2022年09月02日

刑事コロンボ「殺意のキャンバス」森山周一郎さんの名吹き替え

(「殺意のキャンバス」の犯人バーシーニ〈パトリック・ボーショー〉)
バーシーニ役パトリックボーショー - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube)(C) 1988 Universal City Studios, Inc. All Rights Reserved.

(バーシーニの吹き替えを担当した森山周一郎さん)
森山周一郎さん - コピー.jpg
画像出典:ウィキペディア

「殺意のキャンバス」(1988年)は、天才画家画家バーシーニが、彼の前妻を、溺死に見せかけて殺害するストーリー。

 三人の女を同時に愛し、利用する男バーシーニの吹き替えは「刑事コジャック」のコジャック、「紅の豚」のポルコ・ロッソなど数々の役を演じた森山周一郎さん。




(映画「紅の豚」トレイラー、ポルコ(森山さん)の「飛ばねえ豚はただの豚だ」という台詞が有名)
Porco Rosso - Official Trailer

 実は、森山さん唯一無二の、渋く低い、男らしいしゃがれ声は、バーシーニ役のパトリック・ボーショーとはかなり異なっている。

 ボーショー自身の声と話し方は、エレガントで歌うように軽やか(そして軽薄)だ。

 ハンサムで、その魅力を自覚しながら、言葉巧みに自分を愛する女性を操るキャラクターは、むしろ「美食の報酬」(1978年)の犯人ポール(ルイ・ジュールダン)に近いものがある。

(ポールとコロンボ)
美食の報酬の犯人ポール - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube)

(バーシーニ〈ボーショー〉と、ポール〈ジュールダン〉の演技)
All of Columbo's Real Wife Appearances in Columbo | Columbo

 ちなみに、バーシーニとポール、それぞれに愛情を利用される女性を、同じ女優シェラ・デニス(ピーター・フォークの妻)が演じている。

バーシーニとヴァネッサ - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube)

美食の報酬ポールとイヴ - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube)

(彼女が犯人の不誠実さに愛想をつかしたことがきっかけで、犯人が窮地に陥る展開も似ている)

 他人の愛情も命の重みもわからない、コロンボ流に言えば、「あなたの才能は尊敬しますが、あとはてんでいけませんなぁ……」な性格も同じ。(「美食の報酬」より)


 だが、元の声に似ていないのに、森山さんの声は、吹き替えとして素晴らしい。

 バーシーニは、彼の最初の妻で隣人だったルイーズを殺したあと、彼にとって思いもかけない事態に陥る。

 彼が「決して手放そうとしない人生の一部」で、まだ成功者でなかったころに連れ添ったルイーズ。

 彼女は、現在の妻、ヴァネッサにも、彼の愛人で若いモデルのジュリーにも、穏やかに接し、食事のときには、美味しい手料理をみんなにふるまっていた。

 ルイーズが死に、ヴァネッサとジュリーが、好感を抱き、一目置かざるを得なかった存在がいなくなったことで、均衡が崩れ「二人のうちどちらが」バーシーニのただ一人のパートナーになるかをめぐり、露骨にいがみあう。

 バーシーニがいくら言い聞かせても、彼女たちはつかみかからんばかりの争いをやめない。

 この修羅場に、バーシーニが、森山さんの「男らしさ」の頂点のような声で憤っているのを聴くと、ルイーズが彼らの間を補っていた、もの柔らかな思慮深さ、バーシーニに本人には、才能と引き換えに完全に欠けているものを、失ったことが、よりはっきりと伝わる。

 「ああ…ルイーズ……」

 「男には思いやりを求める権利があるんだ」

 自分で殺しておいて、ルイーズを懐かしむバーシーニは身勝手以外の何物でもないが、森山さんの声が魅力的であればあるほど、「男らしさ」ではどうにもできない、そしてもはや取り返しのつかない状況に直面したバーシーニの、みじめな苦渋がにじみ出るのだ。

 バーシーニの声を森山さんに依頼したのは、当時『刑事コロンボ』日本語版演出を担当した左近充洋(さこんじゅう・ひろし)さんの「ほぼ趣味」だったそうだ。

 左近充さんが、『刑事コジャック』も担当していたつながりで決まったことらしいが、刑事コロンボ吹き替え版と、日本の素晴らしい声優の歴史を示す好例だと思う。

(※『刑事コロンボ完全捜査ブック 』日本語版『刑事コロンボ』演出、壷井正 吉田啓介インタビューp.212より)

 軽薄なエレガントさが、突然エゴイスティックな激情に変わる不気味なボーショー版バーシーニと、男性的魅力に溢れ、才能と「男らしさ」以外のものを、彼を愛する女性たちから平然と搾取する、あるいは搾取するしかない森山版バーシーニ。

 声によってバーシーニのキャラクターが変わるので、聞き比べてみていただきたい。


 『刑事コロンボ完全捜査ブック』と、左近充さんとの名コンビで、翻訳を担当した額田やえ子さんの『アテレコあれこれ』では、今も語り継がれるコロンボの名吹き替えについて知ることができる。



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posted by pawlu at 15:47| 刑事コロンボ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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