2014年02月19日

「腹話ロボット」(『ドラえもん』より)

 最近わりとシリアスな話題の記事が続いてしまいましたが、僕は本来そういう人間ではないので(←……)、また大好きなドラえもんのおススメエピソードをご紹介いたします。
(ネタバレです。先にコミックをお読みになることを強くおススメいたします。)
てんとうむしコミックス32巻に収録されています。

ドラえもん (32) (てんとう虫コミックス) -
ドラえもん (32) (てんとう虫コミックス) -


口下手で損ばかりしているのび太が、ごまかしでいいから要領よく立ち回りたい、とあまりにも正直にドラえもんに泣きついて出してもらった「腹話ロボット」のお話です。

ドラえもんはほのぼの子供向けと思いきや意外にアブナイ展開の作品が紛れ込んでいて、これテレビで放映できたのかな……思うことがままあるのですが、その意味でこの作品のオチが一番危険です。(現実的に最も危ないのはジャイアンシチューのオチですが、放送できなさそうなのはこっち)

そして危険だからこそ、大人にはそのギャップがたまらなく面白いのです……。

(以下結末部までネタバレです)
ある日、空き地で、ジャイアンから「ひさしぶりに新曲ができた。聴きたいか?」と言われたのび太とスネ夫。
 まあ、日本全国に知れ渡っているとおり、ジャイアンの歌声は人体に有害なほどへたくそなのですが(吐き気を催す観客〈義務参加〉続出)、スネ夫はすかさず、
「聴きたい!聴きたい!久しぶりだなあ!遅いんだよジャイアン。いつ新曲ができるのかと、待ちくたびれちゃったよ」
と作り笑顔でおだてます。
怠けて悪かった心の友よ(ジャイアン愛用語)。と、ご満悦のジャイアンから、お前はどうなんだ、と聞かれたのび太は
「遅いんだよジャイアン。もっと遅くても良かったのに。聴きたい聴きたい。どうせきかされるなら、いやなことは早くすませたい。」
と、忍耐我慢のにじみ出た顔で答え、勿論ぶんなぐられ「だれが聞かせてやるか」とジャイアンは空き地を出ていきます。

 おかげで助かった。ジャイアンの気が変わらないうちに帰ろう、とスネ夫に促されたのび太でしたが、「実は0点をとってしまって家にも帰りにくいんだ」と困り顔。
「そんなことか。ぼくも悪かったんだ。でもへいき」
とスネ夫はズルい顔をして、まあ、見てな、と家に入っていきます。
玄関で待ちかまえていたスネ夫ママにいきなりどなりつけられたスネ夫ですが、再びすかさず
「やめてお母様!」
と駆けより、
「怒ると小じわが増えるっていうよ。ママの美しい顔が皺だらけになるなんてボク耐えられない!」
と泣き叫び、
「この次頑張るから。いつまでのママに若く美しくいてほしいから」
という頃には、もうママをホロリとさせて「まあ……スネ夫ちゃんはなんて優しい……」とまで言わしめていました。
 ドアの外でこのやりとりを聞いていたのび太は「うまいことやったなあ」と感心して帰宅。

 同じころ、0点の答案を見つけて叱る気満々のママに、ドラえもんが「ぼくから、よく言い聞かせるから」と一生懸命とりなした(優しいなあ)結果、「今回は私からは何も言わない」とママも納得したのですが、そこにいきなり「やめてママ!」と飛び込んできたのび太。
「その美しい……、というほどでもない顔がしわくちゃになるじゃんか。見るにたえないよ」 
 ……かくして正座させられギャンギャンに叱られる羽目に遭っているのび太に背を向け「ばかだねえ、じつにばかだね」と心底呆れるドラえもん。

 ぼくは口下手で損ばかりしている。ごまかしでも良いからスネ夫みたいに要領よくやりたい、とのび太に泣きつかれたドラえもんは、気が進まないながら「腹話ロボット」を出してあげます。

 腹話術人形と逆に、人形が人間の口を動かし、その人の声でいかにももっともらしいことを喋るという道具だと聞いたのび太はさっそくそれを肩に乗せてみます。

 その直後、まだ機嫌の悪そうなママに草むしりを命じられますが、「ウェー」と言いかけた瞬間腹話ロボットが作動。
「ワーイ、草むしりうれしいな。腰をかがめるのがウェストの運動になるし、指から葉緑素が吸収されて肌もきれいになるんだよね」
と言ったので、ママがソソクサと自分でやりはじめます。
「ママのためなら喜んでゆずってあげよう」と、調子よく縁側で草むしりを見物していたのび太、さらにお小遣いももらえないもんだろうか、と、こっそりロボットに持ちかけると
「お年玉が年に一回と言うのは誰がきめたのでしょうか。現代人は古いならわしにとらわれることなく毎月お年玉を」
との台詞でまんまとお金をせしめることに成功します。

 かなり無茶な理屈でもこの人形が言えば通じてしまうものなのだというのは、ドラえもんも知らなかったようで、これを見て目を丸くしています。
 いい加減なこと言って、ロボットを止めるとごまかしもばれるんだぞ、と、ドラえもんにたしなめられますが、すっかり味をしめたのび太は「いいもん、ずーっとこのままにしておく」と暢気に散歩に出ます。

 直後、道で先生に出くわし、「あんな点をとっておいて宿題もせずに遊びまわれる身分か」とお説教を食いそうになりますが、ここでも、
「僕は自分さえ成績が上がればという考え方はどうしてもできないんです。どんなにみんなが一生懸命勉強しても、テストをすれば必ず順位がついて誰かがビリになる!!だから…だから僕が犠牲になって0点を……世の中にこんなバカが一人くらいいてもいいんじゃないでしょうか……」
と6コマにも及ぶ熱弁と共に涙し(草刈りのくだりを見る限り、この人形に涙を流させる機能は無いようなので、のび太本人の熱演と思われます)、のび太の優しさ(←……)に感動した先生に「これからもがんばって0点をとりなさい」とはげまされます。

 また、突然開催が決まった「ジャイアンリサイタル」では、歌い出しから「ひどい歌だなあ」と言って空き地の観客全員を凍り付かせた後、今にもなぐりかかりそうになっているジャイアンに「ジャイアンの歌はこんなもんじゃないはずだよ。ノドを痛めているんじゃないの?(これを受けて「昨日めざしの小骨がのどにささった」というジャイアンに)やっぱり!無理をしちゃだめじゃないか。将来の大歌手がもっとノドを大事にしてくれなくちゃ」と言う事で、見事リサイタルを中止させることに成功します。

 ……と、ここまでは良かった(?)のですが。
 

 リサイタルに遅れて来ることになっていたしずかちゃんに、中止を知らせてあげようと、どこでもドアを使ったのび太。

 ところがお約束通りしずかちゃんは入浴中だったため、怒らせてしまいます。

 「ま、まあ聞いてよ」
 と再び腹話ロボットが作動。

 ここからの演説が妙に高尚でふるっています。
 「もともとアダムとイブの時代、人間は裸だった。服を着るようになったのは、神様の言いつけにそむいて知恵の木の実を食べたからだ。神様の言うとおりにしていれば、人間はいまでも楽園で暮らせていたはずなんだ。裸のまんまで。」
「じゃ……はだかでいるほうが正しいの」
「そーなんだよ!」
(イタリアルネッサンス絵画の傑作、ボッティチェリ作『ヴィーナスの誕生』がコマに登場)

ボッティチェリ(腹話ロボット).png

「世界の美術館をみたまえ。はだかの絵や彫刻でいっぱいじゃないか。なぜか?それは美しいからだ。はだかこそ永遠の美のテーマなのであります!!」

 これを聞いたしずかちゃん、それまで湯船に身を沈めて隠れていたのにザバっと立ち上がります。
「そうか!じゃあ恥ずかしがるの間違いなのね」
「そ、そう……」
「服なんて着なくていいのね」
と、浴槽からあがってしまい、「それは……」とのび太が口ごもっている間に、
「遊びに行きましょ」
と、どこでもドアから屋外に出て行こうとします。
「極端すぎるよ!」のび太本人は止めますが、不思議そうに
「のび太さんもそう言ったでしょ」
と、ふりむいたしずかちゃんに、腹話ロボットは

そのまま町中をかけまわろう!!.png

「そうとも、そのまま町中をかけまわろう!!」と高らかに言ってしまい、どこでもドアから、生まれたままの姿で両手を広げて空き地に現れたしずかちゃんに、ドラえもん超驚愕(大笑)。

腹話ロボット.png

 大慌てでのび太が腹話ロボットを地面にたたきつけた瞬間、正気に返ったしずかちゃんは悲鳴とともにどこでもドアで浴室に逃げ帰ります。

 「みんなまだ怒っている?」
 空き地の土管の陰に身をひそめるのび太に、ドラえもんは
「当分うちへ帰れないね」
と、淡々と報告します。
 その視線の先には、まんまとだまされたことに気づいたママ、先生、ジャイアン、しずかちゃんが怒りの面持ちでのび太を探し回っていました(まあ特にしずかちゃんはそりゃ怒るわな……)。
(完)

 この作品、まず序盤ののび太とスネ夫の台詞の「似てるようで全然違う度」が見事です。
・「遅いんだよジャイアン待ちくたびれちゃった」⇔「遅いんだよジャイアン、もっと遅くても良かったのに」
・「聴きたい聴きたい。久しぶりだなあ」⇔「聴きたい聴きたい。どうせ聴かされるのなら、嫌なことは早く済ませたい」
・「ママの美しい顔が皺だらけになるなんてボク耐えられない」⇔「その美しい……、と言うほどでもない顔がしわくちゃになるじゃんか、見るにたえないよ」

 そして、旧約聖書やボッティチェリまで引用した格調高き「裸身礼賛」演説。
 とどめは「そうとも、そのまま町中をかけまわろう!!」という高らかな後押し(なにが「そうとも」なんだか……)を受けて急進的ヌーディストと化したしずかちゃんと、それに遭遇したドラえもんの表情……。

 よくこんなの小学生向け漫画雑誌に載せたもんだと思います。今だと不可能なんじゃないでしょうか。

(ところで、今回テレビ放送版についてちょっと調べてみましたが、さすがに外に出てくしずかちゃんはタオルを巻いており、また、「裸身礼賛」も「そうともそのまま町中をかけまわろう!!」もカットされている模様です。無理もない……が、最大の笑いどころが切れているとも言えます)

アブナイっちゃアブナイネタですが、この手のスレスレギャグが持ち味のイギリス・アメリカコメディでもお目にかかれないような過激さと、それでいてなんか非常にもっともらしい高尚な話題とのミックスが私には非常にツボでした。

(こんなこと宣言するものどうかと思いますが「ジャイアンの歌」ネタ以外だと、この「しずかちゃんのお風呂」ネタが大人になって読むととても笑えます。)

 ドラえもん30巻台は全体的にとても面白いので、是非お手にとってみてください。

 当ブログドラえもんご紹介記事はコチラです。(全てネタバレなのでご了承ください。)
 「ジャイアンシチュー」 
「ジャイアンへのホットなレター」
「ジャイアンリサイタルを楽しむ方法」
「きこりの泉」
「ジャイ子の恋人=のび太」
 読んでくださってありがとうございました。
posted by pawlu at 23:07| ドラえもん | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年02月08日

「ジャイ子の恋人=のび太」(『ドラえもん』より)

今回もドラえもん作品のうち個人的に好きな作品を文でご紹介させていただきます。

(ネタバレですので。先にコミックをお読みになることを強くおススメいたします。)

てんとうむしコミックス22巻に収録されています。




 のび太がジャイ子に片思いしているらしいと思ったジャイアンのせいで、のび太がえらい災難に見舞われるという話です。




 (以下結末までネタバレでご紹介)


 道を歩きながら、どうも最近女の子につけられているらしいというのび太。

 ドラえもんはギャハハと笑いながら「君が女の子につけまわされるなんて……天地がひっくり返ってもありっこない」と、全否定しますが(失礼)、じゃ、見てろ、と物陰で待ちかまえるのび太に確かに近づいてくる女の子の人影……。


 二人が覗き込んでみると、女の子はなんとジャイ子。


 びっくりして逃げ帰ってきた二人でしたが、ジャイ子がつけてくる理由がわかりません。

 「まさか、ぼくがすきになったとか…」

 「それはない!たとえジャイ子でも絶対ない」(失礼2)


 そこへニコニコ笑ってジャイアンが訪ねてきます。

 「のび太よ。お前幸せな奴だなあ」

 きょとんとしているのび太に、最近ジャイ子の様子がおかしい(ためいきばかりついて、飯も5杯しか食べない〈←……〉)が、聞いても悩みを打ち明けようとしないので、さぐってみたところジャイ子の机からこんなものが出てきた、とジャイアンが差し出したのは、のび太の写真でした。


 妹は俺に似て内気な奴だから(←……2)ひとり悩んでいたと思うといじらしくて……と涙したジャイアンは、そういうわけでからお前からデートに誘ってやってくれ、と、有無を言わさずのび太を家に連れて行ってしまいます。


 しかし、無理やり部屋にジャイ子と二人きりにされると、ジャイ子はきわめてアッサリと「忙しいから用がないなら早く帰ってほしい」とのび太に言います。


 ほっとされたようなバカにされたようなと思いつつ、帰り道でしずかちゃんに会ったので一緒に公園に行こうとしたところ、ジャイアンにつかまってしまいます。


 帰れって言われたから……と正直に言うのび太のに、ジャイアンは、女心のわからん奴だなあ。と口をとがらせます。


(女の子は)好きな奴にはわざとツンツンするもんなんだから(今でいう「好き避け」とか「ツンデレ」?)、男のほうから好きだとうちあけるべきだと言われ、のび太が、そんな、好きでもないのに、と拒否しようとした瞬間に、ジャイアンの様子が一変。

「きらいだってのか?」


すき!大すき!.png



 「言っとくがな、妹を泣かせる奴がいたら、俺が殺してやる!!」と、拳を固めたジャイアンに胸倉をつかまれたのび太は大慌てで「好き!大好き!」と答えます。


 これで機嫌を治したジャイアンは、空き地でのび太に「女の子のハートのつかみ方をコーチ」する(笑)ことします。


 土管に座ったジャイアンに

 「俺をジャイ子と思ってすきだと言ってみろ」と言われたのび太は

 「オエー」とわりと正直な音声をもらし、何か言おうとしてもしどろもどろになってしまいます。


 「俺だと思うからダメなんだ。ジャイ子と思えってば」

 「どっちにしてもなあ……」(←さすがにこれは口には出せないのび太)


 で、どうにか思いついたのがこの台詞。


ジャイ子さん、友達になってくれない?22巻.png


「ジャイ子さん友達になってくれない?いやならいいけど」


 勿論ジャイアンからパンチが飛んできます。


「まるで心がこもっていない!心の底から好きだと言ってみろ!」

「す、好き!すき!ウキー」と涙ながらに言うのび太。


 一応合格と思ったのか、土管の上のジャイアンは

「好きなら態度で示せ。もっとこっちに来い。手ぐらいにぎれ」

 と、より具体的な指示を出してきます。


うれしいわ、のび太さん22巻.png




「ぼ、ぼく、ほんとにきみのことすきなんだ」

「うれしいわ、のび太さん」

……そう言いながら土管に寄り添って座るのび太とジャイアン(ジャイアンがのび太の肩を抱いている)を見つけ、完全に誤解するスネ夫。



 ほうほうのていで帰ってきたのび太に、なんとかジャイ子に嫌われるようにしてくれと泣きつかれたドラえもんは「スカンタコ(笑い)」という変な顔のタコを出します。


 そのスミをかぶった人間は誰からも嫌われるという、開発者の意図も元来の用途も全く分からない秘密道具ですが、なにはともあれスミをかけてもらったのび太。


 これで大丈夫かと聞こうと思ったら、もうドラえもんにもママにも大いに嫌われて家から叩き出されます。


 しかし、ジャイ子に嫌われるためなら仕方ないと、ジャイアンの家に行くと、出迎えたジャイアンは「すまん、俺の勘違いだった」と苦笑いして真相を話します。


 なんでも、漫画家志望のジャイ子がネタにつまって悩んだ挙句、のび太の動向をギャグ漫画にしようと取材のつもりでつけまわしたり、のび太の顔をネタにおかしな顔を考えたりしていたとのこと(超失礼)。


 そう話し終えた直後、はじめてまともにスカンタココーティング済ののび太の顔を見たジャイアン。

 「とっとと帰れ!」

 のび太を家から蹴りだします。


 憤慨しつつ(無理もない)、ぼくの相手はやっぱりしずちゃんなんだ、と公園に向かいますが、しずかちゃんからも思い切り逃げられ、ドラえもんに「どこまで運のない男なんだろう」とつぶやかれるというオチです。


 ドラえもんの「君が女の子につけまわされるなんて……天地がひっくり返ってもありっこない」という毒舌と、

 ジャイアンとのび太の

 「俺だと思うからダメなんだ。ジャイ子と思えってば」

 「どっちにしてもなあ……」

 と、いうやりとり、

 「ジャイ子さん友達になってくれない?いやならいいけれど」

 と言うときののび太の、この上なく心のこもっていない台詞と表情、

 そして、

 「ぼ、ぼく、ほんとにきみのことすきなんだ」

 「うれしいわ、のび太さん」

 を目撃したスネ夫の表情が印象に残ります。



 読んでくださってありがとうございました。

posted by pawlu at 19:22| ドラえもん | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年01月29日

「ジャイアンシチュー」※ネタバレあり (『ドラえもん』より)


 今回もドラえもん作品のうち個人的に好きな作品を文でご紹介させていただきます。
(なのでネタバレです。先にコミックをお読みになることを強くおススメいたします。)
 てんとうむしコミックス13巻、あるいはこのドラえもんジャイアン編に収録されています。

ドラえもん (13) (てんとう虫コミックス) -
ドラえもん (13) (てんとう虫コミックス) -


ドラえもん (ジャイアン編) (小学館コロコロ文庫) -
ドラえもん (ジャイアン編) (小学館コロコロ文庫) -

 その存在自体はご記憶の方も多いと思われる「ジャイアンシチュー」

 この話、オチのシュールさ加減が児童漫画の領域を超えています。

カワイイ絵と子供たちのやりとりという一見なごやかな画面に隠された、このシュール&シビアと台詞のひねり。

私が「ドラえもんは卒業した」という大人の方々と、全世界に知っていただきたいのはこの魅力なのです。(ほかにも色々ありますけどね←どんだけ好きなんだ。)

以下結末までのあらすじです。

「人間はさ、趣味を広く持たなくちゃいけない」

かっこいいことを言ってジャイアンがはじめたのは「料理の研究」でした。
(だいたい初心者がレシピ通りに作らず、『研究』などという名のもとに、ありもしない勘に頼ってアレンジしたらドロドロのものができあがると相場が決まっているのです〈経験者談〉)

こうして「ジャイアン料理研究会」に招待されたのび太たち。

既にジャイアンの料理がどの程度のものか、ハイキングで食べて知っているのですが(「後ではいた」〈スネ夫談〉)、「食べないと殺される」という理由で、仕方なしにできるだけおなかを空かしていくことにします。

というわけで、ママの作った昼食を食べたがらないのび太。
「食べると命にかかわるんだよ!」
誤解したママ激怒(笑)。

とりなしにいったドラえもんがわけを聞いて、そんなことなら簡単だ、とひみつ道具「味のもとのもと」を出してくれます。
これさえかければどんなまずい料理でもおいしく食べられる。
「たとえばママの料理でも」
(ドラえもんってば、あんな人を和ませる容姿をしているくせにちょいちょい相当毒舌)

ふりかけられたママの料理(多分スパゲティ)は、匂いだけでもあらがえないほど魅力的で、「こ、こんなおいしいの、食べたことないや」というほどの味になります。

「ジャイアン料理研究会」は夕方から実施されました。

食卓にのび太たちをつかせ、エプロン姿のジャイアンシェフが挨拶に来ます。
「よしきた。今日はたっぷり食べてもらうからたのしみにな」
「ちょっぴりでいいのに」
「悪いけどもうちょっと待て」
「おそいほどありがたい」
 かろうじて笑顔を作りながらもダダ漏れてるスネ夫の本音は、なぜかジャイアンには届きません。

青ざめているスネ夫としずかちゃんのもとに、なにやら得体の知れない不気味な異臭がただよってきます。

こうして満を持して登場したのが、後に伝説の一皿として語り継がれることとなる「ジャイアンシチュー」です。

もう「ジャイアン」と「シチュー」っていうコラボを聞いた時点で、全日本国民「きっとおいしくないだろう」と察せてしまうのですが、……まあやっぱりそういうことです。

内容物は

・ひきにく
・たくあん
・しおから
・ジャム
・にぼし
・大福
・そのほかいろいろ

……とくに明らかに「シチュー」と名のつく料理と系統が違うであろう「ジャム」「大福」、あと「そのほかいろいろ」のくだりが気になるところです。

(ところで、驚いたことにネットの世界では実際にジャイアンシチューを作ってみたという話が散見されます。なかには本格的な料理ページみたいに画像・動画つきで見られるものも。意外とおいしいという意見もある一方で、ほんとうに具合が悪くなるほどマズイという話も。ググってみてください。世の中色々な方がいるなあと思いました。ただ、個人的には色とか本当に見てるだけで無理です……。)

「どう?うまいか、おいしいか、どっちだ」
 ……と感想を尋ねるジャイアンに、スネ夫は一言。
「……すごい!(蒼白涙目)」

うまいか、おいしいか、どっちだ.png


「と、とても、お、おいしいわ」
さすがしずかちゃんは「おいしい」の一言をどうにかしぼりだしていますが、実際はそうでないことは表情が物語っています。

のこり二人の悶絶をよそに、のび太だけは心の底から幸せそうにシチューをたいらげ、
「こんなうまいものはじめて食べたよ。おかわりほしいな」
と、笑顔でカラになった皿をさしだします。
唯一の味がわかる人間(……)としてジャイアンは「君こそ親友だ。心の友だ(ジャイアンの愛用語)」とのび太の手をにぎりしめます。(あっけにとられるスネ夫)

 しかし、おかわりを出された際に、のび太が「味のもとのもと」をかけているのに気付いたジャイアンは、
「なにをかけたんだ、見せろ」
 と、いやがるのび太からそれをとりあげようとして、もみあいになります。

 そのとき、はずみで蓋がとれ、「味のもとのもと」をドバっと自分の頭にかけてしまうジャイアン。

 ジャイアンの全身からただよう、あのえもいわれぬ香り……。

うまそう、ひとくちでいいからたべさせて.png

「うまそう」
「ひとくちでいいから食べさせて」

完全に目の中が「渦巻き」や「十」になってしまって、よだれをたらしたのび太たち3人(しずかちゃんまで……)がフォークとナイフをふりかざして、ジャイアン本人を追いまわし、「助けてくれえ!」と必死の形相で逃げ出すジャイアン。
(完)

たった6ページでこんなスゴイ話を書いてしまう藤子F先生はやはり本当に天才だったのだとつくづく思います。

そして、ジャイアンシチューは勿論ですがオチのブラックなパンチは全ドラえもん作品でも間違いなくナンバー1でしょう。

余談ですが、藤子F不二雄ミュージアムでは、このジャイアンシチューにちなんだお皿が販売中だそうです。

ドラえもん ジャイアン シチュー皿 藤子・F・不二雄ミュージアム限定 -
ドラえもん ジャイアン シチュー皿 藤子・F・不二雄ミュージアム限定 -

シンプルな白いお皿の底にエプロン姿のジャイアン
例の
「どう?うまいか、おいしいか、どっちだ」
の台詞入り
そして、ジャンアンが書いた達筆とは言えないジャイアンシチューのレシピつき(紙が「剛田雑貨店(ジャイアン宅のご家業)」のメモ用紙なのが泣かせる)。


さっきのジャイアンシチュー実作とかこのお皿とか、「きれいなジャイアン」のフィギュアの存在とかを聞くと、世の中は思っていたより、案外シャレのきいた面白いところかもしれないとふと思うのです。

ドラえもん きれいなジャイアン 藤子・F・不二雄ミュージアム限定 フィギュア -
ドラえもん きれいなジャイアン 藤子・F・不二雄ミュージアム限定 フィギュア -


藤子F不二雄ミュージアムのHPのURLはコチラです。
http://fujiko-museum.com/pc.php


読んでくださってありがとうございました。
posted by pawlu at 07:09| ドラえもん | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年01月28日

「いい!いい!どうでもいい」(至言)(『ドラえもん』「ジャイアンへのホットなレター」より)

今回はドラえもんの作品をご紹介させていただきます。

ネタバレなので、大丈夫な方だけお読みください。

 このエピソードは「てんとうむしコミックス35巻」、


ドラえもん 35

 または小学館コロコロ文庫ドラえもん[ジャイアン編]に収録されています。(こちらジャイアンの傑作が集結していて、今からとりあえず一冊読んでみようかという方にお勧めです)


ドラえもん ジャイアン編

 ドラえもんの中で、大人になってから気づく面白みのひとつにジャイアンの存在があります。

 ジャイアン本人というより、ジャイアンの腕っぷしを前にして、言いたいことが何も言えない、さらには心にも無いことを言わざるを得ないという周囲の反応が。
 そして、押し殺した本心をバレないようにぽつりともらしている、その一言が。
 誰でも身を守るためにそういう対応をとらざるをえないときがあります。
 彼らの描写はそんな人生のほろにがい側面を彷彿とさせるのです。
 
 しかし、そこは世界最強の漫画(否定意見不受理)、ほろにがい、ではなく、おおいに笑える、に、ちゃんと変えてくれています。

 その好例が「ジャイアンへのホットなレター」

 歌手ジャイアンに熱い思いのこもったファンレターを書こう、という、根本的に不可能な企画の顛末を描いた回です。

 有名な話ですが、ジャイアンは昔懐かしい言い方をするとガキ大将で、のび太や周囲にしょっちゅう八つ当たりもしていますが、彼の腕力以上に恐れられているのはその歌声です。
(スネ夫が「(彼の)歌よりゲンコツのほうがましだ」と明言し、泣いてチケット購入を拒否していたことがある。)

 気を抜くと気絶するほど酷く、大長編「のび太の魔界大冒険」では怪獣のような化けクジラまで「オエー!」と、尾ひれがクルクルよじれるほどの吐き気を催して退散しています。
(この化けクジラのところまで、ローレライ伝説のように人魚の美声が惹き寄せてしまうのですが、ジャイアンが対抗して歌ったらそういう結果に。)
 
大長編ドラえもん 5 のび太の魔界大冒険

 そりゃ、そんな音声を2〜3時間聴かされる催し(「ジャイアンリサイタル」)に出席しないとぶんなぐられるのは嫌でしょう。

 しかし、本人はそのような反応にあまり気づいておらず(盛り上がりに欠けることはうすうす感じてはいるが、「真の芸術は理解されにくい」という方面に苦悩している)、アイドル伊藤つばさちゃんの人気に激しく嫉妬します。(ポジティブ)
 
 スネ夫が書いた彼女へのファンレターがコンクールで優勝し、サイン入りパネルをもらったという話を聞いたジャイアンは、対抗意識を燃やして、自分のファンにもそのような活動をさせるようにとのび太とドラえもんに強要します。
 
 具体的な企画例として、ジャイアン本人が
「みんなでごちそうを持ちより、ジャイアンを呼び、ジャイアンはサービスに歌を数曲ふるまう)『ジャイアンを囲む夕べ』」
を提示すると、二人は真顔で
「だれもかこみたがらなかったりして」
と、つい本当のことを言ってしまい、慌てて「やたらそんなことすると安っぽく見えるよ」とごまかします。

 それではということで、ファンレターコンクールをやり、優勝者にはジャイアンのサイン入りパネルをプレゼントすることになります。

 ドラえもんの道具を使って、自らデザインしたステージ用の格好に変身したジャイアン(ヘアスタイルはアフロにターバン、片目をふちどりしたアイメークに口紅、ほっぺに☆、衣装は素肌に毛皮調ノースリーブ、ピタピタのヘソだしシャツ、ブリーフ、編み上げサンダルという、ある意味奇跡的なセンス。〈そっぽをむいて「おぞましい……」と吐き気に耐えるのび太〉)はマイクを片手にウィンクをしながら
「ポーズはこれでいいか?」
と、撮影者であるドラえもんに確認をとります。

いい、いい、どうでもいい.png

 ドラえもんは冷や汗を浮かべながらもどうにか笑顔を作って
「いい!いい!」
と、あわせますが、どさくさまぎれに
「どうでもいい」
と、付け加えています……。

 こうして撮影の済んだパネル、大きさはジャイアンが決めるということで、その間ドラえもんとのび太は周囲にファンレターを応募するようにと呼びかけます

(さすがのしずかちゃんですら「そんなの(パネル)もらっても置き場が……」と困惑、ドラえもんが「かざっておけば魔除けになるよ」と無茶苦茶な説得をします)

 最後は投票を呼び掛ける車よろしく、タケコプターで町を巡って、応募を促すのび太とドラえもん。
「ださないとたたりがあるよー」
ジャイアンが聞いたら激怒するであろう一言もまじっています。

 結果、集まったのは、いかにも投げやりな汚い字で書かれた13通。

「(カナクギ字で)どうか入選させないでください。パネルがあたりませんように。とく名希望」
 これはまだ良い方。

 ここぞとばかりに、積年の鬱屈をしたためた手紙も入っています。

ジャイアンの歌にはしびれる.png

「ジャイアンの歌にはしびれる。しびれて気が遠くなって熱が出る。ジャイアンの歌を聴いていて一番うれしいのは終わった時だ」
「この世で恐ろしいのは核兵器とジャイアンの歌だ。世界平和のため、核兵器とジャイアンの歌を追放しよう!!」
 こんなの見せたら殺される。と震え上がるのび太とドラえもん。

 仕方ないので、誰でも心を打つ文章が書ける「模範手紙ペン」でのび太がファンレターを書くことにします。
「ぼくには不思議でたまらないのです。どうして紅白歌合戦にジャイアンが出ないのでしょうか。これからも男の心を歌い続けてください。世界人類のために!!」
……当然これが一等に。

 この「ホットなレター」を読んだジャイアンは、涙ながらに、
「心の友よ!きみのようなファンをもって僕は幸せ者だ!!」
とのび太を抱きしめます。(のび太、うんざりして目が「十」になってる)

 というわけで、ジャイアンが持参した賞品の超特大パネル。

 窓際の天井からドア側の床まで斜めに置いてもまだ「アノステージ衣装のジャイアンの笑顔」いっぱいいっぱいで、部屋の片隅で「ぼくたちの居場所がない!!」
と、のび太とドラえもんが嘆き悲しむというオチ。

 個人的にあまたある傑作のなかでも屈指の作品だとおもっています。

 セリフも名言揃い。

 とくに撮影中のドラえもんの
「いい!いい!」
「どうでもいい」
は、自分にはとても染み入ります。

 集団において平穏に生きていくためには、したくもない同意をしなければならないときがあると悟ってから、人生で何度このフレーズ、しかたなく笑うドラえもんの表情を思い出したことか……(遠い目)←わりと早い時期に悟った模様。

 よろしければ、コミックを手に取ってみて読んでください。
(当然このご紹介文より、藤子Fさんの、あの丸っこくてカワイクて優しい線のキャラがああいうシビアなことを言うコントラストのが圧倒的に面白いですから。)

 そして、ときに本心を押し殺して生きざるをえない人間のせつなさを、爆笑でそっとつつんでみてください。

 読んでくださってありがとうございました。
posted by pawlu at 04:32| ドラえもん | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年01月20日

「ジャイアンリサイタルを楽しむ方法」(『ドラえもん』より)

今回もドラえもん作品のうち個人的に好きな作品を文でご紹介させていただきます。
(なのでネタバレです。先にコミックをお読みになることを強くおススメいたします。)
てんとうむしコミックス24巻、あるいは小学館コロコロ文庫『ドラえもんジャイアン編』に収録されています。

ドラえもん  24

「ジャイアンリサイタルを楽しむ方法」
ご存知の通り、ジャイアンと言えばゴキブリから魔物にいたるまで逃げ出す、逆奇跡の歌声の持ち主ですが、そんな彼のリサイタルを生き延びるために、のび太とドラえもんがある奇策に打って出るという異色作です。

以下結末までのあらすじです。

 パパがまたしても禁煙に挫折したのを知ったのび太は、ママの言っていた「ニコチン中毒」という言葉の意味をドラえもんに尋ねます。
「ニコチンという成分が体にしみつくとタバコを吸わずにはいられなくなる。頭がボーッとしてイライラして仕事も手につかない」
という説明を聞いたのび太は、怖いものだと思いつつ、中毒を治す薬を持ってない?と聞きます。

 無いけど中毒にする薬はある、とドラえもんが出したのは
「ヤメラレン」(笑)
 嫌いなものを好きにさせるときに使うとのこと。
(使用例:ニンジン嫌いの子にこの薬と一緒にニンジンを食べさせると、ニンジンが好きでたまらなくなる。)

 と、そこにジャイアンが尋ねてきた声がします。

「隠れろ!居留守を使え!!」
突然押入れに飛び込むドラえもん。

 なんでそんなことしなきゃならないんだと、忠告を聞かずに降りて行ったら、ジャイアンに手渡されたのは、間もなく開始のリサイタル「ジャイアン激唱」(笑2)のチケット。

 友達全員(居)留守で見つからなかったが、のび太がいてくれて助かった、と、喜ぶジャイアンは、残りの観客も草の根分けても探し出して聴かせる、と言いながら出ていきます。

 自分の分までチケットもらってくるなんて酷い、と、泣いて責めるドラえもんですが、なすすべもなく、おそらく、たったふたりであの殺人的な歌をたっぷり聞かされることになるであろう事態を思い浮かべ、
「はたして無事に耐えきれるだろうか!?」
「神様、お救いください!!」
と、互いにすがって泣きます。(かわいそう)

 しかし、そのときのび太に妙案が浮かびます。
 どうせ聞かされるなら、「ヤメラレン」を飲もう。
「『ジャイアンの歌中毒』になろうっていうこと?」
 ドラえもんはあまり気が進みませんでしたが、しかし、ほかに道はありません。

 会場(空き地)に集まった観客はやっぱり二人だけ。

 ジャイアンはおかんむりでしたが、
「君たち二人は真の芸術の理解者だ」
と、のび太たちをねぎらい、
「のどがさけるまで俺は歌うぞ!!」との熱い決意表明(「ありがたいなあ」と拍手する二人、涙目)とともに
「歌こそ命〜、我が命よ〜。オ〜オオ〜オ〜」
と熱唱しはじめます。
 
 聴くなり大急ぎで薬を飲んだ二人。

 「ボエ〜」
 響き渡る人体に有害な音波の前で顔を見合わせ、
「それほど悪くないんじゃない?」
「わるくないどころか……」
「天才だよこりゃ」
 とたちまち目を見張り、
「いいぞいいぞ」
「日本一!いや世界一!」
とステージ(木箱)上のジャイアンに声援を送ります。

「ほんとか、おい。ありがとよ…歌一筋に生きてきた甲斐があった」
感涙にむせび、歌い続けるジャイアンに
「キャー!ジャイちゃーん!!」
「しびれるぅ!!おしっこもれそう!!」
と、マイケル・ジャクソン相手にも言わないような声援とともにスタンディング・オベーションで大熱狂するのび太とドラえもん。

ジャイちゃーん1.png

 一方、こっそり様子を見に来たスネ夫たちは、空き地をのぞきこんで、
「ここから聴いててさえ寒気のする歌なのに」
「ありゃお世辞じゃなさそうだぜ」
「どういう神経しているんだ」
と、あきれ返ります。

 二時間で終わるはずのコンサートに、アンコールを要求したのび太とドラえもん。
 「そ、そんなにも俺の歌を……」
 熱い涙で頬を濡らし、二人を抱きしめたジャイアンは再び歌い続けます。(あまりの感動に泣き叫び、鼻水まで流してテープを投げて声援を送る二人)
ジャイちゃーん.png

 さすがに夜になって声がかれ、立ち上がることもできなくなってしまったジャイアンは、「かんべんしてくれよう、明日続きをやるから」と頼み込んでコンサートを終わらせます。

「根性がないぞ!!」
「そんなことでプロになれるか」
 と不満そうな二人でしたが、
「約束を忘れるなよ!!」
 と、ジャイアンの家の前までついてきて念押しをしてから家に帰ります。

 いいクスリだ、と、すっかり満足の二人。

 そのときパパの禁煙問題を思い出したのび太は、パパをチューインガム中毒にすることを思いつきます。(ガムを噛みながらタバコは吸えないから)

 「ガムってうまいものだなあ!」
 最初はしぶっていましたが、まんまとチューインガム中毒になったパパ。

 これで一安心と思っていたのですが、その翌日。

 「約束破るなんてそれでも男か!!」
 怒りながらジャイアンを探し回るのび太とドラえもん。
(ジャイアンは物陰に隠れて、目の前のスネ夫に「しーっ」の仕草〈スネ夫あっけ〉)

 「ああ聴きたいなあ」
 「頭がボーッとしてイライラする」
 食事をしながらも、二人とも中毒症状でうわのそらです。

 一方パパはママが呼んでも食事に出てきません。
「今口に入れたこの一枚を噛み終わるまで待って」
 ソワソワしながらも一生懸命ガムを噛むパパを見たドラえもんはのび太に
「あの薬効き目が強すぎるのかな」
 と、言います。
                                              (完)

 とにかく、全ドラえもん作品中二度と観られない、「ジャイアンの歌にマジ熱狂するのび太とドラえもん」が観られるところが最大の魅力です。

「キャー!ジャイちゃーん!!」
「しびれるぅ!!おしっこもれそう!!」
 ……このコマは子供の時読んでも大爆笑だった記憶が残ってます。(そして、それにドン引きなスネ夫たちの反応も。)

 あと、草の根わけても観客を探そうとしていたジャイアンが、のび太たちから逃げ惑う逆転現象ですね。

 しかし、中毒になってしまったあとの状況については、逆に大人になってから読むと、ひやりとするところもあります。

 こういう作品を読むと、やっぱり、藤子F先生は、ドラえもんを子供たちだけに向けて書いていないんじゃないかなと思わされます。

 子供はもちろん、その子の親も笑わせ、その子が大人になったらそのときも笑わせ、となるような仕掛けがたくさん盛り込まれています。

 だから、いくつになっても、何度読んでも面白いのです。

 もし、この文がもう一度ドラえもんを手に取ってくださるきっかけになれば幸いです。

 読んでくださってありがとうございます。
posted by pawlu at 08:01| ドラえもん | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年01月19日

『ドラえもん』「きこりの泉」きれいなジャイアン登場(※ネタバレあり)



 今や、ドラえもんファンの間では伝説的存在となった「きれいなジャイアン」は、「きこりの泉」(てんとうむしコミックス36巻収録)の回に登場するキャラクターです。




(文庫版『ドラえもんジャイアン編』にも収録されています。)




 全ドラえもん作品の中でも、最高傑作に挙げる方も多いであろう「きこりの泉」。


 以下、結末までのあらすじです。



 のび太が大事にしていたぴかぴかのグローブを、

 「のび太はエラーばっかりでボールに触っていないからグローブがきれいなんだ。ジャイアンの(ボロボロの)ととりかえたほうが良いよ。グローブも役に立てて喜ぶさ」

 というスネ夫の残酷にして無茶苦茶な提案で強引に交換させられてしまったのび太。


 当然、「ドラえも〜ん!」と泣いて帰ってきますが、「のび太〜!」とドラえもんも泣きながら出迎えます。


 ドラえもんの大事などら焼きをパパが知らずにかじってしまったのです。


 残り半分になってしまったどら焼きをあきらめきれないドラえもんが、出した秘密道具が

「きこりの泉」。



 童話「しょうじきなきこり(※)」を下敷きにした機能をもつ道具です。

(※)きこりが大切なオノを泉に落としてしまったら、泉の中から女神が現れ、「あなたの落としたのは、この金のオノですか銀のオノですか」と尋ねてきたので、正直に「いいえ、鉄のオノです」と答えたら、そのオノと一緒に金銀のオノも貰ったというお話。

 ドラえもんが食べかけのどら焼きを泉に落とすと、座布団大のどら焼きを持って女神があらわれ、「あなたの落としたのはこの大きなドラやきですか」と尋ねます。


 ドラえもんが正直に「いえいえ、食べかけのどら焼きです」と答えると、女神は正直のご褒美に座布団大のどら焼きをくれて、泉の底に戻っていきました。

(ただし、童話と違い、最初に落としたものは戻ってきません。あくまで交換です。)


 これにならってボロボログローブをぴかぴかのにしたのび太は、しずかちゃんにも使わせてあげることにします。


 小さくなって着られなくなった洋服を、素敵な服に交換してもらい喜ぶしずかちゃん。


 その様子を通りがかりに見たジャイアンは、自分にも使わせろと言います。


 のび太のグローブも平然と強奪したジャイアンのこと。当然、欲の皮がつっぱっているので、家から大きな段ボール山盛りに古い品物を持って出てきます。


 しかし、その重さによろけて、ザンブと泉に転落。


 「これですか」

 現れた女神が連れて出てきたのは「ジャイアンのフォルムに出木杉君をもしのぐ端正な目鼻立ちの少年」。

画像 きれいなジャイアン いえ、もっときたないの - コピー.png


 驚いたのび太とドラえもんが反射的に

 「いえ、もっときたないの」

 と、正直にもほどがある返答をしてしまうと、女神はにっこりと微笑みました。


 「しょうじきのごほうびに、きれいなジャイアンをあげましょう」



画像 きれいなジャイアン「どうする?」 - コピー.png


 「どうする?」

 二人にフレンドリーに手を置いて、すがすがしい笑顔を見せる「きれいなジャイアン(心もきれいな模様)」を見上げ、迷う(←……)のび太とドラえもん。


 背後では「交換されたきたないの」として泉の底に回収されそうになっているジャイアンが、女神の白い御手に引っ張られながら

 「たすけてくれ〜〜!!」

 と、必死で叫んでいました。


(完)



 それまでいかにも児童漫画的に、「あんなこといいな、できたらいいな♪」風に進んでいたお話が、突然「きれいなジャイアン」のビジュアルと、ドラえもんとのび太の「いえ、もっときたないの」という、思わず言うには失礼すぎるセリフに続く、大胆な構成。

  長年の友人が泉の底に引きずり込まれそうになって、助けを求めているのに、「どうする?」と考え込む二人もシュールです。


 ところで、この話にちなんだきれいなジャイアンのフィギュアというものも存在します。



 ※2014年当時限定版が1万円程度で販売されていましたが、そちらは完売済みの模様です。


 作った方と買った方のセンスと英断に心から賛辞をお送りしたいと思います。


(また、藤子F不二雄ミュージアムでは、この話にちなんだきれいなジャイアンが登場するスポットというのがあり、人気を集めているそうです。やっぱりファンにとって最も印象深い作品のひとつなのですね。)



posted by pawlu at 07:00| ドラえもん | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年01月18日

続ドラえもんアメリカへ(アメリカ版Amazon電子書籍でドラえもん発売)読者レビュー概要ご紹介

先日、ドラえもんの電子書籍版がアメリカのアマゾン(ネット通販会社)で販売開始(2013年末より)というニュースをご紹介いたしました。過去記事はコチラ
(商品購入ページはコチラ

 今回は、この商品についてアメリカの方たちがどう言っていらっしゃるかの概要をご紹介したいと思います。(レビューページはコチラ
(わたしのアテにならない語学力による上、とてもざっくりと意訳しただけなので、だいたいこんな感じのことを言っているんだなくらいに思っておいてください〈汗〉)
 
(タイトル:ついにアメリカに。間違いなく待っただけの価値のある作品です)

 ドラえもんのキャラクターを最初に見たのは香港に旅行に行ったときでした。
 以来、どうしてアメリカの誰もこの漫画を輸入しようとしないのかと不思議に思ったものです。結局これは今に至るまで実現しませんでした。アジアの多くのファン(そしてアメリカのディープなオタク)が言うとおり、このシリーズは間違いなく良作です。
 このシリーズの中心人物はノビー(日本名はのび太)というほとんど日本版チャーリー・ブラウン(補:スヌーピーの飼い主の少年)のような少年です。
 のび太は近所でもっともツイていない子で、何をやってもまともにできません。それが彼の未来の子孫に恐ろしい影響を及ぼすため、彼のひ孫のソビー(セワシ)が、彼を助けるためにロボット使用人(補:ドラえもんのこと)をのび太のもとに送り込みます。
 このシリーズは子供と同様に大人をも失望させませんし、「ナルト」や「ワンピース」のような、日本のアニメや漫画によくある暴力的場面もありません(どちらもいい作品ではありますが、小さな子を持つ親からすると好ましくないでしょう)。
 ドラえもんは子供からコアなオタクにまで訴えかけるものをもち、先ほど述べたような作品とは異なるタイプの魅力を持つ漫画として、親も安心して子供に読ませることができるものです。キンドル等を持っているなら、ホリデーシーズンにお子さんに買ってあげる作品として強くお勧めします。

 原文は以下の通りです

(It's finally in the US, and was definitely worth the wait)
I remember first seeing the Doraemon character on a trip to Hong Kong back in June 2007. From that point on, I was wondering why no one in the United States was willing to import this Japanese franchise to the United States. It's true, this manga series has never made it to the US, until now. I have to say this series is as good as many of its fans in Asia say it is (and of course the few American otaku who have heard of him just by being basement dwellers). The series focuses on a boy named Noby (or "Nobita" as he's called in Japan) who is pretty much like a Japanese Charlie Brown. He is the unluckiest kid on the block and just can't seem to get anything right. It has a horrible effect on his future descendants, so his great grandson, Soby (Sewashi), to send his robotic servant out to help him. This series does not disappoint when trying to appeal to kids and adults alike, as anime and manga in general are being stereotyped as violent action shows thanks to the likes of Naruto and One Piece (which are both still good, but probably wouldn't be liked by parents of young children), Doraemon is an example of a series that can appeal to kids and hardcore otaku alike, and parents can trust the stories in this manga to be appealing without the tropes I mentioned before that they most associate with anime nowadays. It's a definite must in my book if you have a Kindle and want to shop for eBooks for your children online here at Amazon.com this holiday season.
(Matt Norcross氏のレビュー)

 のび太がチャーリーブラウンに似ている(a boy named Noby who is pretty much like a Japanese Charlie Brown.)というのはナルホドと思いました。確かに二人とも心優しいけれど何をやってもうまくいかないというところがあります。
 それに人間以外の相棒(ドラえもんとスヌーピー)がいるところも。

 余談ですが、ここで、「非常にツイテない子で、何をやってもだめという性質が、彼の未来の子孫に恐ろしい影響を及ぼす(He is the unluckiest kid on the block and just can't seem to get anything right. It has a horrible effect on his future descendants)」というのが具体的にどういうことかご説明させていただくと、のび太が就職できずに立ち上げた会社が火事を起こし(そのときの写真を見る限り社長自ら花火で遊んでいたかららしい〈なんでだ〉)、おそらく元からうまくまわっていなかったことも手伝って借金まみれになるという展開です(その返済が曾孫セワシ君の代まで続いている)。会社丸やけ記念.png

 借金取りに詰めかけられて胸ぐらをつかまれているのび太を、子だくさんの妻ジャイ子(歴史が変わる前は彼女がのび太の嫁〈そして年を追うごとにジャイ子はふくよかに、のび太はやつれていく……〉)がなんとかしろ的になじっている様子が記念写真におさめられています(誰が撮ったんだ)。

借金取りおしかけ記念.png


 この方のおっしゃるとおり、子供に最適な漫画なんですが、こういうシビアさはむしろ「ナルト」にも「ワンピース」にも無いよな……。

 ちなみにこのエピソードはてんとう虫コミックス1巻、第一話に収録です。

ドラえもん 1

 もう少しの読者レビューも簡単にご紹介いたします。

 (タイトル:ドラえもん……ついに!イエーイ!)←明るいなあ……。
 これは昔の、1960年代の漫画です。
 アジアの漫画レイアウトなので、普通に読もうと画面をスワイプしてみたら何も起きませんでしたハッハッハ(アメリカの漫画は左から右に展開するので、逆に動かさないといけないということかと)ドラえもんはとても面白いです。日本版ミッキーマウスとでもいうキャラクターで、アジア中で人気があります。アメリカは日本での最初の発売から40年以上経ってからこれを見出しました。そして驚くべきことに発売から40年経った作品なのに、物語、冒険、秘密道具は今の我々にも新鮮に映ります。

(Doraemon…finally! Yay!)
OK, these are the older comics, tracing back to the 1960s. Doraemon will look better. Funny that pages turn the "Asian" book way so that when I first swiped the screen the "normal" way, nothing happened. Ha ha! Doraemon is so much fun. It is the Mickey Mouse of Japan and wildly popular across Asia. America is only discovering it more than 40 years after it was first published. And the amazing thing is that even if it's 40 years ago that Doraemon was first published, the stories, the adventures, and gadgets remain fresh in our time.
(wonkifer氏のレビュー)


 他にも数件レビューがありますが、皆さんかなり予備知識があるようで、概して「やっとアメリカにも到着したか」「全く古びていない作品」「大人にも子供にも面白いよ」ということを好意的に書いていらっしゃいます。とても的確な意見だと思い、それこそ日本のコアなオタクである私も読んでいて嬉しく思います。

 確かに日本の漫画が海外で支持されている理由の一つである「絵の華やかさ」がドラえもんにはありませんが、一番丁寧にレビューを書いてくださっている方が触れている通り、代わりにこの作品にはスヌーピーのようなキャラクターの個性とセリフの機微があります(あと子供の世界も案外大人同様せちがらいってさりげなく書かれているとか……)。スヌーピー同様にキャラがまるっこくてカワイイのに、言ってることは深いってギャップも相通ずるものがある。
 
 お子さんたちは言うまでもありませんが、スヌーピーのカワイサの裏にある哲学を愛するアメリカの大人が、併せてじっくり読んでくださるといいなあと思います。

 しかし今回思ったのですが、「ドラえもん」がようやくアメリカ上陸ということは、おそらく「サザエさん」(4コマのほう)もまだ一般には知れ渡っていないでしょう。それにこれはもっと売り出しにくいかもしれません(完全に「日本の普通の人の暮らし」がベースですから)。

 それから、文学の世界だと、現代作家や、耽美的ないかにも日本らしい作品を書いている作家に比べ、意外と夏目漱石のウケが悪いです。(いちおうイギリスの本屋で傾向を確認してきた。なくはないのですが、あんま置いてないのです。)
 わたしは上記3つが日本の漫画・小説の最高峰、世界にも類を見ない名作だと思っているので、よりにもよってこの作品群が無冠の帝王状態になっているのがなんか残念です。

 今後この良さがもっと広まってくれることをせつに願います。勿論日本の人たちにも。だってホントすごいんだから。

 読んでくださってありがとうございました。
posted by pawlu at 11:24| ドラえもん | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年01月17日

ドラえもんアメリカへ(アメリカ版Amazon電子書籍でドラえもん発売)朝日新聞デジタル記事より

 今日は明るめにドラえもんについてご紹介させていただきます。

2013年11月22日からアメリカのAmazonでドラえもんのコミック電子書籍が配信開始されたそうです。
  (朝日新聞デジタル記事はコチラ
51M2gzuiNuL__AA278_PIkin4,BottomRight,-34,22_AA300_SH20_OU01_.jpg

  (アメリカ版Amazonの配信ページはコチラ
 
 というか、今まで売っていなかったんですね。

 アジアやスペインでは有名なんですが(なぜスペインかは知りませんが、この素晴らしい作品を紹介しようと思い立った賢くて立派な人がいたに違いありません〈真顔〉)。

 
 私にとってドラえもんは世界最強の漫画(否定意見不受理)。

 なんの冗談でもなく幼少時代ドラえもん読みたさに必死で字を覚えたので、もはや好きなどというレベルではなく、私の脳の言語野はドラえもんによって形成されたといっても過言でもありません。

 長ずるにつれ一応読書や映画鑑賞も趣味になりましたが、むしろそうやって色々なものに触れてからドラえもんを読み返すと、そのセリフやギャグの抜群のセンスや、あたたかさに気づかされ、ますます惚れこんでしまいました。

 今は私のような大人ドラえもん崇拝者の方も多いと思いますが、まだまだ「子供の時に読んでいずれ卒業するもの」と思われているのが無念でなりません。

 ホント笑えるし泣けるのに。

 朝日新聞の記事によると、「頼りないのび太はアメリカではウケないのでは」という懸念で今まで先送りにされてきたそうですが、是非そうおっしゃらずにちゃんと読んでほしいです。

 それにのび太は頼りなくないです。

 射撃の超達人で、タイムマシンに乗ってアメリカ西部の町に行った際はならず者の集団を麻酔銃ですべて眠らせたし(コミックス24巻)、大長編「のび太の宇宙開拓史」では、のび太の友達ロップル君たちの住む星から彼らを追い出そうとした悪役ギラーミンと、クライマックスシーンで、早撃ちの決闘を繰り広げています。


ドラえもん 24


大長編ドラえもん 2 のび太の宇宙開拓史

「ノビタとかいう奴前に出ろ。腕利きのガンマンと聞いた。決闘だ」

(のび太、ショックガン〈相手を気絶させる銃〉をとりだしながら皆の間から出てくる)
「ぼくにまかせておけ。なあに負けるもんか」

 
 ギャー!!超頼もしー!!(←あー変態だ)

 まあ、この特技以外にも人間として優しくて味わい深いキャラなので、そこがわかるまでちゃんと読み続けてくれる方が多いといいなあと思います。(もちろん日本の方たちも)

 それはそれとして、朝日デジタルの記事で紹介されていた画像から英語を拾い読みして、アメリカでドラえもんたちの紹介文(アメリカ向けに設定が変更されている部分を含め)で面白かった部分を一部訳せていただきたいと思います。
引用画像はコチラです。

@ドラえもんの好物

 どら焼きがFudgy Pudgy Pie(ふかふかのパイ)に変更されています。

 具体的にそういうお菓子があるのかと思いましたが、ちょっと見つかりませんでした。

 パイじゃないけど似た名前のケーキがありましたので、一応レシピを貼らせていただきます。美味しそうなクリーム入りのチョコケーキです。

 レシピはコチラ
(でもこれバクバク食べるのお金かかりそうだなあ……。)


 これで、あの、

「どら焼きをしばらく食べていないと、ウォーアオーと苦悶の声をあげて部屋でのたうちまわる」

「『(ドラえもんが作った太陽光燃料を売って)もうけたお金で会社を作れば、社長としてどら焼き食堂(ドラ焼きカレーなど傍目にはあまりそそられないメニュー多数)で食べまくれる』というのび太の甘言に目がくらみ、燃料を買いに来たご近所の方たちに対して売り値をつり上げまくる」

という、小学生向け漫画じゃヤバいんじゃないか的な(私はそこが好きなんですが)狂気にも似たどら焼き愛が伝わるといいのですが。

Aのび太(Noby〈米向けあだ名〉)

 A good kid who needs to learn to stick up for himself and stop being so lazy.
 
Stick up for で「〜を守る、支持する」という意味だそうです。(すみません一時「指示する」と誤植で書いてしまっていました。訂正させていただきます。)
 なので、
「自分自身を守ることと、すごい怠けぐせを直すことを学ぶ必要がある気立ての良い子」
 といったところでしょうか。

 のび太理解入門編(なに?)としては的確ですね。

 屁理屈(ただし本人は正論だと信じている)は禅問答の和尚並みに巧い(※)とかはおいおい読んでいただくとわかるんですが。

(※)部屋を散らかし、ドラえもんに「穴の開いたグラスなんていらないだろ」と捨てるように促された際、「のどが渇いていないときに使える」と真顔で拒否していた。

(でもむしろこういうセンスこそ、台詞がすごく哲学的なスヌーピー〈コミック名は「Peanuts」〉を生んだアメリカには届くんじゃないかと思うんですが。)

 
Bジャイアン(米版あだ名Big G〈←カッコイイ【笑】〉)

A typical schoolyard bully. His singing is the terror of the neighborhood.
schoolyard bullyで「学校でのいじめっ子」だそうです。

「典型的な学校でのいじめっ子、彼の歌は近隣住民の恐怖となっている」ですかね。

 ちゃんと大長編では非常に男気がある(※)というところもゆくゆくはアメリカに伝わるといいのですが。

(※)「のび太の海底鬼岩城」ではのび太が数十メートルの大王イカに襲われた際に、バットを持って「こらあお化けイカ!のび太をはなせ!!」と、ためらうことなく飛び出して行っていた。
このほかにも感動エピソード多数なんで、これは回をあらためてご紹介させていただきます。

大長編ドラえもん 4 のび太の海底鬼岩城

 ところで今回「neighborhood」という語で気づいたんですが、あの子供たちが全員顔面蒼白で参列し、公演中は気絶しないようにと腹に力を入れて必死で耐える「ジャイアンリサイタル」、会場である空き地を囲むお宅の方々は何も言わないんでしょうかね。

 一度かあちゃんが「近所迷惑な歌はおやめと言っているだろ!」とジャイアンを叱りつけていますが、それでも結構頻繁に実施されているんですが……。

 以上です。この話題について英語版のページもありましたので、よろしければご覧になってください。

 英語版朝日新聞の記事はコチラです。

 この記事の続編として、アメリカ版のレビューを大まかに訳した記事もアップさせていただきました。よろしければ御参照ください。(続編記事はコチラ

 読んでくださってありがとうございました。
posted by pawlu at 09:21| ドラえもん | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年03月09日

「藤子・F・不二雄 ふしぎ大百科」(NHK BS h)


取り急ぎご連絡まで。(英語ともイギリスとも関係の無い話題ですが……)

 明日(2011年3月10日【木】)NHK BS hで「藤子・F・不二雄 ふしぎ大百科」という番組がやるそうです。

 言わずと知れた「ドラえもん」の作者、藤子Fさんの素顔が紹介されるそうです。

 わたしは冗談抜きで「ドラえもん」で字と言葉を学んだクチで、今でもあの漫画にメロメロに惚れています。
(当ブログでもケンブリッジという町ひさしぶりトランクという記事の一部で、ドラえもんの内容を引用させていただいております。)

 夢も、笑いも、涙も、愛も、友情も、賢さも、世知辛さも、毒も、シュールさも、みんなあの丸っちくて心温まる絵の中にある。

 間違いなく、世界最強の漫画のひとつです。

 イギリスでの一年間の暮らしの中で、スペインやアジアの人とお話する機会がありましたが、あちらでもドラえもんは人気だそうで、大人のかたに、真面目な、やや心配そうな顔で「ドラえもんの最終回は『全部のび太の夢だった』というのは本当ですか?」と聞かれたこともあります。(そんなの寂しいと思われたそうで)

 そのくらい年代も国籍も超えて人の心をつかめる作品だということです。

(とくに大人になって再読すると、「禅問答を思わせるスケールや、大人をギクリとさせるウィットを内包する台詞(※1)」と、「かわいらしい絵(※2)」のコントラストがたまらない……)

 この偉大な漫画の作者である藤子・F先生。

 詳しくは存じませんが、大変優しい方だったというお話は、以前のドラえもんの声優さん、大山のぶ代さんの著書「ぼく、ドラえもんでした」で読んだことがあります。

 明日は、藤子・F先生のどんな人物像が語られるのか。藤子不二雄A先生や、元編集者、ご家族の方々も取材に応じていらっしゃるそうなので、本当に楽しみです。皆様もよろしければご覧になってみてください。では。

(前回予告させていただいた、ミュージカル「ヨセフ」や映画「英国王のスピーチ」の記事も近々更新させていただきますので、しばらくお待ちください……)

(※1)【例】自称歌手ジャイアンに(大長編では、魔物も吐き気をもよおし逃げ去るという、ある意味奇跡の歌声の持ち主)ファンレターを書いて、パネルを貰うというコンクール企画を強制された近所の子供たち(「ジャイアンリサイタル」では定期的に死ぬ思いをさせられている)。届いた手紙はいずれも投げやりな字で、十三通。

 中身は「ジャイアンの歌にはしびれる。しびれて気が遠くなって熱が出る。ジャイアンの歌を聴いていて一番うれしいのは終わったときだ」など。

 ちなみにパネル撮影を担当したドラえもんは、ヘソ出しルックでビジュアルメイクにカラフルウィッグのジャイアンにウインクされながら「ポーズはこれでいいか。」と聞かれ、「いい!いい!どうでもいい。」と満面の作り笑いをしていた。

(「ジャイアンへのホットなレター」より【大人が再読するとこのタイトルのセンスにもしびれます(本来的な意味で)】」てんとう虫コミックス第35巻)

(※2)ドラえもん自身も、丸くて、笑顔がいかにもお人よしな感じで、カワイイのですが、最高傑作は「ツチノコ(かつて日本中を騒がせた幻の短い蛇)」。
一般的にはコブラを短く太くしたような姿(跳ねるとも毒があるとも噂されたそうです)とされていたようですが、藤子ワールドでは、「大きめの大福もちを二つくっつけたような頭と体に、ちょっと引っ張ってちんまりした尻尾をつくったような姿。ゴマ粒のような小さくて罪の無いまなこで、しま模様、個体によっては何故かヒゲ」という世にも愛くるしい姿をしています。
 ちなみに未来の世界ではツチノコはペットとして大人気で、犬みたいにお洋服や赤ちゃん風の帽子姿でお散歩したり、餌を食べるために「アーン」と口を開けて立ったり、人に撫でられてあの尻尾をピコピコ振ったりしています。

(「ツチノコ見つけた!」より。てんとう虫コミックス9巻)

 あんなに可愛くて人懐こいなら、うちにも一匹いてほしいくらいですが、これはドラえもんファンには伝説のキャラのようで、フィギュアが売り出されたこともあるそうです。  
あのしま模様のお餅の妖精のような全身には、藤子Fさんの夢見る力と、子供たちへの優しさと、希代のデザインセンスが詰まっています……。
posted by pawlu at 22:50| ドラえもん | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
カテゴリ