2010年01月20日

エドガー・アラン・ポーのオススメ作品(2)


The Fall of the House of Usher and Other Writings: Poems, Tales, Essays, and Reviews (Penguin Classics)

The Fall of the House of Usher and Other Writings: Poems, Tales, Essays, and Reviews
(Penguin Classics)

  • 作者: Edgar Allan Poe
  • 出版社/メーカー: Penguin Classics
  • 発売日: 2003/04/29
  • メディア: ペーパーバック




(Amazonから添付させていただいたポーの英語本の表紙です)

※この本、表を上にして、そこらに置いておくと、家族から苦情が出ます。コワいから。

※余談ですが、イギリスの本の表紙は、妙に生々しいのが結構多く、現代ホラーものなど、本屋で見かけただけで、軽く具合が悪くなってしまうものもあります。

(この本よりもっと、リアル惨状を、カラフルに、質感重視で【……】描いてある感じ。)


前回にひき続き、作家エドガー・アラン・ポーのオススメ作品について書かせていただきます。


※かなりネタバレなので、「かまわんよ」という方だけお読みください。

今回ご紹介するのは、「告げ口心臓」と「天邪鬼」。

それぞれ別の作品ですが、構成は「黒猫」に似通うものがあります。

殺人を犯した男の回想、なぜその犯罪は白日のもとにさらされてしまったのかが語られるという展開。

殺人に至った動機が、ほとんどわからないのは、「アモンティリャアドの酒樽」に近いかもしれません。

※「黒猫」「アモンティリャアドの酒樽」については前回の記事でご紹介させていただいています。


(こちらもネタバレなので、あらかじめご了承ください。)

動機がほとんど書いてない、といっても、いわゆる「殺人鬼」とはまた少し違った感じです。

単に動機が「あまり書いてない」のです。

作者が意図的に、描写の取捨選択をしたのでしょう。

しかし、そこが逆に、「うっかり殺意を抱いてしまった」とも読めてしまい、背筋が寒くなるのですが。

「黒猫」が、一番小説としてよく出来ているのですが、
(「天邪鬼」の冒頭部、「天邪鬼という心理ついて」言及している部分を読みきるには、結構努力が要ります。「膨大な前置き」に感じられてしまう……。)

それぞれの作品で、犯人が破滅してゆく理由が違い、いずれもポーの人間心理に対する深い洞察力が見られます。



「告げ口心臓」(The Tell-Tale Heart)

※岩波文庫『黒猫』内では、「裏切る心臓」というタイトルになっています。これも洒落ていますよね。

主人公は、老人を殺害した男。

(関係は明らかではありませんが、親族なのか、比較的近しい間柄のようです)

彼は死体を床下に隠し、警官が捜索に来た際には、大胆にも、その部分に椅子を置いて座り、警官相手に談笑します。

ところが、そのさなか、男の耳に、ある奇妙な物音が響きはじめます。

「どこから」、「なんの」、音が聞こえているのか。

それに思い至ったとき、男は、必死に平静を装い、会話を続けようとしますが、音は耐えがたく大きくなってゆき、とうとう男の演技を打ち砕きます。


男の焦燥を描写した文には、たたみかけるような迫力があります。

これは、英語で読んでも勢いを感じられました。

(わたしの英語読解力ですら)

ほかのは、いっちいち辞書引かないと読めないので、せっかくの名文も、こま切れどころか、たまねぎ超えのみじん切り状態で、シクシク泣きながら読んでますが……。

(「たまねぎ」だけに)

短いですし、ムズカシ単語もそう多くないので、「黒猫」の次に、英語テキストとしてもオススメです。


「天邪鬼」 (The Imp of the Perverse)

※Imp=「小悪魔」 Perverse=「ひねくれた」
(ジーニアス英和辞典参照)

「告げ口心臓」同様、近しい間柄の人間を殺した男が主人公です。

(こちらは遺産目当てのようです)

事故死に見せかけて、計画殺人を遂行した男。

当初は犯罪の隠蔽に鉄壁の自信を持っていたにもかかわらず、次第に発覚を恐れるようになります。

そして、

「ばれるわけはない、自分でうっかり口にしてしまうようなまねをしなければ」

と、思ってしまったときから、秘密を話してしまうかもしれないという怯えが暴走し、文字通り、自分で自分の首を絞める行動にでてしまいます。



「黒猫」もそうですが、「告げ口心臓」や、「天邪鬼」の主人公たちは、彼らの「油断」や「後ろ暗さ」や「口を滑らせはしないかという不安」によって破滅します。

このような心理は、殺人に至る憎悪や欲望よりも、よほどありふれていて、だからこそ、多くの読者に繰り返し息をのませます。

そして、行為には同情の余地がないにもかかわらず、結末には人間の哀れさがにじみ出るのです。

こうした、「自分の心の中の隙」を突いた作品に感銘を受け、洋の東西を問わずに、ミステリ及び恐怖短編をそれなりに読み漁った時期があったのですが、どうも、現時点では、ポー以外こうしたテーマを扱っている作家が見つけられないでいます。

(乱歩に、一部近いかなと思われる作品がありますが。)

人が危害を加えられる残忍な有様の恐怖と、こうした、人間心理をえぐった作品の迫力はまた別物で、それゆえに、ポーの作品は、彼の没後から今に至るまで、そしてこれからも、広く読み継がれていくのだろうと思います。


BBCのLearning Englishという英語勉強ページに、ポーの記事が(彼のお葬式のエピソード)あったので、URLを添付させていただきます。

http://www.bbc.co.uk/worldservice/learningenglish/language/wordsinthenews/2009/10/091012_witn_poe.shtml

このLearning English、色々な記事や英語勉強クイズなどもあって、すごく面白お役立ちなので、よろしければ他のコーナーも色々のぞいてみてください。

(というか、このページ自体のことを、もっと早くにご紹介するべきでした。気ぃきかなくてもうしわけない……。)

Learning EnglishのHomeのURLは下記のとおりです。

http://www.bbc.co.uk/worldservice/learningenglish/




「天邪鬼」「裏切る心臓(告げ口心臓)」を収録した岩波文庫『黒猫・モルグ街の殺人事件 ほか五篇』の情報は下記のとおりです。


黒猫・モルグ街の殺人事件 他5編 (岩波文庫 赤 306-1)

黒猫・モルグ街の殺人事件 他5編 (岩波文庫 赤 306-1)

  • 作者: ポオ
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1978/12
  • メディア: 文庫



posted by Palum. at 18:56| おすすめ文学作品(英米) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

エドガー・アラン・ポーのオススメ作品(1)

黒猫と酒


前回の記事で、作家エドガー・アラン・ポーのご紹介をさせていただいたのに引き続き、オススメのポーの小説を、二回に分けて紹介させていただきます。


※かなりのネタバレなので、作品をこれからお読みになりたい方は、今回と次回の記事はご覧にならないでください……。


「黒猫」(The Black Cat)

わたしが子どものころ図書館で読んだ、最初のポー作品。

酒で身を持ち崩した男が、次第に暴力的になり、まず飼っていた黒い猫を殺害。

後悔から新しく飼うことにした黒猫をも殺そうとして、猫をかばった妻を殺害してしまいます。

それまで、おとなしく優しかったはずの男が、すっかり豹変し、計算高く妻の死体を隠しますが、あと一歩で完全犯罪になったはずの罪は、ささいなきっかけで暴かれてゆきます。

この話、タイトルは「黒猫」ですが、別に殺された猫や、二番目の猫が、化けて出て復讐するわけではありません。

猫に殺意を抱くのも、恐怖を覚えるのも、すべて酒の魔力に溺れてしまった男自身の心がなせる業。

そして、妻の死体の在り処を明らかにしてしまったのも、自分の大胆さに酔った男が、警官たちの前で自らとった、ある行動によるもの。

彼は誰にも襲われていないのに、彼に訪れるのは破滅。

男のひとり語りの、怯え、湿った声の響きが耳に残る心地がします。


と……いうわけで、何度読んでもうなる傑作なのですが、子どもには、奥さんの死体の挿絵と、猫の、長く尾をひく鳴き声の描写があまりにもおそろしく、その後、長きにわたり、ポーはむしろ、「読まないほうがいい本」となりました。



「メエルシュトレエムの底へ」(A Descent into the Maelström)

海の大渦巻に巻き込まれた漁船の人々の運命を描いた作品です。

大渦巻の底に、船が徐々に滑り落ちて飲まれるまで、刻々と迫る死を前にした人間の心の動き。

大渦巻きは、咆哮を上げながらも、月光と虹に彩られ、滑らかな黒檀に似たものとして描かれます。

もう、助かる望みは無いと思い切ったとき、恐ろしさを突き抜けた主人公は、その圧倒的な自然の壮麗さにうたれ、また強烈な好奇心が沸き起こって、飲み込まれていく物たちの姿を、冷静に分析するのです。

ポーは、どうも、酒に溺れたすさんだ生涯をおくったという伝説ばかり注目されてしまうのですが、作家としての彼は、人間と自然に対する、徹底的に研ぎ澄まされたまなざしの持ち主に思われます。

余談ですが、「恐怖のあまり一晩で髪が真っ白に」という、よく聞くエピソードを最初に読んだ作品でもありました。



「アモンティリャアドの酒樽」(The Cask of Amontillado)

主人公の男は、とある裕福な友人に殺意を抱きます。

そして、謝肉祭の賑わいの最中、希少な名酒「アモンティリャアド」を手に入れたと偽って、泥酔した友人を自邸の地下の酒蔵に誘い込み、閉じ込めて殺害します。

なぜ、そこまで友人が憎かったのかの理由の描写は、ほとんどありません。

どうも、主人公はもともとは名家の主人で、没落してしまったようですが、それについて、友人に責任があるわけでもなさそうです。

ただ、その友人から侮辱を受けたと書いてあるだけです。

描写は、殺意を抱くまでではなく、それを実行している人間の姿に集中しています。

友人を鎖で縛り、壁の向こうのくぼみに閉じ込めるために、石を積み上げ続ける男と、酔いがさめて、生き埋めにされつつある事態に気づいた友人の、鎖の音と呪いの声が、暗闇にうごめく作品です。

スプラッタな場面はないのですが、マイ人生史上最恐小説となっております……。

それでいて、ポーの作家としての描写力、構成力には感嘆せざるを得ない。

ところで、昔、西欧では富裕な旧家の場合、邸宅の地下に一族の墓所を持ち、その側にワイン蔵があることについては、特に珍しくなかったんでしょうか。

何度読んでも、酒蔵の先に、人骨が並んでいるエリアがあるように読み取れ、しかも被害者となる友人も、泥酔しているとはいえ、それを認識しながら先に進んでいるので、当時は別に普通だったのかなと不思議なのです……。

この家で、「下からお酒、持ってきて」と、頼まれたら……。



今回と次回の記事の参考文献は以下のとおりです。

(次回は「天邪鬼」「告げ口心臓」をご紹介させていただきます。)

【参考文献】 
●『ポオ小説全集4』(創元推理文庫)丸谷才一訳 

「黒猫」・「アモンティリャアドの酒樽」・「天邪鬼」(次回紹介)収録

※江戸川乱歩による「探偵作家としてのエドガー・ポオ」という作家論も収録されています。

●『黒猫』(集英社文庫) 富士川義之訳

「黒猫」・「メエルシュトレエムの底へ」収録

●『黒猫 モルグ街の殺人事件 他五編』(岩波文庫)中野好夫訳。



ポオ小説全集 4 (創元推理文庫 522-4)

ポオ小説全集 4 (創元推理文庫 522-4)

  • 作者: エドガー・アラン・ポオ
  • 出版社/メーカー: 東京創元社
  • 発売日: 1974/09/27
  • メディア: 文庫




黒猫 (集英社文庫)

黒猫 (集英社文庫)

  • 作者: エドガー・アラン ポー
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 1992/05
  • メディア: 文庫




黒猫・モルグ街の殺人事件 他5編 (岩波文庫 赤 306-1)

黒猫・モルグ街の殺人事件 他5編 (岩波文庫 赤 306-1)

  • 作者: ポオ
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1978/12
  • メディア: 文庫



posted by Palum. at 14:41| おすすめ文学作品(英米) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年01月18日

エドガー・アラン・ポー


本日(2010年1月18日【月】)NHKのBShiで、23:25から0:55まで「プレミアム8」で、作家エドガー・アラン・ポーの特集番組がやるそうです。

番組表URLはこちらです。
http://cgi2.nhk.or.jp/hensei/program/p.cgi?area=500&date=2010-01-18&ch=10&eid=23426

去年2009年は、ポー生誕200年だったとか(生没年1809〜1849)。

ポーはアメリカの詩人で小説家、作品「モルグ街の殺人」は、世界最初の推理小説とも言われています。

ポーの作品世界の多くは、恐怖に彩られていますが、大人になって読み返すと、その恐怖には独特の個性があるように思われます。

その恐怖の源泉は、流血や猟奇の様相よりむしろ、誰の心にもある、自分でも気づかないほど小さな、しかし底知れないすき間。

それにより静かに起こり、あるいは崩れてゆく犯罪。

通いなれた道で、思いもかけない路地の暗闇を見つけたときのように、息を呑む瞬間がそこにあります。

また一方で、詩人の才能を生かした文体は、恐怖やおぞましい光景に、謎めいた美をかすかにまとわせています。

もしかしたら、このような作品を描けた人は、まだ彼と、(作風は違いますが)彼を崇拝していた江戸川乱歩(※)しかいないのではないのでしょうか。

(※)乱歩のペンネームは、ポーの名前に漢字をあてたものです。

個人的に名作だと思うのは、(たくさんありますが、とりあえず)

「黒猫」
「メエルシュトレエムの底へ」
「アモンティリャアドの酒樽」
「告げ口心臓」(「裏切る心臓」と訳された本も)
「天邪鬼」
です。

次回記事でこれらの作品の紹介をさせていただきます。

posted by Palum. at 20:42| おすすめ文学作品(英米) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする