2016年09月02日

ドラえもん誕生日記念「地底のドライ・ライト」ご紹介(※ネタバレ)(欲に目がくらんだドラえもん大暴走の回)


 明日9月3日はドラえもんの誕生日です(2112年9月3日うまれ)。

(なんでも連載開始時、対象読者とのび太が小学4年生で、当時の小学4年生男子の平均身長129.3pにちなんで決められたそうです。)
(「ドラえもん‘s ホームページ」内「ドラえもんの誕生日に秘められた秘密」を参照させていただきました。
http://www2.anakama.com/basicofdora_2.htm

 これを記念してか、NHK BSプレミアムで9月5日午前9時より、藤子・F・不二雄ワールド誕生までと先生ご自身のエピソードを紹介したドキュメンタリー「藤子・F・不二雄ふしぎ大百科」が再放送されます。

 藤子F先生の温かなお人柄が伝わるとても良い番組でしたので是非ご覧になってみてください。

(番組公式HP http://www4.nhk.or.jp/pcafe/x/2016-09-05/10/8964/2315603/

 今日はドラえもんを勝手にお祝いして、普段とても頼りになるドラえもんが、ドラやき愛ゆえに人が変わってしまった異色作、「地底のドライ・ライト」をご紹介させていただきます。
(なんでお祝いでそういう側面を扱うのさ)

てんとうむしコミックス33巻収録

ドラえもん (33) (てんとう虫コミックス) -
ドラえもん (33) (てんとう虫コミックス) -

以下あらすじです。(ネタバレなのであらかじめご了承ください。)




 冬のある日。

 部屋の石油ストーブを「部屋のあちこちでストーブをつけておくなんてもったいない」と、ママに消されてしまったのび太とドラえもん。

 ケチだとぶーたれるのび太に、「うちの苦しい経済事情も、わかってあげなくちゃ」と物わかりのよすぎる発言をするドラえもん。
 図星でしたが、ママは、地球には石油がもうあまり残っていないから大事に使わないと、と、ごまかします。
 それを聞いたのび太は、石油がなくなったら乗り物は止まるし、電気は止まって暗くて寒くなって……とはげしく怯えます(すなお)。
 そこで、ドラえもんが22世紀の主要エネルギー資源、「ドライ・ライト」のかけらを見せてあげます。

 太陽光線のエネルギーをドライアイスみたいにかためたものだというそれは、非常に温かく、光をはなち、寒さに触れると、暑い場所でのドライアイスのように溶けてしまうという性質を持っていました。

 実は夏の間、地面に降り注ぐ日光をドライライトにして、その鉱脈をのび太家〜町内の地下に貯蔵していたドラえもん。保温容器に入れて、いるだけ出して使うことにします。(鉱脈への入り口も要密閉。)

 カイロにも、照明にもなり、やかんに入れればお湯を沸かせるという、非常に便利なこの燃料、なんてすばらしい!と感動したのび太は、ドライ・ライトを販売する会社の設立を持ち掛けます。

 やがては世界中に輸出して大儲け……と展望を語るのび太を、きみはすぐそんなこと考える!!と強くたしなめるドラえもん。

 ところが、「安くて便利なエネルギーが手に入ればみんなよろこぶよ。悪い?」ともっともらしいことを言われた挙句、ドライライトで儲ければドラやき食べ放題とそそのかされたドラえもん、「や、や、やろう。やろう!!」 とよだれをたらしてじたばたし、いそいそ訪問販売を開始します。

 100g100円で町内の人々に売り出そうとしましたが、高いからいらないとか、友達相手に金もうけしようなんて!とか言われて、まったく売れずに寒風の中、スゴスゴもどってきます。

 やっぱりこんなことで金儲けするのはよくない……と、思いなおそうとしていたドラえもんに対し、昼寝していたのび太(おい)、
「きみを社長にしよう(提案内に出てくるドラえもん社長、なぜかチョビひげスーツ姿)。ビルなんかすぐたつ(ドラ会社)。そうだ、社長室の横にドラやき食堂を作ろう。いつでもすきなだけドラやきが食べられるの」
と、のび太が提案しているコマに描かれているのは、ドラやきをどんぶり飯に乗せた「ドラどん」、熱々の鉄板で焼いた「ドラステーキ」、あん以外にもなにやら挟んである「ドラバーガー」、カレーソースをかけた「ドラカレー」、半分に切ったドラやきを美しく並べてシソ等を添えた「ドラさしみ」。

ドライ・ライト1.png

ドライ・ライト2.png

 「ドラさしみ」がギリで(シソとかいらないけど)、後は到底一般的に食べたいと思うようなラインナップではありませんが、ドラえもん的には理性が崩壊するほど魅力的なプランだったようで、メロメロ目&よだれダラダラになってしまった挙句、なにがなんでも売ってくる!!と飛び出していきます。

(めずらしく「のび太が見送り、ドラえもんが動く」構成なので、ドラえもんの後ろ姿が多い回。かわいい。〈しかし、のび太もワルよのォ〉)

ドライ・ライト5.png


 どうしたら売れるか考えた挙句、今日のところはサービスで見本をくばることにします。

 「この便利さがわかれば、買わずにはいられなくなるよ。石油だってそうなんだ。昔の人は石油なんか使わずにちゃ〜んと暮らしていた」
(現代人全員身につまされる台詞。)

 ジャイアンたちをはじめとして、まちの人々に「とにかく使ってみて、明日からは100グラム100円」と言いながら気前よくサンプルを配ったドラえもん。

 効果は絶大で、家に戻ってくるころにはもう、大勢の人々が見本をもらいにつめかけていました。

 「そんなに大人気か!?ドラやきは近い!!」
ハート目になりつつ、見本をくばるために鉱脈の入り口を開けていたのび太に
「あけはなすなと言ったろ。溶けちゃうんだ」
と、慌てて扉を閉めました。

 有料化は明日から、と言っていたのに、あまりの反響にサンプル配布を締め切ってしまったドラえもん。それでもいいから分けてと頼む町の人に、
「100グラム100……いや200円!!」
と、いきなり倍の値段を提示します。
 のび太が販売開始早々の値上げを止めようとしても「倍に売れば、ドラやきが倍買えるよ」と、耳を貸しません。

 300円……500円!!と訪れる人ごとにうなぎ上りに値を吊り上げ、「高い!」と町の人(空き地の隣にお住いの厳格なおじさん神成さん)とのび太に驚かれますが、
「高くていやなら、買わなきゃいいんだ。ドラやき…いやドライ・ライトはここにしかないんだから!」
と、横暴論理を振りかざします。

 「500円でいいから売ってくれ」
折れざるを得なかった神成さん。
「それみろそれみろ」
経営方針に余計な口をはさもうとしたのび太に振り向いたときのワッルイ顔ときたら、もはや我々が知っているドラえもんではありませんでした。

ドライ・ライト3.png

 すぐに掘りだしてきます、と、イソイソ鉱脈へ行ったドラえもん。一方、「ドラやきのことになると人がかわったようになる」……と、長い付き合いながら知らなかった友の一面に困惑するのび太。

 そうとは知らず、ドラえもんは、大いにゴキゲンでつるはしをふるって、「おまちどおさま〜」とカモの顧客にドライライトを持っていきました。

 部屋に戻ると、来年の夏はもっと広い場所でドッサリ作ろう、と、のび太に業務拡大を提案し、
「世界中へ輸出して、世界中のドラやきを輸入しよう。ウヒョヒョ。」(ドラえもんには悪いが、どら焼きはそんなにワールドワイドな食べ物ではない。)

ドライ・ライト4.png

 そう言いながら、畳一畳分ほどによだれを派手にたらしまくりますが、ふと気づくと、なんだか暑くなっていました。

 しまった!と庭に戻るドラえもん。

 浮かれて鉱脈の扉を閉め忘れてしまい、時すでに遅し、ドライライトが溶けて町中に流れでていました。

 空き地で半そでやノースリーブ姿で汗をかきながら遊ぶジャイアン、スネ夫、しずかちゃん。

 「みんな夏すがただよ。この暑さ当分続くだろうね」
 のび太のことばに、ひげまでうなだれきったドラえもんは「フニャ……」と声にならない声をもらすだけでした……。

 一般的な味覚ではあまり魅力を感じられない「ドライ・ライトドラ会社のドラやき食堂(『体脂肪計タニタの社員食堂』的なノリで)」や、「世界中のドラ焼き」などのドラえもんの暴走するドラやき愛と、それに起因する悪徳経営者っぷりが印象に残る回です。

体脂肪計タニタの社員食堂 ~500kcalのまんぷく定食~ -
体脂肪計タニタの社員食堂 ~500kcalのまんぷく定食~ -

 ふだんは性格いいんだけど、のび太が言うとおり、ドラやきがからむと豹変してしまうドラえもん。でも、そんな奥行きがあるからこそ、大人になった今でもドラえもんから目が離せません。

 いかにも子供向けにタダシイことしか言わないし、しないキャラだったら、子供時代が終わるとともに読むのもやめていただろうなとつくづく思います。(どんな話だったかもすぐ忘れちゃっただろうなあ。)

 こんなふうにエキセントリックだったり欲にかられちゃうところがあるから余計好きなんだと思います。

 この回が収録されている33巻、あの、「おまえのものはおれのもの、おれのものもおれのもの」というジャイアンの歴史的名言も読めますし(「横取りジャイアンをこらしめよう」の回)、その他名作揃いなので是非お手にとってみてください。

 引き続き当ブログで折に触れドラえもんの魅力をご紹介させていただきますので、お立ち寄りいただければ幸いです。

 読んでくださってありがとうございました。

posted by pawlu at 23:41| ドラえもん | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年08月29日

ツチノコ追加情報(ドラえもん界ツチノコとは真逆の世界ご紹介)


ちびまる子ちゃん 田中さんの証言.png

 前回、「ドラえもんに登場するツチノコは激カワ」ということをご紹介させていただきましたが、本当は(?)かわいくない(らしい)ということがわかる、作品掲載時の1970年代近辺のツチノコ情報や本について追記させていただきたいと思います。

ツチノコ3.png
(藤子F先生デザインだけ、当時からなんでこんなにかわいいのか〈×大泉逸郎〉まったく謎。)

1,『ちびまるこちゃん』「まぼろしのツチノコ株式会社」(コミックス4巻収録)

ちびまる子ちゃん (4) (りぼんマスコットコミックス (472)) -
ちびまる子ちゃん (4) (りぼんマスコットコミックス (472)) -

 ツチノコブームに沸いていた当時、『小学3年生』に掲載されていた、田中さん(58歳・農業)の目撃証言を固く信じたまるちゃんが、デパートの懸賞金100万円を目当てに、親友たまちゃんとエキセントリックな学級委員丸尾君とともにツチノコ探しに出かけるというお話です。

「当時、ツチノコ発見者には懸賞金が贈られるイベントがあった」
「ツチノコには毒があり、飛ぶ(らしい)」
という情報を広く後世に知らしめた作品です。

ちびまる子ちゃん ツチノコの恐怖.png

(当時の子供たちが抱いたツチノコのイメージを象徴するコマ)

※今でも岐阜県東白川村「ツチノコフェスタ」、新潟県糸魚川「ツチノコ探検隊」といったイベントでは懸賞金制度は続いているそうです。
http://higashishirakawa.info/event.htm(ツチノコフェスタHP)
http://nunagawa.ne.jp/tsuchinoko/index.html(ツチノコ探検隊HP)

 「捕獲の暁には(丸尾)スエ夫、タマエ、モモコ(まるちゃん)の頭文字をとり、スタモツチノコ株式会社を経営しましょう」という丸尾君のネーミングセンス(社長丸尾君〈予定〉)や、どう考えてもあてになりそうにない「田中さん(58歳)」の証言を、家族からクラスメートに至るまで失笑されても、熱心によりどころとするまるちゃんの純真(含100万への欲望)が味わい深い名作回です。

ちびまる子ちゃん 見ず知らずの田中さん.png

 まるちゃんの奮起を促すべく、「アナタの業績次第ではあなたをわたしの秘書にしてあげてもよいですよ。ズバリ頑張るとよいでしょう」という丸尾君の提案に対する、「そんな条件でよーしがんばるぞ、と言うとでも思っているのであろうか」というナレーションや、100万を手に入れた後の夏休み、ヨットでカクテルを飲みながら「ヘーイ、カモンジョージーイ♪(誰)」と南国を満喫するビキニ姿のまるちゃんのコマ(妄想)も大人心に響きます。
(前者はドラえもんの至言「いい!いい!どうでもいい!」に通じる一脈のわびがある。)

 2、恐怖の子供向けオカルト図鑑情報

 おそらく丸尾君も「スタモツチノコ株式会社」社長(予定)として参照したのではないかと思われる、1970年代のオカルト系図鑑や児童向け雑誌の記事では、藤子F先生のきゃわゆいぷっくりツチノコと完全に対立する、「短い凶暴なコブラ的ヘビ(跳躍力つき)」の情報が紹介されていました。
 
 この手の本ときたら、仮名遣いこそひらがなを多用していますが、それ以外は話題から絵から子供向け配慮が限りなくゼロに近く、むしろ大人でもそれなりにグロ耐性がある人でないとキビシイものがあります。

 レトロ系ライター(※)初見健一さんのブログで紹介してくださっている、1970年代の怖いツチノコ(想像)が見られるページはコチラです。(こちらは週刊誌の挿絵のようですが、幼少時の私が見たのもこんな感じの絵でした。)

 キャプションは
「『なぜなに学習図鑑』の挿絵などで、ちびっ子たちの脳内に凶悪なトラウマを植えつけまくった石原豪人画によるツチノコ画。なんか、毒性120%増しって感じ。」
……そう、そうなんです。まさに「トラウマ」としか形容しようが無い……。
http://tokyoretro.web.fc2.com/tsuchinoko.html
(ブログ、「東京レトロスペクティブ」より〈ブログ自体レトロとサブカルを満喫できてとても楽しいです〉)

 なんでこんなに質感豊かに、恐ろしく描くのでしょうか。当時「藤子F版ツチノコ」しか知らなかった(そして「カーワイー、ツチノコカーワイー♪」と思っていた)私には大ショックでした。
(しかもなんかその本〈図書館蔵〉が古い&大人気だったらしくズタボロだったのが、触ると血や湿気がつきそうなくらいのリアル画と相まって禍々しかった。)

(※)初見健一……サブカルチャー研究家、著作家。今も現役で活躍する昭和レトロな品々やデザインを紹介してくださった心温まる名作「まだある」シリーズの作者でもある。自称「懐かしがり屋ライター」(粋なフレーズ)

まだある。文具・学校編 改訂版 (今でも買える“懐かしの昭和"カタログ) -
まだある。文具・学校編 改訂版 (今でも買える“懐かしの昭和"カタログ) -

まだある。キャラクター編 改訂版 (大空ポケット文庫) -
まだある。キャラクター編 改訂版 (大空ポケット文庫) -

(※2)石原豪人……1950年代から長期にわたり活躍したイラストレーター。映画看板画家からキャリアをスタートさせ、子供向け雑誌、劇画、新聞小説、ゲーム雑誌、(別名義で)SM雑誌やゲイ雑誌まで、依頼があればジャンルを問わずに手掛けた。

石原豪人 妖怪画集 -
石原豪人 妖怪画集 -

新装版 石原豪人---「エロス」と「怪奇」を描いたイラストレーター (らんぷの本/マスコット) -
新装版 石原豪人---「エロス」と「怪奇」を描いたイラストレーター (らんぷの本/マスコット) -

石原豪人 (らんぷの本) -
石原豪人 (らんぷの本) -

 しかし、当時の挿絵画家の方々の絵は、いい意味でも悪い意味でも妥協や手抜きが一切感じられず、高い技術と、非常に広範囲な仕事ぶりに裏打ちされた、徹底的な絶望感やケレン味、秘めた妖艶さがあって、子供のときにはあれだけ怯えまくったのに、今となるとフラフラと吸い寄せられる魅力があります。

 (ツチノコの話題があるかは未確認ですが)初見さんがこの手の子供向け(だけど全然配慮が無い)情報紙面をまとめた「昭和ちびっこ怪奇画報」という本を出版されています。
(「ちびっこ」と「怪奇」の組み合わせが既に「ナンカチガウ」感満載。)

昭和ちびっこ怪奇画報 - ぼくらの知らない世界1960s-70s (青幻舎ビジュアル文庫シリーズ) -
昭和ちびっこ怪奇画報 - ぼくらの知らない世界1960s-70s (青幻舎ビジュアル文庫シリーズ) -


 立ち読みだけさせていただきましたが、当時の紙面の未だ色あせぬインパクトと、今だから言いたくなる突っ込みどころが大量にあってすごく面白かったです。初見さんの的確な評も楽しい。

 でも「欲しいんだけど家の本棚にあると、幼少期の記憶がよみがえって怖い」と未だに購入を躊躇しています……。

 ところで、ウィキペディア記事によると、ドラえもん人気に影響され、台湾の若者たちは幼少期の私同様ツチノコを非常に可愛らしいものだと思っていらっしゃるそうです。

 世の中に架空とはいえこれほどイメージギャップのある存在は無いと思うので、海を隔ててドラえもんを好いてくださっている若い人々が、これからこの手のイメージを知って、私と似たようなショックを受けるのかもしれないと思うとなんかちょっとアンニュイになります。

 以上、ツチノコ追加情報でした。

 読んでくださってありがとうございました。

※(訂正)一時「ちびまるこちゃん」引用画像のさくらももこ先生のお名前を「さくらもここ」(汗)としてしまっていたので、おわびして訂正させていただきます。なんで間違えたんだろう……(汗2)大変申し訳ありませんでした。

posted by pawlu at 23:10| ドラえもん | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年08月28日

(※ネタバレ)「ツチノコみつけた!」(『ドラえもん』 脇役キャラトップスター登場の回)


ツチノコ1.png


 今回はドラえもんの「ツチノコみつけた」(コミックス9巻)の一部あらすじと周辺情報についてご紹介させていただきます。



 のび太が体の短い幻のヘビ「ツチノコ」の第一発見者になろうと奮闘する話です。


 以下あらすじです。結末までネタバレですのであらかじめご了承ください。(一部仮名遣いを改めています。)


 「この世に生まれたからには、なにかひとつ足あとを残したい!野比のび太の名前を、歴史の一ページに残したい!それにはどうしたらいいか、真剣に考えよう」

 と真剣な面持ちで目を閉じたのび太、すぐに寝落ちしてしまいましたが(……)未来から帰ってきたドラえもんにたたき起こされます。

(ちなみに、のび太はわりとこの手の思索にふけりますが、寝落ちしなかった場合、思いつくのは「逆立ちで世界一周」とか「大仏様の手で世界一のあやとりを作る」等です。〈真面目に聞こうとしていたドラえもん、このアイディアを聞いた時点で無言で寝室である押し入れにもぐりこむ〉〈コミックス26巻「歩け歩け月までも」より〉)





 見せられたのは未来の百科事典の「ツチノコ」の章。


「昔は単なる想像上の生物とされていたが1975年東京の剛田武さんによって発見され……」

なんと幻のヘビの第一発見者としてジャイアンが歴史に名を残していることが判明。


 それなのに君はのんきに昼寝なんかして……とお説教するドラえもんに対し、ジャイアンの先を越して自分が見つける!と勢いよく飛び出したのび太。


 空き地を捜索中、ジャイアンとスネ夫に、「なんか落とし物か?」と聞かれて、慌てるあまり「関係ない、あっちへ行け!シッシッ!」と失礼極まりない返事をしてしまった結果、尋問にかけられ、ツチノコ探しを白状させられてしまいます。


 しかし、ツチノコの実在を信じていないジャイアンとスネ夫は失笑して立ち去りました。


 ライバルが消えた!と喜ぶのび太。

「必ず見つけてやる。たとえ何か月かかろうと、発見するまであきらめないぞ」

と空き地捜索を再開。


 「あきらめた」

 「まるっきり根性がないんだから」

 舌の根も乾かぬうちにげんなり顔で部屋に戻ってきたのび太にあきれるドラえもん。


 こんな町中にいるなんておかしいよ、と、ふて寝してしまうのび太。しかし、ドラえもんが、未来ではすでに実在が確認され、ペット化されている(笑)ツチノコを連れてきて発見者のふりをすることを思いつきます。


 さっそく、ツチノコブームが起きている2040年代へ行く二人。


 公園では人々に連れられ、たくさんのツチノコが集まっていました。



 ヘビがいっぱいいる公園なんてイヤダと思う方もいらっしゃるでしょうが、このツチノコは「オシシ仮面」「宇宙人ハルバルさん」など個性的なキャラを世に送り出した藤子F先生のデザインセンスがさく裂、顔も体ももっちりぷっくりしてごまつぶのような罪の無い目をして、めちゃくちゃ、めちゃくちゃ!カワイイです。へびってか、オモチの妖精って感じ。


 世間では毒蛇との噂もあるツチノコですが、藤子Fワールドのツチノコは性格も可愛らしくて、おとなしくリードにつながれ、お洋服や赤ちゃん帽子を身に着け、呼ばれると喜んで人の後について歩き、直立してあーんと口をあけておやつをもらい、イイコイイコされるとニコニコ顔で短い尻尾をぴこぴこ振ります。(悩殺)


ツチノコ2.png


ツチノコ3.png


ツチノコ4.png


 ちなみに大福顔の口元にヒゲ?があるタイプと無いタイプがいます。

(大人と子供の違いでしょうか。蛇にヒゲというのが考えてみればフシギですが、それぞれ可愛い。)


 ペットショップでツチノコを入手しようとするも、未来のお金が無かったというミスがありましたが、公園で捨てられかけていたツチノコ(お巡りさんが「ノラツチノコ(←笑)が増える」と無責任な飼い主を注意していた。)を引き取り、喜びいさんで現代に戻る二人。


ツチノコ5.png


 さっそくマスコミに連絡しましたが、記者の人たちが来る前にツチノコがケージから逃げだしてしまいました。


 慌てて探しに行った二人、そこに「あっ!ツチノコ!!」という叫び声。


 興奮した様子のジャイアンの手につかまれ無心にぶら下がるツチノコ。


 ちょうど集まっていたマスコミに取り囲まれ、「僕が見つけたんです!偶然この空き地で!!」と、取材に答えるジャイアンを、二人は渋い顔で見つめるしかできませんでした……。


(完)


 この可愛らしいツチノコは、後年さまざまな形で商品化され、今やドラえもんグッズの常連ともいえる存在です。








 藤子F不二雄ミュージアムHP内のツチノコグッズ記事はコチラ。


(ミュージアム公式ブログ「ツチノコ」グッズが大人気!2012年12月28日より)



 しかし、実はツチノコって1970年代のオカルトブームの中では、「体の短い飛ぶ猛毒ヘビ」という存在として「発見者に贈られる懸賞金は欲しいが怖い」と当時の少年少女の間では認識されていたそうです。


 本物の(?)ツチノコのイメージで作られた、フィギュア界の名門、海洋堂さんのツチノコ。

(跳躍して口をカッと開き、攻撃を加える姿〈毒ありげ〉)




 当時の「藤子F先生版でないほうのツチノコ」の恐怖イメージについては「ちびまる子ちゃん」(りぼんコミックス4巻)で詳しく描かれています。(こちらも名作です。)




 私は藤子F先生のツチノコしか知らなかったので、後年、図書館で、子供向けオカルト図鑑(※)的なものを見て、ツチノコのカワイイイメージが大崩壊してショックを受けた記憶があります。(海洋堂さんのフィギュア同様、短いコブラ的なものが跳躍して人に襲い掛かる図だったような記憶が……。)

(※)昔そういう絵も話題もまったく子供向けじゃない、異様に緻密で高い画力でトラウマページを繰り広げる恐怖図鑑があった。


 怖いツチノコのイメージ真っ盛りの中で、藤子F先生がどうしてツチノコをあんなに可愛らしくて人懐こい生き物として描かれたのかは謎ですが、夢と温かみに溢れた藤子Fワールドを象徴するようなエピソードです。



 是非コミックスをお手にとってみてください。


 次回記事ではツチノコ追加情報として上記の「ちびまる子ちゃん」の作品と、子供向けオカルト図鑑についてご紹介させていただきます。



 読んでくださってありがとうございました。

posted by pawlu at 21:00| ドラえもん | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年08月27日

(※ネタバレ)「未知とのそうぐう機」(『ドラえもん』 コワカワイイ宇宙人ハルバルさんと秀逸なオチ)



未知とのそうぐう機1.png


 今回は「未知とのそうぐう機」(コミックス17巻)の一部あらすじと幻のグッズ情報についてご紹介させていただきます。


 コミックス17巻。(前回ご紹介「驚音波発振機」も収録)


 宇宙人を呼ぶ電波を発するひみつ道具「未知とのそうぐう機」をのび太が勝手にいじったために、家に宇宙人が訪ねてきてしまうというお話です。


 ドラえもんから「触るな!」ときつく言われただけで(見ていただけなのに、非常に感じ悪く注意されたので、あてつけに触るのび太。ドラえもんもしまっときゃいいのに……)、機械の説明をしてもらわなかったので、単に「UFOが見られる機械」と思い込んで面白がって何度もボタンを押してしまいますが、繰り返すうちにそうぐう機の電波発信源をつきとめた宇宙人ハルバルさん(ハルカ星在住)がのび太の部屋にUFOで乗りこんできます。


 アザラシとおじさんと古風なオバケをミックスしたようなコワカワイイハルバルさん。(17巻表紙に登場)


 異変に気付いたドラえもんが「あー!!やってくれちゃって!!」と。部屋に飛び込んできたとき、のび太はハルバルさんの「NMwwNwW」みたいな喋りに対し、「アハハなんか言っている」とのんきにかまえていましたが、ドラえもんは、のび太を部屋の外に連れ出し、

「態度に気を付けたほうがいい、なにしろ何百光年という遠い星からはるばるくるんだからな。用もないのに気やすく呼ぶなとカンカンに怒って、宇宙戦争になりかけたことさえあるんだぞ」

 と深刻な表情で耳打ちします。


 ホンヤクコンニャクを食べたドラえもん経由でハルバルさんのお話を聞いたところ、


「いいたかないけど地球までの燃料費が二千万円もかかった。ごはんの最中に呼び出されたので、はやく用事を言ってくれ」とのこと。


(個人的な話ですが、子供のときこれ読んではじめて「いいたかないけど」という言い回しを学び、以来これに類するフレーズを聴くたびハルバルさんを思い出すようになりました。児童向け漫画のわりに渋いセリフ……。)


 もちろん用なんかなかったので慌てるのび太。


 様子を察したのかハルバルさんはこうつけ加えます。


「まさか面白半分じゃあるまいな。話は変わるがハルカ星の連合艦隊はこれまでの宇宙戦争で一度も負けたことがないんだ」


 震えあがりながらも、仕方なく食事をごちそうしてごきげんをとってごまかして帰ってもらうことにした二人。

(のび太にコーラをお酌されるハルバルさんの片肘をついたポーズがいかにも接待され中のおじさんっぽい。)


未知とのそうぐう機2.png

(ドラえもんのひきつった愛想笑いと、蓋がとれる炊飯器の昭和レトロなデザインも味わい深い)

 地球の食べ物はうまい、と、はじめて眉間のしわを消して笑顔をみせたハルバルさん(可愛い)でしたが、地球の平和を守るためにおかわりをお出ししようとしたのび太を見とがめたママ、犬か猫でも拾ってきたのかと追及した挙句、ハルバルさんを見て、

「まあっ、アザラシなんかつれこんで……。シッ、シッ」

といきなりほうきでハルバルさんの後頭部を殴り倒します。


未知とのそうぐう機3.png


未知とのそうぐう機4.png


 ドラえもんと同居しているから変わった出来事には慣れているのかもしれませんが、家にアザラシ(違うけど)がいても驚かず、しかも、いきなり派手に殴るなんてママもなかなかスゴイ感性の持ち主です。


 当然激怒したハルバルさん、宇宙艦隊で地球へ攻め寄せる!と言い残してUFOに乗り込もうとします。


 足(ヒレ?)にすがって止めようとするも、衝撃波を受けてふりほどかれてしまう二人。


 「もうだめ!地球はほろびるんだ、君のせいだぞ!」

 「そ、そんな……」

 なすすべなくへたりこむ二人。


 しかし、UFOに向かいかけたハルバルさんが畳に転がるあるものを見て立ち止まります。

 前ヒレでそれを拾い上げると、鼻息荒く、なにやら「NMwwNwW!!」とまくし立てているハルバルさん。

 「ビー玉を見て騒いでいる」



 実はハルカ星ではガラスができず、地球のダイヤよりも値打ちがあるとのこと。


 それを聞いたのび太は箱一杯のビー玉を差し出し、

「地球とハルカ星の友情のしるしとして、ビー玉を贈りたいと思って呼んだのです」

 と笑顔で後付けの用事を伝えました。


未知とのそうぐう機5.png


 ハートを一杯まき散らして前ヒレでのび太を熱烈に抱擁したハルバルさん、大喜びで帰宅。


未知とのそうぐう機6.png


「ついに地球は滅亡から救われたのであった!」

 安堵して抱き合うドラえもんとのび太を見て、つい先ほど、息子との共同作業で地球を滅ぼしかけたとも知らないママが、

「テレビの観すぎです」

と、口を「3」にしてあきれていました。


 (完)


 さて、ハルバルさんの交通費片道2000万円は大いなる利益をもたらしたというのはあの熱烈ハグでよくわかりましたが、具体的にハルバルさんはどのくらいうれしかったのかということがちょっと知りたくなったので、ビー玉の大きさから、きわめていい加減に、ハルカ星のビー玉の価値を予想してみました。


 一般的なビー玉(ラムネに入っている大きさ)は直径約17oだそうです。

(ウィキペディア記事「ビー玉」より)



 (※のび太の手との対比ではもう少し大粒のビー玉にも見えますが一応標準的なサイズとします。)


未知とのそうぐう機7.png


 複雑にカットされているので正確な体積は不明ですが、これに近い大きさのダイヤモンドは約10カラット程度と思われます。(ハリウッドセレブの指輪の記事で10カラットなら親指の爪大とあったので)


(本当は1カラット=200mgと重さで換算するそうですが、ダイヤとガラスでは重さが違うので、ここではおおまかな一粒の大きさで考えさせていただきます。)


 上記記事のハリウッドセレブの10カラットの指輪で、石のランクはさほどでもない(らしい)指輪が査定8000万とあるので、カット、透明度、カラーが最高位のダイヤモンドの裸石(ルース ※カット済の粒のこと)以上の価値がビー玉にあるとすると、一粒一億円程度。

(参照:ウィキペディア記事ダイヤモンド)


 箱の中に見えるビー玉は約15個、二段詰まっていると考えると合計30億円。


 しかし、ダイヤと違ってその星に存在もしない物質となると、さらに高値である可能性があります。ダイヤでもピンクダイヤ等希少性があると数倍〜数十倍の値がつくので。

(それにしても、ハルバルさんきっかけで、かつてないほどダイヤ情報を読むとは思わなかった。) 


 なんとなくハルバルさんは星でそれなりの立場のアザラ…方なのかなという印象も受けますが(逆らえない呼び出し電波を受けたとはいえ、すぐに片道2000万の交通費を出しているところとか、連合艦隊とコネがありそうなところとか、接待され慣れた感じのコーラお酌されポーズとか)、のび太のはからいで、一瞬にして超富裕層資産に匹敵する宝石を得たわけですから、そりゃほうきの一撃くらいチャラにしますよね。



 ところでこのコワカワイイハルバルさん、2007年に一度フィギュアになりました(ビー玉つき〈大笑〉)。



 そしてそれから15年後の、2022年2月、再び、ぬいぐるみ、お茶碗、湯飲み、ビー玉風根付などグッズが登場。
 (お茶碗、湯飲みは原作コマがプリントされていて特にファン心をそそる〈ハルバルさんのかわいい笑顔とか、ご飯をよそうドラえもんの作り笑いとか〉)

 【公式情報】ハルカ星からやってきた!!ドラえもん未来デパート限定!「未知とのそうぐう機」のお話をモチーフとしたグッズが発売!(2月4日情報)

 【ドラえもん未来デパート】

 地球を滅亡させようとはしましたが、よく見るとマニアックドラキャラの大スター「ツチノコ」(毒すら持っていると噂されるUMAヘビなのに、藤子F先生のデザインにかかるとおもちみたいで人懐こい生き物に変身。こちらはあまりの可愛さにグッズ多数。)の次くらいに可愛いと思うので、今後もグッズ化に期待大です。





 藤子F不二雄ミュージアムでハルバルさんディスプレイについてご紹介なさっている記事はコチラです。巨万の富(ビー玉)に囲まれて幸せそう。



 是非、原作をお手に取って、この絶妙なデザインのハルバルさんとオチ(そしてママの冷静すぎる反応)をお楽しみください。


 当ブログ関連記事:

(参照記事:ジェニファー・アニストンの婚約指輪、関節より大きな10カラット超のダイヤが不評 



posted by pawlu at 18:13| ドラえもん | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年08月26日

(※ネタバレ)「あやうし!ライオン仮面」(『ドラえもん』 超マニアックキャラがまさかの人気)


ライオン仮面5.png

 今回は「あやうし!ライオン仮面」(コミックス3巻)のあらすじと、ここに登場するキャラのこぼれ話をご紹介させていただきます。

コミックス3巻。
(泣ける「ペロ生きかえって!」、ドタバタ恋愛劇(?)「ああ、好き好き好き!」が読めるおすすめ巻。〈結局全巻好きなんだろ〉)

ドラえもん (3) (てんとう虫コミックス) -
ドラえもん (3) (てんとう虫コミックス) -


 以下あらすじです。(結末までネタバレですのであらかじめご了承ください。)一部仮名遣いを変更させていただいています。


 「ワハハハハ、ライオン仮面。もはやのがれることはできんぞ!」
 ヒーローライオン仮面が、少女とともに悪の組織に取り囲まれ、絶対絶命のピンチに。

ライオン仮面1.png

 「ワーッ!!」
 一斉にレーザーガンで撃たれ、叫び声をあげるライオン仮面。

ライオン仮面2.png
 (10月号につづく)

 「いいところで切れちゃうんだいつも」
「ライオン仮面」を読んでいたのび太とドラえもん。
「10月号ではどうやって助かるんだろう」
 どう考えても助かりそうにないけれど、主人公が死んじゃおしまいだから、きっとなんとかするんだろう。
 でもその展開が知りたい。
 「そうだ!!本人に聞けばいいんだ」
と、ご近所にお住いの作者フニャコフニャ夫(笑)の家へ直接訪ねていくドラえもん。
(※初期ドラえもんは後ののび太の保護者っぽい性格とやや異なり、率先して動く傾向があります。)

 フニャコ先生は売れっ子らしく、家には数人の編集者が不機嫌そうに原稿待機中。

 それなのに、ライオン仮面の続きをさっぱり思いつけずに机に向かって途方に暮れているフニャコ先生。
(細身でお人柄のにじみ出た穏やかなお顔のリアル藤子F先生と異なり、ぽっちゃり体形で不機嫌そうな顔つきですが、フニャコ先生もF先生のトレードマーク、ベレー帽をかぶっています。)
 「あれからどうして助けていのか、見当もつかん」
 そんなことはじめに考えておくべきだと文句を言う担当さんと、あのとき君がせきたてたからだと言い返すフニャコ先生。

 大人同士の責任のなすり合いを見て、本人にもわかっていないんじゃしょうがないと家を出るドラえもん。

 それでも続きが知りたいので、タイムマシンで来月に行って発売済みの10月号を立ち読みします。

 ところが半分しか読んでいないうちに、古風にはたきで本屋のご主人に追い払われるドラえもん。

 今月に戻ってくると、空き地でみんなにライオン仮面の続きについて話しはじめます。

 「あれからね、場面が変わるんだ。ライオン仮面の弟のオシシ仮面が登場する」
 兄を追ってくらやみ団本部へ乗り込んでいく!けど、あとは秘密。
 と、話を終わらせようとした瞬間、「きみっ、ぜひその先を教えてくれたまえ!!」と土管から飛び出してドラえもんにすがりつくフニャコ先生。

 「あんたの描いた漫画だよ」
 「まだ描いてないんだ」
 追いかけっこの末押し問答をする二人を、担当さんが追いかけてきます。

 気分を変えて土管の中で考えていたんだ(珍しい思索スペース)、と言い訳をするフニャコ先生を、早くしてくれないと間に合わない、と急かす担当さん。

 早く続きを教えて!!と先生に激しく揺さぶられ、しかたなくもう一度来月に行って続きを買ってくることになりました。

 担当さんを部屋から追い出し、来月号を読み始めるフニャコ先生。
「死んだはずのライオン仮面をどうやって助ける?」
「それが、オシシ仮面もつかまるよ」

 ドラえもんの言葉通り、紙面の中には、縛り上げられて吊るされ、悪の組織にとりかこまれているオシシ仮面。

ライオン仮面3.png

(獅子舞の面をかぶり、うずまき模様風呂敷風マント(?)姿。アメコミヒーローを思わせる二枚目マッチョの兄と自身を比べてなにか思うところがないのかが、どうしても気にかかる。)

「グエーッ!!」という絶叫とともに、炎に包まれるオシシ仮面。

ライオン仮面4.png

(11月号に続く)

「なんだこりゃ?こんな終わらせ方じゃあ、あとが困るじゃないか!」
「描いたのあんたでしょ」
フニャコ先生の逆ギレに唇が「3」になるドラえもん。

「あとのことは来月号までに考えようというわけか。」
「そうらしいね」
「なんという無責任なわしだ!!」
「ぼくは知らないよ」

 そうは言っても続きが気になって仕方がないフニャコ先生のために11月号を買いに行くドラえもん。

 「場面が変わって、オシシ仮面のいとこのオカメ仮面が出てる」(もはや「獅子」ですらない。)

 ここで「原稿まだですかっ!」と担当さんに怒鳴られ、12月号に物凄い不安を残しながらも、丸写しをはじめるフニャコ先生。

 その他雑誌の担当者も我慢できずに急かしはじめ、パニックを起こしたフニャコ先生は、ドラえもんにすべての雑誌の来月号を買ってこさせます。

 ドラえもんが戻ってくると、机の前で過労とストレスで倒れていた先生。

 「きみ、その雑誌を見て描き写してくれ」
そう言って強引に仮眠に入ったフニャコ先生を背に、とりあえずベレー帽をかぶらされ、一生懸命模写をするドラえもん。
 「ぼくのうつしたまんががのって、この雑誌がでるとすると……、まんがのほんとうの作者はだれだろう??」

(完)

 読者に期待させておいて難しい物語構成は来月に先送りする大人の事情とか、その渦中で「ライオン仮面」→「オシシ仮面」→「オカメ仮面」と、どんどんキャラ設定からしてシュールになるところとか、そんな自身の仕事ぶりに対するフニャコ先生の「なんという無責任なわしだ!!」という一部大人の深い共感を呼ぶ(含僕)セリフが見所です。

この作品、発表より約40年の月日を経て(1971年「小学4年生」掲載)現実世界で後日談が発生します。

1、2008年「オシシ仮面フィギュア化」
たった二コマしか登場しない、しばりあげられて「グエーッ!!」と叫ぶだけのこのキャラが、フィギュア化されて発売。

しかも、捕まって吊り下げられている姿の「通常バージョン」と、炎に包まれている「グエーッ!!」姿の「バーニングバージョン(大笑)」の二種類。

UDF オシシ仮面 (ノーマルVer.)(ノンスケール PVC製塗装済み完成品) -
UDF オシシ仮面 (ノーマルVer.)(ノンスケール PVC製塗装済み完成品) -


UDF オシシ仮面 (バーニングVer.)(ノンスケール PVC製塗装済み完成品) -
UDF オシシ仮面 (バーニングVer.)(ノンスケール PVC製塗装済み完成品) -
アマゾンの購入者レビューには、「友人の誕生日プレゼント用に購入しました」、「会社の机に飾っています」等、原作ファンの方たちのお喜びの声が届いていました。
ちなみに二個セットで買った方が多い模様です。

 (補足、このフィギュアを作られた「メディコム・トイ」様、かの「きれいなジャイアン」等、原作マニア心をくすぐるセレクトのフィギュアを多く作っておいでて、商品紹介ページと愛に溢れた購入者レビューを見ているだけで楽しいです。なお、つい先日〈2016年8月24日〉「美男子のび太(コミックス8巻「消しゴムでのっぺらぼう」)」「カッコイイドラえもん(コミックス2巻「うそつき鏡」)の普及版が発売されたそうです。当ブログの同原作ご紹介記事はコチラです。)

UDF きれいなジャイアン(ノンスケール PVC製塗装済み完成品) -
UDF きれいなジャイアン(ノンスケール PVC製塗装済み完成品) -

UDF ウルトラディテールフィギュア 「藤子・F・不二雄作品」シリーズ8 かっこいいドラえもん 『ドラえもん』 ノンスケール PVC製塗装済み完成品 -
UDF ウルトラディテールフィギュア 「藤子・F・不二雄作品」シリーズ8 かっこいいドラえもん 『ドラえもん』 ノンスケール PVC製塗装済み完成品 -

UDF ウルトラディテールフィギュア 「藤子・F・不二雄作品」シリーズ8 美男子のび太 『ドラえもん』 ノンスケール PVC製塗装済み完成品 -
UDF ウルトラディテールフィギュア 「藤子・F・不二雄作品」シリーズ8 美男子のび太 『ドラえもん』 ノンスケール PVC製塗装済み完成品 -

2、「オシシ仮面Lineスタンプ化」

藤子・F・不二雄プロ制作の公式高品質カラー作品。
「ドラえもん(泣いて笑って)」から購入可能。「グエーッ!!」という気持ちを表明したいときにおススメです。

(結局いつ使うんだと思いましたが、ご紹介者様いわく、「大ピンチを表すときに使えます」とのことです。なるほど……)

(参照:Neverまとめ 【ジワジワくる】よく使う?「LINEスタンプ」10選 まとめ作成者:eight-threeさん http://matome.naver.jp/odai/2143990485605740001) 

 この文を書くにあたり、ウィキペディア記事も参考にさせていただきましたが、こちらも非常にこまやかなウィットに飛んだ名文で、みなさんのオシシ仮面愛に胸が熱くなります。

 なんでよりによってこのキャラにこれほどの人気が発生するのかとやや不思議ですが、あの前代未聞のキャラデザインと(兄との差異と)、「グエーッ!!」のインパクトの前には理屈など無力です。

 フィギュア化情報を得てパソコンの前でギャハハと笑った僕もまた、心のどこかで長年オシシ仮面を愛していたのですから。

 たった2コマを約40年間ファンの記憶に刻み付けたフニャコ……いや藤子F先生はやはり素晴らしい。

 ときにはフニャコ先生同様ご苦労をして、土管にこもったこともあったかもしれませんが(それはないんじゃない?)先生の努力の結晶は、こうして不滅のものとして、2コマであってすら多くの方々を魅了し続けています。(オリンピック閉会式にもドラえもんが出てきてくれてうれしかったなあ……。)

 すぐれた作品構成、鮮烈なキャラデザインとギャグセンス、そしてファンの方々の不滅の愛情に心なごむ名作です。是非お手にとってみてください。

 読んでくださってありがとうございました。



posted by pawlu at 06:10| ドラえもん | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年08月25日

(※ネタバレ)ドラえもん「ホンワカキャップ」(飲めばホンワカ、でも飲みすぎると……)

ホンワカキャップ.png


本日はドラえもんのひみつ道具「ホンワカキャップ」(コミックス30巻収録)についてご紹介させていただきます。


(コミックス30巻 表紙でドラえもんが持っているのがホンワカキャップです。〈※この巻、前回ご紹介の「ねむりの天才のび太」も入っていておススメです〉)




 これを瓶につけて注いだ液体はホンワカ放射能なるものを帯びて、アルコールによく似たホンワカした気分になれるというひみつ道具です。


 なんと素晴らしい、と、思ったら、酔いすぎると危険というところまでアルコールに似ていて、大人の飲み会そっくりのトラブルが起こってしまいます。


 以下あらすじです。

(結末までネタバレですのであらかじめご了承ください。)一部仮名遣いを変更させていただいています。



 自慢の切手コレクションを、「一緒に切手を集め始めて、おまえばっかりたまるのはどういうわけだ」と逆ギレされたジャイアンと公平に分ける(=大量に持っていかれる)ことになったスネ夫。


 この件についてのび太に愚痴ったら「見せびらかしたりするからだよアハハ」とノー同情だったのに腹を立て、「他人の不幸を笑うな!!」と膝を蹴っ飛ばしてむしゃくしゃ顔で家に帰ります。


 口を滑らせたとはいえ、いきなり蹴られたのび太も非常に面白くない思いで家に帰ると、パパがお友達と家呑み中でした。

「いやなことはみんな忘れて楽しくやろうじゃないの」


 「大人はいいよな。お酒飲んで良い気持ちになれて」

不公平だと嘆くのび太に、ドラえもんが「ホンワカキャップ」を出してくれます。


 ジュースにキャップを付けて注いだものを飲んでみると、ホワ〜といい気持ちになるのび太。


 一口だったのですぐ覚めましたが、これはいい、と、キャップを持ってドラえもんと一緒にしずかちゃんの家に遊びに行きます。


 ホームサイズのコーラでさっそく家呑み開始。


 真っ赤な顔で、飲めや歌えの楽しい時間を過ごします。(しずかちゃんもちゃんと加わってる。)


 楽しかったけど飲みすぎたな、と、千鳥足で帰る途中、ジャイアンに出くわした二人は、

「いいものやるぞ!!いいからとっとけって」

と、ホンワカキャップを渡してしまいますが、酔いが醒めてから半べそで大後悔。


 「宴会やるからコーラ持って俺んちへ来い」

塾へ行こうとしていたのにそんなことをジャイアンに言われたスネ夫は断ろうとしましたが、

「俺とじゃ飲めねえってのか!?」

と嫌な先輩みたいな脅しをかけられ、仕方なしにコーラを一ケース持ってジャイアンの家に行きます。


 「じゃ、かる〜く一杯……」

「せこいこといわねえでガバガバやれ!」

(注、小学生の発言)


 しかし、一杯飲んだらいい気分になったスネ夫は、喜んでグラスを重ねていきます。

「もりあがったところで、カラオケといこう。」

「いよっ、待ってました!!」

 完全にどこかで見た光景です。


ホンワカキャップ2.png


 ジャイアンの家をゆるがす、あの有名な歌声。


 いつもならじっと耐えるスネ夫ですが、その日は違いました。

 しだいに歌を聴く表情が険しくなっていったかと思うと、コーラを手酌でガバっと飲み干し、吐き捨てるように言いました。

「ケッ!やめろやめろ、へたくそ」

「今なんと言った!?」

激怒するジャイアンの顔に激しくあびせかけられたコーラ。

「へたくそをへたくそといってなにが悪いへたくそ!!」


ホンワカキャップ3.png


 さらに、ジャイアンにかけたから空になったグラスをさしだし、

「ほれ、つげよ!!」

と酌を要求するスネ夫。


 「お前コーラぐせが悪いな……」

完全に圧倒されて、コーラをしたたらせながら言われたとおりにするジャイアン。

そろそろ塾へ行かなくていいの?と愛想笑いをしますが、るせえ!もっとつげ!!と命じられ、もうない、と答えた瞬間コーラ瓶が飛んできます。

「買ってこい!!」


ホンワカキャップ4.png


 もはや瓶から直飲みしながら、空瓶のいくつも転がる部屋にあぐらをかき、

「でっかい顔しやがって!!てやんでえ!!みんな泣かされてんだぞ。お前なんか町の公害だぞ!!バーロー」

と、こめかみに青筋を立てながら、日ごろのうっぷんをぶつけるスネ夫に対し、次第にうなだれるジャイアン。


 「グス……なにもそんなに……言わなくても……」

 そしてシャツで顔を覆い、肩を震わせ、さめざめと泣きだします。

「心の中では……みんなに悪いと……あたし、つらい!」


ホンワカキャップ5.png


 何故かオネエ化したジャイアン、その胸ぐらを容赦なく掴んだスネ夫、

「悪いと思ったら切手返せ!!」

と恫喝。

「返すわよ!!ほかの人のおもちゃも本もみーんな返すわよ!!(泣)」


ホンワカキャップ6.png


 家の前でホンワカキャップを手にしたドラえもんと、数冊の本を抱えるのび太。

「さっさと次の家へまわれ!!」

 巨大なふろしきを背負い、涙を浮かべるジャイアンの尻を蹴って追い立てるスネ夫を見て、のび太とドラえもんは

「さめた後が思いやられるなァ」

と、つぶやきます。



(完)



 ドラえもんの大人向けの魅力を伝えたいとき、例として向いている回です。


 (絵的なインパクトとしては、ひみつ道具に煽られたしずかちゃんがとんでもない行動に出る「腹話ロボット」や、現代アートをもしのぐシュールさの「からだの部品とりかえっこ」が良いと思いますが。)


 ジャイアンのホンワカハラスメント(≒アルコールハラスメント)と、普段抑圧しているジャイアンへのストレスが解放されすぎてしまったスネ夫の、前代未聞の豹変ぶり(酔ってからの表情や台詞がやたら生々しい)が、大人心にツボです。

 薬物問題を暗示した、最も危険な傑作「ヘソリンガスでしあわせに」(てんとう虫コミックス25巻収録)と同様、強すぎる快楽は(たとえ肉体に副作用が無かったとしても)危険だということをギャグに織り込んで巧みに伝えています。


 アルコールのもたらすいい気分につい惹かれてしまう方も、その先に待ち受けている危険を心に刻みたいとき、ジャイアンにコーラを浴びせかけるスネ夫を思い出してみるといいかもしれません。


 読んでくださってありがとうございました。



posted by pawlu at 06:32| ドラえもん | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年08月23日

(※ネタバレ)ドラえもん「驚音波発振機」(ジャイアンの歌による害虫・ネズミ駆除)

  「驚音波発振機」は、ネズミやゴキブリなどを強力な音波で駆除するひみつ道具です(コミックス17巻収録)。





(以下、結末までネタバレですのであらかじめご了承ください)一部仮名遣いをひらがなから漢字に一部改めさせていただいています。


 冒頭、不機嫌そうに町を歩くジャイアン。



 新曲を作ったのに(作ったから)、突如子供たちが町から姿を消したのでストレスが溜まっています。


 ドラえもんに何とかしてもらおうとジャイアンから身を隠しながら逃げ帰ってきたのび太でしたが、家から飛び出してきたドラえもんと正面衝突します。


 ジャイアンのことを話そうとしてもテンパってて聞きもしないドラえもん。家でドラえもんの天敵、ネズミに出くわしてしまったのです。

「おおそうだ!爆弾で家もろともふっとばしてやれ!」


驚音波発振機1.png


 なんて物市販してんだ未来デパート。



 ドラえもんをなだめて、未来のネズミ取り機を使えば良い、とアドバイスをするのび太。


 浮かない顔で、「驚音波発振式ネズミ・ゴキブリ・南京虫・家ダニ・シロアリ退治機(※)」を出すドラえもん。(※全ドラえもんのひみつ道具の中で最長の名前を持つそうです。ウィキペディアより。)

 超音波で害虫、害獣を駆除する機械を発展させたものだけれど、その驚音波のテープは紛失してしまって手元にない状態。


 するとのび太が、ジャイアンの新曲を使うことを思いつきます。

 のび太の提案に瞠目するドラえもん。

「そうか!!歌わせてこの機械にかけて、音波の中でも特に有毒な部分を取り出し、うんと強めれば……」

 ひどいこと言ってる。

驚音波発振機2.png


 ジャイアンに、是非新曲を家で聴かせてほしいと頼みに行く二人。


 「心の友よ!!」と感涙するジャイアンを連れて戻ってきますが、有毒音波を流すにあたりママを避難させなければなりません。(ジャイアンの歌≧バルサン)


 しかし、なんのことかわからないママからぴしゃりと断られてしまったので、やむをえずタケコプターを付けてはるか上空へ強制退避させることに。

「ママの命をまもるためしかたがなかった」


(地味に笑いを誘う一コマ)

驚音波発信機3.png


 ひそかに耳栓をして、度胸を決めると、部屋にある驚音波発振機については「歌の力を強める機械」とボヤかし、歌い始めてもらう二人。


 耳栓すらも貫通する驚音波に耐えていると、押し入れからゴキブリがよろけ出てきて、力尽きて息絶えます。


 「すごいすごいその調子!」「もっともっと」

二人の喝采に気を良くして歌いまくるジャイアン、やがて、窓や壁にひびが走ります。


 そして激しく揺れきしむ天井。


 敵とはいえ、ネズミたちの阿鼻叫喚に、


 「ものすごい悲鳴!この世のものとも思えない」

と戦慄して身を寄せ合うドラえもんとのび太。


驚音波発信機4.png


 劇場の大シャンデリアを揺らしたという伝説のオペラ歌手マリア・カラスに匹敵するほどの超絶声量です。(質はともかく。)


 「あっ、見ろ!」

窓からネズミ一家が命からがら逃げ出してゆくのを確認したドラえもんは

「よかった!!」

とのび太にしがみついて泣き崩れます。


「喜んでくれて俺も嬉しい」

食い違ったまま満足げに汗をぬぐうジャイアン。


驚音波発信機5.png


 数日後。


「ネズミ・ゴキブリ・南京虫・家ダニ・白アリ!! 全滅させます。料金――百円 のび太消毒社」

部屋に散らばるチラシを見て大慌てするドラえもん。


 のび太はしずかちゃんからの白アリ駆除依頼電話応対中でした。

「うんすぐ行く。あぶないから誰も家に残っていちゃいけないよ」

 そしてすぐにジャイアンに電話。

「やあジャイアン。またきみの芸術にひたりたくなったんだけど……」(←笑)

 今日の会場はしずかちゃんの家だよ、とワルイ顔で電話を切るのび太に、ドラえもんは「ばれたら殺されるぞ」と警告します。

 方法は秘密にしてあるんだからばれっこない、と、聞き入れようとしないのび太。


 「ジャイアンもよろこぶ。しずちゃんもよろこぶ。ぼくはもうかる。こんないいことやめられないや」

……とドラえもんの心配をよそに、笑顔で驚音波発振機を持って出かけてしまいます。


 しかし、さらに数日後。


 「心の友よ、頼みがある」

のび太宅を訪ねてきたジャイアン。

「スネ夫の家のゴキブリを退治したそうだな。うちも頼む」


 ジャイアンの家。

「なんだ、歌の機械じゃないか。それでどうやってゴキブリとるんだい。はやくやってみせろよ」

 笑顔で興味津々のジャイアン。無言で機械を操作するしかないのび太。


 その顔をうかがい知ることはできませんが、その後ろ姿からは幾筋もの冷たい汗が流れていました……。


驚音波発信機6.png


(完)



 かけたものがなんでもおいしくなる「味のもとのもと」をかぶってしまったジャイアンを、一口でいいから食べようと目のイってしまったのび太たちが追いかけまわす「ジャイアンシチュー(コミックス13巻収録)」と並ぶホラーエンディング。


 前者がパニックムービー調なら、こちらは迫りくる惨劇をほのめかしながら無情にもフェードアウトしていく静的構成です。


 100円で全害虫害獣が駆除できるなら(窓と壁の修繕費が発生するかもしれないけど)破格だから、アイディア自体は良かったのですが……。


 のび太はよくドラえもんの道具を活用(≒悪用)して(しばしば無断で)新商売を始めるのですが、軌道に乗るかと思いきや何らかの理由で水泡に帰すというのが定番です。その中でも一番恐ろしい結果になった(に違いない)のがこの回。


 このコミックス17巻には、この他にも、ふりかけたものが五分おきに倍になる薬(一個の栗饅頭にかけたら二時間で1677万7216個に増える)「バイバイン」、宇宙人を呼び寄せてしまう「未知とのそうぐう機」など、扱いを間違えると恐ろしいことになるひみつ道具(そしてもちろんのび太は間違える)が登場して面白いです。

 是非お手にとってみてください。(当ブログ「未知とのそうぐう機」ご紹介記事はコチラです。)


 読んでくださってありがとうございました。

posted by pawlu at 00:00| ドラえもん | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年08月21日

(※ネタバレ)のび太、オリンピック選手候補に?「ねむりの天才のび太」


ねむりの天才のび太5.png



 前回、射撃のオリンピック出場者(張 富升選手〈中国〉)がのび太に似てるとのウワサが……という話題をご紹介させていただきましたが、原作内でのび太が未来のオリンピック選手としてその才能を嘱望された回がありました。


 種目名は「いねむり」(スポーツじゃない)。


 どうして誰も射撃の選手になることを勧めてあげなかったのかということについては残念ですが、ネット上の、

「のび太がオリンピックのクレー射撃に出たら、金メダルですか?」

「出たら金メダルですが、のび太君の場合、寝坊→遅刻→失格という天敵がいます」

という秀逸なやりとりどおり、大いにありうること(※)なので、ならば種目「いねむり」のほうがより選手として安定した活躍が見込めそうです。



 (※)大人になっても、愛するしずかちゃんとの結婚式にすら寝坊して遅刻しかけている。(日にちを間違えるというダブルミスでセーフ)(「のび太の結婚前夜」コミックス25巻)



 こののび太のいねむりの才能について余すところなく堪能できるのが、「ねむりの天才のび太」(コミックス30巻)です。(「ホンワカキャップ」等その他の名作も収録された巻)




 のび太が「もしもボックス」で世の中を「ねむればねむるほどえらいという世界」に変えた結果、身の回りの人々はおろか、日本中から尊敬を集めるというお話です(笑)。




 以下あらすじです。(結末までネタバレですのであらかじめご了承ください。)




 今日も学校で居眠りをして先生にきつく叱られたのび太。


 学校からの電話を受けてお説教をするママの前ですら寝てしまい、怒りを倍増させてしまいます。


 「いねむりしながらおきていられるくすり(難しい)をだして」とドラえもんに泣きつこうとしますが、ドラえもんが部屋にいなかったのでまたひるね。


 帰ってきたドラえもんが「ゆめグラス」でのび太の夢の中を覗いてみると、見ていたのはひるねの夢
 (南国でハンモックにゆられているというすてきな夢)。


ねむりの天才のび太2.png


 あきれかえるドラえもんに、

 「むりしておきたってべつにいいことがあるわけじゃなし……」

と、何やらせつないセリフで反論し、おきてりゃえらいなんて誰がきめたんだろう、と、また眠りかけたのび太。

 しかし、ここで、「もしもボックス」を使って、逆に眠ればえらいという世界にすることを思いつきます。


 翌日より、授業中の居眠りも先生から絶賛され、眠れない他のクラスメート全員が廊下に立たされる羽目に。


 女の子たちや出木杉君にまでその能力を羨望のまなざしで称えられ、いい気分で帰宅するのび太

(ジャイアンとスネ夫は「へんな世の中になったなあ」と腑に落ちない顔。)


 昼寝をせずに家事をしているママを見とがめて、

「やる気がないんだ、ねむくないからとおきていれば、いつまでたっても眠れないよ」

 と正座でお説教、ママは優秀な息子に頭が上がりません。


 うとうとしかけていたのにのび太の帰宅で目がさめてしまったというドラえもんに、こんなことくらいで目が覚めるのは本物じゃないからだ、と、一蹴するのび太。

「ぼくなんかこうだぞ」

 枕代わりの座布団を手に、本物のいねむり(?)を披露するのび太。

 見事、たたまれた座布団が床に落ちると同時に眠りに落ちます(本当にすごいはすごい)。


 そこにしずかちゃんが訪ねてきて、中学進学時の「ひるねテスト」を習得するべく、のび太先生の指導を申し込みます。


「体の力を抜いて、頭の中をからっぽにして、なんにも考えないで……」

 のび太にそう言われても、テストのことなど考えてしまうしずかちゃんはなかなか眠れません。

「頭の中をからっぽ!ど〜してこんなかんたんなことができないの!?」

「そりゃのび太の頭はもともとからっぽだもの」

 ドラえもんの冷酷な指摘から口論になる二人。やかましくて眠れないとしずかちゃんが起きてしまいます。


ねむりの天才のび太1.png



 「やりかたをかえよう。目を閉じて……なにか楽しいことでも考えよう。と、いっても、ワクワクこうふんするようなことはだめだよ。なにかおだやかな、のんびりした……そうだ春の野原を想像しよう。お日様、そよ風、一匹の蝶がひらひらと……つづいて二匹目のちょうがひらひら……」

 今流行の瞑想を先取りしたような見事な誘導で、しずかちゃんを眠りにいざなうことに成功します。


 涙すら浮かべて感謝するしずかちゃんの口コミで先生のもとへつめかける女の子たち。


 さらに、教養番組「正しいひるね」への出演依頼が舞い込みます。


 いねむり評論家由目見さんから

 「眠りは世界を救う!!ねむりながら戦争はできません。平和のため、のび太先生をお手本にして、みんなねむりましょう」

と、部屋に入ったロケカメラの前で紹介されます。


ねむりの天才のび太3.png


 さっそくもはん演技として、かの「座布団落下時にはもう寝ている」技を披露するのび太。


 この驚異の早業に対し、スローモーションによる分析が入ります。



 今回は頭の上で手を組んで寝るスタイルだったのですが、実は中空ですでに両手を上げて、たたまれかけた座布団の上で目を閉じ、眠りのポージングをとっています。
(「う〜む、むだのないアクションですなあ」〈by由目見さん〉)

 眠りに落ちるまでの時間は驚異の0.93秒。(「おそらく世界新記録でありましょう!!」)


ねむりの天才のび太4.png


 「あのねすがたのみごとなこと。一すじのよだれがなんともいえませんねえ。ねむりの天才というほかありません」


 テレビの中でアップになるのび太のスヤ顔(一すじのよだれ付)。

「オリンピックのいねむり種目に、日本代表として、大活躍が期待されます」

(たしかにウサイン・ボルトばりの伝説の絶対王者ぶりを発揮することでしょう。)


 テレビでののび太の圧倒的ないねむりぶりを知り、これまでの非礼を土下座して泣きながら詫びるジャイアンとスネ夫。

 絶対王者は、王者の風格漂う笑みを浮かべ

 「つまらないうらみは水に流し、手をとりあってねむりの道をきわめよう」

 と二人を赦します。


「しずかだねえ……この平和が永久につづくよう祈ってぼくらもねむろうか」

 ねむりの天才がゆったりと見つめる先には美しい満月。

 天才の慈悲深さに感涙するジャイアンとスネ夫。


 しかしその前に晩御飯たべなくちゃ、と、空腹を抱えて家に戻るのび太。


 息子の言いつけどおり寝ていたママは食事の準備はおろか買い物も済ませておらず、あくび混じりにでかけましたが、みんなすでに眠っていて何も買えませんでした。


 愕然とするのび太、しかし次の瞬間に居眠り運転のダンプが突っ込んできて、居間が大破。

 さすがの天才もたまらず「もとに戻して!!」と「もしもボックス」に駆け込んだのでした。


(完)


 中学入試の「ひるねテスト」とは、由目見さんとは、ねむりの道を極めた先とは、等々、気になるところだらけですが、のび太の「あたまをからっぽに」という指導や、のどかな野原を想像させる誘導は、ある意味、現代のストレスケアを先取りしています。

 クライマックスは、放り投げた座布団の着地点を確認せずに中空で眠りのポージングに入っているスローモーション映像。スピードを妨げないという点において、今回王者ボルトのいるジャマイカチームに次いで銀メダルをとった男子陸上400mリレーのバトンパス技術をも彷彿とさせます(多分)。


 のび太がもしもボックスに入って世の中の価値観を逆転させるエピソードは他にも数編あり(13巻「お金のいらない世界」など)、いずれもこの回に劣らぬウィットに富んでおり、こちらもおすすめです。


 読んでくださってありがとうございました。


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2016年08月20日

きれいなのび太、オリンピック射撃競技に出場?(歴代きれいなのび太ご紹介つき)


きれいなのび太.png

 オリンピックで盛り上がる2016年8月中旬、こんな話題がネット上をにぎわせました。


 「中国の射撃の選手にのび太ソックリな人がいる」

 「男子25mラピッドファイアピストル」という種目で、決勝進出まで果たしたその選手の名前は張 富升(チャン フーシェン)。

 惜しくも4位でメダルを逃しましたが、丸いメガネにかっちりとした前髪で射撃の名手というスペックがまんまのび太だろと日本で騒がれ、果ては中国までその話題が波及していったとのことです。

 ちなみに、のび太の射撃能力についてですが、「未来のシューティングゲームで世界最高記録をたたき出す」「タイムマシンで西部に行った際に、たったひとりでならず者の集団を(麻酔銃で)壊滅させる」など、けた外れのものがあります。(コミックス24巻「ガンファイターのび太」より)

 ドラえもん (24) (てんとう虫コミックス) -
ドラえもん (24) (てんとう虫コミックス) -

 世界最高得点獲得時には、ドラえもんからも興奮した口調で天才とたたえられますが、興奮が過ぎて「じつにふしぎだ!ほかになんのとりえもない、頭も悪い、のろまでぐずで……」とド失礼な感想が付け加えられています。
(大人ドラファンの間では有名ですが、ドラえもんはちょいちょいのび太にシビアな発言をします。)

 のび太の射撃シーンとしておそらくもっとも名高いのは大長編「のび太の宇宙開拓史」のクライマックス。

大長編ドラえもん (Vol.2)  のび太の宇宙開拓史(てんとう虫コミックス) -
大長編ドラえもん (Vol.2) のび太の宇宙開拓史(てんとう虫コミックス) -

 悪役ギラーミンから、「腕利きのガンマンときいた。おまえと対決できるのを楽しみにしていたぞ」と決闘を申し込まれています。

 これに対し「ぼくにまかせてくれ。なあにまけるもんか」とみんなを下がらせて受けて立つのび太。繰り返しますがのび太。

のび太の宇宙開拓史.png

 射撃がかかるとのび太はこんなにも頼もしくてカッコイイのです。

 (補足)のび太の射撃について、驚くべき緻密さで統計をとっていらっしゃるサイトを見つけました。
射撃エピソードを含む全タイトルや標的、命中率まで読むことができます!
 「遠足新報」(のび太の特技分析・射撃編―「スナイパーのび太」の射撃シーン全リスト より)
 http://www.hatosan.com/ensoku/2011/05/post-32.html


 そんなかっこいいほうののび太実写版と日本をざわつかせた張 富升選手の画像が見られるURLはコチラ。(おそらくオリンピック期間中限定公開と思われます。)
「男子ラピッドファイアピストル決勝見逃し」(8月14日)

http://sports.nhk.or.jp/video/element/video=27319.html

 張選手は17:10ごろに登場します。黒いサンバイザーが目の上ギリギリの直線前髪みたいに見えるから余計似ているんですね。

張選手についての「R25」掲載のニュースはコチラhttp://r25.jp/off/00052263/ 
(「東京五輪ではメダル獲得なるか のび太が射撃で五輪出場?「思った以上に似てる」の声」)

 読ませていただいた範囲で、一番張選手について細かに情報を集めてくださっていたニュースはコチラです。(芸能ニュースJP 8月18日「【画像】リオ五輪に野比のび太現る…&彼女持ちか??」)
(原作のび太の華麗な拳銃さばき画像も見られます。)

 さて、動画や写真を観ていただくとおわかりになると思いますが、張選手は鋭い目に整った顔立ちで、クールなイケメンです。

 しかも身長184pで立ち姿がきれいですし、あの無造作な髪形やメガネ男子っぷりもスタイリッシュに見え、のび太だとしても「表参道を歩く個性派モデルのび太」といった趣です。

 メガネの形がちょっと違えば、普通にカッコイイ選手と認識されたでしょうが、僕としては「きれいなのび太」として好感度うなぎのぼりです。
 まだ22歳とのことなので、東京オリンピックにも是非そのままのスタイルでいらしてください!!

 ところで、張選手ほどかどうかはわかりませんが、コミックス内には「きれいなのび太」が見られるエピソードがいくつかあります。
(※「ドラえもん」全作品内でも屈指のレジェンド「きれいなジャイアン」についての当ブログ記事はコチラ

以下にまとめさせていただきましたので、是非コミックスをお手にとってみてください。

 1,「うそつき鏡」(コミックス2巻)

ドラえもん (2) (てんとう虫コミックス) -
ドラえもん (2) (てんとう虫コミックス) -

 「今までぼくの顔はまんがみたいだと思っていたけど、こ、これはほんとにぼくだろうか!?」
と鏡をのぞき込むのび太。(当記事冒頭引用画像)

 今となるときれいなのび太の側に時代を感じるところがまたいい。

 人間に偽りの美貌を見せて虜にした挙句、もっと美しくなるためにと無茶苦茶なアドバイスをする、なんのために開発されたのか、まったくわからないタチの悪い鏡の話。

 まんまとそそのかされてキメ顔(と、うそつき鏡に言われた変顔)をするのび太は、ドラえもんに叱られても鏡にへばりついておせじを聞くのをやめられなくなります。(怖い)

 なお、この作品のタイトルページにすらりと足の長い、ダンディなドラえもんが登場するのですが、こちらは「かっこいいドラえもん」の名でフィギュア化されています
((笑)と書こうと思ったら、限定版は現在8万円近辺でひっくりかえりそうになった。)。

UDF ウルトラディテールフィギュア 「藤子・F・不二雄作品」シリーズ8 かっこいいドラえもん 『ドラえもん』 ノンスケール PVC製塗装済み完成品 -
UDF ウルトラディテールフィギュア 「藤子・F・不二雄作品」シリーズ8 かっこいいドラえもん 『ドラえもん』 ノンスケール PVC製塗装済み完成品 -

VCD かっこいいドラえもん ワンダーフェスティバル2010(冬)開催記念限定 -
VCD かっこいいドラえもん ワンダーフェスティバル2010(冬)開催記念限定 -



2,「消しゴムでノッペラボウ」(コミックス8巻)

ドラえもん (8) (てんとう虫コミックス) -
ドラえもん (8) (てんとう虫コミックス) -

 しずかちゃんが、絵の上手な五郎君の描いた絵を素敵とほめたことから、この絵の少年のような顔になりたいと考えたのび太。

 それではとドラえもんが「取り消しゴム」と「目鼻ペン」を使い、のび太の元の顔を消して書き直すことを提案します。
(最初はドラえもんが絵を元に描いてくれようとしたが、失敗した福笑いみたいにされてしまったので、五郎君のもとに紙袋をかぶって尋ねていく羽目に〈笑〉)

 五郎君作ののび太(後で嫉妬したスネ夫に加筆されて台無しになります。)

きれいなのび太2.png


 こののび太のフィギュアも「美男子のび太」として8月24日発売予定だそうです。(スネ夫に加筆されちゃった顔付〈笑〉)張選手効果で売れ行きアップしそうですね。

UDF ウルトラディテールフィギュア 「藤子・F・不二雄作品」シリーズ8 美男子のび太 『ドラえもん』 ノンスケール PVC製塗装済み完成品 -
UDF ウルトラディテールフィギュア 「藤子・F・不二雄作品」シリーズ8 美男子のび太 『ドラえもん』 ノンスケール PVC製塗装済み完成品 -

 ところでこのとき、容姿にこだわるのび太に対し、ドラえもんが「くだらないことを気にするんじゃないよ。男の価値は顔じゃないぞ。中身だぞ。……もっとも君は中身も悪いけど……」と、はげますつもりでうっかりのび太の価値を全否定してしまっていました。


3,「顔か力かIQか」(コミックス40巻)←シビアなタイトル……

ドラえもん (40) (てんとう虫コミックス) -
ドラえもん (40) (てんとう虫コミックス) -

 出木杉君との全方位的な差異を嘆くのび太に、「いいとこ選択しボード」を貸してあげるドラえもん。

 自身の総力の範囲内で、顔、力、IQの数値を変更できる(なにかの力を上げるなら代わりになにかを下げなければいけない)ボードを利用し、「体力を下げてでもかっこよくなったのび太」

きれいなのび太3.png

 なお
「たいしたことないな」
と鏡の前で不満げなのび太に
「もとがもとだからね、ぜいたくいっちゃいけない」
と、またしても問題発言を混ぜ込むドラえもん。
(この後、きれいなのび太がジャイ子に惚れられてしまい、大トラブルに発展していました。)

 以上です。全エピソードとても面白くておススメです。(個人的にはエキセントリックな「うそつきかがみ」が推し回です。)

 当ブログでは今後もドラえもんご紹介をさせていただきますので、よろしければまたお立ち寄りください。(次回記事は原作のび太が実際オリンピック選手候補になりかけた「ねむりの天才のび太」についてです。)

 読んでくださってありがとうございました。

(訂正)引用画像内の藤子先生のお名前を一度「不二夫」と誤記してしまいましたので、お詫びして訂正させていただきます。大変申し訳ありませんでした。

posted by pawlu at 04:29| ドラえもん | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年02月21日

「からだの部品とりかえっこ」※ネタバレ(『ドラえもん』より)

 今回もドラえもんの中で好きな話をご紹介させていただきます。
 「からだの部品とりかえっこ」
 コミックス11巻収録です。(表紙カワイイ)

ドラえもん (11) (てんとう虫コミックス) -
ドラえもん (11) (てんとう虫コミックス) -

 かなりシュールなタイトル(※)ですが、内容はもっとシュールです。

 前回ご紹介の「腹話ロボット」がどちらかというと台詞の妙で笑わせるタイプなら、こちらはずばり画面が面白い方です。

(※)ちなみにドラえもんの中には今見ると目を疑うほどシュールなタイトルが結構あります。「からだの皮をはぐ話」とか「人間切断機」とか。

(以下結末までネタバレなので、できれば先にコミックスをお読みください。)

 のび太がテレビを見ているしずかちゃんを呼び出して、屋外のある大きな機械のある場所に連れて行きます。

その名も「人体取り替え機」(すごいそのままのネーミング……)。

 二人の人間が左右のカプセルに入り、交換したい体の部分のボタンを押すと、そこを取り換えられるという機械です。
 これでしずかちゃんと頭をとりかえて、すらすら宿題を解こうというプラン。
 
 当然しずかちゃんは拒絶し、帰ろうとしますが、

「一生に一度でも冴えた頭を持ってみたいという、いじらしい願いをかなえてやってはくださるまいか」
 と、ドラえもんに悲しそうな顔でせつせつと言われ(のび太、この発言に特に気を悪くする様子もなく、ひざまずいて泣きながらしずかちゃんにおがみ倒している)、しかたなくカプセルに入ったしずかちゃん。

取り替え.png

 ですが、頭をとりかえるということは人格をとりかえるということなので、のび太がしずかちゃんの体、しずかちゃんがのび太の体に変わっただけで、しかもテレビの続きが気になっていたしずかちゃんは、それに気づかずのび太の体で帰ってしまいます。

 いいアイディアだと思ったのに……とがっかりしながら、しずかちゃんが異変に気づいて戻って来るのを待っているのび太。

 しかし、スカート姿ののび太の(しずかちゃんの)足に、突然ドラえもんが鼻息を荒くして熱い視線を送り始めます。

 気味悪がるのび太でしたが、ドラえもんいわく
「じつはね、ぼくには前からひそかに夢見ていたことがある」(妙にカッコイイ台詞)

 短足だから、いっぺんでいいからスラリと長い足になってみたかった。そう言ったドラえもんはしずかちゃんの足のまたがし(笑)をのび太に頼み込みます。

 怒られるんじゃないかとしぶるのび太に、ドラえもんは必死でくいさがり、
「そのへんをかけまわって長い足のスピード感を楽しんで、それからまたとりかえればいい」

 と、いうわけで……。
 スラー(脚線美)

この感激 11巻.png

「おお。この感激!このかっこいい姿を、記念写真にうつしてこよう」
 細くてきれいな長い足にまるっこい体を乗せて、大喜びで力強く疾走してゆくドラえもん(気分がよくなる気持ちはなんとなくわかるが、しかしどう見ても「かっこいい姿」ではない)

 すれちがったスネ夫はあっけにとられますが、やがて、しずかちゃんの上半身にドラえもんのかがみもちふたつみたいな足ののび太を見つけてもっと驚きます。

 ところが、機械のことを聞いたら、スネ夫まで
「そんなら僕にも前からの夢がある」
 スラリと長い腕と指が欲しかった。
「この腕を僕のものにしてみたいな」
 と、のび太の(しずかちゃんの)手をとって、愛着たっぷりにハートを散らし、撫でまわさんばかりの様子。(のび太、とても嫌な顔〈そりゃそうだ〉)

 のび太は一生懸命断りますが、結局押し切られ……。

まあ…….png

「まあ……」
指先の細いしなやかな手をウットリと見つめるスネ夫(なぜかまつ毛がのびている)。
「これこそ僕にふさわしい。芸術家の手だわ」
ハート目で指先をクネクネさせながら帰るスネ夫。
ジャイアンがその様子を見ていました。

「聞いたぞ!おれにもおれの夢がある!」(なんでみんなこの台詞なんだ)
いっぺんでいいからスマートに痩せてみたかった。
断ろうにも、「俺にだけは貸せないってのか!」と胸ぐらをつかまれた結果……。

小鳥になったみたい.png

「すばらしい!この身軽さ、小鳥になったみたい!」
ジャイアンのふっくら顔にしずかちゃんの細い胴、ジャイアンのふっくら下半身という、ある意味「ボンキュボン」なスタイルだけど分布がちょっとだいぶ違う感じの体型で、本人はきわめて朗らかに走って行ってしまいます。

 かくして「スネ夫の腕にジャイアンの上半身にドラえもんの足」となってしまったのび太(なんか全体的にもっちりしている)のもとに、のび太の体のしずかちゃんが戻ってきて仰天します(無理もない)。
 「僕はいやだっていったのにみんなが無理やり……」

 やがて戻ってきたドラえもん(美脚)、スネ夫(美指)、ジャイアン(華奢〈上半身のみ〉)が
「のび太と僕が腕をとりかえてね」
「待て、この腕は俺んだぞ」
「ややこしいことになったなあ」
と、入り組んだやりとりをし、しずかちゃんは知らない知らない!と呆れ怒ってしまいました。
(完)

 ドラえもんという作品はひみつ道具ゆえに、ほかの作品ではまずおめにかかれないようなシュールエキセントリックな展開に平気でなだれこんでいけるんだなとこの手の話を読んでいて気づきました。

 この手の名作はほかにもあるのですが(上記「からだの皮をはぐ話」「人間切断機」も面白いです。)、とりあえず「おお。この感激!このかっこいい姿を記念写真にうつしてこよう」と「まあ……(長まつげ)」と「小鳥になったみたい」の台詞と絵が、それぞれパンチきいていて忘れがたかったのでこちらを紹介させていただきました。(ドラえもんってさらりと読めてしまいますが、一コマを凝視するとなんかスゴイ状況になっていることが結構あるんですよ……。)

 読んでくださってありがとうございました。
posted by pawlu at 23:26| ドラえもん | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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