(NGを出しまくる加トちゃんを台本でひっぱたく志村けん監督)
ドリフファンの間では「階段落ち」とも呼ばれるコント「池田屋の決闘」。
(初回放送:1996年9月10日「ドリフ大爆笑」テーマ「身体」の回)
時代劇映画を撮影する監督役の志村けんさんと、スタント役の加藤茶さんのテンポの良い掛け合いに大爆笑必至の、傑作中の傑作だ。
※もしかしたら2025年4月13日(日)のBSフジ「ドリフ大爆笑(21:00〜21:55)」で放送されるかもしれません(違っていたらすみません、放送されるかもと思った理由はこちら)
コント「池田屋の決闘!」あらすじと加藤茶さんが語る思い出
(あらすじ)
映画で「新選組の池田屋襲撃」シーンを撮影時、新選組局長近藤勇に斬られた男が、階段から転げ落ちるシーンのスタントマンとして、スタジオに呼ばれた加藤茶さん。(以下、加トちゃんと書かせていただく)

(「池田屋襲撃シーンを撮影するため、危険な階段落ちのスタントに挑む」というアイディアは、名作映画『蒲田行進曲』から来ている)

蒲田行進曲 - 松坂慶子, 風間杜夫, 平田満,
ところが、普段は旅回り一座の役者だった加トちゃんが、舞台用の分厚い白塗りメイクで来てしまったうえ、緊迫した斬り合いのシーンでも、「見栄を切る(ポーズを決める)」芝居をやめないために、リアル&スピーディーな迫力を求める志村けん監督を激怒させてしまう。
(いちいちカメラに振り向く加トちゃん)

(斬られたのに、自分の見せ場だからと、カメラに向かって念入りに苦悶の表情をつくり続ける加トちゃんと、斬ったのになかなか階段から落ちそうにない加トちゃんに困惑する近藤勇さん)

(階段落ちの途中でもしつこく見栄を切る〈つまり落ちてない〉加トちゃんのキメ顔を再度ひっぱたく志村監督)

(「階段落ち」のために、一生懸命リアルな演技の指導をする志村監督のはかない努力〈左側の背中は仲本工事さん〉)

いくら説明しても自分の芝居を崩さないで撮影をぶち壊しにする、セットも壊す、フィルムはNGシーンに埋め尽くされてどんどん減る……と、加トちゃんのせいで、撮影現場(とくに志村監督)は、池田屋とは別の意味で殺気立っていく……。

❝これはね、ぶっちゃけて言っちゃうと、志村と俺とでね、アドリブで出来たコント。
もう、全部アドリブでやった。まあ、「階段落ち」って言うの、おおまかなやつは決めておいて、あとその中でやるやつは全部アドリブでやったの。
だから俺がどんなにボケても、必ず突っ込んでくれたから志村は。それは良かったんだね。楽しかった。
(2023年4月配信動画の加藤茶さんのコメント)
なにげに俳優さんたち(加トちゃん以外)のアクションは凄い技術で格好いいし、どれだけ志村監督と加トちゃんがドタバタ揉めても、冷静に撮影進行の心配をする仲本工事さんの真面目なキャラクターも趣深い。
加トちゃんはこのコントを「もう、これしかないですね」と思い入れをこめて、ドリフの自己ベストコント第一位に選んでいる。(※同上)

【アーカイブ】ドリフと一緒に観る!本人たちが選ぶ至高のコントBEST3【加藤茶・高木ブー】
コントのヒントになったのかもしれない映画「南の島に雪が降る」の名場面
加トちゃんと志村さんの笑いの才能と、公私に渡る絆が生み出したこの最高傑作。
お二人の天才的アドリブを支えた「おおまかな部分」については、「蒲田行進曲」のほかにもう一つ、アイディアのヒントになったのではという作品がある。
俳優の加東大介さん原作・主演の映画『南の島に雪が降る』(1961年)。

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(ジャケット画像左端で腕を組んで笑っているのが加東大介さん〈本人役〉、踊っているのが蔦浜一等兵役の伴淳三郎さん)
第二次大戦でニューギニアに徴兵された兵士たちのために、役者の加東大介さんたちがジャングルに劇団を立ち上げた実体験をもとに創られた作品だ。
実際に戦時中を生きた豪華俳優陣が競演し、物資も食料も乏しい中で奮闘する劇団の人々と、彼らの芝居を心の支えにする観客たちを観るたびに、笑いも涙も止まらない。
この作品に登場する、伝統的な芝居の癖が抜けない蔦浜という役者と、稽古中、彼にあきれ返りながらダメ出しする加東大介さんのやりとりは、「池田屋(階段落ち)」コントのヒントになっているような気がする。
(芝居の稽古シーンまでのあらすじ)
劇団の立ち上げにあたり、劇団員の選考をしたところ、ジャングルを潜り抜け、あちこちの隊から志願者が集まってきた。
半ば日本軍にも見捨てられ、直接戦闘こそ無かったものの、空襲と飢えと病に命と心を削られ続ける人々は、なにか明るい、日本にいたころの平和な光景に近いものに参加したがっていた。
志願者の中に、東北で、伝統的な演劇「節劇(ふしげき)」の役者だった蔦浜一等兵(伴淳三郎)がいた。
節劇とは、浪花節(三味線を伴奏にした歌と語りの芸)に合わせて所作(一定の型にのっとった演技、この場合は踊りに近い)をする芝居のことだ。
芸名「市川鯉之助」、地方では人気のある役者だった蔦浜一等兵は、オーディションでは、自分で浪花節をうなりながら、やる気満々に演じた。
それは、まさにうまいにはうまいのだけれど、節劇の役者として完成されたうまさで、加東さんが考える、リアルな芝居とはまったく別のものだった。
惜しいと思いつつ、不合格を言い渡したところ、蔦浜は真っ青になった。
本職の役者だからきっと合格するだろうと、励まされ、隊の名誉を背負って参加したのだ。みんなに合わせる顔が無い。
「もしも駄目なら、自分は自決する覚悟であります」
蔦浜がその場で腹を切ろうとまでしたため、不安を残しながらも補欠採用することに。

ただし、節劇で身につけたことはすべて忘れ、演技については、まるきり素人になったつもりで、「演劇分隊」班長である加東さんの指導に従うこと。
それが団員になる条件だった。
蔦浜は「一生懸命やります!」と大喜びしたが、頭でわかっていても、「身についたこと」は、そう簡単にはとれない。真面目に修行したならなおさら。
そして蔦浜は「超」がつくほど真面目だった。
(稽古の場面)
ジャングルの中の、木の皮と板張りの小屋で、芝居の稽古がはじまった。
演目は、「父帰る」。
菊池寛の代表的な戯曲で、妻子を捨てて放蕩した男が、貧しく老いて、妻と既に成人した子供たちの暮らす家に戻ってくる、そのときの複雑な家族の愛憎を描いている。
蔦浜の役は、落ちぶれた父、宗太郎。物語の要だ。
宗太郎が二十年前に捨てた家の扉を開き、妻、おたかを呼ぶ場面。
演技指導の加東さんの合図で、つわものの武士のように、腕を振ってのっしのっしと歩いてくる宗太郎(蔦浜)。
「おいおいおい!なんでそんな変な歩き方するんだ。もっとリアルにやれ」
「『リアル』ってなんでありますか?」
現代演劇用語にはうとい蔦浜。
「なんだお前、役者のくせにリアリズムも知らんのか!?」
加東さんは呆れる周囲を抑えて言った。
「あのね、本当らしくやること」
やりなおし。
扉を開けるしぐさをした後、ドン!と足を踏み鳴らした蔦浜。
「ごめん!おたか、いるかァや〜!?」
長く張りのある声、腕をまくって首をまわし、かっと目を見開いて……いる途中で加東さんにぽんぽんと肩を叩かれた。
「道場破りに来たんじゃないんだ。もっと自然に言え」
「はっ、ではやらせていただきます」(真面目)
二度目の演技も「やや改善された」程度だったが、芝居は続き、おたか役の篠崎曹長(有島一郎)が、「あぁ!お前さん……」と迎えに出た。
「おォォッ!?おたかァッ!」
パンッと手で膝を打ち鳴らした後、ダダダッと何歩もあとずさり、

「ッア!達者で何よりィだなァァ…!」
二度目の見栄を切る腕が、真顔の加東さんにべしっとはたかれた。

「なんでそこで見栄切んだ!」
「見栄切ったでありますか?」
「『切ったでありますか?』じゃないんだよ、何度言ったらわかるかなぁ!?」
その後、試しに「自分の好きなようにやってみろ」と言ったところ、動作は流れるような大仰な所作のまま、最終的には、朗らかに歌って踊りだした(そんな話じゃない)ので、加東さんは蔦浜の役をとりかえようとした。
「班長どの!」
蔦浜は加東さんに必死で頭を下げた。
「やらしていただきたいんであります!皆様、お願いいたします!」
稽古が遅れて迷惑をかけてしまっている一人一人にも、すがるように詫びた。
「もう一度やらしていただきたいんであります。わからねぇことがあったら、細かく教えていただきたい。稽古は何遍でもいたします!お願いいたします!」
ついには床に額をこすりつけるようにして、涙交じりの声で加東さんの足もとに土下座した。
その夜、ジャングルの湿気と暑さに汗ばみながら、小屋で蚊帳を吊って眠っていた加東さんは、ふと目を開いた。
「おたか!」
外から流れてくる、伸びと張りのある話し声、疲れ切った人々が眠る、ジャングルの夜更けには不似合いな、朗々とした高笑い。
小屋の外で、蔦浜が一人、芝居の稽古をしていた。
「下手くそ……!どうしてリアルってのができねぇんだこの……!あぁ!下手くそ!!」

身に沁みついてしまった今までの芝居を追い出すために、あの大仰な、踊るようなしぐさ、歌うような声が出てしまうたび、自分の頭や手足を、わからずやの他人相手のようにピシャリピシャリと叩きながら。
「できねぇのか!この馬鹿野郎!それでもお前役者って言えるのか!なにが「市川鯉之助」だ!お前みたいなのは死んでしまえ馬鹿ァ!馬鹿野郎ォ!!」
ふがいなさに、自分を怒鳴りつけて悔し泣きする声。
加東さんと、一緒に目を覚ました篠原曹長が、小屋の扉の陰から、黙って蔦浜の必死の努力を見つめていた。
ドリフファンの私は、「池田屋」のほうを先に観ていたので、そしてそれはもう、何回観たかわからないくらい繰り返し観ていたので、この映画の加東大介さんと伴淳三郎さん(蔦浜一等兵)のかけあいが、いっそう面白かった。
(伴淳さんの、どんなに大真面目でも、勝手に愛嬌が出てしまう感じは、加トちゃんの魅力に通じるものがあると思う)
どちらも、何回も観て、次に何を言うかまでわかっていても、やっぱり笑わされてしまう(そしてまた観てしまう)。
素晴らしい間とテンポ。演じることを本当に愛し、技を磨いた、息の合った実力者たちだけが生み出せる、観た人の心に、宝物としてずっと残る(そして思い出しただけでも笑わせてくれる)名場面だ。