胸に刻まれる。
(床を直そうとする赤ちゃん)
BATTERIES NOT INCLUDED Clip - "Return" (1987)
物語、キャスト、音楽、美術、すべてが素晴らしいこの映画は、観た人たちの懐かしい思い出となり、つらい思いをした人の心も包み込んで守った。
これからも愛されてほしい作品だし、「こういう映画」の魂が受け継がれた作品が、これからも作られてほしい。
(「こういう映画をもう作らなくなった」かはわからないけれど、「他の映画」が増えた分、出会うのが難しくなってしまった気はする)
どれだけ時代が変わっても、大人も子供も一緒に楽しめる映画を観たい人、独りで悲しい思いをして心を温めたい人は、いつもいる。
今も、これからもずっと、人々の心には、故郷のようなこういう作品が、本当は、本当に、必要なのだ。
(1987 Universal Studios. All Rights Reserved.)
【参照】 映画の一部場面紹介動画(※英語音声、動画後半は映画の予告編)
(空腹の宇宙人夫婦に、食事として電気を渡すアパートの人々)
(ロボット宇宙人の出産。動かない赤ちゃんを直そうとするハリー)
(焼け落ちた建物から離れられないハリーと、床を直そうとする赤ちゃん)
BATTERIES NOT INCLUDED Clip - "Return" (1987)
(参照URL)
【配信・ソフト情報】
(Youtube配信版)
【補足】
(ジェシカ・タンディとヒューム・クローニンのもうひとつの名作『白い犬とワルツを』(1994)。本当に美しい、アメリカの映像作品の頂点。どうかもう一度、たくさんの人が観られるようになってほしい)
To Dance With The White Dog Trailer 1994
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