2025年04月12日

ドリフ伝説の傑作「階段落ち(池田屋の決闘)」放送?

「階段落ちシーンの撮影」で、時代劇の舞台俳優のように颯爽と階段を駆け下りてくる加トちゃん(階段「落ち」なのに……)。右はダメ出しのために待ち構えている志村けん監督
階段を駆け下りる加トちゃん - コピー.jpg


先にお断り、「間違っていたら本当にごめんなさい」。

ただ、もしかしたら、2025年4月13日(日)、BSフジで放送される「ドリフ大爆笑」で「階段落ち(池田屋の決闘)」が観られるかもしれません。


「階段落ち」は、志村けん監督が映画で新選組の池田屋襲撃シーンを撮ろうとしたのに、斬られて階段を転げ落ちる役のスタントを務める加トちゃん(旅回り一座の役者だったために一人だけ顔が白塗りの舞台化粧)の演技が、迫力もリアリズムもゼロで大もめになるというコント。

BSフジの番組HPで「第151回 1996年9月10日初回放送」とあり、Wikipediaの番組一覧によると、このとき島崎和歌子さんがゲストだった(階段落ちでは撮影班のスタッフ役で登場している)ので、この回だったのではと思われます。

「第151回のテーマが「身体(からだ)」なので、体を張ったスタントネタにも合っている。

(同年11月19日(次々回)も和香子さんがゲストなので、こちらの可能性もありますが)

傑作選やドラマ「志村けんとドリフの大爆笑物語」での再現でも知られ、加トちゃんが「自己ベスト」コントにも選んだ最高傑作なので、(もし放送されていたら)お見逃しなく。


よろしければ、当ブログの「階段落ち」ご紹介記事もご覧ください。

撮影現場 - コピー.jpg南の島に雪が降る <東宝DVD名作セレクション> - 加東大介, 加東大介, 久松静児, 笠原良三, 広瀬健次郎, 加東大介, 森繁久彌, 伴淳三郎, 有島一郎
加トちゃんが明かす「階段落ち」はアドリブ満載だったという撮影秘話と、そのコントの大筋に影響を与えたかもしれない、戦争映画の傑作、『南の島に雪が降る』の一場面をご紹介、


【参照】

ドリフ大爆笑(BSフジ)

ドリフ大爆笑(Wikipedia)

posted by pawlu at 12:43| おすすめ映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年01月19日

映画「ボヘミアンラプソディ」の重要シーンとイギリスのスタジオ「エア・スタジオズ・リンドハースト・ホール(AIR Studios Lyndhurst Hall)」

(映画『ボヘミアンラプソディ』で「ライブ・エイド」にかける思いを語るフレディ・マーキュリー)
(引用枠付き)最高の天国をみんなに与える - コピー.jpg

 映画の中で「クイーン」のボーカル、フレディ・マーキュリーが一度は決裂したメンバーのもとに戻り、ウェンブリー・スタジアムで開催される一大チャリティーライブ「ライブ・エイド」への出演に向けて練習をしている場面。

 ここで、フレディはメンバーに自分がエイズに感染したことを明かす。

 このシーンのロケ地は、ロンドンの有名レコーディングスタジオ「エア・スタジオズ・リンドハースト・ホール AIR Studios Lyndhurst Hall」だ。

(引用枠付き)練習シーン - コピー.jpg

 そして、この場所が使われたことが、物語の大切なメッセージにもなっている。

(※以下、物語後半重要シーン)


(場面のあらすじ)

 スタジオでリハーサルするフレディ。しかしその声は、以前とは程遠かった。

声が出ないのは、ブランクと今までの無軌道な生活のせいだけではなかった。

 フレディは、練習を終わらせようとした三人を呼び止めた。

そして告げた、自分がエイズに感染したことを。

当時は進行を抑える有効な治療法がなかった。

 言葉を失ったあと、どうにか何かを言おうとしたメンバーを、フレディは押しとどめた。同情は時間の無駄だ。

残された時間で音楽を創る。それが俺の望みだ。

エイズに侵された悲劇の主人公でいるつもりはない。

俺が何者かは俺が決める。

俺が生まれた理由、それはパフォーマーだ。

皆に望むものを与える

最高の天国を

 フレディは天を指さしていた。

(引用枠付き)フレディの決意にうなずく三人 - コピー.jpg

 フレディの覚悟を聞いた三人は、それぞれに泣かないようにしながら、ただ、うなずいた。


 フレディは誓った。

 声は本番までにきっと取り戻して見せる。そしてみんなで最高の音楽を演奏して。

「ウェンブリーの屋根に穴を開けてやろう」

ジョン・ディーコンがぽつりと言った。

「ウェンブリーに屋根はないよ」

4人みんな、少しだけ笑った。

「なら空に穴を開ける」

フレディはこぶしを突き上げた。


 そして、4人は互いの背中に手を回した。

昔、アルバムがはじめてアメリカでチャートインして、みんなで抱き合って喜んだ時のように。


フレディは三人に言った。

「泣いてもいいぞ。愛してる」

(引用枠付き)泣いてもいいぞ 愛してる - コピー.jpg

 それからメンバーは、いつもの練習終わりのように、みんなで飲みに行くことにした。


(フレディが自分の病気を明かす場面)
Bohemian Rhapsody - Freddie tells Queen that he's got AIDS

リンドハースト・ホール

(引用枠付き)スタジオ全体図 - コピー.jpg 

 細長く背の高い窓、優しい空色のアーチ状の天井、そして大きなパイプオルガン。

 イギリスの名門スタジオ「AIR」内にある「リンドハースト・ホール」は1883年に建てられた教会を、スタジオに改装している。 

 設計者はロンドンの自然史博物館も手掛けたアルフレッド・ウォーターハウス。

 教会建築の音響の良さを活かすためか、スタジオになった後もあまり構造が変わっていない。

 【補足】

映画にも登場する、クイーンのメンバーが「We Will Rock You」の足踏みでリズムを刻むパートも、使われていない教会で録音された。(註1)

QUEEN -「We Will Rock You」あの“ドンドンパン"誕生秘話 | ボヘミアン・ラプソディ | Netflix Japan


 映画の中では、この「リンドハースト・ホール」の美しさ、とくに光が、この場面で映画が伝えたいことを、言葉の代わりに表現している。

(引用枠付き)告白 - コピー.jpg

 窓からの光を浴び、苦しみを背負いながら、人々のために自分の命をかけて音楽を捧げる覚悟のフレディに、教会のキリスト像を思いだす人もいるだろう。


 このスタジオでの告白の前に、病院で病を知ったフレディは、廊下の待合席に座っていた若者と、歌声を交わし合っている。


 通り過ぎる、サングラスをかけたフレディを観た若者は、かすかな声で歌った。

「……エーオ」

フレディがライブで観客を呼ぶときの声。

蒼白の若者は、彼がフレディだと気づいていた。

 振り返ったフレディは、若者に小さく応えた。

「エオ……」

 フレディの声を聞いた若者の顔に、微笑みが広がり、お互いそれ以上なにも言わず、フレディは光差す扉を開いて病院を出て行った。

(引用枠付き)病院の光 - コピー.jpg

 彼の歌は冷えきった心臓にも熱を蘇らせる、そして喜びを生み出す。

フレディはこの瞬間、自分の残された時間をどう使うかを、決めたのだろう。

病院ではまだおぼろげだった光は、スタジオでは、彼の決意の後の心そのもののように、明るく澄んでいる。


(実際の「ライブ・エイド」の映像 フレディと観客の歌声の応酬)

Queen Live Aid 1985 - EEEEEOOOOOO

 「リンドハースト・ホール」がスタジオとして使われはじめたのは、ライヴ・エイド(1985年)の約7年後で、映画のこの場面は、事実とは異なっている。(註2)

 それでもここをロケ地としたのは、人生の痛みに立ち向かう者に、生命を超えた勝利がきっと存在すること、そして戦う人と支える人々を照らす光と、彼ら自身が放つ輝きを、物語の中に示したかったからではないだろうか。

 互いを励まし合ったあと、飲みに向かう四人に、「Somebody to Love」のピアノ演奏が重なり、スタジオのピアノの上に、かつて教会だったスタジオの、細長く伸びた窓からの光が、くっきりと反射している。

(引用枠付き)ピアノに映る光 - コピー.jpg

 音楽は人に力を与える。音楽に人生を捧げる「パフォーマー」は、そういう形で人の魂を救う。

 ピアノに映りこむ、この世を超えた神聖さを感じさせる光は、そのことを観る人たちにそっと伝えている。


Queen - Somebody To Love (Official Video)

ウォード兄弟チャールズー re - コピー.jpg



(註1)Queen's Brian May Rocks Out To Physics, Photography

(註2)Bohemian Rhapsody | 2018(Movie Locations.com)

【参照】

・AIR Studios Lyndhurst Hall

・Lyndhurst Hall, Air Recording Studios / Congregational Church Date:22 May 2005


ボヘミアン・ラプソディ - Rami Malek, Lucy Boynton, Gwilym Lee, Ben Hardy, Joe Mazzello, Aidan Gillen, Tom Hollander, Mike Myers, Bryan Singer
ボヘミアン・ラプソディ -


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posted by pawlu at 03:52| おすすめ映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2024年01月10日

ドリフの名作コント「池田屋の決闘(階段落ち)」と映画『南の島に雪が降る』(1961年)

(NGを出しまくる加トちゃんを台本でひっぱたく志村けん監督)

台本でひっぱたかれる - コピー.jpg

 ドリフファンの間では「階段落ち」とも呼ばれるコント「池田屋の決闘」。

(初回放送:1996年9月10日「ドリフ大爆笑」テーマ「身体」の回)

 時代劇映画を撮影する監督役の志村けんさんと、スタント役の加藤茶さんのテンポの良い掛け合いに大爆笑必至の、傑作中の傑作だ。

※もしかしたら2025年4月13日(日)のBSフジ「ドリフ大爆笑(21:00〜21:55)」で放送されるかもしれません(違っていたらすみません、放送されるかもと思った理由はこちら


コント「池田屋の決闘!」あらすじと加藤茶さんが語る思い出


 (あらすじ)

 映画で「新選組の池田屋襲撃」シーンを撮影時、新選組局長近藤勇に斬られた男が、階段から転げ落ちるシーンのスタントマンとして、スタジオに呼ばれた加藤茶さん。(以下、加トちゃんと書かせていただく)

撮影現場 - コピー.jpg

(「池田屋襲撃シーンを撮影するため、危険な階段落ちのスタントに挑む」というアイディアは、名作映画『蒲田行進曲』から来ている)

蒲田行進曲 - 松坂慶子, 風間杜夫, 平田満, 高見知佳, 原田大二郎, 清川虹子, 千葉真一, 真田広之, 志穂美悦子, つかこうへい, 深作欣二
蒲田行進曲 - 松坂慶子, 風間杜夫, 平田満,

 ところが、普段は旅回り一座の役者だった加トちゃんが、舞台用の分厚い白塗りメイクで来てしまったうえ、緊迫した斬り合いのシーンでも、「見栄を切る(ポーズを決める)」芝居をやめないために、リアル&スピーディーな迫力を求める志村けん監督を激怒させてしまう。

(いちいちカメラに振り向く加トちゃん)

戦いながらカメラ目線 - コピー.jpg

(斬られたのに、自分の見せ場だからと、カメラに向かって念入りに苦悶の表情をつくり続ける加トちゃんと、斬ったのになかなか階段から落ちそうにない加トちゃんに困惑する近藤勇さん)

階段落ちの見栄 - コピー.jpg

(階段落ちの途中でもしつこく見栄を切る〈つまり落ちてない〉加トちゃんのキメ顔を再度ひっぱたく志村監督)

階段落ちの見栄で怒られる - コピー.jpg

(「階段落ち」のために、一生懸命リアルな演技の指導をする志村監督のはかない努力〈左側の背中は仲本工事さん〉)

演技指導 - コピー.jpg

 いくら説明しても自分の芝居を崩さないで撮影をぶち壊しにする、セットも壊す、フィルムはNGシーンに埋め尽くされてどんどん減る……と、加トちゃんのせいで、撮影現場(とくに志村監督)は、池田屋とは別の意味で殺気立っていく……。

ストレスをためる監督 - コピー.jpg

これはね、ぶっちゃけて言っちゃうと、志村と俺とでね、アドリブで出来たコント。
もう、全部アドリブでやった。まあ、「階段落ち」って言うの、おおまかなやつは決めておいて、あとその中でやるやつは全部アドリブでやったの。
だから俺がどんなにボケても、必ず突っ込んでくれたから志村は。それは良かったんだね。楽しかった。 

2023年4月配信動画の加藤茶さんのコメント

 なにげに俳優さんたち(加トちゃん以外)のアクションは凄い技術で格好いいし、どれだけ志村監督と加トちゃんがドタバタ揉めても、冷静に撮影進行の心配をする仲本工事さんの真面目なキャラクターも趣深い。

 加トちゃんはこのコントを「もう、これしかないですね」と思い入れをこめて、ドリフの自己ベストコント第一位に選んでいる。(※同上)

加藤茶さんが選ぶ第一位(拡大) - コピー.jpg

【出典動画】加トちゃんの「池田屋コント」へのコメントは1:43:06ごろ(もう一つのレジェンド「威勢のいい銭湯」も観られる)
【アーカイブ】ドリフと一緒に観る!本人たちが選ぶ至高のコントBEST3【加藤茶・高木ブー】

コントのヒントになったのかもしれない映画「南の島に雪が降る」の名場面


 加トちゃんと志村さんの笑いの才能と、公私に渡る絆が生み出したこの最高傑作。

 お二人の天才的アドリブを支えた「おおまかな部分」については、「蒲田行進曲」のほかにもう一つ、アイディアのヒントになったのではという作品がある。

 俳優の加東大介さん原作・主演の映画『南の島に雪が降る』(1961年)。

南の島に雪が降る <東宝DVD名作セレクション> - 加東大介, 加東大介, 久松静児, 笠原良三, 広瀬健次郎, 加東大介, 森繁久彌, 伴淳三郎, 有島一郎
南の島に雪が降る 東宝DVD名作セレクション

(ジャケット画像左端で腕を組んで笑っているのが加東大介さん〈本人役〉、踊っているのが蔦浜一等兵役の伴淳三郎さん)

 第二次大戦でニューギニアに徴兵された兵士たちのために、役者の加東大介さんたちがジャングルに劇団を立ち上げた実体験をもとに創られた作品だ。

 実際に戦時中を生きた豪華俳優陣が競演し、物資も食料も乏しい中で奮闘する劇団の人々と、彼らの芝居を心の支えにする観客たちを観るたびに、笑いも涙も止まらない。

 この作品に登場する、伝統的な芝居の癖が抜けない蔦浜という役者と、稽古中、彼にあきれ返りながらダメ出しする加東大介さんのやりとりは、「池田屋(階段落ち)」コントのヒントになっているような気がする。


 (芝居の稽古シーンまでのあらすじ)

 劇団の立ち上げにあたり、劇団員の選考をしたところ、ジャングルを潜り抜け、あちこちの隊から志願者が集まってきた。

 半ば日本軍にも見捨てられ、直接戦闘こそ無かったものの、空襲と飢えと病に命と心を削られ続ける人々は、なにか明るい、日本にいたころの平和な光景に近いものに参加したがっていた。

 志願者の中に、東北で、伝統的な演劇「節劇(ふしげき)」の役者だった蔦浜一等兵(伴淳三郎)がいた。

 節劇とは、浪花節(三味線を伴奏にした歌と語りの芸)に合わせて所作(一定の型にのっとった演技、この場合は踊りに近い)をする芝居のことだ。

 芸名「市川鯉之助」、地方では人気のある役者だった蔦浜一等兵は、オーディションでは、自分で浪花節をうなりながら、やる気満々に演じた。

 それは、まさにうまいにはうまいのだけれど、節劇の役者として完成されたうまさで、加東さんが考える、リアルな芝居とはまったく別のものだった。

 惜しいと思いつつ、不合格を言い渡したところ、蔦浜は真っ青になった。

本職の役者だからきっと合格するだろうと、励まされ、隊の名誉を背負って参加したのだ。みんなに合わせる顔が無い。

「もしも駄目なら、自分は自決する覚悟であります」

蔦浜がその場で腹を切ろうとまでしたため、不安を残しながらも補欠採用することに。

採用されないなら死ぬ - コピー.jpg

 ただし、節劇で身につけたことはすべて忘れ、演技については、まるきり素人になったつもりで、「演劇分隊」班長である加東さんの指導に従うこと。

それが団員になる条件だった。

 蔦浜は「一生懸命やります!」と大喜びしたが、頭でわかっていても、「身についたこと」は、そう簡単にはとれない。真面目に修行したならなおさら。

そして蔦浜は「超」がつくほど真面目だった。


 (稽古の場面)

 ジャングルの中の、木の皮と板張りの小屋で、芝居の稽古がはじまった。

 演目は、「父帰る」。

 菊池寛の代表的な戯曲で、妻子を捨てて放蕩した男が、貧しく老いて、妻と既に成人した子供たちの暮らす家に戻ってくる、そのときの複雑な家族の愛憎を描いている。

 蔦浜の役は、落ちぶれた父、宗太郎。物語の要だ。

 宗太郎が二十年前に捨てた家の扉を開き、妻、おたかを呼ぶ場面。

演技指導の加東さんの合図で、つわものの武士のように、腕を振ってのっしのっしと歩いてくる宗太郎(蔦浜)。

「おいおいおい!なんでそんな変な歩き方するんだ。もっとリアルにやれ」

「『リアル』ってなんでありますか?」

現代演劇用語にはうとい蔦浜。

「なんだお前、役者のくせにリアリズムも知らんのか!?」

加東さんは呆れる周囲を抑えて言った。

「あのね、本当らしくやること」

 やりなおし。

扉を開けるしぐさをした後、ドン!と足を踏み鳴らした蔦浜。

「ごめん!おたか、いるかァや〜!?」

長く張りのある声、腕をまくって首をまわし、かっと目を見開いて……いる途中で加東さんにぽんぽんと肩を叩かれた。

「道場破りに来たんじゃないんだ。もっと自然に言え」

「はっ、ではやらせていただきます」(真面目)

二度目の演技も「やや改善された」程度だったが、芝居は続き、おたか役の篠崎曹長(有島一郎)が、「あぁ!お前さん……」と迎えに出た。

「おォォッ!?おたかァッ!」

パンッと手で膝を打ち鳴らした後、ダダダッと何歩もあとずさり、

蔦浜の動きの大きさに後ずさる2拡大 - コピー.jpg

「ッア!達者で何よりィだなァァ…!」

二度目の見栄を切る腕が、真顔の加東さんにべしっとはたかれた。

演技を止める加東さん - コピー.jpg

「なんでそこで見栄切んだ!」

「見栄切ったでありますか?」

「『切ったでありますか?』じゃないんだよ、何度言ったらわかるかなぁ!?」


 その後、試しに「自分の好きなようにやってみろ」と言ったところ、動作は流れるような大仰な所作のまま、最終的には、朗らかに歌って踊りだした(そんな話じゃない)ので、加東さんは蔦浜の役をとりかえようとした。


 「班長どの!」

蔦浜は加東さんに必死で頭を下げた。

「やらしていただきたいんであります!皆様、お願いいたします!」

稽古が遅れて迷惑をかけてしまっている一人一人にも、すがるように詫びた。

「もう一度やらしていただきたいんであります。わからねぇことがあったら、細かく教えていただきたい。稽古は何遍でもいたします!お願いいたします!」

ついには床に額をこすりつけるようにして、涙交じりの声で加東さんの足もとに土下座した。

土下座 - コピー.jpg

 その夜、ジャングルの湿気と暑さに汗ばみながら、小屋で蚊帳を吊って眠っていた加東さんは、ふと目を開いた。

「おたか!」

外から流れてくる、伸びと張りのある話し声、疲れ切った人々が眠る、ジャングルの夜更けには不似合いな、朗々とした高笑い。


 小屋の外で、蔦浜が一人、芝居の稽古をしていた。

「下手くそ……!どうしてリアルってのができねぇんだこの……!あぁ!下手くそ!!」

蔦浜の夜中の一人稽古 - コピー.jpg

 身に沁みついてしまった今までの芝居を追い出すために、あの大仰な、踊るようなしぐさ、歌うような声が出てしまうたび、自分の頭や手足を、わからずやの他人相手のようにピシャリピシャリと叩きながら。

「できねぇのか!この馬鹿野郎!それでもお前役者って言えるのか!なにが「市川鯉之助」だ!お前みたいなのは死んでしまえ馬鹿ァ!馬鹿野郎ォ!!」

ふがいなさに、自分を怒鳴りつけて悔し泣きする声。

 加東さんと、一緒に目を覚ました篠原曹長が、小屋の扉の陰から、黙って蔦浜の必死の努力を見つめていた。

蔦浜の特訓に気づいた二人 - コピー.jpg



 ドリフファンの私は、「池田屋」のほうを先に観ていたので、そしてそれはもう、何回観たかわからないくらい繰り返し観ていたので、この映画の加東大介さんと伴淳三郎さん(蔦浜一等兵)のかけあいが、いっそう面白かった。

(伴淳さんの、どんなに大真面目でも、勝手に愛嬌が出てしまう感じは、加トちゃんの魅力に通じるものがあると思う)

 どちらも、何回も観て、次に何を言うかまでわかっていても、やっぱり笑わされてしまう(そしてまた観てしまう)。

 素晴らしい間とテンポ。演じることを本当に愛し、技を磨いた、息の合った実力者たちだけが生み出せる、観た人の心に、宝物としてずっと残る(そして思い出しただけでも笑わせてくれる)名場面だ。





(参照)
2020年4月1日 20時18分中日スポーツ記事


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2023年10月14日

ドキュメンタリー「バック・トゥ・ザ・フューチャー あせない魅力の裏側」(NHK放送)

(「バック・トゥ・ザ・フューチャー」映画オープニング)

Back to the Future | Opening Scene in 4K Ultra HD | Marty McFly Is Just Too Darn Loud

 (※主題歌「パワー・オブ・ラブ」が4:54からフルでかかる、爽快な幕開け)

 NHKBS1でドキュメンタリー番組「バック・トゥ・ザ・フューチャー あせない魅力の裏側」が放送される。

番組放送情報:BS1 10月15日(日) 午後4:30 〜 午後5:20

NHK HP 番組紹介

映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」はなぜ不朽の名作になったのか。脚本家、俳優、制作スタッフのインタビューやアーカイブス映像を使い、制作の裏側を掘り下げる。 1985年の映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」はなぜ今も多くの人の心を動かすのか。脚本家ボブ・ゲイル、プロデューサーのスティーブン・スピルバーグ、母親役のリー・トンプソン、歌手兼俳優のヒューイ・ルイスほか、多くのスタッフが制作の裏側を解き明かす。ファン必見のドキュメンタリー。 

原題:Marty&Doc The Inside Story of a Phenomenon(フランス 2022年)(C)ARTE France / CAPA PRESSE - 2022

 今も世界中で愛される名作映画が、実は複数の映画会社からアイディアを却下されたこと、マイケル・J・フォックスがキャスティングされるまでの裏話、物語の魅力を支えた音楽(テーマソング「パワー・オブ・ラブ」やマーティーの演奏シーン)など数々のエピソードが語られている。

 とくに面白かったのは、あの作品が、コメディの中に、アメリカの1950年代の問題を描き出していたという部分。

1950年代はそんなにいい時代だったか - コピー.jpg

 魅力的なファッションや華やかなライフスタイルで、アメリカの黄金時代のようにも見える1950年代を「そんなにいい時代だったか?」と、とても冷静に振り返っている。

❝「『古き良き時代』は実際にはひどかったんです。私たちは過去を美化して記憶をゆがめています」
(脚本・プロデューサーのボブ・ゲイル談)

❝「昔(1950年代)のほうが良かったというのは、異性愛者の白人男性の見方に過ぎません」
(マーティの母親ロレイン役のリー・トンプソンのコメント)

 第二次大戦後、男が戦地から戻り、女はキッチンに押し戻され、窮屈な人生の中で完璧さを求められた多くの妻が、夫の帰宅前にアルコールや薬で気持ちを落ち着けていたという。

女性は自分が完璧でなければいけないと思い込むようになった - コピー.jpg

(ロレインはそんな母親の隠し持つ酒を未成年のころから盗み飲み、1980年代にはアルコールが手放せなくなっている)
ママのお酒をくすねた - コピー.jpg


 そして、公然と行われていた人種差別。入れる店まで分けられていた。

 カフェの店員ゴールディは、マーティーの父ジョージが不良のビフにいじめられるままなのを見て、「自信を持てよ!やつらに一生こきつかわれてもいいのか?」と奮起させようとする。

(ゴールディ登場シーン)※英語音声
Back to the Future: Two McFly HD CLIP

 「俺は立身出世してやる」と向上心に燃えるゴールディは、1980年代に、見事市長になっており、その未来を知っているマーティが彼に「市長になる」と言ったのを聞いて、将来の夢を決める。

 ゴールディを演じたドナルド・フュリラブは、ちょっといたずらっぽいチャーミングな笑顔でこう語っている。
「バラク・オバマが私の役を見て大統領に立候補しようと思ったとしたら、うれしいけど。もしそうなら、すごいな」
オバマ大統領立候補のきっかけ? - コピー - コピー.jpg

 そして、自信をもってこうつけくわえた。
「オバマも、あの映画は観ているからね」

オバマもあの映画は観てる - コピー.jpg
(帽子が「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のロゴデザイン入りなところに、愛を感じる)

 「自分の運命は自分で決めろ」

 これは、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の一番大切なテーマで、この点については、様々な差別が当たり前のようにあった1950年代よりも、1980年代のほうが圧倒的に素晴らしいということが、映画を観ると伝わってくる。

(個人の自由が完全に実現できているかと言われれば、1980年代どころか、いまだに「まだ」だが、少なくとも「他人の人生を偏見で阻むな」という考えは広まった)

【補足】
ドキュメンタリーの中でも紹介されているマイケル・J・フォックスの出世作のテレビシリーズ「ファミリー・タイズ」には、マイケルが演じるアレックスの幼馴染で大学の同級生のジャレットという青年が登場し、人種のことなど何一つ触れずに、普通にしょっちゅう友達ならではのケンカをしている。
スペリング大会での敗北 - コピー.jpg

 彼らがボランティアで自殺志願者の電話相談に応対した回(1984年)は本当に名作だった(DVDに収録)。
反省点を探る - コピー.jpg
(電話応対中にいつもの癖で張り合ってしまい、まともなアドバイスをする前に間違えて電話を切ってしまったアレックスとジャレット。相談者がかけなおしてくれるのを祈る思いで待ちながら、反省点を探ろうとしたが、思い返すと反省点以外何もなかった)

 マイケルが「バック・トゥ・ザ・フューチャー」に選ばれたのは、このシリーズでの素晴らしい演技があったからだし、映画に通じるユーモアや前向きな聡明さのある最高のドラマなので、ぜひご覧いただきたい。

販売元 ‏ : ‎ パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン c2008 CBS Studios, Inc. All Rights Reserved.



 一方で、映画のパート2では、ビフが億万長者になり、富を間違った方向に使った結果、1985年の町が荒れ果てるという世界も見せている。

札束で葉巻に火をつけるビフのネオンサイン - コピー.jpg

 1950年代の限界を示しつつ、80年代から顕著になった拝金主義の行きつく先を見せ、未来なら確実に良いわけではないという警告もしていたのだ。


 (番組では、暴走するビフのモデルはドナルド・トランプ元大統領〈当時は大富豪として有名だった〉だと明言し、現実がフィクションに追いついてしまったと言っている〈でも、それをテレビで言い切れる自由さはアメリカの強みだと思う〉)。

 番組内で語られているとおり、その後も映画は数々産み出されてきたが、生き残れた作品はわずかだ。

 その時大ヒットする作品と、長年愛される作品が同じとも限らない。

 「バック・トゥ・ザ・フューチャー」は、世界的大ヒットと普遍性を実現した、数少ない幸運な傑作だ。

(脚本家ボブ・ゲイルは、良い映画を作るために学び、苦労し、あの映画でついに夢をかなえたと語っている)
あの映画こそがわたしたちの夢 - コピー.jpg

 そういう奇跡を掴むまでの、人々の真剣な試行錯誤の道のりを知ることができる、とても魅力的なドキュメンタリーだった。

(本国アメリカではなく、フランスがアメリカのサブカルチャーを敬意をもって分析した番組という点も面白い)


 「バック・トゥ・ザ・フューチャー」が「未来も生き残る作品」だと時間が証明した今、あの作品を楽しみながら学ぶことは、時代を超える名作を作るには何が必要か、そして1950年代、80年代の続きの時代を生きる私たちの心が、本当に求めているものは何かを知る、最高のヒントになるだろう。

(C)ARTE France / CAPA PRESSE - 2022


当ブログ関連記事

映画「ニューヨーク東8番街の奇跡」立ち退き問題に悩む住人達とかわいい宇宙人たちの物語(1987年・アメリカ作品)

(名場面)映画「ニューヨーク東8番街の奇跡」無口な元ボクサーハリーと、宇宙人の赤ちゃんの絆

(※「バック・トゥ・ザ・フューチャー」と同時代にスピルバーグが製作総指揮を務めた、80年代SF映画の名作ご紹介記事。同じく1950年代の文化を取り入れた作品でもある)





(関連動画)

(1955年の父に会ったマーティ。ビフやゴールディも登場するシーン)
Back to the Future: Two McFly HD CLIP

(マーティーが1955年にロックを演奏するシーン)
Back to the Future | Marty McFly Plays "Johnny B. Goode" and "Earth Angel"


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2023年10月08日

(名場面)映画「ニューヨーク東8番街の奇跡」無口な元ボクサーハリーと、宇宙人の赤ちゃんの絆

(アパートの住人フランクの寝顔を見つめる宇宙人)
フランクを見つめる宇宙人 - コピー.jpg

(宇宙人に「食事」として電気を渡すハリーとフランク)
電気をあげるハリー - コピー - コピー.jpg
(1987 Universal Studios. All Rights Reserved.)

 「ニューヨーク東8番街の奇跡」(1987年 アメリカ〈原題「*batteries not included」〉)は、再開発が進むニューヨークで、立ち退き問題に悩まされる人々のもとに、小さなロボットのような宇宙人たちが訪れるSFファンタジー映画。
(スティーブン・スピルバーグ製作総指揮)

※当ブログのあらすじご紹介記事はこちら


 ノスタルジックな食堂「ライリーズカフェ」を経営する老夫婦フェイとフランクを、実生活でも夫婦だった名優ジェシカ・タンディとヒューム・クローニンが演じている。

 そして、脇役の人々の演技とキャラクターも素晴らしい。

ハリーと宇宙人の末っ子赤ちゃん



 老夫婦と同じアパートに暮らすハリー(フランク・マクレー)は、かつて「人間機関車」と呼ばれたボクサーだった。

 引退後の今は、テレビを観るか、ぼろぼろのアパートの修繕をするかという、つつましい暮らしをしている。

 地上げ屋のいやがらせに困り果てているアパートに、物を直すのが得意なかわいい宇宙人たちが住み着いてから、住人達それぞれの暮らしが明るくなり、無口なハリーにも笑顔が増えた。
宇宙人を見て喜ぶハリー、トロフィーを持っている - コピー.jpg
(胸元に選手時代のトロフィーを持っているハリー。金属も宇宙人たちの食料なので、プレゼントするつもりらしい)

 ハリーは体は逞しいがとても内気で、喋るときはテレビのCMや番組のフレーズを引用する形で、自分の気持ちを伝えている。
出かけるときは忘れずにAMEXCM - コピー.jpg
(※「出かけるときは忘れずに」は、当時のアメリカンエクスプレスカードのCMのフレーズ)

 そんなある日、アパートのみんなが見守る中、宇宙人夫婦に赤ちゃんが生まれる。

しかし、最後に産み落とされた、三番目の赤ちゃんは、目を開かなかった。
動かない赤ちゃん - コピー.jpg

 ハリーは、ぽつりとつぶやいた。

「『電池は入っていません』」

(「*batteries not included」……アメリカの家電製品CMの定番フレーズ。「電池は別売り」の意味で、映画の原題はここからきている)

 屋上のプランターに埋葬された赤ちゃんを、住人達の目を盗んで掘り返すハリー。

 みんなの制止を振り切って、部屋に戻ったハリーは、大切なテレビを分解して、その部品で赤ちゃんを修理(蘇生)しようとする。
テレビを分解するハリー - コピー.jpg

 ハリーの試行錯誤に偶然が重なって、末っ子赤ちゃんは生き返った。

 ハリーに教えられて、犬笛で呼ばれたら、彼の上着のポケットに入る練習をする赤ちゃん。
犬笛で赤ちゃんを呼ぶハリー - コピー.jpg

靴から顔を出す赤ちゃん - コピー.jpg

 赤ちゃんが助かったことを知り、アパートのみんなはハリーに感謝する。
ハリーに感謝するフランクとフェイと宇宙人たち - コピー.jpg

(元気に遊ぶ赤ちゃんたちを見て笑うハリーと老夫婦)
宇宙人と一緒に喜ぶ夫婦とハリー4 - コピー.jpg


 しかし、宇宙人の存在に気づいた地上げ屋の下っ端カルロスに、危険な目に遭わされた宇宙人一家は、アパートから姿を消してしまった。

 


床のはがれたタイル



(※以下、物語後半重要シーン)

 その後、地上げ屋の放火で、建物は崩壊。

 老夫婦の妻フェイは入院、住人たちが病院に付き添う中、かろうじて焼け残った玄関の階段に、肩を落としてぼんやりと座り込むハリー。
落胆するハリーと付き添う犬 - コピー.jpg
 犬笛でいなくなった赤ちゃんたちを探すうちに出会った野良犬が、ハリーに同情するように寄り添う。

 周辺の取り壊し作業をしていた人々も、老夫婦の店を惜しみ、ハリーの気持ちを尊重して、命令されても、彼が動くまで建物を壊さないことにした。
ハリーが退くまで待つ - コピー.jpg

 夜になってもまだ動けないハリー。しかし、犬が何かに気づいて立ち上がった。

ドアの向こうに舞い降りた、小さな音と光。

 ハリーは急いでドアにかけた上着のポケットをさぐったが、そこはからっぽ。

でも、赤ちゃんはいた。焼け残ったタイルの床に。
赤ちゃんに気づいたハリー - コピー.jpg

 まん丸く光る緑の目を、今はしょんぼりと伏せ、はがれたタイルを口にくわえ、欠けてしまったところにそっと置く。
タイルを埋め込む寂しそうな顔 - コピー.jpg
タイルを置く赤ちゃん2 - コピー.jpg
そして、タイルに小さな両足を乗せて、「キコキコ……」と、体をねじって、埋める。

 少しでも建物を直そうとしている赤ちゃんの気持ちに、胸が熱くなるハリー。
赤ちゃんの気持ちが嬉しいハリー2 - コピー.jpg

 よちよち歩いて、もう一つタイルを拾い上げた赤ちゃんが、降り注ぐ光に顔を上げた。

 ハリーが振り向くと、宇宙人一家が光る目で彼らを見おろしていた。

赤ちゃんを大きな両手に包み込んで、ハリーは後ずさった。

 今の自分は、住む家も燃えてしまった。仲良くなれたアパートの人たちとも、もう一緒にいられない。

この子を連れていかないでほしい。

赤ちゃんを連れていかれたくない2 - コピー.jpg

 ハリーの必死の悲しい顔を照らす、一家の瞳の光。

その光の粒が、少しずつ、少しずつ、増えていった……。



 この、床のタイルは、物語の最初から最後まで、大切な意味を持っている。

 ハリーが物語に登場した時、彼はアパートの玄関に腹這いになって、床のはがれを補修している。
タイルを直す登場シーン - コピー.jpg

 空き瓶に大事に集めた小さなタイルで、文字通りコツコツと。

 そのハリーの思いを守ろうとするように、焼け跡でタイルをひとつひとつ置いては、踏みしめる宇宙人の赤ちゃん。
もう一度タイルを直すハリー - コピー.jpg

タイルを踏んで埋め込もうとする - コピー.jpg

 実は、かつてアパートの入り口の床には、この建物の「ニューヨーク東8番街」の番地を示す「817」の数字がタイルで書かれていた。
住所のタイル - コピー.jpg

 はがれたタイルをあきらめずに埋め込む作業は、建物がそこに存在し続けること、人々の「住所」がそこに在り続けることを、土地に記す作業でもあったのだ。



映画を観た人々の感想


 1987年、経済的繁栄と開発の裏側で、昔ながらの街並みが壊されていった時代。

(映画オープニング、かつての下町の風景写真)
当時の街並み全体 - コピー.jpg
(廃墟になってしまった町を歩くフェイ)
危険な取り壊し方  - コピー.jpg

 夢のあるSFと温かいユーモアに包んで、地元の歴史と人々の暮らしを守ることの大切さを届けようとしたこの映画は、公開当時、「感動の押し付け」とも言われ、評価が分かれた

(アパートを守りたい画家メイソンの同棲相手は、「80年代にははやらない考え方」だと呆れて出て行ってしまう。映画公開当時にも、そんな冷めた見方をした人々がいたのだろう)
80年代にリアリズムははやらない - コピー.jpg

 それでも、古くても大切な建物を残そうと頑張った人たちのように、この映画も愛されて、今まで生き残ってきた。

 この映画のYoutubeの動画コメント欄には、当時親や祖父母とこの映画を観たと、映画とともに自分の子供時代と家族を懐かしむいくつもの感想のほか、「どうしてこういう映画をもう作らなくなってしまったのだろう、大好きだったのに」という、寂しそうな言葉も書き込まれていた。

 そして、こんなコメントがあった。
「80年代の子供の頃、私は壊れた家庭から逃げるために、近所の家にふらふらと行って、これを観ていました。この映画はすべてからの逃げ場でした。(自分の心は)あの(映画の中の)古い朽ちたアパートに住んで、ライリーズカフェで食事をしているふりをしていました。(略)この映画は、今でも私に故郷のような感覚を与えてくれます、そして、ある意味、私の一部はあのアパートから出たことがないのかもしれません」
 このコメントを投稿した方は、つらい子供時代を送った記憶があっても、この映画を見て育ったことについては、「私は幸運でした」と書いている。

 この方のような困難はなかったとしても、この映画をいつまでも忘れられない人たちにとって、やはり、この映画は、心の故郷のような存在なのだろう。

(お店で踊るフランクとフェイ、笑顔の住人たち)
お店で踊る夫婦2 - コピー.jpg

 そして、自分があの映画を観たときとは時代や状況が変わり、それに合わせなければいけないことがあっても、「古い」とか「甘い」とか、誰に笑われたとしても、自分の心の一部には、あの映画のような温かい物語を大切に思う気持ちを、ずっと持っていたいのだ。
ハリーの笑顔 - コピー.jpg



観た人の心の故郷になった名作



 映画の美しい音楽は「フィールド・オブ・ドリームス」など数々の名作映画も手掛けたジェームズ・ホーナー作曲(「タイタニック」でアカデミー音楽賞を受賞)。
ウィキペディアジェームズホーナー画像 - コピー.jpg

 万感の思いで赤ちゃんを見つめるハリーの優しい顔と、赤ちゃんがタイルを埋め込むささやかな音と、この音楽が重なり合う瞬間、まるで心の中心から剥がれ落ちた大切な宝石が拾い上げられ、もう一度優しく、でも、ぎゅっとしっかり埋めこまれるような、本当に温かい気持ちが胸に刻まれる。

(床を直そうとする赤ちゃん)
BATTERIES NOT INCLUDED Clip - "Return" (1987)


 物語、キャスト、音楽、美術、すべてが素晴らしいこの映画は、観た人たちの懐かしい思い出となり、つらい思いをした人の心も包み込んで守った。

 これからも愛されてほしい作品だし、「こういう映画」の魂が受け継がれた作品が、これからも作られてほしい。
(「こういう映画をもう作らなくなった」かはわからないけれど、「他の映画」が増えた分、出会うのが難しくなってしまった気はする)

 どれだけ時代が変わっても、大人も子供も一緒に楽しめる映画を観たい人、独りで悲しい思いをして心を温めたい人は、いつもいる。

 今も、これからもずっと、人々の心には、故郷のようなこういう作品が、本当は、本当に、必要なのだ。


(1987 Universal Studios. All Rights Reserved.)


【参照】 映画の一部場面紹介動画(※英語音声、動画後半は映画の予告編)

(空腹の宇宙人夫婦に、食事として電気を渡すアパートの人々)

(ロボット宇宙人の出産。動かない赤ちゃんを直そうとするハリー)

(焼け落ちた建物から離れられないハリーと、床を直そうとする赤ちゃん)
BATTERIES NOT INCLUDED Clip - "Return" (1987)

(参照URL)


【配信・ソフト情報】




(Youtube配信版)





【補足】

(ジェシカ・タンディとヒューム・クローニンのもうひとつの名作『白い犬とワルツを』(1994)。本当に美しい、アメリカの映像作品の頂点。どうかもう一度、たくさんの人が観られるようになってほしい)

To Dance With The White Dog Trailer 1994

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2023年09月29日

ジェームス・ディーン主演映画「理由なき反抗」(1955年)

 映画「理由なき反抗」(1955年・アメリカ)は、不良扱いされる若者たちが、親に対する苛立ちをもてあまして、暴走するうちに起こる悲劇を描いた作品。

Rebel Without a Cause | Trailer | Warner Bros. Entertainment(※2023年4月アップロードの予告編)

 放送情報
「エデンの東」で一躍注目されたジェームズ・ディーンの主演2作目となる青春映画の傑作。
名匠ニコラス・レイ監督が原案も手がけ、愛に飢える若者たちの、孤独で傷つきやすい心を繊細に描く。
問題を起こしては転校を繰り返す17歳の少年ジム。新たな転校先でも不良グループに目をつけられ、崖に向かって車を疾走させる“チキンレース”で対決することになるが…。ディーンは本作の公開前、24歳の若さでこの世を去った。

 このときのジェームズ・ディーンの赤いジャケットとジーンズというファッションや、危険な車のレースに命知らずに挑む姿が、実人生の事故死と重なって、彼のイメージを決定づけ、当時の若者の心に焼き付いた。

 ここで描かれた「力強く導いてくれる大人がいない若者の不安と怒り」は、1950年代以降、ますます拡大し、今は、もう、そのせいで自分が苦しんでいると気づけないほどに、一般的日常になってしまった。

 これは「物はあっても飢えている心」の問題に気づきはじめ、それを映画で真剣に描こうとした時代の作品で、その明確な問題意識と、それを警告メッセージの羅列では終わらせない繊細な心理描写が、今の時代に鮮烈に映る。

 そして、今となると、ジェームズ・ディーンの容姿やファッションより、優しさと苛立ちの狭間で苦しむ主人公ジムの、痛々しさと物悲しさのほうが、心に残る。

(酔って道に捨てられた猿のおもちゃを見つめるジム)

猿のおもちゃを見つめる - コピー.jpg


あらすじ


 ジムはどこの学校に行っても問題を起こしてしまう若者。そのたびに家族(父、母、祖母)は引っ越すことで解決しようとする。

 しかし、ジムは行動を改めることができない。

 なぜなら、ジムが荒れてしまう原因は、物わかりがいいようで、非常に優柔不断な父フランクと、父の鼻面をいいように引きまわす、口うるさい母親キャロルにあるから。

 ジムが飲酒と暴力沙汰で補導された夜、奇しくもそれぞれに家族、とくに父親との関係に問題を抱えた若者も警察にいる。

 一緒に暮らしながらも、成長とともに、父親に距離を置かれるようになったと感じているジュディ。

 父は別居し、母も不在がちで、裕福ながら孤独な環境のプラトン。


(作品序盤8分間の映像)※英語音声

Rebel Without a Cause | Full Movie Preview | Warner Bros. Entertainment

 ジムは新しい高校で、すぐに不良グループに目をつけられてしまい、プラネタリウム見学のあとに彼らのボスであるバズとナイフで決闘、だが途中で守衛に止められたため、バズはジムに「チキン・ラン」という車での度胸試しの勝負を持ちかける。

 しかし、これが思わぬ事態に発展してしまう。


父親への怒りと愛情


 ジェームズ・ディーンの最高傑作「エデンの東」と同じく、主人公の青年と父親との確執が重要なテーマとなっている。

 「エデンの東」の名士で厳格な父アダムと違い、この父親は妻にまったく頭が上がらず、それが主人公の苛立ちにつながっている。

 象徴的なのは、母キャロルに運ぶ食事を落としてしまい、床に這って拾っている父フランクを、ジムが見てしまう場面。

6 エプロンをつけて破片を拾う父 - コピー - コピー.jpg

 フランクが本当はこの仕事に納得していないのは、スーツの上にキャロルの花柄レースのエプロンという、まさしく「お仕着せ」のちぐはぐな格好にあらわれている。

 ジムは笑い泣きの表情を浮かべたあと、まるで胸ぐらの様にレースのエプロンのひもをつかんで「立って」とつぶやく。

6 エプロンを掴まれる父 - コピー - コピー.jpg

 当時は家事をやる夫が少なかったのもあるが、それよりも、母に言われるままに動く父の心の弱さが、ジムにはぶざまにも哀れにも見え、そして父に対してそういう感情が湧いてしまうことが、辛かったのだろう。

Rebel Without a Cause (1955) - Disappointing Parents Scene (6/10) | Movieclips

 キャロルがフランクにきつくあたる背景には、口うるさい姑との不和があり、その仲裁ができないフランクへの苛立ちを、命令することで解消しているらしい。

(そしてジムは本当の問題が祖母と母の間にあることに気づいている。後半で、家を飛び出そうとしたとき、出口に裏返しに立てかけてあった祖母の肖像画〈おそらくキャロルがそうした〉を、思い切り蹴破るシーンがある)

祖母の肖像画を蹴破る - コピー (2).jpg

 一方、なぜフランクがこんなに卑屈な人なのかは、はっきりしない。ただ、もしかしたら、第二次大戦の心の傷が影響しているのかもしれない。

 17歳のジムの父ならおそらく40代〈父フランクを演じたジム・バッカスの実年齢は42歳〉、約15年前なら20代で、徴兵に関わって来る世代だ。

 実際、プラトンは自分の音信不通の父を、「太平洋で戦死した英雄」だったと嘘をついている(父親が軍人だったのは事実で、プラトンの母の寝室に軍服姿の父親の写真が飾られている)。

(プラトンがいなくなって警察と話し合うメイドの女性〈左隅に父親の写真がある〉、非常事態になってもプラトンの家には両親ともいない)

電話を受ける手伝いの女性とプレイトーの父の軍服写真 - コピー.jpg

 ジュディの父も、息子におもちゃの銃を向けられて「The Atmic Age!(核兵器時代(日本語字幕では「原子銃」となっている)」と言われたとき、おもちゃの銃声を浴びながら、重苦しく顔をそむけている。(母親が急いで銃をとりあげている)

銃を向けられて顔をそむけるジュディの父 - コピー - コピー.jpg

 (また、守衛の男性が、彼の制帽をふざけてかぶった若者たちが、演説するヒットラーの真似をした瞬間、帽子を取り上げるシーンもあった)

帽子をかぶってヒットラーの真似をする若者 - コピー.jpg

 当時は、戦場の記憶に苦しむ人だけでなく、戦いに行かなかったことに後ろめたさを感じて悩む人がいた。

 この時代の父と子の問題の遠因に、戦争のトラウマを抱えた父親が、自分の感情のコントロールに精一杯で、「物があっても飢えている」思春期の子供の、複雑な心とうまく向き合えなかったというのがあるのかもしれない。

 養育費の小切手しか送らないプラトンの父はともかく、ジムの父のフランクと、ジュディの父は、いい加減な人間なわけではなく、彼らのぎこちなさに、なにか原因があるのかもしれないと思わされる。


 しかし、ジム、ジュディ、プラトンの三人には、なぜ父親が、自分の願うような親になってくれないのかがわからずに苛立ち、わきあがり続ける苛立ちの出口をもとめて反抗を繰り返す。

彼らの行動は、「理由なき反抗」ではない、「親」が必要だという、とてもはっきりした理由がある。

 あるいはジムと対立するバズも、同じような背景があったのかもしれない。

彼も芯から粗暴なわけではない。「チキン・ラン」の直前、崖の淵で二人だけで話す場面で、バズはジムと煙草を分け合って吸い、本当はお前を気に入っていると言う。

(おそらくジムの度胸や狡さの無いところを)

その時の表情には、腰ぎんちゃくのような友人たちとつるんでいるときより、はるかに彼の心が見える。

(ジムに煙草を渡すバズ)

ジムに煙草を渡すバズ - コピー.jpg

 それなのに度胸試しを「しなきゃらならない」と言う。ジムが憎くないのに、なにかが彼を危険に走らずにはいられない人間にした。


 フランクは、何不自由なくさせているし、世話もしているのに何が不満だとジムに聞くが、ジムの願う「父親」は、「自分を強く教え導き、時には叱ってくれる、自分より大きな存在」で、財布兼世話係ではない。

 ジムが「強い大人」を求めているのは、少年補導課の刑事レイへの態度からわかる。

(家の問題にいらだつジムの話に耳をかたむけるレイ)

そんな家は多いが皆生きている - コピー.jpg

 レイは「素直にならないと承知しないぞ」と言い、ジムをとり抑える身のこなしを見せる「強い大人」だ。

さらに、ジムの荒れた気持ちを発散させるために机を殴らせて、その後、彼の話を静かに聞いている。

Rebel Without a Cause (1955) - I Don't Ever Wanna Be Like Him Scene (3/10) | Movieclips

 ジムはレイを信頼し、その後トラブルが起きた時に、彼を名指しして相談しようとする。

 フランクがレイのような「父親」になってくれる期待を捨てられなかったジムは、「チキン・ラン」に行く前、フランクに「危険だとわかっていても行かなければ名誉にかかわることがあるとき、どうしたらいい?」と、ほのめかしだが相談さえしている。

 しかし、フランクは例のお仕着せの花柄レースのエプロンをつけたまま「物分かりが良いようで自分は何も責任を負わない言葉」しか言わなかったために、ジムは度胸試しに向かってしまう。

 そして、それが大きな悲劇を引き起こした。

 チキン・ランに「行くな」と言わなかったフランクに、家に帰ってきたジムはもう一度だけ頼む。

 警察への自首を止めようとする母をいさめて、ジムの味方になってほしい。

 「ぼくのために立ち上がってくれ」

 しかし、フランクはうなだれて頭を抱えるだけだった。

 「立てよ!!」

 ジムはフランクに掴みかかり、首を締めあげた後、絶望して家を飛び出していく。

8 立ち上がれよ! - コピー - コピー.jpg

 この場面がジェームズ・ディーンの反逆児のイメージとなったのだが、これが反逆だろうか。

「自分の罪を認める味方になってほしかったのに、親が正しいことをしろと言ってくれなかった怒り」だ。「カッコいい不良が大人を締めあげる胸のすくシーン」ではない。悲しい場面だと思う。

パパどうすべきか早く教えてください - コピー.jpg

 この作品は、公開当時若者たちに熱狂的に支持されたけれど、本当は親世代が、真剣に観るべきものだったのかもしれない。

(警察に行こうとするジムを止める両親)

Rebel Without a Cause (1955) - Stand Up For Me! Scene (8/10) | Movieclips


 この後、レイが署に不在で、相談ができなかったジムは、ジュディとプラトンとともに豪邸の廃屋に向かう。

そこで、新居を探す夫婦(ジムとジュディ)と、物件を案内する不動産業者(プラトン)の「ごっこ遊び」をする3人。

James Dean Ultimate Collector's Edition | Rebel Without a Cause - House | Warner Bros. Entertainment

 強く頼もしいジムと、美しく優しいジュディのカップルを見つめて、とても嬉しそうなプラトン。

ジムに寄りかかるプレイトー - コピー.jpg

 「親」が存在しないなら、同じ痛みを抱えた者同士で一緒にいたい。

 三人の、廃屋を照らすろうそくの灯の中の、「ままごと」のように拙いが、温かく幸福な時間は、しかし、その灯の様に、はかなかった。

話し合う三人 - コピー.jpg

Rating G (C) 1987 Warner Bros.Entertainment Inc. All rights reserved.


 動作や小道具などに、登場人物の深層心理の暗示があり、タイトルとはうらはらに、若者たちだけでなく、親たちの行動まで、「理由」があることがわかる。

(当時研究が進んでいた心理学を、物語に積極的に取り入れているのかもしれない、この理屈が強い感じは、評価が分かれるかもしれないが、繰り返し観ると、いろいろな場面の意味に気づかされる)。

 物があっても、「親」あるいは「大人」がいない若者たちの心の飢えと、なにかの理由(おそらくは心の傷)で、そういう若者に真正面から向き合えない親たちの葛藤という、現代に通じる問題、それでも苦しみながら問題を乗り越えようとする人々を描いた、誠実な作品だ。


当ブログ関連記事 映画「エデンの東」(ジェームズ・ディーン渾身の演技、すれ違う家族を描いた不朽の名作)


理由なき反抗 (字幕版) - ジェームス・ディーン, ナタリー・ウッド, ジム・バッカス, ニコラス・レイ, デビット・ウィズバート
理由なき反抗 (字幕版) - ジェームス・ディーン,

エデンの東 (字幕版) - ジェームス・ディーン, ジュリー・ハリス, レイモンド・マッセイ, ジョー・ヴァン・フリート, リチャード・ダヴァロス, ポール・オズボーン, エリア・カザン, エリア・カザン
エデンの東 (字幕版) - ジェームス・ディーン

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2023年01月30日

映画「エデンの東」(ジェームズ・ディーン渾身の演技、すれ違う家族を描いた不朽の名作)

(主人公キャル〈ジェームズ・ディーン〉と父アダム〈レイモン・マッセイ〉)
テーブル越しのキャルとアダムリサイズ - コピー.jpg
CREDITS: TM & c Warner Bros. (1955)

 映画「エデンの東」(1955年)は、第一次大戦期のアメリカで、厳格な父に反発しつつ、愛されようともがく青年キャルの葛藤を描いた作品。



24歳の若さで亡くなった伝説の大スター・ジェームズ・ディーンの初主演作で、愛に飢えた孤独な青年キャルを演じ、一躍大スターとなった名作。ジョン・スタインベックの長編小説をエリア・カザン監督が映画化、アカデミー賞4部門にノミネートされ、母を演じたジョー・ヴァン・フリートが助演女優賞を受賞した。あまりにも有名なレナード・ローゼンマンのテーマ曲、撮影監督テッド・マッコードのダイナミックな映像美もみどころ。


 ジェームズ・ディーンこの映画が公開された年に、わずか24歳で自動車事故によって世を去った。


(あらすじ)

 1917年、第一次大戦中のカリフォルニアに住むキャルは、町の名士である父親アダムと、双子の兄アロンとともに暮らしていた。

 アロンは父に従順で品行方正だったため、父の愛はアロンにばかり向けられ、生まれながらに奔放な魂の持ち主であるキャルは、父を愛しつつも、疎外感からますます反抗的な態度をとるという悪循環から抜け出せずにいた。

 そんな日々の中、キャルは、彼ら兄弟を生んですぐに死んでしまったと聞かされていた母が、実は別の町で生きているという噂を耳にする。

 母ケートは、アダムと正反対、そしてキャルによく似た奔放な性格で、アダムが自分を支配しようとしていると感じ、子供たちを残して家を出てしまっていた。

 今は娼館を営んでいるケート。

(ケート〈ジョー・ヴァン・フリート〉)
キャルを見てかすかに笑う母リサイズ - コピー.jpg


 キャルはケートの居場所を突き止めた後、父から真実を聞き出そうとする。 
 しかし、アダムは、妻との離婚は認めても、その居場所は知らないと言った。

(キャルとアダムの会話の場面)※二人の不安定な関係を象徴するように斜めにかしいだカメラワークが用いられている。
East of Eden (1/10) Movie CLIP - Talk to Me, Father (1955) HD

 時期を同じくして、アロンはアブラという女性を婚約者として連れてきた。

 キャルは、アブラと話をするうち、彼女にも父に愛されていないと思い孤独だった時期があったことを知り、彼女にそれまで女性に感じたことのない親近感を抱く。

(アブラ〈ジュリー・ハリス〉)
この話を気に入ると思った - コピー.jpg

指輪は見つからなかったリサイズ - コピー.jpg

(アブラの少女時代の思い出を聞くキャル 暗い部屋での父との会話と対照的に、明るい菜の花に囲まれている)
James Dean Ultimate Collector's Edition | East of Eden -- Ring | Warner Bros. Entertainment

 その頃、アダムが販売する予定だった野菜が、雪崩で運送列車が止まったために全て駄目になり、アダムは大きな負債を抱えてしまう。


 父の窮状を救いたいと考えたキャルは、戦争で高騰するであろう豆に投資するべく、資金集めに奔走する。

 金を儲けて父を救えば、今度こそ父は、自分を愛してくれるはずだ。

 しかし、キャルの切なる願いは、この後一家を揺るがす事件へとつながっていく。




(見どころ)

 映画音楽の傑作として今も愛される美しいテーマとともに、すれ違う家族の悲哀が丁寧に描かれている。

East of Eden(1955) - Theme Music


 実人生でも父親と縁が薄かったジェームズ・ディーンの、魂の奥底から絞り出されるような演技が心に迫る。

アロンはどこだリサイズ - コピー.jpg

(ジェームズ・ディーンの父は、彼が9歳で母を亡くした後、幼い彼を親戚に預けた。成長後も、役者への夢を反対するなど、生涯良好な関係を築けなかった。)

 口ごもるようなしゃべり方と、曇天の向こうの不愉快な光に目を細めるような、鬱屈と寂しさを秘めた若者独特の表情、人々の隙間をふわりとすり抜けていくしぐさは、演技達者な役者陣の中でも異彩を放っている。

理由を聞くキャル - コピー.jpg

 それでいて時折見せる笑みは無垢そのもの。


 映画内のキャルは未成年と思われるが、既に24歳になっていたジェームズ・ディーンが、愛に飢えたまま成長したキャルの少年のような魂を見事に表現している。

 キャルが、父への感情をあらわにする、ある場面は、アメリカ映画の一つの頂点だ。

(この場面は、ジェームズ・ディーンがアドリブで演じ、父親役のレイモン・マッセイの動揺がそのままカメラにおさめられている)

 また、母ケートの、「善良さ」「貞淑さ」に閉じこめられることを嫌うあまり子供たちを捨てて出奔した激しさと、キャルに対する複雑な思い。

お前は私に似ているリサイズ - コピー.jpg

(キャルにアダムと別れた理由を話すケート)
Nobody Holds Me (1955) HD


 兄の婚約者アブラの、孤独を克服した者の強さと、キャルへの深い優しさも印象的。


 監督のエリア・カザンは撮影のとき、気分屋のジェームズ・ディーンと、正統派俳優のレイモンド・マッセイが折り合いが悪かったことを、父子の緊張感を出すのにちょうどいいと考え、わざと対立を放置した。
 生い立ちで苦しんだジェームズ・ディーンにとっては、本物の心の傷から血が噴き出しかねない、危うい状況だったのだが、この作品に限って言えば、それが、あの見事なアドリブにつながっている。

 ジェームズ・ディーン自身、演技と悲しい記憶の狭間で翻弄されながらも、この作品をとても愛していた。

 アブラを演じたジュリー・ハリスが、撮影が終了した直後の彼の様子を語っている。

 八月、『エデンの東』の撮影もついに今日で終わりという日、ジュリーはジミー(※ジェームズ・ディーンのこと)を探しにセット内のトレーラーのなかにある彼の部屋を訪ねた。何度かノックして、ようやくドアが開いた。

「そこに彼が立っていたの。ぶるぶる震えながらすすり泣いていたわ。『終わっちゃった!終わっちゃった!』そう何度も繰り返してるの。『でもジミー、これはあなたにとって始まりなのよ』そう言っても、ジミーはすすり泣きをやめなかった。『だけど、これは……もう終わっちゃった!』」

 その映画は彼にとって唯一の家族、唯一の目的だったのだ。ジュリーはそう実感した。「そのときの彼は、いつもにもまして小さな迷い子のように見えたわ、あの反逆者、人にショックを与え、イライラさせるのが大好きな若者はいなくなっていて、傷つきやすく心優しいジミー・ディーンがいきなり現れたの」

(『ジェームズ・ディーン/反逆児、その生涯と伝説』「8 エデンの東」p.226 )
 スターになることと、これが自分が役者になった理由だと思えるほど、本当に演じたい役を演じられることとは別だ。

 ジェームズ・ディーンは、本当の人生では伝えられなかっただろう、父親への愛情や自分の悲しみを、『エデンの東』のキャルの全身全霊の演技に込めた。

 それをぶつける相手だった「父アダム」は、子供を捨てたわけではない(むしろ妻が去ったあと、男手で、彼なりに真剣に息子たちを育ててきた)、キャルとわかりあえずにいら立っていても、善良な部分もある人物だった。

(アダムは、自分が名士であるために、地元の若者を戦場に送る手続きをしなければならないことに悩んでいる。この背景が、戦争による物価高騰で大金を得たキャルとの溝を深めてしまう)

 対立しながらも、愛するに値するアダム。 

 そして、キャルの孤独を深く理解し、包み込むアブラ。

 この作品の「終わり」は、彼らと、そしてジェームズ・ディーンがキャルとして生きられる時間との「別れ」だった。

 だから涙が止まらなかったのだろう。

 まだ人生が続いていれば、新しい「始まり」も、現実の幸福も彼に巡ってきたかもしれない。

たが、彼がそれを知ることはなかった。


 『エデンの東』の撮影中、エリア・カザンはジェームズ・ディーンに囁いた。

演技にも精神面にもむらのある彼の、「黄金」のように輝いている瞬間を撮るために。

「ぼくらが死んでも、この映画はずっと残るよ。みんなこれを見て、素晴らしい映画だと思うだろう」
カザンは回想する。「こう言うと、ジミーはとてもうれしそうな顔をした」

 (同 p.222)



(※2018年2月16日公開記事加筆修正)


パパどうすべきか早く教えてください - コピー.jpg

 『エデンの東』と同じく父と息子の葛藤を描いた作品。こちらは1950年代の「物はあるけれど愛に飢えている若者」を描いている。『エデンの東』のジェームズ・ディーンの演技にほれ込んだニコラス・レイ監督が、『エデンの東』完成直後に、まるで対のような作品を手掛けた。こちらも痛切な傑作であり、現代社会の問題に通じる点が多い。




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2022年11月29日

映画「ニューヨーク東8番街の奇跡」立ち退き問題に悩む住人達とかわいい宇宙人たちの物語(1987年・アメリカ作品)

(宇宙人たちと、取り壊し寸前のアパートに住む人々)
宇宙人たち - コピー.jpg

カルロスを止める住人達 - コピー.jpg





「ニューヨーク東8番街の奇跡」(1987年・アメリカ映画)は、都市の再開発で立ち退きを迫られている住人達のもとに、小さな宇宙人たちが訪れる物語。

(あらすじ NHK「BSシネマ」より)
スティーブン・スピルバーグ製作総指揮の心温まるSFファンタジー。再開発が進むニューヨークの下町。古いアパートで暮らす5人の住人たちは悪質な不動産業者から立ち退きを迫られ、窮地に追い込まれていた。そんなある夜、住人たちの前に、小さな訪問者たちが現れ、大騒動が巻き起こる…。主人公の老夫婦を演じるのは、アメリカ映画・演劇界を代表する名優で、実生活でも夫婦だったジェシカ・タンディとヒューム・クローニン。

(英語版予告編)
batteries not included (1987) Theatrical Trailer


(ダンスをするフェイ〈ジェシカ・タンディ〉とフランク〈ヒューム・クローニン〉)
踊るフェイとフランク - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube)


 アパートの取り壊しを拒否する人々と、物を直す力を持ったロボットの妖精のような宇宙人たちの、ユーモラスで心温まる物語を通じて、利益追求に走って、大切なものを壊してきた当時のアメリカ社会の問題も描かれている。
 (日本でもバブル経済期同じようなことが起こったし、今の世の中の空虚さに通じる話でもある)


(新しいビルの建設予定地にあったために、取り壊されそうになっているアパート)
取り壊しの危機に瀕した建物 - コピー.jpg

(業者は、アパートの住人を追い出すためにチンピラのカルロス〈画像左〉を雇う)
カルロスに住民を追い出させようとする業者 - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube)

(嫌がらせでフェイとフランクの食堂をめちゃくちゃにしたカルロスだったが、宇宙人にきれいに直されてしまう。〈そして、ドリフのコント的な制裁を加えられる〉)

(コンセントから「お食事中」の宇宙人。こんなにかわいいのに、電気が主食なので怒らせると怖い〈フェイの趣味なのか、レトロな食器と、ロボットチックな宇宙人のコントラストも味わい深い〉)
コンセントで充電する宇宙人 - コピー.jpg

(宇宙人に話しかけるフランクと、のぞき込む住人達)
宇宙人に話しかけるフランク - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube)



 ジェシカ・タンディとヒューム・クローニンは、死後も終わらない夫婦の絆を描いた「白い犬とワルツを」でも輝くような演技をみせてくれた。

白い犬とワルツを踊るコウラとサム - コピー.jpg

白い犬とワルツを寄り添うコウラとサム - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube)

(「白い犬とワルツを」アメリカ版トレイラー)


 現在DVDが廃盤になってしまっているのだが(どうかどうか、NHKでもう一度放送していただきたい)、アメリカ映像作品の最高傑作といってもいい名作なので、こちらもぜひご覧いただきたい。


 当ブログ関連記事:





(Youtube配信「ニューヨーク東8番街の奇跡 (字幕版)」)

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2022年09月24日

映画「セントラル・ステーション」代筆屋の女性と少年の旅を描いたブラジルの名作映画


 映画「セントラル・ステーション」(1998年・ブラジル)は、リオの中央駅で手紙の代筆屋をする女性ドーラが、母親を事故で亡くした少年ジョズエと、彼の父親を捜して旅をする物語。

ドーラをいたわるジョズエ2 - コピー.jpg
Image credit:Youtube Official Content From Sony Pictures Home Entertainment

(英語版予告編)

放送予定:BSプレミアム 2022年9月29日(木)午後1時00分〜2時51分


NHK HPのあらすじ

手紙の代筆屋を営む女性ドーラと、母を事故で亡くし、会ったことのない父親を捜す少年ジョズエ。リオの中央駅で出会った2人の交流を詩情豊かに描く感動のブラジル映画。ドーラを演じたブラジルの名優フェルナンダ・モンテネグロは、繊細な演技が絶賛されアカデミー主演女優賞にノミネート、ベルリン映画祭では作品賞にあたる金熊賞はじめ3部門を受賞、サンダンス・NHK国際映像作家賞、世界各地の映画祭でも数々の賞に輝いた。


 ドーラは、字が書けない人々のために口述で手紙を書き、投函をするのが仕事だが、気に入らない手紙は送らずに捨ててしまっている。

(ドーラ〈フェルナンダ・モンテネグロ〉)
ドーラ - コピー.jpg
Image credit:Youtube

 そんな彼女が、ジョズエの母親の別れた夫にあてた手紙の代筆をきっかけに、母親が死んだジョズエを、彼の父親の元へ送り届けることになる。

(代筆を頼むジョズエの母とジョズエ〈ヴィニシウス・デ・オリヴェイラ〉)
代筆を頼むジョズエの母 - コピー.jpg
Image credit:Youtube

(母を亡くしたジョズエ)
ドーラを見つめるジョズエ - コピー.jpg
Image credit:Youtube

 万引きをしたために撃ち殺される人、養子縁組をすると称して引き取った子供の臓器を売る犯罪組織。

 ドキュメンタリー出身のウォルター・サレス監督は、ブラジルの大都会の、人の命が軽んじられる乾いた混沌を容赦なく描く。

 その一方で、旅に出たドーラとジョズエが出会う、雄大な風景、敬虔な信仰心や人々の温かさ。

雄大な自然 - コピー.jpg
Image credit:Youtube

教会の前のドーラとジョズエ - コピー.jpg
Image credit:Youtube

 旅を通じて、良心を忘れかけていたドーラから、優しさが少しずつあらわれ、ドーラを信じていなかったジョズエの黒く大きな瞳も、年上の友達に対するいたわりを宿していく。

旅の途中のドーラとジョズエ - コピー.jpg
Image credit:Youtube

眠るジョズエに寄り添うドーラ - コピー.jpg
Image credit:Youtube

 手紙を書いてもらう人々の、受け取り手を思いながら語るときの、喜びや悲しみ、ひとつひとつの表情も、人生を物語る。
代筆を頼む人1 - コピー.jpg
代筆を頼む人3 - コピー.jpg
代筆を頼む人2 - コピー.jpg
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代筆を頼む人4 - コピー.jpg
Image credit:Youtube

 (昔、人から聞いたうろ覚えの記憶なのだが、撮影のためにフェルナンダが代筆屋として座ったときに、素人の人々が次々と彼女の前にやってきて手紙の文面を語り始め、監督はそれを撮らせてもらったというエピソードがあった気がする)


 音楽もとても美しい。

ちょうど、最初はぽつりぽつりと書き記していた言葉が、やがて心の奥底から溢れ出る思いの流れになっていくような旋律。

ブラジルの音楽家ジャキス・モレレンバウムとアントニオ・ピントの名作だ。

(映画のサウンドトラック)


(作曲者二人による演奏動画)

※この曲は、2016年のリオ・オリンピック開会式で、自然保護活動の映像のBGMとして使用された。

(映像と音楽に合わせてブラジルの詩人カルロス・ドルモン・デ・アンドラーデの詩を朗読しているのはフェルナンダ・モンテネグロとイギリスの大女優ジュディ・デンチ〉)(ワシントンポスト記事より

この映画と音楽は、公開から約18年後の2016年も、ブラジルの人々の誇りであり続けたのだ。



Official Content From Sony Pictures Home Entertainment

【参照】

「9月は劇場公開もプレミアムシネマも話題作が続々! セントラル・ステーション ほか 【渡辺祥子のシネマ温故知新】」2022.09.01 NHK HP 記事


(ウィキペディア記事)





ラベル:おすすめ動画
posted by pawlu at 12:04| おすすめ映画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年07月27日

映画「フィールド・オブ・ドリームス」(1989年アメリカ映画)あらすじと2021年メジャーリーグゲームの動画ご紹介


 映画「フィールド・オブ・ドリームス」は、農場を経営する男レイ(ケビン・コスナー)がトウモロコシ畑で聴いた不思議な声に導かれ、畑の中に、今は亡き野球選手たちのための野球場を作る物語。

(トレイラー)





〇序盤あらすじ


 ある日の黄昏時、自分のトウモロコシ畑で謎の声を聞いた農夫レイ(ケビン・コスナー)。


「それを作れば、彼はやってくる」


(「謎の声」のシーン)


 声の正体は?


 「それ」とは?


 「彼」とは?


 戸惑っていたレイだが、やがて再び彼の目に浮かんだ光景。


 それは、トウモロコシ畑の中の野球場。そして、そこに佇む、白いユニフォームの男。


 かつて、八百長試合に加担したとして、球界を追われた「シューレス(裸足の)・ジョー」。


 男手一つで自分を育ててくれた、今は亡き父の英雄だった選手。


 自分のトウモロコシ畑に野球場を作れば、あの世からシューレス・ジョーがやってくる。


 そう感じたレイは、自分でもほとんどわけがわからないまま、予感に導かれ、野球場を作る。


 どうかしているという隣人たちの目をよそに、畑を半分潰して作り上げた、空の野球場。


(野球場を作る)



 きっと何か起こる。


 そう信じて待つレイと、彼の願いを聞いて、野球場作りを後押しした妻のアニー。


 しかし、季節が移り替わっても、何も起こらず、収穫が減ったために、レイの農園は経営難に陥る。


 野球場はおろか、家を手放さなければいけなくなるかもしれない。


 ある夜、帳簿を前に苛立つレイに、幼い娘のカレンがふいに声をかけた。


 「野球場に誰かいるわ」 


 窓の向こう、トウモロコシ畑にを背にした野球場に、男が立っていた。


 暗がりにもほの白く光るユニフォームの、シューレス・ジョー。


 興奮を抑え、球場に出ていったレイ。


 ジョーは、レイが彼のために、この野球場を作ったと聞くと、自分と同じように、八百長事件で球界を追われたまま世を去った選手たちを連れてきて、野球の練習をしたいと言った。


 そして、野球場を去るとき、振り向いてレイに言った。


 「ここは天国か?」


 「いいや、アイオワだ」


 レイたちに見送られ、トウモロコシ畑に入って行くシューレス・ジョー。


 その姿が、人よりも背の高い、青々としたトウモロコシの列に透けて、消えていった。




 これで、予言を果たした。


 亡き選手たちがトウモロコシ畑の野球場で練習に興じる様に、目を細めていたレイだったが、その彼に、再び「声」が語り掛けてくる。


 「彼の苦痛を癒せ」 


 いったい何のことなのか、「声」に問い返しても、返事は無い。


 レイのなすべきことは、まだ終わっていなかった……。




〇見どころ

※中盤の一部ネタバレ動画が含みます。



 現実を超越した展開の中に、果てしなく広がるトウモロコシ畑の緑、アメリカと共にありつづけた野球の力、夫婦、親子の絆が織り込まれた、1980年代アメリカ映画の最高傑作です。


 主演のケビン・コスナーが、いつもの男性的な魅力を抑えて、普通の生活を送る中年農夫を好演。
 エイミー・マディガンも、レイの突拍子もない夢を、多くを聞かずに支える、妻アニーの懐深さを自然に演じています。

(中盤、町の会合に出た彼女が、レイを変人扱いした女性を舌戦で叩きのめす場面は見ものです。)



 さらに、レイが聞いた第二の「声」の後、登場する作家テレンス・マン(『ライ麦畑で捕まえて』のサリンジャーがモデル)役にジェームス・アール・ジョーンズ(※)、たった一イニングしか試合に出られなかった「ムーンライト・グラハム」の、引退後の姿をバート・ランカスターが演じるなど、演技派俳優たちが脇を固めており、その豊かな表現力(そしてそれを丁寧にカメラに収めた構成)が感動を後押しします。


(テレンス・マンとの観戦)


(※)NHKのシネマコラムによると、このアール・ジョーンズはダース・ベイダーの声を演じているそうです。確かに非常に独特の、低音と余韻漂う響きの声で、ある場面での彼の語りは、映画の山場の一つとなっています。


 バート・ランカスターは、当初「ここより永遠(とわ)に」(1953)などの、ワイルドな役で成功をつかみましたが、やがて重厚な演技派へと転身し、ヴィスコンティ監督作の「山猫」では、落日迫る貴族の誇りと悲哀を演じきった伝説的名優です。







 「フィールド・オブ・ドリームス」は、彼の最後の劇場映画出演作となってしまいましたが、ただ歩き、佇み、微笑み、振り向くだけで、場面に暖かくせつない情感が広がる、その圧倒的存在感と演技力に目を見張ります。


(ムーンライトグラハムとの出会い)



(個人的な思い出なのですが、彼がこの翌年出演したテレビ映画「オペラ座の怪人」での彼の名演技に、はじめて「映画を観て泣く」という体験をし、その後「フィールド・オブ・ドリームス」を観て、完全に「映画好き」になったので、自分にとって特別な存在の役者さんです。)


 生きることの苦さや後悔を知りながら、人生に輝きとぬくもりを見出す、この時期のアメリカ映画特有の世界観が、優れたストーリー展開や、演技、音楽、映像美に結実した名作です。
 結末部は、「アメリカ映画史上最も心打たれる場面」と言っても過言では無いと思います。ぜひご覧ください。



(2022年7月24日追記)

 2021年、映画の舞台となった、トウモロコシ畑の中の野球場で、メジャーリーグの試合「The MLB at Field of Dreams Game」が開催され、ケビン・コスナーがセレモニーに登場しました。

 映画の美しいテーマ音楽とともに、トウモロコシ畑から出てくるケビン・コスナーと、彼に続いて野球場に出てくる現役の選手たち(映画の中の天国からやってくる往年の名選手になぞらえている)の動画も話題となりました。

 (握手を交わす選手たちと、ケビンコスナーの、それぞれに感慨深げな表情が心に残ります。この映画を胸に、選手になった人たちも多かったはず)

 このメジャーリーグのイベントは2022年も8月11日に開催される予定です。







(動画ロングバージョン、ケビン・コスナーのナレーション付き〈※ネタバレ注意、映画の結末シーンを含みます〉)
Kevin Costner leads Yankees and White Sox from cornfield onto the Field of Dreams | FOX SPORTS

※ブログ記事公開日:2017年12月21日、最終更新日:2022年7月27日







(参照記事)


・NHKシネマコラム「豪華名優が集結!ダース・ベイダーの声の人も! フィールド・オブ・ドリームス」坂本朋彦 


・MLB at Field of Dreams game 2022年のMLB記事




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