2016年09月26日

オバマ大統領と絵画(エドワード・ホッパー、二コラ・ド・スタール、ジョルジォ・モランディ作品に注目して)


 先日、オバマ大統領の広島演説の際に、大統領と対面したお二方(坪井直さん森重昭さん)についてご紹介記事を書かせていただきましたが、今日は、オバマ大統領がホワイトハウスに飾るために選んだ絵について書かせていただきます。

 アメリカでは、新しい大統領が就任すると、国内の美術館が、ホワイトハウスに飾る絵や彫刻をレンタルするという慣習があるそうです。

 貸し出された作品の一覧は所蔵美術館名とともに公開され、美術マーケットの熱い注目を集めるとか。
(「オバマ大統領が選んだ画家」とキャッチフレーズがつけられれば、知名度がグンと上がるからですかね。)
 ・「The Guardian」掲載の貸し出し作品リスト

   https://www.theguardian.com/culture/charlottehigginsblog/2009/oct/07/art-barack-obama


 絵のほとんどはアメリカ出身、またはアメリカ国籍を取得した画家から選ばれ、また、画家の性別やルーツ、テーマが全アメリカ国民を配慮した選択であるよう心掛けられるそうです。
(男性だけとか、アメリカ人でも○○系だけ等に偏らないように注意して選ぶ。)

 「The Wall Street Journal」によると、オバマ夫妻は歴代大統領と異なり、現代アートを多く選んだことが話題になったそうです。

・出典URL

 http://www.wsj.com/articles/SB10001424052970203771904574175453455287432


 また、夫妻は、アメリカの歴史や風土がよく伝わる絵や、ルーツを感じさせるアフリカ系アメリカ人画家の絵を好まれたようです。

 ホワイトハウスのブログでは、アメリカモダンアート界の巨人、エドワード・ホッパー(都会でも郊外でも、どこか寂寥感の漂う世界観が特色)の絵が大統領執務室(Oval office)にかけられたことが話題になっていました。
(ホッパーの絵を眺めるオバマ大統領の後ろ姿という味のある写真つき。ちなみに「大統領執務室にかけられた」というステイタスは時に絵の価値を3倍にアップさせることもあったとか。〈前出The Wall Street Journalより〉)

 https://www.whitehouse.gov/blog/2014/02/10/new-additions-oval-office

 ホッパーの作品群を見られる「Wikiart」ページはこちらです
  http://www.wikiart.org/en/edward-hopper/mode/all-paintings

しかし、このような絵画のチョイスの中、二人だけ、アメリカとほとんどゆかりの無い画家の作品が選ばれました。

 一人目は、ニコラ・ド・スタール。選ばれたのは「Nice(ニース)」という作品でした。

 ・「ニューヨークタイムズ」の「Nice」紹介画像(スライドショー12枚中10枚目)

  http://www.nytimes.com/slideshow/2009/10/07/arts/design/20091007BORROW_10.html?_r=0

 二コラ・ド・スタールはロシア出身の画家で、独特の色使いで、抽象と具象のあわいのような絵を描きました。

 「ジョジョの奇妙な冒険」ファンの間では、エキセントリックな天才漫画家、岸辺露伴が、「創作のために全財産を使い果たしてもなお手元に残したのが、このスタールの画集」というエピソードにより一躍有名になりました。
(単行本「岸辺露伴は動かない」より)

岸辺露伴は動かない (ジャンプコミックス) -
岸辺露伴は動かない (ジャンプコミックス) -

 スタールの絵の魅力については、岸辺露伴が、そのとき唯一の財産である画集を開いて、担当編集に絵の説明をしていたときの台詞に尽きると思います。

岸辺露伴は動かない.png


「抽象画でありながら同時に風景画でもあって、そのぎりぎりのせめぎあいをテーマにしている。こんなに簡単な絵なのに光と奥行きがあって泣けるんだ。つまり「絵画」で心の究極に挑戦しているんだ」

 泣ける。

 なぜだかわかりませんが、確かにスタールの絵にはそのような力があります。

 独特の色遣いで厚塗りされた油絵具が、にじむようなしっとりとした質感を醸し、涙の向こうの光景のような、寂しいけれど温もりも感じられる作品です。(モノトーンで描かれた絵すらどこか温度のゆらぎがある。)

 この特異な才能と挑戦的なまなざしを持つ画家は、貧困の果てに成功をつかみましたが、1955年、「コンサート」という名の色鮮やかで伸びやかなタッチの大作を絶筆に、わずか41歳で謎の自死を遂げました。

 スタールの作品群を見られる「Wikiart」ページはこちらです

 http://www.wikiart.org/en/nicolas-de-sta-l

  ※遺作「Le concert」ほか、露伴先生が漫画の中で開いて見せている絵「Agrigente(イタリアの地名)」も観ることができます。

もう一人の外国人画家は、イタリアの抽象画の巨匠、ジョルジォ・モランディ。こちらは二枚の静物画「Still life」が選ばれました。

モランディの作風がわかる動画(The Phillips Collection紹介動画)





 実際にホワイトハウスで選ばれた静物画のひとつはこちらです。

http://www.nga.gov/content/ngaweb/Collection/art-object-page.103748.html

(なぜか貸出元のナショナル・ギャラリーではなく、国立郵便博物館のブログでどの絵か教えてくれていた……。)


 モランディはその生涯を通じイタリアからほとんど出ることがなく、独身を通し、母と妹たちと暮らしながら、主に静物画を描き続けた画家でした。

 「ひとり静かに仕事をさせてくれ」が口癖で、第二次大戦時、国内にファシズムの嵐が吹き荒れる中でも、ただひたすらに己の作風を貫き通した人です。

 アトリエに意図的に埃を積もらせ、彼の所蔵する静物の配置とともにその埃を描くことで、色のくすみや光のゆらぎを描いたという画家の作品は、寄り添うように卓上に集うボトルや箱の姿と空間の中に、物、埃、光、影、すべてを等しく見据える静まり返った心とまなざしを感じさせます。
 
 モランディの作品群が見られる、Wikiartページはこちらです。

http://www.wikiart.org/en/giorgio-morandi

 ホッパー、スタール、モランディ。

 どの絵にも共通するのは、ある対象を見つめる、静かで孤独な心が感じられるということです。
 
 それは、味方がいないという意味ではなく、ただ、他の誰の考えとも関わりなく、独り物思うような心境。
 
 こうした絵を居住エリアや執務室で眺めるために選んだオバマ大統領という方は、アメリカ大統領という、ある意味世界でも屈指の重圧と権謀術策の中に生きなければならない立場の中で、できうる限り、誰の賛辞にも奢らず、思惑にも振り回されずに、一人の人間として、自分の心がどう感じ、思うかということをとても大切にしているのではないでしょうか。

 広島演説の際に、オバマ大統領と言葉を交わした坪井直さんの「真面目な人で、人を思う心が強いのか、話をするたびにどんどん握手が強くなっていった」という印象(※)と、この静かな孤高の絵画たちは、どこか相通じているように思われます。

(※)(時事通信社記事より引用)

 オバマ大統領の政治的手腕や、アメリカの方針については、知識に乏しいため、何も意見を申し上げられないのですが、選ばれた絵の中に通底する気配から、あの方の美意識とともに、何か人としての信念を感じたような気がしたので、ご紹介させていただきました。

 読んでくださってありがとうございました。

 

(参照)
・Smithsonian’s National Postal Museum Blog(02/15/2010 Mark Haimann )
「Philatelic Musings on Art: The Obama's Art Selections on Stamps」
http://postalmuseumblog.si.edu/2010/02/philatelic-musings-on-art-the-obamas-art-selections-on-stamps.html


・The Wall Street Jornal
「Changing the Art on the White House Walls」
By AMY CHOZICK and KELLY CROW
Updated May 22, 2009 12:01 a.m. ET
http://www.wsj.com/articles/SB10001424052970203771904574175453455287432 

・The New York Times
「Whitehouse Art」
http://www.nytimes.com/slideshow/2009/10/07/arts/design/20091007BORROW_10.html?_r=0

・The Whitehouse Blog
「New Additions to the Oval Office」
https://www.whitehouse.gov/blog/2014/02/10/new-additions-oval-office

・時事通信社「Jiji.com」「核廃絶「決意感じた」=被爆者ら高い評価−オバマ氏広島訪問」 http://www.jiji.com/jc/article?k=2016052700939&g=soc

(※)一部モランディの情報については、NHK「日曜美術館」の特集「埃(ほこり)まで描いた男〜不思議な画家・モランディ〜」を参照させていただきました。
http://www4.nhk.or.jp/nichibi/x/2016-05-15/31/2185/1902680/


 
【関連する記事】
posted by Palum at 23:57| 美術 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年09月25日

(※ネタバレあり)犬とイルカの友情(ナショナルジオグラフィックチャンネル「動物界の意外なお友達2 犬と野生動物の強い絆」より)

 先日、ナショナルジオグラフィックチャンネルで、素晴らしい番組が放送されていたのでご紹介させていただきます。

「動物界の意外なお友達2(Unlikely animal friends) 犬と野生動物の強い絆」です。

 犬と野生動物の間に生まれた友情を、実際の映像と周囲の証言をもとに紹介している番組です。
(犬たちの行動について、カリスマドッグトレーナー、シーザー・ミランが分析、解説。)

 番組公式情報HPはコチラです。
「動物界の意外なお友達 2(原題:Unlikely Animal Friends 3)」

 http://www.ngcjapan.com/tv/lineup/prgmtop/index/prgm_cd/1017(放送予定)
 http://www.ngcjapan.com/tv/lineup/prgmepisode/index/prgm_cd/1017(各回エピソード)

 ロバ、熊、鹿、キツネといった、犬と種族を超えて友情を築いた動物たちの中に、陸と海の垣根すら超えて、犬と友達になったイルカのお話がありました。

(明日2016年9月26日〈月〉18:00〜19:00のナショナルジオグラフィックチャンネルでは、同シリーズで、「 人間と動物の特別な関係 (Man's Other Best Friend) 」という人と他の野生動物の友情物語が紹介されるそうなので、併せて御覧ください。)

 以下、番組で紹介されていた犬とイルカのお話です。
(結末までネタバレなのでご了承ください。また、10月3日、10月4日放送の「最愛のベストフレンド」という傑作選回で、この二頭のエピソードが再放送される模様です。詳細は上記URLをご覧ください。)

 二頭のエピソードを紹介している「National Geographic」の記事はこちらです。(動画付き)

 http://video.nationalgeographic.com/wild/unlikely-animal-friends/ben-the-dog-and-duggie-the-dolphin?source=relatedvideo

 アイルランドのニュースを扱った「Irish Central」で引用されていた、二頭を取材している動画はこちらです。
 「Tory Island dog swimming with dolphin」(投稿者Franklin Sinclair)
 
https://www.youtube.com/watch?v=l2vU8U0j_4E

http://www.irishcentral.com/news/amazing-footage-of-a-dog-playing-with-a-dolphin-off-the-coast-of-ireland-video-127888298-237406421

 アイルランド、トリー島でホテルを経営するパトリックさんの愛犬ベン(薄茶のラブラドールレトリバー・鼻はピンクがかっており、顔はうっすら鉢割れ模様で、額の中心から鼻先にかけてが少し白い。)と雌のイルカ、ドゥギィの友情が始まったのは2006年のことでした。

 ある日、パトリックさんが購入したばかりの船にイルカがついてくるという出来事がありました。

 そして後日、パトリックさんがベンと埠頭近くを散歩をしていたときに、ベンが急に埠頭に降りてゆき、海に飛び込みました。

 そこへ姿を現したのがドゥギィ。

 彼女はベンの周りを回るように泳ぎ、そこから、この二頭の風変わりな友情は始まりました。

 何度も埠頭に訪れるドゥギィと、それをどうやってか察し、住まいのホテルから数百メートル先の船着き場まで走ってゆくベン。

 海に飛び込むベンと、彼と一緒に泳ぐドゥギィの交流は、島で評判となり、島の人々はその姿を見ようと埠頭に集まりました。
(その中にニコニコしながら二頭を見つめ、アコーディオンを演奏するおじさんがいて、アイルランドらしい風情がありました。)

 イルカは、仲間と遊ぶときに、水中で泡をポコポコと相手に向かって吹きだすことがあるのですが、ドゥギィは、泳ぐベンの体の下にもぐって、体を垂直にし、この泡を吹きだすしぐさを何度もしていました。

 「なんかめずらしーものがいる!」と、寄っていく犬と、「しょうがないわねえ」と、向こう見ずな犬が寄ってきてもとりあえず危害を加えない野生動物、という状況を超えて、ベンとドゥギィは明らかに互いにコミュニケーションをとっていたのです。

 泳ぎの得意なベンはどこまでもドゥギィと一緒に泳ごうとし、ときには3時間も海にいたことがあるそうです。

(レトリバー犬はもともと水鳥専門の狩猟犬なので水を怖がらないことが多いのです。)

 そして、ドゥギィを追って沖に行ってしまい、さすがに疲れてしまったベンに気づくと、ドゥギィは、仲間の疲れたイルカにそうするように、泳ぐベンの下にもぐりこみ、頭でベンの体を支えながら、岸辺まで運んでくれたそうです。

 ベンとドゥギィの友情は約4年続きましたが、2010年から、急にドゥギィが何らかの理由で、埠頭に姿を現さなくなりました。

 島の裏側ではイルカの姿が目撃されていたのですが、埠頭に戻ってくる気配はありません。

 それでもドゥギィを待ち続けるベン。

 パトリックさんは、ベンを船に乗せて、晴れた日の夕暮れ、島の裏側に行ってみました。

 すると岩場近くの波間にイルカの姿が見えました。

 途端に船から身を乗り出して吠えるベン。そわそわと歩き回り、海に飛び込もうとしました。

 パトリックさんはベンを一生懸命おさえました。ベンが泳ぐには波が荒すぎたのです。

 身を乗り出すベンのそばに立ち、ドゥギィの背びれを指さすパトリックさん。その指先を一心に見つめるベン。

 この夕暮れの出会いが、ベンとドゥギィの別れとなりました。

 翌年の冬、ベンは車にひかれてこの世を去ったのです。

 ベンのことを振り返るパトリックさんは、その死について語った後、一度きゅっとくちびるを噛むと、静かな、暖かな声で言葉をつづけました。

 ベンは特別な犬でした。ベンのような犬は、まずいないでしょう。私たちがドゥギィのことを話すと、いつも聞き耳を立てていました。ドゥギィが大好きだったのです、と。

 
 この番組では語られていなかったのですが、なぜドゥギィが埠頭に通うようになったのかについて、島でこんなうわさがあったそうです。

 ドゥギィが来るようになる直前に、島の岸辺近くでイルカの死体が見つかるという出来事があり、もしかしたら、あれは彼女の夫だったのではないか。ドゥギィはその死を悲しみ、彼を探しに来たのではないかと。

(Irish Central記事より)

 ドゥギィが訪れなくなった理由はわからないままですが、埠頭かその途中の道のりが安全でなくなったか、新しい家族ができて、連れていくことはできなかったのかもしれません。

 いずれにせよ、事情を抱えてふいにその場所を訪れた誰かと、その場所の住人が友情をはぐくみ、訪れた側がそこから離れた後も、その場所の住人は深い思いを胸に、相手を待ち続けるという物語が、イタリアの名作映画「イル・ポスティーノ」を思い出させ、単に仲良しの動物同士という構図を超えて心に染みます。


イル・ポスティーノ [DVD] -
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 島の夕暮れ時の金色に染まる海や、パトリックさんの優しさも美しい。
 (ドゥギィを待って芝生に寝そべるベンの黄昏時の姿や、埠頭にたたずむベンが海風をうけて、小さめの耳をひらひらさせているのも妙に胸に迫る。)

 ベンはドゥギィが来るときにはそれを察して何百メートルも歩いて埠頭に向かっていたそうですが、ドゥギィにもこの不思議な力が備わっていたのでしょうか。

 彼女はベンがこの世を去ったことを知っているのでしょうか。

 昔、ドゥギィを追って沖まで泳ぎ続けたベンの下に潜り、頭で彼を支えるようにして岸まで連れて行ってくれたドゥギィ。

 ベンがこの世から彼岸に旅立つとき、ドゥギィが彼の魂を支えて、海の向こうの天国へ連れて行ってくれたのだろうか、そうであってほしい。

 そう、思います。

 ぜひ番組や引用させていただいた記事で、この風変りだけど心温まる、そしてせつない友情のお話をご覧になってみてください。

 読んでくださってありがとうございました。



(参照)
・「Irish Central」
「Amazing footage of a dog playing with a dolphin in Ireland (VIDEO)」
(Cathy Hayes September 09, 2016)
http://www.irishcentral.com/news/amazing-footage-of-a-dog-playing-with-a-dolphin-off-the-coast-of-ireland-video-127888298-237406421

・「National Geographic」
「UNLIKELY ANIMAL FRIENDS Ben the Dog and Duggie the Dolphin」
http://video.nationalgeographic.com/wild/unlikely-animal-friends/ben-the-dog-and-duggie-the-dolphin
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2016年09月24日

森重昭さんのご活動について (NHKドキュメンタリー「NEXT 未来のために『オバマと会った被爆者』」によせて)


「オバマ米大統領、広島訪問 被爆者とハグ Obama hugs Hiroshima survivor」
AFPBB News (AFP通信日本語ニュースサービス)



https://www.youtube.com/watch?v=D8MtsB636Tg

 
2016年9月27日(火) 午前1時30分より、バラク・オバマ大統領広島訪問時に大統領と言葉を交わした被爆者の一人、坪井直(すなお)さん(91歳・日本原水爆被害者団体協議会代表委員)をご紹介する番組が再放送されます。
 (前出動画内で最初にオバマ大統領と言葉を交わされている方です。)

 番組公式HPはこちらです。
 もっとNHKドキュメンタリー「NEXT 未来のために『オバマと会った被爆者』」

 http://www.nhk.or.jp/docudocu/program/3356/2075058/index.html

 この再放送にちなみ、今回は、坪井さんと一緒にオバマ大統領とお話をされた森重昭(しげあき)さんの、被爆したアメリカ人捕虜の調査活動についてご紹介させていただきます。

 森さんは動画で坪井さんの後にお話をされている方で、涙を浮かべる森さんと、オバマ大統領の抱擁の瞬間は世界中のニュースで大きくとりあげられました。

 オバマ大統領の手は温かかった。

 そう、その瞬間を振り返った森さん。

「夢のようでした。今まで苦労に苦労を重ねた。大変な思いをしたけど、最高のおもてなしを今日はアメリカ側がしてくれた」
(日テレNEWS24記事より)

 その言葉どおり、森さんの活動は困難を極める地道な作業の連続だったそうです。

 森さんが被爆したのは8歳のときでした。

 「爆風で小川に飛ばされ、気が付いたらきのこ雲の中にいたのです。あまりにも暗くて、10センチメートル前の自分の指先を見ようとしても真っ暗で見えないほどでした」
(nippon.com記事より)

 家や木々も爆風で吹き上げられ、自分の側を歩いていた人や、親せきが亡くなるという出来事に遭遇した森さん。
 ご自身が無傷だったのは奇跡だ、そう思われたそうです。

 その後、歴史学の教授になりたいと、会社勤めをしながら、週末に研究を行っていた森さんは、38歳のときに、終戦間際、撃墜されたアメリカの爆撃機2機の乗組員が、捕虜として広島の憲兵隊司令部に連行されたことを知ります。

 被爆者の中にアメリカ人捕虜がいたはずだ。以前よりそう思っていた森さんは、1974年、NHKが視聴者から募集した原爆の絵2000枚の中から、米兵を描いた絵二十数枚を見つけ出し、その絵を描いた被爆者のもとを訪ね、聞き取りをすることから調査を開始しました。

 捕虜となったアメリカ兵は全部で13名。ただ一人、尋問のために後に東京に送られたトーマス・カートライト中尉を除いた12名は、原爆投下により亡くなった。

 調査の末に、この12名の犠牲者の氏名を突き止めた森さんは、遺族を探し出して、彼らのことを伝えたいと考え、国際電話オペレーターの通訳を通じ、犠牲者と同じ姓の人を探すという、気の遠くなるような作業を開始しました。(心臓がお悪かったので、現地に行くことはできず、この方法を選ばれたそうです。)

 「死ぬまでに、何とかご遺族を探し出して、亡くなった米兵捕虜の写真と名前を平和祈念資料館に原爆犠牲者として登録しようと心に決めたのです」。
(nippon.comより)

 終戦直後の混乱で調査ができなかったこともあり、アメリカ人兵士が原爆の犠牲となったことを長年認めなかったアメリカ政府。

 遺族の中には、未だ帰らない家族の状況について「行方不明」としか知らされないままの方たちも多かったそうです。

 しかし、ついに森さんは犠牲となった兵士の兄、フランシス・ライアン氏の連絡先を突き止め、乗組員たちの写真を入手することができました。

 そして、これをきっかけに唯一捕虜の中で生き残った元機長カートライト中尉と手紙でのやりとりがはじまり、カートライト氏が亡くなるまでの20年間、100通以上の手紙を交わしたそうです。

「私は、奇しくも生き残りました。ですから何としても、遺族を探し出して、愛する人の最後についてお伝えしようと、そう心に誓ったのです」。
(nippon.comより)

 森さんの約40年にもわたる調査は実を結び、12名すべての犠牲者の氏名は、原爆による死没者として広島の名簿に登録され、オバマ大統領は演説で、被爆者として、日本、朝鮮半島の方たちとともに「12人の米軍捕虜」の存在について語りました。



 こうして、森さんとオバマ大統領との抱擁という瞬間が訪れたのです。

「被爆死した12人の米兵も天国できっと喜んでいる」
(毎日新聞より)

 あの抱擁の瞬間を、そう感慨深げに振り返っていた森さん。

 今は、長崎の原爆投下で犠牲となったイギリス、オランダ兵捕虜の調査を続けていらっしゃるそうです。

 森さんのこの活動は、亡くなった米兵捕虜の親友を通じて、甥である映画監督、バリー・フレシェット監督に伝わり、感銘を受けたフレシェット監督は、森さんに連絡をとり、2年間かけて、森さんの活動を追ったドキュメンタリー映画「Paper Lanterns(灯篭流し)」を完成させました。



 森さんの執念の調査は、同国のアメリカ人の命も奪った原爆と戦争の恐ろしさを伝え、また、その一方で、幼くして死の恐怖に直面し、地獄のような光景を目の当たりにしながらも、「アメリカのご遺族も同じように原爆で愛する人を失ったのだ」と思い、数十年不屈の調査をすることができる人の心を世界に知らしめました。
 
 葛藤を乗り越え、オバマ大統領に笑顔で「核兵器のない世界、私たちも行きますよ」と伝え、未来の平和へ向かおうとされている坪井直さんのお話とともに、心に刻まれたエピソードだったので、ご紹介させていただきました。
 
 以下に今回の記事作成にあたり、読ませていただいた記事は以下の通りです。より詳しい情報が書かれていますので、ご覧になっていただければ幸いです。 

(参考資料)
 ・ウィキペディア「森重昭」

 https://ja.wikipedia.org/wiki/森重昭

 ・nippon.com「広島被爆米兵の名前を刻んだ日本の歴史家 森重昭さんのライフ・ワークを描いたドキュメンタリー」(筆者:ジュリアン・ライオール  Julian RYALL 2016.05.24)
※非常に詳しく紹介してくださっている記事です。今回の記事の多くの内容は最初にこちらで読ませていただきました。

  http://www.nippon.com/ja/people/e00097/ (日本語版記事)
  http://www.nippon.com/en/people/e00097/ (英語版記事)

 ・山陽新聞digital「被爆米兵捕虜を調査した森重昭さんに聞く 同じ犠牲者追悼したいとの思い」
 (2016年08月05日)http://www.sanyonews.jp/article/393191/1/

 ・日テレNEWS24「被爆者と抱擁も…明かされた大統領との会話」(2016年5月28日)
  http://www.news24.jp/articles/2016/05/28/07331263.html

 ・日本記者クラブ「記者による会見リポート 米兵捕虜12人の被爆死をたった一人で突き止めた森さん
オバマ大統領のハグに隠された意味」(日本記者クラブ顧問 中井 良則)

 http://www.jnpc.or.jp/activities/news/report/2016/06/r00033513/

 ・毎日新聞「米大統領広島訪問 米兵の被爆調査 森さん 抱き合い、涙」
(2016年5月27日【原田悠自、鵜塚健】)

 http://mainichi.jp/articles/20160528/k00/00m/040/141000c

 読んでくださってありがとうございました。
posted by Palum at 20:37| 番外編・おすすめテレビ番組 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年09月23日

NHKドキュメンタリー「NEXT 未来のために『オバマと会った被爆者』」再放送のお知らせ(NHK総合)

「オバマ米大統領、広島訪問 被爆者とハグ Obama hugs Hiroshima survivor」
AFPBB News (AFP通信日本語ニュースサービス)



https://www.youtube.com/watch?v=D8MtsB636Tg

 2016年9月27日(火) 午前1時30分より、バラク・オバマ大統領広島訪問時に大統領と言葉を交わした被爆者の一人、坪井直(すなお)さん(91歳・日本原水爆被害者団体協議会代表委員)をご紹介する番組が再放送されます。
 (前出動画内で最初にオバマ大統領と言葉を交わされている方です。)

 番組公式HPはこちらです。
 もっとNHKドキュメンタリー「NEXT 未来のために『オバマと会った被爆者』」

 http://www.nhk.or.jp/docudocu/program/3356/2075058/index.html

 20歳のとき、爆心地から約1.2km地点で被爆、顔や手や背中に大きなやけどを負い、壮絶な光景を目の当たりにした坪井さん。
(大怪我を負い、橋の欄干近くに座り込んで救援を待つ坪井さんの姿が当時の記録写真に残されているそうです。)

 本当は原爆を投下をされたことに対する強い怒りがある。

 それでも、オバマ大統領と対面した坪井さんは、笑みを浮かべ、力強く握手を交わしながらこう伝えました。
「核兵器のない世界、私たちも行きますよ」

 チェコのプラハでやったあなたの「“核兵器のない世界”をつくろう」、そのことは今も私に脈打っていますよ。だからあなたが(来年の)1月に(大統領を)辞められても、広島へ来てください。

 坪井さんのその言葉を手を握り続けながら聞いたオバマ大統領。
 
 広島を訪れてからずっと、張り詰めた真剣な表情を浮かべていた顔に、はじめて笑みが浮かびました。

 「謝って下さい、とか悪いことをしましたとか私は一切いりません」

 そう語る坪井さん。

「憎しみを出しても、わかってもらえなければ意味がない。乗り越えんとね、平和はない。幸せはない」

 被爆の後遺症にも苦しめられながら、その心境に達するまでには、さまざまな葛藤があったはずですが、戦後71年、被爆国である日本でも戦争の記憶が薄れつつある今この時、まず必要なのは、謝罪の言葉の有無ではなく、ともに核兵器の恐ろしさを考え、平和に向かうという未来へ向けた思いであるというお考えが、このご発言になっているのだと思います。

 番組では、坪井さんに密着取材をし、被爆体験、そして怒りや憎しみを乗り越えて、「ここから」の平和への歩みを見据える思いが紹介されるそうです。

 当ブログでは、後日、この番組の内容や、同じく被爆者としてスピーチ後にオバマ大統領と言葉を交わされた、森重昭(しげあき)さん(動画内で坪井さんの後に会話をし、オバマ大統領と抱擁を交わしている方です)のご活動について紹介させていただく予定です。

 よろしければまたいらしてください。

 読んでくださってありがとうございました。


 (参照):
 ・「被爆者と抱擁も…明かされた大統領との会話」
  日テレNEWS24(2016年5月28日)
   http://www.news24.jp/articles/2016/05/28/07331263.html
 ・フジテレビ「ユアタイム」2016年5月27日 放送内容
 ・ウィキペディア記事「坪井直」
https://ja.wikipedia.org/wiki/坪井直
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2016年09月22日

「驚きの明治工藝」(おすすめ展示作品4 宮川香山「色絵金彩鴛鴦置物」「「菖蒲文花瓶」)

 先日概要をご紹介させていただいた上野の東京芸術大学大学美術館で開催中の「驚きの明治工芸」について、引き続き個人的におススメだった展示品について書かせていただきます。

 展覧会公式HPは以下のとおりです。
 http://www.asahi.com/event/odorokimeiji/

 初代・宮川香山(こうざん)「色絵金彩鴛鴦置物」(白磁 幅18cm 高さ11.3cm)

宮川香山 縮小版.png

 穏やかな目をしたつがいのオシドリが向かい合って寄り添う、愛らしい作品です。
 シンプルな姿のようですが、よく見ると、金で羽毛の流れが一筋一筋微細に書き込まれており、このふっくらとした質感をつくりあげています。

 宮川香山は京都の楽焼の家に生まれ、幼いころから焼き物に親しんでいましたが、のちに、輸出用陶磁器を製作するために、横浜に窯を開き、「眞葛焼(まくずやき)」を生み出しました。

 眞葛焼の特色として「金襴手(きんらんで)」と呼ばれる、彩色した陶磁器に金彩を加えた技法と、「高浮彫(たかうきぼり)」という、陶器からはみ出すように立体的な彫刻的表現があります。

 高浮彫の作例は「田邊哲人コレクション」HPで観ることができます。「渡蟹水盤」は圧巻。
 http://www.tanabetetsuhito-collection.jp/makuzu_select01.html#img_top 

 強烈な印象を残す「高浮彫」の作品は、1876年開催のフィラデルフィア万国博覧会で評判を集めましたが、一方でこのあまりにも緻密な作品は時間がかかり、焼いた際の縮みで失敗する可能性もあるという問題があったため、新たな技法として、中国清朝陶磁などに見られる「釉下彩(ゆうかさい)」技法(※下地に着彩し、上から透明な釉薬をかけて焼き上げたもの)を採り入れ、作風の幅を大きく広げ、清澄で淡く優しい色合いの作品でも高い評価を得ました。

 展覧会出品作品の中の釉下彩作品「菖蒲文花瓶」(青磁)

宮川香山 菖蒲文花瓶.jpg

 鴛鴦は、ビックリする感じの典型的高浮彫の真葛焼とは異なり、ややデフォルメしたような穏やかな曲線で作られています。
しかし、羽毛の描き方には卓越した集中力と技量が感じられ、だまし絵のようなくっきりと立体的な技巧と、釉下彩にみられるような穏やかな作風とのちょうど中間に位置するような作品です。

 当記事で参照させていただいたネット情報は以下のとおりです。

 宮川香山真葛ミュージアムHP
  http://kozan-makuzu.com/

 ウィキペディア記事
 https://ja.wikipedia.org/wiki/宮川香山

 没後百年「宮川香山」(サントリー美術館)HP
 http://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2016_1/index.html

 各地美術館、博物館、展覧会を紹介してくださっているHP「インターネットミュージアム」で記事とともに「驚きの明治工芸展」動画を公開してくださっていました。肉眼では細部の鑑賞が難しいほどの緻密な作品も数多くあるので、こちらでご覧になってみてください。

 インターネットミュージアム取材レポート「驚きの明治工芸展」( 取材・撮影・文:古川幹夫氏)
http://www.museum.or.jp/modules/topics/?action=view&id=863

(会場全体と陶磁器)

https://www.youtube.com/watch?v=ezWCq3mMgJw

(主に自在作品)


https://www.youtube.com/watch?v=1mT5K2D03-E

(壁掛、天鵞絨〈ビロード〉友禅)


https://www.youtube.com/watch?v=Qc5DF4z99Z0

(根付と木工)


https://www.youtube.com/watch?v=ZMIaeh0GxPA

 当ブログのこの展覧会関連ブログ記事は以下のとおりです。よろしければ併せてご覧ください。
  「驚きの明治工芸」(台湾の宋培安コレクション 東京芸術大学で開催中)

  「驚きの明治工芸」(おすすめ展示作品1 加納夏雄 「梅竹文酒燗器」)
  「驚きの明治工藝」(おすすめ展示作品2 海野勝a 「背負籠香炉」海野a乗「犬図薬缶」)
  「驚きの明治工芸」(おすすめ展示作品3 虎爪「蒔絵螺鈿芝山花瓶」、易信「蒔絵螺鈿芝山硯屏」)
 「驚きの明治工藝」(おすすめ展示作品3 宮川香山「色絵金彩鴛鴦置物」「「菖蒲文花瓶」)

 読んでくださってありがとうございました。
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2016年09月21日

「驚きの明治工芸」(おすすめ展示作品3 虎爪「蒔絵螺鈿芝山花瓶」、易信「蒔絵螺鈿芝山硯屏」)

 先日概要をご紹介させていただいた上野の東京芸術大学大学美術館で開催中の「驚きの明治工芸」について、展示作品のうち、個人的におススメだったものについて書かせていただきます。

 展覧会公式HPは以下のとおりです。
 http://www.asahi.com/event/odorokimeiji/

 今回ご紹介させていただくのは、虎爪「蒔絵螺鈿芝山花瓶」、易信「蒔絵螺鈿芝山硯屏」。

 ともに繊細にして絢爛豪華な象嵌(※)細工「芝山」の名作でした。

 (※)象嵌(ぞうがん)……象嵌、工芸技法のひとつ。
象は「かたどる」、嵌は「はめる」と言う意味がある。象嵌本来の意味は、一つの素材に異質の素材を嵌め込むと言う意味で金工象嵌、木工象嵌、陶象嵌等がある。
ウィキペディアより)


 虎爪(※)作「蒔絵螺鈿芝山花瓶」(胴径15.5p、高さ24.5cm)

(※)作者名の本当の読みがわからないのですが、一応これで「こそう」と読めるそうです。

蒔絵螺鈿芝山花瓶.png

 抑えた金色の地の花瓶に紫陽花、牡丹、菊、藤、百合、柘榴などの花や果実が活けられた姿。

 本物の花瓶の中に、鳳凰の舞う豪奢な花瓶の模様という図案の遊びも利いています。

蒔絵螺鈿芝山花瓶部分.png
 
 鳳凰の花瓶は細工のほどこされた台に乗り、そのそばにはぽってりとした茶器らしき急須。
(ちなみに本体花瓶土台は、まるっこい銀の獅子が「んあー」ってしてる顔で、上の花々の繊細な美貌とギャップ萌え)

 開いたザクロの実の粒のひとつひとつ、藤や紫陽花の小さな花びらなどが、象嵌の立体で、風に揺れて光りながら零れ落ちんばかりに緻密に描かれている。

 圧巻の技巧が、これみよがしでなくやわらかな動きを感じさせる作品です。

 私の写真では暗くてわかりにくいのですが、「驚きの明治工芸」の公式HP「みんなで作る工芸図鑑」欄に来館者の方々のツイッターがアップされていて、皆さん撮影のより鮮明な写真を観ることができます。

 以下、「芝山」について、「Google Arts&Culture 芝山象嵌」を参照しながら書かせていただきます。
出典URL:
https://www.google.com/culturalinstitute/beta/exhibit/芝山象嵌/lAIisfPbYrziIg?hl=ja
(非常に詳しくて目の保養なページです。立命館アートリサーチセンター情報提供)


「Google Arts & Culture 芝山象嵌」(制作過程と作品紹介動画)



https://www.youtube.com/watch?v=iVpUqYYowCo

 「芝山」とは、「芝山象嵌(ぞうがん)」と呼ばれる、貝(蝶貝、夜光貝、あわびなど)、サンゴ、べっ甲、象牙などで作ったモチーフを表面にはめこんで作る明治工芸のことです。

 「芝山」の名はもともと現在の千葉県の地名でした。

 江戸時代、安永年間(1772〜1881)の頃にこの地に生まれた大野木専蔵が創案した象嵌技法を、この地にちなんで「芝山」と名付け、自身の姓も「芝山」と変えたことから、この呼び方が広く使われるようになりました。

 芝山の特色は、はめこんだ模様が立体的に浮き出ていることで、この細工のみを「芝山」と呼ぶこともあります。
 
 その繊細な美は、当初裕福な武家や商人の調度品として好まれ、「大名物」と呼ばれましたが、明治に入ってからは、欧米への土産物として人気を集めました。

 特にパリ万国博覧会(1867)で日本の工芸品の超絶技巧が絶賛されるようになってからは、「東洋のモザイク」と呼ばれ、輸出品として海外向けの品が作られるようになりました。
 
 創始者「芝山専蔵」の名は代々受け継がれてきましたが、弟子たちも技術とともに「芝山」姓を受け継ぐことになり、「シバヤマ」の名はその象嵌の技法として海外にも知られるようになりました。

 (以前、明治工芸に詳しいイギリスの方と偶然お話しする機会があったのですが、綺麗な陳列品を指さして「シバヤマ」「シバヤマ」と何度も言われ、「え?シブヤマ(違った)?誰?」と思ったのでよく覚えています。ていうかその方に教えていただいてはじめて「芝山象嵌」の存在を知った。〈日本通外国人と通ジャナイ日本人あるある〉)

 ロンドンの、「ヴィクトリア&アルバート美術館」所蔵の「芝山」一覧はこちらです(展示されていない物も含む)。
http://m.vam.ac.uk/collections/search/?offset=0&limit=10&q=shibayama&commit=Search&quality=2

 非常に美しかった「Yasumasa」作の衝立にとまる鷹を描いた硯屏(けんびょう※〈英語ではシンプルに「Screen(衝立・屏風)」と呼ばれています。〉)
http://m.vam.ac.uk/collections/item/O232966/screen-yasumasa/
拡大画像
http://m.vam.ac.uk/collections/cis/enlarge/id/2006BE7281

 この写真だとちょっと明るいのですが、金色が闇をはらんだように底光りし、桃色の花散る中、柔らかい色の、少し優しい雰囲気の鷹が羽を広げ、珊瑚製と思われる紐が繊細な結び目を垂らしている、神秘的な作品でした。竹を模した象牙の彫も素晴らしかった。

 ※硯屏……硯(すずり)のそばに立てて、ちりやほこりなどを防ぐ小さな衝立(ついたて)。(コトバンクより)


 芝田易信(やすのぶ)作「蒔絵螺鈿芝山硯屏(けんびょう)」(幅13p 高さ30p)

蒔絵螺鈿柴山硯屏風2.jpg

 象牙製の枠組みの中に、上部は見開きで咲き誇る木蓮の大木と牡丹。その上で尾羽を豪奢に垂らす孔雀。

 左側の牡丹の足元には雄の孔雀の妻なのか、雌の孔雀がたたずんでいます。

蒔絵螺鈿柴山硯屏風部分2.png

蒔絵螺鈿柴山硯屏風部分3.png
 華やかな情景の中に、舞う白い蝶や大木の下に咲く菫など、つつましくで可憐なモチーフも描かれた、奥行きのあるデザインです。
 咲き初めの木蓮の、光を透かして輝く小さなつぼみとそれを支える細い枝が、ほろほろとした動きを感じさせます。

 下部では蒔絵の中に二匹の鯉が金の波紋を揺らして泳いでいます。
蒔絵螺鈿柴山硯屏風部分1.png

 (なお、裏側にもカラフルな花紋を散らした蒔絵があったのですが、暗くて撮れませんでした……)

 おそらく、この展覧会女性ウケという点では最も人気を集めそうな品。

 この豪華さと雅を感じさせるデザイン、奥行きのあるやわらかな透明感は、かつて美しさで騒然となった、大和和紀先生版源氏物語「あさきゆめみし」のイラストを思い出させました。

源氏物語 あさきゆめみし 完全版(1) (Kissコミックス) -
源氏物語 あさきゆめみし 完全版(1) (Kissコミックス) -

 どちらの写真も暗くて申し訳ないのですが、実物は金地があたたかく光る中に、かわいらしい色彩が緻密に華やかに舞う絶品です。

 是非お出かけになってその美をご覧になってみてください。

 当ブログのこの展覧会関連ブログ記事は以下のとおりです。よろしければ併せて御覧ください。
 「驚きの明治工芸」(台湾の宋培安コレクション 東京芸術大学で開催中)

 「驚きの明治工芸」(おすすめ展示作品1 加納夏雄 「梅竹文酒燗器」)
 「驚きの明治工藝」(おすすめ展示作品2 海野勝a 「背負籠香炉」海野a乗「犬図薬缶」)
 「驚きの明治工芸」(おすすめ展示作品3 虎爪「蒔絵螺鈿芝山花瓶」、易信「蒔絵螺鈿芝山硯屏」)

 読んでくださってありがとうございました。
posted by Palum at 23:55| 美術 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年09月20日

(100日間リベンジ再び)7・8週目 (ダイエット微減、減酒継続中、運動サボり気味……)


※今回は日記です。

100日間、文書きとか悪習慣断ち(無駄酒、無駄インターネット)とか、ダイエットとか英語とか頑張ります!と宣言させていただいた、その経過とその他つれづれを書かせていただきます。
 これまでの経過一覧はコチラです。

1,ダイエット

 先々週より0.4kg減りました。ダイエットを開始した7月26日より、56日間で1.6kg減です。

 ジワジワ減ってきたのですが、最近の天候不順で思い切りウォーキングさぼってしまっています。先々週「やりたいです」と宣言していたストレッチもイマイチできていません……。
 
 それでも少し減ったのは、ネット閲覧時間を減らして寝る時間多めに確保したからかもしれません。

 あとは野菜たっぷりスープを、朝晩炭水化物と半分置き換えました。

2,無駄ネット

 ゴシップ記事閲覧禁止は相変わらず継続できています。
(きっかけをくださった本「やめてみた(わたなべぽんさん作)」についての当ブログ記事はコチラです。)

やめてみた。 本当に必要なものが見えてくる暮らし方・考え方 -
やめてみた。 本当に必要なものが見えてくる暮らし方・考え方 -

 「無駄とは言い切れないけど、今読まなきゃダメか?」的部門の「ニュース、Kindle本検索」の閲覧時間についてですが、「Kindle本検索」は激減させられました。

 注文履歴をマメにチェックするようにしたら、冷静になれた。やっぱお金の力はデカいです。
 発売されたらどうしても買いたいとすぐ頭に思い浮かぶ本以外はわざわざ時間をとって探さないことにしました。
 (『ゴールデンカムイ8』買えたから、一応一山超えた感じです。相変わらず面白かった〈そして相変わらずエキセントリックな人ばかり出ていた〉。)
ゴールデンカムイ 8 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL) -
ゴールデンカムイ 8 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL) -

ゴールデンカムイ【期間限定無料】 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL) -
ゴールデンカムイ【期間限定無料】 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL) -


 ニュース記事閲覧についてもうっかり見ている最中に、「だらだらネット閲覧はストレスのサインの一つ、こういうとき、いきなり作業に戻るのはかなり大変なので、自分は今ストレスを感じている、ということを考えると冷静になれる(『ストレスが消える「しない」健康法』(小林弘幸 著)より)」という言葉を思い出して、思い切ってリラクゼーション音楽聴きながら横になってしまうことにしました。(といわけで睡眠時間が増えたので〈寝落ちしちゃってるとも言うが〉、すこぅしダイエットになった。)

ストレスが消える「しない」健康法 (角川SSC新書) -
ストレスが消える「しない」健康法 (角川SSC新書) -

 ちなみにこちらの本も新たに読ませていただいたのですが、「パフォーマンス向上のために、まずは自律神経を整えることを優先させる」というコンセプトと、そのための様々な方法が書かれていて、具体的でためになりました。
みだれない生き方―意識するだけで結果に愛される27のヒント -
みだれない生き方―意識するだけで結果に愛される27のヒント -


3,減酒

 「人飲むとき以外飲酒禁止」なのですが、ただいま「一日おきに、アルコール度数が少ない甘いお酒を半缶くぴ飲み」が依然として残っております。

 「毎日半缶〜1缶をくぴ飲み+人と会うときは適量(日本酒なら二合、ワインならグラス二杯」→「(先々週)人と会うとき以外は1〜半缶」だったので、「一缶は飲まなくなった」というところがこの二週間の改善ポイントみたいです。
(ちなみに残り半缶代わりにコーヒーか果汁割炭酸水飲んでます。)

 最近夜の疲れが半端無いんで、それでもブログ更新するためには、もう、このくらいいいかな……という自分と、ここまで減ってんならもうやめようよ!という自分が会議中です。来週までに結論だします(汗)。

(まとめ)
 先週「自分の心をケアするという意識になる」ことを心掛け、おかげでなんかお酒でダルイ気持ちを紛らわすという悪循環をだいぶ減らせたんですが、数日後、イマイチ気持ちにエンジンがかからなくなってしまったので、「けど、無駄に自分を憐れんでいる時間は無い」というフレーズを脳内に足したら、少しマシになりました。
(何故か掃除をよくやるようになった。なんでだ?)

 ただ、気温の変化か、ちょっと疲れっぽくて運動さぼっちゃってるんで、今週は復活させる予定です。
 (暑けりゃ暑いで「夏バテで運動できていません」とか書いてるクセに。なんか運動については、「ゴシップネットを観ない」みたいに突破できた感じがまだないです〈汗〉。)

 それでもこうして書き出してみると、少しずつ改善できたんだなとわかりました。
 来週火曜はもっと良い報告ができるように頑張ります。

 以上、日記でした。読んでくださってありがとうございました。
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2016年09月19日

ドラマ「夏目漱石の妻」放送お知らせ

 取り急ぎお知らせまで。

 NHK総合2016年9月24日(土)夜9時からドラマ「夏目漱石の妻」が放送されるそうです。(全4回)

 かつては文豪の妻に不似合いな、文学的素養の無い、夫をないがしろにする悪妻と言われた夏目鏡子夫人。
 
 しかし、親族の証言から、実際には、時に精神的変調から家族に暴力すら振るったという漱石の不安定な部分を支えた、気丈で裏表の無い、魅力的な人物であったことが明らかになっています。

 今回のドラマは、こうした鏡子夫人と漱石の関係を、鏡子夫人の手記『漱石の思い出』を下敷きに描いているそうです。(大変素敵な本です。)

 漱石の思い出 (文春文庫) -
漱石の思い出 (文春文庫) -

 番組公式HPはこちらです。
  ・TVドラマ「夏目漱石の妻」

   http://www.nhk.or.jp/dodra/souseki/index.html
 
 番組スピンオフのショートドラマ「漱石先生を待ちながら」の動画ページはこちらです。
 (漱石の家で、出入りする門下生たち〈スピードワゴンの小沢一敬さん、井戸田潤さん、カルマラインの柳原聖さん〉が、不在の漱石の噂話をする、という内容だそうです。)
  ・漱石先生を待ちながら 第一話「先生と悪妻」

   http://www3.nhk.or.jp/d-station/episode/souseki/6266/
 
 「ダ・ヴィンチニュース」のドラマ評はこちらです。
 ・TVドラマ「夏目漱石の妻」で長谷川博己・尾野真千子が夫婦役に! 文豪・夏目漱石のユニークな夫婦生活を描く

  http://ddnavi.com/news/296027/a/
  

 「いろんな男の人を見てきたけど、あたしゃお父様(漱石)が一番いいねぇ」
 そう、晩年に孫の半藤末利子さんに語ったという鏡子夫人。

 「病気の(精神的変調が起きている)ときは仕方がない、病気でないときのあの人ほど優しい人はいないのだから」
 そう割り切って、漱石の理不尽な言動を、その嵐が過ぎるまでは、子供たちの盾となりながら耐え、それでも普段の漱石の優しい部分を、決して忘れなかった鏡子夫人の生きざまは、普段一緒にいるからこそおろそかにしがちな、夫婦や家族の愛し方を思い出させてくれます。

 私はこの鏡子夫人の手記から、鏡子夫人の頼もしくて暖かい人柄とともに、むしろ我々が知らなかった、非常に優しくて、ときに愛すべき欠点のある漱石像を知ることができ、あのあまりにも偉大な文豪をますます敬愛するようになりました。

 漱石と鏡子夫人のドラマといえば、かつて本木雅弘・宮沢りえの強力タッグで「夏目家の食卓」(2005・TBS)という非常に魅力的なドラマがあり、鏡子夫人悪妻説の真実を広く知らしめるきっかけとなったのですが、今回のドラマでも、この夫婦の愛のある部分を描き出してくれると思うのでとても楽しみにしています。

 ご覧になり、そしてできれば「夏目漱石の思い出」もお手にとってみてください。

 当ブログでもこのドラマ、および漱石没後100年にちなんで、漱石関連のエピソードを随時ご紹介させていただく予定ですので、よろしければお立ち寄りください。

 当ブログ、これまでの漱石関連記事は以下のとおりです。併せてご覧いただければ幸いです。

あなた、私は、ちゃんとここにいますよ」(夏目漱石と鏡子夫人)
「いいよいいよ、泣いてもいいよ」(夏目漱石の命日)
月がきれいですね。(中秋の名月と夏目漱石)
ミレイの「オフィーリア」と夏目漱石の『草枕』
「兄さんは死ぬまで、奥さんを御持ちになりゃしますまいね」(随筆『硝子戸の中』と小説『行人』)

 読んでくださってありがとうございました。


posted by Palum at 23:58| 夏目漱石 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年09月18日

(※ネタバレ)「贋作師ベルトラッチ 〜超一級のニセモノ」あらすじと感想(NHK BS世界のドキュメンタリー)


2016年9月15日にBS世界のドキュメンタリーで「贋作師ベルトラッチ 〜超一級のニセモノ」が放送され、当ブログご紹介記事にもアクセスをいただきました。

(番組公式HP  url:http://www6.nhk.or.jp/wdoc/backnumber/detail/?pid=160915

 現代アートの贋作を2000点、約40年間描き続け、被害総額は45億円に上るという、贋作師ウォルフガング・ベルトラッチ(Wolfgang Beltracchi)。

 2011年にささいなミスから贋作が判明し、刑務所に入る直前の彼を取材した異色のドキュメンタリーでした。
 現在はNHKオンデマンドで、配信中です。
http://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2016072496SC000/?capid=nte001

(今のところ再放送予定が無いようなのですが、いずれまた放送されるのでは?と個人的には思っています。)

 ドキュメンタリートレイラー




 作品は50分中45分、彼の絵の腕前と騙しの手口について語られ、話題としては興味深いと思いつつ、いつも脳のどこがムズムズする感じ。

 でも最後の5分で急に雰囲気が変わり、ベルトラッチ氏自身と作品の両方の、隠されていた奥行が現れます。

 この5分を観るために、45分の脳のムズムズを我慢する価値がありました。

 実在の人物の話ですが、本人と編集の妙で、よくできたフィクションのようにきっちりと、観るものをうならせる余韻が待ち構えている作品でした。

 以下、番組の流れと観ていたときの感想です。(ネタバレなのでご注意ください)

 冒頭、贋作を制作する彼と交錯して、次々とインタビューに答える、美術市場の人々。
 彼に煮え湯を飲まされ、量刑の軽さ(※)に不満を抱くオークションハウス経営者。
 (※)懲役6年が言い渡されたが、約3年で出所
 彼は新しいものを産み出していないと指摘するアートディーラー。
  同じくもっと重い処罰を望む、彼の贋作を買ってしまった美術コレクター。
 わかっているだけでも数百万ユーロの利益を得たという彼の強欲に苦笑するギャラリー経営者。(それでも才能と感性は本物、と付け加えて。)
 彼はたった一人で美術界の第一人者を出し抜いた、凄腕のカウボーイのようだと語る美術評論家。

 妻や娘と談笑しながら贋作を仕上げていくベルトラッチ。

 フランスののみの市で古い絵を物色していたベルトラッチは、気に入った物を入手し、妻と手をつないで家に帰る。

 アトリエに戻ってきたベルトラッチ。
 必要だったのは絵ではなく時代を経たキャンバス。
 手際よくカメラマンに贋作用キャンバスの作り方を説明する彼だが、実は三日後には刑務所に入ることが決まっている。

 出所後にはドイツのアトリエで仕事を続けるつもり、彼はそう語る。

 彼の友人たちは、彼の正体には驚いたが、彼の才能は尊敬する、と、ともに食卓を囲みながら語りかける。
 笑顔でそれを聞くベルトラッチ夫妻。

 アトリエに訪ねてきた美術史家に、ベルトラッチは語る。
 独学で絵を学び、いつのまにやら贋作の世界に足を踏み入れていた。
 私に描けない絵は無い。亡き巨匠の頭の中に入って描き、本当の画家よりもすぐれた絵を描く。私の絵を本物だと喜ぶ人たちは正しい。美しい絵であることに変わりはないのだから。

 別の美術史家は贋作が発生する構造を指摘する。

 絵が市場にでるとき、売り主は無論、ほかの誰も、それを贋作だと思いたがらないことが問題だ。
 鑑定士は真贋鑑定で巨額の手数料を得、オークション会社は巨匠の絵の取引で利益を得る。買い手は巨匠の絵が市場に出てきたことを喜ぶ……。

 古い絵を塗りつぶして、画集を調べながらベルトラッチは贋作のターゲットを決める。

 本物の絵を模写することはしない。製作期間に空白があるところを見つけ、それを埋める巨匠の作風の絵を描き、未発見の作品として売りに出すのが彼の手口だ。

 そうして有名美術館に並んだ自分の作品がいくつもある。それが自分の作品だと名乗れないのがくやしくもある。そう言いながら、ベルトラッチは贋作の実演を続ける。

 妻ヘレーネは語る。
 彼の仕事については、自分が何かを言って変えられるものでは無いとわかっていた。それに贋作作りは、こう言っていいのかはわからないけれど彼の天職であり、自分はそれに魅了された、と。

 絵具を乾かしたキャンバスに、時代をつけるために埃をまぶし、裏からアイロンをかける作業をするベルトラッチ。
 時には絵の来歴の証拠として、絵を掛けた部屋を準備し、妻をモデルに白黒写真を撮ったこともある。

「あえて言うなら、絵は1万ユーロで売るより、50万ユーロで売ったほうが贋作と疑われない」
(ベルトラッチ)
「需要があるものは作られるべきです。美術商が贋作を期待しているというわけではないけれど、売れるものが見つかれば彼らはとても喜びます」
(ヘレーネ)

 彼らの詐欺行為のうち、後に最も大きな問題になったのは、現代アートの殿堂、ポンビドゥー・センターの元館長、シュピース氏を騙したことだった。

 わざわざシュピース夫妻を呼び出し、自身の贋作をマックス・エルンストの真作だと鑑定させたベルトラッチ。

 シュピース氏が、この鑑定の際に受け取った巨額の鑑定料を租税回避地の口座に入れていたことにより問題は複雑化。捜査時にこの情報のことをシュピース氏が話さなかったために、真相の解明が遅れ、贋作のいくつかが再び市場に出回るという事態に陥った。

 マックス・エルンストの贋作制作を実演しながらベルトラッチは語る。
「エルンストを天才とは思わない。それにエルンストのオリジナルより、私の贋作のほうが美しい。なぜなら、私は彼の作品に加えているから」

 尊大にも見えるベルトラッチ。
 しかし、カンペンドンクの大作を描いたときに、彼の贋作に綻びが生じた。
 その時代には存在しない絵具二色を使うというミス。これが彼の逮捕の決め手となった。

 「カンペンドンクの絵の中には迫りくる戦争の悲劇の予感と、それでも絵を描こうとする勇気がありました。その見地からすると、ベルトラッチの作品の背後には何もありませんでした」(ギャラリー経営者)

(ベルトラッチ本人は画家の霊を感じながら描いていると言っているので、これについては一言言いたいでしょうね……。そして絵にこめられた感情こそ絵の価値というのは全くそのとおりでしょうが、これは鑑定の際に証明しにくい……。)

 ベルトラッチの不動産は賠償のために差し押さえられることになった。

 屋敷の窓から庭を眺め、ベルトラッチは語る。

 「この生活がいつか破たんするとは感じていました。もうこんなことはやめようと。でも、ふと思ったんです。あと2作、あと2作だけ描いて、1000万ユーロを儲けてから終わらせるのも悪くはないんじゃないかって。ヴェネツィアに豪邸を買いたいと思ったんです。……そうこうするうちに、豪邸が独房に変わったんです。」

 序盤にも登場した美術史家が、ベルトラッチ作のエルンスト、そしてすぐそばの彼本人の大作を見ている。(※)

(※)二人とも同じ服なので、序盤のやりとりと同じ日に交わされた会話なのではと思われます。

 「みんなあなたの描くベルトラッチ・エルンストを観たがっていますよ。あなたが描いたエルンストは需要が高いでしょうね、またあなた自身の名前でどんな絵を売り出すかも問題です。オリジナルの絵より、贋作のほうが好まれることもあり得ます」
 ベルトラッチは特に気を悪くした風でもなくうなずく。
 「わたしも、そんな気がしています」
 目の前に強烈だが緻密な彼本人の絵がある。
 「情熱を注いだ絵なのに?」
 「情熱なんて注いでいませんよ。単純に楽しんで描きました。情熱は家族に注ぎます。私は現実主義者なんです」
 「芸術から距離を置いているということですか?」
 「市場から距離を置いているんです」
 市場の闇や落とし穴を知り抜いて、そこを40年泳ぎ渡ったベルトラッチは、そう言い放った。

 ベルトラッチは、自身のエルンスト風の絵に、サインを入れた。
 「ベルトラッチ」と。
 「サインしたからといって、贋作を防げるとは限らないし、偽造されるかどうかは私にはどうでもいいことです。ベルトラッチの絵は偽造してはいけないとでも?誰だって描けばいいんです。この私が、そんなことを気に
するわけないでしょう。」

 屋外で作業をするベルトラッチ。
 台車いっぱいの塗料が吹き上げられ、彼の姿が青い煙に包まれる……。

(完)


 ベルトラッチが、あと2作だけ描いて足を洗おうと思っていたと語るところから、青い煙に消えていくところまでが最後の見ごたえある5分です。

 それまでの45分間、妻に愛され、美しい子供たちがいて、贋作師と知りながら彼を尊敬すると言う友人たちに囲まれ、鼻歌交じりのようにサラサラと贋作を仕上げていく姿を見、妻の「需要があるものは作られるべきです。売るものがあれば彼らは喜びます」とか、ベルトラッチ本人の「オリジナルより足している分自分の絵のほうが美しい」を聞いている間は、「凄いけど、わかるような気もするけど、なんか脳がムズムズする……」という印象がぬぐえませんでした。

 いくらなんでも人を騙して(真作よりもっとうまいんだから良いでしょというのが言い分でしょうが、贋作と知った時点で相手を怒らせしまっている)、こんなに明るく充実した勝ち組ライフを満喫していいもんかという疑問が頭のどこかにあったのでしょう。

 ですが、最後の5分間、エルンストの真贋同様、自分の真作の評価を意に介さず、自分がさんざん裏をかいてきた市場を信じず、「これは楽しんで描いたもの。情熱は家族に注ぎます」と言い切る彼には、一般的とは言えないものの、確固たる、そしてどこか魅力もある、彼独自の流儀があったのだと気づかされます。

 彼の存在を煙に巻くようなラストシーンも、この取材内容を「作品」に仕上げていて粋な演出だと思いました。

 ムズムズを我慢して最後まで観て良かった。どんでん返しが効いていて、スタイリッシュな犯罪映画のような後味でした。

 以上、あらすじと感想でした。

 もし再放送情報を入手できたら、当ブログにてお知らせいたします。
 
 読んでくださってありがとうございました。

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2016年09月17日

映画「アンタッチャブル(The Untouchables)」(1987年アメリカ映画)ご紹介(なにもかもが完璧な傑作映画)

 イマジカTVをご覧になれる方へ、取り急ぎお知らせです。

 2016年9月19日(月)16:00〜18:15、アメリカの名作映画「アンタッチャブル(吹き替え版)」(1987年 アメリカ)が放送されます。

 公式HP情報は以下のとおりです。
 http://www.imagica-bs.com/program/episode.php?prg_cd=CIID165241&episode_cd=0001&epg_ver_cd=03&epi_one_flg=index.php 
アンタッチャブル スペシャル・コレクターズ・エディション [Blu-ray] -
アンタッチャブル スペシャル・コレクターズ・エディション [Blu-ray] -

 禁酒法時代のシカゴ、対立勢力を抹殺し、政府、警察をも買収して、もはや実質的な市長と言われるほどの権力を持ったマフィア、アル・カポネに立ち向かった、アメリカ財務省捜査官チーム「アンタッチャブル」の戦いを、実話をもとに描いた作品です。

 なお「アンタッチャブル」とは「あざーす!」と「横山やすしの再来」のアノお笑いコンビ様ではなく、「不可侵のもの」という意味。
 (英辞郎 on Webの「Untoucheble」の意味URL……http://eow.alc.co.jp/search?q=untouchable

 もはや財務省内部の人間も、カポネに買収されているか、怖気づいているかで、本当に捜査に携われる人間がほとんどいないという状況下、何者にも惑わされぬ意思を持った者たちというニュアンスだと思われます。

 個人的に1980年〜1990年代が、アメリカ映画の豊穣期だと思っているのですが(演技が丁寧に撮れているし、ストーリーの中で、現実のシビアさと、人の心の美しい部分の両方が描かれている、そのさじ加減が絶妙)これもそういった傑作の一つです。
 
 なお、デ・ニーロ演じるカポネが仲間が集まる食事の席で、いきなり裏切り者をバッドで殴り殺すシーンや、乳母車が転がり落ちる中での階段での銃撃シーン(※1)は有名で、他の映画でパロディ化されています(※2)。

(※1)元々「戦艦ポチョムキン」という映画の一シーンを踏襲したもの
(※2)前者は三谷幸喜の「マジックアワー」、後者は「裸の銃を持つ男33 1/3」で観ることができます。

 作品のあらすじは以下のとおりです。

 マフィアたちの抗争と腐敗がはびこる町シカゴに新たに赴任してきた財務省エリオット・ネス(ケビン・コスナー)は、アル・カポネ(ロバート・デ・ニーロ)を逮捕しようと躍起になるが、捜査に失敗し、周囲の嘲笑を浴びてしまう。
 
 市民が犠牲となる事態が相次いでいても、もはやシカゴの公の権力から、本気でカポネを倒そうとする人物はいなくなっており、孤立無援のネス。

 しかし、彼は偶然出会った初老の警官マローンに気骨を感じ、彼に協力を依頼、マローンにスカウトされチームに加わった若き射撃の名手ジョージ・ストーン(アンディ・ガルシア)、財務省簿記係のオスカー・ウォーレス(チャールズ・マーティン・スミス)とともに、チームを結成し、再び捜査を開始する。

 (マローンにチームに加わってくれるように頼むネス。〈職場の人間に聞かれることを恐れて教会に呼び出している〉)
 
https://www.youtube.com/watch?v=xPZ6eaL3S2E

 今や実現不可能と思われる豪華出演陣それぞれの名演怪演と、凶悪なマフィアとの息詰まる戦いの中で生まれた男たちの友情を描いたストーリー、衣装(ジョルジォ・アルマーニ)(※3)や音楽(エンニオ・モリコーネ)(※4)に至るまで、非の打ちどころの無い作品です。

(※3)シルエット帽にコートというエレガントないでたちで銃を構えるケビン・コスナーをはじめとして、誰の目にもわかる品の良い仕立てが映像に華を添えていますが、ショーン・コネリーは自分の役柄上ありえないと思ったのか自前の服で臨んだそうです(ウィキペディアより)。
 こちらもほどほどに着古した感じやハンチング帽との組み合わせが、うなるほどに粋。かつケビン・コスナーと並ぶと対比の妙があります。(中年〜熟年男性のファッションのお手本になると思います)
 異なる価値観がどちらも映画をより素晴らしくしたという珍しい例

(※4)エンニオ・モリコーネ
 1950年代から現在に至るまで活躍している作曲家。映画音楽作品では「ニュー・シネマ・パラダイス」や本作「アンタッチャブル」などが有名。勇壮、官能、不吉、癒し、郷愁と、あらゆる印象の名曲を作り上げる巨匠。小泉元首相、葉加瀬太郎、チェリストのヨー・ヨー・マ等、有名人のファンも多い。(この流れで書くのもなんですが私も大好きです。)

 アンタッチャブルサントラは入っていないのですがアルバム視聴動画があったので張らせていただきます。この中だと8曲目の「La Califfa」がおススメです。


https://www.youtube.com/watch?v=Jjq6e1LJHxw


 見どころ満載というか、見どころ(&聴きどころ)しかない名作なので、ぜひご覧になってみてください。

 (この日は「ハリネズミホテルへようこそ」、「クリスティのフレンチミステリー ABC殺人事件(AXNミステリー)」も再放送され、個人的には好きな作品が急に大集合しています……。よろしければ当ブログ関連記事も併せてお読みください。
「クリスティのフレンチ・ミステリー「ABC殺人事件」(ドラマ独自の年の差恋愛も見どころ)
イギリスのハリネズミ愛(地球ドラマチック「ハリネズミホテルへようこそ」によせて)

 映画「アンタッチャブル」については今後もう少し詳しくご紹介させていただく予定です。

 読んでくださってありがとうございました。


(参照ページ一覧 ※すべてウィキペディア)
 ・映画「アンタッチャブル」
 ・「アル・カポネ」
 ・エリオット・ネス
posted by Palum at 07:30| おすすめ映画(英米) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年09月16日

クリスティのフレンチ・ミステリー「ABC殺人事件」(ドラマ独自の年の差恋愛も見どころ)


 AXNミステリーチャンネルがご覧になれる方限定なのですが、お勧めの推理ドラマがあるのでご紹介させていただきます

 クリスティのフレンチ・ミステリー
(原題:Les Petits Meurtres d'Agatha Christie−)

Les Petits Meurtres D'agatha Christie: Set 1 [DVD] [Import] -
Les Petits Meurtres D'agatha Christie: Set 1 [DVD] [Import] -

2016年9月19日(月)22:00より、「ABC殺人事件(Les Meurtres ABC)」を皮切りにシリーズの再放送が始まります。(ABC殺人事件は 10月15日 (土)22:00〜再度放送予定)

Les Petits meurtres d'Agatha Christie - Les meurtres ABC -
Les Petits meurtres d'Agatha Christie - Les meurtres ABC -

番組公式HPはこちらです。(右上に放送予定表示ボタンがあります。)
http://mystery.co.jp/programs/agatha_french

 アガサ・クリスティ作品の大筋をふまえつつ、探偵役のポアロやミス・マープルを登場させずに、ドラマ独自のキャラクター、ラロジエール警視とランピオン刑事が事件を解決するという風変わりな構成です。

 名作に手を加えて成功する例は稀だと思うのですが、このドラマに限って言えば、原作に忠実という意味では他の追随を許さない、恐ろしいほどに完璧なイギリス版ドラマには無いユーモアがあり、原作を読んだ人でも別物として楽しめる構成になっています。

 一見エリートダンディなのに、おこりんぼで毒舌で日常的に部下に八つ当たりし、女好きで、それなのに落ち込むと前後不覚の酒浸りになるという、名探偵としては稀にみるほど手に負えない性格のラロジエール警視(ランピオン曰く「長所を見つけるのが難しい人(酷)」)と、まじめで優しく、地道に捜査に臨むランピオン(ちなみに同性愛者で男女問わず結構モテる〈ラロジエールが押しの一手なのに比べ、向こうが静かに寄ってくる感じ〉)の掛け合い(半分口論)や、ここぞというときには発揮される仕事への情熱と冴えわたる推理力も見ごたえがありますし、クリスティ作品にしばしば見られる薄暗い後味を、設定を少しずつ動かすことで、印象を変えてくれている回もあります。

 見た範囲で、このアレンジが最も冴えわたっていると思ったのは今回第一回目で放送される「ABC殺人事件」と以前紹介記事(ネタバレ)を書かせていただいた「五匹の子豚(今回は10月31日 22:00〜)」です。

 「ABC殺人事件」は、本来ポアロが登場する、クリスティ作品の中でも屈指の人気を誇る作品です。

ABC殺人事件 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫) -
ABC殺人事件 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫) -

 異なる町で名前にA、B、Cの頭文字を持つ人物が次々と殺され、直前にラロジエールたち(原作ではポアロ)のもとに届く殺人予告。

 同じころ、戦争で受けた傷がもとで、記憶が途切れるという症状を持っていた中年男性キュスト(原作ではカスト)は不安にさいなまれていた。
 彼が得た、ストッキングのセールス業で行く先々で殺人が起こり、自分にはどうしても思い出せない記憶の空白がある……。

 もしや自分が犯人なのではという疑念が離れず、苦しむキュスト。

 しかし、普段は控えめだが優しい目をした彼に、下宿先の娘リリが年の差を超えて好意を抱き、彼の苦悩を薄々感じながらも、彼を支えようとします。

 一方、犯人の足取りがつかめないまま殺人が重ねられ、激しく自分に落胆するラロジエール。ランピオンは彼を励まし、再び捜査に乗り出します。

 原作自体、事件の全貌があまりに意外で、読み応えがありますが、このドラマでは、原作よりも登場人物を絞り込み、キュストとリリの交流を、この殺伐とした連続殺人と対比させています。

 原作にもこのリリに当たる下宿屋の娘(リリー)が登場するのですが、彼女にはトムという恋人がいて、カスト(キュスト)の境遇に同情的ながら、一方で彼が犯人ではないかという疑いもぬぐえず、恋人と彼の周辺を調べたりしています。
(なので、原作ハヤカワ文庫では完全に脇役扱いで、冒頭の登場人物紹介から外されている。)

 一方ドラマのリリは、彼女が男としての自分を好いているなどとは夢にも思わないで、ただ穏やかに話し相手をしてくれるだけのキュストをなんとか振り向かせようと、下宿屋の仕事を超えて彼に尽くし、彼の部屋の前に入る前には身だしなみをととのえたりしています。

 こういう、「好きな人に好かれたくて頑張る人」の描写ってなんか和むんですよね……それにミステリー作品に、一生懸命家事をするとか、服や髪形と気にするなどのさりげない場面が織り込まれるのも珍しいと思います。

 母子家庭で父親にいい思い出が無い様子なので、キュストに優しい大人の男を求めたのかもしれませんが、甘えるよりむしろいつもキュストを励まし、いそいそと世話を焼いているリリは、初々しいけれど包容力があるという、ある意味理想の女性です。
(ずば抜けて美人ってわけじゃないけれど、話し方に温かみがあってピンクの似合う可愛い人)

 メインは推理ドラマなので、それほど長く登場するわけではありませんが、このつつましいしぐさややりとりが心に残ります。

 最近大ヒットしている年の差恋愛漫画「恋は雨上がりのように」(※)がお好きならおススメしたい回です。

恋は雨上がりのように 1 (ビッグコミックス) -
恋は雨上がりのように 1 (ビッグコミックス) -

 (※)女子高生橘あきら(クールな雰囲気〈中身は違うけど〉の激美少女)が、バイト先の一見冴えない雇われ店長(45歳、作中では頼りないとか、なんかクサいとかさんざんな言われようだが笑顔と性格がとても良い。あきらちゃん見る目あるぞ)に片思いをして、彼の心を掴もうと奔走するストーリー。抜群に美しい絵やどこか文学的な心理描写と光景、二人以外の登場人物たちも魅力。

 この「フレンチ・ミステリー」そのほかの回も非常にレベルが高く、特に序盤にギャグ、最後に美しい余韻がある「五匹の子豚」は必見です。

 当ブログのフレンチミステリーに関連する主な記事は以下のとおりです。よろしければ併せてご覧ください。(一部内容が重複しています。またリンク切れが多いのであらかじめご了承ください。)
クリスティのフレンチ・ミステリー(AXNミステリー・フランスドラマ)
「クリスティのフレンチ・ミステリー」再再放送(AXNミステリー
「五匹の子豚」(クリスティのフレンチ・ミステリー※ネタバレ編)
クリスティのフレンチミステリー「ABC殺人事件」(ドラマ独自の年の差恋愛も見どころ)

 なお、私はビタ一文読めないのですが(汗)、ドラマに関するフランス語のウィキペディア記事があったので、貼らせていただきます。
「クリスティのフレンチミステリー(原題:Les Petits Meurtres d'Agatha Christie)」の紹介ページ
同上「ABC殺人事件(Les Meurtres ABC)」の項目

 読んでくださってありがとうございました。
posted by Palum at 19:56| 日本の海外テレビ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年09月15日

「魔法の庭 ダルメイン〜イギリス湖水地方の田園ライフ〜」(NHK BSプレミアム)再放送のお知らせ


 取り急ぎご連絡まで

 NHK BSプレミアムで、2016年9月17日(土)午後1時30分〜午後3時に「魔法の庭 ダルメイン〜イギリス湖水地方の田園ライフ」というドキュメンタリー番組が再放送されます。

 イギリス湖水地方の歴史ある邸宅「ダルメイン(dalemain)」で代々庭造りをする女性たち。

 番組では、12代目の妻ジェーン・ヘーゼル・マコッシュさんを取材し、鳥や庭に住むハリネズミたちと協力し、自然の力を生かして作られる美しい庭の春から夏の移り変わりが紹介されるそうです。

 NHKと、ダルメインの公式HP情報は以下のとおりです。
http://www.nhk.or.jp/docudocu/program/92393/2393099/
(もっとNHKドキュメンタリー「魔法の庭 ダルメイン」)
http://www.dalemain.com/index.php
(The Dalemain Estateのホームページ)
https://www.dalemain.com/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E8%AA%9E/
(同HP日本語紹介ページ)
http://www.dalemain.com/pages/gardens.php
(同HPガーデン情報ホームページ)

※なお、2017年3月18、19日、ダルメインで開催されるマーマレードの大会「Marmalade Festival 2017」ではイギリスで活躍中の日本人ペストリーシェフ川秀子(Hideko Kawa)さんが招かれ、ゆずマーマレードの紹介など、食のイベントをなさるそうです。

 川秀子さんのイベント記事はコチラ
https://www.dalemain.com/cookery-events-award-winning-hideko-kawa/

 前述フェスティバル情報ページによると、マーマレードフェスティバルの際には、近くの町ペンリス(Penrith)から、無料シャトルバス「Orange Express(萌)」が特別に運行されるそうなので、お出かけになる方は情報をご確認ください。

 ・フェスティバル開催中の特別交通情報を伝える記事
  http://www.cumbriacrack.com/2017/03/17/virgin-trains-welcomes-visitors-marmalake-district/
 この時期は「Penrith」駅が「Marmalake District(※「マーマレード」と「レイクディストリクト(湖水地方)」をかけた洒落)と名前を変えるそうです。しかも駅表示がオレンジ色(萌萌)。





(補足)
2016年9月19日(月)午前0時からNHK Eテレでガーデニングのサポーターとしてイギリス人にこよなく愛されているハリネズミの生態と保護活動を紹介した番組「ハリネズミホテルへようこそ」も再放送されました。可愛くて心和む番組でしたので、また再放送があった際には併せてご覧になってみてはいかがでしょうか。

 番組公式情報は以下のとおりです。
 http://www.nhk.or.jp/docudocu/program/183/2340450/index.html
 当ブログでこの番組にちなんで書かせていただいた記事はこちらです。よろしければ併せてご覧ください。
 イギリスのハリネズミ愛(地球ドラマチック「ハリネズミホテルへようこそ」によせて)

 読んでくださってありがとうございました。
posted by Palum at 23:05| 日本の海外テレビ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年09月14日

イギリスの贋作師ジョン・マイアット(NHK BS世界のドキュメンタリー 「贋作師 ベルトラッチ 〜超一級のニセモノ〜」によせて) 


先日、NHK BS世界のドキュメンタリーの「贋作師ベルトラッチ 〜超一級のニセモノ」(2014年 ドイツ 原題:BELTRACCHI - THE ART OF FORGERY)2016年9月15日(木〈水曜深夜〉)午前0時00分〜0時50分放送。)という番組にちなみ、ベルトラッチ氏の周辺情報をご紹介させていただきました。

 前回ベルトラッチ氏関連の記事はコチラです。

今回は、さらに、イギリスの有名な贋作師ジョン・マイアット(John Myatt)氏について書かせていただきます。

 彼がインタビューを受けている動画はこちらです。(BOSSコーヒーのトミー・リー・ジョーンズと蟹江敬三さんを足して2で割ったみたいな風貌。この中で彼が描いているモネ風の絵は非常に丁寧で見事です。)



https://www.youtube.com/watch?v=tbfx6wbznzE

こちらがオルセー美術館所蔵のモネ作 国会議事堂(ウィキペディア Pimbrils

モネ 国会議事堂.jpg

 かつて20世紀最大とも言われた大規模な贋作事件に関わり、今はその贋作のノウハウと高い技術を、ベルトラッチ氏同様ドキュメンタリー等で堂々と披露しています。

 贋作師としての腕前のみならず、その数奇な経歴、そしてそれを経た後の彼自身の独特の個性が、一目見て印象に残る人物です。

 (彼についてはかつてNHKでも「贋作の迷宮」というハイビジョン特集で紹介していたそうです。)

 ジョン・マイアットは、1945年生まれ、もともとは美術教師だったのですが、幼い子供二人を残して家を出てしまった妻の代わりに育児をするため、退職を余儀なくされました。

 生計を立てるため、「本物の贋作(Genuine Fakes)を数万円で描く」という複製画作成の広告を出したところ、ジョン・ドリュー(John Drewe)という人物が顧客としてあらわれ、やがて、彼に複製画を本物と偽って売る詐欺を持ち掛けます。

 真贋鑑定の際、非常に重要になるのが、絵の来歴がわかる資料の存在なのですが、 ドリューの手口は大胆不敵、教授と身分を偽って名だたる美術館に寄付を持ち掛け、館内資料室に入りこむと、マイアット氏が描いた絵の来歴が記された偽造書類を資料室所蔵の資料に紛れ込ませ、あたかもその作品が過去から存在するかのように見せかけました。

 絵が本物として名門オークションハウスクリスティーズで高値がつくなど、計画は順調に進んでいましたが、ドリューの関係者が、彼の詐欺行為の証拠となる書類を発見、通報したことで二人は逮捕されました。

 マイアット氏には懲役1年の計が課されましたが、実際に刑務所に入っていたのは約4ヶ月、非常に恐ろしい経験ではあったものの、囚人に頼まれ鉛筆で似顔絵を描くなどしてコミュニケーションをとっていたそうです。

 元々子供を育てながら収入を手に入れるためにはじめてしまった詐欺行為でしたが、自分が逮捕されたことが子供にどう影響するかを思って心を痛めていたマイアット氏。

 しかし逮捕時思春期だった子供たちは、世界的美術館やオークションハウスをも翻弄した父の腕前を、「fabulously cool(非常にカッコイイ)」と思い、状況をあるがまま受け入れ、面会にも来てくれました。
(おそらくは父親の動機を理解していたのでしょう。実際利益はほとんど子供の養育に費やされていたそうですから)

 出所した彼は、自分の詐欺行為を反省し、二度と絵を描かないという誓いのもと、まったく異なる仕事(ガーデンセンター職員)を選びました。

 しかし、そんな彼に一本の電話がかかってきました。

 そして彼に再び絵筆をとるように勧めたのは、彼を逮捕したスコットランドヤードの刑事。

 刑事の家族の肖像をマイアット氏自身の作品として描いてほしいと5000ポンド(当時の価値で140万円相当)を支払ったその刑事は、さらに仕事上の関係者から次々と制作依頼を集め、マイアット氏を後押ししました。

 そして今、マイアット氏は有名画家たちのタッチをふまえた作品や、彼独自の作品が高値で売れる画家となり、彼の贋作師時代の経験や技術を生かしてテレビにも出演、また彼の数奇な運命はかつて彼が出した広告のフレーズと同じ「Genuine Fakes」というタイトルで映画化されました。

(出演作品の一部)
 ・「Fake or Fortune(BBC)」……オランダの贋作師メーヘレンの技術を再現する実験に協力(激面白)
 ・「Fame in the Frame(Sky Art)」……有名人の肖像を、フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」やマネの「草上の昼食」等の代表作模写に紛れ込ませた絵を制作(自分が名画に入り込めるわけですから、普通にほしがる人多そうですね。)
 ・「Forgers masterclass(Sky TV)」……絵を学びたい人たちに「有名画家風」の絵を描くテクニックを、実際のモデルや風景を使いながら実技指導

 彼が制作した贋作200点のうち、押収されていない120点についてはいまだ本物として扱われているらしい。彼はそう告白していますが、司法の裁きを終え、思いもかけない刑事からの励ましや子供たちの反応を目の当たりにした彼は、いまだ眼光鋭く、笑みにどこか骨太な不敵さが漂いながらも、険のとれた、話術の巧みなチャーミングな紳士です。
(喋っているのを聞くと不思議と人を引き付けるところがある。私も「Fake or Fortune」観てすぐ、なんか味のある人だなと思いました。)

 「事実は小説より奇なり」を地で行く、不思議な人物だったので、ご紹介させていただきました。

 今回資料として使用させていただいたネット情報は以下のとおりです。


1 ウィキペディア(日本語版
 (英語版「John Myatt」)
  https://en.wikipedia.org/wiki/John_Myatt
 (英語版「John Drewe」)
  https://en.wikipedia.org/wiki/John_Drewe

2 「贋作の天才」 更生して売れっ子に 英画家 服役後、刑事の支援で再出発(「サンケイビズ」 2015年12月26日)
http://www.sankeibiz.jp/express/news/151226/exg1512260730001-n1.htm

3 英画家「日本にも贋作」 120点なお未回収
(「日本経済新聞」 2015年 10月24日)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG24H4W_U5A021C1000000/

4 The talented John Myatt: Forger behind the 'biggest art fraud of 20th century' on his criminal past - and how he went straight
(「Independent」 2014年2月28日)
http://www.independent.co.uk/arts-entertainment/art/features/the-talented-john-myatt-forger-behind-the-biggest-art-fraud-of-20th-century-on-his-criminal-past-and-9889485.html

5 Celebrity frame academy: The stars as you've never seen them before
(「Dailymail」2011年1月29日)
http://www.dailymail.co.uk/home/you/article-1351004/John-Myatt--The-art-forger-using-celebrities-models-create-world-famous-masterpieces.html


6 http://www.johnmyatt.com/index.htm (マイアット氏の個人ページ、「gallery」部で彼の作品が観られます。)

 読んでくださってありがとうございました。
posted by Palum at 23:53| 美術 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年09月13日

「贋作師 ベルトラッチ 〜超一級のニセモノ〜 (NHK BS世界のドキュメンタリー)」 番組情報ご紹介


 本日は日記の予定でしたが変更してNHK BS世界のドキュメンタリーの放送予定番組についてご紹介させていただきます。

「贋作師ベルトラッチ 〜超一級のニセモノ」(2014年 ドイツ 原題:BELTRACCHI - THE ART OF FORGERY)2016年9月15日(木〈水曜深夜〉)午前0時00分〜0時50分放送。
(番組公式HP url: http://www6.nhk.or.jp/wdoc/backnumber/detail/?pid=160915
 現代アートの贋作を約2000点制作、被害総額は45億円以上にのぼるという贋作師ウォルフガング・ベルトラッチ(Wolfgang Beltracchi)。

 豊富な知識と技術で「巨匠の未発見の作品」と、専門家をも欺き続けたベルトラッチは、当時存在しなかった色を使って贋作を仕上げるというミスを犯すまで、約40年にわたり贋作師として活動をつづけました。

(参照:東京大学大学院文化資源学研究室 小林真理ゼミブログ「一級品のニセモノ(2013年6月2日記事)」http://mari-semi.blogspot.jp/2013/06/blog-post.html


 このドキュメンタリーでは、ベルトラッチとその妻ヘレーネ(贋作制作でもパートナー)本人が登場し、画材の調達から絵画の完成まで、贋作制作の過程を紹介しているそうです。

 ドキュメンタリーフィルム「BELTRACCHI - THE ART OF FORGERY」のトレイラー動画はコチラです。(英語字幕付き、番組解説文があったので、当記事の資料とさせていただきました。)



https://www.youtube.com/watch?v=TS6a3XochQU

 彼にインタビューしている「Channel4 」のニュース動画はコチラです。(英語)



https://www.youtube.com/watch?v=zz6YXjSHFOI

 彼の制作風景を紹介している動画はコチラです(英語)。亡き巨匠の霊を感じながら描いているとか。



https://www.youtube.com/watch?v=6S2HgibGbb0

 以前イギリスBBCで「Fake or Fortune」という巨匠の絵画の真贋を鑑定する激面白番組があるということをご紹介させていただきましたが(放送希望×2!)、こうした真贋鑑定で大きな壁となるのが、ベルトラッチ氏のような、腕利きの贋作師の存在です。
(このような大規模な詐欺を働いた贋作師は、しばしば「Master Forger(贋作の大家)」と形容されます。浦沢直樹先生の名作「マスターキートン」みたいでなんかカッコよさげ……。)

MASTERキートン 1 完全版 (ビッグコミックススペシャル) -
MASTERキートン 1 完全版 (ビッグコミックススペシャル) -

 巨匠と同時代のキャンバスを使い、タッチやサインを完璧に模倣した作品は、専門家でもその真贋の判断が非常に難しいと言われています。

 特に画材調達が比較的たやすく、古典的な作品に見られる制作に時間を要する緻密さよりも、斬新な発想を重視する現代アートは、ベルトラッチのような高い技術を持つ贋作師には模倣しやすく、現在マーケットに出回る現代アートには、多くの贋作が紛れ込んでいると言われています。

(そんな中、タッチも絵の表面に現れる経年変化も再現し、フェルメールの贋作を作ったハン・ファン・メーヘレン〈Han van Meegeren〉は、絵をナチス・ドイツに売りつけたという事実も手伝って、今でも伝説の贋作師として語り継がれています。〈「Fake or Fortune」によれば、彼の経年変化の再現方法は未だ謎に包まれているそうです。〉)

 そんな贋作師たちの制作の秘密それ自体も興味深いですが、もう一つ、日本人の目からはなんとなく意外なのは、足を洗った贋作師が堂々と出演するという海外のテレビ番組事情です。

 既に司法の裁きは終わっているというだけではなく、「高い技術を持った贋作師の絵と真作の本来的な意味での価値の違い」や、「権威主義的な市場や巨万の富を持つ人々を大胆に欺いて泳ぎ渡る」という贋作の側面が、どこか人々を引き付けるのかもしれません。
(「Fake or Fortune」を観ているとそういう贋作をつかまされてしまい落胆する人たちも目にするので、あまり軽く考えることもできないのですが……。)

 このベルトラッチ氏の他にも、イギリスではジョン・マイアット(John Myatt)という有名な元贋作師の方がいて、しばしば贋作技術解説の権威としてテレビに登場しています。
(今は二人ともちゃんとご本人の名で絵が高値で売れているそう。)

 (「Fake or Fortune」でメーヘレン作と疑われる作品の鑑定時に、メーヘレンの謎の制作技法にチャレンジしたのもこの人です。〈ちなみに鑑定対象だった絵は、フェルメールではなく、本物だとしてもそこまで価値のある絵ではなかったので、むしろ「あのメーヘレン」作を美術館のスタッフが期待していたのが印象的でした〈数十年前、美術館が偽物をそれと気づかず所蔵してしまったということなのに〉。さばけている……〉)

 日本でもおなじみの鑑定の世界を裏側から描いた面白そうな作品なので、ご覧になってみてはいかがでしょうか。

 以上、おススメ番組紹介でした。

(この番組について、当ブログで書かせていただいたあらすじと感想記事はこちらです。
 (※ネタバレ)「贋作師ベルトラッチ 〜超一級のニセモノ」あらすじと感想(NHK BS世界のドキュメンタリー)

 
(まったくの余談ですが、この情報をチェックしている最中、当ブログでも繰り返しご紹介させていただいているイギリスの合唱団指揮者ギャレス・マローンさん〈合唱を心から愛する情熱的で礼儀正しい理想的リーダー、メガネ男子〉の番組の再放送について。番組スタッフブログ9月9日分内にこんなコメントがありました。

「なお、多くの方からご投票いただいた「ギャレス・マローンの職場で歌おう!」(全8回)は、
12月に放送を予定しています。詳細が決まり次第、HPにてお知らせいたします。どうぞお楽しみに。(「もう一度見たい!」ラインナップが決まりました。(9月9日記事)」より)

 さすがですギャレスさん……。〈当ブログでもまたこの方について書かせていただく予定です。〉)

 しかしこうなるとホントに「Fake or Fortune」も放送してほしいです。こういう贋作師や、眠れる絵画を探す目利きのディーラーや鑑定士たち、謎多きアートマーケット、鑑定のために科学技術を駆使する調査担当者たち(そしてもちろん所有者)全ての人々の動きが観られて無茶苦茶スリリングで面白いんです!

 こちらの番組についても、今後情報入手できる範囲でご紹介する予定ですので、よろしければまたお立ち寄りください。

 また、イギリスの元贋作師ジョン・マイアット氏についても紹介記事を書かせていただきましたので、こちらもよろしければご覧になってみてください。

 読んでくださってありがとうございました。
posted by Palum at 23:19| 番外編・おすすめテレビ番組 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年09月12日

「驚きの明治工藝」(おすすめ展示作品2 海野勝a 「背負籠香炉」海野a乗「犬図薬缶」)


 先日概要をご紹介させていただいた上野の東京芸術大学大学美術館で開催中の「驚きの明治工芸」について、引き続き個人的におススメだった展示品について書かせていただきます。

 展覧会公式HPは以下のとおりです。
 http://www.asahi.com/event/odorokimeiji/

 当ブログのこの展覧会関連ブログ記事は以下のとおりです。
 「驚きの明治工芸」(台湾の宋培安コレクション 東京芸術大学で開催中)

 「驚きの明治工芸」(おすすめ展示作品1 加納夏雄 「梅竹文酒燗器」)
 「驚きの明治工藝」(おすすめ展示作品2 海野勝a 「背負籠香炉」海野a乗「犬図薬缶」)
 「驚きの明治工芸」(おすすめ展示作品3 虎爪「蒔絵螺鈿芝山花瓶」、易信「蒔絵螺鈿芝山硯屏」)
 
 今回ご紹介させていただくのは、金工師 海野勝a(うんのしょうみん 1844‐1915)の「背負籠香炉」と勝aの長男海野a乗(1873-1910)の「犬図薬缶」です。

 海野勝a「背負籠香炉」

海野勝a 縮小版.png


 背負籠の姿をした銀製の香炉は、
金、四分一(しぶいち、銀一と銅三の割合で混ぜられた合金)赤銅といった様々な金属をはめこんだ「象嵌(ぞうがん)」で形作られた籠の目や上下の緻密な文様、蔓草で緊密に彩られています。

 なお、象嵌のうち、この蔓草の部分のように立体的な技法を「高肉象嵌(たかにくぞうがん)」と呼ぶそうです。

 以下のページで象嵌についての説明を読むことができます。(清水三年坂美術館「常設展 金工」説明部より)

http://www.sannenzaka-museum.co.jp/jyosetu2.html(工程の動画ダウンロードができます)

 海野勝aは彼が師事した加納夏雄同様、片切彫りの名手でもありましたが、この象嵌技法を生かした、色彩豊かで立体的な作品でも有名です。

 図録解説によると、海野勝a(1844‐1915)は水戸の生まれ、9才のころから彫金の道に進み(みんなスタート早いな…)、明治元年ごろ、東京に移住。金工師横谷宗aに勝る職人となることを志して「勝a」を名乗り、明治23年に「蘭陵王」で高い評価を得た後に、東京芸術大学に勤務。加納夏雄に師事しながら、学生の指導にあたり、のちに帝室技芸員に選ばれました。
(参照「驚きの明治工藝」図録 美術出版社)

 図録内説明にもある海野勝aの最高傑作の一つが、皇室所蔵の「蘭陵王置物」です。

 圧倒的な美貌を隠すために恐ろしい面をつけて戦いに臨んだという北斉の陵王。

 この伝説を基にして作られた雅楽「陵王」を舞う若者の姿を、床を擦る着物の波打つ襞から、取り外しのきく面に隠された美しい青年の顔に至るまで、多彩な金属で緻密に作り上げた神品です。

 昔、バクゼンと「皇室の名宝−日本美の華−」という展覧会のニュースでこの「蘭陵王」を観て「な…なにこれ……明治すご……」と目をひんむいた記憶があり、それが明治工芸に興味をもった最初だったので、個人的には恩人のような作品でもあります。
(イギリス人で明治工芸にお詳しい方が「この展覧会を見てほとんど気絶しそうになった」と話していたことがありましたが、きっとその気絶明治ビューティーパンチにこの作品が入っていたことと思われます。)

 「蘭陵王」を含む、当時の展覧会情報ページはこちらです。

  http://www.kunaicho.go.jp/20years/touhaku/touhaku.html

これほど緻密な技巧と色数ながら、過剰と感じさせず、静けさが漂う作風。

今回展示の「背負籠香炉」にもその超絶技巧の果ての静謐を見て取ることができます。

 なお、加納夏雄同様、海野勝aのブロンズ像も芸大大学敷地内にあるそうです。意思の強そうな堂々たる歌舞伎役者のようなお顔です。
http://www.geocities.jp/douzoux/tokyo/tokyo23/geidai.htm
(日本の銅像ギャラリーHP 「東京都の銅像 (台東区・東京芸大)」部 )


海野a乗「犬図薬缶」

海野a乗 縮小版.png

 前回ご紹介した加納夏雄の「梅竹文酒燗器」と並んで、今復刻版出したら普通に売れると思う僕的グッドデザイン賞な作品です。

 小ぶりの銀製薬缶の周囲に、数匹の子犬たちが、洒脱な線で彫りつけられ、ぽってりと愛嬌のある薬缶そのもののフォルムと、その曲線の中でころころの日本犬らしき仔犬たちが豊かな表情とポーズでじゃれあったり寝転んでいる展覧会屈指の萌え萌えな逸品。

 なんか頑張って怒っているっぽい顔しているのも、もふもふのお尻も、まるっこいシルエットもほのぼのする。

海野a乗 部分.png

この世にも可愛らしい仔犬たちのデザインは、幽霊画で有名な江戸の大画家円山応挙や、その弟子長沢芦雪ら、日本画の画題としての仔犬の姿を彷彿とさせます。

円山応挙 ウィキペディア.jpg
(円山応挙 「朝顔狗子図杉戸」ウィキペディア画像 Amcaja)
拡大画像はコチラ

長沢芦雪 ウィキペディア.jpg
(長沢芦雪「紅葉狗子図」 ウィキペディア画像 nAG7BCzkfCJDXA at Google Cultural Institute)
拡大画像はコチラ

 今や世界がその愛くるしさに大注目の日本犬の仔犬時代の有無を言わせぬモフコロなフォルムとあどけない表情の悩殺っぷりを、シンプルで滑らかな線と微笑み交じりのような観察眼で描いたこの独特の仔犬の姿は、a乗の絵の師、川端玉章の作品にも受け継がれています。

 a乗の作品を彷彿とさせる、日本画の萌え萌え子犬たちがネット上で見られるページは以下のとおりです。
  ・江戸時代なのに超かわいい!キュンとくる日本画まとめ(※川端玉章の「犬と水仙」が見られます)

http://matome.naver.jp/odai/2142347493265659101
  ・コロコロ、フモフモ!!江戸時代の絵師が描いたワンコたち(9選)(Artist Database)
http://plginrt-project.com/adb/?p=24839

父勝a、芸大在学時の師加納夏雄に学んだ金工の中に、絵の知識と素養を活かした可愛らしくも卓越した力量を感じさせる作品です。
(この余白の美と強弱巧みな線は今回の展示品の中ではむしろ加納夏雄に近いものを感じます。)

 a乗は優れた師に学び、勝aの跡継ぎとして頭角を現しますが、38歳の若さで父に先立ちます。

 勝aはその死に打ちひしがれましたが、三男海野清が同じく芸大で修業を積み、後に芸大教授、人間国宝として活躍しました。


 次回は日記記事ですが、その後再度この展覧会のおススメ作品について書かせていただく予定です。よろしければお立ち寄りください。

 参照書籍:『「驚きの明治工藝」展』美術出版社 2016年
 

 読んでくださってありがとうございました。
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2016年09月11日

「驚きの明治工芸」(おすすめ展示作品1 加納夏雄 「梅竹文酒燗器」)


 先日概要をご紹介させていただいた上野の東京芸術大学大学美術館で開催中の「驚きの明治工芸」について、展示作品のうち、個人的におススメだったものについて書かせていただきます。

 展覧会公式HPは以下のとおりです。
 http://www.asahi.com/event/odorokimeiji/

 今回ご紹介させていただくのは、金工師 加納夏雄(1828-1898)の「梅竹文酒燗器」(銀製)


梅竹文酒燗器 縮小版.png


 すらりとした円筒形の縦長燗器で、鏡のような銀の胴の上部に、余白を大いに生かして、それぞれ細筆を用いたかのような強弱のある線で梅と竹の姿が描かれています。

 細身でシンプルな対の酒器は、遠目にも目を引く輝きながら周囲の陰影を映しこんで空間と調和し、今復刻版を出したら確実に支持を集めるであろうと思わされます。

 平たく言うと欲しい。これ対で並べてウットリ眺めながら一杯やりたいおじさん多そう。

 スッス……と描かれた水墨画のタッチのように、迷いなく気品溢れる彫りの線。

梅竹文酒燗器 部分.png

 実際はスッスじゃなくてココココ……とタガネという細い刃のついた工具を金づちで打ちながら彫っていくのですが、加納夏雄は「片切彫り」という、この独特の筆の線のように強弱巧みな彫りを得意としました。

 片切彫りについて詳しく説明してくださっているページがあったので、引用させていただきます。

< 片切り彫り >
片切り彫りは金工で言う技法です。彫刻で言うとノミにあたる「タガネ」という刃物、道具と金槌を使い、まるで筆で描いたような線を生み出していくものです。切先が鑿のような形で、彫り線の片方を浅く、他方を深く彫り込んでいく技法です。絵画の付立画法(補:濃淡をつけて一筆で描く技法)の筆勢を鑿で表現するのに適しており、筆で言えば穂先になるところを深く、腹のところを浅く一気に彫っていきます。江戸時代中期の金工師 横谷宗a(1670ー1733) の創始と言われ、幕末から明治にかけての加納夏雄はこの技法の名手でありました。 

出典: 宮本彫刻HP「彫刻の技法」より

 加納夏雄は幕末から明治期に活躍した、京都出身の金工師で、7歳で刀剣商の加納家の養子となりました。刀の鍔や鞘に魅了されて、少年時代から独学で道具を握り始めた夏雄を見た養父母の勧めで、わずか12歳で彫金師奥村庄八に師事、さらに14歳で円山四条派の絵師・中島来章のもとで写生を学び、19歳で金工師として独立。東京神田に店を構え、小柄(こづか・短剣のこと)や鍔の制作に勤しみました。

 加納夏雄の作った鍔や小柄の鞘は、非常に限られた面積ながら余白と高い画力をいかした、構図の妙と気品の光る作品となっています。


 作品画像例1(清水三年坂美術館HP 帝室技芸員シリーズW加納夏雄と海野勝aより)
  http://www.sannenzaka-museum.co.jp/kikaku_13_2_22.html
 作品画像例2(根津美術館 コレクション 金工・武具 「牡丹に蝶図鍔」)
  http://www.nezu-muse.or.jp/jp/collection/detail.php?id=80991

 そのこまやかさと余白、筆遣いのような線が持ち味であるために、私ではなかなか写真で良さをとらえるのが難しかったのですが(下手だから単にツルんとした図に撮れてしまった……)、こちらのページでより鮮明な画像を観ることができます。(その他展示作品も画像あり)

http://www.cinra.net/news/gallery/104877/11
(カルチャーサイト「CINRANET」ニュース 日本工芸の表現と技法に迫る『驚きの明治工藝』展 自在など130点)

 夏雄は明治維新後新貨幣の原型、型の制作を手掛け(型の制作はイギリスに依頼する予定だったが、あまりの技術の高さに技師が辞退し、夏雄が手掛けることとなった)、廃刀令によって同業者が廃業に追い込まれる中でも、海外も視野に入れながら、煙草入れや花瓶、置物などを作り続けることで、成功をおさめました。

 ※こちらの記事で夏雄の貨幣についてのエピソードを詳しく紹介してくださっています。

  http://www.nnn.co.jp/dainichi/rensai/naniwa/101127/20101127041.html
  (大阪日日新聞 なにわ人物伝 −光彩を放つ 造幣局の人たち(3))

 後に第一回帝室技芸員(宮内庁によってえらばれた一流の作家に与えられる身分)にも選ばれた夏雄は芸大の初代教授となり、同大助教授の金工師海野勝a(うんのしょうみん)ら後進の指導にあたりました。
(参照:ウィキペディア記事


 実は東京芸術大学大学美術館の敷地内に加納夏雄の胸像があったそうなのですが、見損ねてしまいました(米村雲海作)。これから行かれる方は探してみられてはいかがでしょうか。

 先ほどの大阪日日新聞の記事の中に「夏雄の風采(ふうさい)は中肉中背、口調は京都弁で柔らかいが、起居すこぶる謹厳であった。身を持することすこぶる倹素(けんそ)」と、加納夏雄の人となりをふりかえる文章が紹介されていますが、まさしく少年時代から生涯を金工に捧げた努力と才能の人の重厚な品が感じられる風貌をしていらしたようです。(この人が作者ですと言われるととても納得の行く御顔をしていらっしゃる。)

 加納夏雄像 文化遺産オンラインより

 http://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/223342

 次回は同展示のうち海野勝aの作品や、その他おすすめ作品についてご紹介させていただく予定です。

 当ブログの「驚きの明治工藝」展に関する記事は以下のとおりです。よろしければ併せてご覧ください。
 「驚きの明治工芸」(台湾の宋培安コレクション 東京芸術大学で開催中)

 「驚きの明治工芸」(おすすめ展示作品1 加納夏雄 「梅竹文酒燗器」)
「驚きの明治工藝」(おすすめ展示作品2 海野勝a 「背負籠香炉」海野a乗「犬図薬缶」)

読んでくださってありがとうございました。


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2016年09月10日

「驚きの明治工芸」(台湾の宋培安コレクション 東京芸術大学で開催中)


狸置物 縮小版.png
(狸置物 大島如雲作 銅)

 上野の東京芸術大学大学美術館で2016年9月7日(水)〜10月30日(日)まで、台湾のコレクター宋培安氏による明治工芸コレクションが公開されています。
(その後、京都 細見美術館、埼玉 川越市美術館に巡回します。)

 今回はこの展覧会の見所をご紹介させていただきます。
 公式HPは以下のとおりです。(解説が丁寧で楽しいページです)
 http://www.asahi.com/event/odorokimeiji/

 1,「自在」の一大展示

 今回の展覧会では、「自在」と呼ばれる甲冑作製技術を基とし、非常に細かな可動性のある鉄製の工芸品の一大コレクションを観ることができます。

 入るなり、全長3メートルの竜の「自在」が宙づりになってお出迎え。
 
自在竜(縮小版).jpg
(自在龍 無銘 鉄)


 ほかにも、美味しそうな緻密なイセエビや、ヤドカリ、鷹、あらゆる角度に動かせるニョロニョロヘビなどを観ることができます。
 (いかに細かく動かせるかがわかるように、体を複雑にくねらせ、首を台にちょこんと乗せた敬意ある展示も見所。)

自在蛇(縮小版).png
(自在蛇 宗義作 鉄)

 展覧会作成のセンスあふれる明珍宗春(※)作「自在蛇(明珍宗春作)」のコマ撮り動画はコチラです。(ベロも動くんですね)


https://www.youtube.com/watch?v=JEVWHf7d890

(※)「明珍」は元々甲冑師の一派の名前だそうですが、すぐれた作品を残した明珍の名を冠した職人たちの生涯については、わかっていないことが多いそうです。

 動きの滑らかさを感じさせる細やかな細工、金属の重厚感、とても緻密に作られているけれど、意外と顔は可愛かったりするギャップ、など、別に明治工芸好きでなくてもグッとくるポイントの多い美術品です。
(オモチャとかメカ好きの人も見て楽しいと思う。)

 ちなみにミュージアムショップにものすごーくよくできている、名門海洋堂さんの高級自在フィギュアが売られていました。こういう形で技術が受け継がれているのですね。

 たしかこちらの作品だったと思います。
タケヤ式自在置物 龍 鉄錆地調 ノンスケール ABS&PVC製 塗装済み可動フィギュア KT-003 -
タケヤ式自在置物 龍 鉄錆地調 ノンスケール ABS&PVC製 塗装済み可動フィギュア KT-003 -


2、個人コレクションの醍醐味

 台湾の大コレクター宋培安さんについては、あまり詳しいことがわからなかったのですが、展覧会HP情報をまとめると、「漢方の薬剤師で、健康薬品の販売や生命科学の講座を開設し、思想家カントの研究者であり、明代清代の美術品のコレクターでもある」方だそうです。
 多彩にしてミステリアスな御方……。

 ただ明清の作品は完璧という点において世界的にも屈指のものだと思うので、同じく否の打ちどころの無い高い技術と端正な美を誇る明治美術にも興味を抱いたというのは自然な流れだと思われます。
(こういっては何ですが、当時は予算のある方からすると、すでにゆるぎない評価を得ていた明清の作品に比べ明治工芸は「レベルが高いわりにお買い得」だったそうですし。)

 こうした個人コレクションの展覧会の面白さは、センスの良い個人が、欲しいから集めた品が見られるところです。

 美術館のコレクションだと、「有名な作家のもの」「珍しいもの」「歴史的に意義のあるもの」ということが重視されるだろうけれど、個人コレクションだと「カワイー、カッコイー、スキー、家ニ飾リターイ」みたいな思いで収集されるから、さほど有名な作品でなくても見てて楽しい。
(実際、今回の展示品は、見事な出来だけれど作者が不明な「無銘」のものが数多く含まれています。)

 鬼凝った超合金的な「自在」のほかにも、「超リアルな作品」や、「肉眼で見えないほどに細かい作品」、「ユーモラスで面白い作品」、「色彩を抑えた中に浮かび上がるいぶし銀の渋い作品」といった感じで、多様なコレクションを観ることができます。

(展示品の一例)

秋草鶏図花瓶 縮小版.png
(濤川惣助作 秋草鶏図花瓶 七宝)※今話題の赤坂迎賓館の「花鳥の間」を彩る七宝額を手掛けたことでも知られる世界的七宝作家です。

三猿根付写真 縮小版.png
(三猿根付 小林盛良作 金)※全長約2.5pなのですが、細かすぎて味のある表情が撮れなかったんで拡大写真写真〈?〉のほうを使わせていただきました。

猫置物 縮小版.jpg
(猫置物〈部分〉 善拙作 木)

(渋い作品は渋すぎて僕の撮影技術ではほとんど映りませんでした。残念。「月下狸図硯箱」という、池に歩み寄る可愛くてきれいな狸と朧月という非常にセンスの良い作品がありました。)

 以下WEBページで図録が販売されています。
http://shop.asahi.com/eventplus/7.1/CTB16009

 また、ご覧のとおり、写真撮影を許可してくださっている珍しい展覧会ですので(フラッシュ不可、一部撮影禁止マークのある作品は撮影不可)、そういった意味でも面白かったです。

 当ブログの「驚きの明治工藝」展に関する記事は以下のとおりです。
 「驚きの明治工芸」(台湾の宋培安コレクション 東京芸術大学で開催中)

 「驚きの明治工芸」(おすすめ展示作品1 加納夏雄 「梅竹文酒燗器」)
「驚きの明治工藝」(おすすめ展示作品2 海野勝a 「背負籠香炉」海野a乗「犬図薬缶」)

 次回記事では、展覧会作品のうち個人的に好きだと思ったものについて、少し追記させていただきますので、よろしければまたお立ち寄りください。

 読んでくださってありがとうございました。

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2016年09月09日

イギリスのハリネズミ愛(地球ドラマチック「ハリネズミホテルへようこそ」によせて)


Hedgehog-en.jpg
ウィキペディアより 画像提供:John Mittler)

明日2016年9月10日(土)午後七時より、NHK Eテレで「地球ドラマチック ハリネズミホテルへようこそ」が放送されます。(9月19日午前零時再放送

番組公式情報は以下のとおりです。
http://www.nhk.or.jp/docudocu/program/183/2340450/
http://www4.nhk.or.jp/dramatic/x/2016-09-10/31/13060/2340450/


 これにちなんで、今回はイギリスの人々のハリネズミ愛についてご紹介させていただきます。

 ハリネズミは実はネズミよりモグラに近い生き物で(視力はモグラより良い)、葉っぱを食べてしまう芋虫やカタツムリを食料としている(※)ため、ガーデニング王国のイギリス人からとても大切にされています(かわいいしね)。

(※)このため「ハリネズミホテルへようこそ」でも保護されたキャワワなハリネズミたんたちをもてなすべく「虫ビュッフェ」が用意されているというくだりが映るそうなので、そこだけはご注意ください。

 しかし、イギリス国内でのハリネズミは減少傾向にあるそうで、個々のご家庭の庭に、ハリネズミを招いて住んでもらおうという動きがあるそうです。

 私がホストファミリーに、ケンブリッジ郊外のガーデニングショップ(※)に連れて行っていただいた際、妖精の家のような小さな木製のログハウスがいくつも売られており、ホストファーザーに伺ったところ、「ハリネズミの巣箱」と言われて非常にびっくりしたことがあります。
(郊外とはいえ、普通に町だったので、ハリネズミみたいな日本人の感覚ではレアキャラに相当する生き物がそんなアタリマエに庭に出没すると思ってなかった。)

(※)余談ですが、ガーデニングショップなのに何故かイギリスの「第二次大戦中ドリフ大爆笑」的怪物コメディドラマ、「Dad’s Army」のグッズ(アーミー調の色使いも渋くて非常に粋)が大量に売られているという、ミステリアスだがイカした店だった。(日本で言うなら「だめだこりゃ」「ちょっとだけよ」とか書いてあるマグカップとかが売ってるノリ)


 Youtubeで「お庭に置くハリネズミハウスの作り方」を紹介している方がいらっしゃいました。

「Making a Hedgehog House」



https://www.youtube.com/watch?v=t1QRdlvcWmE

 さらに、そのガーデニングショップには、小鳥のエサ的なノリでハリネズミのエサも売られており、いかにイギリスの庭好きな人たちがハリネズミの居住を歓迎しているかがよくわかりました。

 ホストファーザーいわく、ハリネズミは夜行性だから、昔から以下のことに注意しなければならない、と言われていたそうです。

・柴刈りをするときに機械を使うなら間違えて寝てるハリネズミを轢かないようによく見ながら行うこと
・刈った草木は庭に放置せずに、すぐに燃やすか、密閉できる容器に入れて処分すること。一晩放置すると、ハリネズミがもぐりこんでしまい、翌日のたき火でやけど、あるいはゴミ収集に巻き込まれるなどの危険性がある

 こういってはなんですが、やっぱりネズミよりモグラに近い生き物だから、ちょっとおっとりしていて、人間が気を付けてあげないと諸々危ないんだなという感じです。

 イギリスには「British Hedgehog preservation society(英国ハリネズミ保護協会)」なる団体があり、ハリネズミ保護のための情報を広く公開しています。

 協会公式HPはコチラです。
http://www.britishhedgehogs.org.uk/

 団体の活動費となるであろうチャリティーグッズもたくさん紹介されており、「ハリネズミ交通エリア」という注意看板などに交じって売られている、小さな子が載る車(Wheely bug)のハリネズミ版が普通に商品としてセンスよくて可愛かった。

 同団体はHPにハリネズミに関する小冊子を公開しているのですが、その中の「Gardening with Hedgehog(ハリネズミと一緒にガーデニング)」の一部内容について、私なりに意訳をつけて概要を少しご紹介させていただきます。(いい加減なんであらかじめご了承ください〈汗〉)
 http://www.britishhedgehogs.org.uk/leaflets/L16-Gardening-with-Hedgehogs.pdf

 ホントに大事にされてるんだなァ、と思ったので。

○Bonfires - use a proper incinerator or move the pile to be burnt just before setting fire to it. This should ensure that no hedgehog has made a home in the rubbish. Do not burn or trim pampas grass until you are sure there are no hedgehogs nesting in it.

 たき火……ごみの中にハリネズミが巣作りをしていないか確かめるため、適切な焼却炉を用いるか、焼却物に点火する前に少し堆積物を動かして下さい。パンパスグラス(イギリスのお庭でメジャーなススキに似た植物)を燃やしたり刈ったりする前に、ハリネズミの巣が無いか確認してください。
(ホストファミリーが教えてくださった内容ですね。)

○Slug Pellets - try alternatives, REMEMBER METALDEHYDE SLUG PELLETS CAN KILL, if you must use them, use sparingly and pick up the dead slugs and snails as soon as possible. Read the directions for use before you use the product

 ナメクジよけ殺虫剤……他の方法をお試しください。メタアルデヒドのナメクジよけはハリネズミにとっても致死性です。使用しなければならない場合、少量にし、駆除されたナメクジやカタツムリは速やかに除去してください(これをエサにしたハリネズミが死んでしまうという意味だと思います。)その製品を使う前に、注意書きをよくお読みください。

○Feeding - to encourage a hedgehog to stay in or near your garden ensure it has a fresh supply of water available - especially in very hot weather - and leave a dish of dog food in a place where the hedgehog can get it, but not the local cats .

 エサやり……あなたのお庭の中、あるいは近くにハリネズミに住んでもらうために、新鮮なお水が飲めるようにしておいてください(特に炎天下の日に)……そしてドッグフードのお皿を、ハリネズミがそれを食べられて、近所の猫が近寄れない場所に置いておいてあげてください。

そのほかにも、「池があるなら上がるときにおぼれないように傾斜をつけておいてあげてください(泳げるし泳ぐの好きだけど上がるのは上手じゃないらしい)」とか、「ミルクとパンはハリネズミの体に悪いのであげないでください」とかいう注意事項が別のガーデニング情報HPにありました。やっぱりなんかネズミよりはるかにほっとけない感満載の生き物な模様です。

(参照:Weyvale garden centres HP 「Tips for attracting hedge hogs to your garden」)
http://www.wyevalegardencentres.co.uk/gardening-advice/tips-for-attracting-hedgehogs-to-your-garden#.V9K9yfqLQhc

 日本と似たようなものだと思っていたイギリスの思いもかけない生態系とか、ガーデニングを愛するゆえに、この小さくて可愛くて少し目が離せない感じの生き物のために、ホテルを作ったり、巣箱をわざわざ庭においたり、HPで啓蒙活動を行っているということを知って、ちょっと興味深かったんでご紹介させていただきました。

(余談ですが、そんなわけで日本のハリネズミカフェの動向をガン見していたらしきBBCの記事がありましたので、よろしければ併せてご覧ください http://www.bbc.com/news/world-asia-36108964。)

 ハリネズミお庭勧誘的PR動画があったので張らせていただきます。土曜日の番組の補足情報として併せてご覧ください。

「The Wildlife Garden Project - How to help hedgehogs in your garden」



https://www.youtube.com/watch?v=ZMVWPvhFrpw

 読んでくださってありがとうございました。

posted by Palum at 23:12| 日本の海外テレビ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年09月08日

「地球ドラマチック ハリネズミホテルへようこそ」

 取り急ぎご連絡まで。

 明後日2016年9月10日午後七時〜、NHKのEテレドキュメンタリーシリーズ「地球ドラマチック」で「ハリネズミホテルへようこそ」が放送されます。

 ガーデニングを愛するイギリスで、害虫を食べてくれる存在として大切にされるハリネズミたち。
 事故などで傷ついたハリネズミたちがしばし入院する、イギリス独自のハリネズミホテルと、彼らの生態についての番組だそうです。

 番組HPは以下の通りです。
http://www4.nhk.or.jp/dramatic/x/2016-09-10/31/13060/2340450/

 番組にちなんで、イギリスのハリネズミ愛について書かせていただきました(関連動画貼付あり)ので、併せてご覧ください。

 読んでくださってありがとうございました。
posted by Palum at 22:18| 日本の海外テレビ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年09月07日

絵画の中の道化たち 『人間失格』の「道化」に寄せて


 先日、太宰治の『人間失格』(1948年)のあらすじを書かせていただきましたが、主人公葉蔵が常に自分をなぞらえていた「道化」について、絵画の中に描かれた道化の姿を少しだけご紹介させていただきます。


 1,ピカソとルオーの描いた「道化」

 「道化」とは、滑稽な言動で人を笑わせる芸人をさし、有名な「ピエロ」という呼び名は、クラウン(※)とか、アルルカンなど色々な道化の役どころのうちの一つだそうです。
 (※)クラウンの一種が「ピエロ」

 現代のわれわれには「道化」といえばほぼ「ピエロ」とイコールで、「ドナルド・マクドナルド」か「スティーブンキングのIT(子供を殺害する謎の禍々しき殺人ピエロ〈この映画の後ピエロ芸人の人は怖がられて大変だったんだとか〉)」のイメージがありますが、キュビスムの巨匠ピカソと、厚塗りの油絵や版画で、光を透かしたステンドグラスのような絵を描いたジョルジュ・ルオーは、それぞれのタッチで、「人々を楽しませながら、心に痛みを秘め、一たびショーが終わればつつましく生きる道化師たち」を深い敬愛と共感とともに描きました。

(ピカソ作「ピエロ」ウィキペディアより 画像提供ニューヨークMoMA美術館)
Pablo_Picasso,_1918,_Pierrot,_oil_on_canvas,_92.7_x_73_cm,_Museum_of_Modern_Art.jpg


 特に「道化師の画家」とも呼ばれたルオーは彼らに対する愛着が深く、道化師に扮した自画像や、
「我々は皆、道化師なのです」という言葉を残しました。


 一方でキリストを数多く描いたルオー。

 素朴ともとれるような太くシンプルな線で描かれ、眼を伏せてもの思いにふけるかのような道化師たちは、この世の悲しみを知り、それに傷つけられながら、人々に喜びを与えようとする聖人のような優しくも神聖な光を帯びています。

 葉蔵と暮らしていたことのあるバーのマダムは、人生を地獄と思いながら「道化」を演じ続けた葉蔵のことを、「神様みたいな良い子でしたよ」と言い、まさに葉蔵はこの「聖なる道化」の一人のようですが、作中、ピカソやルオーが描いた道化についての言及はありません。

 葉蔵が東京で暮らしていたのは、昭和5〜7年(1930〜1932)ごろという記述があり、ルオーの作品はすでに1920年代後半には白樺派によって日本に紹介されていたそうですが、洋画家志望であった葉蔵が、偶然目にしなかった、あるいは、ゴッホの絵のようには感銘を受けなかったという設定になっているのか、とにかく作品に一切登場しません。

(なおピカソは1910年代には道化の絵を描き、1920年代にはすでに画壇で大きな成功をおさめているので、こちらも画家を志す青年なら目にしていてもおかしくないのですが、特に触れられていません。)

 参照:
パナソニック汐留ミュージアム「ジョルジュ ルオー アイラブサーカス」展HP
http://panasonic.co.jp/es/museum/exhibition/12/121006/ex.html
金澤清恵 「日本におけるジョルジュ・ルオーの紹介、 あるいはその受容について」成城大学美術史 第17号
http://journal.seijo.ac.jp/gslit/student/art/pdf/art-017-03.pdf
美の巨人たち「傷ついた道化師」
http://www.tv-tokyo.co.jp/kyojin/backnumber/070324/

 作中葉蔵がピカソやルオーの物哀しい優しさを称えた道化を目にする機会があったか無かったかというのは知る術がありませんが(観て共感できたなら、彼の道化や人生の質が変わったのではないかとは、一読者としてかすかに想像しますが)、なにはともあれ、この時代には、すでに、道化という言葉には、人を笑わせる芸人という本来の役割を超えて、人々のために十字架を負うキリストにも似た神聖なイメージが漂い、また、『人間失格』という作品自体にも、マダムの言葉などから、かすかにそのイメージをほのめかすような描写があります。
 (なお、太宰治は1935年に『人間失格』と同じ大庭葉蔵という名の男を語り手に『道化の華』という作品を発表しています。)
 
2、(補足)アントワーヌ・ヴァトー作「ピエロ(ジル)」

WatteauPierrot.jpg
ウィキペディアより 画像提供The Yorck Project: 10.000 Meisterwerke der Malerei. DVD-ROM)

 1718‐1719年ごろの貴族文化華やかなりしフランスで、大庭葉蔵の心理を微かに彷彿とさせる、あるミステリアスなピエロの絵が描かれました。

 そのはかなげな気品漂う画風で、「雅びな宴」の画家と呼ばれたアントワーヌ・ヴァトーの作品「ピエロ〈旧称ジル〉」です。

 ほぼ等身大に描かれた、白い道化の衣装を着て、所在なげに両手をだらりと下げて、穏やかだけれどメランコリックな、微かに目のふちに涙を浮かべているようにすら見える若者。

 背後には、彼より低い位置に立っているのか、喜劇の登場人物たちやロバが半身だけ姿を見せ、人々は中央のピエロをよそに、何か言葉を交わしている様子。

 モデルが誰なのか、寓意画なのかなど、はっきりしたことは何もわからないこの絵は、引退した役者が開いたカフェの看板という、異色の出自を持っていたといわれています。
 
 ヴァトーは早逝(36歳で死去)ながら、生前一定の評価を得た画家なのですが、その後、その絵の価値が忘れ去れてしまったのか、1800年代はじめに、ルーブル美術館初代館長であったヴィヴァン・ドゥノンが骨董屋でこの絵を見かけた時には、絵は安値で売られ、チョークでこんな詩が書き加えられていたそうです。

「あなたを楽しませることができたならどんなにかピエロは満足することでしょうか」

 ドゥノンは、同行していた当時の大画家ルイ・ダヴィッド(「アルプスを越えるナポレオン」等で有名)が止めるのも聞かず絵を購入し、絵は後にロココ絵画の傑作にして、ルーブル美術館の至宝とたたえられるようになりました。

アルプスを越えるナポレオン.jpg

 輪郭をギリシャ彫刻のようにはっきりと描き、歴史的で勇壮な画面を描くことに長けたダヴィッドが、この絵を高く評価しなかったというのはありそうなことですが、それでも譲らず絵を救ったドゥノン氏のおかげで、絵はこうして後世に伝えられることとなりました。

 この絵を残して間もなく世を去ったヴァトー自身の投影ではないかとも考えられているこの絵は、時代も国境も超え、周囲に溶け込もうとしても、馴染めずに、独り寂しげに佇む心地を経た人すべての心に響きます。

 先日書かせていただいたフランスの傑作映画「ピエロの赤い鼻」の中で、主人公たちに同情を寄せた心優しいドイツ兵ベルントが、上官の指示に従う周囲の兵士たちの中で、独り両手をぶらりと下げて、動かない場面があるのですが、そのポーズは非常にこの絵に似ています。
(フランスでピエロを題材にする以上、絶対に意識せざるをえない絵だと思うので、おそらく念頭におかれて撮影されたシーンなのだと思います。)

 また、萩尾望都さんのバレエ漫画『ローマへの道』(いずれご紹介させていただきます)でも、この絵に影響を受けたのではと思われるタイトルページがあります。(主人公マリオがにぎやかな踊りの輪から独り外れて、仮面を外している)

ローマへの道 (小学館文庫) -
ローマへの道 (小学館文庫) -

ローマへの道 旧表紙.png

 この絵が『人間失格』をはじめとした、太宰作品における道化のイメージに影響を与えたかどうかは謎ですが、しかし、やはり笑いよりもむしろ言い知れない孤独と寂しさを漂わせているというところが、作品世界を思い起こさせるので、補足でご紹介させていただきました。

(ドゥノン館長とダヴィッドの逸話については、エピソードが載った本のタイトルをメモしそこねてしまいましたので、近日中に確認の上、追記させて頂きます。)

 当ブログではこの後何回か『人間失格』について書かせていただく予定です。(何度か違う話題が挟まると思いますが)よろしければまたお立ち寄りください。

 読んでくださってありがとうございました。

posted by Palum at 23:39| 太宰治 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする