2024年01月08日

ハマスホイと星新一(誰もいなくなった部屋と「欲望の城」)

(デンマークの画家ハマスホイ作「室内、床に映る陽光」の赤外線カメラ画像、絵の左側が折り曲げられている)
ハマスホイ折り曲げられた絵BBC著作権 - コピー.jpg
Image Credit:「Michael Palin and the Mystery of Hammershoi」(BBCドキュメンタリー))


折り曲げられて誰もいなくなったハマスホイの部屋の絵


ハマスホイの自画像ウィキペディア - コピー.jpg
ヴィルヘルム・ハマスホイ(1864〜1916)の自画像

 19世紀デンマークを代表する画家ヴィルヘルム・ハマスホイ(1864〜1916)は、白黒写真のような色調で、人や物のあまり存在しないミステリアスな室内画を描いた。

 ハマスホイは誰もいない部屋を描くことについて、こう語っている。

「私はかねてより、古い部屋には、たとえそこに誰もいなかったとしても、独特の美しさがあると思っています。あるいはまさに誰もいないときこそ、それは美しいのかもしれません」(※註1)

 イギリスのテートギャラリー所蔵「室内、床に映る陽光」(1907)は、絵の所有者が、ハマスホイの「誰もいない部屋」の美しさを、あまりにも深く理解したために、無理やり「誰もいない部屋」にしてしまった絵だ。

「室内、床に映る陽光(Interior, Sunlight on the Floor)」
Interior,_Sunlight_on_the_Floor - コピー.jpg
画像出典:Wikipedia Art UK

本来左端にその一部が描かれているテーブルに(ハマスホイの妻)イーダが見られた。しかし、最初の所有者レナード・ボーウィックがカンヴァスの左側を木枠の裏に巻き込んでしまったため、イーダが姿を消してしまったのである。これは、当時すでに有名であった《陽光、あるいは陽光に舞う塵》が念頭にあり、イーダがいない室内画をボーウィックが好んだためであろう。(註2)
ハマスホイの代表作のひとつ「陽光、あるいは陽光に舞う塵」(1900年)。同じ部屋が描かれているが、誰もいない。
Hammershoi_sunlight - コピー.jpg

 BBCのアートドキュメンタリー「Michael Palin & the Mystery of Hammershøi(2005)」では、絵の折り曲げられた部分を赤外線カメラで接写し、そこに描かれていたイーダの姿を紹介している。

 イーダが描かれた部分を切り取るのではなく、折り曲げて残したのは、持ち主だったボーウィックのせめてもの気持ちだったのかもしれないが、やはり痛みはまぬがれず、その部分はとても展示に耐えられる状態ではない。

 しかし、かすかに痕跡をとどめるイーダの姿は、まるで、年月を経てくすんだ鏡に映る、はかない幽霊のようだ。

ハマスホイイーダの痕跡BBC著作権 - コピー.jpg

 この色褪せても残る、面影のような美しさは、ハマスホイの描写力と、彼の作品世界の女神(ミューズ)だったイーダへのまなざしの確かさを物語っている。

 イーダが美しく丁寧に描かれていた、ハマスホイにとってはイーダがいて完成形だった世界を、ボーウィックは折り曲げて、誰もいない部屋に変えてしまった。

 ただし、これは「金持ちが金に任せて貴重な作品に勝手なことをした話」ではない。

 ハマスホイと同時代人では、ただ一人のイギリス人のハマスホイ作品コレクターだったレナード・ボーウィックは、各国をツアーで巡り、「ヴィクトリア女王のお気に入り」と呼ばれたほど成功したコンサートピアニストだった。

(彼がハマスホイの絵に出会ったのも、デンマークへのコンサートツアーのときだった)

Leonard_Borwick - コピー.jpg

 ボーウィックは正真正銘のハマスホイのファンで、ハマスホイがイギリスで個展を開く手筈を整えたり、イギリス滞在時には部屋を準備したりと、こまやかにサポートをしている。(註3)

 そしてハマスホイも彼に感謝し、イギリスを後にする際、大英博物館の風景画を贈っている。

(ハマスホイがボーウィックに贈った絵)

 そこまでハマスホイ本人にも敬意を払っていても、ボーウィックはどうしてもこの絵の部屋を「誰もいない部屋」にしたかったのだ。

 絵に手を加えたら、後々価値が下がるという計算など、頭にかすりもしなかったのだろう。「欲しい美しさ」のためなら、ハマスホイの緻密な構成さえも文字通り曲げてしまう、彼もまた世界を飛び回るアーティストだったと聞くと、その執念の強さと理由が、少しわかる気がする。

 ハマスホイはこの白い壁と扉の部屋を繰り返しモチーフにしていて、作品によっては、そこに家具やイーダも存在するが、どの絵でも、窓から差し込む光が描かれている。

 この一連の作品のなかで、一番シンプルな、何もない、誰もいない部屋の絵について、ハマスホイの研究者、萬屋健司氏は「絵画の構成要素を最小限に絞ることによって、ハマスホイは光が空間に及ぼす作用を、その最も微細な現象まで捉えようとしたのだろう」と分析している。(註4)

 他の存在が無いから、光の最も微細な姿が捉えられるのは、ハマスホイだけではない。

ハマスホイの描いた絵を見つめる人も同じだ。

そして、きっとボーウィックは、それが見たかったのだ。

窓から差し込む光は、カーテンのように斜めに透き通り、窓の格子模様の影を床に落とす。そのあわいに、空気が光と温度にゆらぎながら流れ、ほこりが幻のように閃いて踊る。

絵の中の光景は動かないけれど、ハマスホイの描く部屋はそんな世界に観る人の心をいざなう。

描かれている対象を観ることを通じて、思考とは無関係に世界と向き合う時間を体験させてくれる。

(私自身は、小さいころ、窓際の床に座ってひなたぼっこしながら、床に落ちる影が揺れる様子や、陽の光に照らされた時だけ浮かび上がる埃を(名前も知らず、汚れとも思わず)このキラキラしてきれいなものは何だろうと眺めていた頃を思い出した)

独りで光と影と空間を見つめると、雑音や濁りが消え、心が澄んでいく。

ボーウィックが欲しかったのは、そういう感覚に浸るための、世界を静かに見つめる場所と時間だったのではないだろうか。

そのためには、どんなに素晴らしく、美しく描かれても、そこに他の誰かがいてはいけなかった。

彼もまた一流の、成功した芸術家だったからこそ、複雑な内面や生活から、自分自身を解き放ちたかったのだろう。

きっと、ボーウィックにとって、この絵は「部屋を飾る『部屋の絵』」ではなく、彼の心を静寂と透明に還すための、彼だけの部屋そのものだったのだ。

 絵を折り曲げてしまったこと自体は、後世から見れば「すごいことをする……」と言葉を失う行動ではあるけれど、自分の心が必要なものを自分でよくわかっていた人だし、ある意味では、ハマスホイの作品の、ほかの画家には無い美しさの中核を、ハマスホイ本人以上によくわかっていた人なのかもしれない。


星新一のショート・ショート「欲望の城」


ハマスホイが描き、ボーウィックが「誰もいない部屋」にした絵の話を知った時、真逆の物語として、ショート・ショート(超短編)の名手、星新一の「欲望の城」(1962年)を思い出した。新潮文庫『ボッコちゃん』収録「朝日新聞」初出


(「欲望の城」あらすじ)

 つまらない日常を送る男が、ある日を境に、毎日、誰も入ってこられない理想の部屋にいる夢を見るようになる。

現実には欲しくても買えないものが、その晩見る夢の中では、部屋の中に現れる。

 男は喜んで、夢の中で好きなだけ欲しい家具や服をそろえ、エクササイズの道具を置き、酒のグラスをかたむけ、部屋での時間を満喫する。

彼が欲しいと感じた品物は、夜になると夢のなかに、すべて現れてくるらしい。あれを買え、これを買えという、激しい宣伝攻勢に順応するために発生した、現代病の一種なのだろうか。もっともそれによって欲望が満たされ、精神の平静が保たれるのなら、病気と呼んではおかしいようにも思えた。

(「欲望の城」挿絵:真鍋博)

欲望の城挿絵 - コピー.jpg

 男とよく同じバスに乗り合わせる知人(「私」)は、男から夢の話を聞かされてこう分析し、夢のお陰で毎日楽しそうにしている男を羨ましく思う。

 しかし、何日かたつと、男の顔色が悪くなってきた。

 欲しがるまいと思うのですが、そうもできません。それに、どうしても部屋のドアが開かなくて困っています。窓もですよ

 だからここ数日怖くて眠れない。

 バスの中で、「私」にそんな奇妙なことを言ったあと、それでも寝不足でバスに揺られていた男は、うたたねをはじめた。

 突然、「私」は、男の大きな悲鳴を聞いた。

逃げ場のない場所で、何かに押しつぶされているような、恐ろしい声の。


 (「欲望の城」あらすじ 完)

 星新一は、情報やテクノロジーが支配する社会と、そこに組み込まれて生きる人々を、シニカルに軽妙に、だが予言者のように鋭く描き出した。

 ハマスホイとは別の才能で、今、改めて存在感を増している作家だ。

(そして、この作品の他、多くの星新一作品の挿絵を担当した真鍋博氏は、洗練された均一な線で、ユーモアと無機質の一体となった不思議な絵を描いた)

 「欲望の城」という作品の怖さは、物に潰されることにあるのではない。

居場所、そして命を脅かされるようになっても、まだ「欲しがるまいと思いますが、そうもできません」という、膨れ上がり続けて、ついには自分自身を押しつぶす人の心の動きが(誰にでも心当たりがあるために)怖いのだ。

 社会は消費を促すため、常にそうした「欲しい」気持ちをあおる情報攻勢をかけてくるし、「欲しい」気持ちは心の内側に湧いてくるため、無限に、夢の中にまで侵入してきて、「開くドアや窓」、逃げ道は用意されていない。


 ボーウィックが変えたハマスホイの絵と、星新一の小説に、直接的なつながりはない。

でも、二つとも、心の中に「自分だけの理想の部屋」を作った人の話だ。

 その人が欲しいものが、情報に踊らされながら、自分のコントロールできる量を無視してやみくもにかき集める物なのか、独りで光と空間を見つめる時間なのか。

 それで、部屋の中は変わっていく。

 そして、その部屋にいる人の心も変わっていく。

 部屋に残されるのが、自分の欲望に押しつぶされる苦痛の悲鳴なのか、透き通った沈黙なのかも。


欲望の城挿絵 - コピー.jpg

Interior,_Sunlight_on_the_Floor - コピー.jpg


(補足)マイケル・ペイリン氏のハマスホイ紹介ドキュメンタリー(BBC)


Michael Palin & the Mystery of Hammershøi

テート所蔵のハマスホイ作《室内》の前に立つマイケル・ペイリン氏

ペイリン氏とイーダの絵 - コピー.jpg

 2005年制作、当時イギリスでほとんど注目されていなかった、ハマスホイの魅力を紹介したドキュメンタリー。

 プレゼンターはイギリスの伝説的コメディグループ「モンティ・パイソン」のメンバーで、各国の文化や美術を紹介するドキュメンタリー番組でも活躍するマイケル・ペイリン氏。

 ハマスホイの絵画だけではなく、イギリスとデンマークの室内と風景、美術館の方たちなど、現在を生きる人の姿まで、ハマスホイ的な柔らかい陰影で撮影されている。

ハマスホイ絵を観るペイリン氏と学芸員の方BBC著作権 - コピー.jpg

  ペイリン氏の礼儀正しくチャーミングな英国紳士ぶりが温かく、音楽も優しい。番組自体が美しい芸術作品。

(ハマスホイの描くイーダの首の美しさについて、美術館を訪れた人と話すペイリン氏)

ハマスホイ首について話すBBC著作権 - コピー.jpg



(この番組と、同じくペイリン氏出演のアンドリュー・ワイエスドキュメンタリーはとても面白かったし、作品の静けさが日本的美意識に合っていると思うので、テレビやネット配信などで気軽に観られるようになってくれればと思う)

(ハマスホイの絵を観るペイリン氏)





 【当ブログ関連記事】
  Youtube画像レイマ―ブルー - コピー.jpg

  星新一「鍵」NHKドラマ画像 (2) - コピー.jpg  



(参照)
【ウィキペディア】
【番組情報】


(註1)
ハマスホイとデンマーク絵画』2020年展覧会図録p.168(※1907年のハマスホイ本人へのインタビュー記事引用部)
(註2)
『ヴィルヘルム・ハンマースホイ 静かなる詩情』2008年展覧会図録p.148(解説:佐藤直樹)
(註4)
ハマスホイとデンマーク絵画』2020年展覧会図録p.172(解説:萬屋健司)


(「欲望の城」所収の短編集)





posted by pawlu at 12:34| 美術 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年09月16日

青い部屋「レイマー、ブルー」(ジェームズ・タレル作(「テート美術館展・光」より)

「レイマー、ブルー(Raemar, Blue)」(1969年)は、アメリカの現代美術家ジェームズ・タレル(1943〜)のインスタレーション展示空間を含めて作品とみなす手法作品。

Youtube画像レイマ―ブルー - コピー.jpg
Image Credit:Youtube/ジェームズ・タレル《レイマー、ブルー》 1969年c 2023 James Turrell. Photograph by Florian Holzherr.

 「現代」といっても、既に約55年生き抜いた、タレル氏の代表作の一つだ。

(「レイマ―、ブルー」と鑑賞者の様子が観られる動画)
Light illuminated: Treise on James Turrell's Raemar, Blue

レイマ―・ブルーの空間 - コピー.jpg

レイマ―・ブルーを観る人 - コピー.jpg
Image Credit:Youtube

 部屋に入った人は、全身真っ青に染まって「壁の後ろから青い光が放射されて、部屋の奥、中央に壁が浮かんでいるように(※)見える空間に包まれる。 (※)展覧会場解説文より


【作品について 感想】

 観たい絵があってこの展覧会に行ってきたのだが、正直、現代アートは自分には難しいと思っていて、この青い部屋に入ったときの感想は、「きれいな青だけれどよくわからない」だった。だからすぐに出て行こうとした。

 でも、その「よくわからないからもういい」と思っていた脳が、空間に広がる「きれいな青」にすうっと冷えていった。

 たくさんの作品を観て、楽しいと思いつつ、それでも疲れてこもっていた頭の中の熱が、青の中に放射されて溶けて行った。

 出て行こうとした足が止まった。

 振り返ると、青はもっと吸い込まれるように青く、「よくわからないもの」ではなく、「自分の脳にいつのまにか熱がこもっていたこと」と、「それがいま冷えていく感覚」を教えてくれていた。

 青は眼を通じて脳の内側をこんこんと浸していた。その浸透の感触で、自分の眼球と脳の存在に気づいた。宙に浮かんで見える青い壁を前に、頭がふわっとゆらいだ。

 やがて、青が染みとおっているのは眼だけではないことに気づいた。

半袖から出ている両腕、透き通った青を浴びる皮膚が、あの涼しい色の光を「ごくごく」と飲んでいた。

(後日、タレル氏がインタビュー動画で「私たちは光を皮膚を通して(水のように)飲んでいる」と語っていらしたのを見つけた。わたしの腕の皮膚は、確かにそのとおりにしていた)
 人は皮膚でも色を感じるかについては「目隠しして、同じ室温の『赤い部屋』と『青い部屋』に入る」という実験でも確認されているそうだ。
 青い部屋に入った人は、皮膚の表面温度が上がらず「涼しい、なにかスーッとする、気持ちがよい」と言い、血圧、呼吸数、筋肉緊張が下がり、脳波はアルファ波(ぼんやり目覚め状態)が主流の状態となった。(赤はその真逆で、被験者たちの皮膚の表面温度が上がり、暑さと息苦しさを訴えたという)

(現代アートのわかりかたがわかっていない自分には、暑い日に作品を観たのも良かった気がする。「外は暑い」の実感があったから、あの青がいっそう染みた)
 この、直接脳と皮膚が動いた感覚は、今まで観てきたどの芸術作品よりも鮮明だった。

 今、自分の感覚を通じて全身に、青い光が広がっていると、はっきりわかった。水滴の波紋のように、音叉の音が空間に響き渡るように。

 浮遊と鎮静、どちらも、普段実感することが少なく、また同時に感じることができるとは思っていなかった感覚が、脳の中でたゆたっていた。

 そして、そのふわふわと涼しい頭で外に出たあと、本当はいつのまにか集中力が落ちて(「現代アートは自分には難しい」という先入観もあって)、目当ての絵を観ていたときほどには、きちんと見えていなかったほかの作品たち、それぞれの美しさの陰影やゆらぎが、より鮮明に、もっと自分の内側に届いてきた。

 とくにオラファー・エリアソン作「星くずの素粒子」の、ゆったりと回りながら放たれるきらめきが、あの静かな青の余韻と響き合っているようだった。
Youtube画像星くずの素粒子 - コピー.jpg
Image Credit:Youtube  c 2014 Olafur Eliasson

 壁に映る、シャボン玉色のよぎる半透明の淡い影、小さな窓のような光の飛沫のうつろうさまにも気づいた。
オラファーエリアソン星くずの素粒子全体と壁の影 - コピー.JPG

オラファーエリアソン星くずの素粒子の反映 - コピー.JPG
(ブログ筆者撮影)

 ペー・ホワイト作「ぶら下がったかけら」も、かけらの色や形だけでなく、あともう少しでかけらたちが触れ合ってさらさらと鳴りそうな隙間の空気、床に落ちる、重なり合って蝶のような影、天井から釣られた糸の、淡い緑の静かに流れ落ちる滝のような気配を感じた。

ペーホワイトぶらさがったかけら全体 - コピー.JPG

ペーホワイトぶらさがったかけらの影 - コピー.JPG

ペーホワイトぶらさがったかけらの糸 - コピー.JPG


 この展覧会は、撮影許可エリアもあるが、「レイマ―・ブルー」は撮影禁止になっている。

きれいだから残念な気もするが、これには権利問題以外の意味があると思う。

光を表現の手段として用いた作品についてタレルは、次のように述べています。「私の作品には対象もなく、イメージもなく、焦点もありません。対象もイメージも焦点もないのに、あなたは何を見ているのでしょうか。見ている自分を見ているのです」。(展覧会場解説文より一部抜粋)

 あの部屋にいるときは、「撮る自分」を忘れて「観る自分」になる、そして観る者が青に浸された自分の感覚に気づく体験、それそのものが作品の大切な一部なのだ。

 絵でも物を形作った彫刻でもないからはじめはかなりわかりづらかったけれど、あの空間に立てて本当によかったと思う。

 あの作品が明確な形ではなく、空間とそれが生み出す感覚だったからこそ、あの部屋を出た後でも、感触として記憶に留まった。

 そして、どんな日常のどんな瞬間でも、あの青い空間と、眼や皮膚を通して広がった涼しい浮遊感を思い出せば、脳にこもった熱や圧迫感をやわらげ、物の見え方や感じ方をなだめてくれる。

 (この文章を書きながらでも、あの、深呼吸の出来る静かな透き通った海の底のような世界の中で、涼しく凪いでいく心地が蘇る)

 あの青が、記憶から広がって、頭のよどみや曇りを洗い流し、現実の捉え方を、もう少し穏やかですっきりとしたものに変えてくれる。


【作者ジェームズ・タレル氏について】

(作品を語るジェームズ・タレル氏)

ジェームズタレル氏 - コピー.jpg

Image Credit:Youtube

この光をまるで触っているかのように感じてもらいたいのです - コピー.jpg

Image Credit:Youtube

 ジェームズ・タレル氏は、知覚心理学、天文学を学んだ後、芸術の世界へ進んだ。

 また、パイロットとしてご自身が操縦する飛行機で空を飛んでいるときに得た感覚が、作品のイメージの源泉になっている。

(操縦室のタレル氏 おそらく1970年代の写真)

コックピットのタレル氏 - コピー.jpg

Image Credit:Youtube

 あの、不思議な光の空間は、タレル氏の実体験と、人と自然と宇宙のつながりに思いを馳せる、信仰にも似た壮大で瞑想的な世界観、そして緻密な理知から生まれている。

(大作の構想を練る様子 詳細な設計図が引かれている)

ローデンクレーターの構想を練るタレル氏 - コピー.jpg

Image Credit:Youtube

(ニューヨーク「グッゲンハイム美術館」の展示のために、機器で光を調整するタレル氏)

グッゲンハイム美術館動画光を確認するタレル氏 - コピー.jpg

Image Credit:Youtube

  ジェームズ・タレル氏ご本人が作品を語っていらっしゃる動画も、とても魅力的だった。

お声が、あの青のように、人の心の奥底までゆっくりと沈んで染みわたるように、深く穏やかに響く。

自身の創作について語るタレル氏の動画(※日本語字幕あり)
James Turrell: "Second Meeting" | Art21 "Extended Play"

 ご自身の魂と知性から湧き上がるものを作品にし、作品を創り上げることを通じて魂と知性が深化していく、その確かな時間の流れが、風貌と声から滲みでている。

 作品がどんな思いから生まれ、観る側はどう受け止めれば作品の本質を感じとることができるのかがよくわかる。明確な形を持たない作品を理解するヒントをくれ、きれいなだけではなく勉強になる動画だった。
その人自身の知覚に目を向けています - コピー.jpg
(今回の「テート美術館展」のテーマは「光」なので、展覧会にご興味がある方にとくにおすすめだ)

(2022年、「世界文化賞」受賞の際のインタビュー動画)
第32回「世界文化賞」 James Turrell “光と知覚”のアーティスト


 タレル氏は「光を、まるで触っているように感じてもらいたい」、そして、ご自身の創作にとって大切なことは「言葉にできない思考の経験を創造する」ことだと語っている。(※『テート美術館展 図録』p.18/HP「Introduction」

❝「タレルの光のインスタレーションは、内省と熟考の状態を生み出し、鑑賞者に知覚のプロセスに気づくよう促すことを目的としている(テート美術館HP解説)

 あの美しい青い部屋は「脳を冷まし、皮膚が光を飲んで涼しくなる」という新鮮な感覚の経験を通じて、その場にいた私の思考に、静けさと奥行を与えてくれた。

 青に洗われた思考は、他の作品の既にそこに在る美しさを、より鮮やかにとらえることができた。

 作品を創る人々が「光をどうとらえたか」を知ることは、私たちがこれから先「自分自身の内面を含めた現実をどうとらえるか」という心の問題につながっている。

 タレル作品の光は、観た人の内側に呼びかけて感覚と思考を目覚めさせ、その言葉にはできないけれど大切な力は、感触の記憶として、私たちの内面を、静かに照らし続けるのだ。




ジェームズ・タレル氏のそのほかのおすすめ動画
(グッゲンハイム美術館の展覧会解説動画)
James Turrell
(ジェームズ・タレル氏が自作と、人にとっての光の意味について語っている動画)
Artist James Turrell (abbreviated version)

 こちらは英語のみの動画だが、白い壁に映るそよぐ葉のやわらかなシルエットや、タレル氏の作品の天井から見上げる空、巨匠たちの名画など、映像と音そのものが穏やかで、一語ずつ完全に理解しようとしなくても、タレル氏の表現しているものを、耳と目から受け取れる。


(補足)超大作「ローデン・クレーター」

 タレル氏が空を飛んで見つけた砂漠のクレーターに、巨大な芸術空間を創りあげた、約50年を費やしたライフワーク(2026年完成予定)

 想像を超えた、壮大で神秘的な空間を観ることができる。
ジェームズ・タレル、新たな風景に向けて語る - Station to Station EP12 - WIRED.jp

ジェームズ・タレルのローデン・クレーター

「ローデン・クレーター」の制作をサポートするアリゾナ州立大学の、作品とタレル氏の芸術解説動画
Letting the light in: James Turrell, artwork at Roden Crater: Arizona State University (ASU)


【当ブログ関連記事】
Interior,_Sunlight_on_the_Floor - コピー.jpgハマスホイ作「室内、床に映る陽光」

真珠の耳飾りの少女 - コピー.jpg
Image Credit:NHK HP/(C)Docmakers / NTR



(テート美術館展SNS情報)

(大阪の「テート美術館展」展覧会情報)



(参照)
図録『テート美術館展 光 ターナー、印象派から現代へ』p.202 作品解説(※p.204,205は「レイマ―、ブルー」の見開き)


Webマガジン「AXIS」
NEWS | アート / 展覧会 2019.12.12 14:24

NEWS | アート 2019.01.17 15:42
(どちらの記事も、感覚的な現代美術をわかりやすく解説してくださっている。画像もクリアで美しい)

(ジェームズ・タレル氏公式HP)
(Wikipedia)
(日本に常設展示されている作品の情報が観られる(香川の作品は建築家の安藤忠雄氏とのコラボレーション。谷崎潤一郎の随筆『陰翳礼讃』にインスピレーションを受けた作品もある)

(テート美術館の解説)


(参考、関連文献)

posted by pawlu at 13:26| 美術 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年02月13日

「佐伯祐三 ―自画像としての風景」(東京ステーションギャラリー)東京駅のレンガの壁と佐伯のパリの壁の「マリアージュ」(おすすめ動画集)

(佐伯祐三の代表作「ガス灯と広告」1927年 東京国立近代美術館蔵
ガス灯と広告 - コピー.jpg
(Image Credit: Youtube 「ガイドスタッフが選ぶイチオシ作品|#16 佐伯祐三《ガス灯と広告》」)


(佐伯祐三の絵画と東京ステーションギャラリーの歴史あるレンガの壁〈解説をされているのは冨田館長〉)
壁のマリアージュ2リサイズ - コピー.jpg
(Image Credit: Youtube 「東京で18年ぶりの佐伯祐三展 東京ステーションギャラリー「佐伯祐三 ―自画像としての風景」東京ステーションギャラリーの冨田館長が解説」)

展覧会公式ホームページ https://saeki2023.jp/

 ※展覧会特集番組放送予定
・BS日テレ『ぶらぶら美術館』で2023年2月14日(火)夜8時
佐伯祐三 肖像写真リサイズ - コピー.jpg
佐伯祐三(1898〜1928年)展覧会HPより

30年という短くも鮮烈な生涯を終えた伝説の洋画家、佐伯祐三(1898〜1928年)。
《郵便配達夫》をはじめとする代表作100点以上が並ぶ「佐伯祐三 ―自画像としての風景」が東京ステーションギャラリーで1月21日から始まりました。東京では実に18年ぶりの回顧展です。
パリの街を描いた作品群は、佐伯と同時期の1914年に創建された東京駅のレンガ壁とマリアージュし、素晴らしい空間を創り上げています。 東京ステーションギャラリーの冨田館長に見どころを聞きました。
開幕記事はこちら https://artexhibition.jp/topics/news/... 展示構成などプレビュー記事はこちら https://artexhibition.jp/topics/news/...
展覧会名:佐伯祐三 ―自画像としての風景 東京ステーションギャラリー
会期:2023年1月21日(土)〜4月2日(日) 開館時間:10:0018:00(金曜日〜20:00)*入館は閉館の30分前まで 休館日:月曜日(3月27日は開館) 入館料:一般 1,400円、高校・大学生 1,200円、中学生以下無料
大阪中之島美術館でも4月15日(土)〜6月25日(日)に開催
展覧会公式ホームページ https://saeki2023.jp/
動画撮影・編集 岡本公樹
Youtube概要欄より)

(「美術展ナビ」展覧会の見どころ紹介動画)
東京で18年ぶりの佐伯祐三展 東京ステーションギャラリー「佐伯祐三 ―自画像としての風景」東京ステーションギャラリーの冨田館長が解説

代表作の技法やエピソードを紹介してくださっている、展覧会の予習復習にうってつけの動画。

(冨田館長が夏目漱石にとても似ていらっしゃるので、100年前の壁と佐伯の絵と、冨田館長ご自身の趣深さで、タイムスリップしたような気持になる〉)
冨田館長リサイズ - コピー.jpg
(Image Credit: Youtube)


 この東京ステーションギャラリーでの展覧会、やはり圧巻は、動画で館長もおすすめされている。パリの風景が展示された部屋だった。

当館の展示壁はレンガでできています。
ちょうど100年前、佐伯祐三が活躍したのと同じころに建てられた建物。
レンガの荒々しいマチエール(質感)の中で佐伯のパリの壁の表現、これをぜひ見ていただきたいと思っておりました。
レンガの壁と佐伯のパリの壁のマリアージュをぜひご覧ください。
(動画内 冨田章館長の解説)

 東京駅舎の時代を経たレンガの壁に掛けられたパリの風景は、額縁という窓枠から、その時代と佐伯の一途なまなざしに続いているようだ。
(額縁もひとつひとつ個性があって立派だった。どの絵も大切にされてきたのだろう)

 寒々しく寂しげで、描かれたポスターの字も、彼自身の命へのひっかき傷のようだと思っていた佐伯の作品は、直に観ると、力強く、透き通った鮮やかな色彩も織り込まれていた。


(「レストラン〈オテル・デュ・マルシェ〉」1927年 実物の絵は、描かれたテーブルの木肌に光沢があり、右端の緑はエメラルド色だった)
レストランオテルデュマルシェリサイズ - コピー.jpg
(Image Credit: Youtube)


 佐伯が命を燃やして描いた深く鮮烈な絵画と、それを際立たせる空間。心に残る名展覧会だった。




(関連動画)


東京で18年ぶりの佐伯祐三展 東京ステーションギャラリーで

(東京国立美術館蔵の「ガス灯と広告」の鑑賞ガイド)※今回の展覧会にも展示されている作品
ガイドスタッフが選ぶイチオシ作品|#16 佐伯祐三《ガス灯と広告》


東京ステーションギャラリー「佐伯祐三 自画像としての風景」

(ぶらぶら美術館番組情報)

(「ぶらぶら美術館」の紹介動画)
夭逝の天才画家“佐伯祐三”展【ぶらぶら美術・博物館】2月14日(火)よる8時


Youtube限定ウラ話!小木的おススメ作品とは!?【ぶらぶら美術・博物館】夭逝の天才画家「佐伯祐三」展 2月14日(火)よる8時


(参照)
東京ステーションギャラリーHP

東京ステーションギャラリー施設案内(レンガ壁についての解説あり)



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2023年02月12日

板谷波山の「聖観音像」と制作風景動画(祈りと「帝室技芸員」の箱書きと)

(板谷波山が戦没者遺族に贈った聖観音像)出光美術館展覧会動画より
出光美術館 聖観音像450 - コピー.jpg
(image Credit:Youtube)出光美術館「生誕150年 板谷波山─時空を超えた新たなる陶芸の世界」


(聖観音像を製作する板谷波山)
観音像制作450 - コピー.jpg
(image Credit:Youtube)【板谷波山生誕150年記念】板谷波山先生(1953年制作)


 「日本近代陶芸の最高峰」板谷波山(1872〜1963)
もはや再現不可能とも言われる技術で、優美完璧な名品を創作し、「出光」の創業者出光佐三ら、多くの人々を魅了した。



 波山は故郷の茨城県下館(現、筑西市)の人々に、自身の作品を贈ったことでも知られている。

 そのひとつ、「聖観音像」は、日中戦争、太平洋戦争の戦没者とそのご遺族のために創られた、白い小さな観音像だ。


(聖観音像は)終戦後の1951年から1956年までに268体が製作され、完成した聖像は桐箱に収められて、故人の名とともに「帝室技藝員」の朱印と波山の署名が記された。一家の大黒柱を亡くし困窮する家族に対し、生活の足しになるようにと波山はあえてこうした箱書きにしたのだという。
(『生誕150年記念 板谷波山』展覧会図録より) 
 波山は、自分の作品について非常に厳しく、他人からはどんなに完璧に見える作品でも、自分の目にかなわなければ、容赦なく割ってしまう人だった。

(あまりにも美しい茶碗を割ろうとするので、出光佐三が必死で頼んで「強奪」してきたという逸話があるほどだ)
出光「銘 命乞い」450 - コピー.jpg
(出光佐三が救った茶碗「銘 命乞い」。現在は出光美術館の至宝のひとつになっている)
(image Credit:Youtube )出光美術館「生誕150年 板谷波山─時空を超えた新たなる陶芸の世界」)


 そのため、素晴らしい技術を持ちながら、成功するまでは米を買うにも苦労するほどの貧しさを味わい、「波山」の名は(故郷茨城の筑波山にちなんでいるのだが)「破産」のことだ、と、自分で苦笑いするほどだった。

 それほど金銭を度外視して創作に打ち込んでいた波山が、戦没者遺族の方々を思ったときには、自身の「帝室技芸員(国家から認められた芸術家の称号)」という立場を箱にしっかりと記していた。

(「聖観音像」箱書き 亡くなられた方の名前が記され、波山の「帝室技芸員」という印が捺されている)
観音聖像 故人の名前と帝室技芸員の箱書き450 - コピー.jpg
(image Credit:Youtube)U字工事の旅!発見#149 板谷波山

 「帝室技芸員」という「国のお墨付き」さえあれば、波山自身の名に評価の浮き沈みがあったとしても、必ず、この観音像を一定の値段で売ることができる。

 波山はそこまで見こして、箱書きを作ったのだ。



 波山が観音像を作っている姿が、映像に残されている。

 かっぽう着のような白衣を着て、手を清めた波山は、形を作った観音様の前でお経を開く。

(何体も並んでいるのが、心が痛む)
観音像の前でお経を開く波山450 - コピー.jpg
(image Credit:Youtube 【板谷波山生誕150年記念】板谷波山先生(1953年制作))

 お経をめくり、読んだ後、額に押し頂き、観音様に手を合わせる。

 それから、観音様の衣や、御顔の彫りに向かっている。
(波山は明治木彫の巨人、高村光雲に学び、高い彫刻技術を身に着けていた)

お経を額にあてる波山450 - コピー.jpg
観音像に手を合わせる450 - コピー.jpg

(image Credit:Youtube 【板谷波山生誕150年記念】板谷波山先生(1953年制作))

(波山その人がとても美しい人で、80才ごろのこのときには、たたずまいやお顔立ちが、いにしえの涼しい仏像を思わせる。仏様が観音様の像を創っているような、不思議な光景)
観音様を彫る1954年450 - コピー.jpg
(image Credit:Youtube 【板谷波山生誕150年記念】板谷波山先生(1953年制作))


 当時は戦場で命を落とし、遺骨も故郷に帰れない方たちが大勢いらした。

(『この世界の片隅に』の一場面。主人公すずさんの兄が戦死したと知らされても、お骨の箱の中に入っていたのは、石ひとつだけだった)
この世界の片隅に中第24回遺骨の代わりの石450 - コピー.jpg
『この世界の片隅に』中 第24回昭和20年2月

 どう気持ちの整理をつけていいのか、何に向かって涙を流し、言葉をかけ、祈ればいいのかもわからない。

 そんなご遺族の方たちにとって、波山が心をこめて作り上げた、白く小さな美しい観音様は、心の拠り所となっただろう。


 けれども、現実は続く。

働き手を喪ったご家族の生活も、続いていくためには、お金がどうしても必要だ。

そのときは、観音様を売ってお金にして、それが暮らしの足しになるように。

観音様がお金に化身して、また別のかたちで、遺された方たちに、救いの手を差し伸べるときのために。

波山は「帝室技芸員」の印を捺した。




 納得のいく作品を生み出すためなら、自分自身は極貧もためらわないほど厳しかった波山。

 その波山が、「できるだけよい値段で売れるように」と記した箱書きと、「少しでも、亡くなられた方と、遺された方の悲しみが慰められるように」と、お経を開き、手を合わせて作り上げた観音像。

 展覧会に展示されていた観音様は、穏やかな微笑と、清らかな水の流れ落ちるような衣の線が美しかった。

 そして、その優しいうつむき顔の奥に、人々から受け止めた深い悲しみと、たくさんの、ことばにできない思いをたたえ、今も、それをじっと、透き通ったふところに抱きしめていらっしゃるようにも見えた。

(出光美術館「生誕150年 板谷波山─時空を超えた新たなる陶芸の世界」に展示された観音様)
出光美術館 聖観音像 (2) - コピー.jpg
(image Credit:Youtube 出光美術館「生誕150年 板谷波山─時空を超えた新たなる陶芸の世界」)


 波山の厳しい目をくぐりぬけて生き延びた、「完璧」の名にふさわしい、美しい数々の色彩と造形の傑作たち。

 しかし、「悲しみを癒すこと」と「いつかお金になって暮らしを助けること」の両方を託された、この小さな観音様にも、波山の、作品とそれを贈る人々への、真剣な思いが、別のかたちで、結実している。





(参照)
波山生誕150年展【いばキラニュース】R5.1.25

出光美術館「生誕150年 板谷波山─時空を超えた新たなる陶芸の世界」

U字工事の旅!発見#149 板谷波山


【板谷波山生誕150年記念】波山(1954年制作)
【板谷波山生誕150年記念】板谷波山先生(1953年制作)

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2023年02月11日

NHK「日曜美術館」に「近代陶芸最高峰」板谷波山が登場

完璧なやきものを求めて 板谷波山の挑戦 
初回放送日: 2023年2月12日
日本近代陶芸の最高峰・板谷波山。淡く清らな光の中に高雅な文様が浮かび上がる独特の器は、どのように生み出されたのか。現代でも再現不可能といわれる超絶技巧の謎に迫る。また近年、窯跡から出土した幾多の陶片は、非常に困難な制作に立ち向かっていた波山の妥協なき完璧主義を明かすことになった。スタジオには初公開の傑作も登場。名作の数々とともに比類なき波山芸術の魅力をあますところなく紹介する。

会期 令和5年1月2日(月曜日)〜2月26日(日曜日)
会場 茨城県陶芸美術館
「板谷波山生誕150年展(茨城県陶芸美術館)」のニュース動画 ※2月26日閉幕)
波山生誕150年展【いばキラニュース】R5.1.25
完璧なやきものを求めて 板谷波山の挑戦 
初回放送日: 2023年2月12日
日本近代陶芸の最高峰・板谷波山。淡く清らな光の中に高雅な文様が浮かび上がる独特の器は、どのように生み出されたのか。現代でも再現不可能といわれる超絶技巧の謎に迫る。また近年、窯跡から出土した幾多の陶片は、非常に困難な制作に立ち向かっていた波山の妥協なき完璧主義を明かすことになった。スタジオには初公開の傑作も登場。名作の数々とともに比類なき波山芸術の魅力をあますところなく紹介する。

会期 令和5年1月2日(月曜日)〜2月26日(日曜日)
会場 茨城県陶芸美術館
「板谷波山生誕150年展(茨城県陶芸美術館)」のニュース動画 ※2月26日閉幕)
posted by pawlu at 08:50| 美術 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年02月04日

再放送予定NHK「贋作の迷宮」と「スリーパー 眠れる名画を探せ」(そしてイギリスの傑作ドキュメンタリー「Fake or Fortune?」番組ご紹介)

(ゴッホ風の絵を描く元「20世紀最大の贋作事件の贋作師」マイアット氏)画像出典:NHK HP
NHK贋作の迷宮 画像ゴッホを描くマイアット氏 - コピー.jpg

(絵を精査する「イギリス美術界のシャーロックホームズ」画商フィリップ・モウルド氏)画像出典:NHK HP
画像 絵を精査するモウルド氏 NHK - コピー.jpg
 BSプレミアムで、絵画の真贋鑑を追う2つのドキュメンタリー「贋作の迷宮 〜闇に潜む“名画”」(2010年)と「スリーパー・眠れる名画を探せ」(2004年番組)が再放送されます。

「ハイビジョン特集 贋作の迷宮 〜闇にひそむ“名画”〜(2010年)」
HP番組紹介より)
世界中で毎年数万点も生み出されるという贋作。20世紀最大の贋作事件の犯人も登場し、ゴッホ、マティス、ピカソ・・・巨匠を模倣し3億円を稼ぎ出した“だましのテクニック”をカメラの前で実演した。その驚きの手口とは?人類の歴史とともにある贋作は、人類が生き続ける限り絶えることはない!?金と欲望渦巻く闇の世界の深淵をとくとご覧あれ。

「ハイビジョン特集 スリーパー・眠れる名画を探せ 〜イギリス美術界のシャーロック・ホームズ〜(2004年)」
HP番組紹介り)
イギリス貴族文化の象徴でもある肖像画だが、行方不明や正体不明となった名画も少なくない。“スリーパー”と呼ばれるそうした絵画を独特の感性と知識で探し出す画商がフィリップ・モウルド氏だ。高価な名画を掘り出すだけでなく、埋もれた歴史をも再発見していく伝説の画商の活躍を追った密着ドキュメンタリー。
番組の一部が観られる「NHKアーカイブス」ページ動画はこちらhttps://www2.nhk.or.jp/archives/tv60bin/detail/index.cgi?das_id=D0009010685_00000

 当ブログのマイアット氏とモウルド氏をご紹介した記事

 「元20世紀最大の贋作事件の贋作師」マイアット氏と、「イギリス美術界のシャーロック・ホームズ」モウルド氏。

 この二人は、BBCの絵画鑑定ドキュメンタリーシリーズ「Fake or Fortune?」で2011年に共演している。
(当ブログの「Fake or Fortune?」ご紹介記事はこちら

 フェルメールの贋作でナチスを欺いた伝説の贋作師、メーヘレンの絵画を追う回で、モウルド氏は番組レギュラーとして依頼された絵画を鑑定し、マイアット氏は、当時の専門家も翻弄したメーヘレンの謎の創作技法に挑戦した。
(プレゼンターはBBCの朝のニュースでもおなじみの有名ジャーナリスト、フィオナ・ブルース)

(BBC「Fake or Fortune? Van Meegeren」に登場したマイアット氏(右はフィオナ・ブルース)。フェルメールの名画「真珠の耳飾りの少女」の複製をした。絵の具の科学的分析の結果、メーヘレンは絵画の加工のために猛毒の薬品を混ぜたことが判明〈メーヘレンの死はそれが原因だったとも考えられている〉、彼の技法を追うために手袋とゴーグルをつけ、厳戒態勢で絵画制作に臨んだ)
画像 メーヘレンの技法再現2 - コピー.jpg
Image Credit:Youtube Copyright c 2011 BBC.

(マイアット氏の「真珠の耳飾りの少女(メーヘレン技法レプリカ)」を観るモウルド氏)
画像マイアット氏の絵を観るモウルド氏 - コピー.jpg
Image Credit:Youtube Copyright c 2011 BBC.


 絵をめぐる歴史や人々の波乱のドラマと、真贋を追及する人々の「本物」の気迫に引き込まれる、傑作アートドキュメンタリーシリーズ。
(2022年時点で10シーズン放送されている)

 どこかでせめてこの回だけでもTV放送や配信をしていただけたらと思う。(三者三様に魅力的な話し方で、英語が聞き取りやすいので二か国語放送だとなお嬉しい)


(メーヘレンの回の「Fake or Fortune?」)
FAKE OR FORTUNE SE1EO4 VAN MEEGEREN


マイアット氏の関わった贋作事件のノンフィクション本

モウルド氏の「スリーパー」に関する著作

posted by pawlu at 20:33| 美術 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年11月11日

「鴨居玲展 人間とは何か?」展 12月4日まで中村屋サロン美術館(新宿)で開催中

(中村屋サロン美術館展覧会動画1)※冒頭画像は「自画像(絶筆)」(1985)

 孤独と寂寥感漂う人々を描いた画家、鴨居玲(1928〜1985)の展覧会が、新宿中村屋サロンで開催されている。
(2022年12月4日まで)

 公式HP情報はこちら

 鴨居玲が急逝した日、アトリエに遺されていたという、真紅の中で振り向く道化師の「自画像(絶筆)」(1985)や、代表作のひとつ「私の話を聞いてくれ」(1973)などが展示されている。

 小規模だが、迫力ある作品を間近に観ることができ、デッサンや手記、本人が登場している映像など、様々な角度から画家が紹介されている。


(中村屋サロン美術館展覧会動画1)※冒頭画像は「私の村の酔っ払い」(1973)
中村屋サロン美術館では「鴨居玲展 人間とは何か?」を開催しております。本展では、「自画像」を中心に「老人」「教会」「裸婦」など、鴨居が絵画制作にもがき苦しみながら、心を込めて描いた油彩画、デッサンの中から、東京初出品作品を合わせて約40点を展観します。 人間ひとりひとりの内面にある孤独、不安、運命といった陰の世界や愛に対しても正面から対峙し、「人間とは何か?」を問い続けて57歳でこの世を去った鴨居の芸術世界をたどります。
(Youtube動画概要欄解説より)


 繰り返し死の深淵を覗き、それを描いていた画家の、生命の咆哮が、絵から轟き、観る者の心臓を揺さぶる。

 生の悲しみを描いた「命がけ」が、激しい砂嵐のように、永遠に渦巻いている。




参照
中村屋サロン美術館公式HP

「鴨居玲展 人間とは何か?」 美術館・展覧会情報サイト アートアジェンダ

posted by pawlu at 12:22| 美術 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年10月28日

NHK BSプレミアムで「贋作(がんさく)の誘惑 ニセモノVS.テクノロジー」放送(贋作師ベルトラッキ氏登場)

10月29日、BSプレミアムで「贋作(がんさく)の誘惑 ニセモノVS.テクノロジー」が放送されます。

(伝説の贋作師ベルトラッキ氏 被害総額45億円以上、2000点に及ぶ有名画家の贋作を販売した)画像出典:NHK HP
贋作の誘惑ベルトラッチ(キ) - コピー.jpg

HP番組紹介より)

美術鑑定と贋作の果てなき戦いの最前線をヨーロッパに追う。世界中の美術館を巻き込んだ巨大贋作事件の当事者は何を語る?伝説の贋作師ベルトラッキにも独占取材!

華やかなアートシーンの裏であふれる贋作。ニセモノを暴こうと飛躍的な進化を遂げる鑑定テクノロジーと、さまざまなテクニックを駆使して鑑定を欺こうとする贋作者たちの熱き戦いを追う。史上トップクラスの贋作師が。驚きのテクニックと哲学を披露。世界の美術館、コレクターを惑わす「贋作の誘惑」が突きつけるのは根源的な問いだ・・・。ホンモノとは?ニセモノとは?アートとはなにか?

番組放送予定:(NHKBSプレミアム)

 NHKでは2016年に「贋(がん)作師 ベルトラッチ 〜超一級のニセモノ〜」でもこのベルトラッキ氏の事件と手口を紹介しています。
(※ドイツのドキュメンタリー番組「BELTRACCHI - THE ART OF FORGERY」(2014)の翻訳版、この時は「ベルトラッチ」と表記されていた)


ドイツのドキュメンタリー番組トレイラー
BELTRACCHI - THE ART OF FORGERY Subtitled Trailer | German Currents 2014


(関連動画)イギリス「Channel 4 news」の動画 彼の贋作事件と逮捕のきっかけとなったミス(当時存在しなかった色を使った)を紹介している。


この過去番組を紹介させていただいた過去記事はこちらです、よろしければ併せてご覧ください。
posted by pawlu at 21:01| 美術 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年09月01日

当ブログ内 「美術」情報記事一覧


(※ネタバレ)ドラえもん「王かんコレクション」あらすじ


posted by pawlu at 22:22| 美術 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年08月30日

NHK「スリーパー・眠れる名画を探せ」再放送 画商フィリップモウルド氏登場の番組

(絵を精査する「イギリス美術界のシャーロックホームズ」画商フィリップ・モウルド氏)画像出典:NHK HP
画像 絵を精査するモウルド氏 NHK - コピー.jpg

 9月1日、BSプレミアムで「スリーパー・眠れる名画を探せ」(2004年番組)が再放送されます。
スリーパー・眠れる名画を探せ(2004年)

ハイビジョン特集 スリーパー・眠れる名画を探せ 〜イギリス美術界のシャーロック・ホームズ〜(2004年)イギリス貴族文化の象徴でもある肖像画だが、行方不明や正体不明となった名画も少なくない。“スリーパー”と呼ばれるそうした絵画を独特の感性と知識で探し出す画商がフィリップ・モウルド氏だ。高価な名画を掘り出すだけでなく、埋もれた歴史をも再発見していく伝説の画商の活躍を追った密着ドキュメンタリー。


番組の一部が観られる「NHKアーカイブス」ページ動画はこちら


モウルドさんの「スリーパー」に関する著作はこちらです。


よろしければ当ブログのモウルドさんと本のご紹介記事も併せてご覧ください。

 【補足アメリカのデトロイト美術館(Detroit Institute of Arts)のYoutubeチャンネルが、モウルドさんもプレゼンターとして登場するBBCドキュメンタリー「Fake or Fortune」に登場した回を公開中です。スリルと気品ある番組、本当に面白いです(※2022年8月時点情報、英語音声)

フィリップ・モウルド氏のギャラリーのYoutubeチャンネル

(フィリップ・モウルド氏のギャラリーと活動紹介動画)



【当ブログ関連記事】



posted by pawlu at 20:28| 美術 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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