2016年08月31日

(閲覧注意)日英恐怖CM情報

(注意:今回は怖がりの方には閲覧注意の記事です。そうでない方も、できれば朝になってからお読みください。〈書いといてなにその言いぐさ。〉)





 先日、子供の頃トラウマだったちびっこ向け図鑑や雑誌のオカルト記事(高い画力で落武者の霊とかをボカシ一切無し超緻密に丹念に描いた見開き挿絵つき)のお話をしましたが、今回は大人になってから見たイギリスのトラウマCMについて書かせていただきます。

 誰得情報だよというご指摘がありそうですが、どうしても忘れられないんで……。

 以下CMの内容です。

 朝、蛍光灯に照らされ薄暗がりで歯磨きをする男。
 男の手が一瞬止まる。
 洗面台の鏡に映る男の姿、その足元に青いトレーナーを着た少年が倒れている。
 上半身は大きくねじれ、両足は背中側に不自然に曲がっている。
 鏡の中の少年に視線を落としたあと、歯磨きを続ける男。

 電話や書類をめくる音がせわしなく響くオフィス。
 仕事をする人々の側のカーペット敷きの通路に、あの少年が倒れている。
 同じようにねじれた姿で。
 倒れている少年のすぐ横を通りすぎていく男。

 エスカレーターで下る男が顔を背ける。
 視界の片隅、エスカレーターの降り口の傍らに、あの少年が倒れている。

 バスの中。
 窓際に座り、力なくこめかみを窓ガラスにもたせかけている男。
 窓の外の、人々が行き交う歩道に、あの少年が倒れている。
 少年にゆっくりと近づき、通りすぎていくバス。

 晴れた日の公園。
 芝生に挟まれた遊歩道を歩く男。
 芝生でサッカーに興じる人々の間に、あの少年が倒れている。

 夜更け、暗がりの中、パソコンに向かう男。
 ふと、腰掛けたまま、椅子を引くと、机の下に、あの少年が倒れている。
 同じようにねじれた姿で。男の足元に。
 少年の青白い顔、半ば閉ざされたまま、凍りついたうつろな目。
 うなだれた男は、口元に手をあて、小さく嗚咽する。

 ベッドに横たわる男。
 苦しげなため息と共に寝返りをうつ。
 眠れぬ男の目の先の床に、ドアの下から漏れる薄明かりを受け、あの少年が倒れている。

 真っ暗な画面に浮かび上がるメッセージ。

Kill your speed, or live with it.
(減速しなさい。さもなければ「それ」と生きなさい)

It’s 30 for a reason.
(制限速度時速30マイル〈時速48km〉の理由です。)

 男は制限速度を守らずに走らせていた車で少年をはね、少年が亡くなった。その過去の記憶が、男の日常を片時もはなれない。

 朝から晩まで、何をするときも、いつも、男の心の中には、少年のなきがらが、はねられた姿のまま、横たわり続けている。

 これはそういう男の心の中を描いた映像なのだ。

 それまで、「これはなんだ……?」と、不自然な姿勢で横たわる少年と、彼を見ないようにする男、少年に無反応なそのほかの人々という奇妙な状況を、一言の台詞も無く、リアルな生活音以外なんの音もしない映像の中で見続け、二行のメッセージによって、謎が、「交通事故による少年の死と加害者である男を苛む記憶」という答えに変わった瞬間、私のつま先からつむじまで、皮膚のよじれるような寒気が、鳥肌とともに駆け抜けました。

 制限速度の厳守(市街地では30マイル)を呼びかける政府広報CMだったそうですが、非常に恐ろしかったです。

 脳科学者の茂木健一郎先生がしばしば言及する「アハ体験」という言葉があります。

 何かがわからず、うずうずした先に答えをみつけた瞬間の脳のひらめきを指すそうですが。40秒近い謎の果てに、メッセージを示して、視聴者自身に「今まで見続けていたあの倒れている少年は死んでいる。ずっと重苦しい顔をしていた男が加害者だ」という回答を悟らせるというこのCMの構成は、まさにこの「アハ体験」を利用したものになっています。

 ただし、あの「わかった」瞬間は「アハ」などという生易しいものでなく、「あっ!?……(戦慄絶句)体験」でしたが……。

 公式に公開された動画が見つけられなかったので貼り付けられないのですが(あっても怖くて貼れない)、「Kill your speed or live with it」で探してみると、どのようなものかご覧になれるかもしれません。

(ただし、著作権違反をしている物かもしれませんし、本当に怖いし、関連して類似恐怖動画が出てくる可能性が高いので、自己責任でお願いいたします。)

 ちなみに、私同様戦慄の鳥肌に見舞われた視聴者は多かったようで、「しばらく悪夢を見た(I had nightmares)」「冗談抜きで机の下に足が入れられなくなり、椅子の上にあぐらをかいてすわるようになってしまった(I now can’t put my feet under my desk and have to sit cross-legged on my chair. I’m not joking.)」という感想が寄せられていました。

 いくらなんでも恐ろしすぎると思います(それは事故を起こしたらこの比ではないのはよくわかりますが……)が、「警告を視聴者の印象に強く残す」という目的は完璧に果たしているCMです。
 BGMと売り文句がにぎにぎしく繰り広げられるその他のCMに挟んで、この台詞の無い、音も極限までそぎ落とした奇妙な映像は自然と視聴者の関心を引き、謎の答えを視聴者の脳内に立ち昇らせることで、警告をその内面に強く刻み付けました(同時に心に傷が刻まれましたが……)。

 イギリス政府広報のこの「スピード減速CMキャンペーン」に関する記事はこちらです。
 主に加害者のトラウマに焦点をあてた構成だという説明がなされていました。
http://www.politics.co.uk/news/2009/1/30/kill-your-speed-or-live-with-it
(ぼんやりとですが画像つきなのでご注意ください)

 後に、この話を知人にしたところ、昔、日本にも恐ろしい政府公共広告機構(AC)CMがあった、と教えてもらいました。

 1980年代初期に放送された、通称「母と子」または「キッチンマザー」と呼ばれる覚せい剤の危険性を訴えたCMです。

 白い机に向かって並んで座る、
男の子とじっと突っ伏す母親。


 子供がはげしくしゃくりあげているのにも気付かない様子で、髪を振り乱し、うつろな目をした母親が顔をあげると、注射器で覚せい剤をうつ。

 広い世代に広がりつつある覚せい剤の危険性を警告する、淡々とした男性のナレーション。

 徐々に周囲が暗くなり、うつぶせた母親は闇に消え、「ママー!!」と繰り返して泣き叫ぶ男の子の姿も、次第に
小さく遠ざかってゆき、最後には完全なる暗闇。


 浮かび上がった「覚せい剤を追放しよう」という文字のメッセージに「ママー!!」という子供の声が重なる……。


 教えてくれた知人の共感者も多いらしく、ネット上では「最恐」と形容されている作品です。

 私は子供の頃非常に怖がりで、ありとあらゆる事象を怖がっていましたが、長ずるにつれ、江戸川乱歩&エドガー・アラン・ポーに美を見出し、伊藤潤二のホラー漫画を愛読するようになり、近頃は、「子供の頃超怖がってたあの子供向けオカルト情報の挿絵ってよく見ると独特のパワーがあるな、なんといっても画力が凄いし」なんて思っていましたが、公共広告CMだけは未だに、本当に駄目です。生理的に無理。

 それが、娯楽・芸術ではなく現実の警告だからでしょう……。

 イギリスCMの沈黙の恐怖と真逆の、日本的絶叫の恐怖表現ですが、この場合は非常に効果的に視聴者に危険性を訴えています。

 このACCM恐怖症、わからない人にはとことんわからないようですが、わかる人にはものすごくわかり(なぜか私の親しい人たちは、強心臓の祖母を除き男女問わず全員アウトだった〈いい年してその手のCMになるとリモコンをお手玉するようにしてアタフタチャンネルを変えていた僕に対する祖母の「何やってんの?」的真顔マナザシが忘れられない。〉)、ゆえにイギリスでも日本でも、いくつかのある種の傑作が今でもネット上で語り草になっている模様です。

 いつもと違ってまったくご覧になることをお勧めしませんが、どちらも構成的には観る者の心理を巧みにとらえている(この情報過多時代にどちらもシンプルな表現なところが印象に残る)と思ったので書かせていただきました。

 次回は、太宰治の『人間失格』(含漫画バージョン)について書かせていただく予定です。

人間失格 ─まんがで読破─ -
人間失格 ─まんがで読破─ -

(ついこの間まで勝手にドラえもんご紹介ウィーク繰り広げていたのに、いきなりものすごくダークになってしまいすみません。別に自分が荒んでるとかではないんですが……。)

 読んでくださってありがとうございました。

posted by pawlu at 23:46| イギリスの暮らし | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年08月13日

イギリスの日射病


※ただいま(2016年8月13日深夜)Seesaaブログサイト全体が文字化けしている模様です。(PC表示のみ)
我がツールのみウィルスにやられたのかとびびりましたが、他のサイトは見られるし、どうもSeesaaユーザー皆さんに起きている状況みたいです。(知恵袋「seesaaブログだけが文字化けしています。自分のと他人のブログもです。」http://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q12162872372

ちょっと安心した。こういうときネットはありがたいですねー。こちらの皆さま同様、とりあえず待ってみます。

さて、今回は夏のイギリスの注意点について書かせていただきます。

私は人生で二度日射病にやられたことがありますが、それはいずれもイギリス滞在時でした。

昨今、日射病という言葉が既に熱中症という言葉にとって代わられつつありますが、これがそのときの私にとっては大きな落とし穴だったのです。

そもそも「日射病」と「熱中症」がどう違うかについてですが、情報を非常に大まかにまとめさせていただくと、
日射病……直射日光が原因で起こる。
熱中病……日光の有無にかかわらず、高温が原因で起こる
(ちなみに「熱射病」は熱中症の症状の一つで、汗が止まり、高熱、意識障害等が起こる危険な状態をさすそうです。)

なので、直射日光のささない室内でも、高温なら熱中症に起こる可能性は十分にあり、屋内外にいる人全般に注意を呼びかけるために、「熱中症」の使用が一般的になったのでしょう。

しかし、私は、このために「熱中症は暑いところでナルモンダ」と思い込んで、直射日光の危険性を忘れていたのです……。

イギリスの夏は湿度が低く、原則そこまで暑くなりません。

(具体的に言うと、最高気温が30度を超えることがめったにないケンブリッジでは、「年に何日も必要ないから」という理由で、一般家庭の知人の誰一人クーラーはおろか扇風機すら持っていない。〈日本人のアコガレ、イギリスダイソン社の羽の無いスタイリッシュな高級扇風機〈価格5万数千円程度〉についても、私からご説明したくらいで。〉)
※ただし温暖化の影響か、年々気温は上昇しています。

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第一回日射病は、そんな中、知人と郊外に3時間ばかりウォーキングに行った日に起こりました。

その日も気温はおそらく30度以下、晴天、ちょっと暑いかなくらいだったのですが、風は涼しく、ウォーキング自体は楽しかったのです。

しかし、ホームステイ先に戻った私は、とたんに妙な疲労感に襲われました。

やがて、かなりの寒気、軽い頭痛とめまい。

「あーこりゃ風邪かな、疲れたまってたし」

まずはこの寒気をなんとかしようとホッカイロを枕元に準備した後、今日は具合が悪くて夕飯食べられません、と、お伝えするためにホストマザーのところに行きました。

(以下、そのときの症状に該当する伝えるフレーズを引用させていただきました。)
I have a slight fever.(少し熱があります。)
I feel chilly.(寒気がします。)
I have a headache.(頭が痛いです。)
I feel dizzy.(めまいがします。)
I have a heavy feeling in my stomach.(胃がもたれます)

参照
「English Cafe plus」HP「風邪の症状を説明するときに使える英語表現」
http://ecafeplus.com/study-english/expressions/c_symptoms/
「ナイス!な英語」HP「医療英語」
http://www.nice2.info/medical/medical4.html

そして「I guess I got a cold(風邪をひいたのかもしれません)」と部屋に戻ってホッカイロペタペタ貼りまくって寝ようとしていた私に、ホストマザーが「それは日射病(sunstroke)なんじゃない?」とおっしゃいました。

「日射病=暑いところでなるもの」と思っていた私はきょとんとしてしまいました(同行の知人はけろりとしていましたし)が、ホストマザーいわく、
「帽子をかぶらないで出たでしょ。黒髪の人は頭に日光の熱が集まるからよけい日射病になりやすいのよ。体を冷やして、水分をたくさん飲んで横になりなさい。つらかったらすぐに言うのよ」

「黒髪の人は……」のくだりに妙に説得力を感じ(けろりとしていた知人は淡い髪色だったし、そういや皮膚はどってことないけど髪と頭皮だけは熱くなっていた。)、ホッカイロのかわりに熱冷まシートを脇や首の後ろやオデコや背筋に貼りまくって寝たら、3時間ほどは暑寒いのが続きましたが、翌日には治りました。

なんで思い切り風邪の症状しかお伝えしなかったのに、マザーが日射病と見抜いたのかは謎ですが、指摘していただかなかったら、熱さまシートじゃなくホッカイロを貼りまくって寝酒のひとつも飲んでいた(日射病ならやっちゃダメのダブルパンチ)自分はどうなっていたのかと思うと、ちょっと怖くなります。

気温が高くなくても、イギリスでも、夏の日光は夏の日光、きちんとカンカンに照り、油断していた日本人の頭に3時間熱と紫外線を染み渡らせていたのだと痛烈に思い知りました。

これは日本では起こらなかったことだと思います。

自慢じゃありませんが、根性ナシなんで(本当に自慢にならない)、暑ければさっさと涼むから、3時間も外にいない。

いやあ、気を付けよう……と思っていたのに別の外出時、再度倒れることに。(恥)

海辺を散歩していたとき(やはり別に暑くはない。むしろ上着を羽織って出たくらいの日)、うっかりまたしても帽子をかぶりそこねてしまい、でも、あんなに長時間歩かないから平気だよな、と、思っていたら、急に頭がくらくらして、目の前の海と砂浜が紫色に染まり、一緒に歩いていたマザーに、「す、すみません、ちょっと座っていいですか……」とテトラポットにへたりこみ、それでも足りずに上着を枕に横になってしまいました。
(ちょうど砂浜だから寝そべってもあんまり目立たなかったのがせめてもの救い。)

マザーもこの日光を浴びているんだから、急いで屋根のある所まで移動しないと申し訳ない、と焦りつつも、めまいはおさまらず、郊外の銀色に輝く穏やかな海とヨットと、楽し気に波にたわむれる人々、こんないい景色の中、なんで視界がちょっと紫色になって倒れているんだ……とじりじりしながら、3分ほどで執念で立ち上がって、無理やり笑顔で、歩数を数えるようにして屋内に戻りました。

「長い時間歩かなかったのに……」と、ソファにねそべり無念をつぶやく私に、ホストファーザーは、
「海辺はさえぎるものがないし、直射日光以外に、水面に反射した光も当たるからね」
ととても冷静に分析してくださいました。

(誤解を招くので、ご本人には言えないのですが、レイバンのサングラスの似合う、「刑事コロンボ」の知的な犯人のような味のある風貌をしていらっしゃり〈中でもコロンボ作品の常連、ロバート・カルプ〈「指輪の爪痕」等に出演、パッと見同じ人と思えないほどの演じ分けが見事〉に顔立ちというより雰囲気が似ている〉、おバカな預かり者を叱るでも心配しすぎるでもなく、ただ、原因を解明した上でわかりやすく教えてくださった。)

ちなみにやはり時間が短かったせいか、治るのには前回ほど時間はかからなかったです。

そんなわけなので、夏にイギリスで外出する方は、暑くなくても、日光激LOVEなイギリスの(特に淡い色の髪の)人々が、ごく開放的な服装で日差しを満喫していても、帽子をかぶって歩くことを強くお勧めします。特に旅行時は時差ぼけなど別の疲労がたまっているので、結構簡単にこの症状になってしまいます。くれぐれもご注意ください。

読んでくださってありがとうございました。







posted by pawlu at 05:33| イギリスの暮らし | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年04月08日

羊の赤ちゃん(春の訪れ)

baby lamb.jpg

 本日はイギリスで撮った写真をご紹介させていただきます。

 以前、イギリスの春の風物詩として、花のお話を書かせていただきましたが、イギリスのもうひとつの春のたよりとして、「羊の赤ちゃんが生まれた」というニュースがあります。

 なんでも3月〜6月くらいが出産・子育てシーズンとのことで、観光地では「羊の赤ちゃん生まれました」的なお知らせ(「冷やし中華はじめました」みたいなノリで)が登場するのです。
イギリスの「ナショナルトラスト」(歴史的建築物や自然を保護するボランティア団体)の羊の赤ちゃんお知らせページURL(写真がカワイイ)
 http://www.nationaltrust.org.uk/article-1355824246872/

 私も知人のつてで、羊の赤ちゃんを見に行くことができました。

羊の母子.JPG

 本当に小さくて、青みが勝った優しい目と長い睫、小さな歯がきれいにならんだにこやかな口元とそこからフメメ……とつつましく発される声が可愛らしく、このままのサイズでいてくれたら室内で生涯共に暮らしたいとすら思うくらいでした。

羊の赤ちゃん.JPG

羊の赤ちゃん 白.jpg

 ちなみに毛は結構ゴワゴワして、でもそこから体温がつたわってきます。だっこしてみたらそうだった。ウヘヘ(変態か)。

 あとなんでかタンポポの花が好きみたいで、オーナーのおじさんがいくつもむしって豆まきのようにポイポイまいたら、「わー」みたいなノリで何頭も集まってきていました。草地にまきちらされたタンポポの黄色と子羊の図かわええ……。

 うれしいことにミルクやりも体験させていただいたのですが(哺乳瓶はなつかしのコーラの空きガラス瓶に家畜用の大きな哺乳乳首がついたもの)、例の小さくてきれいな草食動物の歯並びをときどきのぞかせながら、鼻先でゴムの乳首をにょにょにょ!と元気につついて(お母さんからお乳をもらうときに同じしぐさをする)、小さな毛糸玉のような尻尾をぴこぴこさせながら飲んでいて、そのまま記念撮影をしていただいた、そのときの私の顔ときたら、目じりや鼻の下につっかえ棒が必要なほどにとろけまくっています。

哺乳瓶.jpg

羊の母子〈授乳〉.png

 春にイギリスにいらっしゃる幸運な方は、旅先や観光地などでも、是非この赤ちゃんたちの愛らしい姿をご覧になってみてください。

 読んでくださってありがとうございました。
posted by pawlu at 21:08| イギリスの暮らし | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年04月01日

牛止め(ケンブリッジの広場の一風景)

 エイプリルフールなんで、私がイギリスで見た、嘘かと思った本当の話をひとつ。

 場所は、ケンブリッジの北東、ケム川のほとり。

 ミッドサマーコモン(Midsummer common)という広場でした。

 ここはかのケンブリッジ大学の一部ウルフソン・カレッジ(Wolfson colledge)ボート部の練習場になっていたりして、穏やかな水路添いに広がる草地を人々が自転車や散歩で行きかい、たまにはお祭りの開催地になったりするおっとりとした場所です。

 ある日その近くを歩いていた私は、赤土の山がいくつも盛り上がっているのを遠目に見ました。

 なんだろう、と思っているうちに、赤土の一つがきわめてゆっくりと動きました。

 赤土と思ったのは、牛数頭。

 みんな、のんびりと寝そべり、たまに尻尾をフラフラさせながら、いわゆる「食べたあと横になって牛になってる」状態でした。

 そして、その牛たちのくつろぎの場から1mも離れていない舗装された歩道を、自転車も人もツーッと普通に通過していました。

広場の牛.jpg

 近い……。
牛 拡大図.png

 ケンブリッジは緑豊かですが、基本的に「都市」です。

 都市の広場に突如牛が何頭もたむろしているのも、その近くを人がスタスタ歩いているのも日本人には相当シュールな光景でした。

 びっくりして近づいた私は、広場への入り口に「道路の排水口みたいだけど、目が粗すぎるだろコレ(大人でも足つっこめてしまうくらい幅開いている)」な、四角い穴が開き、いくつも円筒形の金属の棒が渡してあるのに気づきました。

牛止め.JPG

「そうね、いることあるわね」

 広場に牛がいたんですけど……という私の報告に、ホストマザーはジャガイモの皮をむきながら極めて普通にそう言いました。日本人が「公園に猫がいたんですけど……」と聞かされたときくらいのテンションで。

「???(汗)あれ、どこから来たんですか」
「離れた農場から、朝のうちにトラックに乗って来るんじゃないかしら」
 で、夕方になると連れて帰られる模様。

「逃げないんですか?」
「入口のところに牛が通れないようにしかけがあったでしょう。そう、それ」
 私が例の謎の「間が開きすぎている排水口らしきもの」のデジカメ写真をお見せしたら、マザーがうなずきました。
 
 牛はこの隙間に足をとられるのを嫌がって出られないというしくみ。(すぐそばには人用の細い押し戸つき出入口がある。〈画像右部〉)

「柵とか無いんですか?すぐそばをみんな歩いていたんですが……」
「あの牛はすごくおとなしいのよ」

 刑事コロンボで「闘牛士の栄光」という、闘牛をけしかけて人を殺す話を見たり、すごくうろおぼえなのですが、ヘミングウェイの小説で、食堂で働いている男たちが、椅子の足に包丁2本をくくりつけて「闘牛ってのはこれがつっこんでくるようなものなんだぞ」と言っているくだりを読んだ私には、「牛って怖い」と思っていたのですが、考えてみれば犬も軍用犬からベビーシッターをつとめるものまでいるのですから、品種とか育ちで随分性質が違うものなのかもしれません。
 (でも蹴ったら駄目だよとホストファーザーに真顔で言われました。そういう話があったらしい……。)

 この牛は「Red Poll bullocks」という種類だそうで、「ミッドサマーコモン」のウィキペディア記事にちゃんと写真つきでその存在が説明されていました。
 ウィキペディア記事URLはコチラ
 http://en.wikipedia.org/wiki/Midsummer_Common

 それにしても、あの牛も牛止めも、なんかあったら危ないのではと思うのですが、「たぶん大丈夫。よそみしていて牛止めに足つっこんだり、牛に悪さして怪我したらそれは自己責任」というコンセプトの模様です。日本ならクレームの嵐だろうなあ……。

 都市の広場にいきなり牛がいたことも、人と牛の間に柵が無いどころか、人が怪我しそうなしかけまで作ってウシ仕様にしている発想も、なんだかすごく意外で脳裏に焼付きました。

 余談ですが、実は私、別の町でこの牛止めにまんまとはまったことがあります。(別にへりを歩けばよかろう〈ちょうどそのとき人用通路のほうがちょっと混んでた〉と思ってたけど、足を滑らせた。)カルシウム不足なら骨折していたかもしれません。それでも不精した僕の自己責任なのです。
(ていうか、牛が躊躇して引き返すものの上を歩こうとして静かに滑ってスネを打ったことを思い出すとなんだか物悲しい……〈見られなかったのが不幸中の幸い〉)

 イギリスの緑の多い場所に行ったら、くれぐれもこの牛止めにはお気をつけください。普通に町の広場だと思っても(そこでくつろぐ人がいても、舗装通路をスタイリッシュな自転車にヘルメットの人が通過しても)、そこに牛がいるかもしれないのです……。

 読んでくださってありがとうございました。
posted by pawlu at 21:17| イギリスの暮らし | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年01月23日

イギリス郵送禁制品について

タイトルは実用的な感じですが、別にいつもどおり不真面目です(著しく続きを読む意欲を削ぐ冒頭)。

先日、イギリスに送れる品について確認していたところ、送れない品についてちょっと意外に思った内容があったので簡単にご紹介したします。

●イギリス郵送禁制品URL
http://www.post.japanpost.jp/cgi-kokusai/nonmailable_articles.php?cid=74

@許可された製造元以外の使い捨てカイロ

 これは実体験で驚かされたものです。

 過去記事で「ホストファミリーからモルドワインスパイス(ホットワインを作るためのスパイスパック)」をいただきました」と書きましたが、あのとき私はクリスマスプレゼントとして使い捨てカイロをお送りしました。
(激地味〈でも向こうでは高価なものなので、意外と好評をいただいているんですよ【汗】〉)。

 で、これを送る際に郵便局で、「どこの会社のものかわかりますか?」と聞かれ「………?」とかたまってしまいました。(薬局でひっつかむようにして自分の分も含めてまとめ買いしただけなので当然覚えていない。)」

 確認をとってどうにか送れたのですが、本当に郵便局のページに「この製造元のじゃないとダメ」という一覧がありました。送る方は一回確認しておかれるとよろしいかと。

●国際郵便として送れるカイロ製造業者一覧URL
http://www.post.japanpost.jp/int/use/restriction/heating.html

Aハチミツ・ハチミツを含む品

 だそうです。検疫にひっかかるんですかね。まあ、プーさんの国にわざわざ送らなくても困ることは少なさそうですが。

 B生きたミツバチ
 

 Aがダメなんだからそりゃそうでしょうが、どんなシチュエーションだ……。

 イヤダ生きたミツバチの詰まった段ボール箱が郵便局の片隅で静かにうなっているとか。

 C不潔な衣類

 なんで送ろうと思うの……?送る相手のことが大嫌いなの?

D恐怖物語(そのレコード・映画)

 これが一番意外でした。誰が決めたんだろう……?

 アヤシゲなものがあったとして、イギリス人がいちいち内容を確認して怖いかそうでないか決めるんでしょうか。

 それに、モラル的にダメってことでしょうか。じゃあ、人殺しホラーはダメで、幽霊物は平気なんでしょうか。

 だいたい、イギリス人は日本人には理解に苦しむほど怖い話がへいちゃらです。

 そこらじゅうで「ゴーストツアー」なる、心霊スポットを巡る夜の観光ツアー(……)が開催されています。

 ヨークシャー駅のインフォメーションセンターにあったゴーストツアーのチラシ。よりどりみどりです(ナニコノブラックなおおらかさ……)。

ゴーストツアーチラシ.jpg

 既に満ち満ちているんだからこれ以上増えちゃ困るということなんでしょうか……(リアルに私にはそれしか理由が思いつかない)。

 真面目に規制しているんなら、稲川順二氏なんて「恐怖物語を語りすぎる」ということで国外退去させられかねませんね。(イケメン過ぎて国外退去を命じられた人みたいに)

 とにかくそういうわけなので、皆様イギリスにお住いの誰かに荷物を郵送するときは、一応「新耳袋」とかを入れないようにしてください。
(そもそも、イギリスに行ってまで、日本からの郵送を乞うほど怖い話が読みたいってどんな心理なんだろう……。)

 でも今となると「恐怖物語が入っているレコード」は本当に国に入ってきてほしくないな……年季が入っている分聴いたら災いがおきそうで……。

 このほか各国共通で郵送できない品もあるので、皆様下記URLでご確認ください。
●各国共通郵送既製品URL
 http://www.post.japanpost.jp/int/use/restriction/index.html
 

posted by pawlu at 06:23| イギリスの暮らし | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年01月21日

Mulled Wine(モルドワイン)(寒い日の飲み物)

相変わらず寒い日が続いているので、今日はイギリスの暖かい飲み物についてご紹介させていただきます。

 しかし、先にこの飲み物にたどり着くまでの思い出し愚痴(何?)を書かせていただきます。
 
 
 日本もですがイギリスの冬も寒いです。
 
 寒くて暗くて雨が多いです。

 ついでに言うと道はカンタンに凍るのに、車がタイヤチェーンつけてないので外出が怖いです。

 私はイギリスをとても好きですが、あの暗くて寒い感じには参りました。(家で観るテレビはおもしろかったんですが)
 
 典型的風景
ケンブリッジ冬景色(記事用縮小版).jpg

 こういう冬がどれだけ嫌だったかを書きつづった文を含んだ過去記事があるのでよろしければご覧ください(誰が読みたいんだそんなもん)。
(どうでもいいがこのころの私の文歯切れ悪いな 〈今も無駄に長いですが〉。何に遠慮してたんだが……。)

 こんなにもひんやりどんよりしているにもかかわらず、どうもイギリスでは「すぐに温かくなるツール」というものがあまり普及していないようです。

 多分、一番手っ取り早いのが湯たんぽ。

 日本の冬の救世主である使い捨てカイロもコタツもセラミックファンヒーターもありません。(使い捨てカイロ〈英名「Heat pad」【桐灰ページより】〉はあるけど日本よりだいぶ高い。)

 そんなわけで地球には優しいのでしょうが、とにかく滞在中に冬を迎えた私は、お世話になっている家の壁の温水パネルヒーター(パネル内にお湯を流すことで部屋の空気を暖める暖房器具)に隙をみては地縛霊のようにへばりついていました。

 日本からの救援物資で、貼るカイロが送られてきてしましたが、あれも結構送料のかかるもの、二度は頼めないのを承知していましたし、これはもう風邪ひくなーと嫌な確信があったので、その時に備えておかねばと思い、番町皿屋敷のお菊さんのように「一枚、二枚……」と哀しく残りの枚数を数えながら、おそるおそる使っていました。


 お風呂も水道代やガス代(日本より高い)を考えると、お世話になっている身でおいそれとは使えませんしね……。

 あー、起きるなりガスヒーターをつけて送風口にへばりつき、へばりついた私の膝に犬が乗り、そよそよと毛並をなびかせているのになんとなくムッとしたのが懐かしいなーとか毎朝思っていました。

 で、本題。

 ここから出てくる飲み物は全然おいしくないです。健康面でもおススメしません。ただ、せっぱつまっていたんで飲んだだけです。

 あまりにも寒い日が続いたとき、私は安いワインを買ってきて(日本よりだいぶ安い)、それにお湯を注いで飲んでいました。

 お湯割り赤ワインです。

 いや比率から言うとワイン入りお湯かな……。

 もともと安ワインですから、それをお湯で割ったら、渋みというかなんかイマイチな部分が際立ってしまうのですが、そんなことより、この冷え切った全身を内側から温めたい一心でした。

 中世ヨーロッパでは風邪薬的に飲まれていたとかいう話を聞いた気もしましたし(どうでもいい上にアテにならないことばかりよく覚えている。)

 あのときの私なら葛根湯と太田胃酸をお湯割りにしたものを飲めば2時間温かいよとデマ流されても迷うことなく飲み干していたことでしょう。とにかく寒かったのです……。

 しかし、これを見つけたホストマザーは明らかにドン引いていました。

 まず、傍目には「マグカップになみなみとワインを注いで飲む人(数日連続)」に見えたからです。

 その誤解に気づいた私は「チガイマス。コレホトンドお湯。ワインチョッピリ」とご説明したところ、こんどは味覚的見地でドン引いていました。(……まあねえ……)

 で、見かねて教えてくださったのがMulled wine(モルドワイン〈ホットワインの一種〉)という飲み物です。

 赤ワインを鍋で温め(沸騰させない)、スパイス、オレンジ(切ったものかジュース)に砂糖、またはハチミツを加えて作るものだとのことでした。

 BBCのページに正式な作り方が出ていたのでご紹介させていただきます。

 BBCモルドワインレシピ 

 これもやっぱり日本人にはクセがあり、万人におススメとはいきませんが、良く温まるし、先ほどの「ワイン入りお湯」よりは圧倒的にオサレです。

 このワインを作るにはナツメグ・シナモン・ベイリーフ・アニスシードなどのスパイスが必要なのですが、個々に集めるのは面倒という人は、「Mulled wine spice」という、ティーバッグみたいなものを買ってきて作ります。

 「schwartz」という会社のスパイスバッグページはコチラ

 このモルドワインスパイスか、あるいはワイン入りお湯か、それとも両方か……。

 とにかく効いたらしく、私はあの寒さの中で、我ながら意外にも、イギリス滞在中一度も深刻な風邪はひかずにすんだのでした。

 そして、ありがたいことに今でも交流させていただいているホストファミリーから、毎年クリスマスになると、このスパイスが届きます(上記シュワルツ社のものが)。

 包みを開けるといつもほんのりスパイスの香り。

 それをかぐたびに、とにかく寒かったとか暗かったとか、残りのカイロを皿屋敷のように数えたとかいうことはどうでもよくなり、あの日々が懐かしくなるのです。

 読んでくださってありがとうございました。
posted by pawlu at 00:39| イギリスの暮らし | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年01月08日

「カニをほじりながら」

(「ゴドーを待ちながら(※)」風←違うにもほどがあるだろ。〈しかもこの文思いついた時点では、この作品がなんなのかあんまよくわかっていない〉)

 (※)サミュエル・ベケット作の戯曲。ゴドーという人物を待っている男たちの会話や、彼らに話しかける人々を通して現代人の孤独を描いた不条理演劇の代表作。(と、今知りました。タイトルだけなんかカッコイイと思って覚えていた〈その程度で引用するな〉)

 先日、海辺の町クローマーのご紹介をしましたが、この町の名物クローマクラブが実際どう食べられるかと、そのときお世話になった家でかわしたやりとりについて補足でご紹介します。

 カニの食べ方については、買ってきた時点で茹でられていますので、甲羅を割って身をこそげだして食べるんです。日本と一緒ですね。

 このクローマクラブはミソはそんなに無いので、主に足の肉を食べます。(前にも書きましたがツルツルした舌触りとほのかな甘みが魅力)

 というわけで、ホストファーザーと一緒に、お皿を前にして、ハサミと小さなナイフでぢみぢみ作業をしました。

 そのときのやりとりです。

 カニホジホジホジ……バキッ!(ファーザーがカニの足をハサミで割った音)
「これ、どうするんですか?」
「これはご近所へのお土産だから、Dressed Crab(直訳:服を着たカニ)にするんだよ」
「Dressed Crab?」
「身を全部出して、この甲羅に詰めたのをそう呼ぶんだ」
 ホストファーザーはまるくくりぬかれた殻を見せてくださいました。
 そう言われてみればシーフードレストランにそんなメニューがあった気が。(高いんで頼めなかった。この手間賃か?)
「なんでDressed Crabというんですか?」
「……そう言われるとなんでだろうね。甲羅から出しちゃうんだからUndressed(裸の)のほうが合っているような……」
 甲羅に乗せていく作業が服を着せるみたいだからなんでしょうか。
 
 クローマで売られていた茹でカニとDressed Crab(すみません、見にくいでしょうが下部のパックされているのがDressed Crabです)

ドレスドクラブ.png

「うちのは今晩キュウリと一緒にサンドイッチにしよう。パンを焼いてあるから」
 このお宅には、ファーザーはお休みになるとパンを焼くのが好きなのです。しっとりして美味しい。
「キュウリもお庭のですか?」
「そう」
 そしてこのお宅には、大きくはないけれど菜園があって、ヘチマにちかいほど大きいに似合わぬみずみずしいキュウリがとれるのです。

 カニホジホジホジ……。
 ふと、ファーザーが白くピラピラした繊維質の部分をナイフで切り取ってみせてくれました。
「この部分がgillだけど」
「Gill?すみません、どういう意味ですか?」
「魚にもついていて、水の中から酸素を吸収し、二酸化炭素を排出する部分」
(エラを見せながら手振りもつけてご説明)
「あ、わかりました(エラですね)」
「すごく苦くてこれが入ると味が全部台無しになるから、必ずとって」
「わかりました(汗〈不器用なんで不安〉)」
「(察した)……ここだけは私がやろうか」
「おねがいします(恥)」

 カニホジホジホジ……。
「そういえば、クローマーでヘンリー・ブロッグ(クローマーの救命艇隊員の英雄となった人)ミュージアムにつれていっていただいたときに、説明書きに『この地方のほとんどの漁師と同じように、ほかの彼は泳ぎを習わなかった(※)』と書いてあった気があった気がするんですが……そんなことってあるんですか?」
「ありうるね。沖の潮の流れが早い場所だから、下手に泳ぐよりは、ライフジャケットをつけて救助を待って浮かんでいた方が安全ということなのかもしれない」

 後で調べたら、日本でも北の海の漁師さんほど泳ぎが得意ではない人が多いそうです。ファーザーのおっしゃるとおり泳いで体力を奪われるほうが危険ということなのでしょう。

(※)Like many of the fisherman around him, this hero amongst lifeboatmen never learned to swim.(直訳:彼の周辺の多くの漁師と同じように、この救命艇隊員の間の英雄は泳ぎを習おうとしませんでした)(ヘンリー・ブロッグミュージアムの説明書きより)

 カニホジホジホジ……。
「それにしてもきれいな場所でしたね。連れて行ってくださってありがとうございます。」
「喜んでくれて嬉しいよ。昔は子供や孫を連れて行ったもんだ」
(そういう家族連れ向きな町の雰囲気を書かせていただいた過去記事はコチラ
「ファーザーは何でもくわしくて色々な話をしてくれるし、でもこちらの話も聞いて下さるからお子さんたちも楽しいですよね」
「でも、けがをすると飛んでいくのはみんな必ず妻の方だったけどね(笑)。小さい子と遊んでいても、だだこねて泣いたりすると、ママやおばあちゃんに遊んでもらっておいでって言っちゃうもんで」

 この話だけ聞くと、なんだかファーザーがきまぐれな人みたいな印象かもしれませんが、そんなことはありません。

 私は人生でこの方ほど寛大で親切で、落ち着いた性格の方にほとんど会ったことがありません。本当にお世話になりました。
(なので今でも、お子さんやお孫さんは、この方とマザーの人柄を慕って、お宅でしばしばくつろいでいらっしゃいます。)
 
 自分に向いていないことはしない。(自分より妻のほうが向いていると思えば、謹んで頼む)


 できないことは勿論しない。
 
 でも、できることはするし、できることをやっただけだから、ありがとうの言葉はまったく期待しない。

 そういう、静かな見極めを礎にした優しさを持った方なのです。

 だからきまぐれの真逆で、その優しさにはほとんどゆらぐことのない安定感がありました。

 本当に賢い人の優しさというのはこういうものかと思ったものです。

 「不意に人間のおそろしい正体を、怒りに依って暴露する様子を見て、自分はいつも髪の逆立つほどの旋律を覚え、この本性もまた人間の生きて行く資格の一つなのかも知れないと思えば、ほとんど自分に絶望を感じるのでした。」

 とは太宰治『人間失格』の主人公大庭葉蔵の言葉ですが、それまで自他こういう本性に振り回されて、随分傷つきも悔いもしてきた私には、このご夫婦との出会いはとてもありがたかったのです。

 少なくとも自分や身内の非常事態でない限りは、このファーザーみたいな、よく自分を見極め、相手からの見返りを期待しないタイプの親切を心がけて生きていけば、本当は人と人との関係はもっと優しく平和なものになるのではないかなと思います。

 ……なのでこのときも、いかにもファーザーらしいなーと思いながらお互い笑ってカニホジホジを続けていました。

 こうして、Dressed Crabはご近所に届けられ(そのお宅の犬を見せていただけるということで私もお供した)、私たちはカニサンドをお夕飯にいただきました。

 マヨネーズ混ぜないんだなあと思いましたが、新鮮なカニは少量のお酢塩コショーで十分甘く、ファーザーお手製の水分多めのシットリパンによく馴染んで、「カニとキュウリの酢の物+ご飯」の美味しさに似ていました。

 あのとき、カニホジホジ自体が楽しくてならぬということは勿論無かったのですが、しかし私には今でも思い返すような良い時間でした。

 多分、「夏休み、田舎の縁側で、おばあちゃんの豆むきとか手伝った子供時代の思い出」を大人になってから思い出したときの心地ってこんな感じでしょう。

 大人になって良かったと思うことのひとつに、「今、この瞬間は良い時間だな」とかみしめられるようになったというのがあります。

 地味な作業でしたが、それをしながら、カニについて説明していただいたり、ファーザーのご家族との思い出や、旅行を振り返るお話を聞かせていただいていた時。

 なんか、平和だったのです。

 読んでくださってありがとうございました。
posted by pawlu at 03:42| イギリスの暮らし | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年02月14日

雪のケンブリッジ

 ご無沙汰してしまいました……。今更ですがまだまだ書き続けたいと思いますので本年もよろしくお願いいたします。

 二月の三連休は、普段降らない地域まで雪が降りましたね。

 私がお世話になった町、ケンブリッジは、土地的な条件で、イギリスでは珍しく雨や雪があまり降らないのですが、2009年は雪でした。

キングスカレッジ雪景色.JPG

(今年も雪だったそうなので【とくに今年はケンブリッジはそうでもなかったそうですが、イギリス全体は大雪で空港は閉鎖されるわ、郵便は遅れるわで大変だったそうです】やっぱり世界的な気象条件の変化が影響しているんですかね……。)
 
 なにせ冬が死ぬほど寒いんで(詳しくは前記事「ひさしぶりトランク」をお読みください)、当然雪も降ると思っていましたが、周囲の人々は、まさか、と言っていました。

 が、物凄く寒い二月の頭、淡いピンクと水色の夕空の向こうから、さらさらと粉雪が舞い降りてきました。

 おお、何年も降っていないって話だったのに、めずらしい、と、しばらく見上げていましたが、どうせ明日には止んでるんだろうな(そして、ただ無駄に寒いんだろうな)、と思いながら家に帰りました。

 しかし、雪は静かにたえまなく、元からひんやりしたケンブリッジの地面に重なり続けて……。

 朝、きっちり雪景色でした。

 平たい土地に、あまり建築物が密集していないケンブリッジ。

 蛍光灯とは違うふんわかした色合いの街灯に、道と古風な町並みが雪化粧して浮かび上がる姿は、なかなかに趣があります。

 ……ただし、みんな雪に慣れていないので、半ばはしゃぎつつも大混乱です。

 そもそも道まで白いのは、雪かきシャベルも無いからで……。

(除雪車は出動してみたいですが、大きい道を除くと、雪が積もったままの道が結構多かったです)

 何よりおののいたのは、車のチェーンが無いことです。

 誰も二十年に一度くらいしかまともに降らない雪のためにチェーンを備えておこうとは思わなかったようで。

(一応は売っているらしいですが、知人によると、今年もまだケンブリッジではタイヤチェーンがメジャーではないそうです。いい加減考え方を変えるべきでは……道が凍ることは珍しくないんだし)

 特にバスの幅広のタイヤが、雪の溶け切っていない狭い道をシャワシャワ……とゆっくり通過するのは、日本人から見ると相当にスリリングでした。
 


そんなわけで、わたしが通っていた語学学校も、先生や生徒がたどり着けずに、早い時間に休校となりました。

 普段は寒さ大嫌いの私ですが、さすがにこの風景にはまっすぐ家に帰る気にならず、カメラを持って町のあちこちに繰り出しました。

 かじかむ手をすり合わせ、飛び込んでくる雪に何度もレンズをぬぐいながらカメラを向けた雪の中のケンブリッジ。


 日本ではなかなか見ることのできない街なかの大樹が細やかに雪と氷に包まれ佇む姿。

雪のキングスカレッジ入り口.jpg

 普段は年月に灰色やセピア色になったケンブリッジ大学のカレッジ群に積もる雪の白さ。

雪のカレッジ.jpg

 雪合戦に興じる学生たち。

 強まる雪の向こうで、まだらにかすむ、運河のほとりのパブの明かりと、水辺のボート。

運河の雪景色.jpg

 白い広場の向こうの教会。

 寒い中、散歩に出たのであろう、人と犬の寄り添うような足跡。

犬と人の足跡 雪.jpg

 ああ、素足なんだなあ、当たり前だけど、というカレッジ脇運河在住の鴨や小鳥たちの、四方八方に散らばる賑やかな足跡。

 丸く黄色く雪を溶かす、バターカップという愛らしい名前の小花。

 白い道を黒く真っ直ぐ貫く運河に降り続く雪、空を飛ぶ鳥。

キングスカレッジ運河.jpg

 しかし、何よりも私が覚えているのは、その鳥を見上げたときの、キングスカレッジの上の空です。

 広い敷地の上の、何もさえぎるものの無い冬空。

 果てしなく、薄暗く透明な白の奥から、凍った白の欠片があまた降りてくる。

 カメラに留めることはできない、ただ白が絶え間なく幾重にも重なって、私の目を空へと放つ風景。

 本当に遠くへ来たと、そのとき心から思いました。

 キングスカレッジの歴史ある建物と運河に囲まれて、広場の片隅、絶え間なく降り積もる雪の上に立ち、空と地面の白を全身に受けている自分。

 本当に遠くへ来た。

 それはただ距離だけではなく、環境の違いでもなく、本当に仕事を辞めていいのかという迷いから、思い切って決意、イギリスへ来て、たくさんの不安や戸惑いの中暮らして、驚くほど楽しいこともあって、今、空の白さを見上げるまでの心の流れが、そのときいちどきに思い出されました。


 今でも、雪が降るとあの一日のことを思い出します。

 正直、今でも、人様に「イギリスに行って帰ってきたら、こぉんなに人生バラ色に!!」と触れ回れるような状況ではありません。

 うまくいかないもんだねということも沢山あります。このご時世ですから。自分不器用ですし(高倉健か)。

 ただ、あのキングスカレッジの庭で、寒さも脇に置いて雪の空に一心に見入った瞬間、あれは本当に経験して良かったし、私が日本でああいう心のターニングポイントを迎えることは絶対に無かっただろうと思います。

 それまでの自分に対する葛藤や鬱屈や、持ち前の腹黒さ(持つなよ)が、あの時は本当に白に吸い込まれて消えていたのです。

 勿論、あの一日で完全にココロ清くなることなど出来ませんが、ただあの日近辺から、それまで持っていた、無駄悩み、無駄よどんだ性分、を「あ、無駄だ、かつよどんでいて体に悪い」と自覚して、一つずつ減らし始められたような気がするのです。

 今も片付け中だし、油断すると負の思考回路再入荷してしまうのですがね。

 しかし、そういう「煮詰まり頭煙り噴き警報発令中」になってしまったときに、今でも、あの白い空、やって来る雪が、ふわあっと心の中の視界いっぱいに広がるのです。

 そういう、私の心に必要な風景をとりに、私はイギリスに行ったのだ、そしてイギリスは惜しみなく与えてくれたと、それは確かに思うのです。

posted by pawlu at 01:20| イギリスの暮らし | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年12月12日

窓とカーテンの話


 前回記事では、ヒッチコックの傑作映画「裏窓」をご紹介させていただきました。

(うだるような暑さのNYで、足を骨折したカメラマンが、窓全開の隣人たちの家を眺めるうちに、ある家の異変に気づいて、真相を探ろうとするサスペンス作品。前回記事はコチラです)

 あの映画を観ていて、イギリス暮らしで思い出したことがあるので書かせていただきます。

 (英語にはあんまり関係ないネタなんであらかじめご了承ください【汗】)

 あの映画で、日本ならもっと一般的で、暑くてもおそらく使うであろう「あるもの」があまり映らないことに、お気づきになった方もいらっしゃるのではないでしょうか。

 レースカーテン(薄手で透けているカーテン)です。

 あれ一枚あるのと無いのとで、「外から部屋が見える度」がだいぶ違い、あれはまずまず風を通すのに、作品内で、どの家も滅多にレースカーテンを引いていません。そもそも無いのかな、と思わせる家も。

 だから、テレビ画面のように、窓辺の人間の動静が見え見えなのです。


 あったら、映画としてストーリー展開わかりにくいから……かもしれませんが、もしかしたら、実際、レースカーテンをあまり使わない、あるいは無いというのは、あちらではありうることだったのかもしれません。
(NYの住環境はのちに激変したでしょうから、今でもそうかどうかはわかりませんが)

 と、いうのも、類似した生活習慣を持つと思われるイギリスでは、今でも日本ほどはレースカーテンがポピュラーではないからです。
(宿泊施設には大抵レースカーテンがあったと思うのですが……)


 わたしは一時期、学生向けの場所で共同生活をしていたことがあるのですが、その部屋にはレースカーテンがありませんでした。


 窓が人通りに面しているので、当然部屋の中は見ようと思えば丸見えです。

 着いたばかりのわたしには、イギリスは「とにかく日本よりは治安が悪い」というイメージで、実際さすがのケンブリッジでも、盗難事件程度は話に聞いていましたので、この全見え状況に

「……ダメじゃね……?」

 と思いましたが、かと言って分厚いほうのカーテンを閉めたら、朝からものすごく暗い。

 これじゃあ、治安もさることながら、窓からのほどほどの陽光を浴びつつ、落ち着いてゴロゴロ……いや、勉強できない。

 と、思って早速レースカーテンを買いに行きました。


 しかし、日本なら、ニトリだ無印良品だで、お安く簡単に手に入るあのカーテンが、どうにも見つからず、まあ結局は見つかりましたが、日本なら「ここにはあるだろう」と思われる規模の店になかったのです。

 こーんなオサレなカーテン(普通の分厚いほう)、ブラインド、よくわかんないけど、マジックハンドみたいに壁からウネウネ伸びて角度調整できる鏡まであるのに、なぜレースカーテンが無いのか?
(取り寄せればあったのかもしれないけど、当時英語に自信が無く、高そうな匂いもしたので諦めた)

 同じような規模の他のお店でも、分厚いほうのカーテンはズラズラっと見本がならんでいるのに、レースカーテンはなく、そこでは意を決して店員さんにうかがってみましたが、「それは扱っていません」と、申し訳なさそうにですが断言されてしまいました。

 わたしのなかでは、レースカーテンと普通の分厚いカーテンは「別々のこともあるけど、まあ大抵二つ一組のもの」というイメージがあったので、これは意外でした。



 例えるなら、おにぎりを買いにコンビニに行ったら、全てのおにぎりに海苔が巻いてなくて、何軒コンビニをまわっても、やっぱりおにぎりがみんなシロかったら、こういう呆気にとられ方をするかもしれません。(わかりづらい)

 しかし、なにがなんでも、部屋で心置きなくゴロゴロしたかったわたしは(←さりげなく白状)、丹念にお店をまわり、ついに小さなインテリアショップでレースカーテンを見つけました(そこには沢山あったんですが……)。

 ともあれ、日本ならほぼ一対一の品ぞろえであろう普通のカーテンとレースカーテンの比率が、三対一かそれ以下くらいだったのは事実です。
 

 こうも見つからないということは、イギリス人は日本人ほどはレースカーテンを使わないということです。

 夜寝るときは、普通のカーテンやブラインドやらを閉めますが。それまでは開けっぱなし(ガラス戸は閉まってます)。とくに夕方時、お宅にテレビなんかついていたら、何観ているかまでまるわかりです。

(それこそ「裏窓」ではあるまいし、人のお宅など覗くまいと思いますが、進行方向で部屋の中に光源があると一瞬は見えてしまうんですよ……)

 どうして、イギリス人がレースカーテンを使わないかについては、大きく分けて二つの理由があるみたいです。
 


 @ 見られて困るような部屋ではない。

 「チラ見えてしまったお宅の個人的統計」によれば、素通しの家はたいてい綺麗に片付いているようです。あー書いてて手が痛い(「耳が痛い」的なノリで)。

 中には、いわゆる出窓の部分に、通行人側を向いた置物や花瓶など「外向け飾り」をほどこしているお宅も珍しくありません。

 で、その飾りの隙間で、お宅の犬や猫が鎮座して、「んじー」と微動だにせず世間を見つめていて、通行人が「本物!?」と意表をつかれたりして。
(あんなに複雑な配置の間に挟まっていて、なにもひっくり返さないんですかね……)
 
 ミニチュア兵馬俑(※始皇帝墓陵から出土した等身大の兵士像、なぜかイギリスではインテリアとしてよく見かける……)たちの間にふんわりと座っていたペルシャ猫など、なかなかシュールオシャレでした。
 

 A もっと光を! (※)

 (ゲーテか。)

 イギリスの人に、なぜあまりレースカーテンを使わないのかじかに伺ってみたところ、帰って来たのが、

「太陽の光がさえぎられてしまうではないですか」

 というものでした。

 いかにも「そんなの決まってる」と言いたげに。我々が「なぜおにぎりに海苔を巻くのか」と聞かれたら、「おいしいから」と答えるように(もういいからその例え……)。
 

 これは、当初「そんなものですかねえ」と思っていましたが、一年イギリスで暮らして、その感覚が肌で分かるようになりました。

 北と南で差があるとはいえ、日本の夏の太陽ときたら「殺人光線」に等しく、ご丁寧に溶けかけたアスファルトからも「みやむぉわぁぁん……」と不気味な照り返しが発生、ご婦人方はなんとか紫外線をブロックしようと必死。

……というわけで太陽は完全に厄介者扱いです。敵です(この記事、八月に書いたらもっと罵詈雑言が思い浮かぶんだろうなあ……)

 また、日本の冬は寒いですが、お天気の日はわりと多い。つまり、日本人は年間を通じて太陽を見慣れているのです。
 

 一方、イギリスの冬がどれだけ暗く、寒々しいかは以前の記事に書かせていただきました。時折悲しくなるほどでした(真顔)。

 簡単に言えば、もとから朝晩の日照時間が圧倒的に短くなるのに、雨の日も多いので、お天道様を拝める機会が非常に少ないのです。夏は、晴れると早朝から九時くらいまで明るいですが、基本涼しく、曇りや雨のことも結構あります。
 
 たかだか一年間こういう環境で暮らしただけで(実はわたしが居た年、及び旅先では相当好天に恵まれたほうだったのですが)、わたしは実感しました。


 「人間には、浴びたい太陽の光の絶対量というものがある」
 
 イギリスの人は、晴れたら大急ぎで外に出て、草地で思うさま日光浴をします。

 また、冬にはギリシャやスペインに行く人も大勢います。イギリスの人はイギリスの風景の美しさをよく知っていますが、ただ、「確実に太陽の光を楽しみたい」という思いで、わざわざ外国に行くのです。ホントに。

 こうしたイギリス人の太陽に対する憧憬は、夏にギンギンの太陽を迷惑なまでに浴びた日本人にはピンときませんが、それは日本人が「必要太陽光」を夏の間に相当補給して、しかも、そこそこ明るい冬を生きているからなのだと思います。

 実際、イギリスで涼しい夏を過ごし、暗く寒い冬も過ごした私も、引っ越した後にはレースカーテンが無い部屋でも、それがどおしたと、窓辺にへばりつくようになりましたから(日光だけでなく、そこにラジエーター【温水暖房器具】があったということも大きいですが)。 
 
 ストレス解消に必要な脳内物質セロトニンの生成には日光浴が有効だと聞いたことがありますが、それを意識してかどうだか、とにかく一滴の日光(?)も逃すまいというイギリス人の執念が、あるいは本能が、ああいうレースカーテン無し生活につながっているようです。



 ところで、イギリス人が太陽を求めて訪れる、そのスペインから来た生徒さんが、夏に、

「いまステイしてる家、カーテン無くて、朝の五時からサンサンと明るくて寝不足なんだけど」

とこぼしていました。

 うまくいかないもんですね……(普通のカーテンも無しってのはさすがに極端ですが)。

 

 (※もっと光を)
 
 「若きウェルテルの悩み」「ファウスト」等で有名な、ゲーテ(ドイツの詩人、劇作家、小説家【その他もろもろの才人】)の最後の言葉がこれだったと言われています。


(お詫びと訂正)前回記事「ヒッチコック番組」

「ヒッチコックがアメリカ映画協会功労賞受賞でしたスピーチ」と書くべきところを「アカデミー賞」と書いてしまいました。お詫びして訂正させていただきます。このスピーチ大変良かったので、近々ご紹介させていただきます。


【補足】明日(2010年12月13日【月】21:00~22:50)BS2でヒッチコックの「サイコ」が放映されます。この映画に出演している女優ジャネット・リーについて以前書かせていただいた記事「『サイコ』と『忘れられたスター』(刑事コロンボ)」がありますので、よろしければ併せてお読みください。

posted by pawlu at 17:02| イギリスの暮らし | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2010年04月03日

ケンブリッジの春

 日本各地がお花見シーズンを迎えている今日この頃、ケンブリッジの春の風景をお送りします。

 ケンブリッジで、春の風物詩といえば、ラッパ水仙(daffodil)です。

(水仙科の花の区分がよくわからなかったのですが、daffodilというと、主に黄色のものがイメージのようです。曖昧ですみません……)

 ケンブリッジ大学や町に咲き乱れ、日本の春の基本色がピンクなら(梅、桃、桜)ケンブリッジは黄色(ラッパ水仙と菜の花)だな、という印象を受けます。

 が……なぜかこの時期のラッパ水仙の写真を撮っていませんでした。いい天気のタイミングつかみ損ねたのかな……(汗)。

 とりあえずイメージを見ていただくために、ケンジントンドールズハウスフェスティバル(Kensington Dollshouse Festival……この記事がお読みになりたい方は、コチラをクリックしてください)で、家の土産に購入した、ミニチュア鉢植えの画像を添付させていただきます。

ミニチュアラッパ水仙.JPG

こんな感じの花々が、公園や、ガーデニング好きのお宅に咲き乱れるのです。



 前にも書かせていただきましたが、「イギリスと日本の季節はほぼ同じ」、というのは、誤解です。

 正確には、「日本の寒冷地と呼ばれる地方とほぼ同じ」かと。

 基本的に、イギリスの夏は日本よりずっと涼しいです。快適。
 
 が……冬は、しばしば雨がすすり泣くようにそぼ降り、朝はいつまでも日が昇らず、夕方には暗闇がどすんと訪れ、道はしんしんと凍り、

「殺す気かぁ!!(ダチョウ倶楽部上島氏風)」

というほど寒いです。わたしには堪えました……。

(その辺の葛藤については、「ひさしぶりトランク」という記事に書かせていただいたので、よろしければご覧ください。)

 そんなわけで、皆、日光と色彩に飢えていて、冬の枯れ葉から、白く清楚に咲くスノードロップ(snowdrop)(※)を皮切りに、クロッカス、ラッパ水仙、花の便りがはじまるや否や、人々は積極的に出かけます。

 日本の桜の下の、飲めや歌えは無いのですが、ウォーキングをして楽しむ感じですね。

(※)ケンブリッジにあるアングルシーアビー(Anglesey abbey……ナショナルトラストが管理する、ケンブリッジのお屋敷と庭園のひとつ)は、スノードロップの名所として有名です。

スノードロップの花

スノードロップ.JPG

アングルシーアビーの庭
(葉のある季節なら木陰と思われるところを選んで、花がいっせいに湧きだしてきます。)

アングルシーアビーの庭.JPG

 だいたい2月中旬あたりに咲くようですが、毎年、気候の変動で、結構咲く時期がズレるみたいなので、HPをチェックなさる等、確認をしてお出かけください。

National trustのAnglesey abbeyのHP

http://www.nationaltrust.org.uk/main/w-vh/w-visits/w-findaplace/w-angleseyabbeyandgardenandlodemill.htm


 個人的に好きだったのはクロッカス(crocus)です。色は、濃紫、薄紫、白、黄いろなど。

 楕円形の花弁で、葉や茎は背が低く、明るい草地に、花びらをいっせいに振りまいたように咲きます。さらに満開になれば、淡いカーペットのようだとか。

まだつぼみのうちに、近くで見ると、おもちゃの小鳥が、ふっくらぎゅうぎゅうと身を寄せ合っているようなのも愛らしい。

これは、キングスカレッジの敷地内などで見られました。
日本の桜同様、その咲く時期が、ニュースでとりあげられます。

キャンパスの中のクロッカス.JPG

クロッカスの中のオシドリ夫婦のカモ(どっちだ)。

クロッカスの中のカモ夫婦.JPG
 

 ただ、日本人なので、やはりあのソメイヨシノの、頭上一面を覆う繚乱の桜が見られないというのは、少し物足りない気がしました。

 艶をまといながらごつごつとした枝に、鞠のようにたわわに、あるいは雲のように厚く咲き誇り、音もなく、ほの淡く染まった花びらを舞わせる。
 
 これほど、圧倒的な迫力と、せつないほどの繊細さを兼ね備えた花は、世界広しといえども、そうはないのではないでしょうか。

 でも、今年は見られないんだよな。
 
と、思っていたのに、ある日、散歩をしていたら、幻のように桜があらわれました。

Pepys Libraly(ケンブリッジ大学の一部であるMagdalene collegeの付属図書館。)という建物の川に面した場所でした。

 ちなみに、この建物の真向かいの川べりは、パンティング(Punting)(※)の船着き場としても有名です。

(※ケンブリッジといえばコレ。ヴェネツィアのゴンドラのように、小舟に乗って川からの風景を楽しみます。

舟は数人乗りのものも、十数人乗りの大きさのものも。

自分たちで漕ぐこともできます。もちろんそのほうが割安。

でも、コツつかまないと、男手でも結構大変です……【いずれこの話題ももう少しご紹介したいです】)

 川向こうから見ただけなので、確かなことは言えないのですが、あの、まるで葉が無く花ばかりの枝ぶり、色彩、舞い続ける花びら、あれは、日本の桜にそっくりだと思ったのです。

画像を添付いたしますが、Pepys Libralyののページにもっときれいな画像があるので、そちらをご参照下さい(苦笑)。

桜.JPG


 この時期の川下りは、温かくて、川べりのラッパ水仙、桜(出発時だけですが)が楽しめるので、人気が高いみたいです。

 【番外画像】
 4月頭にロンドンに行った際、ピカデリーサーカス駅近くの教会に、素晴らしい木蓮の木がありました。

 一般的な桜の木並みの大きさに、一斉に咲く木蓮も、これまた圧巻。青空と、向かいの白亜の建物にとても映えていました。

ロンドンのモクレン.JPG


実は、わたしは、木蓮がこんなに大きく育つとは知らず、その絢爛豪華さは、桜にまさるともおとらないと感動しました。
 
 違うのは花びらの散り方。
 
 肉厚で、十センチ近い花びらは、みとれてるわたしに、ぽすっと音を立てて落下してきました。

posted by pawlu at 13:22| イギリスの暮らし | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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