2016年11月30日

再放送のお知らせ「スリーパーズ 眠れる名画を探せ」

本日は取り急ぎお勧め番組再放送のお知らせです。

2016年12月2日(金)午前9時〜10時55分より、BSプレミアムで、NHKプレミアムカフェ選「スリーパーズ 眠れる名画を探せ」という番組が再放送されます。(3日午前2時45分より再度放送あり)
番組情報は以下の通りです。
http://www4.nhk.or.jp/pcafe/x/2016-12-02/10/317/2315531/(番組HP)
http://www.nhk.or.jp/docudocu/program/3599/2315531/(放送情報)

 高い価値がありながら、さまざまな理由でそのことが忘れ去られ、うずもれていった「スリーパー」と呼ばれる名画を探し出し、その真価を明らかにする画商たち。

 その中でも優れた目利きで、「美術界のシャーロック・ホームズ」と呼ばれるフィリップ・モウルド(Philip Mould)氏の活動と、スリーパーとなった絵画の数奇な運命を紹介した番組です。(日本では2004年に初回放送)

 フィリップ・モウルド氏はイギリスの美術番組では非常に有名な人物で(日本の中島誠之助さんポジション)、「なんでも鑑定団」のモデルになったと思われるイギリスの長寿番組「Antique Road Show」の鑑定師の一人として登場したり、絵画の真贋鑑定をめぐるスリリングなドキュメンタリー(本当に面白い!!)「Fake or Fortune?」のメインプレゼンターの一人としても活躍しています。

「Fake or Fortune?」トレーラーのモウルド氏


https://www.youtube.com/watch?v=oT7d9Mnsn-U


 安値で売りに出された絵が、実は歴史的価値のある名画で、価値が大きく膨れ上がるという展開も、数々のくすんだ絵から、豊富な知識と第六感で、それを見つけ出すという画商たちの鑑定眼にも惹きつけられますが、そうしたドラマに絡む、美術界と絵画の歴史の裏事情も非常に面白いです。

 彼が書いた「スリーパー 眠れる名画を競り落とせ」にも、こうした逸話が紹介されていました。

眠れる名画―スリーパーを競り落とせ! -
眠れる名画―スリーパーを競り落とせ! -

 とりあえず本の中のモウルドさんのお話しで個人的に「そうなの!?」と思ったのはこんなエピソード。
(いくつかはテレビの中でも紹介されると思います。)

 1、オークション前に展示される絵のうち、時代を経てほこりなどで汚れてしまった作品のオリジナルの色をみるために、指につばをつけて目立たない場所をこすることが黙認されている。

→ものによっては数百年の月日の間に醤油で煮しめたんかというほど汚れる作品もある。つばでこすると、濡れている間だけ、レンズの役割を果たし、もとの色彩が垣間見えるそうです。
このため、もしやこの絵は名画なのでは?と思わせる作品ほど、複数のオークション参加者がこっそり文字通り「つばをつけて」確認する事があるそうです。

2、名門オークション会社(サザビーズ、クリスティーズなど)といえども、数多く寄せられる作品が、本当に名のある作者のものかを、オークション開始前に見極められるとは限らない。

→ゆえに価値があいまいな作品の説明には「〜とされる(Attributed to)」とか「〜派の(School of)」「〜工房の(〜 Studio)」などというぼやかした表現が使われ、ときには、作者の名前の一部をイニシャルにすることで、それが確実ではないことを示すそうです。(オークション会社の説明書きで「ジョン・コンスタブル作」と書いてあれば確実性が高く、「J・コンスタブル作」だとそれより確率が下がるんだとか。わからんがな)

3、昔の人はけっこう平気で絵をいじりたおす。

 →これぞ「スリーパー」が生まれる原因の一つ。我々の感覚では完成した絵画はもはや第三者が手を加えてはならない存在ですが、飾るにあたってサイズが大きすぎるとか、もっと好みの絵にしたいとかいう理由で、わりと気軽に絵を切ったり継ぎ足したり、上から違う背景や衣装を描いたりしたそうです。(ヒイイ……)

4、オークション会社は、オークションで作品が落札された後、その会社の見立てと実際の絵の出自が大きく異なることが判明した場合、作品の出品者の申し立てを受け、ある程度の補償金を支払うことがある。

 →オークション会社が「名もなき絵画」と鑑定し、そうした評価で安値で売りさばいた絵が、モウルド氏のような人物によって、改めて分析され、スリーパーとして莫大な利益をもたらしたとき、このようなやりとりがありうるんだとか。
(でも短時間に大量の絵画を鑑定する中で、お醤油煮みたいな絵画を精査するのは物理的に難しいから、このリスクは避けられないとのことです。)

 5、絵の汚れや後世の書き足しを「洗浄」してオリジナルの姿を取り戻す際に用いる薬品の中には、兵器レベルの毒性を持つものがある。

 →修復士がその薬品を使ったがために、(防毒マスクをしていたのに)後日アレルギー性の皮膚の腫れに何日も悩まされたということがあったそうです。

 このように「スリーパー」の真の姿を見出すまでには、多くの手間と時間を費やし、しかも結果たいしたものが出てこなかった場合、書き足しがあった元の絵以下の価値に成り下がるのですから、いろいろな意味で危険があるといえます。
(そんなことをする手間は省けないからオークション会社は絵の価値を追求しきれないのでしょう。)

 モウルドさんたちは己の見立てを信じて絵を競り落として持ち帰り、数々の調査や洗浄作業で時間とお金を費やすというリスクを冒して、賭けに出るわけです。

 歴史の流れと大金に翻弄されながら、真の姿を現す名画と、それを追う人々の姿を知ることができる番組です。是非ご覧になってみてください。

 読んでくださってありがとうございました。

posted by Palum at 21:36| 日本の海外テレビ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年09月25日

(※ネタバレあり)犬とイルカの友情(ナショナルジオグラフィックチャンネル「動物界の意外なお友達2 犬と野生動物の強い絆」より)

 先日、ナショナルジオグラフィックチャンネルで、素晴らしい番組が放送されていたのでご紹介させていただきます。

「動物界の意外なお友達2(Unlikely animal friends) 犬と野生動物の強い絆」です。

 犬と野生動物の間に生まれた友情を、実際の映像と周囲の証言をもとに紹介している番組です。
(犬たちの行動について、カリスマドッグトレーナー、シーザー・ミランが分析、解説。)

 番組公式情報HPはコチラです。
「動物界の意外なお友達 2(原題:Unlikely Animal Friends 3)」

 http://www.ngcjapan.com/tv/lineup/prgmtop/index/prgm_cd/1017(放送予定)
 http://www.ngcjapan.com/tv/lineup/prgmepisode/index/prgm_cd/1017(各回エピソード)

 ロバ、熊、鹿、キツネといった、犬と種族を超えて友情を築いた動物たちの中に、陸と海の垣根すら超えて、犬と友達になったイルカのお話がありました。

(明日2016年9月26日〈月〉18:00〜19:00のナショナルジオグラフィックチャンネルでは、同シリーズで、「 人間と動物の特別な関係 (Man's Other Best Friend) 」という人と他の野生動物の友情物語が紹介されるそうなので、併せて御覧ください。)

 以下、番組で紹介されていた犬とイルカのお話です。
(結末までネタバレなのでご了承ください。また、10月3日、10月4日放送の「最愛のベストフレンド」という傑作選回で、この二頭のエピソードが再放送される模様です。詳細は上記URLをご覧ください。)

 二頭のエピソードを紹介している「National Geographic」の記事はこちらです。(動画付き)

 http://video.nationalgeographic.com/wild/unlikely-animal-friends/ben-the-dog-and-duggie-the-dolphin?source=relatedvideo

 アイルランドのニュースを扱った「Irish Central」で引用されていた、二頭を取材している動画はこちらです。
 「Tory Island dog swimming with dolphin」(投稿者Franklin Sinclair)
 
https://www.youtube.com/watch?v=l2vU8U0j_4E

http://www.irishcentral.com/news/amazing-footage-of-a-dog-playing-with-a-dolphin-off-the-coast-of-ireland-video-127888298-237406421

 アイルランド、トリー島でホテルを経営するパトリックさんの愛犬ベン(薄茶のラブラドールレトリバー・鼻はピンクがかっており、顔はうっすら鉢割れ模様で、額の中心から鼻先にかけてが少し白い。)と雌のイルカ、ドゥギィの友情が始まったのは2006年のことでした。

 ある日、パトリックさんが購入したばかりの船にイルカがついてくるという出来事がありました。

 そして後日、パトリックさんがベンと埠頭近くを散歩をしていたときに、ベンが急に埠頭に降りてゆき、海に飛び込みました。

 そこへ姿を現したのがドゥギィ。

 彼女はベンの周りを回るように泳ぎ、そこから、この二頭の風変わりな友情は始まりました。

 何度も埠頭に訪れるドゥギィと、それをどうやってか察し、住まいのホテルから数百メートル先の船着き場まで走ってゆくベン。

 海に飛び込むベンと、彼と一緒に泳ぐドゥギィの交流は、島で評判となり、島の人々はその姿を見ようと埠頭に集まりました。
(その中にニコニコしながら二頭を見つめ、アコーディオンを演奏するおじさんがいて、アイルランドらしい風情がありました。)

 イルカは、仲間と遊ぶときに、水中で泡をポコポコと相手に向かって吹きだすことがあるのですが、ドゥギィは、泳ぐベンの体の下にもぐって、体を垂直にし、この泡を吹きだすしぐさを何度もしていました。

 「なんかめずらしーものがいる!」と、寄っていく犬と、「しょうがないわねえ」と、向こう見ずな犬が寄ってきてもとりあえず危害を加えない野生動物、という状況を超えて、ベンとドゥギィは明らかに互いにコミュニケーションをとっていたのです。

 泳ぎの得意なベンはどこまでもドゥギィと一緒に泳ごうとし、ときには3時間も海にいたことがあるそうです。

(レトリバー犬はもともと水鳥専門の狩猟犬なので水を怖がらないことが多いのです。)

 そして、ドゥギィを追って沖に行ってしまい、さすがに疲れてしまったベンに気づくと、ドゥギィは、仲間の疲れたイルカにそうするように、泳ぐベンの下にもぐりこみ、頭でベンの体を支えながら、岸辺まで運んでくれたそうです。

 ベンとドゥギィの友情は約4年続きましたが、2010年から、急にドゥギィが何らかの理由で、埠頭に姿を現さなくなりました。

 島の裏側ではイルカの姿が目撃されていたのですが、埠頭に戻ってくる気配はありません。

 それでもドゥギィを待ち続けるベン。

 パトリックさんは、ベンを船に乗せて、晴れた日の夕暮れ、島の裏側に行ってみました。

 すると岩場近くの波間にイルカの姿が見えました。

 途端に船から身を乗り出して吠えるベン。そわそわと歩き回り、海に飛び込もうとしました。

 パトリックさんはベンを一生懸命おさえました。ベンが泳ぐには波が荒すぎたのです。

 身を乗り出すベンのそばに立ち、ドゥギィの背びれを指さすパトリックさん。その指先を一心に見つめるベン。

 この夕暮れの出会いが、ベンとドゥギィの別れとなりました。

 翌年の冬、ベンは車にひかれてこの世を去ったのです。

 ベンのことを振り返るパトリックさんは、その死について語った後、一度きゅっとくちびるを噛むと、静かな、暖かな声で言葉をつづけました。

 ベンは特別な犬でした。ベンのような犬は、まずいないでしょう。私たちがドゥギィのことを話すと、いつも聞き耳を立てていました。ドゥギィが大好きだったのです、と。

 
 この番組では語られていなかったのですが、なぜドゥギィが埠頭に通うようになったのかについて、島でこんなうわさがあったそうです。

 ドゥギィが来るようになる直前に、島の岸辺近くでイルカの死体が見つかるという出来事があり、もしかしたら、あれは彼女の夫だったのではないか。ドゥギィはその死を悲しみ、彼を探しに来たのではないかと。

(Irish Central記事より)

 ドゥギィが訪れなくなった理由はわからないままですが、埠頭かその途中の道のりが安全でなくなったか、新しい家族ができて、連れていくことはできなかったのかもしれません。

 いずれにせよ、事情を抱えてふいにその場所を訪れた誰かと、その場所の住人が友情をはぐくみ、訪れた側がそこから離れた後も、その場所の住人は深い思いを胸に、相手を待ち続けるという物語が、イタリアの名作映画「イル・ポスティーノ」を思い出させ、単に仲良しの動物同士という構図を超えて心に染みます。


イル・ポスティーノ [DVD] -
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 島の夕暮れ時の金色に染まる海や、パトリックさんの優しさも美しい。
 (ドゥギィを待って芝生に寝そべるベンの黄昏時の姿や、埠頭にたたずむベンが海風をうけて、小さめの耳をひらひらさせているのも妙に胸に迫る。)

 ベンはドゥギィが来るときにはそれを察して何百メートルも歩いて埠頭に向かっていたそうですが、ドゥギィにもこの不思議な力が備わっていたのでしょうか。

 彼女はベンがこの世を去ったことを知っているのでしょうか。

 昔、ドゥギィを追って沖まで泳ぎ続けたベンの下に潜り、頭で彼を支えるようにして岸まで連れて行ってくれたドゥギィ。

 ベンがこの世から彼岸に旅立つとき、ドゥギィが彼の魂を支えて、海の向こうの天国へ連れて行ってくれたのだろうか、そうであってほしい。

 そう、思います。

 ぜひ番組や引用させていただいた記事で、この風変りだけど心温まる、そしてせつない友情のお話をご覧になってみてください。

 読んでくださってありがとうございました。



(参照)
・「Irish Central」
「Amazing footage of a dog playing with a dolphin in Ireland (VIDEO)」
(Cathy Hayes September 09, 2016)
http://www.irishcentral.com/news/amazing-footage-of-a-dog-playing-with-a-dolphin-off-the-coast-of-ireland-video-127888298-237406421

・「National Geographic」
「UNLIKELY ANIMAL FRIENDS Ben the Dog and Duggie the Dolphin」
http://video.nationalgeographic.com/wild/unlikely-animal-friends/ben-the-dog-and-duggie-the-dolphin
posted by Palum at 14:38| 日本の海外テレビ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年09月16日

クリスティのフレンチ・ミステリー「ABC殺人事件」(ドラマ独自の年の差恋愛も見どころ)


 AXNミステリーチャンネルがご覧になれる方限定なのですが、お勧めの推理ドラマがあるのでご紹介させていただきます

 クリスティのフレンチ・ミステリー
(原題:Les Petits Meurtres d'Agatha Christie−)

Les Petits Meurtres D'agatha Christie: Set 1 [DVD] [Import] -
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2016年9月19日(月)22:00より、「ABC殺人事件(Les Meurtres ABC)」を皮切りにシリーズの再放送が始まります。(ABC殺人事件は 10月15日 (土)22:00〜再度放送予定)

Les Petits meurtres d'Agatha Christie - Les meurtres ABC -
Les Petits meurtres d'Agatha Christie - Les meurtres ABC -

番組公式HPはこちらです。(右上に放送予定表示ボタンがあります。)
http://mystery.co.jp/programs/agatha_french

 アガサ・クリスティ作品の大筋をふまえつつ、探偵役のポアロやミス・マープルを登場させずに、ドラマ独自のキャラクター、ラロジエール警視とランピオン刑事が事件を解決するという風変わりな構成です。

 名作に手を加えて成功する例は稀だと思うのですが、このドラマに限って言えば、原作に忠実という意味では他の追随を許さない、恐ろしいほどに完璧なイギリス版ドラマには無いユーモアがあり、原作を読んだ人でも別物として楽しめる構成になっています。

 一見エリートダンディなのに、おこりんぼで毒舌で日常的に部下に八つ当たりし、女好きで、それなのに落ち込むと前後不覚の酒浸りになるという、名探偵としては稀にみるほど手に負えない性格のラロジエール警視(ランピオン曰く「長所を見つけるのが難しい人(酷)」)と、まじめで優しく、地道に捜査に臨むランピオン(ちなみに同性愛者で男女問わず結構モテる〈ラロジエールが押しの一手なのに比べ、向こうが静かに寄ってくる感じ〉)の掛け合い(半分口論)や、ここぞというときには発揮される仕事への情熱と冴えわたる推理力も見ごたえがありますし、クリスティ作品にしばしば見られる薄暗い後味を、設定を少しずつ動かすことで、印象を変えてくれている回もあります。

 見た範囲で、このアレンジが最も冴えわたっていると思ったのは今回第一回目で放送される「ABC殺人事件」と以前紹介記事(ネタバレ)を書かせていただいた「五匹の子豚(今回は10月31日 22:00〜)」です。

 「ABC殺人事件」は、本来ポアロが登場する、クリスティ作品の中でも屈指の人気を誇る作品です。

ABC殺人事件 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫) -
ABC殺人事件 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫) -

 異なる町で名前にA、B、Cの頭文字を持つ人物が次々と殺され、直前にラロジエールたち(原作ではポアロ)のもとに届く殺人予告。

 同じころ、戦争で受けた傷がもとで、記憶が途切れるという症状を持っていた中年男性キュスト(原作ではカスト)は不安にさいなまれていた。
 彼が得た、ストッキングのセールス業で行く先々で殺人が起こり、自分にはどうしても思い出せない記憶の空白がある……。

 もしや自分が犯人なのではという疑念が離れず、苦しむキュスト。

 しかし、普段は控えめだが優しい目をした彼に、下宿先の娘リリが年の差を超えて好意を抱き、彼の苦悩を薄々感じながらも、彼を支えようとします。

 一方、犯人の足取りがつかめないまま殺人が重ねられ、激しく自分に落胆するラロジエール。ランピオンは彼を励まし、再び捜査に乗り出します。

 原作自体、事件の全貌があまりに意外で、読み応えがありますが、このドラマでは、原作よりも登場人物を絞り込み、キュストとリリの交流を、この殺伐とした連続殺人と対比させています。

 原作にもこのリリに当たる下宿屋の娘(リリー)が登場するのですが、彼女にはトムという恋人がいて、カスト(キュスト)の境遇に同情的ながら、一方で彼が犯人ではないかという疑いもぬぐえず、恋人と彼の周辺を調べたりしています。
(なので、原作ハヤカワ文庫では完全に脇役扱いで、冒頭の登場人物紹介から外されている。)

 一方ドラマのリリは、彼女が男としての自分を好いているなどとは夢にも思わないで、ただ穏やかに話し相手をしてくれるだけのキュストをなんとか振り向かせようと、下宿屋の仕事を超えて彼に尽くし、彼の部屋の前に入る前には身だしなみをととのえたりしています。

 こういう、「好きな人に好かれたくて頑張る人」の描写ってなんか和むんですよね……それにミステリー作品に、一生懸命家事をするとか、服や髪形と気にするなどのさりげない場面が織り込まれるのも珍しいと思います。

 母子家庭で父親にいい思い出が無い様子なので、キュストに優しい大人の男を求めたのかもしれませんが、甘えるよりむしろいつもキュストを励まし、いそいそと世話を焼いているリリは、初々しいけれど包容力があるという、ある意味理想の女性です。
(ずば抜けて美人ってわけじゃないけれど、話し方に温かみがあってピンクの似合う可愛い人)

 メインは推理ドラマなので、それほど長く登場するわけではありませんが、このつつましいしぐさややりとりが心に残ります。

 最近大ヒットしている年の差恋愛漫画「恋は雨上がりのように」(※)がお好きならおススメしたい回です。

恋は雨上がりのように 1 (ビッグコミックス) -
恋は雨上がりのように 1 (ビッグコミックス) -

 (※)女子高生橘あきら(クールな雰囲気〈中身は違うけど〉の激美少女)が、バイト先の一見冴えない雇われ店長(45歳、作中では頼りないとか、なんかクサいとかさんざんな言われようだが笑顔と性格がとても良い。あきらちゃん見る目あるぞ)に片思いをして、彼の心を掴もうと奔走するストーリー。抜群に美しい絵やどこか文学的な心理描写と光景、二人以外の登場人物たちも魅力。

 この「フレンチ・ミステリー」そのほかの回も非常にレベルが高く、特に序盤にギャグ、最後に美しい余韻がある「五匹の子豚」は必見です。

 当ブログのフレンチミステリーに関連する主な記事は以下のとおりです。よろしければ併せてご覧ください。(一部内容が重複しています。またリンク切れが多いのであらかじめご了承ください。)
クリスティのフレンチ・ミステリー(AXNミステリー・フランスドラマ)
「クリスティのフレンチ・ミステリー」再再放送(AXNミステリー
「五匹の子豚」(クリスティのフレンチ・ミステリー※ネタバレ編)
クリスティのフレンチミステリー「ABC殺人事件」(ドラマ独自の年の差恋愛も見どころ)

 なお、私はビタ一文読めないのですが(汗)、ドラマに関するフランス語のウィキペディア記事があったので、貼らせていただきます。
「クリスティのフレンチミステリー(原題:Les Petits Meurtres d'Agatha Christie)」の紹介ページ
同上「ABC殺人事件(Les Meurtres ABC)」の項目

 読んでくださってありがとうございました。
posted by Palum at 19:56| 日本の海外テレビ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年09月15日

「魔法の庭 ダルメイン〜イギリス湖水地方の田園ライフ〜」(NHK BSプレミアム)再放送のお知らせ


 取り急ぎご連絡まで

 NHK BSプレミアムで、2016年9月17日(土)午後1時30分〜午後3時に「魔法の庭 ダルメイン〜イギリス湖水地方の田園ライフ」というドキュメンタリー番組が再放送されます。

 イギリス湖水地方の歴史ある邸宅「ダルメイン(dalemain)」で代々庭造りをする女性たち。

 番組では、12代目の妻ジェーン・ヘーゼル・マコッシュさんを取材し、鳥や庭に住むハリネズミたちと協力し、自然の力を生かして作られる美しい庭の春から夏の移り変わりが紹介されるそうです。

 NHKと、ダルメインの公式HP情報は以下のとおりです。
http://www.nhk.or.jp/docudocu/program/92393/2393099/
(もっとNHKドキュメンタリー「魔法の庭 ダルメイン」)
http://www.dalemain.com/index.php
(The Dalemain Estateのホームページ)
https://www.dalemain.com/%E6%97%A5%E6%9C%AC%E8%AA%9E/
(同HP日本語紹介ページ)
http://www.dalemain.com/pages/gardens.php
(同HPガーデン情報ホームページ)

※なお、2017年3月18、19日、ダルメインで開催されるマーマレードの大会「Marmalade Festival 2017」ではイギリスで活躍中の日本人ペストリーシェフ川秀子(Hideko Kawa)さんが招かれ、ゆずマーマレードの紹介など、食のイベントをなさるそうです。

 川秀子さんのイベント記事はコチラ
https://www.dalemain.com/cookery-events-award-winning-hideko-kawa/

 前述フェスティバル情報ページによると、マーマレードフェスティバルの際には、近くの町ペンリス(Penrith)から、無料シャトルバス「Orange Express(萌)」が特別に運行されるそうなので、お出かけになる方は情報をご確認ください。

 ・フェスティバル開催中の特別交通情報を伝える記事
  http://www.cumbriacrack.com/2017/03/17/virgin-trains-welcomes-visitors-marmalake-district/
 この時期は「Penrith」駅が「Marmalake District(※「マーマレード」と「レイクディストリクト(湖水地方)」をかけた洒落)と名前を変えるそうです。しかも駅表示がオレンジ色(萌萌)。





(補足)
2016年9月19日(月)午前0時からNHK Eテレでガーデニングのサポーターとしてイギリス人にこよなく愛されているハリネズミの生態と保護活動を紹介した番組「ハリネズミホテルへようこそ」も再放送されました。可愛くて心和む番組でしたので、また再放送があった際には併せてご覧になってみてはいかがでしょうか。

 番組公式情報は以下のとおりです。
 http://www.nhk.or.jp/docudocu/program/183/2340450/index.html
 当ブログでこの番組にちなんで書かせていただいた記事はこちらです。よろしければ併せてご覧ください。
 イギリスのハリネズミ愛(地球ドラマチック「ハリネズミホテルへようこそ」によせて)

 読んでくださってありがとうございました。
posted by Palum at 23:05| 日本の海外テレビ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年09月09日

イギリスのハリネズミ愛(地球ドラマチック「ハリネズミホテルへようこそ」によせて)


Hedgehog-en.jpg
ウィキペディアより 画像提供:John Mittler)

明日2016年9月10日(土)午後七時より、NHK Eテレで「地球ドラマチック ハリネズミホテルへようこそ」が放送されます。(9月19日午前零時再放送

番組公式情報は以下のとおりです。
http://www.nhk.or.jp/docudocu/program/183/2340450/
http://www4.nhk.or.jp/dramatic/x/2016-09-10/31/13060/2340450/


 これにちなんで、今回はイギリスの人々のハリネズミ愛についてご紹介させていただきます。

 ハリネズミは実はネズミよりモグラに近い生き物で(視力はモグラより良い)、葉っぱを食べてしまう芋虫やカタツムリを食料としている(※)ため、ガーデニング王国のイギリス人からとても大切にされています(かわいいしね)。

(※)このため「ハリネズミホテルへようこそ」でも保護されたキャワワなハリネズミたんたちをもてなすべく「虫ビュッフェ」が用意されているというくだりが映るそうなので、そこだけはご注意ください。

 しかし、イギリス国内でのハリネズミは減少傾向にあるそうで、個々のご家庭の庭に、ハリネズミを招いて住んでもらおうという動きがあるそうです。

 私がホストファミリーに、ケンブリッジ郊外のガーデニングショップ(※)に連れて行っていただいた際、妖精の家のような小さな木製のログハウスがいくつも売られており、ホストファーザーに伺ったところ、「ハリネズミの巣箱」と言われて非常にびっくりしたことがあります。
(郊外とはいえ、普通に町だったので、ハリネズミみたいな日本人の感覚ではレアキャラに相当する生き物がそんなアタリマエに庭に出没すると思ってなかった。)

(※)余談ですが、ガーデニングショップなのに何故かイギリスの「第二次大戦中ドリフ大爆笑」的怪物コメディドラマ、「Dad’s Army」のグッズ(アーミー調の色使いも渋くて非常に粋)が大量に売られているという、ミステリアスだがイカした店だった。(日本で言うなら「だめだこりゃ」「ちょっとだけよ」とか書いてあるマグカップとかが売ってるノリ)


 Youtubeで「お庭に置くハリネズミハウスの作り方」を紹介している方がいらっしゃいました。

「Making a Hedgehog House」



https://www.youtube.com/watch?v=t1QRdlvcWmE

 さらに、そのガーデニングショップには、小鳥のエサ的なノリでハリネズミのエサも売られており、いかにイギリスの庭好きな人たちがハリネズミの居住を歓迎しているかがよくわかりました。

 ホストファーザーいわく、ハリネズミは夜行性だから、昔から以下のことに注意しなければならない、と言われていたそうです。

・柴刈りをするときに機械を使うなら間違えて寝てるハリネズミを轢かないようによく見ながら行うこと
・刈った草木は庭に放置せずに、すぐに燃やすか、密閉できる容器に入れて処分すること。一晩放置すると、ハリネズミがもぐりこんでしまい、翌日のたき火でやけど、あるいはゴミ収集に巻き込まれるなどの危険性がある

 こういってはなんですが、やっぱりネズミよりモグラに近い生き物だから、ちょっとおっとりしていて、人間が気を付けてあげないと諸々危ないんだなという感じです。

 イギリスには「British Hedgehog preservation society(英国ハリネズミ保護協会)」なる団体があり、ハリネズミ保護のための情報を広く公開しています。

 協会公式HPはコチラです。
http://www.britishhedgehogs.org.uk/

 団体の活動費となるであろうチャリティーグッズもたくさん紹介されており、「ハリネズミ交通エリア」という注意看板などに交じって売られている、小さな子が載る車(Wheely bug)のハリネズミ版が普通に商品としてセンスよくて可愛かった。

 同団体はHPにハリネズミに関する小冊子を公開しているのですが、その中の「Gardening with Hedgehog(ハリネズミと一緒にガーデニング)」の一部内容について、私なりに意訳をつけて概要を少しご紹介させていただきます。(いい加減なんであらかじめご了承ください〈汗〉)
 http://www.britishhedgehogs.org.uk/leaflets/L16-Gardening-with-Hedgehogs.pdf

 ホントに大事にされてるんだなァ、と思ったので。

○Bonfires - use a proper incinerator or move the pile to be burnt just before setting fire to it. This should ensure that no hedgehog has made a home in the rubbish. Do not burn or trim pampas grass until you are sure there are no hedgehogs nesting in it.

 たき火……ごみの中にハリネズミが巣作りをしていないか確かめるため、適切な焼却炉を用いるか、焼却物に点火する前に少し堆積物を動かして下さい。パンパスグラス(イギリスのお庭でメジャーなススキに似た植物)を燃やしたり刈ったりする前に、ハリネズミの巣が無いか確認してください。
(ホストファミリーが教えてくださった内容ですね。)

○Slug Pellets - try alternatives, REMEMBER METALDEHYDE SLUG PELLETS CAN KILL, if you must use them, use sparingly and pick up the dead slugs and snails as soon as possible. Read the directions for use before you use the product

 ナメクジよけ殺虫剤……他の方法をお試しください。メタアルデヒドのナメクジよけはハリネズミにとっても致死性です。使用しなければならない場合、少量にし、駆除されたナメクジやカタツムリは速やかに除去してください(これをエサにしたハリネズミが死んでしまうという意味だと思います。)その製品を使う前に、注意書きをよくお読みください。

○Feeding - to encourage a hedgehog to stay in or near your garden ensure it has a fresh supply of water available - especially in very hot weather - and leave a dish of dog food in a place where the hedgehog can get it, but not the local cats .

 エサやり……あなたのお庭の中、あるいは近くにハリネズミに住んでもらうために、新鮮なお水が飲めるようにしておいてください(特に炎天下の日に)……そしてドッグフードのお皿を、ハリネズミがそれを食べられて、近所の猫が近寄れない場所に置いておいてあげてください。

そのほかにも、「池があるなら上がるときにおぼれないように傾斜をつけておいてあげてください(泳げるし泳ぐの好きだけど上がるのは上手じゃないらしい)」とか、「ミルクとパンはハリネズミの体に悪いのであげないでください」とかいう注意事項が別のガーデニング情報HPにありました。やっぱりなんかネズミよりはるかにほっとけない感満載の生き物な模様です。

(参照:Weyvale garden centres HP 「Tips for attracting hedge hogs to your garden」)
http://www.wyevalegardencentres.co.uk/gardening-advice/tips-for-attracting-hedgehogs-to-your-garden#.V9K9yfqLQhc

 日本と似たようなものだと思っていたイギリスの思いもかけない生態系とか、ガーデニングを愛するゆえに、この小さくて可愛くて少し目が離せない感じの生き物のために、ホテルを作ったり、巣箱をわざわざ庭においたり、HPで啓蒙活動を行っているということを知って、ちょっと興味深かったんでご紹介させていただきました。

(余談ですが、そんなわけで日本のハリネズミカフェの動向をガン見していたらしきBBCの記事がありましたので、よろしければ併せてご覧ください http://www.bbc.com/news/world-asia-36108964。)

 ハリネズミお庭勧誘的PR動画があったので張らせていただきます。土曜日の番組の補足情報として併せてご覧ください。

「The Wildlife Garden Project - How to help hedgehogs in your garden」



https://www.youtube.com/watch?v=ZMVWPvhFrpw

 読んでくださってありがとうございました。

posted by Palum at 23:12| 日本の海外テレビ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年09月08日

「地球ドラマチック ハリネズミホテルへようこそ」

 取り急ぎご連絡まで。

 明後日2016年9月10日午後七時〜、NHKのEテレドキュメンタリーシリーズ「地球ドラマチック」で「ハリネズミホテルへようこそ」が放送されます。

 ガーデニングを愛するイギリスで、害虫を食べてくれる存在として大切にされるハリネズミたち。
 事故などで傷ついたハリネズミたちがしばし入院する、イギリス独自のハリネズミホテルと、彼らの生態についての番組だそうです。

 番組HPは以下の通りです。
http://www4.nhk.or.jp/dramatic/x/2016-09-10/31/13060/2340450/

 番組にちなんで、イギリスのハリネズミ愛について書かせていただきました(関連動画貼付あり)ので、併せてご覧ください。

 読んでくださってありがとうございました。
posted by Palum at 22:18| 日本の海外テレビ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年05月11日

「ギャレス・マローンの職場で歌おう(原題:The Choir Sing While You Work) 」(BBCドキュメンタリー番組)

 取り急ぎご連絡まで。

 NHKのBS1がご覧になれる方限定ですが、イギリスのカリスマ合唱団指揮者ギャレス・マローンさんの新シリーズ「ギャレス・マローンの職場で歌おう(原題:The Choir Sing While You Work )」が明日月曜深夜(2014年5月12日0:00)から全6回にわたり放映されます。

 NHKの番組紹介ページURL
http://www.nhk.or.jp/wdoc-blog/100/187496.html
第一回
http://www.nhk.or.jp/wdoc/backnumber/detail/140512.html
第二回
http://www.nhk.or.jp/wdoc/backnumber/detail/140513.html
第三回
http://www.nhk.or.jp/wdoc/backnumber/detail/140514.html
第四回
http://www.nhk.or.jp/wdoc/backnumber/detail/140515.html
第五回
http://www.nhk.or.jp/wdoc/backnumber/detail/140519.html
第六回
http://www.nhk.or.jp/wdoc/backnumber/detail/140520.html


 BBC2の予告編動画はコチラ


 このいかにも頭も品も人柄も良さそうなハンサム眼鏡男子(日本人の目から見ても非常に童顔ですが既に38歳、欧米人の目から見たら10代に見えるらしい。高校生が「年下みたい」と言っていた場面も〈笑〉)がギャレス・マローン(Gareth Malone)氏。

 見た目によらず果敢なキャラクターで、「合唱は人々の心をつなぐ」という信念のもと、それまで音楽と縁のなかったコミュニティに飛び込んで合唱団を結成するというプロジェクトを続けています。
 ギャレス・マローンさんの公式HPのURL
http://www.garethmalone.com/


 映画「天使にラブソングを」(ウーピー・ゴールドバーグ主演、ある事件の目撃者として修道院に保護されたクラブ歌手デロリスが合唱団を立て直す。)や、「アンコール」(テレンス・スタンプ主演、見た目通り気難しい性格の70男アーサーが病に侵された最愛の妻を送り迎えしていたことがきっかけで、妻の所属する合唱団に加わる。)が好きな人ならきっとお気に召すであろう名シリーズです。(というか「アンコール」のほうはギャレスさんのシリーズを受けて作られたのではとすら思いますが。〈当ブログ「アンコール」ご紹介記事はコチラ〉ギャレスさんの動画も併せてご紹介しております。)

楽譜 天使にラブソングを   1


アンコール!!


 今回は病院や水道局、郵便局などで合唱団を結成し、歌声を競うという構成とのことで、イギリスで働く人々の現場も垣間見られるのではないかと期待しております。

 このシリーズ、既に去年の冬に第二シリーズが放映されており、また、ギャレスさんがあらたに結成した合唱団がイギリスをまさにこれからツアーを開始するとのことです。(メンバーはこの職場合唱団なのでしょうか?)



 BBC第二シリーズ情報URL(1部動画が観られます)
http://www.bbc.co.uk/programmes/b03hhsyt

ツアー情報URL。
http://www.garethmalone.com/tour
(ちなみにいい加減風貌に貫録をつけたいからか髭ギャレスさんになっておいででした〈笑〉) 

 まだまだギャレスさんの活躍が観られそうですね。

 当ブログ、ギャレス・マローンさん関連の記事は以下の通りです。

「地球ドラマチック『町中みんなで合唱団!〜イギリス 涙と笑いの猛特訓〜』」 (BBC原題「The choir :Unsung town」)
合唱団(クワイア)を作ろう(ギャレスさん再び)
ギャレス マローンさん(イギリス合唱団指揮者)について。補足。
ギャレス マローンさんの番組から見えたこと。
ギャレス マローンさん番組再放送!
ギャレス・マローンさんのその他のプロジェクトについて
ギャレス マローンさん再々登場!「ギャレス先生 ユース・オペラに挑戦!」
ギャレス・マローン先生週間!!
地球ドラマチック「町中みんなで合唱団!」大聖堂への道
ギャレス・マローンと“軍人の妻”合唱団!

 読んでくださってありがとうございました。


posted by Palum at 20:21| 日本の海外テレビ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年05月07日

史実「戦火の馬」(ドキュメンタリー番組)

ロンドンのハイドパークにある、戦没動物たちの慰霊碑「Animals in War Memorial」馬、犬、象、ラクダ、ロバ、鳩など、人と共に戦場に赴き、犠牲となった動物たちを弔っている。
Animals_in_War_Memorial,_Hyde_Park,_London.jpg

Animals_in_War_north.jpg
http://en.wikipedia.org/wiki/Animals_in_War_Memorial (慰霊碑のウィキペディアURL)
 
 この夏、イギリスの舞台「戦火の馬(ウォーホース War horse)」が来日します。
来日舞台公式HPのURL
 http://warhorse.jp/



 第一次大戦時、軍馬としてフランスへ渡ったジョーイと、彼を連れ帰るべく戦場に向かった少年アルバート、そして、戦場でジョーイに出会ったドイツ兵フリードリヒら、戦争に翻弄された人と馬の悲劇と情愛を描いた感動作です。

 ものすごい名作なので、迷っている方には行く価値があると力強くお勧め致しますが、明日2014年5月8日木曜深夜[金曜午前 0時00分〜0時50分]BS1でこの第一次大戦時の軍馬の史実を追ったイギリスのドキュメンタリー「史実 戦火の馬」が再放送されるとのことなので、併せて番組内容を簡単にご紹介させていただきます。
 
番組紹介ページURL
http://www.nhk.or.jp/wdoc/backnumber/detail/120823.html

 イギリスでは第一次世界大戦時、100万頭もの馬を戦地に送りました。

 元は騎兵隊用の馬でしたが、機関銃、塹壕や鉄条網など、この戦争から始まった近代戦の前に苦戦を強いられます。

 このとき戦場に連れて行かれた馬の多くは、ジョーイのように、元は農場で働くなどしており、軍馬として訓練された馬ではなかったため砲撃の音に足がすくんでしまったことも、被害を大きくしました。

 それ以後、馬は騎兵隊用だけでなく、砲台や物資、負傷兵を運ぶなどの役割を担うことになりましたが、敵の攻撃だけでなく、足を取られるぬかるみや、寒さ、蹄をつらぬくために敷かれた罠、疲労や病気によって多くの馬が戦地で動けなくなり、兵士らの手で射殺されました。

 この行為は馬だけでなく、それまで世話をし、生死を共にしてきた兵士たちにとっても非常に残酷な出来事でした。

(番組では過酷な戦地での、馬と人との心の通い合いを象徴する絵や写真も出てきます。)

 BBCが動物愛護団体「ブルークロス(Blue cross)」所蔵の軍馬の絵や写真について紹介した記事URL 
(※愛馬を失って涙ながらに別れを告げる若い兵士の有名な絵画「Good bye old man」も見ることができます。)
http://www.bbc.co.uk/news/uk-england-oxfordshire-16550273
 
 多くの犠牲を払って、文字通り泥沼の戦争が終わりを迎えたとき、しかし、地獄を生き延びた馬たちに、なおも過酷な運命が待ちかまえていました。

 弱った馬の多くは食料として殺処分されたのです。

 それでも何割かの馬は幸運にもフランスの農家に買い取られ、荒廃した地を新たに耕すという生活を送ることができましたが、しかし、二度と故郷に帰ることはかないませんでした。

 このドキュメンタリーの中では、ウォリアーという、天性の勇猛果敢さを持ち、砲撃音を恐れず、主人である将軍ジャック・シーリーを慕い共に戦い、戦地の象徴ともなった伝説的名馬についても紹介しています。
「ミラー」誌のウォリアー紹介記事URL
http://www.mirror.co.uk/news/uk-news/the-real-war-horse-brough-scott-158362
 ウォリアーは無事シーリー将軍に連れ帰られ、故郷の美しいワイト島で緑の野を駆ける余生を送ることができましたが、勇敢に忠実に働こうとも、このような結末を迎えることができた馬は本当に少なかったのです。

 戦争の悲劇と馬の献身、人との絆を描いていて、これ自体非常に考えさせられる内容ですし、その内容や場面の多くが、舞台「ウォーホース」と重なっているので、是非ご覧になってみてください。

当ブログ「ウォーホース」関連の記事は以下の通りです。
ロンドンの舞台「War horse(ウォーホース)戦火の馬)」@ あらすじと見どころご紹介
ロンドンの舞台「War horse(ウォーホース)戦火の馬)」A ある名場面と、その他のおすすめ作品。
「War horse(ウォーホース)戦火の馬」 日本公演決定
「War horse(ウォーホース)戦火の馬)」日本公演 感想1見どころとお客さんの反応
「War horse(ウォーホース)戦火の馬)」日本公演 感想2ロンドン初演版との違い
「War horse(ウォーホース)戦火の馬)」日本公演 感想3結末部(ネタバレ注意)
「史実 戦火の馬」(ドキュメンタリー番組)

読んでくださってありがとうございました。
posted by Palum at 20:04| 日本の海外テレビ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年03月18日

(台詞編@)刑事コロンボ「忘れられたスター」

2014年3月15日(土)15:30〜17:08 BSプレミアムで刑事コロンボの「忘れられたスター」が放映されました。


 往年のミュージカル女優グレース(ジャネット・リー〈サスペンス映画「サイコ」でシャワールームで殺害される美女マリオンを演じたことで有名〉)が、自身の再起をかけた舞台への出資を断った富豪の夫ヘンリーを殺害するという筋立てです。

 当ブログでこの作品についてご紹介させていただいた過去記事は以下の通りです。
1,ご紹介編
2,ネタバレ編

本日は、この作品の中の名場面の英語の台詞についてご紹介させていただきます。

(場面)振付師ネッドとコロンボのやりとり

早くから夫ヘンリーの死が自殺ではなくグレースの手によるものではないかと疑っていたコロンボ。

捜査のために何度も彼女の前に姿を現しますが、ネッドはそれにいらだつグレースを心配します。

今回は彼女の復帰舞台の指導者として彼女を支える立場でしたが、ネッドはかつては役者として彼女とコンビを組み、その名演で喝采を浴びた大スターであり、またひそかにグレースを愛してもいました。

そんなネッドはグレースの精神状態を気遣って、コロンボにこれ以上無駄に彼女の周辺をうろつくのはやめるようにと強く迫ります。

以下、そのときの二人の会話と私的直訳です。

Let me tell you something, Lieutenant, about being a star,which Grace was.
君に教えておいてやろう警部補(=Lietenant〈コロンボのこと〉)グレースがそうであったようなスターであるということを。

It’s a crazy, ecstatic, explosive blow to the ego.
それは狂気じみていて、有頂天で、爆発的に自己顕示欲に打ち付けてくる(=自己顕示欲を満足させる)。
ecstatic……有頂天の
exploseve……爆発的な

Very few people are lucky enough to be able to handle it.

それをうまくさばける運の良い人間というのはほんどいない。
 ・handle……(動詞)操縦する

And unfortunately Grace wasn’t one of those.
気の毒だがグレースはそういう人の一員ではなかった。

She’s really ambitious. I know that.
彼女は確かに野心的だった。それは知っている。
ambitious……野心のある

But murder? By someone I ‘ve known……and loved for years. I can’t accept that. I won’t accept that.

だが殺人(を犯した)だって?僕のずっと知っている……愛している人が。
僕は受け入れられない。そんなのは認めない。

(コロンボ、つらそうにうつむき、片手をあげてネッドをさえぎり。)

I think she did it.
彼女がやったんです。

(ネッドのオフィスを出て行こうとするコロンボ、足を止め)

She invited me to her house tonight to watch a film. I'm going.
今晩、彼女の映画を観に来るようにグレースさんに招待されました。行くつもりです。

If she means anything to you, you ought to be there, because I think she did it.

もし彼女があなたにとって大切な人なら、あそこに行くべきです。私は彼女が犯人だと思って居ますから。
ought……〜すべきである


ちなみにX means 〜 to 人で、「人にとってXは〜という意味がある」というニュアンスになるようです。
なので「She means a lot to me」で「彼女は僕にとって大切な人なんだ」ととることができます。

それにしても、このネッドの言葉から、スターとして成功するということの、栄光と表裏の危険がまざまざと浮かび上がってきます。

どんなに成功した人でも永遠に同じ境遇に居続けるということはできません。

老いや時代の移り変わりなど、なんらかの形で立ち位置を変えざるをえない。

それが「若くて美しい、喝采を浴び続けるスター」という立ち位置だった場合、これはもう、時とともに絶対に、ゆるやかにその場から滑り落ちていかざるをえない。

だけど、その陶酔を知ってしまった人は、ある種強すぎる酒におぼれるように、その快感でしか満足できなくなる。

アメリカが迎えた歴史上まれにみる未曽有の繁栄、その富と文化の頂点ともいえるエンターテイメントの世界。

そうした、トップの中のトップの光を燦然と浴び、それに目がくらんだ人間が、あたりまえの人生に戻っていくことの難しさ。

 いかにして、「スター」という生き物から「等身大の人間」に帰っていくか。あるいは、はじめから等身大の自分を見失わずにいられるか。

それは今現在も続くあの世界の大きな、非常に難しい課題なのでしょう。

こうして、コロンボと一緒にグレースの家に行ったネッド。

真相を知った彼はここでなおもグレースをかばおうとします。

(この場面の描写はネタバレ編に書かせていただきました。)

このラストシーンの台詞もいずれご紹介させていただきますのでよろしければまたいらしてください。

 読んでくださってありがとうございました。
posted by Palum at 06:13| 日本の海外テレビ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年02月27日

(ネタバレ・台詞編)『パーセプション』「神からの声」より

 先日AXNミステリーの推理ドラマ「パーセプション」についてご紹介しました。

 神経科学の権威ダニエル・ピアーズ教授と元教え子でFBI捜査官のケイトが、人間の脳の仕組みという見地から真相を探っていくという異色作です。
(番組の公式HPはコチラ。)
 (当ブログ過去の「パーセプション」ご紹介記事はコチラです。)

 ダニエル教授自身も統合失調症を患っており、現実と幻覚の区別がつかないという症状に悩まされたり、その他、自分の精神世界をうまくコントロールできないで苦しむ人が登場したりと、重いテーマを扱っている部分もありますが、その世界観は基本的に前向きで、人間の多様性について公平に描いており、登場人物たちの率直でときにユーモラスな台詞が魅力です。

 今日はその中でも個人的にラストシーンの味わいが好きな「神からの声」について、あらすじと一部台詞をご紹介させていただきます。

(以下、結末部まで相当ネタバレです。大丈夫な方だけお読みください)

 元麻薬中毒者だった青年ジャレットが何者かに殺害され、捜査にのりだすダニエルとケイト。

 殺害される数か月前、ジャレットは宗教団体「ヘイヴンハウス」で共同生活を送るようになり、自分の財産をそこに寄付していました。

 無神論者のダニエルは、この団体を詐欺師集団と決めつけていましたが、団体の中心人物カイルを気にかけるようになります。
 

 カイルはまだ少年で、神の声が聞こえるというカイルの話を聞きに多くの人が集まり、「ヘイブンハウス」は彼らの寄付金を元に募金や慈善事業を行っていました。

 ダニエルに出会ったカイルは、彼が神を信じていないことを見抜き、こんなやりとりを彼と交わします。

(以下、例によって誤りがあるかもしれませんがご了承ください〈また訳部は私的直訳です。字幕はもっとスマートな台詞になっています。〉)

(カイル、傍にあったラズベリーを手にとってダニエルに見せながら)
How could anybody work at something so perfect, and beautiful and delicious and think that it got that way by accident?
こんな完全な、美しい、おいしいものが偶然にできあがったと本当に思う?

(ダニエル)
There is a scientific answer to that Kyle.
カイル、それには科学的な答えがある。
Earlier versions of the raspberry weren’t so beautiful and deliciaous, so they couldn’t attract enough birds to spread their seeds around.
初期のラズベリーはそんなに美しくも美味しくも無かったから種を広げてもらえるほど鳥を惹き寄せられなかった。

(カイル)
I know how evolution was. I love Darwin. He was the first person in history to look behind the curtain and see how god actually makes it all work.
進化論は知っている。ダーウィンなら好きです。彼はカーテンの背後を覗き、神がすべてのことを実際にはどうなしとげるのかを見た歴史上最初の人物でした。

 この会話の後、カイル本人は賢く善良な少年だとダニエルも認めるようになりますが、一方でカイルの「頭の中に声が聞こえる」ときの状況を詳しく聞きだして、それが脳腫瘍による症状であると確信します。

 ダニエルはカイルに手術を受けなければ危険だと忠告しますが、カイルは「これが神の声を聞くために与えられた病気ならば治さない」と拒絶します。

 カイルの両親は彼に検査を受けさせるべきか迷っていましたが、ある日カイルが階段から落ち、頭に大けがをして病院に運ばれます。

 最初は症状が出て気絶したための事故だと思われましたが、ジャレット殺害事件の捜査を進めていたダニエルは、カイルが事件の真相に気づき、口封じのために襲われたのではと考えます。

ケイトは捜査に戻りますが、ダニエルは内部に犯人がいるならカイルの身が危険だと病院に残ることにします。

カイルは怪我の治療と共に、やはり発見された腫瘍を手術で除去されますが、合併症から、危険な状態に陥ります。

これより少し前から、ダニエルの幻覚として、神の声を聞いたとされる聖女ジャンヌ・ダルクが、ダニエルの前に姿を現していましたが、病院でダニエルの隣に座った彼女に、ダニエルは吐き捨てるように言います。
「神に伝言してくれよ。神はクソ野郎だってな」

 カイルみたいな善良な子が重病を負わされ、殺人犯は野放し、カイルの母親は泣いている。人間の所業は神にとって娯楽なのか、と。

 しかしこの後、犯人は逮捕され、カイルは奇跡的に命をとりとめます。

再びあらわれたジャンヌ・ダルクに
「伝言もたまには有効ね」
といたずらっぽく言われたダニエルは
「存在しない神に頼らずに人間は回復できる」
と答えます。
「存在しないならなぜ伝言を?」
「僕は変人でね」
そう言ったダニエルは、カイルの病室へ向かいます。

事件のあったヘイブンハウスは閉鎖し、代わりに学校を建てる、というカイルの一家。

ダニエルにまだ神の声は聞こえるかと尋ねられたカイルは確信に満ちた笑みを浮かべてこう答えます。
「以前のような声は聞こえないけれど、神の意思はわかる。望む者ならだれにでも」

 その言葉を聞いたダニエルは、自分の研究が受賞して獲得した賞金をカイルに全額寄付する小切手を渡し、「これで学校に本を買うといい」と言います。

 その金額に驚くカイル。以下二人のやりとりです。

(カイル)
Does this mean you believe in god now?
今は神を信じているっていうこと?

(ダニエル)
Absolutely not, but I believe in you.
ぜんぜん違う。でも僕は君を信じている。

(カイル)
I got something for you too.
ぼくからも先生にあげるものが。
(カイル、テーブルの上のフルーツからラズベリーを手に取ってダニエルに渡す。)

(カイルの母)
Kyle, what kind of present is that?
カイル、なんてプレゼントなの。

(カイル)
I think Dr. Piers will appreciate it.
ピアーズ先生(ダニエル)は喜んでくれると思う。

 ダニエルは何も言わずにラズベリーを手に病室を去り、外に出ると、ラズベリーをじっと見つめた後、少し笑ってそれを口に入れました。
(END)

 推理ドラマにしては珍しいほどに、登場人物が正直に思うところを語っていて、それでいて相手の思いを尊重してもいる。そして、ときにこの回のようにラストシーンがさわやかですらある作品です(これ以外だと最終回もそういう感じです)。

「パーセプション」よろしければご覧になってみてください。(2014年2月28日,3月3日にそれぞれ朝6時からのこりの回が放映されます。)

 読んでくださってありがとうございました
posted by Palum at 23:46| 日本の海外テレビ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年02月22日

(ご紹介編)「パーセプション(Perception)」(AXNミステリー)

パーセプション(Perception )……知覚、認識、理解

AXNミステリーがご覧になれる方限定ですが、アメリカ発の面白い推理ドラマが2014年2月25日早朝6時から再放送されるのでご紹介させていただきます。
番組公式ページはコチラ

 神経科学の権威ダニエル教授が、自身の統合失調症の症状に悩まされながらも、元教え子でFBI捜査官ケイトの捜査に協力をするというストーリーです。

 キャラクターの魅力、人間の脳の不思議、台詞のユーモア、洗練された構成、そして殺人事件という題材を扱いながらも、ときにアメリカ映像作品独特の、率直な対話、他者に対する公平なまなざし、前向きな人生観が垣間見える良作です。

※すみません映画『レオン』ネタバレ編をご紹介させていただく予定でしたが、こちらの放送日が迫っているので予定を変更させていただきます。
『レオン』については日曜日中にアップさせていただきますので、よろしければまたいらしてください。

 あと、理由がわからないのですが、英語がほかのドラマより聴き取りやすいと思いました。なのでリスニング教材としてもお勧めです。

 講義シーンは区切りながらゆっくりしゃべっていますから当然ですが、それ以外の台詞もなんとなく。速度か発声が違うのかもしれません。(なんか、けだるそうに俗語一杯で早口でしゃべるタイプのドラマだと途端にわかんなくなるもんで……〈汗〉)

 今日は簡単に一部見どころを書かせていただきます。

@キャラクター
・ダニエル
 今時携帯を持ちたがらず、カセットウォークマンを愛用、物事に没頭する人並み外れた集中力ゆえに、何かを思いつけば壁にでも平気でメモをとり、日常生活の管理はとても苦手。

 失調症の症状のために、ときに現実には存在しない人間や光景を見たりするが、彼の場合、何かが深層心理でひっかかっているときにそれが生じ、状況の矛盾をときほぐすきっかけになることもある。

 療養のためにルウィッキ青年と同居して補佐を頼んでいる……が、お母さんに対する小さい子供や、結婚数十年後の夫みたいに、日常のコミュニケーションで手抜きをして彼を憤慨させることも。

 人見知りでいわゆる社交は大嫌い。
(上司に大学のパーティーに出ろと指名されて「ヤダ」みたいな態度だったダニエルが「出ろ!」と強制されたとき、心底せつなウンザリした声で「なぁんでだよう……」みたいに言った瞬間にこのドラマを見染めました〈どこきっかけ〉。アメリカ人が人付き合いにおいてあんないじらしい嫌がり方をするとは知らなかった〈何偏見〉)

・ケイト
 FBIの捜査官で元ダニエルの教え子。容疑者の心理分析等をダニエルに依頼する。
 長い髪に童顔の可愛らしい容姿とは裏腹に、結構ダイナミックな性格で、容疑者確保のために二階から階下の容疑者にとびかかるなどの行動でダニエルがあっけにとられることも。
 ときに風変りな言動で周囲から距離をとられてしまうダニエルのよき理解者で、実は学生のころからほのかに彼にあこがれを抱いている。

・ナタリー
 ダニエルの心の中の対話者。
 温厚で知的な大人の美女で、ダニエルの中では長年の良き友人で恋人的な存在。心を閉ざしがちなダニエルに前向きに生きるように諭している。
 ……なんか長い金髪と優しい性格で、いわゆる「理想の美人」の位置づけのせいか、日本人にはちょっとメーテルっぽく見えます。

Aドラマ構成

 ダニエルが大学教授のため、オープニングとエンディングは彼の講義が展開します。

 これが構成としてとてもいい。

 事件の前後に、「問題提起とそこから得た教訓、そしてさらなる問題提起」というふうに観る者の思考を誘導してくれるし、ドラマをドラマとしてまとめてくれるので、後味がすっきりしています。

 個人的には、リアルを求める「新聞記事実写化」みたいな重苦しい展開のものより、こういう「台詞が洗練され、起承転結のはっきりしたドラマ」の味のほうが好みです。

 「緻密に構成されたフィクションの魅力」と「ユーモア」を明確に意識して作っているという意味では「刑事コロンボ」や「クリスティのフレンチミステリー」が好きな方にお勧めできます。(上記作品の時代感やゴージャスな感じはありませんが、代わりに人間の脳の不思議について知識を得られます。)

 よろしければご覧になってみてください。おススメは「神からの声」。ラストが秀逸です。

 読んでくださってありがとうございました。
posted by Palum at 23:44| 日本の海外テレビ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年02月07日

「五匹の子豚」(クリスティのフレンチ・ミステリー※ネタバレ編)

 今回はAXNミステリーで2月15日(土)15:00から放送される「クリスティのフレンチ・ミステリー」の「五匹の仔豚」についてご紹介させていただきます。

 当ブログの「フレンチ・ミステリー」過去記事はコチラ

 複雑な人間関係と海辺の景色、小さな子供の歌うマザーグースが織りなす、悲しい事件と、ラロジエール警視&ランピオンのギャグの緩急、そしてラストシーンの情緒。

 みどころの多い良作です。

(あらすじ)以下かなりネタバレです。大丈夫な方だけお読みください。

 母親が画家の父を毒殺した罪で投獄され、15年後、当時幼かった娘が真相を探ろうとするという筋立て。

 原作では探偵役がポアロ。

 そして、原作では獄中死したことになっている母親が生きていることになっているところが最大の違いです。

 ドラマは、事件当時まだ幼かった娘マリーが、成長して、かつて住んでいた古い邸宅の鍵を開くところから幕を開けます。

 誰もいない家で、マリーの心の中に響く、「五匹の仔豚」の歌。

 15年前の、黄昏の砂浜での思い出。

 父が自分の手をつかんでくるくると回して遊んでくれ、まだ少女だった叔母コレットが、むつまじい親子3人の写真を撮ってくれた。

 幸せだったはずなのに、父バルガは心臓発作で死んだ。

 母のエマも悲しみのあまり病気で死んだと聞かされ、彼女は親戚のもとで育てられた。

 でも、そこには二つの嘘があった。

 父は殺され、犯人として逮捕された母は今も牢屋の中にいた……。

 場面が変わり、警察そばのレストラン。

 既に優秀な部下として知られるようになっていた若手刑事ランピオンが、尾行してきた探偵ルブランからヘッドハンティングされています。

 最初は、自分は上司であるラロジエール警視を尊敬しているから、と言っていたランピオンですが、話を続けているうちに、

「確かに安月給だし、意地悪だし、不当な扱いも受けるし、寛大なところを見せてくれたことも一度も無いし、長所を見つけるのがむずかしい人ではある……」

と、日ごろの積もり積もった不満をつらつらと愚痴りだしましたが、それでも一応誘いは受けずに店をでました。

 ところが、戻って来るなり、そんなこととは知らないラロジエール警視から、最悪のタイミングで「昼食からの戻りが遅いし机が汚い」という理由でことのほかひどく叱責され、机の上の資料をバラまかれます。
(たしかにはためには雑然として見えるのですが、本人としては使いやすく配置していたつもりみたいです。ランピオンはマメな性格なのでホントにこれでよかったでしょう〈のび太的屁理屈ではなく〉)

「不当な扱いだ」
「不当だろうが正当だろうが部下なら上司に従え、(私にとって)君はクソと同じだ。簡単に潰せる!」

 この、その国の言語を解する人なら100人中120人が腹を立てるであろう暴言(ホントこんな酷い言いぐさ聞いたことない……)に憤慨したランピオンは、辞表を置いて探偵社へと去ります(無理もない)。

 その探偵社へ、マリーが母の事件を再調査してほしいと訪ねてきたのです。

 マリーの境遇に同情したランピオンは捜査に(警察から資料を盗み出してまで)尽力しますが、新しいボスのルブランは金の亡者で真相に興味を示しません。

 一方、ランピオンがこの事件を調べ出したと知ったラロジエール警視も負けじと再捜査に乗り出しますが、ランピオンに比べると頼りない部下ばかり。

 結局お互いを見直すことになります。

 理不尽だが正義感だけはある上司だった。(byランピオン)
 生意気だがよく気の付く男だった。(byラロジエール警視)

 結局、ランピオンのほうが先に折れて、復職させてほしいとラロジエール警視に懇願します。

 警視の部屋を訪ねてきて、しおらしく自分の非を認めるランピオンに、ラロジエール警視は内心嬉しい癖に
「ドアを閉めろ」
(いそいそ指示に従うランピオン。)
「違う、君が外だ(=出ていけ)」
と意地悪を言います(うまい……)。

 それでも、その後はどうにか二人の知恵を合わせて、当時の調書から状況の矛盾をあぶりだし、真犯人を見つけることに成功します。

 こうしてマリーの母エマは、ようやく自由の身となります。

 このエマが解放された後のラストシーンがおすすめなんです……。

(以下ネタバレ部)
 
 15年前、エマは、夫バルガの度重なる浮気に耐え兼ね、離婚を切り出しますが、バルガとって浮気相手はあくまで絵の題材。

 美しさを引き出してそれを描くために、若い女たちに恋を仕掛けますが、本当に愛し、必要としていたのはエマだけでした。

 エマが今回は本気で自分と別れようとしていると気づいたバルガは、それまでの勝ち気なエゴイストぶりから一変、「なんでもする。僕を捨てるな!エマ!!」と、ひざまずいてエマの懐に顔を埋め、許しを請います。

 そんなバルガにエマはどうにか怒りをおさめ、もう二度とこんな思いをさせないでくれと夫に頼みます。

 しかし、その直後、バルガは殺され、エマは冤罪で長い間自由を失うことになったのでした。

 ランピオンたちのおかげでようやく無実が証明されたエマはバルガと暮らした屋敷に戻ってきます。

 結婚を控えたマリーはエマにこの国を出て、一緒に暮らそうと懇願しますが、エマは生涯この屋敷から離れないと言います。

 そして一人、海辺へと素足で歩いて行くエマ。

 15年の月日を経た彼女の心の中で、かつて彼女にひざまずいて愛を誓ったときの夫バルガが付き添って共に歩き、やがて波打ち際で彼女を抱きしめると、そっと口づけをします。

 背後から妻を抱く、亡きバルガと、夫に振り向くエマ。

 現実の風景の中で、波の音を聴きながらわが身を抱きしめ、砂浜で独りほほ笑む、老いたエマ。

 バルガは死んだ。

 でも、エマの記憶の中のバルガは、エマにひざまずいて愛を誓った姿で永遠に止まっている。

 バルガと生きた思い出の屋敷と、海の景色を見つめ、あの悲劇の直前の、夫の愛の記憶を何度でも思い出して、生きていく。

 繰り返し打ち寄せるさざ波のように。

 それが、バルガを失ったエマの、この世で得られるいちばんの幸せ。

 砂を踏みしめて波打ち際に立つ、エマの満ち足りた微笑から、そんな想いが伝わってきます。

 原作ではエマが獄死しているので、この場面はドラマでしか観られないのですが、個人的にはこの「フレンチ・ミステリー」シリーズで一番好きな場面です。

 美しい海辺の景色と、夫バルガを演じたヴィンセント・ウィンターハルターの(「ワイン探偵ルベル」で刑事を演じている人〈リンク先画像右の人〉)、エゴイストながら本当に人を恋うることを知っていた人間という複雑な役どころを演じきった技量もあって、もの寂しいながら印象的な映像になっています。

 笑いどころも多々あり、結びはこのような情緒ありという奥行きのあるドラマですので、よろしければ是非ご覧になってみてください。


 当ブログのフレンチミステリーに関連する主な記事は以下のとおりです。

(一部内容が重複しています。またリンク切れが多いのであらかじめご了承ください。)
クリスティのフレンチ・ミステリー(AXNミステリー・フランスドラマ)
「クリスティのフレンチ・ミステリー」再再放送(AXNミステリー
「五匹の子豚」(クリスティのフレンチ・ミステリー※ネタバレ編)
クリスティのフレンチミステリー「ABC殺人事件」(ドラマ独自の年の差恋愛も見どころ)

ドラマに関するフランス語のウィキペディア記事は以下の通りです。
「クリスティのフレンチミステリー(原題:Les Petits Meurtres d'Agatha Christie)」の紹介ページ
同上「ABC殺人事件(Les Meurtres ABC)」の項目

読んでくださってありがとうございました。




posted by Palum at 22:58| 日本の海外テレビ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年01月30日

「クリスティのフレンチ・ミステリー」再再放送(AXNミステリー)

AXNミステリーチャンネルが観られる方にしかお役に立てない内容ですが、2014年2月1日から面白いドラマが放送されるので再度ご紹介させていただきます。(過去のご紹介記事はコチラ

「クリスティのフレンチミステリー」 

 英国ミステリーの女王、アガサ・クリスティの作品を元ネタに、原作にはいないキャラが謎解きをするという大胆な脚色を加えて展開する作品です。

 クリスティ作品の大スターであるポアロやミス・マープルを削ってしまうというのだから、誰が考えたのか知りませんが凄い度胸です。

 原作と比較する気はありませんが、原作には無い笑いどころと救いがある。個人的には好みです。

 以下、キャラクターとおススメの回をご紹介いたします。

主人公:ラロジエール警視

銀髪と髭が渋い熟年美男。
しかしそんな外見にそぐわず、気分屋で毒舌の癇癪持ち。美人と見ればすぐ言い寄るので、職場でついたあだ名は「ピーターラビット」(要はメスを追いかけまわすウサギ)。
特技は料理(フランスドラマらしく、ル・クルーゼっぽい鍋で作っていて、いかにもおいしそう。オサレな紳士服に平気でエプロンをつけて、こまごまこだわって作ってます。)。
若い頃は役者を夢見ていて、今でもセリフ回しは玄人はだし。(「エッジウェア卿の死」で観られます。)
やや難ありの素行と性格ながら、天性の推理力を持ち、難事件を解決しているので、新聞にも「名警視」としてたびたび取り上げられている。
繊細な一面もあり、自分の立場や大切な人に危機が訪れると、周囲も手が付けられないほど自暴自棄になり、身なりにかまわず酒浸りになる。
考え事はトイレでする主義(何故か熟年男性万国共通の癖……)。

相棒:ランピオン
温厚な人柄と地道な捜査が持ち味の若手警部。科学捜査にも積極的に取り組む。
同性愛者で、優しい雰囲気からか、事件で出会った関係者から男女問わず好意を寄せられることが多い。
ラロジエールには年がら年中言われない理由で怒鳴り散らされているが、(仕事上は)優秀な警視から勉強するためと、基本滝に打たれるがごとく忍従している。
2月8日放送の『杉の棺』の回では潜入捜査のために女装しており、なで肩と柔らかな風貌が手伝ってかなりしっくりきている。その魅力は生粋の女好きのラロジエールからも、ややアヤシゲなまなざしで眺められるほど。
(夫婦と言うふれこみである屋敷に滞在したため同室となり、「君でなかったら……」と寝室でなぜかまんざらでもなさげなラロジエールに「あいにく僕です」とバッサリ返していた。)
このときは上記のごとく警視を正気に返らせたり、男装の麗人(当然ラロジエールのお気に入り←……)から好意を示されたり、男に口説かれそうになって殴り倒したりと色々忙しかった。

観た中でのおススメ回を手短に紹介させていただきます。(少しネタバレなんでその点ご容赦ください。)

@杉の棺
 先述のとおり、ランピオンの女装がきれえだから(どういう理由だ)。後味の面から言うと原作の方がいいかもしれません。でもランピオンがきれえだから。そして笑いどころが多いです。あと、作品全体を通して言えることですが、女性のファッションが美しい。

Aスリーピングマーダー 
悪夢にうなされる、心に傷をかかえた少女サーシャとランピオンの淡い交流がみどころ。サーシャはちょっと美少年っぽく、ランピオンはとても優しいので波長が合った模様。

B「エッジウェア卿の死」
 ラロジエール警視が劇場で起こる謎の連続殺人事件に挑むが、別れた妻との間にいた娘が現れ(カワイイ)首をつっこんでくるので、調子がくるいがち。
 今回警視は劇場の女王とも呼ぶべき大女優に気に入られるのですが、この女性が外見も演技も迫力あってよかったです。
 ラストシーンは、衣装や劇場セットとあいまって、重厚で古い映画を思わせます。

 残念ながら今回放送されないのですが「ABC殺人事件」もアレンジが温かで良かったです。放送されることがあったらご紹介させてください。

 個人的に一番のお気に入りは「五匹の仔豚」(2月15日放送)推理ドラマの枠を超えて魅力的な作品です。一度少しご紹介したのですが(過去記事はコチラ)、書き足しでもちょっと長くなりそうなので、また回を改めます。

当ブログのフレンチミステリーに関連する主な記事は以下のとおりです。よろしければ併せてご覧ください。

(一部内容が重複しています。またリンク切れが多いのであらかじめご了承ください。)
クリスティのフレンチ・ミステリー(AXNミステリー・フランスドラマ)
「クリスティのフレンチ・ミステリー」再再放送(AXNミステリー
「五匹の子豚」(クリスティのフレンチ・ミステリー※ネタバレ編)
クリスティのフレンチミステリー「ABC殺人事件」(ドラマ独自の年の差恋愛も見どころ)

ドラマに関するフランス語のウィキペディア記事は以下の通りです。
「クリスティのフレンチミステリー(原題:Les Petits Meurtres d'Agatha Christie)」の紹介ページ
同上「ABC殺人事件(Les Meurtres ABC)」の項目

読んでくださってありがとうございました。


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2013年06月03日

「クリスティのフレンチミステリー」再放送

以前少しご紹介させていただいた。AXNミステリーの「クリスティのフレンチミステリー」が明日(2013年6月4日朝6時〜)の朝から再放送されるそうです。
 アガサ・クリスティの推理小説を、基本的な筋立てはそのまま、ベテラン警視ラロジエールと、若手刑事ランピオンという独自の主人公に入れ替え、コメディ要素を強くした作品です。

 当ブログ過去ご紹介記事はコチラです。

 渋い男前と思いきや、おこりんぼかついばりんぼで女好き、しかし土壇場では有能なラロジエールと、彼のことを「長所を見つけるのが難しい人(酷)」と言い、理不尽に耐えつつも支える真面目で優しいランピオン。二人のシニカルだけどどこか温かみのあるやりとりが魅力です。
 世界的名探偵ポアロやミス・マープルが出てくるはずの原作から彼らを抜き取ってこの2人を登場させるという大胆な試みにご注目ください。
私が観た限りでおススメは「五匹の仔豚」(今回は6月12日放映)。番組情報はコチラです。
画家であった父が毒薬で死に、母が毒殺犯として逮捕、その後獄中死したと聞かされていた娘が、探偵を雇って真相を探ろうとするという話です。
ちなみに原作では探偵はポアロ、このドラマでは、ラロジエールの横暴にとうとう堪忍袋の緒が切れて探偵社の引き抜きに応じたランピオン(笑)。
また、原作では母の死後に真犯人をつきとめようとする話だそうですが、ドラマでは母親は存命です。(この改変がラストシーンに重要な役割を果たしています。)
こんなふうに、クリスティ作品にたまに漂う救いの無さを、ユーモアとアレンジでうまいこと調整しているところもいいですね。
加えて、「5匹の仔豚」では、海辺の風と夕暮れの光の漂う景色、少女の思い出の中の、愛し合っていたはずの家族の姿、可愛らしい少女の声で歌われる、作品を象徴したマザーグースの歌などが情感を添えています。
ちなみに死亡した父親を演じている人は、同じくフランスの推理ドラマ「ワイン探偵ルベル」(こちらも良作でした。端正な展開のミステリにワインと大人の恋が彩りを添える、まさしくフランスといった感じの粋なドラマ)で、探偵ルベルに協力をあおぐ警視役の方です(ヴィンセント・ウインターハルター)。
創作のためにモデルと愛人関係になるというエゴイストですが、娘の記憶の中では砂浜で彼女と遊ぶ優しい父親。この複雑な人格を無理なく演じています。とてもいい役者さんですね。彼無くしてはこの作品の説得力が生まれなかった気がします。
 明日〜6月18日まで、平日朝6時〜放映されます。ラロジエールの性格上、家族で観ると静かになってしまう艶笑がたまに混じってますが、基本的には軽やかで笑える娯楽作品です(そうそう、男女問わずファッションもお見逃しなく。クリスティドラマの隠れた華です)。よろしければご覧になってみてください。

当ブログのフレンチミステリーに関連する主な記事は以下のとおりです。

(一部内容が重複しています。またリンク切れが多いのであらかじめご了承ください。)
クリスティのフレンチ・ミステリー(AXNミステリー・フランスドラマ)
「クリスティのフレンチ・ミステリー」再再放送(AXNミステリー
「五匹の子豚」(クリスティのフレンチ・ミステリー※ネタバレ編)
クリスティのフレンチミステリー「ABC殺人事件」(ドラマ独自の年の差恋愛も見どころ)

ドラマに関するフランス語のウィキペディア記事は以下の通りです。
「クリスティのフレンチミステリー(原題:Les Petits Meurtres d'Agatha Christie)」の紹介ページ
同上「ABC殺人事件(Les Meurtres ABC)」の項目

読んでくださってありがとうございました。

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2013年03月14日

クリスティのフレンチ・ミステリー(AXNミステリー・フランスドラマ)

 もったいないことをしました。
 どうやら面白かったと思われるドラマシリーズを半分以上見逃してしまった。
 AXNミステリー(※1)で放映中の「クリスティのフレンチ・ミステリー」です。
 イギリス推理小説界の女王アガサ・クリスティの作品を、基本的な筋立てはほぼそのまま、ベテラン警視ラロジエールと、若手刑事ランピオンという独自の主人公で展開している……そうです。

 正直クリスティ作品自体にあまり詳しくない上に、まだ全十一話中一つと三分の一(終わりのほう)しか観ていないもので。

 でも十分に面白かったので、取り急ぎご連絡させていただきます。
 このシリーズのびっくりなところは、それこそクリスティに詳しくない私も知っている名探偵ポアロ(※2)やミス・マープル(※3)のシリーズを下敷きにしながら、彼らを出さないところです。クリスティ作品にはいわゆる名探偵シリーズものでないものもありますから、てっきりそちらを使っているのかと。
 度胸ありますねえ。
「ドラえもん」を原作にしながらドラえもんが出てこないようなものです(ちょっと違うんじゃ……)。
 でもとても聡明な選択です。既にイギリスが彼らを登場させたドラマをものすごく忠実に作っているそうですし、いばりんぼなラロジエール警視とお人よしなランピオン刑事のやりとりには、原作に無いお笑い要素がある。(「ユーモア」というより結構ちゃんとお笑い好きを噴き出させる場面やセリフが入っています。)
 ちなみに私が終わり三分の一というのに、この作品に惹きつけられたのは、第6話「杉の棺」で、ランピオン刑事が披露した女装姿が、いやいややってるわりに表情に温かみがあって微妙に美人で、案の定男に言い寄られてそいつを殴り倒したりしていたからです。
 ランピオンの結構美しい姿がご覧になりたい方はコチラ
 ランピオンがあの姿をしてくれなかったら平日朝7時台にミステリーを観ようとはしなかった。このシリーズの魅力に気づかずしまいだったでしょう。危なかった。(ところで、「杉の棺」の原作情報をネットで集めた限りではランピオンが女装せざるを得ない状況がよくわかりませんでした。何のためだったのかな……)
 台詞も良いです。
「五匹の仔豚」(こちらはちゃんと丸一話観ました。笑えるだけでなく人間ドラマに詩情があり、とても良かったです)では、なんのかんの言って真面目で優秀なランピオンを引き抜こうと昼食に誘ってきた探偵に対して、自分はラロジエール警視を尊敬しているから、と断るつもりが、喋っているうちに「(確かに警視は怒りっぽいけれど)寛大な一面を見せてくれたことも……一度も無いな……。長所を見つけるのが難しい人ではある」と、優しい顔して相当ひどいことを言っています。
 その頃、ラロジエールは昼ご飯を買いに行ったっきり戻ってこないランピオンに業を煮やし、「(ヤツの行ったパン屋は)粉から作ってるのか!!」と周囲に怒鳴り散らしています。
(日本でも注文した料理がなかなか出てこないとき、「米買いに行ってるのか」というオジサンセリフありますが、万国共通の発想なんですね……。)
 優れた作品を下敷きに、改めて人を感心させようとするなら、このくらい大胆な冒険があったほうがいいのかもしれません。
 それに、このユーモアのおかげで、殺人事件を扱っても安心して観ていられる作品に仕上がっている。「刑事コロンボ」好きにはそれがとてもツボです。

 AXNミステリーが視聴できる方は、明日・翌週月・火曜朝、よろしければ以下の番組を録画なさってみてください。
13/03/15(金)06:30 『字』 第9話「エッジウェア卿の死」
13/03/18(月)06:30 『字』 第10話「スリーピング・マーダー」
13/03/19(火)07:00 『字』 第11話「書斎の死体」

 元々海外ミステリを観るのは英語の勉強のためで、そのためにフランスのドラマが完全ノーマークでした。繰り返しますがもったいないことをしました。

 筋立てが確かで笑えて、でもときに人情もあり、風景もファッションも素敵です。
 再放送を切望いたします。できればコロンボみたいに何度も帰ってきていただきたい作品です。


(※1)海外ミステリーを専門とするテレビチャンネル。スカパー!プレミアムサービス、スカパー!プレミアムサービス光、ケーブルテレビ、BBTV、ひかりone、ひかりTVで視聴可能

(※2)エルキュール・ポアロ クリスティの作品に登場する探偵。ベルギー人でオシャレに整えた髭と、時折まじるフランス語がトレードマークの探偵。「オリエント急行殺人事件」などに登場し、イギリスでは、というか世界的に見てもシャーロック・ホームズに次いで知名度が高い。
イギリスBBCが制作したドラマではデヴィット・スーシェがポアロを演じ、「もっとも原作に近いポアロ」と言われている。
(前にも言及した気がしますが、そのスーシェのポアロをふき替えたのが、熊倉一雄さん。知的ながらどことなくノホホンとユーモラスで、上記ウィキペディア記事によると、彼の声が最もポアロにふさわしい、とスーシェに言わしめたそうです。つまり我々日本人はポアロの中のポアロを観られるわけですね)

(※3)ミス・マープル ポアロに並んでクリスティ作品を代表する名探偵。 田舎町の上品な老婦人で、緻密な現場調査よりは、周囲の会話などから次第に真相をつかんでいくタイプの探偵。数々の演技派女優によって演じられてきたが、とくにジョアン・ヒクソンは、クリスティ本人に「いつか(ふさわしい年齢になったら)マープルを演じてほしい(I hope one day you will play my dear Miss Marple)」とラブコールを受けたことで知られる。

当ブログのフレンチミステリーに関連する主な記事は以下のとおりです。よろしければ併せてご覧ください。

(一部内容が重複しています。またリンク切れが多いのであらかじめご了承ください。)
クリスティのフレンチ・ミステリー(AXNミステリー・フランスドラマ)
「クリスティのフレンチ・ミステリー」再再放送(AXNミステリー
「五匹の子豚」(クリスティのフレンチ・ミステリー※ネタバレ編)
クリスティのフレンチミステリー「ABC殺人事件」(ドラマ独自の年の差恋愛も見どころ)

ドラマに関するフランス語のウィキペディア記事は以下の通りです。
「クリスティのフレンチミステリー(原題:Les Petits Meurtres d'Agatha Christie)」の紹介ページ
同上「ABC殺人事件(Les Meurtres ABC)」の項目

読んでくださってありがとうございました。

posted by Palum at 21:13| 日本の海外テレビ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2012年09月17日

ギャレス・マローンと“軍人の妻”合唱団!

お久しぶりです……。
久々にブログを更新しようと開いたら、このウルトラ不定期ブログ(操作画面がすっかり様変わりしてて驚いたくらいに放置してしまってた……)にアクセスしてくださっていた方が思いのほかいらしたことにうろたえています。ありがとうございます。少しでも皆さんに貢献できると思われる情報をお送りできるように頑張ります。

自分語りはこの辺にして、BS1の番組情報です。あと1時間ではじまります。遅くなってごめんなさい(汗)。
イギリスの大人気指揮者ギャレス・マローンさんが新たに合唱団を結成する大人気ドキュメンタリー(全3回)が再放送されます。

公式情報はコチラです。

個人的に「ギャレスさんマジリスペクトっす!」とそりゃもうしつこく書き綴ってる記事はコチラです。

今回はアフガニスタンに派遣される軍人の妻と恋人たちがメンバーです。
彼女たちが抑えきれない不安や、伴侶の階級や立場によって生じていた壁を、歌うことで乗り越えていく姿と、相変わらず熱心で気配り上手なギャレスさんの仕事ぶりが描かれ、タイトルから案じられるほど重苦しくはない、というか素直に胸が熱くなります。

そしてむしろその感動を通して、誰かの大切な人が戦いの地に赴くということを考えさせられます。

個人的には、ギャレスさんがとあるサプライズに遭遇する場面と、聖句を引用した歌が印象に残りました。
「友のために命を投げ出すこと。これ以上の大きな愛は無い」
どんな場面でどのような歌声が聞けるのか、どうぞご覧になってください。

結びにもう一度、この長いお休みの間も当ブログを読みに来てくださっていた方々に重ねて御礼申し上げます。
posted by Palum at 22:41| 日本の海外テレビ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年12月24日

地球ドラマチック「町中みんなで合唱団!」大聖堂への道

 イギリスのカリスマ合唱団指揮者ギャレス・マローンさんの番組が本日七時からNHK Eテレで再放送されるそうです。

 番組紹介ページはコチラです。

 今回はイギリス郊外の町サウスオキシーでの合唱団結成の回です。

 とてもさわやかな番組ですし、ギャレスさんは本当に素敵な方なので、クリスマスイブのおともにぜひご覧になってみてください。

 当ブログでギャレス・マローンさんについてご紹介した記事はコチラです。よろしければ併せてお読みください。

 ちなみに最近のギャレスさんは相変わらずイギリスで大活躍、今回(日本未放送のシリーズ)結成した合唱団のCDは素晴らしいセールスを記録しているそうです!

 ギャレスさんの公式HPはコチラです。

 ところで話はガラリと変わりますが本日(2011年12月24日10:30〜)テレビ東京の「美の巨人たち」で江戸の浮世絵師歌川国芳について紹介されます。

 奇想天外な画面構成、猫をこよなくかわいがり、金魚や神様や、あらゆるものにあたたかなユーモアをみつけた絵師。

 彼の大展覧会が2009年にイギリスで開催され、成功を収めました。

 この魅力的な絵師について、イギリスでの展覧会の模様も含めて、また近々ご紹介させていただきたいと思います。よろしければまた遊びに来てください。

 
posted by Palum at 14:49| 日本の海外テレビ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年08月14日

ギャレス・マローン先生週間!!

 皆さま、お喜びください。(いきなり押し付けがましい)

 明日(2011年8月15日【月】)17:00からはNHKBS1で4夜連続ギャレス先生祭です!(いやそんなネーミングじゃないけれど)

 イギリスの大人気指揮者、ギャレス・マローン先生のドキュメンタリー2本が、なんと17:00から(クワイアボーイズ)と深夜24:00から(ギャレス先生ユース・オペラに挑戦)の一日二回にわたりそれぞれ放映されるそうです。

 視聴者リクエストに応えて一日2本というのですから、本当に人気があるのですね……。

番組情報HPはコチラです。

 ちなみにギャレス先生って誰?という方は、以下の情報のうち必要なものをご記憶ください。

(基本情報)
 ロンドンの合唱団指揮者、BBCドキュメンタリー学生合唱コンクール指導者として選ばれ、北京の大会に出るべく若者たちを指導、その際の熱意と誠実な人柄とリーダーシップが人気を集め、繰り返しBBCの音楽企画に登場する。

(女性向け情報)
 少年のようだけれど三十台半ば。これぞイギリス青年というやや古風なファッション(メガネにベストやネクタイ)、一昔前の少女漫画から抜け出たような優しい風貌に、はつらつとした声と意志の強さのギャップが印象的。

 ギャレス・マローン先生についてもう少し詳しく知りたいという方は、当ブログで最もアクセスを多くいただいたこの記事と、ギャレス先生の公式HPをご覧ください。(後者はYou tubeの映像もたくさん観られます。ちなみにここで紹介されている「コミックリリーフ」というチャリティ番組については、当ブログ過去記事もご参照いただけると嬉しいです。)

 男性も「カリスマ」とか「イケメン」とかいう言葉に「へっ」とアレルギーを起こさずに是非一度観ておいていただきたい方です。

 熱意としたたかさと爽やかさがなんの矛盾もなく「歌うことの素晴らしさを広めたい」という目標に結実している素晴らしい方です。
 
 今回放映される二作品ともに、爽やかな好編ですが、わたしのイチオシは17時から放映される「クワイアボーイズ」です。

 BAFTA(イギリスのアカデミー賞)TVドキュメンタリー部門を受賞した作品です。

 スポーツと勉強に熱心ながら、歌についてはまったく無関心だった男子校に彼が乗り込んで、合唱団を結成し、ロイヤルアルバートホールでのパフォーマンスに挑戦させるという企画でした。

 イギリスの男性が、案外「男らしい」についてガチガチのイメージに縛られていて、歌うことや踊ることについては抵抗があるというのは、映画「リトル・ダンサー」(超名作、よろしければ過去記事を併せてお読みください)をご覧になるとよくわかりますが、ギャレス先生もそうした先入観や、彼の少年のようなルックスや物腰のせいで苦戦しまくり、珍しく「ウガー!!(怒)」みたいになっていらっしゃいますが、そこからの彼の戦略、そして歌うことの楽しさに気づき始めた少年たちの表情と歌声の伸びやかな輝きは何度観ても見飽きることのない傑作です。



 ちなみに2009年のBAFTA授賞式でギャレスさんはキルト姿でした。ものすごく似合う……これが、私が彼を観た最初ですが、当時の彼はホントに男の子に見えました。ものすごいはきはきして気配りが行き届いて大人っぽいなあ思いましたが(苦笑)。
 
 そのお姿から当初はスコットランドの方かなと思いましたが、ギャレスというのはウェールズ系の名前だそうだし、男性の歌声が美しいことで有名な地方なので、彼がウェールズ系の人なら、そうした伝統も彼の活動の原動力になっているのかもしれません。

 「クワイア・ボーイズ」はわたしもダイジェスト版しか観たことがないので本当に楽しみです。ギャレスさんは英語の発音も発言も申し分なくわかりやすいので(デヴィッド・アッテンボローさんと並ぶ、僕的憧れの二大しゃべり方【も】美男)リスニング教材としても優秀です。どうぞ録画なさってみてください。


当ブログ、ギャレス・マローンさん関連の記事は以下の通りです。
「ギャレス・マローンの職場で歌おう(原題:The Choir Sing While You Work) 」(BBCドキュメンタリー番組)(最新記事)
「地球ドラマチック『町中みんなで合唱団!〜イギリス 涙と笑いの猛特訓〜』」 (BBC原題「The choir :Unsung town」)
合唱団(クワイア)を作ろう(ギャレスさん再び)
ギャレス マローンさん(イギリス合唱団指揮者)について。補足。
ギャレス マローンさんの番組から見えたこと。
ギャレス マローンさん番組再放送!
ギャレス・マローンさんのその他のプロジェクトについて
ギャレス マローンさん再々登場!「ギャレス先生 ユース・オペラに挑戦!」
ギャレス・マローン先生週間!!
地球ドラマチック「町中みんなで合唱団!」大聖堂への道
ギャレス・マローンと“軍人の妻”合唱団!

 読んでくださってありがとうございました。
posted by Palum at 23:10| 日本の海外テレビ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年07月04日

別れのワイン(刑事コロンボ)

刑事コロンボを演じた名優、ピーター・フォークさんが六月二十三日にお亡くなりになりました。

NHK BSで彼の追悼企画として本日(2011年7月4日)から刑事コロンボ3話が放映されます。

BSの番組紹介ページはコチラです。

特にお勧めは明日(2011年7月5日)火曜日22時00分〜23時38分放送の「別れのワイン」です。

ワイン作りに命を懸けていた男エイドリアンが、不仲の弟に自分のワイナリーを売却されそうになったために弟を殴り、ワインセラーに閉じ込めて窒息死させます。

ダイビング中の事故死に見せかけたエイドリアンでしたが、コロンボは彼に疑いの目を向けます。

ワインを、ワインだけを愛するエイドリアン役のドナルド・プレザンスの、ワイン作りを奪われそうになって怒りに震える姿と、殺人による虚脱感の演技は、コロンボの名犯人たちの中でも屈指の迫力と味わいを持っています。

一方、ワインに対する造詣を深めることで、犯人としてのエイドリアンを追い詰めるコロンボですが、同時に、ワインを通じて、エイドリアンとの間に敬意や共感のような気配も芽生えます。

コロンボと犯人とのやりとりの中にひそかに流れる、緊迫と親和。

これぞ「刑事コロンボ」の魅力の真骨頂であり、この点において、「別れのワイン」は「祝砲の挽歌」に並ぶ傑作です。

そもそも、「刑事コロンボ」の魅力は、どことなくワインの酔いに似ています。

人生酸いも甘いも知った後でなければ、その味わいの深みはわからず、殺人という題材を扱いながらも、その刺激はどきつくはなく、台詞や設定や演技の洗練から、どこか観る者をふわりとした非現実の心地に誘う。けれども、いつまでもそこに浸っていてはいけないような、危うさの気配。

描写も、犯人の殺伐度合いも、罪の重さもどっぷり現実的で、額面どおりに受け取ったら寝込みそうなドラマとは一線を画し、コロンボは「犯罪」ではなく「ミステリー」という、現実に疲れた大人たちをしばし酔わせる娯楽を我々に与えてくれました。

そんな「刑事コロンボ」シリーズの中で、もっとも「らしさ」が良く出ていると思われる作品。俳優陣の演技力や題材、起承転結の巧みさからいっても、これをナンバー1に推すファンは多いでしょう。

 名優への「別れのワイン」を傾けながら、ご覧になってはいかがでしょうか。


 (補足)
 エイドリアンの秘書である女性の額やあごの線の美しさに、「おや」と思う方もいらっしゃるでしょう。
 彼女はジェームス・ディーンの永遠の名作「エデンの東」で、主人公キャル(ジェームス・ディーン)を包み込むように見守るヒロイン、アブラを演じた女優、ジュリー・ハリスです。お若いときとあんまり変わらないですね。

 勿論、彼女の演技力にふさわしい、複雑な役どころを演じておいでです。併せてご注目ください


 
(さらに補足)

 刑事コロンボの過去記事がいくつかありますので、お読みいただければ幸いです。

@「祝砲の挽歌
 
A「愛情の計算(コロンボの犬ファンの方必見)」←(コロンボ記事内で一番アクセスをいただいております。私を含めてあのワンちゃんに心奪われるかた多いんですね【笑】)
 
B「ロンドンの傘」

C「サイコ」と「忘れられたスター」
posted by Palum at 22:33| 日本の海外テレビ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年06月26日

あなたのお店蘇らせます!(ディスカバリーチャンネル)


 ディスカバリーチャンネルでやっていた面白い番組が、いったん放送を終えるようなので、ご紹介させていただきます。

 HPによると、明日(2011年6月27日【月】)の正午と19:00から二作品が再放送されるようなのですが、どうも番組の放送時間がややこしくてよくわからないので(汗)、スケジュールについてはとりあえずこちらの番組表HPをご覧ください。

ディスカバリーチャンネル6月27日の番組表はコチラです。

番組のコンセプトはタイトルの通り、窮地に陥ったお店を一流の建築業者チームが、短期かつ低予算でよみがえらせるという、アメリカ版「ビフォアアフター」です。

この番組の魅力の主な以下の3点。
@チャーリー(建築業者リーダー)とたのもしい仲間たち。
Aアメリカらしいパワフルな番組構成。
B依頼者とスタッフたちの人間ドラマ。


 人や仕事というものの魅力を前面に押し出した番組です。

魅力@ チャーリーとたのもしい仲間たち。

 この番組の、いい意味でアメリカっぽいなあと思うところは、建築という堅実で地道な仕事を、ヒーローたちの活躍の場として描いているところです。

 まず、建築を請け負うチームのリーダー、チャーリー・フラティーニ氏。

 がっちりとして、日焼けして髪は短い。しゃべりかたは荒っぽいけれど、情が濃くて仲間を大事にしている。

 見れば見るほど「実写版ジャイアン(大長編の※)」。

 ジャイアンがイタリア系アメリカ人で、働き者の建築業者として、中年まで突っ走ったらあんな感じだろうという人です。

※ジャイアンをただの乱暴者だと思っている人は、大長編をお読みください(とくに「のび太の恐竜」「のび太の大魔境」「のび太の海底鬼岩城」がオススメ)。仲間のためなら命を惜しまない男です(例、のび太をさらった大王イカ【体長約三十メートル】相手に、バットを持って飛び出していく。)

 あんなんで良いのかと、心配になるくらい現場で怒鳴り散らしているチャーリー氏ですが、意外と筋が通っているようで、「論理的に追い込んで、限界以上のものを引き出す」というスキルは、ビリーズブートキャンプのビリー隊長に似てなくもありません。チャーリー氏も海軍に所属していたことがあるみたいで、ああいう流儀なんですかね……。

こういうチャーリー氏に「なにやってんだバーロー!ンナロー!!」みたいにドヤされながら、それでも、彼の指揮下でセッセと働く仲間たち。

 たまには、いやしょっちゅう、内心「………(怒)。」となっているのかもしれませんが、彼が自ら動き、有能で、信念があるということには疑いを持っていないようで、その罵声と作業音の喧騒の奥底に流れる、静かな信頼関係がカッコイイです。

魅力A アメリカらしいパワフルな番組構成。

 日本の「劇的ビフォアアフター」と見比べると、番組の相違点と共通点が鮮明に浮かび上がります。

 日本の劇的ビフォアアフターは、日数も厳格には区切られておらず、おもに古びた個人のお宅をリフォームするというものです。

この番組の見ものは、それまでの生活の不便を解決してゆくリフォームの匠の繊細な創意工夫です。たとえば、思い出の家具や木材を再利用して収納を作るなどですね。

 「なんということでしょう……あの○○が、新たな××として生まれ変わりました。(BGMカロヤカなピアノ音)」

 女性の穏やかなナレーションとともに、見ているだけで真新しい木の匂いが漂ってくるようなまぶしい住空間(なぜか自動で開く扉)が広がる瞬間のすがすがしさは、何度見ても見飽きません。

 一方、「あなたのお店蘇らせます!」のほうでは、まずスタート地点で、たいていの場合、古いとか狭いとかを超えて、失礼ながら、店が半分壊れていると言ってもいい状態です。なんか色々むき出しになってる。

老朽化や、持ち主の指示ミスの場合もありますが、悪徳業者にだまされ続けて、文字通り店が潰れる寸前というケースも少なくないです。怖いですね……。

この惨状を見たチャーリーが、ひとたび依頼を引き受けると、ガタイのいい男たちが巨大ハンマーやチェーンソーとともにドドドッと襲来し、元々の内装をあっという間にコテンパンにしている最中に、モノクロCGで建築計画が一気に展開し、建物の各パーツが超合金ロボみたいにジャキーン!ドカーン!ガコーン!と合わさって視聴者へのプラン説明が済んだかと思うと、それを形にするべくチャーリーはのべつまくなしわめき……。

 とにかくパワフル&ダイナミックなのです。

 この騒々しさが合わないと思う人もいるかもしれませんが、出来上がりのいかにも外国らしいカラフルさ(床や壁や家具が日本には無い感じの鮮やかな色使い。)と使い勝手の良さには、彼らとデザイナーのセンスと心配りが光ります。

 わたしは「ヘイ、ビーマン!!」
と、チャーリー氏が彼の片腕を呼ぶ声とともに、スタッフ数十人が有無を言わさず押し寄せてくる場面だけで、そのスケールの違いに、ひゃひゃひゃとウケてしまいます。

 見比べるたび、いかにも「日本」と「アメリカ」の味の違いがあって楽しいのです。

 一方で、依頼人の思い入れを大切にしているのは、二つの番組にしっかりと共通している点です。

 日本の匠が主に古いものを再生してどこかに活かすように、チーム・チャーリーはよく家族の写真や、依頼人の歴史がわかるものを店に配置しています。

 それらを見ていると、華やかでなくても、こつこつ真面目に生きてきた人々の人生の軌跡は、英雄のモニュメントと同じように輝かしく偉大であると思い知らされます。

 お亡くなりになった方のためのメモリー・プレートや、店の特別席はとくに胸に迫るものがありました。

魅力B 依頼人とスタッフたちの人間ドラマ

 依頼人たちの事情をみていると、アメリカという社会の縮図のように、様々な境遇や人間ドラマが浮かび上がってきます。

 テロで事業が危機に瀕したパブの兄弟、悪徳業者に騙されたイタリアンレストランのオーナーと、父親の苦悩に心を痛める家族、子供たちの心のより所だった、町の父のような理髪店の主人……。

 人を騙す人間がいる一方で、自分たちの仕事をしながら、それを通じて家族や地域の人々のことを心から思いやる人々が、アメリカにはたくさんいるのだということにも気づかされます。

 こうした人の絆や思いやりには、1990年代前半あたりの暖かいアメリカのドラマや映画にも通じる魅力があります。

 どの回にも印象深い人々が出てきますが、わたしが見た中で、とくに再放送を切望するのは、前述の理髪店のご主人の回です。

 裕福ではなくても、いつでも町の人々のために力をつくしてきたという主人は、見るからに長年の努力と思いやりに磨かれた、寛大な光のある瞳をなさっていて、業者に騙されてしまった彼を救いたいと奔走する家族たちや、彼からの恩義を忘れない元少年たち(髪を切ってもらうだけでなく、店に集まって遊んだり勉強をしたり、ご主人に相談に乗ってもらっていたりした)の心意気が伝わる、名作回でした。

 本当にいい人だから、仕事にやりがいがあった、というスタッフたち、完成した素晴らしいお店(古いポスターにでてくるような、タイルや色使いの、小粋でぬくもりのあるお店に仕上がっていました)の椅子にどっかと腰を降ろし、
「俺の髪も頼むよ。簡単だろう?」
と言うスキンヘッドのスタッフもいい味出していました。

 この回でとくに面白かったのは、理髪店にあった「悪態禁止」という子供向けのステッカーを見たスタッフたちが、それを守ろうとした場面です。

 普段が普段なので、当然無理。

 罰金1ドルを入れるバケツは、ああっという間にいっぱいになり(出どころのほとんどがチャーリー氏【笑】)、それは理髪店のご主人に寄付されていました。

 わたしはこの回からこの番組の存在に気づき、蘇った店を万感の思いで見つめるご主人と家族の表情にハラハラと涙しました。

ぜひもう一度観たいですし、ほかの回も勿論再放送してほしいです。

 「建て直す」「人のために働く」ということの素晴らしさが伝わるこのような番組が、もっと多くの人たちの目に触れてほしいと思います。こうした感動と希望が、とくに今の日本に必要だと思うのです。
posted by Palum at 22:02| 日本の海外テレビ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年02月20日

ギャレス マローンさん再々登場!「ギャレス先生 ユース・オペラに挑戦!」


取り急ぎご連絡です。

 2011年2月21日(月)23:00〜23:50BS1で、イギリスのカリスマ合唱団指導者ギャレス・マローンさんが、若者たちとともに、歌に挑むイギリスの人気番組が帰ってきます。

まずはNHKBS1のこの動画をご覧ください。

 才能と熱意に溢れたギャレス先生と、歌に目覚めたイギリスの若い人々たちの魅力がさわやかな印象を残す、名シリーズです。

(それにしてもタイトルに「ギャレス先生」とつき始めたということは、日本でもギャレスさんのファンの方が増えてきたということですね……。)

 ギャレスさんの歌に対する信念と、若い人々の無限の可能性を通して、芸術の力やイギリス社会の奥行きも感じることができる作品です。

 英語学習者にとっても、ギャレスさんの美しい発音と、機知と人柄の良さに裏打ちされた数々の台詞は素晴らしい教材となっております。

 ギャレス・マローンさんは、そのキャラクター、英語の勉強に加えて、当ブログにたくさんの方がいらっしゃってくださるきっかけをくださった恩人でもあるので(検索で「ギャレス マローン」とうって、こちらに遊びに来てくださるかたが、今でもよくいらっしゃるのです)、私としても非常にうれしいニュースです。ギャレスさんの公式HPのURLも当ブログの左にございますので、併せてご覧ください。

 NHKBSの番組紹介ページはコチラです。

 当ブログ、ギャレス・マローンさんの過去記事集はコチラです。
(当ブログ記事のほか、BBCの番組紹介記事、BAFTA賞受賞時の動画つきHP、英語の新聞記事、日英ウィキペディアアドレスなども添付させていただいてあります)


 ギャレス・マローンさんの公式HP(英語)はコチラです。


posted by Palum at 12:00| 日本の海外テレビ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年12月12日

ヒッチコックのスピーチ


 前回「プレミアム8 ヒッチコック サスペンスの深層」で、ヒッチコックがアメリカ映画協会功労賞を受賞した時のスピーチ、とても印象深かったのでご紹介させていただきます。


 トロフィーを手にしたヒッチコックは、あの、言葉をふっふっと区切る、独特のゆっくりとした語り口でこう話しはじめます。

「皆さんにご紹介します。

 これまで私の仕事を支え続け、愛情と励ましを与えてくれた四人の人物です。

 最高のパートナーでした。

 1人目は映画の編集者。

 2人目は脚本家。

 3人目はわたしの娘、パトリシアの母親。

 4人目は素晴らしい名コック。長年キッチンで奇跡的な腕をふるってくれました。

 彼女の名前は、アルマ レヴィル。」

 あまり表情を変えずに、言葉をひとつひとつ慎重に置くように語るヒッチコック。
 
 その言葉がとぎれるたびに、大きな眼鏡の奥の瞳をうるませ、唇をかみしめて、彼を見つめる奥さん、アルマの映像が重なっていました。

 華やかなハリウッドで、映画監督として成功を収めたヒッチコック。

 長い結婚生活のいつもが、波風がたたないものだったとは言えないかもしれませんが、しかしそれでも、彼にとって日々、「4人のベストパートナー」であってくれた人は、彼女1人だったのでしょう。

 最高の4人として、数十年連れ添った重みが、ヒッチコックの言葉と、それを聞いて涙を浮かべるアルマの間に感じられました。

 自らストーリーテラー役をこなした「ヒッチコック劇場」(※)(「世にも奇妙な物語」のタモリのポジション)では、シニカルでユーモラスながら、やはり相当怖いとも思わせる内容を、飄々と話していたヒッチコックが、ちょっと聞き同じような語り方で、しかし厳粛に、こんなことを語っていたのというのは、わたしにとって意外な、温かい驚きでした。

 失礼ながら、当初、いくつか彼の映画を観たときは、あんまり頭が良すぎて、もっとドライな人間観の持ち主なのではないかと勝手に思っていたもので。
 
 しかし、彼の側には、「パートナー」という言葉がこんなにも相応しい人がいたのですね。



 ご覧にならなかった方にも、あのスピーチの印象が少しでもお伝えできていたら幸いです。

(※今週(2010年12月13日~)もBS2でヒッチコック映画がたくさんご覧になれます。番組表はコチラです。。)




(※)ヒッチコック劇場……ヒッチコックほか複数の製作者と豪華俳優陣(いまや古典と言われるような名作映画で主役を張っているような人々が登場)による短編ドラマ集。

 「チャッチャチャララチャッチャラ×2」というテーマソング「マリオネットの葬送行進曲」はどなたもお聴き覚えがあるはずですが、あの曲の、コミカルなのに妙に不安になる空気が、作品全体に漂う特異な名作です。
(いずれ何作かご紹介させていただきたいです)

 このときのヒッチコックの、どこか他人事のような語り口や、スポンサーCMへのブツクサ、なんでもやらされる感が、本編のサスペンスと対照的で絶妙なスパイスになっています。

 ちなみに日本版ヒッチコックの声優は、名探偵ポアロでも有名な熊倉一雄さんだったそうです(ミステリーにとぼけたユーモアと品を足して、奥行きを出す素晴らしい声をお持ちです)。

※わたしが持ってるDVDでは、ご挨拶だけ熊倉さんの声ですが、どっちも好きなんで切り替え出来たら最高だったなあ……。

posted by Palum at 21:33| 日本の海外テレビ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年11月30日

「BBC地球伝説」にアッテンボローさんご登場!!


 お久しぶりです。またしても更新が途切れてしまいすみませんでした。

 この空白期間も、このブログを見に来て下さっていた方たちがいらして、恐縮するやらありがたいやら……。

 また少しずつでも更新してゆきたいと思いますので、よろしければお読みください。

 とりあえず、本日は実に中途半端な情報で申し訳ないのですが、取り急ぎご連絡まで。

 BS朝日で本日11月30日(火)20:00~20:55にBBC地球伝説「地球最初の生命体とは? 後編、さらなる進化へ」という番組が放映されます。

 前編は終わってしまっています……気付きませんで申しわけない……。

 BBCの自然ドキュメンタリーは、どれもこれも映像と音楽が美しく、軒並みハイレベルですが(今週はBS朝日がBBCの自然番組特集を続けるようです。情報はコチラ。)、とくにこれを(後編情報という気まずさも顧みず)オススメするのは、自然番組制作者デビッド・アッテンボロー(David  Attenborough)さんがご登場するからです。

 1926年生まれ、動植物学者で、英国国営放送BBCの重鎮、自然番組を作り続けて50年、ナレーターとしても超一流、お兄さんは俳優で監督のリチャード・アッテンボロー氏。

 かいつまんでプルフィールを紹介させていただくと上記のようなものですが、この方がどれだけ、どれだけ(二度言った)魅力的な紳士かは、既に記事に書かせていただいているので、よろしければ、「自然番組制作者 デヴィッド・アッテンボロー氏」とその続編記事を併せてお読みください。(「今回はBS朝日HPに合わせて、お名前を「デビッド」と表記させていただきました。)

  わたしはイギリス滞在時、一度この方を肉眼で拝見する機会がありましたが、紳士歴数十年の輝きは、温かくも燦然と圧倒的で、冗談抜きで「これがオーラというものか……」と目がくらむ心地がいたしました。

 以来ギャレス・マローンさん(イギリスの合唱団指揮者)とは別系統で、メロメロにご尊敬申し上げております。どれだけって、のび太君を心の師とするほどの睡眠愛好家が、慌てて早起きして、このブログを復活させるくらいです。

 この番組は、アッテンボローさんの真骨頂、ご自分で自然の風物の中にじかに立ち、紹介する対象に触れ、生き生きとしたことばでご紹介するという構成です。

 いくつになられても知的で上品なだけでなく、エネルギーに溢れた御方なのです。

 BBCの自然ドキュメンタリーは、一般人に学術的な内容をわかりやすく伝えてくれるばかりでなく、命の神秘と躍動というロマンを教えてくれますが、そうした番組スタイルを作ったおひとりがこのアッテンボローさんです。

 こういう番組を観ていると、小さな小さな虫から大型動物、石ころから地球そのものにいたるまで、そのそれぞれに、なんと多くの、力強くも繊細なドラマの中で息づいているのだろうと気付かされます。

 「視野が広がる」ってこういうことなんですかね。

 今回の番組は二ヶ国語放送なので、音声切り替えで、イギリスでは大変名高い彼のナレーションも併せてお楽しみいただくことをお勧めいたします。

 わたしは、勉強大嫌いと言う点でも、のび太君を心の師としており(そこはしないでよ)、加えて、普段は「見た目カワイイorステキ生物」以外を喜んで観るタイプではないのですが、この方の重厚にして温かなナレーションで英語のリスニングをし、生命の歴史や生きものの驚くべき知恵を堪能することは、なんの抵抗も無く出来ます、というか好きです。

 もしも、このブログ記事に番組開始前に気付いて下さったら、アッテンボローさんご自身と、番組の素晴らしさを是非ご覧いただきたいと思います。


 そして、よかったらまたこのブログにも立ち寄ってみてください。ご紹介したい話題が溜まってしまったので、今度は近々更新いたします(汗)。では。

posted by Palum at 08:16| 日本の海外テレビ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月20日

ギャレス・マローンさんのその他のプロジェクトについて

 本日は、イギリスのカリスマ合唱指揮者、ギャレス・マローンさんの、今回(2010年8月のNHK BS1の再放送)は放映されないプロジェクトについて、一部ご紹介させていただきます。
 
※再放送情報については過去記事のコチラをご参照ください。


 (※ギャレスさん関連のおもな過去記事や、情報URLについておまとめしたページはコチラです。)



 Northolt Phoenix Choirについて

 2005年、ギャレスさんが手がけた最初のプロジェクトです。

(イギリスではすでにDVD化されています【イギリスのDVDは原則日本のプレイヤーでは観られませんのでご注意ください。パソコンなら大丈夫だと思います。】)

 ギャレスさんが、ノースホルトハイスクールというComprehensive school(※1)で、生徒の参加を募って一から合唱団を結成し、オーディションと9ケ月の特訓ののちに、中国での「クワイアオリンピック」に参加するというものでした。

(※1 11歳から18歳の生徒を対象としたイギリスの総合中等学校。能力によって生徒を分けない形式で、現在イギリスの公立中等学校の大部分を占める【ジーニアス英和辞典より】)


(特色1 勝負の世界)

 このプロジェクトの目的は、
「世界的なコンクールに参加する」
ということです。

 このため、「勝ち抜ける合唱団」にならなければならず、まず結成段階でオーディションがあり(男女各約8時間……)、さらに、特訓中に技術面でメンバーにふさわしくないと判断された生徒は脱落し、一方、途中でスカウトされた素質のある生徒が加わったりします。

 このため、その場の人々に、広く歌う喜びを知ってほしいというところがメインだったサウスオキシー合唱団のプロジェクトに比べ、「苦渋の決断」というのが多かったようです。

(今まで一緒に活動していた生徒を落とさなければならなかったりするから。【それにしても、学校の部活の顧問の先生は、よくこういうプレッシャーを引き受けなければならないのですね】)。

 うまくいかないことも多く、さすがのタフなギャレスさんも、「I’m going to go and have a large pint(意訳=【帰る前に】一杯やってきます……※2)」と、頭から煙噴いてる風情で練習場を出て行かれたりしています。


 そのほかにも、諸事情で転校することになっている生徒は、(能力的にはギャレスさんに推されていたのですが)もうこの学校の生徒でないからという理由で参加できなかったり、自ら希望して出て行く生徒がいたりと、ほかの回に比べてシビアなシーンが多いです。

 芸術は人の心を幸せに、豊かにしますが、一方で、そこに勝負がからんだとき、みんながハッピーとはいかないものだということが、このプロジェクトではよくわかります。こと大人数が関わってくる場合は。

 それでも、こういう難しい状況で、ギャレスさんが生徒たちの前で「なぜそうしなければならないか」を説明し、生徒たちも率直に意見を出し合っているシーンなどは、若い人たち相手に限らず、「チームを動かす」という面において学ぶところが多いです。

(※2 pintは液量の単位で約0.568リットル。この場合は「1パイントのビール」の意味に使われています)


(特色2 生徒たちの人間ドラマ)

 この一連のドキュメンタリーを通じて言えることですが、合唱に挑戦する人たちの状況の変化や、成長は大きな見所です。

 個人的にこの回で印象に残ったのは、クロエとイノックという生徒さん。

 クロエはよく通る美しい声をしているのだけれど、あまり練習には熱心ではなく、ほかのメンバーとも距離を置いている感じでした。(歌と反対に、喋る声には人見知りが出て、あまり張りが無い)

 しかし、ギャレスさんが話しかけて彼女に積極的になるように促し、ソロパートを割り振ったり、生徒たちが大きなホールで一人ずつ歌う機会を設けたりしているうちに、徐々に自信と責任感を育て、合唱を通じて大きく変貌していきます。

 再訪の回では、すっかり大人びて、堂々と働いている彼女の姿が見られて、若い人が「誰かすぐれた人に認められ、指導され、チームに必要とされること」が及ぼす影響の大きさを感じさせられます。


 一方、イノックはアフリカから移住してきた少年で、明るく練習熱心。
 
 途中で補欠になってしまいますが、それでも熱意を失いませんでした。

 しかし、彼には、父親がケニアにいて、イギリスへの移住許可がなかなか下りないという事情がありました。

 彼はほんとうにお父さんが大好きだし、母親もお姉さん(同じく合唱団のメンバー)も、お父さんと暮らす日を心待ちにしていて、申請許可の手紙を待ち焦がれています。

 そんな三人の姿からは、家族の、お互いに対する苦しいほどの愛情が伝わってきます。

 この家族に、どんな結果がもたらされるかは、この回がNHKで放映されるかもしれないので(既にされたのではないかと思うのですが、人気シリーズになりつつあるみたいなので再放送を期待して)ここまでにしておきます。


 そのほかにも、晴れの舞台に向けて、自分たちで話し合って決めたデザインの衣装を着て登場する少年少女たちの楽しそうな様子など、それぞれの生徒さん達の表情の変化が魅力的です。

(ちなみに女子はゴージャスな赤い肩出しドレス、男子はゆったりめの黒地に赤い袖のカンフー服【ギャレスさんも同じ←お似合い(笑)】)

 それにしても、サウスオキシー合唱団の方々を観ていても思いましたが、その日のための特別な衣装を着て、人前に立って努力の成果を見せる、という時間というのは楽しそうですね。
 
 プロでなくても、それは人生に彩りを加えてくれると思います。そして、そんな彼らを見守るご家族の感慨深げな表情も、また特別な輝きがあります。


(特色3 ギャレスさんの指導者としての姿)

 さきほどの「頭から煙噴いて一杯やってから帰るギャレスさん」もそうですが、この回では、珍しく「生徒を叱りつけるギャレスさん」が映っています。

 この回は、指導面で色々苦労があったようで(次の回「クワイアボーイズ」も相当大変だったようですが)、
「ちっとも上達していないのに、コンクールの期日は迫る、しかし練習に来ても喋ってる」
 という生徒たちを、彼が怒鳴りつけていました。

 ただし、これは彼が普段からまめに熱心に指導しているからこそ、ごくまれにだけ使えるカードといえるでしょう。

(日常的に大声でドスきかせるには、彼のキャラクターは向いていません。そもそも彼が登場したとき、生徒たちは「……先生……?」と思ったそうですから【あんまり童顔だから】。)


 そして、あとに続いた
「(怒鳴ったのは)君たちの上達のためだ。今勝手に話すことは必要じゃない」
という、生徒たちに自分たちの責任の重さを実感させることばや、その後も、なおまとまりの悪い生徒たちに、今度は週末に一緒にキャンプに行くというアクティビティで結束を高めるなどのフォローがあった点を見逃すべきではないと思います。

(アスレチック場で、生徒に率先して高い柱によじのぼってたりしていらっしゃいました。「人の心をまとめる」って本当に大変だな……)



 確かに、彼はいまやイギリスTV界で非常に注目されている人で、「彼の立場だからできること」もあるのかもしれませんが、このような指導の多様性や、ことば遣いは、一般的にも取り入れられる要素が多いと思います。

 そして、こんなふうにたくさんの苦労を一緒に乗り越えたあと、彼らとの別れを惜しんでひっそりと涙するギャレスさんの姿にも心打たれます。


 BBCアメリカ(※3)のHPにこの回(「Boy’s Don’t Sing」と「Unsung town」も)の紹介文が出ていました。ご覧になりたい方はコチラをクリックしてください。

(※4 アメリカで放映されているイギリスの国営放送【BBC】。ややこしいですが羨ましいです。BBC【というか、イギリスのテレビ】はギャレスさん番組だけでなく、いつも本当に良い番組をやっていますから……【こ、国営放送が……?という内容のもありますが……】)

補足 Gareth Malone Goes to Glyndebourneについて

 2010年6月に放映されたプロジェクトです。

 ギャレスさんが地元の若者を集め、オーディションと特訓の後、オペラ「Knight Crew」に参加するというものだそうです。

 相変わらず好評のようですし、NHKならきっと放映してくれるでしょう。いつになるかはわかりませんが、楽しみに待ちましょう。
 以上です。お役にたてば幸いです。



 ところで、最近、予定外に番組紹介を続けてしまい、一度予告させていただいたミュージカル「ビリーエリオット」の紹介が先延ばしになってしまいました……。

次回こそはこの記事をアップしたいので、よろしければお読みください。

(もっとマメに書かせていただかないと、こういう事態で慌ててしまいますね……【汗】)


posted by Palum at 23:13| 日本の海外テレビ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年08月16日

ギャレス マローンさん番組再放送!


 本日もBSがご覧になれる方に、取り急ぎご連絡まで(汗)。

 気付くのが遅くなって申し訳ありません(汗2)。
 
 イギリスのカリスマ合唱指揮者、ギャレス マローンさんのドキュメンタリー番組が、BS1で本日深夜(2010年8月16日月曜深夜【=17日火曜午前】0:00〜0:50)から20日金曜深夜(21日土曜午前)まで、五夜連続で再放送されます。

 「クワイアボーイズ 特別編」NHKの番組紹介HPはコチラ
 
 続編となるサウスオキシー合唱団結成プロジェクトの再放送番組紹介ページは下記の通りです。
 「響け、町の歌声」 第一回 
             第二回
             第三回
             第四回


 歌うことの素晴らしさと、合唱の素晴らしさを人々に伝えたいと奮闘するギャレス先生の魅力に、心洗われること間違いなしの名作です。
 
 深夜放映ですが、是非ご家族でもご覧になっていただきたい番組でもあります。

 境遇や年齢を問わず、歌という新しい力、人生の喜びを獲得して、変化してゆく人びとの表情の輝き、誇らかで生き生きとした歌声に、とても胸を打たれるので……。

(なので、視聴者からの支持を集めての再放送だそうです。美しいもの、爽やかなものは、やはりみなさんの心をとらえるのですね……。)


 ちなみに、番組紹介に「女性に人気」みたいなことがよく書かれていますが(笑)、たしかにギャレス マローンさんは、びっくりするほど童顔の(日本人から見ても、ハタチそこそこみたいだけど三十代)、知的で気立ての良さそうな(いや、「良さそう」じゃなくて「実際、そう」)眼鏡がよく似合う好青年です。

 ああいうのを、内面(も)美というのでしょう。

 ……ということに、「けっ!」と思わずに、是非男性にも観ていただきたいです。
 
 彼の不屈の意志と、押さえつけではなく人の心を動かす工夫と気配り、コミュニケーションスキルは、大人として励まされ、勉強になるところだらけです。

 わたしの「観なさい(おすぎさん風に)」攻撃に閉口しながら観た後、「見習いたい」と、メロる(?)人は、男女問わず周囲に続出しております。

 すでにギャレスさんのご紹介記事をいくつか書かせていただいておりますので、よろしければ併せてご覧ください。
 当ブログ「ギャレス マローン」番組関連の過去記事をおまとめしたページはコチラです。

 個人的なことを書かせていただきますと、ギャレスさんのことをご紹介して以来、このブログに来て下さる方が増えたので、勝手にあの番組にとても感謝しております。

 (そして、いまだにギャレスさんのお名前を検索して、ここに来て下さる方が途切れません。)

 また、一人でも多くの方に、あの番組をご覧いただき、音楽の力と、ギャレスさんというお方と、ああいう番組が大人気なイギリスの素晴らしさを知っていただけたらと思います。
 
 
posted by Palum at 21:04| 日本の海外テレビ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年05月05日

「サイコ」と「忘れられたスター」(刑事コロンボ)

 本日(2010年5月5日)22:00〜23:51、ハイビジョンシネマで、いよいよ、サスペンスの神様ヒッチコック監督の代表作「サイコ」が放映されます。

 この「サイコ」でヒロインを演じた美女ジャネット・リーは、さらに明後日金曜(2010年5月7日)の22:00〜23:40の「刑事コロンボ(同じくハイビジョン)」で名作「忘れられたスター」の犯人役を演じます。

(聡明なNHKのこと、意図的に番組を組んだんでしょうか……粋なはからいだなあ。)

 いかにもヒッチコック好みの、パーフェクトなブロンド美女が、年月の経過とともに、悲哀を醸す演技派女優となっている姿にもご注目ください。


(以下、ややネタバレです。あらかじめご了承ください)


@「サイコ」とその他ヒッチコック映画のオススメ。

「サイコ」は 美しい女性が金を横領して、訪れたモーテルで、身の毛もよだつ惨劇に遭遇する物語。
 
 シャワーを浴びる女性に襲い掛かるナイフのシーンは、あまりにも有名です。
 
 いや、「サイコ」をご存知でなくても、十人中十二人が、あの神経を逆なでする不気味な音楽が流れれば、「あーあー!!」と思われるでしょう。

 個人的な話をさせていただくと、昔観たうす〜い記憶しかないんで、今回初めてちゃんと観るといえなくもありません。
 
 基本ビビリなんで、推理物は好きなくせに、ショッキングなものは苦手という、ややこしい嗜好でお届けしております。

(というわけで、キツイ場面をほとんど映さない「刑事コロンボ」好き)

 
 昔は「鳥」(※1)も駄目だったなあ。身内も嫌がってましたが(ビビリの一族)。

 おまえ「ヒッチコックは良い」とか書いといて、じゃあなにを観てそう思ったんだぁよ、おぁぅ?(志村けん氏風詰問)と問われたら返すことばがないのですが、「裏窓」(※2)と「ハリーの災難」(※3)が面白かったのです……。

(今回は放映されないみたいで残念です)。

 ストーリーの妙味や洒落た台詞回し、ギリギリの線で、下品にもグロテスクにもならない作品全体の空気感が、非常に新鮮でした。

(※1)「鳥」
 なぜか、あらゆる種類の鳥が、突如として襲い掛かってくるという不条理に見舞われた人々の恐怖を描いた作品。

 高度な合成映像技術と鳥たちの演技は驚異的。

 むしろ鳥が人を襲っている最中よりも、いつのまにか「その時」を前に大挙して群れている鳥の静けさが怖い。

(※2)「裏窓」
 撮影中の事故で足を怪我してしまったカメラマンが、暑さと退屈さのために、家の窓を開けて眺めていたことからわかる、向かいの家々の人間模様。

 ある日を境に、その中のひとつの部屋から、妻の姿が消えたことに気づき、不審を抱いて真相を調べ始める。

 カメラマンがやっていることは、平たく言えばのぞきなんで、現実ならご近所から警察に通報されますが、主役ジェームス・スチュアート(「アメリカの良心」ともいわれた名優【ウィキペディア記事より】)の知的な端正さが「ま、映画だから……」と観る者をなんとなく納得させてしまう。

 ヒッチコック作品に、整った感じの美男美女が多いのは、陰鬱あるいは扇情的になりがちな筋に、圧倒的な美貌という非現実のヴェールをかけて、受け入れやすくするためなんですかね。

 窓から見渡せる各家庭の斬新なセットや、恋人役のグレース・ケリーの魅力とファッションも見所です。


(※3)「ハリーの災難」
 とあるのどかな雰囲気の町で発見された、男(ハリー)の死体。

 発見した人々は、それぞれの理由で自分が彼を殺してしまったと思い込み、死体を隠すために奔走する。

 描き方ひとつで不気味になるストーリーを、愛嬌ある登場人物たちにより、ユーモラスにまとめている異色作。

 

 話を「サイコ」に戻させていただきますが「描き方」といえば、そもそもこの作品でも、「人の体にナイフが突き刺さる映像」はなく(※)、効果音と音楽、悲鳴、カメラワークで、あの有名な恐怖シーンが描かれたそうです

(※……NHKのプレミアム8「シリーズ巨匠たちの肖像 ヒッチコック・サスペンスの深層」という番組で紹介されていたかと……。違う特集番組だったかな……うろおぼえですみません。)
 
 この、映画製作上の工夫と抑制(しかし、だからこそいっそう印象的)がヒッチコック映画の魅力です。


A 刑事コロンボの「忘れられたスター」

 ジャネット・リーは再起を夢見るベテラン女優を演じます。

 女優グレース(ジャネット・リー)はカムバックを賭けた舞台のために、裕福な医師である夫に資金援助を求めますが、彼はそれを拒絶します。

 思い余った彼女は、財産目当てで夫を殺害、この事件にコロンボが挑みます。

 彼女を愛していた男性(誰であるかは是非ごらんになってみてください)との物語がからみ、コロンボ・シリーズの中でも屈指の余韻をもつ作品です。

 単なる推理物ではなく、愛情や、役者の執念、過去の栄光を忘れられない悲哀などが絡んだ人間ドラマとして印象に残ります。

 「別れのワイン」と「祝砲の挽歌」に並ぶ、僕的コロンボ三大傑作です。

 「忘れられたスター」ネタバレ編はコチラです。よろしければ併せてお読みください。

(刑事コロンボは「祝砲の挽歌」「愛情の計算」「ロンドンの傘」についても、既に記事を書かせていただいておりますので、よろしければクリックしてお読みください。)

posted by Palum at 14:05| 日本の海外テレビ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年04月23日

ヒッチコック特集

 
 取り急ぎお知らせ

 2010年4月26日(月)から、BS「ハイビジョンシネマ」で、サスペンスの神様ヒッチコック監督の映画特集がはじまります。

(BS hiで22:00から。映画情報が見られるBSオンラインのHPはコチラ

4月26日(月)「めまい」
4月27日(火)「知りすぎていた男」
4月28日(水)「引き裂かれたカーテン」
4月29日(木)「鳥」

 ヒッチコック監督について、超くわしいわけではないのですが、(今回の作品もはじめて観るものが多いです)これからきちんと勉強させていただく予定です。

 @スリリングなストーリー(ときに挟まれるユーモア)。

 A音楽、映像の、極限までの緻密な計算と、大胆な冒険。

 B端正な美男美女が織りなす、ミステリアスな悪夢のような空気感。
  (ファッションも上品で大注目です)

 取り急ぎ書かせていただいても、ヒッチコック作品には魅力がいっぱいです。


 うちの親は、「めまい」にブロンドの美女キム・ノヴァクが出ることに盛り上がっていました。

 当時の男性は、軒並み
「うをー、いい……」
と、鼻の下伸ばしてみたいです。

 確かに美しい。

 肉感的ながら下品ではなく、寸止めの色香が、画面の向こうからただよってきそうな女性です。
 
 ヒッチコック自身はキム・ノヴァクに不満があったみたいです。(「定本 映画術 ヒッチコック・トリュフォー」より※)

 清楚なグレース・ケリーがお気に入りだった彼には、彼女はセクシーすぎたんでしょうか。

 が、聞き手のフランソワ・トリュフォーも、観客も彼女に見とれています。

(うちの親も「ヒッチコックがどう思おうが、キム・ノヴァクはいいんだ」と、ソソクサ予約録画いれていました。)
 
 「めまい」は、当時としては、非常に斬新な映像表現で有名ですが、そんな賛否両論の美も楽しめる作品です。

※「定本 映画術 ヒッチコック・トリュフォー」

 映画監督フランソワ・トリュフォーが聞き手となって、ヒッチコックとの対談形式で、ヒッチコック作品とテクニックを明らかにしてゆく。
 
 トリュフォーのヒッチコックに対する敬意と鋭い分析力、ヒッチコックの、映画上のありとあらゆる創意工夫や裏話が堪能できる。名著です。 


定本 映画術 ヒッチコック・トリュフォー

定本 映画術 ヒッチコック・トリュフォー

  • 作者: フランソワ トリュフォー
  • 出版社/メーカー: 晶文社
  • 発売日: 1990/12/01
  • メディア: 単行本


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2010年04月22日

ロンドンの傘(「刑事コロンボ」)

前回の記事では
「次回はアルベール・カーン氏についてもう少しご紹介させていただきます」
と申し上げたのですが、NHKBSの「刑事コロンボ」の「ロンドンの傘」の放映日が明日(BSハイビジョンで2010年4月23日金曜日22:30〜0:08)に迫ってしまったので、先にこちらを書かせていただきます。

(うっかりチンパンジーですみません……)


@あらすじ

 「ロンドンの傘」はその名の通り、ロンドンが話の舞台。
 
 犯人は、最近人気が落ちているベテランの役者夫婦。ニックとリリー。

 夫婦共謀し、妻リリーが、資産家サー・ロジャー(※「サー」は、この場合、イギリスの身分の高い人につける敬称)に気のあるそぶりを見せて、彼の劇場で公演できるようになります。

 しかし、からくりに気付いたサー・ロジャーは激怒。公演を中止すると言い、いざこざの最中に、夫妻ははずみでサー・ロジャーを殺してしまいます。

 夫妻は、サー・ロジャーの死体を彼の邸宅に運び、事故に見せかけますが、アメリカから視察にきていたコロンボが、彼らの小さなミスから、犯罪を暴いていきます。



A感想

 作品の出来、それ自体としては、コロンボシリーズの中では標準なのですが、とにかくコロンボ(ひいてはアメリカ)の目から見たロンドン(しかも1970年代)、が見られるという意味では、とても興味深いです。

 ただし、登場人物たちのキャラクターが、コロンボ・シリーズの中では結構異色なので、

「大胆にして緻密な犯罪隠蔽工作を遂行する名士たちと、したたかなコロンボとの、静かなる頭脳合戦」

という標準的な構図を期待すると、かなり意外に思われるかと。

 「外国人コロンボが垣間見た、やや善悪の価値基準が一般と異なる人々のシュールな人間ドラマ(40年前のロンドン観光つき)」といったスタンスでご覧になると、しっくりくるのではないでしょうか。


(以下、かなりネタばれなので、気になさらない方だけお読みください。)


B特色

 (1)犯人像

・完全複数犯

 コロンボ・シリーズは、たいてい単独犯で、手を貸す人物がいても、主犯は一人だけというケースが多いのですが、この作品では、犯人二人が、犯罪後の打ち合わせを台詞で綿密にしています。
 
 音楽や、目つきや、小さな仕草で、じりじりとした焦燥や、乾いた冷静さを醸す他作品にくらべると、わりと賑やかな構成といえるかもしれません。

・犯人の性格
 
 よりにもよって、アメリカ以外の人を描く際に、この性格設定にしなくてもと思うのですが、
(イギリス人から見たら、「これが我が国の典型と思われたらどーする!」と結構不服だったのでは)
この二人、コロンボ・シリーズ史上最も、殺害後も平常運転の人々です。  

 サー・ロジャーの死をしおらしく嘆いて見せたかと思うと、夫婦で庭仕事に出るみたいに軽口をたたきながら、悪だくみを進めていきます。

 そして、公演の成功に大はしゃぎ。まるで誰も殺していないかのようです。

 舞台人の、成功への飽くなき渇望というのは、コロンボ内屈指の名作「忘れられたスター」の犯人にも共通しているのですが、この夫婦は、パーティーでチヤホヤされたり、新聞評を読んでご満悦なので、あの作品とはだいぶ味わいが違います。

 彼らが、作品内の公演で演じたのは「マクベス」ですが、このシェークスピアの四大悲劇、主君である王を殺して王位を奪った武将マクベスと、彼をそそのかしたマクベス夫人が、迫りくる良心の呵責と、運命の皮肉によって破滅していくという筋。

(ノックの音におびえるマクベスと、王の血が落ちないという強迫観念に襲われて、夜な夜な手を洗うしぐさをするマクベス夫人のシーンは有名)


マクベス (新潮文庫)

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  • 作者: シェイクスピア
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  • 発売日: 1969/08
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 この舞台の台詞は、事件と重ね合わせるようにして、たびたび登場していますが、この二人が本当に「マクベス」夫婦の、重苦しい罪のおののきを演じられたのかと、疑問に思うほどです。

 少なくともこの二人が、「ガラスの仮面(※)」的に、実体験から演技の真髄を掴んでいくタイプでないことは間違いが無いですね……。
(まあ、犯罪きっかけで真髄掴まれても……とも言えるのですが)

 もう一人、「人が亡くなったというのに、その感覚でいいんですか……?」という人が出てきますが、これはドラマ内でご確認ください。


(※)「ガラスの仮面」……美内すずえさんの少女マンガ。
 幻の名舞台「紅天女」の主役をめぐり、一見平凡ながら天才的な演技力を持つ少女北島マヤと、芸能一家に生まれた美少女姫川亜弓が火花を散らす物語。
 役柄になりきるために、ほとんど命がけの猛特訓をする二人の姿が見どころ。
 

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 (2)「イギリスらしさ」
 
 これが本当のイギリスの典型かどうかはともかく、外国人から見ると、「ぽいな〜」というところが、結構シニカルな部分まで描かれています。


・ロンドン観光 

 カメラを持って駆けずり回るコロンボとともに、兵隊の行進や、タワーブリッジ、警視庁の建物などが登場します。ちょっとした観光映像的。

(排ガスの影響でしょうか。今より黒ずんだ建物が多い気が……)
 
 もちろん、ロンドン、というかイギリスの象徴ともいえる、昔ながらのパブも出てきます。
 
 「刑事コロンボ」ではおなじみの「豪邸訪問」シーンもイギリス調。
重厚な書棚や家具が、特にイギリスの古い邸宅を感じさせます。

(ちなみにこのシーンの執事氏の台詞で、エドガー・ポーの短編にも登場する酒アモンティリャアドが登場します。やっぱり、どうもスゴそうな位置づけなんだな、と学びました【目にしたことすらない】。)


 途中で、ロンドンの刑事部長たちとコロンボが食事をする行きつけのクラブ(夜の飲食店というより、常連が集う高級カフェのようなものらしいです。どうもこの刑事部長は、かなり古い家柄の人の模様)のインテリアも豪勢です。

 こういう凄い内装のレストランやカフェは、今でも結構残っているんですよね。ご注目ください。



・帽子と傘

 警察関係者たちが、黒いシルエット帽を被っています。

 最近は、イギリスでも、帽子をかぶっている人が減りましたが(ハンチングの中高年男性は、今でも地方で多く見かけます。おしゃれですねー)、わたしは帽子支持派です。

 シャーロック・ホームズも、「カサブランカ・ダンディー」や「勝手にしやがれ」の沢田研二氏も、映画「アンタッチャブル」の面々も、帽子をかぶっているおかげで、どことなく品があり、それでいて、つばの影のまなざしが、ミステリアスではないですか。


アンタッチャブル(通常版) [DVD]

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  • 出版社/メーカー: パラマウント ジャパン
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(とか言いつつ、このわたしは、帽子がすげえ似合わないんで、持ってないんですがね……)

 三十代以上の人の帽子文化が、男女問わず、このくらいの日常性で復権してほしいと思います。

(職場に当たり前に被っていけるってのがミソ)

 また、邦題通り(※)、ロンドンの立派な傘が、重要な小道具として登場します。

(原題は「Dagger of the mind」、「心の短刀」と訳せばいいのでしょうか。「Dagger(短刀)」は暗殺の象徴だとか。「マクベス」に登場する武器です。)

 ……が、雨が多いにも関わらず、現代のイギリスの人が傘をさしている姿は、意外と見かけません。

 フードやレインコートでなんとかしてしまうことが多いみたいですね。

 一部イギリス人には、「にわか雨で、傘をさしている人は外国人観光客」という見わけがあるとか無いとか。
(余談ですが、「アジア人はマスクをする」ってのもあるみたいですよ。以前の記事「豚インフルエンザについて」をご参照ください。)

 しかし、一方で、ロンドンには高級な老舗傘店が今でもあり、フンパツする方には良いお土産とされています。

(コロンボも、「傘をお土産にする」といっていますが、彼は乾燥したロサンゼルス在住。一種の笑いどころですね。

【沖縄の人に、ダウンコートお土産にする的な。ああ、そもそも、コロンボがレインコート愛用しているのも矛盾なのですが】)

 ロンドンの老舗傘店では、丁寧な縫製に洒落た布地、美しい木目や、銀の細工の握りなど、ほれぼれするような立派な傘が所狭しと並べられています。

 高級品は、心棒から柄の部分までが一木で継ぎ目が無く、身長に合わせて選ばれ、ある程度体重をかけることも可能という話を聞きました。

 つまり、ロンドンの傘は、かつてはステッキ同様、補助かつ護身の役割を果たし、高級な物の場合、ひとつのステイタスの象徴だったのではないでしょうか?

 大英博物館の側にJames Smith & Sons(←こちらのHPで傘についての蘊蓄も英語で読めます)という有名な老舗傘店があります。

 お値段も品質に正比例しているようですが、店構えも、束になった高級傘のディスプレイも、あたかも「傘の歴史博物館」といった趣ですので、通りすがりに眺めてみるだけでも楽しいです(経験者談)。



(3)イギリス式心臓(?)

 この作品で、個人的に最も印象深かったのは、コロンボが地元の刑事部長や医師とともに、前述した重厚なクラブで話す場面です。

 優雅な軽食が始まると思いきや、医師が、平然と遺体の写真を食事の隣に並べてしまい、コロンボは、極力見ないようにしながら、刑事部長に写真を渡しますが、刑事部長も、これまた平然と見ながら、コロンボに返してしまいます。

 コロンボは、有能ながら血に弱く、死体はおろか、生きている人の傷口を見ても青くなるという繊細さ。
 ドラマ自体も露骨な殺害シーンや死体はほとんど映りません。

 一方、イギリス人の一部の人は、案外そういうの平気です。

(全員ってわけではないので念のため。わたしの知人たちは違いました。)

 刑事部長や医師はプロだからということではなく、ロンドン、ヨーク、エディンバラなどには「○○(都市名)Dungeon(ダンジョン)」なる犯罪博物館兼お化け屋敷みたいなもの(兼ねちゃっていいのか?)があり、人々は恐怖刺激を求め、過去の凶悪犯罪の再現蝋人形なんかを観に行ったりするのです。
(Dungeon=土牢・地下牢)


 わたしは昔「London Dungeon」に行ったことがありますが、
(もっと学術的な場所かと思っていたら、暗闇に蝋人形で人間の闇の歴史の光景が延々と……連れはナイーヴだったので、悪いことをしました。)、切り裂きジャックの犯罪現場を巡るシュミレーションツアーなんてありました。確か遺体の写真も見せられた気が……(怖いので下向いていました)。

(補足:さっき改めてHPチェックしたら、もっと積極的に襲いかかってくるタイプのアトラクションに変わっていました。HPそれ自体が僕的にはもはや無理です。)

 それに、この「ロンドンの傘」に登場する蝋人形館のモデルになっているであろう、観光名所「マダム・タッソー(Madame Tussauds)」にも、有名人たちの蝋人形と記念撮影できる楽しいコーナーの先に、そのような怖い場面の展示などがありました。

 こちらも、動画を観たらもっと手に負えない感じのものになっていました(上記HPをクリックなさるかたはお気をつけてください)。
かえすがえすも時代が……(以下略)。

 日本の場合、実在の事件や人物に関して、滅多なことでは展示はしないし、観光の一環にもならないと思うので、感覚が少し違うと思いました。

 本当にあった話の怖さは、いわゆるお化け屋敷の恐怖と違って、「その場を出ても残る」「申し訳ない気がする」というのが、個人的意見なんですが……。

 そういう、「イギリスの一部の人……気が重くならないのかな……」という疑問が、この一場面に象徴されている気がしたんです。

 ですが、イタリア人の知人いわく、イタリアにも類似した観光名所(?)があるそうなので、べつにイギリスに限った話ではないのかもしれません。

 まあ、今やアメリカだろうがイギリスだろうが日本だろうが、すっかり各国「ショッキング」に目が慣れてしまいましたから、コロンボの感性こそが少数派になりつつあるのかもしれませんが……。


 
 こんなところです。よろしければご覧になる際の一助になさってください。

 最後に、我ながら相当マニアックな余談。

 今回、物語冒頭で登場する、リリー扮するマクベス夫人がつけているネックレス、別の回の「歌声の消えた海」(犯人役はロバート・ボーン)で、被害者のジュエリーボックスからチラっと出てくるのと同じ物のようです。

 是非見比べてくださいとは申しませんが(笑)、どうも、そうらしいと気付いてしまったので一応。

posted by Palum at 18:54| 日本の海外テレビ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年04月07日

コロンボの犬とアルベール・カーン氏(番組紹介)

@ 明日(2010年4月8日【木】)BS2の「刑事コロンボ」で「愛情の計算」が放送されます。

この回は、コロンボの愛犬のバセットハウンドがたくさん出てくるので、コロンボの犬の、「何もしないっぷり」に猛烈に和むファンの人々は、お見逃しなさいませんように。

(自分を含めて、結構いるとにらんでますぜ、あっしは【←誰?】)
 
※「刑事コロンボ」については過去に二度書かせていただいておりますので、よろしければ、こちら過去記事の「祝砲の挽歌」「愛情の計算」をクリックしてみてください。

(今度は「ロンドンの傘」が放映される際に、ご紹介させていただく予定です。)



A 2010年4月5日から16日まで、深夜0時に、BS1で「奇跡の映像 よみがえる百年前の世界」というイギリスBBC制作のシリーズ番組(全10回)が再放送されます。
 
(二ヶ国語放送、とても聞き取りやすい英語で、内容も勉強になります)

 NHKの、番組第1回〜第3回の紹介ページURLは下記の通りです。
 (本日2010年4月7日時点で、第1、2回は放送終了しています)

 第1回 大富豪カーンの“夢"
 第2回 激動の世紀への胎動 
 第3回 かげりゆく共存の輝き

 
 フランスのユダヤ人大富豪アルベール・カーン氏(1860〜1940)は、1908年から1930年にかけて、私財を投じ、世界中にカメラマンを派遣、当時の各国の様子を、カラー写真や動画で記録しました。
 
 番組は、このアルベール・カーン氏の映像コレクションを、各国の歴史や当時の時代背景とともに紹介します。
 
 これは本当に良い番組です……。

月曜日から放映されていたのに、気付かず、ご紹介が遅れて残念。

 
 世界中が、利益を求め、他国を抑圧し、武力を行使していた時代に、アルベール・カーン氏は、互いの文化を理解し合えれば、それが世界平和につながるはずだと信じて、この大事業を推進しました。
 

 百年前の世界といわれると、我々はどうしても白黒の写真を思い浮かべてしまいます。

 しかし、カーン氏の写真は、昔も、人々は温かな血を通わせ、美しい民族衣装を凛とまとい、あらゆる立場、文化の中で生きていたこと、そして、生身の人たちが、戦争で傷つき、死んでいったことを物語っています。

 ただ、歴史的資料価値があるだけではなく、等身大の人々の息遣いや、一瞬垣間見える日常の輝きをとらえた作品も多く見られます。
 


 特に第10回、「カーンが見た“ニッポン"」(2010年4月16日金曜深夜[土曜午前]0:00〜0:50)は必見。

 アルベール・カーン氏は、1908年の旅行を皮切りに、何度か日本を訪問し、その文化に強く魅了されました。この旅が彼の写真コレクションのきっかけになったと言われています。

(この年から、カーンは各国をめぐる旅に出ており、日本もその旅程のひとつでした。最初に書いた文では、日本だけがコレクションのきっかけのように読めてしまうので、申し訳ありませんが、ここに訂正させていただきます。)

 BBCがこの番組「Japan in Colour: The Wonderful World of Albert Kahn」について紹介した記事はコチラです。

 ちなみに、パリにあるアルベール・カーン美術館(旧アルベール・カーン邸)には、海外では「日本庭園の伝統にもっとも忠実な庭(※)」があります。いずれ、これ自体もご紹介させていただきます。

 (※「マダム・ド・モンタランベールのミュゼ訪問 アルベール・カーン美術館」より引用)
 
 カーン氏の派遣したカメラマンがとらえた日本の、自然のみずみずしさ、高い文化、礼儀正しく控えめな日本人たち。

 この裏に、すでに沢山の社会矛盾が潜んでいたのですが、アルベール・カーン氏の愛した日本の写真や映像の中には、人々が心豊かに、穏やかに生きられる世界の可能性が感じられます。

 彼のように、優れて公平なまなざしの人を魅了したのが、この日本であった。

 しかし、この国は戦争で自国と他国に悲惨な状況をもたらした。

 二つの意味で、深く考えさせられる番組です。



 次回の記事では、もう少し、アルベール・カーン氏について書かせていただきます。

 
アルベール・カーン氏のウィキペディア記事(日本語版)(英語版

アルベール・カーン美術館のHPはコチラ

(世界地図をクリックすると、その場所の写真を観られるページが面白いです。コチラ。)

※フランスの美術館、博物館情報を見られるメゾン・デ・ミュゼ・ド・フランスのHP内の、「マダム・ド・モンタランベールのミュゼ訪問」で、アルベール・カーン美術館について紹介されています。お読みになりたい方はコチラをクリックしてください。

アルベール・カーン氏の生涯や活動、庭園について詳しく書かれており、写真も素敵です。


また、既に、BBCのこの番組の写真集が発売されています。本の情報は以下の通りです。


アルベール・カーン コレクション よみがえる100年前の世界

アルベール・カーン コレクション よみがえる100年前の世界

  • 作者: デイヴィッド オクエフナ
  • 出版社/メーカー: 日本放送出版協会
  • 発売日: 2009/08/25
  • メディア: 大型本






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2010年02月14日

ギャレス マローンさんの番組から見えたこと。

前回の記事に引き続き、合唱団カリスマ指揮者、ギャレス マローンさんの番組について、書かせていただきます。


あの番組を観ると、音楽や、人の団結の素晴らしさ、ギャレスさんの合唱指導力以外に、ギャレスさんのコミュニケーション技術に舌を巻きます


 彼が合唱団を結成し、動かしていくまでに使っている手法として、
 
 @人々の暮らす環境を下調べする。

 Aその場で、既に一目置かれている人に繰り返し接触し、協力を仰ぐ。
  
 Bお願い事の前にきちんと挨拶、お時間をいただくことについて感謝。
  (相手の返事がどうであろうとも。)
 
 C随所にユーモアを取り込み、チャレンジを楽しむように力づける。

 D技術の高い、別の音楽グループの合唱を皆で観に行き、具体的な目標がイメージできるようにする。
  (特に、あまり乗り気でないメンバーに効果的)

 E指導するグループの中で熱心な人、技術の高い人を数名探し、彼らに指導のアシストを頼む。


 F裏方の人にもきっちり挨拶に行く。
  (発表の際の舞台を組み立てる人たちに、初めと終わりにお礼を言いに行ってらっしゃいました。)


Aについては、男子校での合唱団結成の際に、生徒に尊敬されているラグビー選手のフォアマン先生のところに日参し、拝み倒して「教員合唱団」に参加してもらっていました。

また、サウスオキシーという、それまで文化活動に熱心ではなかった町での合唱団結成の際には、町のボクシングジムで指導している、プロボクサーのマッティさんという男性に協力を仰ぎ、彼と友人たちで男声合唱団を作り、参加してもらっていました。

どうも、イギリスには一部、「男は歌などやらない」というイメージが、かなり根強いようですが、その場の「男の中の男」に参加してもらうことで、偏見を払拭することができるのでしょう。

(前回記事でご紹介したとおり、ウェールズ地方の男性は、肉体労働に従事しつつ、合唱にも熱心な方多いんですけどね……。地方によって違うみたいです。)

マッティさんとコミュニケーションをとるために、
「ひとを殴るのは三十年ぶりだ……(汗)」
といいながら、リングに上がって彼とスパーリング練習をするギャレスさん。

それでも、マッティさんは、音楽がサウスオキシーに果たす役割に懐疑的で、一度は合唱団を離れてしまいます。

しかし、男性メンバー集めに苦戦するギャレスさんに、
「いま、この町で頼れるのはあなたしかいないんです」
と率直に頼まれたとき、それまでのやりとりが実を結び、見解の相違があったにも関わらず、マッティさんは友人を集めて、合唱の練習を開始。

あとのイベントでは、企画の主要メンバーのひとりになっていました。

元々、親分肌で、町を心から愛し、人のために世話を焼けるかたですから、ギャレスさんの熱意に手助けをしようという気になってくれたのでしょう。

音楽とボクシング、方法は違えど、それらを通して住む人たちのプライドを育て、町を活気付けようという気持ちは同じだからです。



他に、ギャレスさんのサウスオキシーでの指導で印象的だったのは、宣伝用CDを作って、その歌声を、合唱団メンバーに聴いてもらっていた場面です。

プロの伴奏のもと、アビー・ロードのスタジオ(ビートルズがレコーディングした場所として、イギリスではあまりにも有名)で録音された自分たちの歌の出来ばえに、合唱団の人たちは感慨無量、涙ぐむ人たちもいました。

サウスオキシーは貧困地区に位置づけられ、周囲の町からは治安面などで偏見をもたれている場所だったようです。

そこに住む町の人たちにとって、合唱団で美しいものを創り出し、こうした話題で町が有名になってゆくことは、とても嬉しいことだったようで、多くの人々が、ギャレスさんに感謝していました。

合唱団の一人は、彼に対し、
「あなたはわたしたちに、歌だけではなく、自信という贈り物も与えてくれました」
とお礼をおっしゃっていました。

(そのことばに、ギャレスさんは、自分はとても「over-emotional person(番組吹き替え訳:涙もろい人間)」なので、と言いながら、感涙を拭っていらっしゃいました。)

「誰にとっても『自分の力』が幸福の源である」

これは、医師でエッセイストの斉藤茂太さんの本にあった文です(※註1)。

ギャレスさんは、音楽を通して、皆の中にある幸福を引き出そうとしているのでしょう。
そして、音楽にはそれができると、誰よりも信じていらっしゃるのでしょう。

だから、たくさんの人が付いていきたいと思うし、マッティさんのような人も協力してくださったのだろうと思いました。


「Animateur」
ギャレスさんは公式HPでご自身の仕事をこのように呼んでいらっしゃいます。

英語の辞書にあることばではなく、ギャレスさんのウィキペディア記事
「presenter and populariser of choral singing」
という文を参照させていただくと、この場合、
「プレゼンター(「司会者」「発表者」)兼、合唱で歌うことの普及者」
というような意味みたいです。

ですが、ギャレスさんの番組を見ていると「animate」ということばの持つ意味を思い出します。

●animate(※動詞の場合)
意味 @……を活気あるものにする、元気付ける。
   A(人・行動)を駆り立てる。
   B……に生命を吹き込む。
    (※もちろん、「……をアニメ化【動画に】する。」の意味もあります。)

《「ジーニアス英和&和英辞典」参照》

音楽は素晴らしい。

しかし音楽に限らず、このように周囲を元気付け、何かをするエネルギーを引き出せる人というのは、素晴らしいなと思いました。


さて、観終わって、この番組から貰った「ジーン……(心温)」を、どう地道に実生活に活かすかを考えたとき。

(ギャレスさんの眼鏡と古風な髪型や服装は、案外現代でもオシャレ、とかいうことにとどまらず。)

わたしはいままで、真面目であれば、人生何事かを成し遂げられるもんだと思っていました。

でも、それはとても大切だけれど、それだけじゃあ難しいと覚えておくべきだと思いました。

(まあ、そもそも、わたしが真面目かといえば、全っ然違うんですが【←「っ」をつけてまで断言かい】。)

彼はすごい才能の持ち主で、キャリアもある。
既に有名人で人気者、テレビカメラもついてきているし、周囲の責任者たちは、彼の全面サポートをする気でいるという強みもある。

ですから、一般の人が、彼みたいに目覚ましい成果を挙げられるとは限らないのですが、それでも、

「こんなに真面目に努力して、正しいことを言っているのに、なぜうまくいかないのだ、みんなわからずやで、青い空も海もバカヤローだ!!(憤)」

と、なりかけたとき、先に挙げたギャレスさんの@〜Fまでのたゆまぬ努力のどれかひとつでも、ヒントにしてみるのもいいのではないかなと思いました。




「真理は、笑いながら語っても真理だ」

太宰治作品の中のことばで(※註2)、名言なのですが、
「音楽は素晴らしい」という真理を伝えるために、ギャレスさんが、奔走しまくっていたのを見て、

「真理でも、それに興味の無い人に、腹の底から共感してもらうのには、根気と工夫が必要だ」

ということにも気づかされました。

それにしても、これ、本当にいい番組なので、地上波ノーカットで、もっと放映してほしいですね……。

音楽に興味が無くても、イギリスの厳しい現実とすばらしさ、ギャレスさんの姿勢から、あらゆる立場の人が、多くのことを学べるはずです。





(※註1)斉藤茂太著「『幸せ』を引き寄せる人」ぶんか社文庫


 精神科医でエッセイストの斉藤茂太(「しげた」とお読みするのですが、愛称モタ先生)が、充実した人生をおくるための秘訣について書かれた本。

モタ先生の本は、豊かな人間関係や、上手な時間の使い方などのコツを、「心」の観点から、わかりやすく解いてくださるものが多いのですが、この本は、人生の達人モタ先生と、ご家族の実人生のエピソードも書かれていて、実用的であるだけでなく、ほのぼのと心温まりました。

いずれもう少しご紹介したいです。英語とノー関係ですが(苦笑)。


(※註2)太宰治「花吹雪」より。(新潮文庫『津軽通信』収録)

「黄村先生」という年配の風変わりな先生に起こった出来事を、若い弟子の「わたし」が書きとめるという構成のユーモア短編小説。

(同シリーズに「黄村先生言行録」、「不審庵」があります。)

「花吹雪」では、男たるもの、どんな立場だろうが腕っぷしは強くあれ!という黄村先生のお説に、珍しく感じ入り、わが身を反省する「わたし」だが(普段の話は半分以上聞き流している)、このお説を実行に移した黄村先生には、とんだ結末が待っているという筋。

『人間失格』で名高い太宰ですが、このような笑える短編も面白いです。



「幸せ」を引き寄せる人 (ぶんか社文庫)

「幸せ」を引き寄せる人 (ぶんか社文庫)

  • 作者: 齋藤 茂太
  • 出版社/メーカー: ぶんか社
  • 発売日: 2010/01/07
  • メディア: 文庫





津軽通信 (新潮文庫)

津軽通信 (新潮文庫)

  • 作者: 太宰 治
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1982/01
  • メディア: 文庫



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