2013年09月03日

Fisherman’s Friends(イギリスの男性コーラスグループ)

「夏目漱石の美術世界展」についてもう少し書かせていただく予定だったのですが、パソコンの調子が悪くなってしまい、そうこうしているうちに終わってしまいました。すみません(汗)。
でも、漱石×美術については、日を改めて書かせていただきます。十月には漱石の愛した英国画家ターナーも来ますし。

今日は是非ご紹介したいイギリス発の音楽とグループを見つけたので、こちらについて書かせていただきたいと思います。
まずはこの動画をご覧ください



少し曇った、緑の崖の海辺を歩く、10人のがっしりした中年男性。いかにも実用的な黒いジャケットやコートを着て、連れだって歩きながら、歌う。
10人の声を力強く、繊細に重ねて。
 波を眺め、風に目を細め、互いにいたずらっぽく笑い合い。
 しかし、その心躍る音の中に、どこか、聴くものの心をせつなくさせる一筋の余韻をたなびかせて。
 このコーラスグループの名前は「Fisherman’s Friends
 イギリス南部のコーンウォール地方(※)にあるポートアイザックという小さな海辺の村出身で、その名の通り、歌の仕事のほかに兼業で、漁師、沿岸警備隊、ライフセーバーなど海に関わる仕事をしている人々です(インディペンデント誌の記事によると、皆さん更に農家、陶芸家、大工等々もいまだに【2013年8月現在】兼業中だそうで、そのためにアメリカツアーのオファーを諦めたそうです)。
そしてかつてヨークシャーに住んでいたお一人を除き、みんなが昔からのご近所さんだそうです。
(余談ですが「Fisherman’s Friends」でネット検索かけると、同名のお菓子が出てきます。なんでもフリスク的な超メントール味タブレットだとか。察するに重労働の漁師の眠気覚ましといった意味合いなのでしょうね。このグループ名がそこにかかっているかどうかはわかりませんが)
彼らの得意とするのはSea shantiesと呼ばれる、海の男の労働歌。
 そのせいでしょうか。先ほど触れたとおり、その曲と声は聴く人の心を元気にしながら、人生の哀歓を感じさせます。
 ちなみにこの「Mary Anne」という歌は海に生きる男が愛しい女性に向けて歌っている歌のようで、youtubeでこの歌を紹介している方のコメント(南ウェールズの方)をそのまま引用させていただくと、ケルト及びアイルランドの伝統音楽を下敷きにしているそうです。
 こういう歌を、波に立ち向かって働き、また帰路パブに集って一杯やりながら皆で歌う。
 それが昔ながらのコーンウォールの男たちの風景だったのでしょう。

彼らのHP内にそういう雰囲気が凝縮された感じの動画があったのでよろしければこちらも併せてご覧ください
 
 余談ですが、そういう日常に溶け込んだ歌を歌うせいか、彼らの歌うときの服装や姿勢も結構カジュアルです。ライブ映像を観ても、お互い肩を組んだりジーンズのポケットに手を突っ込んでたり【ビール缶渡したら躊躇なく飲みながら歌いそう……と、思ってたら本当にそうしている動画もあった】……あんな立ち方であの声量というのがとても不思議ですが、日ごろ肉体労働で全身鍛えているおかげなんですかね。
日本も地方に海や畑で働く人の胸にしみる曲と声が残っていますが、こうして現役のオジサンたちがカッコよく歌って売れちゃうところがイギリスの非常にうらやましいところです。
 思い込みと言えばそれまでかもしれませんが、彼らの声にも顔つきにも、なんとなく、海というおおらかで残酷なものを相手にしている人々の、したたかさと悲喜こもごもを内に秘めた厚みを感じます。
 いやホント、間奏でダン!ダン!という音に合せてメンバーのそれぞれの顔が映る場面(動画2:25〜)がとてもいいんです。一見コワモテのようだけれど、その声同様、質実なまなざしの奥に、奥深い温かみと落ち着いた頼もしさとがあり、フツウに「顔」というより「風貌」「面構え」とでも形容したくなる感じです。
 なかなかこんな、ずっと見ていたくなるようないい顔のオジサンたちがずらっと並ぶ映像って無いような気がします。
 歌が良いのは勿論として、この映像を作った人は彼らの総合的な魅力をとてもよくわかっていると思いますね。
 ちなみに、彼らは私が心より敬愛し、時折紹介させていただいている合唱団指揮者ギャレス・マローンさんが2010年、BBC(英国国営放送)の「Shanties and Sea Songs With Gareth Malone」というドキュメンタリーで、このジャンルの歌を取材した際に、パフォーマンスを披露したそうです。 そして、ITVという民放で2年前には彼ら自身のドキュメンタリーが放映され、地元ポートアイザック(それにしても驚くほど絵になる村です。緑の崖が優しい青の内海をとりかこみ、その緑のまあるい両手のうちに家々が身を寄せ合っているような。本当に、水彩画で「こんなとこあったら素敵だろうなあ」と誰かが想像しながらさららと描いたみたい)での海に生きる男として暮らしや歌の活動が紹介されたそうです。
 というわけなので……もしもこのブログをNHKのどなたかが観ていてくださったら、どうか是非、その2010年のギャレスさんのドキュメンタリーと、この「Fisherman’s Friends」の番組の両方を放送してはくださらないでしょうか。きっといい味出してるでしょうから……。(なんて、ここでぼそぼそつぶやいていてもダメですよね。HPにリクエストしてみます。あるいはギャレスさん大好きNHKのこと、もうとっくに準備が進んでいるかも)。
彼らの曲を聴くと個人的には舞台版「War horse」のサウンドトラックを思い出します。(一部紹介動画はコチラ【上から三番目の画像をクリックしてください】、アコーディオンとともに歌われる風のような音楽。こちらもとてもとてもおススメです。動画では流れていませんが「Leaning to plough(鋤を引くことを習う)」という曲が特に雰囲気が似ています。)War horseの舞台はデボン、同じくイギリス南部で、これも労働歌を元に作った曲だからかもしれません。
 イギリスのこうした音楽は、胸の内を温かく湧き立たせるのに、もれなく涙腺がつんとなります。なんででしょうね(日本だとなぜか沖縄・奄美の音楽にそれを感じる)。彼らの古い歴史に、苦難と、そのなかでもたくましく生き抜こうとする生き様があったのでしょうか。調べてみたいところです。

なにはともあれ一聴き惚れ(一目ぼれ的に)して、このグループのことを取り急ぎ調べてみたところ、上記の彼らの経歴のほかに、ごく最近不幸な事故に見舞われたということを知りました。
2013年2月に、ステージの準備中だった彼らに、大きな鉄製の扉が倒れてくるという事故があり、メンバーの一人Trevor Grill氏と、マネージャーのPaul Mcmullen氏が巻き込まれて亡くなったそうです。
Daily mail誌の記事
彼の写真を見たところ、どうも「Mary Anne」でリードボーカルとして歌っている方のようです。
亡くなった氏はその歌声もグループ内の中核を成す存在で、さらに先ほど述べたとおり、昔馴染みの非常に結束の固いグループであった彼らに、この事故は大きな打撃となりました。
それでも、活動を続けることにした彼らが、Trevor氏に捧げるためにこの8月にリリースしたアルバム「One and All」。
悲しい話ですが、トレバー氏が亡くなる直前にレコーディングされたもので、先ほどご紹介した「Mary Anne」の動画は彼が亡くなる三週間前に収録されたものだそうです。(Independent 誌の記事より)
確かに冒頭、一列に並んでいるメンバーは10名です。
そして今は9名。

この魅力的な音楽と映像についてご紹介したいがために調べていたら、これが、思っていた以上に深い事情をもってしまった作品だと知りました。
そうと知ってしまってから聴くと、曲それ自体が持つ一抹の哀調のほかに悲しい気持ちにもなります。
でも、彼らの、優しくたくましくどこかせつない歌声に聴き惚れ、チャーミングな映像の中に、温かな結束を感じて勇気をもらったということ。
私はそちらを大切に思うことで、Trevor氏とこの素晴らしいグループを支えたマネージャーの人生を讃えたいと思います。
読んでくださった皆様にも、この歌と映像を好きになっていただければ幸いです。

(※)コーンウォール……イギリス南部の一地方、明るい海の色と白い崖を覆う緑の草原が特色の風光明媚な場所。その美しさは浦沢直樹の傑作漫画「Master Keaton」にも紹介されている。
ちなみにこの地方のセントアイヴスという観光と芸術で有名な町に行った記事を過去に書かせていただいているので、よろしければ併せてお読みください。本当に素敵なところでした。
posted by Palum. at 14:27| イギリスの文化 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年06月10日

デヴィッド・アッテンボローさんのサイン会


Life on Air -
Life on Air -


本日(2011年6月10日【金】)、ケンブリッジ(町)の、書店ウォーターストーンで、ディヴィッド・アッテンボローさんの本のサイン会があるそうです。

詳細はこちら、WarterstoneHPのイベントページでご確認ください。

アッテンボローさんはイギリスの自然番組プロデューサーにして、名ナレーター、ケンブリッジ大卒の動物学者でもある御方です。

2016年90歳になられたアッテンボローさんの誕生日記念動画はコチラです。



ナレーションのみご担当されることもありますが、ご自身で取材に行った番組も生き生きとした構成で実に魅力的です。



お兄様は監督であり俳優のリチャード・アッテンボローさん。お二人ながらに素敵な英国紳士です。

陶芸がお好きな方に情報を補足させていただくと、ルーシー・リーのコレクターであり、紹介者のお一人でもあります。

御年は既に80代ですが(2011年時点)、今も精力的に仕事をこなされ、今回はあの方のラジオでのお仕事についてのご本の出版記念イベントのようです。

とまあ、盛りだくさんなかたです……。

わたしがイギリスに滞在しているときに、アッテンボローさんがナレーションをなさっている自然番組を拝見し、あの方の、聞き取りやすく暖かで力強い語り口に感動いたしました。

こんな風に、相手が知らないことを、心の奥底まで届く話し方が出来るようになりたいと思ったものです。

で、ホストファミリーに、この声の方がどなたかをうかがったら、上記のようなことを教えてくださったのですが、どうも私の中で「学者で番組を作る人で、こんなにテレビで巧みにしゃべる人」というのがうまくつながらず(イギリスのドキュメンタリーには多い形式だと後で知りました。おそらくそういう番組の型を作られた功労者のお一人だと思います)、

「……聞き間違えたかな(汗)とにかく素敵なナレーションだ」
と思っていたときに、サイン会イベントのニュースを聞きつけました。

 なにせ、イギリスの人はみんながみんな
「あの人は素晴らしいかただ」
とおっしゃるもので、是非一度肉眼で拝見したいと、まあ、完全なるミーハー気分で同じくウォーターストーンに出かけました。

数日前に本を購入して整理券を頂き、当日再び出向くと、書店内会場は長蛇の列(階段まで人が並んでいた記憶があります)。老若男女さまざまな人が早くから並んでいらっしゃいました。

自分の番が近くなったころに、ようやくお姿が見えました。アッテンボローさんは、来場者一人一人に、声と同じ、心に響く力強い瞳を向け、丁寧に挨拶をなさっていました。

このとき、感性が相当鈍い上に、「いい声の自然番組の人」と、ファンの方にはぶっとばされそうなくらいぼやけた知識で出向いた私にすら、

「これが、オーラとかカリスマとかいうものか……!」

という、なにやらただならぬ気配が、あの紳士から燦然と放射されているのを確かに感じました。美輪様流に申し上げると透き通った金色のオーラです。あれだけ予備知識が無いうちから目がくらみました……。

あわわ……(古風なうろたえ方)となりつつ、イギリス最高の紳士の眼前に立たせていただき、緊張のあまり冷たーくなった両手で本を差し出しました。

私にも、優しく挨拶をしてくださったアッテンボローさんは、本に挟んだ付箋に書かれた私の名前(サインに書き添えていただく用)を、あの声で読み上げてくださいました。

「ニ、ニホンカラキマシタ……」
「そうだと思いましたよ」
「オアイデキテ、光栄デス……」

練習しておいたフレーズを、どうにか言い終えた私に、アッテンボローさんは穏やかでくっきりとした声でおっしゃいました。

「こちらこそ、来てくださって、ありがとうございます」

笑顔でまっすぐ私を見据えながら、ぎゅっと握手してくださったそのアッテンボローさんの瞳と全身からは、サンタクロースと賢者を足して二で割ったような、温かで威厳に満ちた輝きがありました。

あの瞬間は、わたしのイギリス滞在時のハイライトのひとつ、忘れがたいです。

あれ以来、「ものすごい御方だ……。」と、もっとアッテンボローさんのことを知りたくなり(泥縄式)、そして知れば知るほど眩しい存在になって、今に至るというわけです。

ギャレス・マローンさんもそうですが、こんな雰囲気を身に着けたい、あのお人柄に一歩でも近づきたいという憧れの人物がいてくださるというのは、とても有難いことです。

あれ以来、冗談抜きで怒りの沸点が下がりましたよ。みみっちいこと言ってると余計遠ざかるな、と、思うので……。

「ったくよォ」と人生や世間にやさぐれたくなったとき、あの暖かな賢者の瞳が頭によみがえるのです。そして、魚や、カメや、虫や、クジラ、あらゆる生物の真剣な命の輝きを語るあの声が、私の名前も「!」がつくような力強い声で呼んでくださったという光栄な瞬間が。

と、いうわけで、イベント後、ホストファミリーに、いかにアッテンボローさんがお声そのままにチャーミングな紳士であったかをたどたど説明させていただいたら、
「あの方は、みんな自分と同じだと思っているんだよ。だからあんなに丁寧なんだ」
と、教えてくださいました。

社会的地位にも年齢にも国籍にもとらわれずに「人と人」として、もっと言うなら「命と命」として(なにせ受賞スピーチで、取材協力をしてくれた爬虫類たちにもお礼をおっしゃっていましたから……。)誠実に接するということを、何十年も続け、それが知性と勤勉さと合わさったとき、ああいう、温かにして厳かな気品が生まれるものなのですね。ひとつ利口になったとつくづく思います。

余談、別のイギリスの知人に、「あの方のしゃべり方は本当に魅力的ですね」と申し上げたら、その人は
「あの人が言うと『砂漠があっという間に湖に』とかでもみんな納得して聞いてしまう。普通は疑いそうなことも、あの人の声だと、全イギリス人が『なるほどなあ』と思ってしまう。もしもあの人が政治家だったら危なくてしょうがない」
と、イギリスらしいジョークを披露してくれました(笑)。


posted by Palum. at 07:24| イギリスの文化 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年05月14日

今週の日英週末エンタメ情報


 本日は取り急ぎご紹介まで 

@ケンジントンドールズハウスフェスティバル 

 今週末(2010年5月14日金曜日〜16日日曜日)ロンドンにいらっしゃる方にお知らせです。

 ドールハウスのすべてが集う一大イベント、ケンジントンドールズハウスフェスティバル(Kensington Dollshouse Festival)が今年も開催されます。
 
 わたくし、ロンドンの知人の案内で、去年参りましたが(お土産購入のため)非常〜!に面白かったです(注、入場料がかかります)。

 目ん玉飛び出しそうな美術工芸品から、カワイラシイお菓子やパンのミニチュアまで、種類も価格もさまざま。

 よろしかったら前回書かせていただいた記事(コチラ)も併せてお読みください。

 わたしの過去記事の中で「イギリスの怪物番組『Dad's Army』」と並ぶ長文(したがって知人たちに不評)でしたが……ひとことでは語りつくせない衝撃だったんですよ……。

 ご多忙とか、今いらっしゃる国が違うとかで「行けるかーっ!!(江頭氏ジャンプ風)」という方も、よろしければ公式HP(コチラ)はご覧になってみてください。

 掲載されている作品群の、繊細で心温まる世界は、一見の価値があると思います。


A今週の刑事コロンボ
 
 本日(2010年5月14日金曜日)BSハイビジョンの「刑事コロンボ」(22:00〜23:40)、「仮面の男」の犯人役はパトリック・マクグーハン氏です。
(すみません、今日まで気づかなくて……【汗】)

 しつこいほどに主張している、僕的刑事コロンボ三大傑作のひとつ「祝砲の挽歌」でも主演、あの!(独り力む)ラムフォード大佐を演じ、複雑にして孤高のキャラクターで「名犯人」といわれた御方です。

(たしか、DVDの解説に書いてあったことばだと思うのですが……出典が不明瞭で申し訳ないのですが、大変あのかたにふさわしいと思うので引用させていただきます)

 ウィキペディア記事いわく、コロンボ役のピーター・フォーク氏の盟友だそうですが、素晴らしい演技力。

 キャスト見てはじめて「あ?同一人物か!」と思うほどです。

(彼と、ロバート・カルプ氏【※】は、外見の雰囲気までごっそり変えてしまうので、すぐには気付かないんですよ……。)

【※「指輪の爪あと」「アリバイのダイヤル」「意識の下の映像」の三作品で犯人を歴演(?)した演技巧者。

緻密な犯罪隠蔽工作をしながら、ときに垣間見せる、焦燥に駆られた表情にどことなく色気がある。

刑事コロンボの「犯人とコロンボの静かなる頭脳戦」の構図の典型のような人です。】

 さらに来週金曜日(2010年5月21日22:00〜23:30)のBSハイビジョンでの刑事コロンボは「魔術師の幻想」です。

 犯人役はジャック・キャシディ氏。

 マジシャンが自分の過去を明かそうとした男を殺害、マジックのトリックを利用してアリバイ工作をします。

(ところで、彼の役名は「サンティーニ」、アメリカの伝説のマジシャン、フーディーニのもじりですかね。)

 マジックショーという舞台設定、彼の個性的な風貌も相まって(くっきりと大きな目と、なめらかな額の線が印象的、マジシャンの服装と口ひげがよく似合う)、刑事コロンボの中でもとくに、どことなく古風な雰囲気が漂う作品です。

 たとえるなら、江戸川乱歩の推理物が持つ、謎めいた雰囲気のような。

 彼は「構想の死角」「第三の終章」でも犯人を演じています。

 外見上、上記二人よりは同じ役者さんだと気付くのが、早いのですが、やはり見事な演じ分けです。

 コロンボを煙に巻く、マジシャンの技とミステリアスな台詞回しが、見ごたえあり。

 個人的には、彼が犯人役を演じた三作の中で、最も彼の魅力が引き出されている作品なのではないかと思います。


 余談ですが、この回のコロンボの吹き替えの台詞、なんだか普段よりユルくて面白いです。

(呼びとめられた際の、「コロンボよ〜」とか「なんだってば〜」とかがなんとなく。【え?僕マニアックですか?】)


posted by Palum. at 18:48| イギリスの文化 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年11月19日

the Kensington Dollshouse Festival (ケンジントンドールハウスフェスティバル)

ドールハウスの食材1 ジャムタルト作り途中。(台に散らした、片抜き中の打ち粉【抜き型に生地がくっつかないようにふる粉】のリアリティがツボ)
ミニ食材.jpg

ドールハウス食材2 ドライフルーツケーキ、ソーセージロール(ひき肉入りミニパイ)
ミニ食材2.jpg


(要約文)
ロンドン、およびその近郊に今(2009年11月19日)いらっしゃるかた。

今週土曜日(2009年11月21日)にご予定がなければ、こんなイベントに遊びに行くのはいかがでしょうか。

ケンジントンドールハウスフェスティバル(the Kensington Dollshouse Festival)。

ドールハウス作家さんたち(イギリス人に限らず色々な国から参加)が、各自ブースで作品を展示販売(一部展示のみ)するイベントです。

なんと約170のドールハウス作家さんの売り場が並び、大きな会場の3フロアが(階段や通路にいたるまで)ドールハウスグッズでぎっちり埋め尽くされます。壮観。

夏の回(2009年5月15〜17日)に行ったのですが、可愛らしくてリーズナブルな食材のオモチャから、豪華な家具と家まで観られて、とても面白かったです。

売り場に入場するだけでも有料なのですが、博物館などに行く感覚で、何も買わなかったとしても、文字通りイギリス暮らしと美意識(と凝り性な性格【笑】)の縮図を楽しめると思います。

(今回は一日のみの開催で、クリスマス商戦に絡んでいるので混んでいるかもしれません。

わたしが言ったときも十分盛況でした。

【なので、会場の雰囲気は和やかだと思いますが、スリや迷子にはお気をつけて!】。)

チケットを予約するという方法もあるようで、価格は10ポンドです。

(わたしが5月のイベント時に、当日券を買った際は6ポンドだったのですが、今回はこの価格ではないのか、単に当日券情報が無いのかは、正確な情報が見つけられませんでした……)

ロンドンの地下鉄駅High Street Kensington(Circle & District Line【路線名】)から歩いて約三分と、アクセスも良いです。

誰かへのお土産に良し、自分のイギリス暮らしの思い出に良し、話の種に良し、これぞイギリスというものをご堪能できます。

ケンジントンドールハウスフェスティバルの公式HPアドレスは以下のとおりです。

(行か【れ】ない……という方も、よろしければご覧になってみてください。嘘!?という緻密さと質感の、芸術的ドールハウス作品の画像は一見の価値ありです。)

http://www.dollshousefestival.com/ 

2009年11月21日は 午前10時30分〜午後5時まで開催。
(トップページには主催者情報も掲載されています)

同ページの会場へのアクセス情報コーナーです。
http://www.dollshousefestival.com/location.htm

同ページ最新情報コーナーです。
http://www.dollshousefestival.com/KDF-news.htm

(本文)

2009年五月、ロンドンの友人と一緒に、ケンジントンドールハウスフェスティバルに行ってきました。

日本の友人のお子さんたちにお土産を買うためです。

とはいえ、フェスティバルのHPで見た作品群は、お子さん向きのお土産というより、マニアの世界……。

イギリスでは、ドールハウスは大人の愛好家も多く、ウィンザー城には、今でも1920年代にメアリー女王に贈られたという、高さ約1メートルの超緻密で豪華なドールハウスが展示されています。

(なんでもこの女王のドールハウスがきっかけで、縮尺1/12が一般的になったとか。)

※ウィキペディアに、このメアリー女王のドールハウスの解説(英文)と画像があったのでご覧ください。


http://en.wikipedia.org/wiki/Queen_Mary%27s_Dolls%27_House

わたしもウィンザー城に行った際に、このドールハウスを見たことがあるのですが、美しいインテリアの豪華なお部屋もさることながら、台所や、使用人の人々がタオルやシーツなどの備品を管理する部屋なども、きちんと作られていたように記憶しています
(撮影不可でしたのでちょっと曖昧です【汗】)。

きれいなだけでなく、当時の上流階級人々の家での暮らしを知る上で、非常に重要な資料だと思いました。

まあ、そういうわけで、イギリスでのドールハウスは、「オモチャ」では片付かない存在のようです。

以前、旅先でドールハウスのお店をのぞいた際も、細かい花模様のついた、大きめの千代紙のようなものがバラ売りされていまして、ナニコレと首をかしげていたら

「ヴィクトリア朝時代様式の壁紙」

と判明しました。

ウチのドールハウスはヴィクトリア朝風にしよう。

だから壁紙はコレ、二階の家の娘さんのベッドルームはピンクバラの花模様にしましょう、イソイソ。

……みたいな感じで、当時のインテリアを勉強したり、手間も元手もそれなりにかけて、緻密な世界観を構成していくのでしょう。

もちろん、手作り感満点の、気軽に飾るカワイイもの、あるいは子どもが遊んで楽しめるものもあります。


このケンジントンドールハウスフェスティバルでは、そのどちらも堪能、購入できるのです(一部展示のみの品や、オークションで落札する品もあります)。

会場に足を踏み入れて、びっくりしたのはその規模でした。

人が二〜三人立てばギューギューな感じの小さな売り場に、主に黒いビロードを敷いて、所狭しと小さな作品が並べられています。

それが3フロア分。

ある程度は、目当てにめがけて歩かないと、時間も集中力も足りなくなるかもしれません。

フェスティバルに陳列させた作品は、コンセプトとなる時代から値段から、実に千差万別。

概して、食材専門、家具専門、家専門、など、作家さんによって商品が分かれるようでしたが、さらにたとえば、家具なら

「アール・ヌーヴォー調」
「カントリー調」
「ロココ調」

など、時代考証に沿って忠実な家具が並び(お店の方が『どこそこ様式』と教えてくださいます)、

食材も、パンやワインやチーズ、ケーキなどさまざまです。
(中には、「さっき猟で獲ってきました」的なキジやウサギなども)

気軽に手土産にするなら、この、食材ミニチュアがお値段もお手ごろでいいのではないかなと思います。

(ただし、本当に小さなお子さんに差し上げる場合には、向かないと思います。

概してものすごく忠実なつくりなので、大人が見ても食べたくなってしまいそうなのです。)


わたしが観て目をひんむいたのは、下記のような商品です。

(※2009年5月参加の作家さんの作品です。同じ方が参加し、同様の商品を作っていらっしゃるとは限りませんのでご了承ください)

・イタリアはフィレンツェ製の様式の家具。テーブルの天板に寄木細工模様つき。

(たぶん、実在のアンティーク家具のレプリカかと。
言いたかないけど、我が家の人間用家具より高い。というか、数個買える)

・ふわふわのリアルな、手のり大犬

(HPで画像をご覧になれます。スモールライトで縮められたみたいなディテール)。

・実物大にしか見えない、銀細工のティーセットなど、昔の貴族の銀器のレプリカ。

(ご親切に触らせてくださいましたが、銀製のずっしりとした重みが、感動とともに心臓にめりこみました。

うわあ、美術館にあるよこんなの!というのが、ちーさくなって、トンと掌に乗っているのですから……)

・小さなシャンデリア照明。

(細かなクリスタルガラスがいくつも下がり、配線できちんと明かりがつく。
それが、売り物だから、クリスマスツリーの飾りのように、いくつも下がってキラキラと輝いている。)

・石の天板に金の流線型の足がついたテーブルの上に、フランス風のお菓子が数十個並んでいる置物。

(ピンクやグリーンのマカロンやプチシューの組み合わさったお菓子とか、フルーツタルトとか、チョコケーキとか)

……これ実にカラフルで見事な質感(平たく言うと滅茶苦茶旨そう)でした。

これを我が家に飾って、わたしを含めた甘党一族の心の慰めとしようかと、相当真剣に考えましたが、個人的には相当いいお値段したのと、さすがにそれはどうだろうという理由で断念。

でも本当においしそうだったです。

パティシエ用語よく存じ上げないのですが、チョコのクルンとした飾りとか、ジャムの艶出しとか技法まで再現されていて……。

ケーキ屋さんのショーケースの飾りにしたら最高だと思います。

まあ、あれに負けない、色鮮やかでデザイン性に富んだケーキを並べないとなんですが。

・ルーペの下にある赤ちゃんの小指の爪並みの糸巻き。

(のぞきこみましたが、ちゃんと厚く糸が巻かれているようでした。その他の裁縫道具も同じ縮尺で忠実に作られている)

・幅5cm程度の鳥かご。中にインコやブンチョウ在住。

(鳥かごのミニチュアは過去にも見たことがありますが、この忠実な再現度合いは驚異でした。
網がほっそくって、鳥餌のお皿や、餌粒の散らばりまで見られた記憶があります。
また、イマドキの鳥かごと違い、フォルムの凝った優美なつくりのものもありました)

・一円玉並の小さなお皿に乗ったフルーツとクリームをこっそりつまみぐいする子ネズミ。

(イチゴもキウイもバナナも本物みたいにしっとり透けて、ネズミの鼻先ピンク。ほっぺにクリームつけてました)

・直径2〜3cmの鉢に植わった、イギリスの季節の花々。

(紙製なのでしょうか。ミリ単位の造詣で、ランやバラ、水仙などが作られていましたが、土が盛られ、鉢のへりにコケが生え、メインの花の根元に、小さなパンジーやクロッカスが咲いているのです。
イギリスのガーデニング好きの人が、楽しみながら考え、季節と色の取り合わせを考えて作る鉢そのままでした)


ばほ〜……。(あまりの見事さに、魂クチから抜け音)

感激で、いくらため息をついても足りないぐらいでしたが、ため息どころか鼻息で吹っ飛びそうなものばかりでしたから、どこを歩くにも息は止め気味です。

値段の高低に関わらず、その物をとりまく時代や、使われているときのストーリーがこもっているようで、覗き込むたび、物たちがそれを語り始めて飽きません。

別に子どもでなくても乙女でなくても、人間には小さくてカワイイ物を愛でる謎の本能があるようです。

小さなもののすぐれた造形を集中して眺め、作り手の技術や、コンセプトをつくづくと味わっているとき、妙に愉しい。

(実際、このフェスティバル、大人比率が非常に高かったです。)

中国清王朝の富を一手に掌握した乾隆帝も、手のひら大の美術工芸品を集めた、通称「皇帝のおもちゃ箱(※補注1)」を愛でられたというし、

江戸のべらんめえで鉄火肌の男たちも、根付(タバコ入れなどの紐につけた細工物【帯に紐をはさんで下げたときのすべり留め】、象牙や木製で、装飾性に富み、現代のキーホルダーの感覚に近い【※補注2】)で、極小の細工を施したお猿だの犬だの布袋様だのをぶら下げて大事にしていたのですから。

(そして、後に各国のコレクターたちが、その小さくてかわいいものを集めて掌に載せて、ムフフと喜んでいたのですから)

わが身で実感しつつも謎の心理ですが、小さくて繊細なものには、人の心を強く吸引して楽しませる、「なにか」が確かにあるようです。


この、妖精の仕事のような作品の作者さんたちや、こんなかわいらしいものを集めにはるばるやってくるお客さんたちとことばが交わせたのも、とても楽しい思い出になりました。

食材専門の作家さんのブースで(かわええんですよ……切り分けられたチーズとか、小さなフルーツポンチとかが夢のように並んでいる……)お土産として、2cmくらいのマーマレードの瓶を選んでいたときのことです。

「あら、かわいい、ちょっとだけお借りしてもいいかしら」

と、おばさまが話しかけてこられました。

お渡しすると、おばさまは

「このマーマレードの瓶、わたしも欲しいのだけれど」

と、瓶を見せながら、作家のおじ様におっしゃりました。

おじ様はしばらく探したあと、

「マーマレードは売り切れですね、ジャムなら……」

と、おなじような大きさの瓶を見せておいででした。

「残念、マーマレードでないのなら諦めるわ」

と、おば様がおっしゃるもので、わたしはどちらでも良かったものですから、

「あの……」

と交換を申し出ようとしたら、おば様は急いで、

「いいのよ!あなたはそれを日本に持ってお帰りなさいな!わたしはまた来られるのだもの!」

と、おっしゃり、どうやらこのフェスティバルの常連作家さんらしきおじ様も、

「次回は、マーマレードの瓶を作って持ってきますね」

と笑顔で私たちをご覧になりました。

なんだか、そのやりとりから、

「ジャムではなくマーマレード!」

ときっちりこだわるおば様のドールハウスの台所や、
おじ様の

「この瓶にジャムを詰めて、こちらにはマーマレード……」

と、小さなガラスの瓶に、可愛い色の液を詰めて、指先ほどの小さな小さなラベルを貼るお姿などが目に浮かびました。

それは、いままでわたしが想像もしなかった、世間の心豊かな一面です。

別の売り場でミニチュア家具を眺めているときに、側に立った初老の女性が作家さんに

「懐かしい。これは、わたしが子供のときに遊びに行った伯母の家にあった棚にそっくりだわ」

とおっしゃっていたのも印象に残りました。

時代考証をきっちりして、確かな技術で作品を作りあげる作家さんと、古いものを代々大切にするイギリス人の感覚があってこそのやりとりでしょう。



さて、お土産として、小さなパンや野菜やハムなどをコロコロ買い込んだのち、
(作家さんたちの直売なので、梱包が、作家さんのお宅で個人的に取りおいておいたらしき、お菓子の空き箱のようなものだったりするのも微笑ましい)、わたしは自分土産として、上掲画像の食品を購入しました。

いずれも、お料理上手なホストマザーがよく作っていらっしゃったものと同じメニューで、これを買って帰れば、見るたび、台所に立つホストマザーの姿を思い浮かべられるだろうと思ったので……。

そんなわけで、

「夢のように愛くるしい見た目に、おとといきやがれな価格」

というのもありますが、疎いわたしでもリーズナブルと思えるものもあり、
(日本のドールハウス事情を知っている友人に値段を話したところ、どうやら、わたしがフギャーと思ったものも、おやと思ったものも、概して品質を考えると、お買い得な値段設定の模様。
言うなれば直売ですから、そうかもしれませんね)、

とにかく見るだけで本当に楽しめるので、
(頼まれのお買い物のつもりが、没頭してしまいました。一緒に歩いてくれた友人の忍耐に感謝)、ご興味のあるかたは足を運んでみてはいかがでしょうか。


(再添付)
ケンジントンドールハウスフェスティバルの公式HPアドレスは以下のとおりです。

http://www.dollshousefestival.com/ 

2009年11月21日は 午前10時30分〜午後5時まで開催。
(トップページには主催者情報も掲載されています)

同ページの会場へのアクセス情報コーナーです。
http://www.dollshousefestival.com/location.htm

同ページ最新情報コーナーです。
http://www.dollshousefestival.com/KDF-news.htm

(補注※1)「皇帝のおもちゃ箱」

「多宝格」という故宮博物院の文物のひとつ。

故宮博物院のHPに写真があったので、添付させていただきます(日本語解説)。

http://www.npm.gov.tw/exh96/imperial_collection/subject01_ja.html


(補注※2「根付」)

ロンドンのヴィクトリア・アルバート博物館【The Victoria and Albert Museum's】には日本の根付の素晴らしいコレクションが所蔵されています
(そのほかの日本の工芸品も気絶しそうになるほど精巧で美しい)。

コレクションの一部が見られる博物館のHPのコーナーを発見しましたので添付させていただきます【展示されているとは限りませんのでご注意ください】)
http://collections.vam.ac.uk/search/?offset=495&limit=15&narrow=0&q=japanese+&commit=Search&quality=0&objectnamesearch=&placesearch=&after=&after-adbc=AD&before=&before-adbc=AD&namesearch=&materialsearch=&mnsearch=&locationsearch

posted by Palum. at 19:26| イギリスの文化 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2009年10月30日

英国式「聖☆おにいさん」(?)

ロンドンのギフトカードショップで購入したジョークカード(と、最新刊の「聖☆おにいさん」の表紙)。

※権利問題等なにか侵害してしまうといけないので、ちょっとぼかさせていただきました。
カードと本.jpg



ギャグマンガ「聖☆おにいさん」(中村光著講談社モーニングKC)の四巻が2009年10月23日に発売になりました。

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聖☆おにいさん(4) (モーニングKC)

聖☆おにいさん(4) (モーニングKC)

  • 作者: 中村 光
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2009/10/23
  • メディア: コミック





ご存じない方のために内容をご説明させていただくと、神の子イエスと、目覚めた人ブッダが、東京・立川のアパートで共同生活をする「最聖」ぬくぬくコメディです。
(なんでも、世紀末のゴタゴタを乗り切った後の有給休暇だとか)

ブッダとイエスは、有給のお金(二人合わせて26万)を切り詰めつつ、ひっそりつつましく暮らしているつもりなのですが、なんのかんので本人たちの望まない奇跡が発生し、騒動になってしまうのです。
(例、二人が困っていると、動物たちがどこまでもサポートしてしまう。ついうっかり後光を放ってしまう、などなど)

このコンセプトの漫画を、超不謹慎ととるか、究極の平和な世界ととるかは、人により大きく評価が分かれるところでしょう。

わたしは後者の意見なのですが、古風な人間でもあるので、もしかして怒られるかなと少々ビクビクするときも。

しかしまあ、発売されるや否や、各書店の売り場にどっかんどっかん平積みされているところをみると、日本の漫画好きのかたがたは、大抵わたしと同意見なのでしょう。

こういう、本来不可侵の題材を敢えてパロディにする際にありがちな、目立ったモン勝ちと言わんばかりに、社会にも題材にもケンカ売る姿勢とは全く違い、著者中村光さんは、作品内で、お金持ちではなくても、結構楽しく暮らせるのどかな日本と、優しく仲良しな二人の「ぬくぬく」感を醸すことを、一貫して心がけておいでのようです。

4巻続けて、タチの悪いおふざけになっていない、さじ加減は実にお見事。

この姿勢が、「和むけれど大爆笑」というわけで、作品の大ヒットにつながったのではないでしょうか。


ところで、この漫画、「日本でしか成立しない」と(確か雑誌『ダ・ヴィンチ』だったかと)言われていますが、日本国外で唯一、この感覚を解するかもしれない場所があります。
それはイギリスのごく一部のユーモア界……。

(※と、言っても、うっかり人前で宗教を話題に【特にジョークに】しないようにしてください、念のため。たとえ気心が知れて、ことばの壁を感じなかったとしても、この種の話題は、海外で特に気をつける必要があります。かえすがえすも「ダ・ヴィンチ」のご指摘どおり、原則あのユーモアは日本でのみ成立しうるのです【いきなり真顔文章すみません】)。

元々イギリスは、イエス・キリスト最後の日々を描いた「ジーザスクライストスーパースター」や、旧約聖書を題材にした「ジョゼフ」など、宗教を題材にして、娯楽作品を作ることについてわりと寛容です。
(このミュージカル二作については前にも説明させていただきました。大胆ですが、決して不真面目ではなく、素晴らしい作品です)。

また、英国ロイヤルファミリーを笑いの題材にするような感覚(こちらは、その笑いの質の高低は千差万別ですが)も持ちあわせているので、イギリスはイギリスで、聖書やイエス・キリストをあれだけ大切に敬いながら、こっそり笑いの舞台に登場させていることがあるのです。


あるカード(画像中央)では映画「十戒」でも有名な、旧約聖書の聖人モーゼが海を割るシーンが描かれています。

エジプトで虐げられていたイスラエル人を救うために、彼らを率いてエジプトから出て行く際、エジプト王の軍勢に追われるも、神がモーゼたちのために海を二つに割り、人々はその海にできた道を通って逃げおおせるという場面です。
(旧約聖書出エジプト記14章15節〜)

……で、どうやらカード内では、人々が
「ちょっと(海が割れて出来た道が)ぬかるんでいる」
と苦情を言って、モーゼさんをカチンとさせてしまっているみたいです。

また、「群集の中、少年がパンと魚の乗った皿をイエス・キリストにさしだしている」という絵もあります(画像右上)。

これは、本来は、イエス・キリストを慕った五千人もの群集があとについてくるのをご覧になったイエスが、彼らに食事をさせてあげたいとお思いになった際に起こした奇跡の場面です。

イエスご一行が持っていた食料は、少年が彼らに捧げた五つのパンと二匹の魚だけだったのですが、イエスが神に祈りを捧げて、食料を分け始められたところ、五千人に十分な食べ物がいきわたり、なお余りあったというのが聖書の記述です。(新約聖書ヨハネ伝6章一節〜)

このような、比較的リアルな絵柄で聖書の一場面を描いたカード自体は、教会によく売っています。聖書の場面を子供たちがお勉強できるように作られたものかと。

でも、これはジョークカードですので、よくみると、パンと魚をのせた皿を持ってきた少年に対し、イエスが、

「いいえ、わたしのは『ハーブで覆われたタラと、ロケット(※)とパルメザンチーズのサラダです(※別名ルッコラ【サラダに用いられるハーブの一種】)』

と、レストランでお客がウェイターに言うようなセリフをおっしゃっています。

この「一見教会のカード風」は、近寄ってセリフを読んでみると、おなじみの場面が、全然違う状況に変えられていてキョーレツです。

余談ですが、「聖☆おにいさん」の一巻その8の中で、イエスがお魚の絵とコッペパン的なパンの絵とに、それぞれ「×2、×5」とついているカワイイシャツを着ていますが【マニアックですみません】、この伝説にちなんだものです。
(シャツはシルクスクリーンでブッダが作っている)

こんな感じのデザインでした。

奇跡シャツ.jpg


あれと、「知らない×3(※)」シャツは、ブッダのシャツの「仏顔×3(仏の顔も三度まで)」同様ちょっと気になります……。

(※イエスが捕らえられた際、ペトロが「お前も彼の仲間だろう」と指摘され、「わたしは彼のことなど知らない」と三回言ったという伝説に基づく。「ジーザスクライストスーパースター」の中では、忠実な弟子が、心の弱さから師を裏切ってしまい後悔するという、ものすごく切ない場面なのですが……)

別のカード(画像右下)ではイエス・キリストが「泳げない人フル装備」姿で海に向かっています。

これは、キリストの弟子たちの乗った船が、湖上で大風に見舞われた際、イエス・キリストが、水の上を歩いて弟子たちを助けに行かれたという話に基づくものです。(新約聖書マタイ伝14章22節〜、ほか)

カードのなかでは、最初に水の上を歩かれた際、キリストはあまり自信をお持ちでは無かった、というような描かれかたをされています。

(これは買わなかったのですが、「スポーツジムのウォーキングマシンで運動する人々の間で、一人、ウォーキングのベルト部が水面なイエス・キリスト」という図案のカードもありました)

このユーモアセンスが一番「聖☆おにいさんに」近い気がしますね。

イギリスではよくカードショップを見かけますが、このような「英国版聖☆おにいさん」のようなもの以外にも、色々変わったユーモアが入っているものをかなり見かけます。結構楽しめるので、のぞいてみるといいかもしれません。
posted by Palum. at 01:11| イギリスの文化 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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