2017年08月06日

(※ネタバレあり)漫画、こうの史代作『夕凪の街 桜の国』ご紹介

『夕凪の街 桜の国』は『この世界の片隅に』で、日本中に感動を与えた、こうの史代さんの、戦争にまつまるもうひとつの傑作漫画です。

夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス) -
夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス) -

この世界の片隅に 上 (アクションコミックス) -
この世界の片隅に 上 (アクションコミックス) -

 この作品は、原爆投下から10年後の広島に住む皆美を描いた「夕凪の街」と、皆美の姪、七波から見た、家族たちの人生を描いた「桜の国」の、二部構成になっています。

 今回は前半の「夕凪の街」について少しご紹介させていただきます。
(ネタバレですので、あらかじめご了承ください。)





(「夕凪の街」あらすじ)

夕凪の街1.png

 「あの日」から10年後、皆美は、原爆で父、妹、姉を失い、母と二人で暮らしていた。
 
 皆美の家は、原爆で家を失った人たちが身を寄せ合って暮らす粗末な小屋だが、10年の月日を経て、皆美もまわりの人々も、かつてのように仕事や暮らしに勤しみ、日常を取り戻したかのように見えた。



 だが、皆美には、今でもわからない。

 「あれ」は、いったい何だったのか。

 確かなことは、誰かに自分が「死ねばいい」と思われたこと。

 そして、「あの日」以来、自分がそう思われても仕方の無い人間になったと、自分で思うようになってしまったこと。

 「あの日」、惨状の中で、がれきに押しつぶされた級友や、助けを求める人たちを数えきれないほど見殺しにし、死体に心を麻痺させて生き延びた自分。

 働き、家事をすることはできても、美しい服を自分のために縫い上げること、同僚の男性、打越の優しい手をとること、幸せになることが、皆美にはできなかった。


 10年前にあったことを話させて下さい。うちはこの世におってええんじゃと教えて下さい。

 打越の好意を受け止められないでいる皆美は、打越にそう、胸の内を話した。

 自身は原爆の被害には遭わなかったが、伯母を亡くしていた打越は、皆美の心に沈む思いをすでに感じ取っていた。

 「生きとってくれてありがとうな」

 皆美とつないだ打越の手を、皆美はやっと笑顔で見つめることができた。



 皆美が心の重荷をおろした日の晩、体に力が入らなくなった。

 医者に見せても原因がわからないまま、どんどん全身がだるくなっていく。

 横になったまま、皆美は姉を思い出した。

 姉は、火に焼かれて死んだのではない。

 あの日から二か月後、倒れて寝込み、紫の染みを体に散らして、皆美に殴りかかったり、叫んだりしながら死んでいった。

 皆美が倒れてから、母は姉の話をしなくなった……。



(結末部の画面とセリフ)
 
 次第に衰弱していく皆美は、やがて視力を失い、そこから先は、真っ白なコマと、皆美の心の中の独白だけになってゆきます。


夕凪の街2.png


 自分の喉から吐き出されるものは、もう、たぶん血ではなく、内臓の破片。

 髪が抜けているのかもしれないけれど、触れて確かめる力もない。



 真っ白な空間に、ぽつりと落ちた言葉。

 「嬉しい?」

 「10年経ったけれど、原爆を落とした人はわたしを見て、『やった!また一人殺せた』とちゃんと思うてくれとる?」


 「ひどいなあ、てっきりわたしは死なずに済んだ人かと思ったのに」




 作者のこうのさんは、『この世界の片隅に』で、呉を舞台に、広島で起きたことを描きました。

 『この世界の片隅に』でも『夕凪の街 桜の国』でも、読者の視界を惨状で覆うことはせず、セリフや間接的な描写で、読者の胸の内に当事者の思いを託すという表現方法がとられています。

 そうして、「戦争という遠い昔の悲劇」ではなく、そこに生きた人々の思いを、身近なものとして、読者の心に永く息づかせている。



 この場面描写力に加え、「夕凪の街」で、強く心に残るのは、原爆の後遺症に突如襲われた、皆美の思いです。

「10年経ったけれど、原爆を落とした人はわたしを見て、『やった!また一人殺せた』とちゃんと思うてくれとる?」

 この言葉は、原爆という兵器の持つ残酷さを、今までにない角度でえぐり出しています。

 一瞬でそこにいたあらゆる人々を炎に包み、そして、生き残り、敗戦の中で新しい人生を歩もうとしていた人たちまで、後遺症で蝕まれてゆく。

 「そんなつもりはなかった」という言葉すらかけられず、自分の顔も死も知られないまま、殺されていく。

 それまでに無い、戦争、そして原爆だから起こった残酷と、それに巻き込まれた人の無念がにじみ出た言葉です。



 原爆投下の判断を下した人々は、一体、この後遺症についてどこまで理解していたのか。

 深くは知らなかったのか。

 知った上で、それでも投下するべきだと思ったのか。

 このことについて、我々はほとんど事実を知らされていません。

 しかし、皆美のように、周囲の人の死や、葛藤の中でもがきながら、ようやく生きる意味を見出したときに、なぜ死ななければならないかもわからずに、命を落としていった人がいるということを、この作品を通じて心に刻み付ける必要があると思います。



 「夕凪の街」は、抑制された語りながら、やはり重いものが残りますが、「桜の国」は、その後の人々の、苦しみの中から芽生えた愛情を描き、心に灯のともるような読後感の作品です。

 どちらも名作であり、一つの家族の物語として、併せて読むことにより、いっそう互いの深みが増す構成になっているので、是非ご覧ください。

 

 読んでくださってありがとうございました。


(補足)
 当ブログ こうの史代さん関連のその他の記事です。

(※ネタバレあり)この世界の片隅に 映画で語られなかった場面(1)ノートの切れ端とリンドウのお茶碗
(※ネタバレあり)「この世界の片隅に」映画で語られなかった場面(2) 雪に描かれた絵と、桜の花びらの舞い降りた紅



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2017年07月30日

(一部ネタバレあり)わたなべぽんさん 『もっと、やめてみた。』ご紹介 


 今日は35kgのダイエットで話題となった漫画家わたなべ ぽんさんの最新エッセイ漫画、『もっと、やめてみた。』をご紹介させていただきます。

もっと、やめてみた。 「こうあるべき」に囚われなくなる 暮らし方・考え方 (幻冬舎単行本) -
もっと、やめてみた。 「こうあるべき」に囚われなくなる 暮らし方・考え方 (幻冬舎単行本) -


 (※一部ネタバレありなのでご注意ください)


 昨年発売の『やめてみた』同様、ぽんさんがなんとなく続けてきたけれど、実は今の自分には合わなくなっていた生活習慣や、物の考え方を、やめてみた、というお話です。

やめてみた。 本当に必要なものが見えてくる暮らし方・考え方 -
やめてみた。 本当に必要なものが見えてくる暮らし方・考え方 -

 幻冬舎PlusのHPで一話試し読みができます。(コチラ

 「もっと、やめてみた」の内容は次のようなものです。(目次より引用、カッコ内筆者補)
 
 ・ビニール傘の巻
  (ついつい増えてしまう出先で買う傘のお話〈ワカル!!〉)
 ・プチプラアクセの巻
  (※500円くらいで買えるアクセサリーについて)
 ・観葉植物の巻
  (大好きだけどお世話が得意じゃなかったそうです)
 ・髪型の巻
 ・ボディソープの巻
 ・居酒屋の巻
  (深夜、多忙な時、つい飲みに行ってしまうこと)
 ・友達作りの巻
 ・イベントブルーの巻
  (イベントが近づくと、当日の自分の振る舞いに不安を感じて、気乗りしなくなってしまうというクセ)
 ・人見知りの巻
 ・センスの問題の巻
  (自分のセンスに自信が持てない……と、思うこと)
 ・いつから旅行好きに?の巻
  (大好きな旅行で感じる解放感から気づいた、日常の思い癖)
 ・生まれ直しの巻
  (3年にわたる歯科治療が終わったときに見えてきたこと)

 前作『やめてみた』もそうですが、今作も「今のぽんさんの気持ちや暮らしに合わなかったからやめてみた」ものの紹介です。(ご自身でもそう前置きされています。)

 また、大きな話題となった「スリ真似(スリム美人のメンタルや生活習慣を真似する)」ダイエット本三作や、汚部屋脱出本「ダメな自分を認めたら、部屋がキレイになりました」(コンプレックスから物を増やしてしまい、そんな自分を納得させて減らしていくまでの心理を描き切った名著)に比べると、習慣を変えることの苦労や、そのためのコツの描写は少なめです。

スリム美人の生活習慣を真似したら 1年間で30キロ痩せました (メディアファクトリーのコミックエッセイ) -
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ダメな自分を認めたら 部屋がキレイになりました (コミックエッセイ) -
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 今回の見どころは、前回の「やめてみた」でも描かれていた
 「この習慣は、こういう理由で、自分には合わないと思った」
 「やめたら、こういう暮らしや気持ちの変化があった」
 という要素に加え

 「やめてみたから、新しく楽しいことや素敵な物をとりいれられた」
 という一面が紹介されているところです。
 (ぽんさん曰く「やめてみたら始まったこと」。)

 (例)
 肌に合わない、洗浄力の強すぎるボディーソープをやめてみた。
       ↓
 思い切って、手作り石鹸にチャレンジしてみたら、肌質に合っていたし、作るのも楽しかった。

 というわけで、丁寧に居心地よく暮らし始めた人の和やかなお話……のようにも読めるのですが、随所に、「それまで自分の苦手に気づけなかった、あるいは悪い癖をやめられなかった理由」も描かれています。

 人柄が良くて、今はお仕事も順調、優しい夫さんと、良いお友達に恵まれ、おまけにダイエットと片付けに成功して美部屋美人、な、はずのぽんさんですが、子供のころから、体重を含めた身の回りのケアや、人付き合いに多くの苦手をかかえて、コンプレックスに苦しんでいらっしゃったようです。
(クリエイターさんなのに、自分のセンスに自信を持てないでいた、とか、気配りにいそしむ裏で、周囲が抱く印象を非常におそれていたという箇所などから、それが読み取れます。)



 ぽんさんの苦しかった気持ちが一番はっきりあらわれているのが、「生まれ直しの巻」です。
※以下ネタバレになります。)


 内容は、子供のころから30代後半にいたるまで、まともに治療していなかった歯を、3年の通院で完治させたというものですが、この回では、そこまで歯を放置してしまった経緯として、

 「ぽんさんが幼いころ、お母さんが歯磨きのしつけを丁寧にできず、代わりに時々ぽんさんの虫歯を力づくで磨くので、以来、歯のことを親に隠すようになってしまった」

 という出来事が描かれています。

 前作『やめてみた』でも、整理整頓やスケジュール管理が苦手だった子供のころのぽんさんが、失敗するたびに、おかあさんに厳しく叱られるので、ますます自信を喪失してしまったというエピソードがあり、この時期、ぽんさん母子の間にわだかまりがあったことがうかがえます。

(今ならネットや本で、日常生活の苦手と付き合っていくコツをたくさん情報収集できますが〈ぽんさんの本自体がそういうものですし〉、当時は「本人がなまけてる」か、「親のしつけがなってない」でひとくくりにされてしまいがちでしたから、お互い大変だったと思います……。)

 「子供時代、家族との間にあったトラウマが今に悪影響を及ぼしている」という分析は、昨今数多く見られます。

もっと、やめてみた。1.png


 ですが、この作品はそうした分析で話を終わらせず、さらに「トラウマとの別れ」を描いており、そこが、この本一番の名場面でした。



 大人になって、とうとう歯の痛みが気絶するほど強くなってしまったぽんさんは、ようやく病院に駆け込み、症状の重さに驚いたお医者さんから、「どうしてここまでほったらかしたんですか!?」と、言われてしまいました。

 子供のころの歯にまつわるお母さんの思い出や、一人暮らしをはじめても、お金がなくて治療ができなかったことなど、つらい記憶が、歯の痛みとともに蘇ってきて、胸がいっぱいになってしまったぽんさんは、思わず、

「母が歯みがきのしつけをちゃんとしてくれなかったんです。」

 と、漏らしてしまいます。

 しかし、それを聞いた、歯医者さんは、

「なーに言ってんのそんな昔のこと。おかあさんはどうあれ、今のあなたは自分でなんでもできる立派な大人じゃないの」

 と、笑顔で、さばさばと言いました。

もっと、やめてみた。2.png

 この言葉に、

 「すっかり母のせいにして、自分でできることすらほったらかしにしていたのかも(中略)いい歳して、人前ですごく幼稚な言い訳をしてしまった」

 と、猛烈に恥ずかしくなったぽんさんは、

 「もう、誰かのせいにしてなまけたり、自分を正当化するのはやめるんだ」

と、決意して、この歯医者さんに通って完治を目指すことにします。
 
もっと、やめてみた。3.png



 ……ぽんさん本の大きな魅力は、人の言葉を素直に受け取るぽんさんのお人柄だ、と、前々から思っていましたが、この、歯医者さんの言葉に一瞬で猛烈に反省するシーンは、彼女のキャラクターの長所が最もくっきり表れています。

 「大人で、病気で体が動かないわけではないんだから、自分の口の中は自分で面倒見るべき」と、いうのは、動作の手間から言えばまったく正論なのですが、心に傷を抱えている人からすれば、そんなに簡単な話ではありません。

 「するべきなのはわかっているけれど、どうしてもそういう気持ちになれない、健康なはずの体も動かせない」

 痛む歯すらそのままにしてしまうほど、気持ちのあちこちにおもりがついている。そして、そのおもりは、昔のつらい記憶が姿を変えたもので、なかなか振り払うことができない……。

 そんな経緯があると、「前向きな正論」が素直に受け入れられないことがあると思います。

(たとえば「こっちの事情も知らないで!!」と怒ってしまう、とか。)



 でも、ぽんさんは、歯医者さんの言葉を、自分のつらい記憶は脇に置いて正面から受け止め、自分に足りなかった部分を反省している。

 なかなかできないことだと思います。

 先生の言い方がさっぱりとあたたかかったのも良かったのでしょうね。

 (良いお医者さんって、こんなふうに、変に深刻にならずに、苦しかった気持ちまで含めて軽やかにしてくれますよね。)

 怒るどころか、このお医者さんについていくことにしたというのも心温まります。

 ぽんさんもお医者さんも素敵な方だと思いました。



 余談ですが、過去本と見比べてみると、この歯医者さんとのやりとりは、部屋の掃除を終わらせ、ダイエットを開始している頃と前後している出来事と思われます。
(ダイエット本の中で「ダイエットと並行して歯を治したい」と、目標を書いていらした。)

 すでにぽんさん自身の中で、もっと前向きに暮らしていきたいという、その他の頑張りも進められていた時期だからこそ、素直に先生の言葉を受け止められたのかもしれません。



 そして、夫さんに歯の完治を報告したぽんさん。

 歯がキレイになったのは嬉しいけれど、もっと早くに気持ちを入れ替えてケアをしていれば、時間もお金も使わずに済んだのだけれど……、と、残念に思うぽんさんに、夫さんは、うーん、と考えこんでから言います。

「それはそうだけど、できなかったんだから仕方がないじゃない」

 考えを変えるのは、きっとそれくらい時間が必要だったんだよ。その分これからはうんと歯を大切にすればいいさ。

もっと、やめてみた。4.png

もっと、やめてみた。5.png

良いこと言うなぁ……。

 読んでてすごく染みました。

 ぽんさんの夫さんって、苦手の多かった過去のぽんさんを責めるわけでもなく、でも、自分が余計な重荷を背負うでもない、それでいてぽんさんの努力の成果を一緒に喜んでくれる、というキャラクターで、パートナーとしての距離感が絶妙だと思っていましたが、(全作通じて、夫さんがぽんさんを叱ったのは、ぽんさんの良い性格がネットゴシップ閲覧で損ねられたときだけ。〈『やめてみた』より〉)これは夫さんの数々の味わい深いお言葉の中でもとくに名セリフです。

 現実的だけど穏やかで優しい。

 こういう言葉を誰か(とくに自分にとって大切な人)に言ってもらえると、わだかまっていた気持ちがはやくほどけていくと思います。



 「自分が生きやすいように、楽しく丁寧に暮らす」という、読んで気持ちが軽やかになれるテーマの奥に、心の傷と向き合うという深いテーマや、人との良い出会いが描かれた素敵な一冊でした。是非お手にとってみてください。

 読んでくださってありがとうございました。

(補足)
・ 幻冬舎HPに、前作『やめてみた』の太っ腹試し読みページがあるので貼らせていただきます。併せてごらんください。

http://www.gentosha.jp/category/yametemita

・当ブログ、わたなべぽんさん作品ご紹介記事は以下のとおりです。
「やめてみた」(わたなべ ぽん作 コミックエッセイ)ご紹介
『ダメな自分を認めたら部屋がきれいになりました』(わたなべぽんさん作 お片付けコミックエッセイ)
減酒への道 (わたなべぽんさん「やめてみた」参照)
posted by Palum. at 13:04| おすすめ漫画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年07月19日

おそうじ漫画『ネコちゃんのスパルタおそうじ塾』

 可愛いおそうじ漫画があったのでご紹介させていただきます。

『ネコちゃんのスパルタおそうじ塾』。

ネコちゃんのスパルタおそうじ塾 -
ネコちゃんのスパルタおそうじ塾 -

 現在もブログやウェブ連載で大人気の飼い猫エッセイ漫画、「うちの猫がまた変なことしている」の作者卵山玉子さんが作画をご担当した、「汚部屋(※)ではないけどどうも散らかっている……。」レベルの人向けのお掃除指南漫画です。

うちの猫がまた変なことしてる。 (コミックエッセイ) -
うちの猫がまた変なことしてる。 (コミックエッセイ) -

(※汚部屋……ゴミが散乱し、足の踏み場も無いほど散らかった部屋のこと。こちらの脱出本としては、「片付けられない女の、今度こそ片付ける技術!」(池田暁子さん著)や、「まさか汚部屋を脱出できるとは」(ブロガー、ややこさん著)などがあります。)

片づけられない女のためのこんどこそ!片づける技術 -
片づけられない女のためのこんどこそ!片づける技術 -

まさか、汚部屋を卒業できるとは。 -
まさか、汚部屋を卒業できるとは。 -

 アドバイザーとコラムご担当は、伊藤勇司先生。

 コミック『部屋は心を映す鏡でした』でもアドバイザーをなさっており、部屋が散らかる原因とその解決策を、住人の心理分析とともに説明されています。

部屋は自分の心を映す鏡でした。 -
部屋は自分の心を映す鏡でした。 -


(あらすじ)

 トモエさんは、優しい夫のケンスケさんと、飼い猫の「ネコちゃん」と暮らす、お掃除がちょっと苦手な女性。

 床や収納がどうもスッキリしないことは気になっているけれど、どうすればいいのかよくわからない……。

 そんなふうに思っていたとき、膝の上のネコちゃんが一言。

 「まずは視界に入る物品数を減らしてみてはどうかな(人語)」。

 トモエさんを見かねて、Eテレで人語を学んだ(←笑)ネコちゃんによる、「インテリア雑誌に出るほどじゃないけれど片付いた部屋」を目指す、熱血スパルタ猫の手貸し指導がはじまります。



 (見どころ)

 とにかくネコちゃんがカワイイ……。

 卵山さん特有の、もっちりふっくら丸っこい線で描かれたつぶらな瞳のネコちゃん。

 癒やし系な外見に似合わず、指導者としては某昭和のラグビー部先生級に厳しく、怠惰なトモエさんの性根を、時に鉄拳制裁でたたき直します。

 もぺーん!(ビンタ音)

ネコちゃんのスパルタおそうじ塾1.png

 「痛いかッ!ネコちゃんのココロはもっといたいぞ!」

 「いや……肉球がプニプニだった……。」

ネコちゃんのスパルタおそうじ塾4.png

 ……羨ましさしかない……。
 (あとスパルタなのに自分を「ネコちゃん」って呼ぶところがもう……)

 別バージョンではトモエさんがネコちゃんヒップアタックを食らってましたが、こちらも、「いや……お尻がモフモフだった……」とのことでした。

ネコちゃんのスパルタおそうじ塾3.png

 本屋でこの本に出会ったとき、特に掃除に悩んでいたわけではなかったのですが、この「もぺーん!」に勝てずに気づいたら購入していました……。
 
 よく子供向け学習漫画にドラえもんやコナン君が登場して、勉強に対する心理的ハードルを下げていますが、この本も、大人の掃除めんどくさい心をネコちゃんの可愛さで強制的に和らげる嬉し卑怯な構成になっています。


 ……というか、掃除終わっても、ウヒョヒョムヒョヒョと読んじゃう……。

 この素敵なキャラクターデザインは、浴室の赤カビ「ロドトルラ」にまで及んでいます(RPGのモンスターみたいな名前だからとトモエさんがイメージした姿)。

ネコちゃんのスパルタおそうじ塾7.png

 ピンクのフンワリしたフォルムに角が生えた姿で、ネコちゃん同様のぷっくりと可愛い目鼻立ち、むしろ栽培して、末永く一緒に住もうと言いたくなる。

 あとがきの、ネコちゃんとご夫婦が挨拶しているコマにもさりげなくロドトルラが紛れ込んでいたので、卵山さん的にもお気に入りのキャラと思われます。

ネコちゃんのスパルタおそうじ塾8.png



(掃除のポイント)

 「リビング」「キッチン」「浴室」など、エリア別にお掃除が進んでいきますが、どこも次のような流れで片付けられていきます。

「いらないものを手放す」
「物を収納場所に収める」
「乱雑に配置された物を整える」
「ホコリ・汚れを落とす」

 「いらないものを手放す」については、「断捨離」「ミニマリスト」など、徹底した不要品の処分を目指す本も数多く出ていますが、この本は、そこまで厳密ではありません。
(伊藤先生は、「捨てない片付け」も提案されている方なので。)

片づけは「捨てない」ほうがうまくいく -
片づけは「捨てない」ほうがうまくいく -


 この本の中で「ものを手放す」のは、あくまで普段使う物の「帰る場所(収納スペース)」を確保するためです。

 ただし、収納や掃除を阻害する量の物については情け容赦ありません。
(ネコちゃんのバイオレンスは主にトモエさんが不要品をとっておこうとしたときに発動。)

 なお、トモエさんがとっておこうとする品は、「逆にアート」「みうらじゅん氏にさしあげたら、大事にしていただけるのでは」と思わされる、斬新なセンスに満ちあふれています。

 (例)ネコちゃんが「これけっこう好きだよ」と救い出したマッチョベア。
ネコちゃんのスパルタおそうじ塾5.png

 いらないような魅惑的なような品々(特におっさんヒヨコが気になる)。

ネコちゃんのスパルタおそうじ塾6.png


 不用品を選り分けた後には、しまう場所や、今後お掃除しやすい仕組み作り(コード配線をまとめる、小物は箱に入れておく、など)をします。

 そして、仕上げに汚れ落とし。
(この作業描写が「ドアノブや取っ手も拭く」など細部に及んでいて実用的)

 「一応汚部屋ではない」というレベルを想定しているので、掃除用洗剤は、重曹とクエン酸といった、毎日使っても肌にも環境にも優しいものを主に使用しています。

 個人的に目からウロコだったのは、「お風呂の天井は(持ち手を短くした)フロアワイパーで拭く」でした。

 今までしたたる水滴と戦いながらブラシとペーパーでやってた(ゴーグルつけたりしてた)から、その手があったかと……。

 その他「ベッドマットの掃除機のかけ方」や、「ベランダ掃除法(しめらせてちぎった新聞紙をまいて掃き、細かい砂埃を吸着するのだそう)」など、家のあちこちのお掃除方法が紹介されています。

 ネコちゃんに萌えながら、一通り片付けたい、という方にピッタリの名作。とてもオススメです。

(先述の、ネコちゃんのむしろ羨ましい肉球制裁とか、トモエさんの私物のセンスとか、ロドトルラとか、全体的に淡くて優しい色使いとか、漫画として読んでて幸せになる作品。)


 ネコちゃんには逆らえねえ的勢いで作業が進められた後には、伊藤先生の心理カウンセリング的分析コラムをご覧ください。

 伊藤先生のあとがきには、「片付けの本質は部屋を改善していくことではなく。「部屋が片付かなくなる状況を招いた“自分”を改善すること」」と、書かれていました。

 よくお掃除をすると運気が上がると言いますが、つまりこうして冷静に自己分析をして、より謙虚で積極的に動ける自分になることで、良い流れを自らつかみ取っていけるようになるのだと思います。



 このほかにも、結構な数のお掃除本を読破してきたので(おかげでまあ、一応、清潔度普通)、以後もお世話になってきたお勧め本を今後もご紹介させていただきたいと思います。

 よろしければお立ち寄りください。

 読んでくださってありがとうございました。

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2017年04月17日

漫画「へうげもの」ご紹介(展覧会「茶の湯」と「茶碗の中の宇宙」によせて)

2017年4月11日から、上野の国立博物館で「特別展 茶の湯展」が開かれています。
(公式HP http://chanoyu2017.jp/


(動画)【日本ニュース】あすから「茶の湯」の名品集め特別展 上野・国立博物館(2017/04/10)


https://www.youtube.com/watch?v=JC7UFcSVyZs

 既に3月から、竹橋の東京国立近代美術館で、千利休が愛した楽焼の名椀が見られる展覧会「茶碗の中の宇宙 樂家一子相伝の芸術」が開かれており、茶道具の名品が都内に集結する貴重な機会となっています。
(公式HP http://raku2016-17.jp/

 これにちなみ、今回は、二つの展覧会の茶道具が登場する人気漫画「へうげもの」についてご紹介させていただきます。

へうげもの(1) (モーニングコミックス) -
へうげもの(1) (モーニングコミックス) -

 「へうげもの(ひょうげもの)」とは「ひょうげ(剽げ)」た者のことで、「おどけた者、ひょうきんな者」というような意味で、この作品では、戦国から江戸時代の幕開けを生きた主人公、古田織部(ふるたおりべ)のことです。


(古田織部)
『へうげもの』古田織部.png


 茶道具を熱愛し、自身もすぐれた作品を作り上げようと、悪戦苦闘する古田織部と、彼の師であり、越え難い壁ともなった、天才茶人、千利休。そして信長、秀吉、家康ら、名だたる戦国武将たちを描き、重厚な人間ドラマと奇抜な笑いの入り混じる異色の歴史漫画です。

 『へうげもの』公式ビデオクリップ 〜MEGYUWAZO〜


 https://www.youtube.com/watch?v=E38EzmTB4Sc

 『へうげもの』公式ビデオクリップ 〜ISETOYAN〜


 https://www.youtube.com/watch?v=d28ZWTqZeR4

 【概要】
  戦国時代、武人たちにとって、優れた茶道具は、ときに城一つにも匹敵する価値を持ち、「大名物(おおめいぶつ)」と呼ばれる稀有な来歴を持つ美しい茶道具は、それを手にする者の絶大な富と権力の象徴となっていた。
 
 織田信長に仕えていた古田織部(左介)は、数奇の道(美や趣)に心を奪われながらも、武人として武功でのしあがるか、新しい美を世に送り出す数奇者となるかを模索していたが、大茶人、千利休に出会い、次第に茶人として頭角を表し、茶器や庭建物まで、独自の美を切り開いていく。

 一方、数奇を求める武人たちの間で崇敬を集める千利休は、己の美である「わび」を極めようとしていた。

(千利休)
『へうげもの』千利休.png


 黒を最上のものとし、簡素静寂を求める「わび」の世界。

 それは、自身もその美意識も圧倒的絢爛豪華である織田信長と完全に対立していた。

(織田信長)
『へうげもの』織田信長.png


 「数奇」と「武力」、茶人と武人、それぞれの理想と欲望は、戦乱の世で、ときに面白く、ときに残酷に、ぶつかり合うことになる。


【見所】

  茶道具や、「わび」「数奇」といった、敷居の高そうな世界を、主人公、古田織部をはじめとする、非常に個性豊かな登場人物たちの人間ドラマに絡め、わかりやすく、しかも、かつてないインパクトで描いている作品です。

 古田織部は、「織部焼」と呼ばれる、現代まで愛される、独自の歪みと味を持つ焼き物を作り出した人物です。

 傑出した才人であり、作中でも利休の後継者として、周囲の尊敬を集めることとなるのですが、愛妻家で、常に茶器の収集や製作の資金繰りに四苦八苦するという、平凡な一面も描かれています。

 しかし、「へうげもの」の古田織部最大の特徴は、優れた茶道具を見ると、コマ一杯に変顔をして、ときに股間まで反応させるというところです。

(お茶碗見てこの表情……)
『へうげもの』古田織部2.png

 実写版なら若き日のカトちゃんが良いのではという顔で、茶道具の名や賛辞を叫ぶのが作品の定番。

(織部ほど頻繁ではないものの、他の登場人物も表情が濃ゆく、普段重々しい分、利休の驚愕顔が最もパンチが効いている。)

 今回の二つの展覧会は、「へうげもの」ファンなら、「あの場面のあれもこれも来ている!」というくらいの豪華ラインナップなのですが、作品上特に重要な役割を果たした茶道具としては、「肩衝茶入 初花(かたつきちゃいれ はつはな)」と「黒楽(くろらく)茶碗の数々」が必見です

 〇「肩衝茶入 初花」

 「初花」は、一見地味な色調の小さな蓋付の壺(茶入)ですが、作中では、「大名物」と言われる神品で、特別展「茶の湯」の目玉作品の一つです。


 特別展「茶の湯」作品リスト

http://www.tnm.jp/modules/r_exhibition/index.php?controller=item&id=4959#1


『へうげもの』三肩衝.png


 「初花」「新田」「楢柴」の三肩衝を掌握した者こそが、天下人となる。


 天皇家の皇位継承に必要な「三種の神器」のような威力を持つ品として位置付けられているのです。


 作中では、この三肩衝の行方が、持ち主の運命とともに目まぐるしく動いて行きます。



 〇「黒楽茶碗」


『へうげもの』利休と黒茶碗.png


 それまで、中国、朝鮮の陶工たちの作品を最上のものとしてきた茶碗の世界で、千利休が新しい、頂点の美として世に放ったのが、黒の茶碗でした。


 楽家の名工、長次郎と協力して作り上げた、夜を練り上げたような茶碗。


 黒一色で、飾り気の無い作品ですが、実は微妙な色合いや形が異なり、織部ら武人だけでなく、数奇を好むあらゆる人々の羨望の的となりました。


 東京国立近代美術館の「茶碗の中の宇宙」展で、初代楽長次郎の黒茶碗の数々を観ることができます。
「茶碗の中の宇宙」見どころ ページ


 作中で「世のあらゆる物にすぐれています」と、黒茶碗を讃えた利休は、この「わび数奇の美」で世を覆おうとしますが、彼の壮絶な業(ごう)が信長、秀吉、そして利休自身の運命も狂わせていきます。


(豊臣秀吉)

『へうげもの』豊臣秀吉.png

 


 一方、利休というあまりにも大きな師を持った織部は、時に手痛い失敗を繰り返しながらも、やがて独自の美意識をつくりあげていきます。


 「へうげもの」は2017年4月現在も連載中ですが、いよいよ物語は完結に向けて動きだしている模様です。


 展覧会で漫画に登場する茶道具をじかに眺め、その美しさを通じ、これらを作り、愛した人々の息吹や、戦国から江戸にかけての時代のうねりに思いを馳せてみてはいかがでしょうか。


 次回は「へうげもの」の名場面と、展覧会で観ることのできる名品についてご紹介させていただきます。



 読んでくださってありがとうございました。


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2017年03月18日

「この世界の片隅に」映画と漫画の補足情報(漫画の一コマとクリスマスカード)




 先日、映画も大ヒットした名作漫画「この世界の片隅に」のご紹介記事を書かせていただいたのですが、今日は漫画と映画それぞれの補足情報を書かせていただきます。

 過去記事は以下のとおりです。
 ・(※ネタバレあり)「この世界の片隅に」映画で語られなかった場面(2) 雪に描かれた絵と、桜の花びらの舞い降りた紅
 ・(※ネタバレあり)この世界の片隅に 映画で語られなかった場面(1)ノートの切れ端とリンドウのお茶碗


この世界の片隅に 上 (アクションコミックス) -
この世界の片隅に 上 (アクションコミックス) -

この世界の片隅に 中 (アクションコミックス) -
この世界の片隅に 中 (アクションコミックス) -

この世界の片隅に 下 (アクションコミックス) -
この世界の片隅に 下 (アクションコミックス) -

 1,髪をとかすリンさん(漫画)

 漫画のみの描写なのですが、主要キャラのリンさんが、髪をとかしている絵があります。

この世界の片隅に 髪を梳くリンさん.png

 ストーリーに直結しているコマというより、章のはじまりのカットのような箇所で、長い髪を片手で束にしてまとめて高く持ち上げ、もう片方の手で櫛をかざし、髪をまとめる紐を、微笑む唇に軽くくわえているというポーズです。

 こうの史代さんの描く女性の、比較的大きく描かれた手とほっそりした全身のしぐさの、曲線を成すたおやかさには、大正時代の画家竹久夢二の美人画に似た情緒が感じられるのですが、この絵はそうした女性らしさに加え、大きく上げた腕と長く横に引いた艶やかで豊かな髪から、颯爽とした動きと、しなやかな色気を感じられ、涼しいまなざしにリンさんの個性がうかがえる名作だと思います。

 竹久夢二「秋」(出典:ウィキペディア、「竹久夢二展」図録、毎日新聞社、1992年)(拡大画像はコチラ

TakehisaYumeji-MiddleTaishō-Autumn.png

 なお、長く豊かな髪をすく美しい女性というのは、古くより、ほのかで神秘的な色香を漂わせる画題として愛されており、ラファエル前派の画家ロセッティや、夏目漱石に支持された装丁作家、橋口五葉らも、それぞれに名作を残しています。

 ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ「レディ・リリス」(出典:ウィキペディア、Delaware Art Museum)(拡大画像はコチラ

Lady-Lilith.jpg

 橋口五葉「髪梳ける女」(出典:ウィキペディア、The Trustees of the British Museum The British Museum Images)(拡大画像はコチラ
 
Goyo_Kamisuki.jpg

 物思いにふけるような目でゆるやかに髪を梳く、ロセッティと五葉の絵の静けさと比べ、肌襦袢に細袴(ズボンのような下着)姿で、大きな動きをしているリンさんからは、これから髪を結い、着付けをして、場に出てゆく生身の女性の勢いや生活感が感じられ、既に歴史にその名を刻まれた画家たちの絵に勝るとも劣らない魅力があると思います。

 この後、漫画の展開としては、彼女がこの美しい髪を日本髪に結って、花見に出掛けており、そこは、非常に印象深い名場面となっています。(その場面をご紹介した記事はコチラです。)

 2、「この世界の片隅に」のクリスマスカード

 2016年12月下旬、映画の大ヒットを記念して、来場者に作品の主要キャラクターが描かれたクリスマスカードが配られたそうです。

 クリスマスカードの画像が見られるニュースURLはコチラ
 出典:「この世界の片隅に」第2弾来場者プレゼント12月23日から配布、すずがサンタに」
 (「映画ナタリー」、2016年12月22日http://natalie.mu/eiga/news/214405

 周作さん、すずさん、リンさん、水原さんの4人が、サンタの格好をして並び、前の人の肩に手を置いた電車ごっこのようなポーズでこちらを向いて笑っているというデザインです。

 少しデフォルメされて頭身が縮み、顔もまるっこく、映画の中よりもあどけない感じが可愛らしいのですが、この姿でサンタ服を着ている彼らを見ると、急に、「ああ、そうだ、この人たちまだ20代なんだな……」と思って、(そういう意図でデザインされたのではないでしょうが)急速に切なくなりました。

 今の時代を生きていれば、クリスマスなら、どんなデートをしようとか、プレゼントがほしいとか、そんなことを考えていられる年頃に、戦争に巻き込まれ、リンさんはもっと幼いころに親に売られて苦労して、水原さんは軍人になって……という人生を送っていたのか……と……。

 そして、彼らが今の時代に生きていれば、たぶんこの4人の関係性は変わっていたんだなとも思いました。

 貧しさのあまり親に売られるとか、結婚の自由がないとか、戦争で明日の命もわからないとか、そういう時代でなければ。

 たぶん作品の中でむつまじく生きているすずさんと周作さんは夫婦になることはなく、水原さんとリンさんがそれぞれの伴侶になっていたかもしれない。

 そして、そうなったら、それはそれで、きっと相性の良い幸せな夫婦だっただろうと思います。

 作中の彼らは、それぞれに恋する人や友達に対して暖かく接し、自分の人生を誠実に生きている人たちですが、彼らはそれを「選んで生きた」わけではなかった、時代と戦争が彼らからその他の人生を無言で奪っていたのです。

 現代もせちがらく、先が見えず、快適にはほど遠い世の中だとは思いますが、それでも、彼らが生きていた環境よりは、平和であり、自由であり、そういった意味では、確かに今を生きているということは幸運なのだと、この一枚のほんわかと可愛らしいカードを見ながらしみじみと考えさせられました。




 しばらく記事更新の間隔が開いてしまっていましたが、これからはもう少しペースアップする予定です。よろしければまたお立ち寄りください。

 読んでくださってありがとうございました。
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2017年03月17日

(※ネタバレあり)「この世界の片隅に」映画で語られなかった場面(2) 雪に描かれた絵と、桜の花びらの舞い降りた紅


先日の記事に引き続き、映画「この世界の片隅に」では語られなかった、原作漫画のエピソードをご紹介させていただきます。(ややネタバレなのでご了承ください。)

1, 雪に描かれた南の島の絵

 主人公すずさんの夫、周作さんは、かつて娼婦のリンさんという女性を愛し、真剣に結婚を考えていましたが、おそらくは周囲の反対のために、それがかないませんでした。

 偶然リンさんと知り合ったすずさんは、さまざまなきっかけを経て、リンさんと周作さんがかつて愛し合っていたということに気づいてしまいます。

 すずさんはリンさんのとの過去を、周作さんに問いませんでしたが、自分はりんさんにの代用品のように嫁に来た女なのかという思いはつきまといました。

 それでも、家事をこなす日々や、初恋の男性で、今は海軍兵となった水原さんとの再会という出来事を経て、 自分の人生や、周作さんへの愛情を見つめなおしたすずさん。


 雪のつもったある日、すずさんは、リンドウの柄のお茶碗を持って、リンさんに会いに行きました。

 その美しいお茶碗は、周作さんがかつてリンさんにあげようと思って買ったものであり、すずさんが、周作さんとリンさんの過去に気づくきっかけとなった品でした。

 リンさんを探すすずさんに、リンさんはまだ、泊りの将校さんについている。赤毛の若い女性が、遊郭の窓のむこうから、そう教えてくれました。

 あどけなさの残る素朴な優しい表情で、ふるさとが南であることを感じさせる言葉遣い。

 しかし、その言葉が、ひどくせき込んで途切れたため、すずさんは、お茶碗に雪を盛って彼女に渡します。

 熱っぽい顔で微笑んで、雪を口にふくむ女性に、すずさんはそのまま茶碗を託すことにしました。

「リンさんによう似合うてじゃけえあげます、言うて伝えてください」

 様々な思いを自分なりに消化した様子で、すずさんは、お茶碗を差し出します。

 「よかよ!きれいかお茶碗たい」
 茶碗を受けとってくれた女性の細い両手首には、包帯が巻かれていました。

「好きっちゃ好き、知らんちゃ知らん人」だった若い水兵に手をくくられ、一緒に川に飛び込んだ。

 こともなげにそう話した女性。

 飛び込む前から、あんな小さな川で死ねるわけはないと、うすうすわかっていた。

 やっぱり自分もあの人も死ねなかった。もともと自分は、死にたかったわけでもない。ただ、
 「なんや切羽つまって気の毒やったと」

 せめて夏なら川の水も気持ちよかったのに、暖かな外地に渡ればよかった……。

 そんな話を聞き、すずさんは杖がわりに持ってきた竹槍で、雪に絵を描きました。

 椰子の木のある砂浜、そこをのんびりと歩くカニ。水平線の上の入道雲とカモメ、波間を跳ねるイルカ。

 「ああ!そげん感じ。そげん南の島がよか!」
 
この世界の片隅に 雪の上の絵.png

 さて、夜までに風邪を治さないと、と、気を取り直した女性。

 ほいじゃお大事に、と窓を閉めて立ち去るすずさんの背中越しに、まだ絵を見ている女性の、「よかねー」という楽しげな声が、聞こえてきました。



 雪道の南国の絵に下駄あとを少し残し、遊郭をあとにするすずさん。

 このカーテンの閉じられた建物のどこかで、まだ客とともに過ごしているリンさん。
 
 格子窓の向こうから、すずさんの絵を眺める、好きとも知らぬともつかない男と身をなげた赤毛の人。

 おそらくは売られ、それでも微笑んで日々ここで働いて生きる女性たち。

 (「すず、お前べっぴんになったで。」)

 初恋の水原さんにかけてもらった言葉。

 けれど、いまだに苦い。

「周作さん、うちは何ひとつ、リンさんにかなわん気がするよ」

 降る雪に目を上げ、すずさんはぽつりとつぶやきました。




2、桜の花びらの舞い降りた紅

 満開の桜の頃になり、すずさんは、周作さんと義実家の人々と一緒に、公園に花見に訪れました。

 春のはじめに呉にも空襲があり、誰の心にも、これが最後の花見になるかもしれないという思いがよぎるのか、いつもにもまして人の多い公園。

 周作さんたちと手分けをして場所を探していたすずさんの腕が、ふいと引かれました。

 「ひさしぶり、すずさん」

 リンさんが、立っていました。

 額脇の髪を一筋長くたらした日本髪、リンドウの柄の着物を、胸元をくつろげて着付け、良い帯と、華やかな帯留めで細く締めた立ち姿の、しっとりとした風情。 

 お客さんに連れられて、皆で遊びに来た。そう話してくれているのに、頭から爪先までつくづくと見とれているすずさんに、リンさんは「聞いとるん?」と、顔をのぞきこんできます。

 「あ、あの、うちも家族と来とるん」
 そう、言いかけましたが、リンさんと周作さんが再会したら……と、はっとしたすずさんの頭の中に、そのときの二人の様子がぐるぐると回り、どうしよう……、と、固まってしまいます。

 「すずさんも登って来…、ありゃ、また聞いとらん!」
 頭上から声がして振り向くと、すずさんがぐるぐるしていた間も、「この格好でも細袴を履いているから非常時も木登りも大丈夫」、と、おしゃべりしていたリンさんが、いつのまにか桜の枝に腰をかけていました。

 「お茶碗くれたんすずさんじゃろ、雪に描いた絵見てわかったわ。ありがとうね」

 らんまんと咲き誇り、ほのかなそよぎに花びらをたゆたわせる桜の上、リンさんは、やってきたすずさんに言いました。

 少し言葉を探した後、すずさんはおずおずと口を開きました。
 「お……夫が昔買うたお茶碗なん、あれ……なんかリンさんに似合う気がしたけえ……」

 そう言って、桜の枝ごしに、そっとリンさんの様子をうかがいましたが、白いうなじを見せてうつむくリンさんからは、何の言葉も返ってきません。

 「ほらー、知らん顔されたらいやじゃろ!?」
 にっこり笑って振り向いたリンさんが、ぽん!とすずさんの背中を叩きました。

 それで、それ以上この話をできなくなったすずさんは、お茶碗を預かってくれた、赤毛の女性はどうしているかを尋ねました。

 「ああ、テルちゃんね」

 テルちゃんは死んだよ、あの後肺炎を起こして。
 雪も解けんうちよ。
 ずーっと笑っとったよ。すずさんの絵を見て。

 そう言うと、リンさんは蓋つきの小さな器を取り出しました。
 「会えて良かった。すずさんこれ使うたって」

 テルちゃんの口紅。

 リンさんは、掌の器の紅を、薬指につけると、言葉を失っているすずさんの唇に、塗り始めました。

 皆言うとる、空襲に遭うたら、きれいな死体から早う片付けてもらえるそうな。
 いつのまにか死が珍しいものではなくなってしまった、この町の人々の噂話をして。

 「……ありがとう」
 脳裏に、瓦礫に押し潰され、野ざらしとなっていた人の背中がよぎり、すずさんは、そうつぶやいていました。
 でも、まだ、ほかに伝えたいこと、聞きたいことが、心のどこかをさ迷っている目をして。

 「ねえ、すずさん、人が死んだら、記憶も消えて無うなる」
 長いまつげをふせ、口紅を指でなぞるリンさん。

 「秘密も無かったことになる。」
 すずさんの唇にそっと押し当てられた、紅の染まった白い指。

 すずさんの瞳をのぞきこみ、リンさんは、穏やかに笑っていました。


この世界の片隅に 紅を塗るリンさん.png


 「それはそれでゼイタクなことかも知れんよ。自分専用のお茶碗と同じくらいにね」

 そして、ただ、すずさんの手に紅の器を置くと、リンさんは桜の木を降り、すずさんを見上げました。

「さて、もう、行かんと!逃げた思われるわい」

 すずさんは木の上から、ええ、またね、と、答えました。

 枝の影から垣間見える日本髪のリンさんの後ろ姿。

 開いた器の中の紅。

 病床でも、楽しそうに笑っていた、テルさんの顔。

さらさらと流れてゆく桜の花びら。

 すずさんの掌の紅。

 桜の枝の陰に、遠ざかりつつあったリンドウ柄のすその足元が、ふっと動きを止め。

 すぐそばに、ゲートルを巻いた男の足。

 二人の姿を覆って秘める、満開の桜の花。

 向かい合う足先から、二つ延びた人影。

 すずさんの掌の紅に、流れてきた花びら。

 こちらに向かってくる、男の足先。

 ひとひらの花びらが、紅の中心にふわりと舞い降り。
 
 すずさんは、音もなく漂う花びらの中、目を上げ。

 やがて包み込むように、紅の蓋を閉じました。

 桜を内に秘めたまま。
 


 「すずさん、そこにおったんか」

 周作さんがすずさんを見上げていました。

 友達を見つけたもので。

 そう、はぐれた理由を話したすずさん。

 やっぱり、みんな今生の別れかと思って花見にくるんかのう、と、桜を眺めながら歩き出した周作さん。

 「おかげでわしもさっき知り合いに会うた」

 笑うとったんで安心した。

 「……なんじゃ?」

 すずさんが、周作さんの顔を見つめていました。

 「……うちも、周作さんが笑っとって安心しました」

 そう言うすずさんの目も、やわらかに笑っていました。 



 周作さんが、リンさんを妻にするつもりで買ったお茶碗を、彼女に届けたすずさん。

 すずさんが周作さんの妻であることに、すでに気づいていたリンさん。

 リンさんはお茶碗を受けとりましたが、それ以上何も聞かず、何も話そうとせず、すずさんの唇に、紅を塗るしぐさで、指をあてました。

 人が死んだら記憶も消えて無うなる。
 秘密はなかったことになる。
 それはそれでゼイタクなことかもしれんよ。
 自分専用のお茶碗と同じくらいにね。

 好きだった人に真剣に好かれ、自分だけの物をその人が選んでくれていたこと。
 その記憶を自分だけのものとして、胸に秘めて生きて死んでいくこと。
 それで十分、贅沢だと感じられる。
 だから、好きだった人にも、その人の妻にも、もう、何も話さないし、求めない。
 でも、好きだった人の妻になった人が、自分も好きだと思える人で良かった。
 好きだった人のためにも。自分のためにも。
 
 いつ、町が焼かれるかもしれない時代、貧しさゆえに売られ、娼婦として生きる人生。

 同じ立場にいた人は、他人の死の不安によりそって、死にたいとも思わないうちに死んだ。

 そういう日々を送りながら、それでも、自分の人生を「居場所がある」と思って生きることのできるリンさんは、周作さんがお茶碗を贈りたいと思ってくれたこと、周作さんの妻であるすずさんが、そのお茶碗を届けてくれたことが、お茶碗そのもののように、美しくなめらかな、ぬくもりのあるものに思えたのでしょう。

 そして、すずさんは、周作さんとすずさんのこれからに立ち入ろうとしないリンさんの笑顔を見て、自分も周作さんとリンさんのこれまでを、ただ、二人の秘密として閉じ、それを懐に、周作さんを愛していこうと思えたのでしょう。

 セリフもなく、桜の上にいるすずさんの見つめるものだけで、すずさんが、胸に切なさを感じながらも、周作さんとリンさんの過去を受け入れていく心理を描いているシーンは特に印象的です。


この世界の片隅に 桜の舞い降りた紅.png


 周作さんとリンさんが互いに気づいた瞬間、二人がどんな表情をしたのか、何かを語ったのかは、満開の桜の枝に覆われ、すずさんの位置からは見えません。ただ、垣間見える二人の足元と影が、二人が向き合ったことをほのめかすだけです。

 二人を覆い隠した桜は、その美しさやはかなさとともに、この場面では周作さんとリンさんの「秘密」の象徴となり、すずさんは、行き遭った二人の姿を見ようとせず、逆に視線をあげて、桜の花びらという「秘密」が舞い降りた紅の蓋を、そのまま閉じて、「秘密」を封じ込めます。

 この仕草が、すずさんが二人の過去を「秘密」のまま、二人のどちらにも問わずに自分の心におさめるという思いを表しているのだと思われます。
(蓋を閉じるときの、包み込むような手の動きだけで、それが、自分は触れることができないけれど大切なものだと思っているすずさんの内面を描く、作者こうのさんの画力が見事です。)
 
 そして周作さんの「(リンさんが)笑っとったんで安心した」という言葉。

 リンさんの笑みは桜に隠され、すずさん同様、我々読者にも見えませんが、その笑顔は目に浮かぶような気がします。

 今も周作さんと、彼との思い出を愛し、そして周作さんの妻がすずさんだからこそ、リンさんは笑うことができたのでしょう。


 すずさんにとって、この紅に降りた、「秘密」を意味する桜の花びらは大切な意味を持っていたようで、すずさんはその後も、桜の花びらを収めたまま、その紅を使っています。

 この紅とはなびらは、この年の夏(1945年7月)、すずさんが機銃掃射に狙われたときに、初恋の人、水原さんにもらった水鳥の羽と共に、ずたずたに撃ち抜かれて失われます。

 これより前、すずさんは空襲で落ちた時限爆弾により、心身深く傷ついており、実家の広島に戻ることすら考えているのですが、ここで、羽と花びらの入った紅がすずさんから消えるという展開は、様々なことを読者に想像させます。

 すずさんは周作さんのもとを去る気持ちになっていましたが、この機銃掃射からすずさんを救ったのは、他ならぬ周作さんであり、二人それぞれの恋の過去が飛散する中、すずさんに覆い被さって彼女を守る周作さんの姿は、これより先、すずさんと共に生きていくのはこの人である。あるいは、すずさんにとって周作さんは諦められる人ではないという印象を読者に与えます。

 また一方で、紅と羽が銃弾に吹き飛ばされる姿は、この、呉への徹底的な攻撃があった時期に、水原さんとリンさんが命を落としたことを暗示しているのかもしれません。
(以後、二人は登場せず、水原さんの所属していた戦艦青葉と、リンさんのいた二葉館の戦後の姿が描かれるのみです。) 

 現実には銃弾によって失われてしまった紅でしたが、すずさんの心にはその存在が留まり、物語の後半部では、幻の中で、すずさんの手が、吹き飛ばされたはずの紅から、桜の花びらをそっとよけ、指に染めた紅で、リンさんの語ることのなかった幼い日からの人生、そして、周作さんとの「秘密」をついに描き出します。

 かすれた温かみのある線で描かれて、優しい風情がありますが、リンさんの苦労の多かった人生や、彼女のその後を暗示させる、胸に迫る場面です。

 こうしたリンさんとの関係は映画ではあまり描かれていませんが(紅で描かれた場面は、エンドロールで一部観ることができます。) 特に桜の木の上の場面は、前回ご紹介した、リンドウのお茶碗とノートの切れはしから、すずさんが真相に気づく場面と並んで、多くの感情を秘めながら、抑制で語られた圧巻の名場面だと思います。

(映画には映画の素晴らしさがあるのですが、本当にいい場面だと思うので、これだけ作品がヒットしたのだから、たとえばディスク発売の際に完全版ということで付け加えることはできないのかな……と考えてしまうほどに。)

 このほかあらゆる場面に情緒があり、漫画ならではの多彩な表現も読みごたえがあるので、是非原作もご覧になってください。

 読んでくださってありがとうございました。

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2017年01月31日

(※ネタバレあり)この世界の片隅に 映画で語られなかった場面(1)ノートの切れ端とリンドウのお茶碗

 アニメ映画「この世界の片隅に」が高い評価を受け(※)、各地で上演が拡大されているそうです。

 (同じくアニメ映画の「君の名は」が歴史的メガヒットを飛ばした中ですから、この地道な作りの戦争映画がここまで支持されているのは大変な偉業と言っていいのではないでしょうか。)

 (※)『キネマ旬報』2016年日本映画作品賞受賞
(参照:ハフィントンポスト記事 URL http://www.huffingtonpost.jp/2017/01/10/konosekai_n_14074146.html

 映画「この世界の片隅に」公式HP URL http://konosekai.jp/


 戦時中、広島から呉に嫁いだ、絵を描くほかは不器用だけれど、素直な人柄の女性、すずさん。彼女の夫になった周作さんや二人の家族、そして、すずさんの友人となった遊郭の女性リンさんたちの物語です。

 原作はこうの史代さんの同名漫画。

この世界の片隅に 上 (アクションコミックス) -
この世界の片隅に 上 (アクションコミックス) -

この世界の片隅に 中 (アクションコミックス) -
この世界の片隅に 中 (アクションコミックス) -

この世界の片隅に 下 (アクションコミックス) -
この世界の片隅に 下 (アクションコミックス) -

 戦争の被害のみを描くのではなく、当時の人々の暮らしが、こうのさん独特のぬくもりある絵柄で丁寧に描かれています。

 映画も、原作を丁寧に踏襲し、また、膨大な資料から、呉や広島の街並み、すずさんの故郷である江波の海辺の景色などが、さらに色彩豊かで広がりのある画面で再現されています。

 (観にいってきたのですが、映画の幕開け、柔らかい音楽とともに、この街並みと海の景色が姿を現したとき、もう、わけのわからない涙が目の奥にツンときました。ああ、きれいだな、と思い、たしかに人がここに暮らしていたんだなと思い、だけど、ここに爆弾は落ちたんだなと思ったのかもしれません。)

 ちなみに声優初挑戦というのんさん(能年玲奈さん)の声はおっとりとして可愛らしく、ちょっと天然なすずさんによく合っていました。(個人的には周作さんの声も、イメージまんまでびっくりしました。)

 原作ファンとしても、映画に感動しましたし、是非できるだけ多くの人に観ていただきたいと思います。
(色が付き、日々の暮らしにも爆撃にも音があり、等身大のように思わされる大画面だからこそ伝わる空気感がある。)

 ですが、一方で、色々な事情で映画では描かれなかった名場面が原作にあるので、今回から何回かに分けてその場面について書かせていただきます。

(注)かなりネタバレなので、先に原作をお読みの上、ご覧ください。この場面以外にも映画とは別の良さがあり、コマの隅々まで行き届いた傑作中の傑作です。

 漫画にあって、映画ではほとんど触れられていないもの、それは、遊郭の女性リンさんの存在です。



 すずさんは闇市に行った帰りに、遊郭が立ち並ぶ界隈に迷い込んでしまいます。

 お白粉の匂いのする女性たちの誰に聞いても道がわからず、途方に暮れてしゃがみこんで絵を描いていたすずさんを、店前の掃除に出てきた美しい女性、リンさんが助けてくれました。

すずさんとリンさん.png

 皆が道を知らないのは、よそからきた(売られた)後は、ここ(遊郭内)からめったに出ないから。リンさんにそう聞かされて、ようやく事情のわかったすずさんは、リンさんに頼まれ、彼女の好きな食べ物(アイスクリームや果物など)をお礼に描いてあげる約束をしました。

 ここまでが映画でも描かれている部分です。そして、ここからが原作にだけ存在するお話。

(※)以下ネタバレになります。

 客になりそうな男を追うために、絵を描いてもらう途中で、別れを告げたリンさん。

 すずさんは彼女にお礼をするため、後日、絵を仕上げてリンさんを訪ねていきます。

 スイカ、はっか糖、わらび餅、アイスクリーム。

 すずさんは描いた物に名前を書き添えていましたが、貧しさのため小学校を途中でやめたリンさんは、ほとんど字が読めませんでした。

 それじゃ、名札を書くのもヤネコイ(困る)でしょう、そう聞いたすずさんに、リンさんは、そりゃ大丈夫、と、胸元から首に下げた小さな袋を出して、中の紙切れを見せます。

 それは大学ノートの裏表紙の切れ端に書かれた、彼女の名前と住所。

リンさんの身許票.png

 「白木リン 二葉館従業員 呉市朝日町朝日遊郭内 A型』

 漢字一字一字に、丁寧にカタカナでフリガナをふってあるその紙をすずさんに見せ、「ええお客さんが書いてくれんさった、これ写しゃええん」と、リンさんは笑います。

 では、自分も自己紹介を、と、すずさんは、道に絵を描きます。
 「鳴くフクロウ(ホー)」「鍵(ジョー)」「鈴(スズ)」
 
 謎かけ絵をといたリンさんは、「ありがとうすずさん」と、貰った絵を嬉しそうに胸元の袋にしまいます。

 そんな彼女にふと打ち明け話をしたくなったすずさん。

 今日は、妊娠したかと思って病院にいった帰りだったのだけれど、ただ、栄養不足で月のものが止まっただけだった、と、つぶやきます。

 羨ましいわー、と、生理用品の不足をあっけらかんと嘆くリンさんに、たしかに……と口ごもったすずさんは、でも、周作さんも楽しみにしていたのに、と、やはりしょんぼりします。

 「……周作さん……?」

 夫です。

 それを聞いたあとの、リンさんのしばしの沈黙に、すずさんは気づきませんでした。

 やがて、口を開いたリンさん。

 産み、生まれれば、母にも子にも、人生ままならないことがある。そして子を産んで育てる以外にも、生きていく道はある。

 リンさんの、かすかに今までの人生を感じさせる言葉。

 「子供でも売られてもそれなりに生きとる。誰でも何かが足らんくらいで、この世界に居場所はそうそう無くなりゃせんよ。すずさん。」
 そう、リンさんは彼女を励まします。

リンさんの言葉.png

 この言葉は後々まですずさんの支えになりますが、深々と頭を下げて戻るすずさんを、笑って見送ったあと、リンさんはゆるくまとめた黒髪を風になびかせ、「いいお客さん」の描いた名札と、すずさんの絵の入った小さな袋を、そっと握りしめ、胸元に押し当てます。

 自分の心臓に言い聞かせるように。



 それから一月後、周作さんの伯母夫婦が、家の家財を空襲から守るために、すずさんたちの家を頼って尋ねてきます。

 伯母夫婦の家財をおさめるために、納屋を整理していたすずさんは、その片隅に、布にくるまれ無造作に転がされていたお茶碗を見つけます。

 リンドウの花が描かれたきれいなお茶碗。

 誰のものか、縁側で小休止していた、姑、義姉、伯母に聞いてもわからず、むしろ、すずさんのお嫁道具のひとつでは?と言われて、自分のぼんやりをはにかみ笑うすずさんを見て、周作さんの伯母は、すずさんは明るくてええ嫁じゃね、と、ほめたあと、こんな言葉を漏らします。

 「好き嫌いと、合う合わんは別じゃけえね、一時の気の迷いで、変な子に決めんでほんまに良かった」

 姑も、ふだん、すずさんにすかさず憎まれ口を言う義姉も、なぜか黙り込みます。

 しかし、すずさんはこの沈黙にも気づかず、照れながら、屋根に干した布団を裏返しに上がります。

 そこに周作さんがいました。

 自分の話をされていると気づいて、降りられなくなった。

 そう語る周作さんは、その茶碗がリンドウの柄であることを確かめると、それは嫁に来てくれる人にあげようと思って自分が買ったものだから、すずさんにやる、と、彼女の顔を見ずに言います。

 勿体ないみたいだからしまっておいていいですか?そう聞いたすずさんに、周作さんは、そうしてくれ、と、屋根の上に寝そべります。
 「どうも見るにたえん」



 それからしばらくしたある日、すずさんは義理の姪の晴美さんと一緒に、竹を切りに行きます。

 藪のすみにひっそりと咲いたリンドウを、きれいなねえ、と見とれながら、鉈で小枝を落とす、すずさん。

 リンさんの着物のすそにも、名前にちなんでか、リンドウの柄が咲いていたことを思い出します。

 そして、この間、周作さんからもらった、お茶碗にも。

 嫁に来てくれる人にやろうと思って、昔、買った。

 リンさんの懐に入っていた、「いいお客さん」がノートの切れ端に書いた彼女の名札。

 周作さんが忘れたノートを仕事場に届けに行った日、橋からの風景を見ながら、周作さんが言っていたこと。

 「過ぎたこと、選ばんかった道」

 身を起こし、カバンからノートを取り出す、若い男の背中。

 彼のぬくもりが残る床の中で肘をつき、そのしぐさを淡く微笑んで見つめるリンさん。

 ノートの裏表紙に、何かを書こうとして止まった手が、きつく鉛筆をにぎりしめ、毛入りの紙に、字より先に、ぽつりと落ちた、涙。

 「みな、醒めた夢と変わりやせんな」

 橋のたもとに足をかけ、そう言っていたときの周作さんの、少し遠い目。

 晴美さんが手をのばすと、ふっと空へ飛び去って行くとんぼ。

 『白木リン 二葉館従業員 呉市朝日町朝日遊郭内 A型』
 
 リンさんの手元にのこされた、ノートの裏表紙のきれはし。

 すずさんの、竹を切る手が止まります。

 ばらばらの記憶が一つになり、現れた、事実の姿。

 家に戻り、そっと、周作さんの机の引き出しをあけると、中にあったのは、すずさんが周作さんにとどけたあのノート。

 裏表紙の片隅の、切り取られた。

周作さんのノート.png

 すずさんは、ノートを手に、ぼうぜんと立ちすくみました。



 「…………そりゃあ、もともと知らん人じゃし、四つも上じゃし、色々あってもおかしゅうない。ほいでもなんで、知らんでええことかどうかは、知ってしまうまで判らんのかね」

 自分は周作さんを好きで、周作さんはすずさんを大切にしてしてくれ、過去はもう取り返しがつかない。

 わかっていても、苦い。リンさんの美しさや人柄を知っているから、なおさら。



 ……これが、映画では語られることのなかった場面の一つです。

 この場面では「絵」と「コマ割り」という、漫画の表現形式の特色を活かし、縦横に12等分に配置された正方形の中で、「すずさんが見た周作さんとリンさんの回想」、「すずさんは見ていないけれど想像しうる過去の出来事」に挟まれる形で、「現在労働をするすずさん」の姿が展開していきます。

この世界の片隅に りんどうのお茶碗.png

 そして、すずさんが、ノートの裏表紙に身許票が書かれたときを想像し、ノートの切れ端に書かれたリンさんの身許票と、周作さんのノートの欠けが指し示す事実に気づいた瞬間。

この世界の片隅に 身許表.png

 横に三分割されたコマに描かれた「涙の落ちたノートの裏表紙(想像しうる過去)」、「飛び去るとんぼ(現在〈そして掴めなかった過去の隠喩〉)」、「リンさんの身許票(回想)」が、横長ひとつのコマの中の、手を止め、眼を見開いたすずさんの姿に収束します。

 日本の漫画は、コマ割りの仕方によって、原則右から左、上から下に展開し、どちらに読み進めるべきかは、コマ割りの大小や配置によって作者によって誘導されますが、このシーンでは、コマを均等に割ることで、意図的にその誘導があいまいなものにされており、さらに、どう読み進めるかがはっきりしないために、読者の視点がコマだけでなく、ページ全体に広がっていく構成になっています。

 一場面を例にとると、

 (右から左に読み進めた場合)

りんどうの茶碗 横.png

 「リンドウのお茶碗」→「竹を切るすずさん」→「身許票を懐から出すリンさん」、



 (上から下に読み進めた場合)

りんどうのお茶碗 縦4コマ.png
 「リンドウのお茶碗」
   ↓
 「茶碗を未来の妻のために真面目な顔で手にする周作さん」
   ↓
 「すずさんが持ってきたノートを笑顔でカバンにしまう周作さん(橋のたもとで周作さんがつぶやいた「過ぎたこと」というセリフが重なる)」
   ↓
 「屋根の上に寝そべっていた真顔で空を見ていた周作さん」

(ページ全体の印象)
 「(右端縦4コマ)周作さん」「(中央縦4コマ)すずさん」「(左端4コマ)リンさん」
 (つながりあった三人の関係性)

 ……という印象を与える画面構成になっています。

 しかも、この均等なコマ割り、上記のような効果を含みつつ、同時に、どう読み進めるべきかがあいまいであるために、「働きながら、リンドウをきっかけに、とりとめなく回想や想像をしている」というすずさんの思考の流れのあいまいさや、「もはや未来へ積み重なることはできずに、リンさんと周作さんの過去は、ただ、過去として、つかみどころなくたゆたっている」といった空気感も醸しています。

 そしてそれゆえに、際立つ、すずさんが二人の過去に気づいた時の表情(上3コマを明確に受け止めて広がる横長のコマ)への動き。

二人の過去に気づいたすずさん.png

 あいまいにさまよっていた読者の視点がこのコマに着地するという流れと、回想や想像が過去を浮かび上がらせるというすずさんの思考の流れが一致して、読者にすずさんの動揺を追体験させる構成になっています。

 この作品には、数々の名場面がありますが、漫画という表現形式を極限まで活かしたという点では、この見開きの二ページが圧巻だと思います。

 そして内容それ自体も印象的です。

 リンさんは「ええお客さんが書いてくれんさった」と、さらりと見せている身許票。

 周作さんがそれを書いているとき、どんな思いだったか。

 『二葉館従業員 呉市朝日町朝日遊郭内』

 そう記したとき、周作さんは、リンさんを妻にして、ともに暮らすことができないという失恋の痛みと、貧しさゆえに売られ、娼婦となった彼女を、愛する人を、遊郭から連れ出すことができないという、二重の無念を抱えていたことでしょう。

 彼を責めることなく、ただ微笑んで、身許票を書く周作さんを見つめているリンさん。

 しかし、ただ、きっと周作さんの若い熱情が周囲の人間から許されることはないだろうと、諦めていただけではなく、彼女もまた、そういう周作さんを愛していたことは、すずさんを見送った後、身許票をじっとにぎりしめるしぐさにあらわれています。

リンさん.png

 映画ではほとんど描かれることのなかった要素(※)ですが、この漫画を傑作とした重要な場面のひとつなので、是非原作も改めてご鑑賞いただきたいと思います。

(※)映画でも周作さんのノートの裏表紙が欠けていることと、リンさんの幼い頃から娼婦としての生活が描かれています(後者はエンドロールの一部として展開)。

 おそらくは「娼婦であるために、周囲に反対されて周作さんの妻になれなかった」という要素が、青少年向けでなかったために削らざるをえなかったのでしょうが、映画としてのわかりやすさを犠牲にしても、これらを盛り込んだことに、原作と原作ファンに対する誠意を感じました。リンさんの登場シーンが少ないのは残念ですが、こういう誠実さが作品作りの根底にあるからこそ、映画もまた、これほど多くの人の心をゆさぶったのだと思います。

 次回も、この漫画の重要な場面について、ご紹介させていただく予定ですので、よろしければまたご覧ください。

 読んでくださってありがとうございました。


posted by Palum. at 21:40| おすすめ漫画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年12月02日

おすすめ漫画『ごはんのおとも』(たな 作)ご紹介その2


前回、食べ物とそれを食べる人々の日常を描いた漫画『ごはんのおとも』についてご紹介させていただきました。

ごはんのおとも -
ごはんのおとも -

ごはんのおとも 2 -
ごはんのおとも 2 -
前回は一話ずつ単独で読んだときの見どころについて触れましたが、今回はこの本の最大の特色「一冊読みとおしたときに良さが増す仕掛け」についてご紹介させていただきます。
※ややネタバレなのであらかじめご了承ください。

前回記事「おススメ漫画『ごはんのおとも』(たな 作)ご紹介1はコチラ



 各巻第一話が試し読みができるページはコチラです。
http://j-nbooks.jp/comic/original.php?oKey=20&iKey=123(第一巻)
http://j-nbooks.jp/comic/original.php?oKey=20&iKey=585(第二巻)
 
仕掛け1 繰り返し現れる登場人物たちと情景

 この作品、一話ごとに短編として起承転結があるのですが、そこに出てきた人たちが、別の話で主人公になったり、逆に通りすがりだったりと、何度も姿を現します。

 そして、ときに、同じ出来事が別の人物の視点から、改めて描かれたりします。

(例)一巻第一話「きみとの出会いは」内、主人公タブチ君がコンビニで女の子と言葉を交わす場面

ごはんのおとも1.png

 ここで、タブチ君と話した女の子マイちゃんは、二話目「騒がしいことのは」の主人公として登場します。
 そして、二人が出くわす場面が、今度はマイちゃんの視点から描かれます。
(例)上のお菓子のカットが、同じ瞬間であることをさりげなく示しています。

ごはんのおとも2.png

 心理学では「単純接触効果」と呼ばれる、繰り返し接すると次第にその人に好感を持つようになる現象があるそうですが、この仕掛けによって、読者は、「あ、タブチ君。あ、マイちゃんあのときの女の子だったんか(確かにグリーンのカーディガン着てるわ)」と二人を二度見かけた気になり、彼らに対し、一話完結のキャラとは異なる印象がついていきます。

 さらに、この、繰り返しの登場は、リレーのように他のキャラクターにも広がっていきます。

(例)二話目、「騒がしいことのは」でマイちゃんのバイト先に顔を出しているお得意さんの青年。この後「一膳分のあまやかし」の主人公として登場、二話ではナイショだった事実も出てきます(笑)。

 ごはんのおとも4.png

 この、「別の話の脇役が、後で主人公になる」という仕掛けが一番活きていたのが、一話目でタブチ君の上司として登場したトウドウさんのが主役の回「ずうっと」。

 第一話にトウドウさんがタブチ君にお土産買ってきてくれる場面などがあり、面倒見のいい優しい人だというイメージがもうついていたから、本人が主役の回が染みました。

 トウドウさん
ごはんのおとも8.png

 逆に、前の回で主人公だった人が、別の話でエキストラ的に出てくるシーンもあるのですが、こういうところでは、その人の人間関係や状況が、進展しているのが垣間見えてこれまた面白い。

 こういうとおりすがり的な使い方は、特に漫画の長所を活かしていると思いました。

「すぐ見直せる(映像だと『録って巻き戻して』という作業が必要)」
「気づいても気づかなくても本編の理解には支障がないくらいさりげなく存在を見せられる(文章だと、たとえば通りすがりのあの人は実はマイちゃんだ、とわからせるために、本編の展開に関係無い描写をある程度書き込まなければいけない)」
というのは漫画ならではだと思います。

 各巻最終話でそれまでの登場人物たちが集合し、皆さんそれぞれの物語を経て、自分や周りの人との関係がどう変化したかがほのめかされています。これもなんとなく、いままでそっと見守っていた先を見るような心地がしてほほえましい。

 仕掛け2 ページの隅から隅まで行き届いた描写

 登場人物や場面だけではなく、ページの使い方にも、「短編集でありながら、連続性がある」と感じさせる工夫がなされています。

 小学生すずちゃんがとても美味しそうに給食をほおばっているという可愛らしい幕開けが目次の見開きページへとつながってゆき(その見開きページは目次と同時に、物語の一部でもある)、さらに、この幕開けのお話が、短編と短編の間に挟まる見返しのページで、さりげなく続いてゆきます。
目次
ごはんのおとも5.png

見返しのページ
ごはんのおとも6.png

 そして、みんなが集合している最終話「ごはんのあいず」の回で、再び見開きページ、キャラクターたちに重なるように、著者たなさんをはじめとする、出版社や製作者の情報が映画のエンドロールのように出て、おしまい……。

 ……最近の映画ってエンドロールの最後の最後に素敵なオマケがついていますよね……。

 と、いうわけで、最後の一ページまで、きっちりめくってください!すごく良かったし、そこが二巻で屈指の名作への幕開けへと続いていきます。

 正直、一巻が一冊の本としてあまりにもきれいにまとまっていたので、これで完結なのではと思っていたのですが、二巻も勝るとも劣らない魅力があります。というか二巻を読んで、ますますこの仕掛けにハマり、さらにこの人たちのことが好きになってしまいました。

 丁寧に創り上げられた素晴らしい名作、本当におススメなのでご覧になってみてください。

 読んでくださってありがとうございました。


 参照:日経トレンディネット「ヒットの芽」「“たまごの黄身のしょうゆづけ×独身男子”などレシピを描いた漫画が売れている」(2015年04月27日)
http://trendy.nikkeibp.co.jp/article/column/20150424/1064009/?rt=nocnt
※実業之日本社の編集さんが、この本が出来上がるまでの経緯や、工夫について丁寧に説明してくださっています。
posted by Palum. at 23:34| おすすめ漫画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年12月01日

おすすめ漫画「ごはんのおとも」(たな 作)ご紹介1

最近「孤独のグルメ」をはじめとして、食にまつわる面白いマンガが、数多く発表されています。

そのひとつが、「ごはんのおとも」。

ごはんのおとも -
ごはんのおとも -

少し懐かしい風情を漂わせる町に住む人々と、彼らが集うお店を、食べ物と共に描いた作品です。

 最近この作品の第二巻が発売され、相変わらずの見事な面白さだったので、ご購入を考えている方のために、一巻について少し書かせていただきます。

ごはんのおとも 2 -
ごはんのおとも 2 -
 各巻第一話が試し読みができるページはコチラです。
http://j-nbooks.jp/comic/original.php?oKey=20&iKey=123(第一巻)
http://j-nbooks.jp/comic/original.php?oKey=20&iKey=585(第二巻)
 
 第一巻の一話目は、ぽっちゃり青年タブチ君のマイペースな日常が、コンビニでの「ある出会い」によって変化する、というお話です。

 このお話でタブチ君の職場の人々や、行きつけのカフェ、飲み屋の店主と常連たちが登場していますが、実はこの人たち全員、後で何度も作品内に姿を現します。(とおりすがりだったり、別の作品の主人公だったり。)

 一話ごとにしゃれて温かみのある起承転結がついていて、素朴なごはんのおともメニューとそれを食べながら日常のこもごもを生きる人々の姿にほのぼのしたり、しんみりしたりできます。オールカラーでノスタルジックな色使いと、すみずみまで工夫を凝らしたページも美しい。

ちなみに、登場する料理とレシピそのものはとてもシンプルなのですが、アレンジが載っているところが便利です。
(この後、セロリとじゃこの炒め物&ツナとひじきの煮物が我が家の定番になりました。あとなめたけのアレンジレシピでパスタにのせるというのがあり、美味しかったです。)

 本当に全話外れ無しなのですが、個人的に一冊目の好きなお話を少しだけ並べさせていただきます。

・「たったひとこと」
 昆布が大好きという渋い味覚の幼稚園児アキちゃんのお話。

 その味覚がきっかけで、誤解とはいえ女心を傷つけられ、行きつけ(お母さん同行)の「カフェ・ノンブル」の店主ノブさん(オネエ男子)に、そのことを打ち明けに行きます。 

・「魔法みたいに」
 路地裏の小さな料理屋「ひとくちや」が舞台。

 お客さんたちがその日食べたいものを、魔法のようにさりげなく出してくれる不思議な店主クマさんの少年時代のお話。


・「ずうっと」
 「ひとくちや」の常連のひとり、トウドウさん(第一話タブチ君の上司)のお話。
 タッパーの片隅に残る、冷凍したきんぴらごぼうを、ただじっと見つめている理由とは……。
 
 登場する人みんな魅力的なのですが、もの柔らかなオネエ男子のカフェ店主ノブさんと、アキちゃんの関係がイチオシ。
(「アキ」「ノブ」と名前で呼び合い、アキちゃんが相談事をしたり、それを受けたノブさんがアキちゃんを子供扱いせずに丁寧に接しているところがイイ。)

 アキちゃんとノブさん。

ごはんのおとも7.png


(ちなみにカフェの名前は「カフェ・ノンブル(※)」、「ひとくちや」と並んで町の人々の憩いの場)
 (※)「nombre」フランス語で「ページ番号(をうつ)」という意味と、ノブさんの名前をかけている模様。

 このように、各話独立した短編集として読んでも十分楽しめる作品です。

 しかし、この作品は丸一冊読みとおしたときに魅力が増す仕掛けが隠されています。

 次回記事では、この作品の「一冊読み通し、読み返したときに気づく愉しみ」について、ご紹介させていただきます。

 読んでくださってありがとうございました。

posted by Palum. at 22:55| おすすめ漫画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年09月03日

『ダメな自分を認めたら部屋がきれいになりました』(わたなべぽんさん作 お片付けコミックエッセイ)


 先日より、当ブログのわたなべぽんさん最新作「やめてみた」ご紹介記事に多くのアクセスをいただきました。

やめてみた。 本当に必要なものが見えてくる暮らし方・考え方 -
やめてみた。 本当に必要なものが見えてくる暮らし方・考え方 -


(当ブログ前代未聞のアクセス数だったんで、正直何事かと思いました。9月1日にモーニングショー(※)で紹介されていたみたいですね。観たかったな……。)

(※)参照:価格.com HP内「テレビ紹介情報」
「「羽鳥慎一モーニングショー」 2016年9月1日(木)放送内容」

http://kakaku.com/tv/channel=10/programID=59158/episodeID=990930/

 読むと気持ちがすっきりする、すてきな本です。

 おかげさまで、ぽんさんも脱却したゴシップネット閲覧については、この本を読んだことをきっかけに私も禁閲覧を継続できています。(お世話になってまっス!!)

 アクセス御礼として、本日はぽんさんのお掃除本「ダメな自分を認めたら部屋がきれいになりました」を一部ご紹介させていただきます。

ダメな自分を認めたら、部屋がキレイになりました (メディアファクトリーのコミックエッセイ) -
ダメな自分を認めたら、部屋がキレイになりました (メディアファクトリーのコミックエッセイ) -

 実は結構「にぎやかな部屋(ぽんさんお友達談)」にお住まいだったぽんさん、ある出来事をきっかけにお掃除に挑みますが、約半年にわたる挑戦の中で、お掃除をはじめたときには思いもよらなかった発見をし、心境にも変化が起きます。

 ぽんさん作品の魅力である、「人を謙虚に見習い、コツコツ地道に頑張る日々を通じて、それまでとは違う新しい自分と暮らしにたどりつく」という過程が、この本でも丁寧に描かれています。

(メソッドはベーシックなのですが、この心理描写があるから、まず、チャレンジ前のぽんさんに「あーわかるわかる」と共感し、努力の果ての成果と気持ちの変化を読んで「自分もこのすがすがしい気持ちになってみたい」みたいな感じで、チャレンジしたくなるんです。)
部屋がきれいになりました1.png

 「スリ真似ダイエット(スリム美人の生活習慣や食生活を真似るダイエット)」シリーズで計35kgのダイエットに成功したことで注目をあつめたぽんさんでしたが、これはそのダイエットをはじめる前のお話。

スリム美人の生活習慣を真似したら 1年間で30キロ痩せました (メディアファクトリーのコミックエッセイ) -
スリム美人の生活習慣を真似したら 1年間で30キロ痩せました (メディアファクトリーのコミックエッセイ) -

もっと! スリム美人の生活習慣を真似したら リバウンドしないでさらに5キロ痩せました (メディアファクトリーのコミックエッセイ) -
もっと! スリム美人の生活習慣を真似したら リバウンドしないでさらに5キロ痩せました (メディアファクトリーのコミックエッセイ) -

スリム美人の生活習慣を真似して痩せるノート術 (メディアファクトリーのコミックエッセイ) -
スリム美人の生活習慣を真似して痩せるノート術 (メディアファクトリーのコミックエッセイ) -

 今は見事スリム美人になって、美と暮らしに磨きをかけているぽんさん。

 すべてはこのお掃除チャレンジからはじまりました。
(ちなみにダイエット成功の前に大掃除をしていたというケースは結構あるみたいです。どうも、掃除はメンタルに強く作用するみたいですね。)

 自分の話になってしまいますが、僕は結構な掃除下手なもんで、掃除・片付け本は相当読み漁っています。

 ダイエットや勉強法と同じで、読んでいてしっくりくるもの、そうでないものがある中、ぽんさんの本は、「体験談を通じて掃除したい人の心を整えてくれる部門」では、一番自分に合っていました。
(掃除・片付け本については、本によって色々アプローチがあってそれぞれ面白さが異なっていたので、機会があれば、ほかの名著もご紹介させていただきたいと思います。〈ちなみに、アレコレ読んだ成果ですが、「相変わらず散らかしの達人だが、一応人並みの部屋」くらいにはなっています。今のトコロは。〉)

 以下、個人的に見所だと思った部分をいくつかご紹介させていただきます。(一部ネタバレがありますのであらかじめご了承ください)

1,ブラックライト事件(お掃除チャレンジ開始のきっかけ)

 「スリ真似」開始のきっかけは、腰かけた際に便座を割ったことだったそうですが、お掃除開始のきっかけも結構パンチがきいています。

 ぽんさんと夫さんがご友人と一緒にカラオケに行き、ブラックライト(人工的な紫外線、白い部分だけ光らせるという特性があるので、暗い部屋での照明に使われる)のある部屋に入ったところ、ぽんさんご夫妻だけ、服から髪から肌から、とにかく全身が細かに光り輝いてしまい、光源が二人に付着した家のほこりであることに気づいたぽんさんは、一生懸命はたきながら、「なんだろね」と、しらばっくれましたが、もはや歌どころではなかった……という一件がきっかけだったそうです。

 原因に気づいていない夫さんの無邪気な反応とのギャップが哀しい。

部屋がきれいになりました2.png

 子供の頃から片付け、掃除が苦手で苦労していらしたぽんさん、それでいいとは思っていたわけじゃないけど、頑張っても何度もリバウンドしてしまうから、きっかけがつかめなくなってしまった……という状況だったようですが、夫さんともども全身光り輝いてしまったせいで、「相当恥ずかしい」と、外部の目を意識して、ついに決意が固まるという過程が描かれています。

(ちなみに、汚部屋描写として一番ショッキングだったのは、「床につまようじが落ちていて、ぽんさんの足の小指を貫通した」というエピソードでした。)

2、物を減らすまで

 「ブラックライト事件」の翌日、一生懸命掃除機をかけて、安心していたぽんさんでしたが、その後、必要なものがすぐ見つからない、収納場所から物が出せない(入りきらない物たちが周辺に砦を築いているから近寄れない)という事態に見舞われ、「ほこりをとる」から、「物を減らす」という作業にシフトチェンジします。

 この作業中、レシピ本やエクササイズ関連の品、英語のテキストなど、買ったっきり手をつけていないものがあまりにも多くて愕然とするという場面があります。

 「なぜこれらを収納に困るほど買ってしまったのか」「買ったのに手をつけないのか」という二点についてぽんさんが自分の深層心理を分析し、やがて「高額のほぼ新品」であるそれらの品々をどうすることにしたのかが、葛藤とともにこまやかに描かれており、個人的にはこの作品一番の見所だと思います。(あまりにも自分にあてはまったから余計。)

 「無理に収納するより、物を減らした方が良い」というのは、ぽんさんの本以外でも、昨今の多くの掃除、片付け本で提唱されているところであり、実際、掃除が苦手な人ほど、物が多いと混乱し、管理しきれなくなるので(例、僕)、その意見はまったく理にかなっていると思いますが、そもそもなぜ買いすぎ、なぜやらなかったのかを自分で見極められないうちに、とにかくジャマだから、と、無理に捨てても、その心理の落とし穴は依然残っているわけですから、のど元過ぎれば、また、別の物を増やしてしまう可能性があります。

 物を買ってしまったのはどういう気分のときだったのかを思い出し、購入後すぐに「使うかどうかわからないけど持っているだけで安心するもの」と化したそれらの物が、本当に自分の実になったのかをよく考えてから、その物たちをどうするか決める、という過程を経て、ようやく、むやみやたらと物を増やさない自分になれる、ということが、ぽんさんの自己分析を通じて描かれています。

 ぽんさんが具体的にどんなふうに考えをまとめていくかについては、是非直接本をお読みになってください。名台詞の連続で、もう共感しか無い。でも、物を増やしちゃう心理はそっくりそのまま体験していたけど、こんなふうにきちんと結論を出せたことはなかったので、読んでいて自分の気持ちも整理される心地がしました。

 魂に突き刺さる名セリフの一つ
「捨てちゃったら、“なりたい自分”をあきらめることになっちゃう気もするし……って夢はあきらめたくないのに、ものだけ買って努力しないなんて、ムジュンしてるよね(どーしたかったんだわたし……)」
部屋がきれいになりました3.png

 私のような、なんか頑張るつもりで物を買うだけ買ってやらずに地層が発生してゆくタイプの散らかし人には、ものすごく響くシーンです。

 片づける人の心理ばかりでなく、物の処分の目安や、棚やタンスの収納例など、掃除をする際の具体的なお手本にできる情報もすっきりと可愛い絵でくわしく説明されています。

 食料品の処分をためらうぽんさんに、夫さんが友人から聞いたという食品放置の恐怖を語る一コマ(なぜか稲川淳二風〈笑〉)パスタの袋をほったらかしていたら、夜中にアノ虫が群がって端をジワジワと削り取っていたという話

部屋がきれいになりました4.png


3、成果

 本の最後に、お掃除後のぽんさん宅の写真が登場します。

 スッキリとした部屋に、木目の家具や籠収納、植物の緑がぬくもりを添え、機能的な中にも暮らしの息遣いが感じられる居心地のよさそうな仕上がり。さすがセンスが素敵です。ご注目ください。


 
 ぽんさん作品については、現在書かれているポイントを読みながら頑張っている最中なので(さしあたり減酒が目標)、いずれまた一部をご紹介させていただくこと思います。よろしければ見にいらしてください。

 読んでくださってありがとうございました。
posted by Palum. at 22:32| おすすめ漫画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年09月01日

おススメです!『築地はらぺこ回遊記』『築地まんぷく回遊記』(おざわゆき・渡邊博光 作 コミックエッセイ)


すみません、今日は「人間失格」について書かせていただく予定だったのですが、8月31日に築地移転延期(新たな移転時期は来年2月以降予定)が決定されたので、すごく好きな漫画をご紹介させていただきます。

(参照:Yahooニュース築地市場の豊洲移転延期=新時期は来年2月以降―安全性懸念、小池都知事が表明
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160831-00000056-jij-pol

(人間失格については明後日以降で早めに書かせていただく予定です。明日夜はドラえもんの9月3日のお祝い記事とさせていただく予定です。〈最近の話題のテンションの乱高下なんなんだ〉)

『築地はらぺこ回遊記』、『築地まんぷく回遊記』


築地はらぺこ回遊記 -
築地はらぺこ回遊記 -
※こちらは紙書籍のみ、もう持ってるけど持ち歩きたいから電子書籍版も出していただきたい……。


築地まんぷく回遊記 -
築地まんぷく回遊記 -

 漫画家のおざわゆきさんと相方ダンナ様でマンガ内ではコラムご担当の渡邊博光さんによる築地食べ歩きコミックエッセイです。

 なお、おざわゆきさんはご両親それぞれの第二次世界大戦下の体験をもとにして書かれた「あとかたの街」「凍りの掌」で2015年日本漫画家協会賞大賞(コミック部門)を受賞されています。
(どちらも名作でした。いずれご紹介させていただきたいと思います。)


あとかたの街(1) (BE・LOVEコミックス) -
あとかたの街(1) (BE・LOVEコミックス) -

凍りの掌 シベリア抑留記(1) (BE・LOVEコミックス) -
凍りの掌 シベリア抑留記(1) (BE・LOVEコミックス) -

(参照:「漫画だから描ける戦争 おざわゆきさん『あとかたの街』『凍りの掌』」産経ニュースhttp://www.sankei.com/premium/news/150719/prm1507190024-n1.html


 個人的な話になってしまいますが、ただいまダイエット中の私は、満たされぬ心ゆえか昨今グルメ漫画をこよなく愛読しています。

 その中でもこの2冊は、自分の中でお宝本。とてもとても美味しそうで楽しそうです。

 これ読んだのがきっかけで初めて築地に行き、歴史の趣を感じさせながらも、今も大現役で人々の胃袋を満たし続ける町の、お店とお客さんがひしめく活気に、足を踏み入れるや否や、「たーのしー!!アハハハハ!!」とブッ壊れました。別に無理に食べ続けなくても、歩くだけで異様にテンション上がる。

 以下、漫画のおススメポイントです。

1、ごちそう描写

 全ページカラー、人はかわいらしい感じにデフォルメされていますが、料理は質感たっぷりに非常に丁寧に描かれています。リアルなだけでなくどこか温かみがある色づかいも魅力。ページ三分の一くらいを占めてドドーン!!と登場する料理の悩殺度は、過去様々観たグルメ漫画の中でも屈指です。

 『まんぷく回遊記』内、築地場内の有名店「八千代」さんのアジフライのご雄姿。
築地まんぷく回遊記1.png


 ※アジフライ・牛丼等、築地の名物料理のいくつかについては、『はらぺこ回遊記』のほうで、渡邊さん執念の名店食べ比べコラム「築地回遊ガイド」が楽しめます。

『まんぷく回遊記』内「魚竹」さんの清楚なぬた達。

築地まんぷく回遊記2.png


2、多様なお店情報

 築地と言えば、特に観光客をくぎ付けにする寿司、海鮮丼、または市場で働く男たちの胃袋を満たすガッツリボリューミーな料理が有名ですが、移転にともない、築地大特集があちこちで組まれるはるか以前から、依頼された取材ではなく本気で築地好きなお二人(特に渡邊さんは、おざわさんに「築地がアイドルなら(渡邊さんは)ストーカー」と形容されるほどに築地を追い続ける生き字引〈以前嵐の番組「イチゲンさん」でも名店紹介をなさっていました。〉)が、足と舌で集めた築地情報が載っているため、海の幸もガッツリもしっかり網羅しつつ、さらに多様なお店が紹介されていて、築地の奥深さを知ることができます。

 例、「パン工房・ル・パン」さん(『まんぷく回遊記』)や、ナポリタンが一躍有名となった「フォーシーズン」さん(おざわさんいわく本当に涙するほど美味しいらしい。)(『はらぺこ回遊記』)などなど。


 非常に可愛らしい「角山本店」さんの「細工麩」(季節ごとにデザインが変わる手作りの品だそうです。)

築地まんぷく回遊記3.png

 ※渡邊さんいわく、自殺行為に近い「年末鬼混みの築地訪問」でも比較的落ち着いて買い物できるお店、とのこと。(注、漫画内でも言及されていますが、店間の移動は「鬼混み」をかき分けて行くことになります。)


3、相方同士の飲み食べ歩き

 おざわさんが女性担当者の方たちと行く食べ歩きもほほえましい(あと、慣れない人が築地をあるくときの気構え〈服装とか、プロが行き交い慌ただしい場内通りを歩くときの目配りとかがよくわかる〉)ですが、なんといってもうらやましいのは、おざわさんと渡邊さんの夫婦食べ歩きです。

 場内では動きやすいようにカジュアル、混雑時間を過ぎた場外は粋に着物で繰り出して、二人が趣味の築地歩き時間と美味しい食べ物を共有している様子は実に楽しそうです。これはまさに相方・つれあいですね。

蕎麦屋「長生庵」さんにて

築地まんぷく回遊記5.png

多け乃食堂」さんにて
築地まんぷく回遊記4.png


 以上、ちょっと駆け足になってしまいましたが、二冊の超おすすめ漫画でした。食べ物描写が素晴らしいので読み物としても楽しめますし、移転が実現しても残留が決まっている場外(※)の情報が数多く載っていますので、ガイドブックとしても依然役立つ作品だと思います。


(参照:「これからの築地」築地場外HP http://www.tsukiji.or.jp/related/future/

 是非お手にとってみてください。

 読んでくださってありがとうございました。

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2016年08月01日

「弟の夫」(漫画)Kindle(電子書籍)セール実施中

昨日のこうの史代さんに引き続き、おすすめ漫画のKindle版セール情報をお届けいたします。

「弟の夫」(田亀源五郎)

弟の夫(1) (アクションコミックス(月刊アクション)) -
弟の夫(1) (アクションコミックス(月刊アクション)) -

弟の夫 : 2 (アクションコミックス) -
弟の夫 : 2 (アクションコミックス) -
小学生の娘と二人で暮らす男のもとに、彼の弟が同性婚したカナダ人の夫が訪ねてくるというお話です。

急逝した双子の弟が男性と結婚していたという事実と、その夫マイクのセクシュアリティをすんなりとは受け入れられない男弥一のとまどいと、父の気持ちをよそに、優しいマイクとすぐに意気投合する娘夏菜。
そして、亡き夫との約束を果たしに日本に来たというマイクの三人での生活が描かれています。

ゲイであるがために、いやおうなく直面させられる社会の偏見や、家族との関係とともに、弥一のように、ゲイを差別する気は無いけれど、身内となるとどう接していいのかわからないという人の心理が、非常に丁寧に描かれています。

同性愛というテーマを直接集中的に描くのではなく、それを、弥一と夏菜の家庭の事情や、大切な人との死別という、セクシャルマイノリティではない人も体験しうる出来事と併せて描いている点も特徴的です。

同性愛について理解を深めるきっかけとしては勿論、ただ、さまざまに痛みを秘め、しかし絆のある一家庭の日常の物語として、とてもオススメしたい作品です。

双葉社の第一話ためし読みページはコチラです。

以下、見所をすこしご紹介させていただきます。
1、マイクの人柄と表情。

夏菜ちゃんが「サンタさんみたい」と一目で気に入ったとおり、暖かさと包容力が全身からにじみ出ています。(一方、さすが作者がゲイアートの巨匠、なんだかものすごく質感と説得力のある肉体の持ち主なんで、一読目はシャワーシーンなんか出てくると妙に焦ってしまいましたが。)

愛する人を亡くし、悲しみの中で思い出を追う心が、ささいなしぐさやふとしたきっかけにあらわれ、読む者の胸に響きます。

弟の夫.png

亡き夫の部屋に泊まることになり、遠いぬくもりに触れるように畳に手を伸ばす場面。

弟の夫2.png

弥一の後ろ姿に、夫が重なってしまった瞬間のまなざし。

弟の夫4.png


2、弥一の心理描写

高校時代の弟の同性愛カミングアウト以来、少し精神的に距離ができてしまったまま、弟と死に別れた弥一。

兄弟の情は変わらないし、弟の夫のマイクがいい人なのはわかるが、自分の中でどう折り合いをつければいいのかがわからない。
(夏菜のように自然に接したいのは山々だけれど、どうしても色々考えこんでしまう自分がいる。)

そんなとまどいの中、マイクやマイクを慕う夏菜とのやりとりを通じて、少しずつ気の持ちようを調整していきます。

弟の夫3.png

一方で、周囲の人がマイクに持つかもしれない偏見から、どう夏菜の気持ちを守るかという問題についても父親として頭を悩ませます。

弥一が自分や周囲の同性愛に対する目について考え込んでいると、時おり、鏡の中、自分の足元から地面に伸びるシルエットに、弟の面影がよぎります。

この面影が、彼の心をどう変えていくかは今後の展開に託されています。

このように、身内の視点を通じ、自分の身近な人が同性愛者であることに対する悩みと理解の過程を描いた作品というのは非常に画期的な気がします。

弥一の弟の死や、マイクが日本に来た理由など、まだ多くが謎に包まれながら、すでに非常に読みごたえと魅力のある作品ですので、この機会に是非ご覧になってみてください。
(2016年8月1日時点で第一巻100円、第二巻が486円、二日前からはじまったセールのようです(※)。終了期間がわからないのでお早めに。私はまんまとセール期間外に定価で買ってますが〈苦笑〉、それでも満足なので、紙書籍等でも是非。)

読んでくださってありがとうございました。

(※参照)アオシマ書店(電子書籍の販売情報サイト)「ゲイ差別から目を背けるな。差別してしまう自分と戦え『弟の夫』1巻が100円」(7月29日記事)

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2016年07月31日

こうの史代さん漫画 Kindle(電子書籍)セール実施中

Kindleが閲覧できる方限定なのですが、7月29日よりこうの史代さんの漫画がセール中とのことなので、お知らせさせていただきます。

ある女性の原爆投下後の日々、そして、現代を舞台に、被爆した母、祖母を持つ姉弟とその父を描いた「夕凪の街、桜の国」。

夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス) -
夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス) -

戦中の広島県呉市に嫁いだ女性すずと、彼女が出会った人々の日常を描いた「この世界の片隅に」(上中下巻)。

この世界の片隅に : 上 (アクションコミックス) -
この世界の片隅に : 上 (アクションコミックス) -

暮らしや街の風景、そこに生きた人々の思いが、ぬくもりのある筆致でこまやかに描かれ、どちらも日本漫画史上に名を刻む傑作です。

我々と同じように、生活し、愛し、悩み、泣き笑いした人々が、どのようにあの時代を生きていったかに触れることで、登場人物たちと、平和な日常への愛情が読み手の胸の中にわいてきます。

戦争や原爆という非常に重たいものを根底に据えながら、抑制された語り口と余韻で、読んで何を思うかは、多くを読み手に託す、非常に珍しい作品です。

すでにどちらの作品も実写化されていますが、映画版「夕凪の街、桜の国」で父親役(すごく合ってる)を演じた堺正章巨匠が「チューボーですよ」で、(確か)田中麗奈さん(同作品主演)と料理をしながら、映画公開後数年経ってるのに「あれはいい話だったね……」と、しみじみと実感のこもった声で言っていたのが印象的でした。

夕凪の街 桜の国 [DVD] -
夕凪の街 桜の国 [DVD] -

今回のセールは、2016年秋(予定)の「この世界の片隅に」のアニメ公開を記念したものだそうです。(アニメ公式情報はコチラ

(参照)「電子書籍の更地(電子書籍セール情報まとめページ)」
同ページツイッター7月29日情報 

セール期間がいつ終了するかわからないので、ご購入はお早めに。

「夕凪の街、桜の国」の99円は、最も意義ある百円玉の使い道になることをお約束します。

定価、または紙書籍でも買う意義は絶対に絶対にありますのでご検討ください。
(絵がきれいで、どちらの作品も見開きの名場面があるので、一番いいのは紙書籍です。私は両方持ち。)

違うサイトでちょっと申し訳ないのですが、「まんが王国」で「この世界の片隅に」数話分試し読みできるのでリンク貼らせていただきます

「この世界の片隅に」については、いずれもう少しご紹介かせていただきたいと思います。

他の作品もセールになっていて、こうのさんの作品はすべて粒ぞろいなのですが、イチオシは「ぴっぴら帳(ノート)」。(全2巻)

ぴっぴら帳 : 1 (アクションコミックス) -
ぴっぴら帳 : 1 (アクションコミックス) -

ちょっと天然な女の子きみちゃんとインコのぴっぴらさんの暮らしを描いた4コマ漫画。

上記二作で「戦争漫画家」のようなイメージがあるこうのさんですが、同じくこまやかな日常描写と、抜群の観察力で、ほのぼの笑える、今数多くみられる動物漫画の中でも傑作のひとつだと思います。

インコも話しかけてかわいがって育てるとあんなになつくし、色々面白いリアクションを見せてくれるんだなとこの漫画で知りました。
(作品はフィクションですが、ぴっぴらさんの表情やしぐさはこうのさんが実際に目にしたものだと思います。)
ぴっぴらさんの描き方がかわいいキャラ化されすぎてなくて、「まんまインコ」な感じがまたいい……。

読むと犬派の私も猛烈にインコと住みたくなりました。きみちゃんの周りの人々とのやりとりや、ういういしい恋の話も読んでいて楽しいです。

各回オープニングの、季節感あふれるきみちゃんとぴっぴらさんのカットが、カワイイ上に少し大正の叙情画を思わせます。

ぴっぴら帖カット(部分).png

傑作コマ(いっぱいあるけど) 

きみちゃんの前衛的粘土細工インコを熱烈に気に入るぴっぴらさん

粘土インコに求愛するぴっぴらさん.png

カミナリに緊張して細くなるぴっぴらさん

ぴっぴらさんほそくなっている.png

頭がかごの隙間にはまってしまったぴっぴらさん

頭がはまってしまったぴっぴらさん.png

こちらも是非ご覧になってみてください。

読んでくださってありがとうございました。


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2016年07月29日

「やめてみた」(わたなべ ぽん作 コミックエッセイ)ご紹介

35kgのダイエットで話題となった漫画家わたなべ ぽんさん(ご本人ブログはコチラhttp://ameblo.jp/watanabepon/)のエッセイ漫画をご紹介させていただきます。
※続編、『もっと、やめてみた』のご紹介記事はコチラです。

(一部ネタバレありなのでご注意ください)

タイトルは「やめてみた」

やめてみた。 本当に必要なものが見えてくる暮らし方・考え方 -
やめてみた。 本当に必要なものが見えてくる暮らし方・考え方 -


これまで、ダイエットや汚部屋脱出に挑戦してきた(そして見事成功、今もキープに奮闘している)ぽんさんが、それまで自分の生活の中であたり前だった、家具家電、習慣、思いグセなどについて見直し、不要と思えたものについてはやめてみる、そのための手段と結果を描いたコミックエッセイです。
(続編『もっと、やめてみた』の当ブログご紹介記事はコチラです。)

ぽんさんのダイエット、掃除関連漫画はコチラ。

スリム美人の生活習慣を真似したら 1年間で30キロ痩せました (メディアファクトリーのコミックエッセイ) -
スリム美人の生活習慣を真似したら 1年間で30キロ痩せました (メディアファクトリーのコミックエッセイ) -

もっと! スリム美人の生活習慣を真似したら リバウンドしないでさらに5キロ痩せました (メディアファクトリーのコミックエッセイ) -
もっと! スリム美人の生活習慣を真似したら リバウンドしないでさらに5キロ痩せました (メディアファクトリーのコミックエッセイ) -

スリム美人の生活習慣を真似して痩せるノート術 (メディアファクトリーのコミックエッセイ) -
スリム美人の生活習慣を真似して痩せるノート術 (メディアファクトリーのコミックエッセイ) -

ダメな自分を認めたら、部屋がキレイになりました (メディアファクトリーのコミックエッセイ) -
ダメな自分を認めたら、部屋がキレイになりました (メディアファクトリーのコミックエッセイ) -

ぽんさんの作品すべてに言えることですが、彼女が目標達成する方法はいつもいたってシンプルです。
(例、リンゴだけ食べるダイエットに挫折→栄養バランスの良い低カロリーメニューと、継続しやすいウォーキングに変更)

なので、もし、斬新で効率的なノウハウを知りたい!と思う場合は、掃除やダイエットの専門家の本の方が合っていると思います。

ぽんさんの本の魅力は、人の習慣やアドバイスをとても素直にとりいれるご本人のお人柄。

そして、そうやって謙虚に頑張った先の結果と、それに伴って自分の気持ちがどう変化していったかが描かれているところです。

今回の本でもその魅力を十分に味わうことができます。

また、ぽんさんの上記4作品と併せて読むと、1人の人の習慣と気持ちがどうやって変わっていくかがわかるのでいっそう面白いです。(別に関係者じゃないですよ……)

炊飯器や掃除機をやめてみたという話については、「ふむふむなるほど、良さそうですね」みたいな感じで、のんきに楽しく読ませていただきました。

ぽんさんも、「はじめに」で「やめてみたものはあくまで私の生活には必要なかったものであり、もしかしたら皆さんの生活には必要不可欠なものかもしれません。でも、「こんな生活もあるんだな〜」と楽しんで読んでもらえるとうれしいですし、自分にとって本当に必要なものとはなんだろう?と考えてみるきっかけにでもしてもらえたら、もっとうれしいです」と書いていらっしゃいます。

(補)逆に、たかぎなおこさんは長年のほうき・フロアモップ生活から掃除機に切り替え、あまりの便利さに「すんごいよね掃除機って、スイッチひとつでゴミを吸ってくれるなんてさあ(※)」と、鼻息荒く昭和三十年代の主婦のようなことを言って友人に怪訝な顔をされていました。ひとそれぞれ。
(※)『ひとりぐらしな日々「ちょっといい暮らし…の巻より」』

ひとり暮らしな日々。 -
ひとり暮らしな日々。 -

ですが、自他ともに「どー考えても減らしたほうがいいだろ」と思われる、そして現在進行形で私自身が戦っている、「無駄ネット閲覧(スマホ)」についてのお話はぐっさりきました。

今週月曜日(つまり発売日2日前)からその依存を断ち切るべく、七転八倒していた私にとってはまさにベストタイミングの助け舟です。
(いやもうかれこれ数年、ほぼ毎日欠かさず「やめよう→当日中に挫折」だったけど、今度こそと頑張りだしたのが今週月曜。)

ぽんさんの場合、スマホ閲覧がやめられず、朝から深夜3時ごろまでとりとめのないサイト(投稿者の悩み相談にユーザーがこたえるページなど)を見続けた結果、

「寝坊」→「仕事メール確認忘れ」→「締切に追われ、ごみ出し、洗濯もの片づけができず」→「夕飯が作れず、夫さんに買いにいってもらう(片づけも夫さん任せ〈平日の家事は基本ぽんさん担当〉)」と、雪だるま式にミスをしてしまいます。

しかも、夫さんが買ってきてくれたお弁当を食べているとき、夫さんから、「明日は同僚女性(ぽんさん宅に何度も来ている人)の相談にのるために飲み会に行ってくる」と報告を受けたぽんさんは、
「ネットではそういうのを“相談女”といって、相談を口実に男性との距離を縮める嫌な女の手口らしいよ」
……と、かつてみたこともないようなワルイ顔で言ってしまいます。

ぽんさんスマホ依存1.png

(「人の悪口を言うと顔が曲がる」ってこういうことですかね)

ここでとうとう
「ダラダラネットをみているせいで、最近生活もだらしないし、仕事にも影響が出て、性格までキツくなっている気がする。もういいかげんネットなんかやめればっ!?」
と、旦那さんに厳しく注意されます。

ぽんさんスマホ依存2.png

(「あの夫さんが怒った……」とぽんさんは無論、既刊愛読者も驚いた場面)

この本の中で、このエピソードが二つの意味でとても印象に残りました。

まず第一に、ネットの強烈な依存性。

どうやらこの出来事は、ぽんさんが半年にわたる大掃除を決行した後のようなのですが、苦労して素敵な部屋を作り上げ、仕事のスケジュール上やむをえない時以外は、維持を心がけていたであろうぽんさんが、赤の他人の人生相談(その相談内容自体もぽんさんには無縁)という、観なくても全く困らない情報に釘付けになった挙句、それまで積み上げてきた生活習慣をガタガタにしてしまっています。

第二に、他人のトラブルやゴシップ情報にはまることの弊害。

これまでのぽんさんのお掃除、ダイエット本を読むとわかるのですが、ぽんさんの夫さんは、ぽんさんが、お掃除が苦手だったときも、今より35kg太っていたときも、彼女に説教めいたことを言っていません。
(でもぽんさんが頑張ったときには一緒に喜んでくれる優しい人。)

その(直前にも「頑張れ〜」といいながら片づけと買い出しをしてくれていた)夫さんが、「もういいかげんネットなんかやめればっ!?」と強く言っている。

夫さんにとっては、多少部屋や汚いとかぽっちゃりしているとかよりも、ぽんさんの性格がキツくなるほうが、よっぽどイヤなことだったのでしょう。

ちなみに、こういうとき、その手の相談サイトだと火に油をそそぐように、
「(女性側)相談女にまんまと騙されちゃって、男ってホントバカ、まんざらでもなかったから逆ギレしてんじゃないの?」
「(男性側)ちゃんと報告してんのに、家事もやらずに疑うなんてサイテーだな、ハズレ嫁だ」
と、泥沼が続くのが定番です。

この手のサイトのやりとりは、悩み相談の皮をかぶった口げんかや誹謗中傷に発展することが多いんです。ええ詳しいですとも、私こそが今この手の閲覧中毒と闘っているから……。

ネット依存については、「ゲームサイトへの過度の課金がやめられなくなる」、「長期間画面を見続けることにより頭痛、自律神経失調症を引き起こす」などの危険性はよく指摘されていますが、「生活サイクルがどう乱れてしまい、家族とのコミュニケーションに悪影響を及ぼしてしまうか」という段階を描写してくださっている例はあまりなかったと思います。
(ええ詳しいですとも2、どうやったら治せるか、ネットをむさぼり読んでいましたから、そして脱線してその手の相談サイトに舞い戻っていましたから〈←……〉)

普段穏やかな夫さんの厳しい注意に激しく反省したぽんさんは、「ネットを見るときのルール」を設定することにします。

その方法はいつも通りシンプル。「自分にとって害になるサイトを閲覧できないようにブックマークを外す」、「アラーム代わりに布団に持ち込んでいたスマホを遠ざけるために、目覚まし時計を使う」などです。

正直、この「方法」だけならそこまでの効力があるかどうか疑問ですが、ぽんさんのトラブルと夫さんのお叱りを読んでからだととても響きます。セットで有難い。

その後、素直に謝ったぽんさんに、夫さんも「キツく言いすぎた」と言ってくれて、ふたり仲良く、その同僚女性のお礼のプリンを食べていました。(ほっこりするオチ)

この他の「やめてみた」情報もとても面白いので是非(できれば既刊本とセットで)読んでみてください。

(補、ぽんさんは何気ないことのようにおまけ欄に描いているけど「酒」「タバコ」という人類二大依存品をやめるまでというスゴイ情報も入っていて衝撃だった。当ブログでぽんさんの減酒方法についてご紹介している記事はコチラです(※記事後半部です)。)

よろしければ併せてご覧ください。

読んでくださってありがとうございました。

(補足)
・ 幻冬舎HPに、前作『やめてみた』の太っ腹試し読みページがあるので貼らせていただきます。併せてごらんください。

http://www.gentosha.jp/category/yametemita

・当ブログ、わたなべぽんさん作品ご紹介記事は以下のとおりです。
「やめてみた」(わたなべ ぽん作 コミックエッセイ)ご紹介
『ダメな自分を認めたら部屋がきれいになりました』(わたなべぽんさん作 お片付けコミックエッセイ)
減酒への道 (わたなべぽんさん「やめてみた」参照)
(一部ネタバレあり)わたなべぽんさん 『もっと、やめてみた。』ご紹介 


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2016年05月31日

「ポーの一族」続篇掲載『月刊フラワーズ7月号』、現在在庫切れ

月刊flowers(フラワーズ) 2016年 07 月号 [雑誌] -
月刊flowers(フラワーズ) 2016年 07 月号 [雑誌] -

(今回は、ひたすら愚痴と自責です。)
 楽しみにしていたのに、なぜおれは買いに行くのを4日も遅らせてしまったんだろう……。
 別にそこまでせっぱつまった用事があったわけじゃないじゃないか。そもそも4月から発売のことは知っていたじゃないか……。
 28日に時間を見つけて本屋に行けばよかったのに、いや、ファンを自称するならさっさと予約しておけばよかったのに……。
 バカッバカッ、ミノルのバカッおれはほんとにバカな男さ。(『ちびまる子ちゃん』内の脇役キャラミノル風)

ミノルのバカッ(『ちびまる子ちゃん』5巻より).png

リボンマスコットコミックス5巻「みんなでフランス料理を食べにいく」より。まる子一家の隣席にいたデート中の男が、「洋風弁当」なる珍しいメニューを頼んでしまったせいで、まる子に大注目されてしまい、ムードぶち壊しのチョイスをしてしまったことを嘆く一コマ。)

(ミノルのインパクトのあるルックスも手伝い、私の周辺で、このシーンにハマる人が続出、「ミノルのバカッ」フレーズは大流行を通り越して十年越しのロングランヒットを飛ばし、以後、自分の迂闊さに身悶える際の決まり文句として、ごく自然に用いられるようになった。〈なんでだよ〉)

 ……ミノルの説明が長くなってしまいましたが、今、本気でがっかりしています。ひさびさにミノルのことを鮮明に思い出すくらいに。

 前回記事で、萩尾望都さんの『ポーの一族』40年ぶり続篇発表についてご紹介させていただきましたが、その掲載誌「月刊フラワーズ」(七月号)をまんまと買い逃しました。(恥)

 あー、今日(発売日28日)は本屋に寄るには遅くなっちゃったなあ、週明けに大きな書店の近くに行くからそんとき買おう。
 と、デートで「洋風弁当」を頼む以上の見通しの甘さで出遅れてしまった(ことに気づいていなかった)今日5月31日。

 ちょっとモジモジしながら(普段少女漫画雑誌買わないんで)ミノル(誰)は「月刊フラワーズ」を探したのですが、棚に無い、店員さんに聞いても無い。

 しかも、その聞かれたときの店員さん反応がすごく早い。
「ありますか「在庫切れです、再入荷についてはわかりません」みたいな手馴れたお返事。
 もー同じことを散々返答した後、みたいな空気が漂う。

 急激に嫌な予感がして、近場にもう何軒か書店があったので、足を延ばしてみたのですが、同じ感じの反応、駅ナカ本屋さんに至るまで全滅。

 なんでも、発売元の小学館に在庫がもう無い状態だそうです……。

 わらにもすがる思いでAmazonで検索をかけてみたら(自分のブログ記事にリンクはっておいたからそれ使いましたよアハハ〈乾笑〉)新本在庫切れどころか、既に3倍以上のプレミアつきで、古本(というか新品未読品)として売りに出ていました。(通常価格560円で、今売値2000円前後)

 なんかすごく自分が情けないです……本当に好きだったのに、萩尾望都さんと「ポーの一族」の人気をよくわかっていなかった…そしていつもの先送りクセでぐずぐずしている間に、その価値がちゃんとわかっている人々はすみやかに予約してわが物にしていたし、マーケットは動いていた……。

 (冗談抜きで、最近「先送りをやめる方法」みたいなのを模索して本屋さんで関連書籍探したりしていたんですが、それを先送りにして、その場で予約しておけばよかったんじゃんと思うとしみじみと情けない。)

 萩尾さんと山岸涼子さん(※1)との対談掲載や、傑作短編「訪問者」(※2)が付録につくと知った時点で、これは早めに買わなければいけないとは思っていたんですけどね……。
 (※1)山岸涼子……代表作「日出処の天子(若き日の聖徳太子を描いた歴史ファンタジー漫画)」ほか、歴史漫画、バレエ漫画、ホラー漫画等多彩な作品を描く。萩尾さんと同じ「24年組(※3)」の一人。

日出処の天子 第1巻 完全版 (MFコミックス) -
日出処の天子 第1巻 完全版 (MFコミックス) -

(※2)「訪問者」……1980年発表の短編。不仲な父母の両方を愛しながらも、家庭に違和感と居場所の無さを感じていた少年オスカーが母の死をきっかけに、父と放浪の旅に出る。旅の中で、父はオスカーの出生と妻の死について大きな苦悩を抱えていたことが明らかになってくる。
(オスカーは、萩尾作品の代表作の一つである「トーマの心臓」の主要登場人物で、物語もスピンオフとなっている。)

訪問者 (小学館文庫) -
訪問者 (小学館文庫) -

トーマの心臓 (小学館文庫) -
トーマの心臓 (小学館文庫) -

(※3)「24年組」……1970年代に活躍した昭和24年生まれの女性漫画家たちの総称。お二人のほか、竹宮恵子、大島弓子等、少女漫画に心理描写や歴史性・社会性を盛り込み、革命を起こした人々が集う。(参照「ウィキペディア」)

 なんか今回は本格的に反省しました。もっとフットワークよく生きようと思います。

 そんなわけで残念ながら私が40年ぶりの「ポーの一族」続篇「春の夢」の全貌を知ることができるのは、単行本発売以降になってしまうかもしれません。
(前後編で、後編掲載は冬を予定しているそうですのでもっと後ってことですね〈泣〉)

 無性にくやしいので、せめて以後しばらく、可能な限りの速度で、萩尾作品の傑作についてブログでご紹介させていただこうと思います。(我ながらよくわかんないけど、自分なりの反省の仕方)

 近々、今回付録になっている「訪問者」について、少し書かせていただきますのでよろしければご覧ください。
 読んで下さってありがとうございました。(byミノル〈だから誰〉)

posted by Palum. at 22:51| おすすめ漫画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年05月28日

(ネタバレ)「ポーの一族」(1972年)あらすじご紹介(『ポーの一族』40年ぶりの続篇発表によせて)

お久しぶりです。

今日は少女漫画界の不朽の傑作漫画についてご紹介させていただきます。

萩尾望都作『ポーの一族』

ポーの一族(1) (フラワーコミックス) -
ポーの一族(1) (フラワーコミックス) -
吸血鬼となった少年エドガーと、彼と共に永い時間を生き続ける吸血鬼「ポー」の一族、そして彼らが出会った人々のドラマを描いた作品です。

 詩的な画面と台詞、人生や時代に対する深い洞察が、余情となって心に焼付き、数ある萩尾望都作品のなかでも、いや、古今の漫画のなかでも屈指の名作と言って過言では無いでしょう。

 この「ポーの一族」の続篇が、2016年7月号(5月28日頃発売)で、40年ぶりに発表されました。
(色々な本屋さんで懐かしい「ポーの一族」の単行本があらためて置かれているので目にされた方も多いかと。)

月刊flowers(フラワーズ) 2016年 07 月号 [雑誌] -
月刊flowers(フラワーズ) 2016年 07 月号 [雑誌] -

 続篇は、第二次大戦の戦火を逃れたエドガーと、彼と共に旅をする友アランが、ドイツ人の少女と出会うという内容だそうです。(紹介記事はコチラ〈マイナビニュースより〉)

 当記事では、エドガーとアランの出会いと、二人の長い旅の始まりを描いた中編「ポーの一族」(※)についてご紹介します。
(※)この作品はエドガーたちを描いた連作短編となっていて、シリーズ名と同じこの中編の他にも「ポーの村」「グレンスミスの日記」「小鳥の巣」等、別のタイトルの作品が存在し、それらを総括して『ポーの一族』と呼ばれています。
 中編「ポーの一族」が一部試し読みできるページはコチラです。
(色々な電子書籍で読めますが、今回は一番長く閲覧できるところを引用させていただきました。)

 以下より、作品の内容について、書かせていただきます。(思い入れがありすぎて、長くなっています……あとネタバレなので、その点あらかじめご了承ください。)


 薔薇の咲くポーの村に暮らす兄妹、エドガーとメリーベルは、ある日、愛する村を離れ、彼らの養父母ポーツネル男爵夫妻と共に、ある海辺の新興都市へとやってくる。

ポーの一族 画像1.png

 その土地の人間たちの中から選び取った者を自分たちと同じ吸血鬼(バンパネラ)とし、彼ら「ポーの一族」に迎え入れるため。

ポーの一族 画像2.png

 町のレストランにあらわれたエドガーたちに、人々は感嘆のため息をもらした。
 美しい家族。まるで一枚の完璧な絵だ!
 ひそかに賛辞をおくる人々の中に、町の医師カスターと彼の教え子、美男のクリフォードがいた。
 彼の目をことにとらえたのは、美しいシーラ夫人。
 食事中に貧血でメリーベルが倒れてしまったことをきっかけに、クリフォードたちと知り合いになるポーツネル一家。

ポーの一族 画像3.png

 エドガーはクリフォードのシーラに対する態度を嫌悪するが、ポーツネル夫妻は、彼を一族に加えることを考えはじめていた。

 一方、エドガーは偶然出会った(外見上は自分と同じ年頃の)少年、アラン・トワイライトを一族に加えたいと思うようになる。

ポーの一族 画像4.png

 アランの通う学校の名を知ったエドガーは、(彼のことは伏せて)ポーツネル男爵に学校に通いたいと頼む。話を聞いていた男爵は、エドガーの姿が窓にうつっていないことに気づいて、強い口調で注意した。
 胸にクイをうち込まれたくなかったら、人間であるふりを忘れてはいけない。
 息があるふり、脈のあるふり、鏡に写るふり、ドアに指をはさまれたら痛がるふり
 それくらいできる。やってみせるよ。
 窓に姿を映したエドガーはそう答えた。 

 一方、町一番の貿易商トワイライト家の一人息子だったアランは、転入早々、自分に親しげに近づいてきても、決して他の同級生たちのように服従しようとしなかったエドガーに苛立ち、手下となっている少年たちを使ってエドガーに嫌がらせを仕掛けるが、それをきっかけとした乱闘騒ぎでエドガーに怪我を負わせてしまう。

 この事件をきっかけに、エドガーがアランと交流を持とうとしているのを知ったポーツネル男爵は彼を厳しく叱責した。
 男爵の威圧的な態度に、エドガーはとげのある声で答えた。
「わかっているよ、一族にくわえるには、成人でなけりゃだめだってことはね。ぼくたちを連れてるおかげで父さまたちは同じ土地に二年続けていられない」
 大人になる前に吸血鬼になった者は、成長しないことをあやしまれ、人間の住む土地に長くいることはできない。
(その暗黙の掟がありながら、14歳と13歳で吸血鬼となって人間の時を止めたエドガーとメリーベルには、それぞれに理由があった。)
 父さまたちの考えは、十分わかっている。
 でもぼくがどんなに孤独か、あなたがたにはわかるまい……!

 永遠に少年のままである孤独に常に苛まれていたエドガーは、同じような悲しみを抱えるであろうメリーベルのためにも、アランを一族に加えることを諦めようとはしなかった。

 そして、アランもまた、尊大さの奥に深い孤独をかかえる少年だった。

 名家ではあるものの、父を早く亡くし、愛する母は病弱、そして、財産目当てに屋敷に居つく父方の伯父夫婦からは、従姉妹との愛の無い結婚を強制されようとしている……。
 知っているのは自分を利用しようとする人間か、こびへつらう人間だけだったアランは、自分と対等な友人になろうとしていたエドガーのことが気にかかるようになっていく。
「あんなやつ、はじめてだ……」

 アランはきっと自分を訪ねてくる。

 人とは異なる回復力を持ち、とうに怪我の治っていたエドガーだったが、療養中と称して学校を休み、アランを待っていた。
 しかし、やって来たのはアランに命じられて様子を探りに来た同級生たちだった。
 彼らを追い帰して、トワイライト家に赴くことにしたエドガー。

 道すがらの森の中で、ふいに背後から聞こえた、弱弱しい妹の声。
 メリーベルが、エドガーを追いかけてきていた。強い日差しに青ざめてふらつく妹を木陰に休ませ、エドガーは、すぐに戻るから動かないようにと、彼女に言い聞かせる。
(メリーベルは不老ではあるが体が弱く、湿気や陽の光など些細な理由で倒れてしまう体質だった。)

 同じころ、伯父一家と激しい口論になって屋敷を飛び出したアランが、エドガーに出くわす。

 アランを連れてメリーベルのところに戻ってきたエドガー、兄の姿を見て一瞬微笑んだメリーベルが彼の腕にくずおれた。
「水を、アラン!」
 貧血なんだ、早く!エドガーの鋭い声にわけもわからず駆けていくアラン。

 二人きりになってから、エドガーは妹の首に口づけ、自分の血をわけ与える。
 目を覚まし、面倒をかけたことを詫びるメリーベルに、エドガーは哀しい目をしてつぶやく。
 「君は僕を許しちゃくれない」
 憎んでも、殺しても良い。メリーベルがこんな呪われた身で生きるようになったのは、自分のせいなのだから……。
 エドガーの苦しげな言葉を制止し、彼を抱きしめるメリーベル。
「兄さんだけよ!いつもわたしのそばにいて、いつもわたしのこと考えてくれるの。ずっと小さなころから、そうよ」
 遠い昔、二人が人間だったころから。

 メリーベルは気づいていた。
 メリーベルの療養のためにしばらく村を離れる。
 吸血鬼だけが住むポーの村を出て、この町に来た理由を、エドガーと養父母はメリーベルにそう教えていた。
 しかし、本当の目的は、新たに人間を吸血鬼の仲間に加えること。
 そしてそれはメリーベルのため。
 新しい仲間の、新しい血。それが、一族で際立って弱いメリーベルには必要だったから。
 兄はこの町の少年の一人から、友達として信頼を得、それを裏切り、人としての生を奪おうとしている。
 でも、それはメリーベルのため、そして、自分と同じに、大人になることができないエドガー自身の孤独のため。
 メリーベルはわかっていた。
「君は……それでいいの……?」
 言葉をしぼりだすエドガーを見つめる大きな瞳から、ただ、一筋の涙が流れた。

 そのとき、水を手に駆け戻ってきたアランが、メリーベルを見て、目を見張った。
 彼女は、幼い頃のアランの婚約者で、たった七歳で事故によって命を落とした少女ロゼッティに生き写しだった。

ポーの一族 画像5.png

 この日を境に、メリーベルに惹かれる一方、エドガーにも心を許していくアラン。

 エドガーとアランの友情に気づいたポーツネル男爵は、先手を打つべく、クリフォード医師へと接近し始める。

 彼の恩師カスター医師の招待に応じ、ディナーへと赴くポーツネル夫妻。(二人ともシーラに対するクリフォードの好意に気づいているが、彼を一族にするために、その気持ちを利用するつもりでいる)

 カスター家に同居していたクリフォードは、準備にいそしむ婚約者のジェイン(カスターの娘)に目もくれず、シーラの到着を待ちわびていたが、偶然、カスターの書斎入口の真向かいにかかる鏡を見ていた彼の目が奇妙な一瞬をとらえた。

 ドアを開けて入ってくるジェイン。
 誰かを招き入れる仕草をするジェインと誰もいない廊下。そして閉じられたドア。
 振り向くと、すぐそこにポーツネル夫妻が立っていた。
 驚いて目を戻した鏡に、何事もなかったように写っている美しいシーラ。

 つつがなく流れる和やかな晩餐のひととき。
 だが、クリフォードはシーラの気を引くことも忘れ、先ほど目にしたはずの光景について考え続けていた。
 鏡に写らなかった……ドアだけが閉じて、鏡に写らなかった……!

 ディナーの間中、押し黙るクリフォードを見て、彼がシーラ夫人の美しさにうわの空になっているのだと誤解する婚約者ジェイン。
 クリフォードは恩師である父への義理立てで自分と婚約しただけで、地味で目立たない私など愛してはいない……。
 肩を震わせるジェイン。

 一方、カスター宅を後にしたシーラは、おどおどと頬をそめてうつむくばかりだった彼女を思い出し、こんなことを夫につぶやいた。
「あのジェインという娘……わたしとても気に入りましたわ」

 一方、クリフォードは、友人から、その夜の彼のジェインに対する態度を叱責されていた。
 それに少しも耳を貸さずに、クリフォードは呟く。
「人間が…… 鏡に写らないとしたらそれはなんだろう?」
「知るか、そりゃバンパネラだ!」
 では人間ではないことになる。まさか。
 自分の考えのバカバカしさに笑うクリフォード。
 激怒して部屋を出ていく友人をよそに、クリフォードはもう一度自分に言い聞かせる。
 錯覚だ……バカバカしい。もう二十年もすれば二十世紀がくるというこの科学時代に……。

 日曜日、アランはエドガーを誘って断崖の砦跡に出かける。
 強い海風に髪を散らしながら、ようやく本心を口にするアラン。
「君と知りあって良かった。」
 エドガーは今までむらがってきた奴らとは違う、何でも話せる友達になってくれそうだ。
 その言葉を耳にして、エドガーの心によぎる重苦しい影。
 このアランを、自分はバンパネラ一族に加えようとしている。
 メリーベルにそうしたように。

 靄混じりの帰路、エドガーは彼の計画を実行する。

 二人きりの淋しい道、言葉を交わすアランの隙を突いて、耳の下に唇を寄せるエドガー。
 異変を感じ、アランは激しくエドガーを突き飛ばした。押さえた耳の下に残る、ただならぬ感触。
 唇をぬぐう指、その指の陰に垣間見える真紅。冷静に笑う青い目が、靄の中で光る。

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「アラン、おどろかないで。なんでもないんだ」
 エドガーがゆっくりと近づいてくる。
 アランのこわばった唇から、とぎれとぎれに言葉がもれた。
「もろもろの…天は神の栄光をあらわし…大空は御手の……わざをしめす……」
 アランに伸びた手が止まる。
 この日、ことばをかの日につたえ、この夜、知識をかの世に送る……語らず、言わずその声聞こえざるに……そのひびきは全土にあまねく……
 凍り付いた時間に響く聖書の言葉。
 靄に遠ざかっていくエドガーの足音。

 正体がばれてしまった。すぐにここを出よう。
 屋敷に戻ってきたエドガーから状況を確認したポーツネル男爵は、この土地を捨てるには及ばないと言い聞かせる。
 近代化が進み、信仰が篤いわけでもなく、バンパネラ伝説を信じない人々、良い土地だ。
 バンパネラにとって真に恐ろしいのは異端を認めない信仰の心。
 聖句や教会や十字架は象徴に過ぎず、それ自体への恐怖は克服することができる。
 疑惑など打ち壊せ!信じさせるな!

 翌朝、学校に姿を現すエドガー。
 声をかけられたたアランは、青ざめたまま、何かを握り締めた手を差し出す。
 エドガーの手に、鎖とともに零れ落ちた、細い十字架。
 一瞬のこわばりをすぐに笑みに変え、くれるの?じゃ、きのうのこと怒っていないんだね、と、エドガーは十字架をしっかりと握りしめた。
 からかってキスをしようとしたけれど、怒らせてしまったかと思っていた。メリーベルも待っているから、今度はうちに遊びにおいでよ。
 エドガーの屈託の無い様子に、アランは戸惑うが、それは母の容体急変の知らせに断ち切られた。
 なんとか持ち直したものの、処置を終えたクリフォードから教えられた事実は過酷なものだった。
 とても心臓が弱っている、次に大きな発作が起きれば……。
 母との別れの日が迫っている。でもこの苦しみに寄り添ってくれる人は、この屋敷のどこにもいない……。

 翌日、伯父夫婦から、母が生きているうちに従姉妹と結婚することを持ちかけられ、アランは声を荒げて拒絶する。
 部屋の外で言い争いを耳にしていた年上の従姉妹マーゴットは、アランに冷ややかに言い放った。
 アランのことは何ともおもっていないが、やさしくしてやってもいい。かわいそうなお金持ちのみなしごになるのだから。
 耐え切れずに飛び出していったアラン、どしゃぶりの中、その足はエドガーたちの住む岬の屋敷へと向かっていた。

 ずぶぬれでやって来たアランを、メリーベルが驚きながら迎え入れた。
 彼女を引き寄せ、アランは静かに問いかけた。
「ぼくがプロポーズしたら怒る?」
 目をみはるメリーベルに、アランは彼女の華奢な両手をにぎりしめてひざまずいた。
 本気だ、約束だけ今してほしい。もっと後、君が大人になったら……。
 「それは……ムリよ……」
 なぜと聞かれても、ただ首を振る、メリーベルの苦しそうな瞳に涙が浮かんでいた。
 アランは立ち上がり、硝子戸に手をかけて、もう一度彼女を見た。
 困らせてごめん、でも君を好きなのは本当だ。好きだ……。
 出て行こうとしたアランに、メリーベルが駆け寄った。
「アラン!わたしたちと一緒に遠くへ行く?」
 ……ときをこえて……遠くへ行く?

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 吹き込む強い風に巻き毛を乱し、アランに問いかけるメリーベル。
 謎めいた問いかけ、だが、投げかけられたその声、そのまなざしがアランの胸に焼付いた。
『ときをこえて』……?
 冷え切った体で屋敷に帰りついたアランは、そのまま倒れ込んでしまう。

 心配ない、ただの風邪です。往診したクリフォードが伯母にそう説明している間、アランは夢の中にいた。
『わたしたちと一緒にときをこえて行く?アラン』
 メリーベルの声、自分をとりまく冷たくわずらわしい人間関係、エドガー、君はバンパネラだ。いつも、いやなことを忘れるために、砦跡の崖から、身を投げ出すようにして見ていた波の渦。
 いこう、いこう、メリーベル。……どこへ行くって?

 目を開くと、枕元にエドガーが立っていた。見舞いに来たという彼のほかに誰も部屋にいない。
 たいしたことはない、と話すアランの喉元に、いつのまにか伸びたエドガーの手。
 薄く微笑む青い瞳に、得体のしれない沈黙。
 開かれた扉の向こうで、黒く尖った悪魔の羽を広げたエドガーが、アランに刃を振り上げた。
 クリフォードは思わず声を上げた。アランの寝室に入ろうとしたとき、自分がそのような光景を目にした気がして。
 実際に目の前にいたのは、落ち着いた様子で自分に挨拶をするエドガーと、ただ横たわっているアラン。
 それでも、クリフォードの体は、エドガーが去ったその部屋で、まだ総毛だっていた。
 部屋に異様な冷気が漂っている。
 「……伝説を信じます?」
 アランの唐突な問いかけが沈黙を破った。
 たとえば、バンパネラは実在したと思います? 
 クリフォードは言葉を失ったが、少し笑って首を横に振った。ただ、その顔色にまだ血の気はもどっていなかった。

「あら!おひさしぶり、ジェイン!」
 帽子屋の前で、シーラがジェインに声をかけた。連れていたメリーベルを紹介し、一緒に店に入ることを誘う。
 まるで引き立て役だと恥ずかしく思うジェインをじっと見つめたシーラが、ふいに言った。
 髪を結いあげて、緑より青があなたには似合うわ。
 何を着たって私ではみっともなくて……ジェインの言葉をシーラが押しとどめた。
 みっともない若い娘なんていやしません。髪は少し古風に結い上げて、でも娘らしく細い流行の、もちろん青いドレスを着て、あなたに似合いそうな青い帽子を持っているので、是非合わせてあげたいわ。目にうかぶでしょう?とても素敵になったあなた。
「母さま……」
 シーラは言葉を切った。青ざめたメリーベルが、ふらつく体を寄せてきていた。
 うちが近いので少しお休みになっては?と提案するジェイン。
 それでは、娘がお世話になっている間に、あの、あなたに似合う青い帽子をとってきます、と、シーラはジェインの呼び止めをふりきって踵を返す。
 親しげな方!ジェインは、シーラの思いがけない温かな態度に驚いていた。

 実は、シーラ達がカスター家の近くにある帽子屋にやってきたのは、ジェインの様子をうかがうためだった。
 クリフォードを愛しているジェインも、一族に加えて村に連れ帰れば良い。そのために彼女の信頼を勝ち得たい。シーラは屋敷へと急いだ。

「ひと雨くるな……」
 浜辺に響くかすかな雷鳴、顔を上げたクリフォードは、屋敷へと向かうシーラに気づいた。
 強くなりかけた海風にドレスをなびかせ、明るくクリフォードに声をかけたシーラ。
 その笑みが、雲間からの一瞬の稲光に消えた。
 悲鳴を上げて激しく怯えるシーラの手を引き、クリフォードは目に入った農家の倉庫で彼女を雨宿りさせることにした。

「雷がこわいんですか」
「ええ……まるで私に向かって走ってきそうで……!」
 小屋の中で、震えながらクリフォードにすがりつくシーラに、まるで、罪人のようなことをおっしゃる、とクリフォードは苦笑いをした。落雷は神の怒りで、罪人はこれに撃たれて命を落とすという言い伝えを思い出しながら。
 気をまぎらわせようと、今日、ジェインに会ったことを話すシーラ。 
 腕の中のシーラの、青ざめた美しさがあらためてクリフォードの心をとらえた。なぜこの人を、一瞬でも魔性だなどとうたがったのか。
 無言で彼女の顔を引き寄せ、クリフォードはシーラに口づけた。
 しかし、次の瞬間、シーラの首筋に指先をあてていたクリフォードの全身に、電流のような衝撃が駆け抜けた。
 脈がない……!
 すべての血脈が死んでいる……これは人間ではない!!
 今もまだ彼に身を寄せているシーラ。
 クリフォードの目の隅に、小屋に置かれた干し草用のフォークが写った。クリフォードはかすかに呟く。
「あなたは現実のものではない……打ち砕かねば……これがわたしのつとめだ」 
 このまぼろし……!
 シーラを払いのけ、クリフォードはフォークを振り上げた。
 切っ先から伝わる手ごたえと共に、激しく吹き込んだ風雨。
 視界を奪われたすきに、シーラの姿が消えていた。

 日が落ち、暗くなった屋敷で打つ雨音に耳をかたむけていたエドガーが、ドアの動くかすかな物音に気付いた。
「とうさま!!」
 扉を開けたエドガーに、深手を負ったシーラが倒れ込んできた。

 夫の手当てをうけながら、朦朧としたまま、シーラは告げた。クリフォードに気づかれたと。
 すぐに町をでようと支度をするポーツネル男爵、今、母さまを動かしたら助からないというエドガーに、今逃げなければ終わりだ!と声を荒げる。
 10万人の市民がここに押し寄せてきたら?吸血鬼を滅ぼそうとする人間たちの群れ。いくどもそういう光景を見てきた、お前も覚えているだろう?
 そのとき、エドガーの顔色が変わった。
 メリーベルは。
「母さま、メリーベルはどこ!?」

 落雷に怯えるメリーベルを抱きしめて落ち着かせているジェイン。ふわりとしたきれいな巻き毛に触れ、あなたもシーラに似て美しい婦人になるのでしょうね、と、つぶやく。
 メリーベルははじめて自分の話をした。
 シーラは自分の本当の母親ではない、メリーベルにそっくりだったという実の母は自分を生んですぐに死んでしまった。
「ジェイン、シーラが好き?」
 シーラは美しい大人の女性。でも、ときが立てば、ジェインも大人になるわ。メリーベルはやわらかく微笑む。

 激しい音を立てて、扉が開け放たれた。
「ジェイン、はなれろ!!」
 すぶぬれのクリフォードが叫んだ。
 一体何が、と彼に駆け寄ったジェインに、クリフォードは告げた。
 シーラを殺した。
 目をみはるジェイン。メリーベルの体がこわばる。
 戸棚から、銀の弾をこめた魔除けの銃を取り出したクリフォード、彼を落ち着かせようとするジェインに、クリフォードは叫ぶ。
 岬の家に住んでいるのは悪魔の一家だ!!ちがうというのなら、これで十字を切ってみろ!
 メリーベルは、投げつけられた十字架のネックレスに短く悲鳴を上げた。
 雷鳴の中、小さな細い十字架が、メリーベルに向かって組み合わされた巨大な刃のように光を放つ。
 なにをしているの、十字架を拾って!
 ジェインの声。メリーベルにはできない。
 壁にすがり、メリーベルは叫んだ。
「エドガー!エドガー!」

 漂うようにゆっくりと崩れ落ちるメリーベルの体。
 閉じ行く瞳の奥で、いくつかの思い出が、波紋のように現れては溶けていく。
 幼かった自分、いつも優しかったエドガー。
 孤児だった自分を最初に育ててくれた老婆。
 木々の間から木漏れ日のように現れた金色の髪の少年。はじめての恋……。
 その体が倒れ落ちる前に、メリーベルの淡く伸べられた細い腕が、全身の輪郭が、風の中の光る砂のように散り、そして、あとかたもなく、消えた。
 壁の前に、流れ落ちた一掴みの灰のような跡、拾われることのなかった十字架。
 銃の硝煙の向こうに、それを見たジェインは、クリフォードに振り向きかけて気をうしなってしまう。

 銃声に駆けつけたカスターと、クリフォードの友人。
 ジェインも見ました!あの一家は悪魔だ!十字架をかかげて、打ち砕け、悪魔を!
 興奮して叫ぶクリフォード。ジェインを介抱する二人に、まず着替えてから、話を聞かせろと言われ、ねがってもない!ジェインも見たんだから、と足早に自分の部屋に戻る。

 あれも神がつくりたもうたものか?なんのために? 
 部屋に戻り、繰り返し光る空に目を向けたクリフォード。
 隣の部屋から小さな物音がした。
「メリーベルの悲鳴が外まで聞こえた。……ぼくは、まにあわなかった……」
 はためくカーテンの向こう、開け放たれた大窓に、エドガーが立っていた。
「これは、あなたがメリーベルを撃った銃だ」
 クリフォードに向けられた銃口。
「悪霊……!消えろ……!お前たちは実在しない!」
 実在している、あなたがたよりはずっと長い時間を。……なにかいいのこすことは?
「消えろ!おまえたちはなんのためにそこにいる!」
 なぜ生きてそこにいるのだ、この悪魔!
 クリフォードの憎悪に満ちた叫びと、ひときわ激しい落雷が、銃声を覆い隠した。

 なぜ生きているのかって?それがわかれば!
 創るものもなく、生み出すものもなく、うつる次の世代にたくす遺産もなく、長いときを、なぜ、こうして生きているのか。
 ……すくなくともぼくは、ああ、すくなくともぼくは……

 同じころ、夫にささえられて馬車に乗り込もうとしていたシーラが、力尽きて塵となって消えた。
 驚愕する御者を一撃して馬車を奪い取り、ポーツネル男爵は馬に激しいむちをくれ、一気に馬車を走らせた。
 急坂を転がるように駆け下りたとき、彼をよけきれずに迫りくるもう一台の馬車を目前にして、ポーツネル男爵は胸の内で愛する者たちに別れを告げた。

 割れた街灯、大破した二台の馬車、生き残った馬のいななきと、駆け付ける人々。
 一人、馬車の下敷きになったのを確かに見た。いや、誰もいない。救助に向かう男たちの声。
 混乱の中、かけつけたエドガーの足元に、ポーツネル男爵の帽子が、転がってきた。
 帽子を拾い上げ、何が起こったかを理解したエドガーから、やがて、嗚咽まじりの笑い声がもれた。
 幕だ、すべてはおわった!ぼくは自由、ぼくはこの世でただひとり、もうメリーベルのために、あの子をまもるために、生きる必要もない。
 生きる必要も、ない……。
 
 「アラン様、お起きになってもよろしいのですか」
 ああ、熱はないんだよ。老執事にそう告げたあと、母の部屋を尋ねていくアラン。ドアの隙間から、伯父の話す声が聞こえてくる。覗き込んだアランは息をのんだ。
 伯父の手はベッドで身を起こした母の肩を抱き、母の手は腰かける叔父の膝に置かれ、互いに寄り添う二人。
 母を「おまえ」と夫のように呼んで、アランに結婚を承諾させてほしい頼む伯父に、彼女は言った。
「いいわよ、話しておくわよ、あなた」
 震える手でドアを閉じるアラン。その物音に伯父が彼を追った。

 階段を駆け上るアランを呼び止めて手をかける伯父、振り向きざまに激しくその手をふりほどいた瞬間、伯父の体がバランスを崩して大きくのけぞって階段を転げ落ちていった。
 飛び出してくる執事たちと伯母たち。
 人殺し!
 繰り返し響く従姉妹の悲鳴に、アランは踵をかえして部屋に飛び込んだ。
 
 追ってきた老執事が、鍵のかかった扉越しに声をかけた。「そこにいらっしゃるんですよ!」
すぐに先生を……。執事の声はほとんど耳に入らなかった。震えながら膝をつき、何度も叫んだ。メリーベル、メリーベル、たすけて……メリーベル!
「メリーベルはもういないよ」
 エドガーが窓辺に訪れていた。

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「メリーベルはどこ?」
「知ってる?きみは人が生まれる前にどこからくるか」
 知らない、そう答えたアランに、エドガーは言った。
「ぼくも知らない、だからメリーベルがどこへいったかわからない」
 ……生まれるまえに……?
 向かい合う二人によぎる、心から愛していた少女の姿。
 ぼくは行くけど…君はどうする?……くるかい?
 開かれた窓。雨は止み、夜の少し強い風が二人の髪をなでる。
 エドガーはアランに手を差し伸べた。
「おいでよ……」
 きみもおいでよ、ひとりではさみしすぎる……。
 その青い目に、もう、あの魔性の光、凍り付いた沈黙はなかった。
 そこにたたえられていたのは、ただ、アランと同じ悲しみ。
 エドガーの瞳に魅入られるように、アランは、エドガーの手をとった。

 伯父の無事を告げながら、老執事がアラン部屋の鍵を開けた。
 だが、そこにもう彼の姿は無く、カーテンを激しく乱す夜風にまじり、どこかから、長く響く少年の笑い声。
 老執事は茫然とつぶやいた。
 風につれていかれた……?

 地球儀に置かれた教師の手。
 来るべき、人が宇宙へと旅立てる未来について話していた教師が授業を終え、少年たちが元気に教室を飛び出してくる。
 お気に入りのレコードや、家族への電話について話していた彼らは、やがて門の前にいる人影に気づいて窓辺に集まってくる。
 転入生かな?どこから来たんだろう?

 彼らの視線の先に、エドガーとアランが立っていた。
                                     (おわり)



 これが、エドガーとアランの出会い、そしてメリーベルの死を描いた中編「ポーの一族」の物語です。
 もっとコンパクトにまとめたかったのですが、130ページに満たない、流れるように展開する中編ながら、様々な人間の疑惑と思惑が交錯して、いざ手を付けてみたら、思いのほかはしょるできませんでした……。
 (おまけに、この時期の萩尾望都作品特有の、独特で印象的な台詞をどうしてもきちんと引用したかったので余計長くなってしまいました〈汗〉。)

 ここでは紹介しきれなかった、後の作品につながる伏線や、登場人物たちの表情や美しさ、漫画ならではのすぐれた間合い表現などがあるので、是非本編をお読みになってみてください。

 これからしばらくは、萩尾さんの名作群についてご紹介させていただきたいと思います。よろしければまたいらしてください。

 読んでくださってありがとうございました。


posted by Palum. at 22:40| おすすめ漫画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする