2021年07月11日

新種恐竜「のび太」命名記念、漫画名場面ご紹介

ノビタサウルス - コピー.jpg

のび太くんの願いをかなえてくれたシン先生 - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube

 2021年7月、中国で足跡の化石が発見された新種の恐竜が、ドラえもんファンの研究者、シン准教授によって、のび太にちなんだ名前、「エウブロンテス・ノビタイ」と名付けられた。




 (ニュースをご紹介した当ブログ前回記事「新種の恐竜の名前「のび太」になる(恐竜の足あとの化石発見ニュース)」はこちら)

 今回はこのニュースに関連する漫画版『ドラえもん』の名場面をご紹介させていただく。




『のび太の恐竜(原作漫画版)』の化石発掘シーン 


大長編ドラえもん1 のび太の恐竜 (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄
大長編ドラえもん1 のび太の恐竜 (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄


 『のび太の恐竜』は、のび太が発掘した恐竜の卵から生まれた首長竜の「ピー助」とのび太たちが、ピー助の生まれ故郷の白亜紀で繰り広げる冒険の物語。

 大長編ドラえもんシリーズの中でも傑作のひとつで、繰り返し映画化されている。

 最新の2020年公開リメイク版では、発掘体験に行ったのび太が新種の恐竜二頭をふ化させるという話になっているが、原作の化石発掘の経緯は次のようなものだった。



 ティラノサウルスの爪の化石をスネ夫に自慢され(しかもあまりよく見せてもらえなかった)、くやしさのあまり、自分で恐竜まるごとの化石を発掘してみせる!!と、うっかり宣言してしまったのび太。


 「できることかできないことかよく考えてからしゃべってくれ!!」

 だいたいきみは…無責任というか……。かるはずみ!おっちょこちょい!

 助けてもらうつもりだったドラえもんに立て続けにお説教をされたのび太は、「もういい!」と、自力で発掘をするべく、本をかき集めて勉強をはじめる。

のび太の恐竜 山のように本を積み上げて - コピー.jpg

 (かき集めた五冊の本のうち『太古の動物』『恐竜の発見』『化石の見つけ方』はいいとして、のこり二冊が『怪獣図鑑』と『回虫のおろし方』なところがのび太らしい。〈藤子F先生の緻密なギャグ〉)

のび太の恐竜 怪獣と回虫の本 - コピー.jpg

(※回虫……人間などの腸に棲みつく寄生虫)

 「あの頭では半分も理解できないと思うし……。すぐあきて投げだすだろうけれど……」

(半分理解できたとして、そのうちの五分の二は怪獣と回虫の知識になるけれど……。)

「自分の力でやってみようという心がけはりっぱだ!失敗してもいいさ!温かい目で見守っててやろう!」

のび太の恐竜 すぐ飽きて投げ出すだろうけど - コピー.jpg

 そう思ったドラえもんは、読書にいそしむのび太を「あったかーい目……のつもり」で見つめるが、振り向いたのび太は、

「なんだよ。ニタニタとしまらないうす笑いなんかうかべて……」

と、バッサリ切り捨て、ドラえもんを憮然とさせる。

(「あったかーい目……のつもり」の丸っこい手書き文字が味わい深い)

のび太の恐竜 あったかーい目 - コピー.jpg


 独学の結果、近所のガケを有望とにらんで、朝から発掘を始めたのび太。

 しかし、手が痛くなるまで掘っても、化石が出てこない。

「こらあ!そんなところで何してる!」

ガケ下の家のおじさんの怒鳴り声がした。


 「どうも今朝から屋根や庭に泥が降ってくると思ったら……」

ガケから降りてきたのび太は言った。

「よろこんでください、いやになってやめるところです」(言い方)

「やめればいいというものではない!」

のび太の恐竜 いやになってやめるところです - コピー.jpg


 おじさんは、罰としてゴミを捨てる穴をのび太に掘らせることにした。

(当時、生ごみは庭に穴を掘って埋める家が多かった。)

 これもドラえもんが手を貸してくれなかったせいだ、と、あんなに「あったかーい目」で見守ってくれていたドラえもんを逆恨みしながら、穴掘りをしていたのび太だったが、そのシャベルが恐竜の卵の化石を掘り当てた。

のび太の恐竜 卵の化石発見 - コピー.jpg


 卵をタイムふろしきでよみがえらせ、孵化させると、かわいい首長竜(フタバスズキリュウ)の赤ちゃん「ピー助」が生まれた。

のび太の恐竜 ピー助誕生 - コピー.jpg


 ピー助は、布団の中で卵をあたためてくれたのび太によくなつき、ふたりは固い絆で結ばれることになる。

のび太の恐竜 のび太が大好きなピー助 - コピー.jpg

 (この作品は、のび太のピー助を守ろうとする姿や、ジャイアンとの友情、しずかちゃんへの思いなど、感動的なシーンがたくさんあって本当におすすめだ。)




「恐竜さん日本へようこそ」(てんとう虫コミックス31巻収録)




「中国の恐竜展」に行ったのび太たち - コピー.jpg


 「中国の恐竜展」(1981年上野国立科学博物館で開催)を観に行ったのび太。

 日本でも中国のように恐竜の化石がたくさん見つかってほしいと思い、飲んだ相手を招待できる薬「招待錠」を使って、大昔の中国の恐竜たちを、日本に招待しようとする。

 (当時はフタバスズキリュウ以外、日本の恐竜の化石はあまり見つかっていなかった。)


 「ぼくがうちの庭から掘りだしたりして」

 「ノビタサウルスなんて名前がついたりして」

ノビタサウルス - コピー.jpg

 ワクワクしながらタイムマシンに乗り込んだ二人は、来てほしい恐竜たちを探して「招待錠」を飲んでもらうが……。

恐竜に招待錠を飲んでもらう - コピー.jpg




「恐竜の足あと発見」(てんとう虫コミックス44巻収録)



古新聞を手に盛り上がるのび太 - コピー.jpg



 「すごいと思わない?恐竜の足あとの化石だって!」
興奮してみんなに新聞を見せるのび太。
ところがそれは古い新聞で、みんなとっくにそのニュースを知っていた。

 おくれている、と笑われてしまい、挽回したいのび太は、今度化石が見つかるのはいつだろうとドラえもんに聞く。
「そんなことわかるもんか。足あとが化石となって残るのは、ひじょうにめずらしいことだからねえ」
こういう大発見は二度とないんじゃないの。
足あとが化石になるのはめずらしい - コピー.jpg


 がっかりしたのび太だが、恐竜のいた9000万年前に行き、足跡をつけさせて化石を作ることを思いつく。

足あとをつけてもらって化石にしよう - コピー.jpg


 恐竜の生息地に「そくせき岩のもと」をまき(地面がセメントのようになる)、足形をとろうとしたが、恐竜に追いかけられたのび太が「岩のもと」の中に転んでしまい、恐竜の足あとではなくのび太のかたがつく。

のび太のかたがついちゃった - コピー.jpg


 それは「サルのような生き物が転んだあとの化石」となり、9000万年前にサルがいたはずがないと、大騒ぎを巻き起してしまった



のび太の「足あと」の夢


足あとを残したい - コピー.jpg

 昼寝をこよなく愛し、怠け者のイメージの強いのび太だが、実は、大きな夢があった。


 「とにかくこの世に生まれたからには、何か一つ足あとをのこしたい!」

野比のび太の名を歴史の一ページに残したい!


 「ツチノコ見つけた!(てんとう虫コミックス9巻収録)」の中で、そう決意したのび太は、そのためにはどうすればいいのか、真剣に考えながら寝落ちしてしまい、鼻チョウチンとともにいびきをかく。

真剣に考えて寝落ち - コピー.jpg

 しかし、この直後、ドラえもんから、幻のヘビ「ツチノコ」の第一発見者として、ジャイアンが未来の図鑑に名を残していることを知らされ、ジャイアンより先にツチノコを見つけようと捜索に乗り出す。

ドラえもん(9) (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄
ドラえもん(9) (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄


 また、「歩け歩け月までも」(てんとう虫コミックス26巻収録)でも、

「せっかくこの世に生まれたからには、歴史に名を残したいんだよ。だれもやっていないようなことをして…………」

と、人生について、夜更けまで考え込んでいる。

名を残すために人生について考える - コピー.jpg

 感心したドラえもんが、「たとえばどんな?」と、真剣に耳を傾けると、

「さか立ちで世界一周するとか、大仏さんの手で、世界一のあやとりを作るとか」

あれこれ考えているとねむれなくて……。

ドラえもんが無言で押入れの寝床に戻る中、のび太は引き続いて物思いにふけっていた。(そして翌朝寝坊した。)

(省略の効いた絶妙のテンポ。あとドラえもんのお尻かわいい)

あれこれ考えて眠れないのび太と寝床に戻るドラえもん - コピー.jpg

ドラえもん (26) (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄
ドラえもん (26) (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄

 どちらも、オチはいつもののび太だが、とにかく、彼にはそういう少年らしい夢があったのだ。

 ツチノコ探しに奔走したり、大仏さんの手で世界一のあやとりを作ろうかと考えたり、恐竜の足あとの化石を発見しようとして「サルのような生き物がころんだ跡の化石」を作ってしまって進化論を大混乱に陥れたりしていたのび太だが、今回、足あとの化石が見つかり、シン先生が、その足あとを残した新種の恐竜の名前を「ノビタイ」にしてくださったことで、「この世に生まれたからには何かひとつ足あとをのこしたい!野比のび太の名を、歴史の一ページにのこしたい!」というのび太の夢が実現した。

 ピー助を育て、庭で発見した化石に「ノビタサウルス」なんて名がついたりして、と、ドラえもんと嬉しそうに話し合っていたのび太にとって、最高の「足あと」を、ついに残すことができたのだ。



大長編ドラえもん1 のび太の恐竜 (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄





posted by pawlu at 21:31| ドラえもん | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

新種の恐竜の名前「のび太」になる(恐竜の足あとの化石発見ニュース)

足あとを残したい - コピー.jpg

(歴史に野比のび太の足あとをのこしたい!と夢を語るのび太〈「ツチノコ見つけた!」てんとう虫コミックス9巻より〉)

 新種の恐竜が、ドラえもんファンの研究者によって、「のび太」と名付けられた。

 そんなニュースが中国から届いた。

 (当ブログ関連記事「新種恐竜「のび太」命名記念、漫画名場面ご紹介」はこちら



 (ANNYoutube動画「新種恐竜に「のび太」の学名 中国の研究者(202178)」解説)※カッコ部ブログ筆者補足

 中国で見つかった新種の恐竜の名前が驚きです。ドラえもんの「のび太」の名前が付いたという、まさに映画のエピソードが現実になったわけですが、なぜなのか、その真相を記者が緊急取材しました。

 去年公開の「映画ドラえもん のび太の新恐竜」。恐竜に自分の名前を付けられたらいいな・・・。そんな、のび太の夢がかないました。

(「のび太の新恐竜」で卵からかえした新種の恐竜の赤ちゃんたちに「ノビサウルス」と名付けるのび太)

映画のび太の新恐竜 - コピー.jpg

 かなえたのはドラえもんではなく、中国地質大学のシン・リダ准教授(39)です。

 化石に付いた名前は「エウブロンテス・ノビタイ」。

ノビタイ想像図 - コピー.jpg

 化石に命名した中国地質大学・シン准教授:「私たちの世代は小さいころからドラえもんの影響を受けていました」

 ドラえもんの大ファンだというシン准教授。

 化石に命名した中国地質大学・シン准教授:「今回、発見した足跡は新種で、可愛いですし、のび太くんの夢を一つかなえてあげたいと思いました」

(シン准教授、眼鏡や温厚そうな笑顔がどことなくのび太に似ていらっしゃる)

のび太くんの願いをかなえてくれたシン先生 - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube

(『のび太の新恐竜』の本を持つシン准教授)
新恐竜を手にした笑顔のシン先生 - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube

 一体、どんな化石なのか。化石が見つかった中国・四川省金魚村のさらに山の奥へ。

 第一発見者の男性は去年7月の集中豪雨の後、川の中で岩を発見したといいます。

ノビタイの足跡の化石 - コピー.jpg

(Image Credit:Youtube

 第一発見者:「岩をひっくり返したら裏にあった足跡を見つけました」

 ノビタイの想像図では足の裏の長さは約31センチ、体長は推定4メートルです。


 化石に命名した中国地質大学・シン准教授:「白亜紀の時、日本は中国と陸上でつながっていました。日本で発見される可能性も十分あります」

 このノビタイの貴重なレプリカが今後、「藤子・F・不二雄ミュージアム」で展示される予定です。




 藤子・F・不二雄ミュージアム公式ブログでは、「ノビタイ」の名前がついたいきさつと、シン准教授からのメッセージとについて紹介している。

シン准教授は1982年生まれの39歳。子どもの頃からの『ドラえもん』ファンで、
2020
12月に中国で公開された『映画ドラえもん のび太の新恐竜』(日本では20208月公開)の中で、
のび太が新種の恐竜に自分の名前をつけているのを見て、今回の足跡にのび太の名前をつけたとのこと。
学名はラテン語の文法でつづられるのが基本で、「のび太」に人名を示す接尾辞「i()」をつけて
「エウブロンテス・ノビタイ(Eubrontes nobitai)」と命名したそうです。

(出典:「恐竜の足跡化石が新発見!「のび太」由来の名前がつけられました! | 川崎市 藤子・F・不二雄ミュージアム (fujiko-museum.com)


シン准教授からのメッセージ
のび太とドラえもんは多くの中国の子どもたちにとって非常に大きな存在です。
『ドラえもん』は想像力、好奇心、そして優しさにあふれた作品で、
私にとってもかけがえのない楽しい子ども時代の思い出です。
感謝の気持ちをこめて、新発見のこの化石に「のび太」の名前をつけました。

(出典:同上


1130日から東京・上野の「国立科学博物館」でノビタイの足跡化石のレプリカが公開される予定です。
レプリカを見ることで、12500万年という悠久の時に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
※ノビタイの足跡化石のレプリカは、今後「川崎市 藤子・F・不二雄ミュージアム」でも公開予定です。

(出典:同上


 この二つのニュース動画には、『ドラえもん』を愛する沢山の人たちから、あたたかなコメントが寄せられている。


・ちなみにのび太には歴史に名を残したい夢があったので同時に叶って良かったね

・まさにのび太は歴史に"足跡"を残したってね。

・大雄(のび太の中国語名)じゃなくてのび太な所に愛を感じる

・藤子・F・不二雄先生がご存命だったなら、きっとお喜びになったでしょうね。

(出典:Youtube 新種恐竜に「のび太」の学名 中国の研究者(2021年7月8日)コメント欄)


・教授、見た目はのび太中身は出木杉君

・世界中で争いや諍いは絶えないけど せめて同じ漫画やアニメを好きな者同士でくらいは仲良くしたい

(出典:Youtube 新種恐竜に「のび太」命名 映画から出た本当の話(2021年7月8日) (2021年7月8日)コメント欄)


 これを記念して、「ドラえもんチャンネル」でも特集記事を掲載。併せてのび太が恐竜の足跡の化石を発見しようと奮闘するお話「恐竜の足あと」(てんとう虫コミックス44巻収録)も7月14日まで無料公開されている

恐竜の足あと発見 タイトルページ - コピー.jpg

足あとをつけてもらって化石にしよう - コピー.jpg

 次回記事「新種恐竜「のび太」命名記念、漫画名場面ご紹介」では、このニュースをお祝いして、漫画『ドラえもん』に登場する恐竜のエピソードと、のび太の夢についてご紹介させていただく。


参照

恐竜の足跡化石が新発見!「のび太」由来の名前がつけられました! 川崎市 藤子・F・不二雄ミュージアム (fujiko-museum.com)

中国で新種の恐竜の足跡化石発見!!「のび太」に由来する名前がつけられました! - ドラえもんチャンネル (dora-world.com)

ドラえもん (9) (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄
ドラえもん (9) (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄


ドラえもん(44) (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄
ドラえもん(44) (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄

posted by pawlu at 19:52| ドラえもん | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年06月20日

ドラえもん「トレーサーバッジ」あらすじ(すでに存在する技術とリスク)

うすっきみわるいなあ - コピー.jpg

 「トレーサーバッジ」は、友人たちの連絡係に四苦八苦したのび太が、全員の位置情報がわかる「トレーサーバッジ」を、機能を伏せたまま配って、皆の行動を覗き見るというお話。(てんとう虫コミックス9巻収録)

ドラえもん (9) (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄
ドラえもん (9) (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄

 (この巻には「ツチノコ見つけた!」「王かんコレクション」「世の中うそだらけ」などの名作も収録されている。)

 『ドラえもん』には珍しく、現代の技術で完全に再現可能なひみつ道具、そして、この技術の抱えるリスクが、笑いの中にさりげなく描かれている。



あらすじ(ネタバレご注意)



 太陽の照り付ける昼下がり。

 のび太は友人たちを探して、町中を歩き回っていた。

 (いやだと言ったのにやらされている)野球チームのマネージャーとして、伝言を届けるためなのだが、みんな親にも行先を言っていないので、のび太はさんざん無駄足を踏まされる。

 空き地にたむろしていたジャイアンたちは、のび太の苦情に、にやにやしながら「文句言うな、それがおまえのしごとだ」というだけで、ちっとも感謝も反省もしない。

  疲れ果ててブツブツ言いながら畳にぐったり突っ伏しているのび太を見て、ドラえもんは

 「つまりだれがどこにいるのか、いつでもわかればいいんだね。」

 と言うと、ポケットからたくさんのバッジを取り出した。

 星や月、スペード、ダイヤ、エース、ハートなど、いろいろな形のバッジ。

「ピカピカ光ってきれいだな。」

 きれいなバッジ - コピー.jpg

 高価そうな美しいバッジをのび太に配られた子供たちは、全員喜んでそれを受け取った。

 なんであんないいものやっちゃうんだろ。

 のび太本人も納得していなかったが、ドラえもんは帰ってきたのび太に

 「あれはトレーサーなんだ。」と言うと、ポケットからタブレット状の「モニター地図」を出した。

地図モニター - コピー.jpg

 「トレーサーの発信した電波で地図にマークがあらわれるんだ。」

 だれにどのバッジをやったか覚えていれば、どこにいてもすぐにわかる。

どこにいるのかすぐわかる - コピー.jpg

 さっき空き地にたむろしていたジャイアンたち4人が、まだそこにいるのが地図モニター上の、バッジと同じマークでわかった。

 と、突然入り乱れる、四つのマーク。

 けんかがはじまったらしい。

 地図上でジャイアンのスペードマークが、山田君の十字手裏剣マークを追いかけている。

 ああ、つかまった、殴られているな。

 スペードマークと接触している手裏剣マーク。

 地図上の山田家に手裏剣マークが入り、どうにか家に逃げ込んだことがうかがえた。


 のび太はニヤニヤしながら電話をかけに行った。

 「やあ、山田くん、いたかっただろうね。」

 どうしてわかった!?

 コブだらけで電話に出た山田君(手裏剣マークバッジ装着中)はあっけにとられた。

山田君に電話 - コピー.jpg

 星マークのバッジを身に着けたスネ夫は角のパン屋さんに止まっている。いつものアイスの買い食いのようだ。

 店を去ろうとしたスネ夫を店員さんが呼び止めた。店にスネ夫宛ての電話がかかってきたのだ。

 「スネ夫、アイスうまいか?」


 一方、ジャイアンのスペードマークが猛スピードで走っていた。

 「わかった、ジャイアンのママに見つかって追い回されているんだ!」(店の手伝いをさぼったから)

 「ゆっくり楽しみな。」

 モニターに見入るのび太にそう言ってドラえもんは部屋を出ていった。

ゆっくり楽しみな - コピー.jpg


 ジャイアンは空き地に逃げ込んだらしい。スペードマークは空き地の片隅で止まっている。

 そこへ、しずかちゃんのハートマークが空き地に入ってきた、かと思ったら……。

 ジャアン!!

 スペードとハートがぴったりとくっついた。

 「くっついたきりはなれない!な、な、なにやってんだ、このふたり。」

くっついたきりはなれない - コピー.jpg


 ゆるせぬ!

 モニターを手に、半狂乱で空き地に突撃したのび太。

 ところが、空き地には土管に座ってスケッチをしているしずかちゃんしかいなかった。

 「ずうっとわたしひとりよ?」

 しかしモニター地図では。

 やはりハートとスペードが密着したままだった。

 「いやらしい!あんなバカジャイアンのくそジャイアンなんかと!!」

 完全に取り乱し、泣きながらわめき散らすのび太。

 「もういっぺん言ってみろ!!」

 土管に隠れていたジャイアンが激怒して顔を出し、のび太は慌てて空き地から逃げ出した。

バカジャイアンのくそジャイアンなんかと - コピー.jpg

 帰り道、安雄君のお母さんが息子を探しているのに出くわしたので、急ぎの用なら、と、地図モニターで居場所を教えてあげた。

 「だれがどこにいるか、ぼくにはちゃあんとわかるの。」


 「いま聞いたんだけど、あんた、だれがどこにいるかわかるんだって?」

 のび太の家に来たジャイアンの母ちゃん。

 「タケシがどこにいるのかおしえとくれ、かくすとひどいよっ!」

 「空き地の土管の中。」

 震えあがったのび太は、あっさりジャイアンの位置情報を母ちゃんに提供してしまった。

かくすとひどいよっ - コピー.jpg

 うわさがひろまり、親たちが次々とのび太の家にわが子の居場所を聞きにくる。


 「めちゃめちゃにおこられた。のび太が教えたに違いない。」

  こぶだらけのジャイアンと、首をかしげるスネ夫たち。

 「のび太にはぼくたちのいる所がすぐわかるらしいよ。」

 「うすっきみわるいなあ。」

 「どうしてわかるんだろ。」

 スネ夫は「ひょっとして……!」と、胸のバッジを見た。


 「あれ!?」

 部屋で地図モニターを眺めていたのび太が声を上げた。

 「五人が公園の池に飛び込んだぞ」

 五つのマークが池の中に。

 まさか集団自殺!?


 公園に駆け付けると、五つのバッジだけが袋に入って、池に釣り竿でぶらさげられていた。

 のび太の背後から五人がぬうっと姿を現した。

 へんなバッジをつけさせやがって。のび太につけちゃえ!!

 げんこつとともにバッジまみれにさせられたのび太は、どうにか制裁から逃げ出した。


 「……じつにふしぎだ」

 ドラえもんが部屋に残された地図モニターを見つめていた。

 「一時間前に五人が公園のトイレに入ったきりでてこない」

 様子を見に行くと、困り果てたのび太(バッジ五個付き)がトイレの窓から小声で呼びかけてきた。

 「ここだよ。みんなに見つからないように連れ出して。」

 公衆トイレの向こうでは、怒りのおさまらない少年たちが、まだ執念深くのび太を捜索していた。

 (完)




注目ポイント



 『ドラえもん』には、ひみつ道具でプライバシーを侵害する話が結構ある。


 「㊙スパイ大作戦」

スパイ大作戦 スネ夫をさぐれ - コピー.jpg


 「こっそりカメラ」

こっそりカメラ スネ夫への宣言 - コピー - コピー.jpg


 「のぞき穴ボード」

のぞき穴ボード - コピー.jpg

ドラえもん(29) (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄
ドラえもん(29) (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄

 どれもタイトルからしてダメな空気が漂っているが(こんなことができる道具を子守りロボットに販売する未来デパートのユルさが怖い)、日ごろずる賢く立ち回っている者や、横暴な者(つまり主にスネ夫とジャイアン)の裏の顔や、それを暴かれる側の恐怖を描いていて、作品としては切れ味鋭い。

 その中で、この「トレーサーバッジ」が印象的なのは次の点だろう。

 ・現代の技術で完全に実現可能である
 ・バッジの美しさで相手の気を惹いて身につけさせている
 ・収集された位置情報が第三者の圧力で漏洩され、個人の自由と安全が失われる

 現在、スマホなど多くの電子機器に搭載されているGPSは、トレーサーバッジと同じ機能を持っている。

 家族を見守ったり、仕事で現場の最寄りにいるスタッフに連絡をとるには、便利な機能だ。 

 ところがのび太は「連絡係としてチームメイトの居場所を知りたい」という当初のオフィシャルな目的を、地図モニターをオンにすると同時に忘れてしまい、町内の子供たち全員の行動を不必要に追い続けて、みんなのプライバシーを侵害してしまう。

 「おもしろいなあ」と、友達の行動を覗き見て喜ぶのび太に、「ゆっくり楽しみな」と、にこやかに言うドラえもんも、どうもズレている。

家に逃げ込んだ - コピー.jpg

 (連絡係ののび太の苦労を知っても、ジャイアンたちが非協力的で横柄だったことが、二人の感覚を麻痺させたのかもしれない。)


 現代のデジタル社会では、位置情報のほかにも様々な個人情報を登録する動きがある。

 バッジの機能を伏せていたのび太と違って、これらは、基本的に提供者本人の同意によって成り立つものであり、そこには様々な特典があり、何重にもセキュリティが設けられている。

 だからきっと大丈夫だろう、と、思って、たくさんの人が便利さと引き換えに情報を入力している。

 だが、どんなものでも完璧ではない。

 技術の悪用や、コンピューターウィルスの危険性は、たびたびニュースになっている。

 それに、もしも、ジャイアンの母ちゃんのような圧倒的強制力を持つ存在が登場し、「かくすとひどいよっ!」と、情報を取り上げたらどうなるのか。

 (ジャイアンの場合は、店の手伝いをさぼった身で、さらに山田くんを殴ったのだから自業自得だが。)

 世の中が不安定になれば、個人の自由やプライバシーがいかに軽視され、利用されるかは、歴史が何度も証明している。

 高度なテクノロジーやインターネットは、私たちにとって、バッジの輝きよりもはるかに魅力的で、必要不可欠なものになっている。

 だが、あまりにも無防備に「わあい、もうかった」と、なんでも取り入れてしまうのは危険なのではないか。

バッジをくばる - コピー.jpg

 そんなことを考えさせられる。

 のび太がきれいなバッジを配った時、「あんないいものなんでやっちゃうんだろう」と首をかしげたとおり、魅力的なものを、ただ相手のためだけに配布するということはまず無いし、ウィルスでも、ジャイアンの母ちゃん的な圧力でも、鉄壁と信じられていた防御を、突破したり、有無を言わさず破壊する存在が現れないという保証も、残念ながらどこにも無い。

 そして、ただ、きれいなだけだったバッジと違って、スマホなどの電子機器は、あまりにも私たちの生活と深く結びついていて、もう、「へんなものつけやさせがって!」と、肌身から離すことが、できないのだ。

 物語はオチまで含めて笑えるけれど、「既に実現可能な技術」と思うと、ジャイアンの母ちゃんの尋問になすすべなく情報を漏らすのび太や、「うすっきみわるいなあ」と顔を曇らせる子供たちの姿に、ふっと寒いものもよぎる、技術の進歩が読後感を変えた作品だ。

ドラえもん (9) (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄
ドラえもん (9) (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄

ラベル:鋭い作品
posted by pawlu at 17:04| ドラえもん | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年03月20日

ドラえもん「ハロー宇宙人」あらすじ(かわいい火星人登場)

地球には人間がいる - コピー.jpg
おそろしい地球人たち - コピー.jpg

 「ハロー宇宙人」は、UFOマニアの近所のおじさんにUFOの写真を見せて、おこづかいをもらおうとしたのび太とドラえもんが、火星に宇宙人を創るというお話。(てんとう虫コミックス13巻収録)


(コミックスの表紙もかわいい〈この巻には「ジャイアンシチュー」「お金のいらない世界」などの名作も収録されている。〉)

ドラえもん(13) (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄
ドラえもん(13) (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄


 壮大なようなそうでもないような展開と、キノコ風の火星人の可愛さがみどころ。



(あらすじ)  ※ネタバレご注意

 ある夏の日。

 のび太、ジャイアン、スネ夫は空き地にたむろしていた。

 「あついな、氷あずきなんかくいてえな」

 「先立つものがなくちゃな」

 小学生男子のわりに渋い嗜好と台詞のジャイアンとのび太をよそに、スネ夫が「ぼくはよく冷えたメロンでもごちそうになってこよう」と、立ち上がった。

 驚く二人に、「ぼくのやり方を見てな」と言い残し、ある家を訪ねていった。

 この家にはUFOマニアの「円番さん(←笑)」が住んでいて、近隣の目撃情報を収集していたのだ。



 スネ夫が、またUFOを見たと(でまかせを)言うと、地図まで持ち出して真剣に聞き取りをする円番さん。

 (その間にメロンをごちそうしてくれる。)

 興奮して矢継ぎ早に質問する円番さんに、ゆうゆうとメロンを食べ、冷たい飲み物を飲みながら、こまやかに嘘をつくスネ夫(酷い)。

メロンを食べるスネ夫 - コピー.jpg

 いい写真をとってきたらお小遣いをあげるよ、と、円番さんに送り出されたスネ夫が、外から一部始終を見ていたのび太たちに「あんな話をするとむちゅうになってよろこぶよ」とUFO詐欺の手口を教えると、ジャイアンは、「おれもよろこばせてごちそうになろう」と手を打つ。



 「やり口がきたないと思うんだ!」

 帰宅後、円番さんの情熱を踏みにじるスネ夫(と、詐欺に乗っかる気満々のジャイアン)に憤慨するのび太。

 「そうだ!じつにきたない!」

 さすがドラえもんは同意してくれるかと思いきや

 「そんないいことをなぜもっとはやく教えない!」

 すぐに写真をとろう。と、なにやらとりかかろうとする。

 インチキなんかよせよと、のび太は止めようとするが、ドラえもんは、ほんもののUFOを宇宙人に作らせるのだと言った。

 火星には空気や水があり、コケがある。そのコケの進化を加速させて宇宙人にしたら、10日もすればUFOを作るだろう。

 メロンとお小遣いほしさに、創世記の神のような発想で、火星に「進化放射線」をロケットで送り込んだドラえもん。



 のび太とドラえもんが地球からモニターで見守っていると、進化放射線の効果でまたたくまに進化した火星の植物は、やがて水をもとめて動けるようになり、ついにキノコのような「火星人」が登場した。

(かわいい)

火星人誕生 - コピー.jpg

 洞窟暮らしから、カビを育てて収穫する集団農耕生活、人口増加、都市の誕生……と、人類の歴史のように発展を遂げるかわいい火星人。


 ちなみに、この間、

 UFOのおもちゃでインチキ写真を撮影中のスネ夫とジャイアンを、のび太が余裕の笑みで見下しているところが写りこんでしまい「みるからにインチキくさい写真になった」と暴力をふるわれたり、

(たしかに)

見ろ! - コピー.jpg


 スネ夫たちから、ドラえもんに本物そっくりのUFOを出してもらうなら、「おれたちもインチキのなかまにいれろ!」と言われ、黙秘を通したら重ねて暴力をふるわれたり、

インチキの仲間 - コピー.jpg

 それでも口を割らなかったのび太に、ドラえもんが、「えらい!あんなのなかまにいれたらろくなことないからな」と、シビアな発言をしたり、

あんなのなかまにいれたらろくなことないからな - コピー.jpg

 スネ夫たちが撮りなおした写真を円番さんに見せに行ったが、「おもちゃみたいにも見える」と言われ、ジャイアンが「今度はもっと本物らしいものをとります」と口をすべらせたり、

 ……と、地球は地球で、いろいろあった。



 やがて生まれた火星の近代都市で、夜空に浮かぶ地球を見ながら語り合う火星人父子。

 (子供はもちろんかわいいが、チョビひげのお父さんもかわいい。おしゃれなネグリジェと髪形のお母さんもかわいい。)

火星人家族 - コピー.jpg

 「ぼくはぜったいにいると思うよ。」

 「ほう、地球に人間がかね」

 そして、火星に攻めてくるんだ。「宇宙戦争」という本に書いてあったよ。

 SF小説を信じていた少年は、いつかロケットを作って地球を探検したい、と、お父さんに将来の夢を話した。


 (補足1)この火星人の少年の台詞はH・G・ウェルズ作のSF小説『宇宙戦争』のパロディ。

 小説の「火星人が地球に攻めてくる」という設定を逆にしている。

334px-War_of_the_Worlds_original_cover_bw(宇宙戦争) - コピー.jpg
 (画像出典:Wikipedia

 (補足2)「宇宙戦争」は名優オーソン・ウェルズのラジオドラマでも有名。「火星人襲来」を告げるニュース場面のあまりのリアリティに、視聴者が事実と誤解してパニックを起こしたという都市伝説がある。



 月日は流れ、成長した火星人の少年は、宇宙飛行士になって地球へと飛び立った。

(国家の最高権力者らしき人物も、見送る群衆もかわいい)

火星人の旅立ち - コピー.jpg

 (ちなみに、のび太とドラえもんは、この歴史的瞬間を、テレビの特撮番組「UFOレンジャー」を観ていたために見逃した。)


 大気圏を越え、雲を抜けた先に姿を現したのは、大都会東京。やはり地球には文明があった!

 しかし、なんという汚れた空気と騒音!

 宇宙服越しにも伝わる不快感に、火星人はかわいい顔をゆがめた。


 そして。

 「これが地球人?おおっ!なんという凶暴な顔つきだろう!」

 ジャイアンとスネ夫が、いまだにしらばっくれて「インチキのなかま」に入れようとしないのび太を、脅迫尋問している真っ最中だった。


 逃げ出すのび太の襟首をつかまえ、ボカボカと殴るジャイアンとスネ夫。

 「野蛮人だ!!」

 どこかのお宅の庭木の陰に隠れ、一部始終を見ていた火星人は戦慄した。

(コケから生まれてキノコ状に進化したためか、火星人もUFOも小さい〈UFOは灰皿程度の大きさ〉ことが、このコマで判明する。)

野蛮人だ! - コピー.jpg

 どうにか逃げ帰ったのび太だが、なかなかUFOが来てくれないことにしびれを切らして、また、ドラえもんと一緒に、お茶の間に「UFOレンジャー」を観に行ってしまう。


 「UFOレンジャー」は特殊部隊が地球の平和を守るために宇宙人と戦うというストーリー。


 飛来するUFOを撃墜するレンジャーに「やれ、やれぇ!」「宇宙人なんかに負けるな!やっつけちまぇ!」と結構乱暴な言葉遣いで声援を送るのび太とドラえもん。


 野比家の窓から、「火星のものに似た乗り物を次々攻撃する特殊部隊と、他星人の殺戮映像を娯楽扱いする地球人たち」の様子を覗き込み、UFOごとおののき震える火星人。

 「な……なんというおそろしい……。地球人は血を見るのが大好きなんだ……。」

 もう、とてもこんなおそろしい星には居られない。早く帰って火星の皆にも知らせよう。


 動揺が操縦を狂わせたのか、灰皿大のUFOはフラフラと危うげな軌道を描きながら野比家を離れ、近くを歩いていた円番さんにぶつかった。

 なんじゃこれは、と、道に落ちたUFOを拾い上げた円番さん。

 UFOのおもちゃではないか、さてはこれを使ってインチキ写真を……。

 「わしはだまされていたのか!」

 「宇宙人は地球人よりもずっと小さいかもしれない」という発想がなかった円番さんは(スネ夫たちの写真にうさんくささを感じていたこともあって)、あれほど恋焦がれていたUFO(かわいい火星人入り)をおもちゃと決めつけ、空に向かってポキャ!と蹴り飛ばした。


(円番さん……!!)

UFOのおもちゃ? - コピー.jpg

 「あっ!UFOだっ!!」

 円番さんの怒りの一蹴で飛んでいくUFOを見たジャイアンとスネ夫がそれを撮影し、歓喜の涙ともに手を取り合った。

 ついに本物の撮影に成功した!!

ついに本物を撮影した - コピー - コピー.jpg

 メロンも、お小遣いも超え、彼らの中にも宇宙人のロマンに感動する少年の心があったのだ。



 一方、帰星した宇宙飛行士からの報告を受けた火星人たち。

 地球人の凶暴さを知り、いつ「地球人襲来」が現実のものになるかわからない、と、すみやかに地球から離れた星への移住を決定した。


 飛び立つUFOの大群を(こんどはちゃんと)モニターで見たドラえもんとのび太は、地球にUFOが来る!と、屋根の上でカメラを構えて心待ちにしていたが……。

 UFOは来ず、モニターに映る火星の都市は、みるみるうちに廃墟になっていった。

 「むだ骨だったみたいね」

 二人はあきらめて眠りについた。


 翌日。

 「信じてよっ!今度こそ本物なんですよ!」

 「ええい、まだわしをだます気かっ!!」

 スネ夫とジャイアンが、「円番さんが蹴っ飛ばしたUFOの写真(本物)」を手に円番さんを追いかけ、「写っているUFOはおもちゃ」と固く信じている円番さんは、ぷんすか怒りながら二人を追い払っていた。


(完)



 せっかくとてもかわいい火星人が来てくれたのに、第一星人発見がジャイアンとスネ夫(しかも欲に目がくらんで、ついこの間まで「氷あずきでも食べたい」とか一緒に言っていた友達を恐喝している瞬間)だったばっかりに台無しになってしまった。

 (しずかちゃんか出木杉くんあたりにでも出くわしてくれれば、両星間に交流が生まれたかもしれないのに。)

 大人になってから再読すると、少年のように目を輝かせてUFOの情報を集める円番さんと、少年なのに堂々とうそをつきながらメロンを食べ、そつなく調子を合わせるスネ夫の笑顔の対比が味わい深い。

スネ夫と円板さん2 - コピー.jpg
スネ夫と円番さん - コピー.jpg

 (そしてジャイアンの「おれもよろこばせてごちそうになろう。」という台詞は、「だまして」という重要な問題を気に留めず、「よろこばせて」と、あたかもWin-Winであるかのように考えているあたりが、まんま詐欺師の発想だ。)

よろこばせてごちそうになろう - コピー.jpg

 しかし、円番さんはUFOが絡むと財布の紐までガバガバになる人のようなので、本物のUFOを撮影したと思えば感涙できる、根は悪人ではないスネ夫とジャイアンレベルの少年たちにちょっと騙された程度で済んでよかったと言えなくもないかもしれない。

 (リッチなスネ夫がわざわざ食べにいくほどおいしいメロンを常備しているところをみると、それなりに金銭的余裕のあるお宅のようだし、もっと悪質な詐欺に狙われる可能性だってあっただろう。)


 ドラえもんにはこのほかにも「小さな宇宙人」が登場する作品がある。どちらもおすすめだ。


・『大長編 のび太の宇宙小戦争(リトルスターウォーズ)』

大長編ドラえもん のび太の宇宙小戦争 (Vol.6) (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄
大長編ドラえもん のび太の宇宙小戦争 (Vol.6) (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄

 円番さんには結構たちの悪い詐欺を働いていたスネ夫が、ラジコン制作のスキルと男気を見せる。スネちゃまファン必見の名作

(※2021年3月20日現在、コロナの影響でリメイク版「映画 のび太の宇宙小戦争2021」の公開延期中)


・「天井裏の宇宙戦争」(てんとう虫コミックス19巻収録)

ドラえもん(19) (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄
ドラえもん(19) (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄

 映画「スターウォーズ」のパロディ色の濃い作品。

 キャラや建築物のスタイリッシュなデザインと、スケールの小ささのギャップが見事。



ドラえもん (13) (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄
ドラえもん (13) (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄


posted by pawlu at 13:37| ドラえもん | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年02月10日

きれいなジャイアン(ドラえもん「きこりの泉」)が公式HPで期間限定無料配信中

画像 きれいなジャイアン いえ、もっときたないの - コピー - コピー.jpg


 あの伝説のきれいな男が帰ってくる。

 ドラえもんの公式HP「ドラえもんチャンネル」で、名作「きこりの泉」が「STAY HOME 特別企画」として期間限定で無料配信されている。
 (2021年2月13日〈土〉午前10時まで)


 泉に物を落とせば、泉に住まう女神に、落とした物よりずっときれいなものと交換してもらえるというひみつ道具「きこりの泉」。

(てんとう虫コミックス36巻収録)


 ドラえもん史上最高傑作とも言われる名作、そしてファンの熱狂的支持のもと、今もグッズ化され続けている「きれいなジャイアン」を一話まるごと観られる貴重な機会だ。

 ドラえもんのファンは、この作品のジャイアンがあまりにもきれいなので、もはや「きれいな」という言葉の後ろには「空」でも「海」でも「花」でもなく「ジャイアン」を思い描くようになってしまった。

 (「ちはやふる」といえば「神」、「ひさかたの」といえば「光」、「きれいな」といえば「ジャイアン」、状態。)

 ドラえもん公式チャンネルでは、ステイホームを楽しく過ごすために、定期的に藤子・F・不二雄先生の作品が無料配信されている。

 (同時配信「見た!パー子の正体」(『パーマン』より)、「ノスタル爺」(SF短編))


 いつまでも大人と子供に笑顔と感動を届けてくれるドラえもんと藤子Fワールド、今後も目が離せない。

 (当ブログ、「きこりの泉」あらすじご紹介記事はこちら。)




posted by pawlu at 22:10| ドラえもん | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2021年02月07日

(※ネタバレあり)ドラえもん「かがみのない世界」(もしも誰も自分の顔を見たことがなかったら……)

ゴリラみたいなひどい顔 - コピー.jpg


 最近、かわいらしい猫動画をふたつ見つけた。

 ひとつめは美猫の「ミモ」さんが鏡を観て、自分に耳があることに気づいている動画だ。


 最初、その鏡にはミモさんの両耳だけが映っていて、ミモさんには、そのちらちら見える三角ふたつが何なのかわかっていない様子だったが、伸びあがって、それが自分の姿であることを確認すると、その賢そうな大きな瞳を見開く。

 それから、まじまじと鏡に映る自分を見つめながら、自分の頭を前脚でそっと撫でまわし、鏡の中そのままに、確かに自分の頭上に耳がついていることを、静かに、でも本当に意外そうに、確認している。

自分の耳に気づいた猫 (2) - コピー.jpg

 もうひとつは、小さな黒猫「ゴースト」ちゃんが、自分の後ろ脚に気づいてびっくりしている動画だ。

 寝っ転がって毛づくろい中、後脚の存在に生まれて初めて気づいたゴーストちゃんは、飼い主さんの「まあ!それはなにかしら!?」という言葉に合わせて、ほんとうに「にゃっ!?にゃに!?にゃに!?」という顔で、じぶんの後ろ脚をかわりばんこに両前脚で持ち上げて見つめている。

 (猫の「あっけにとられた」顔を初めて観た〈かぁわいい〉)



脚に気づいた猫 (2) - コピー.jpg


  ところで、『ドラえもん』にも「自分がどんな姿をしているか知らないとどうなるか」を描いた作品がある。



 「かがみのない世界」は、自分のルックスに自信がないのび太が、誰もひけめを感じたりうぬぼれたりしない「鏡の無い世界」を「もしもボックス」で作り出すというお話だ。

(てんとう虫コミックス27巻収録)





(あらすじ)  ※ネタバレご注意

 「かがみをみるたび、いやになっちゃう」

 洗面所の鏡を見つめ、のび太は口を「3」にとがらせた。

 「どうしてぼくのかおは、まんがみたいなんだろう」

  (まんがだから)

 「気にするな、人間のねうちは顔じゃない、頭だ、力だ!」

人間のねうちは顔じゃない - コピー.jpg


 のび太は深くうなだれて部屋に戻っていった。


 のび太の場合、どちらもかなりいまいちで、「全体的に値打ち無し」と言ったも同然であったことに気づいたドラえもんは「わるいこといったかしら……」と口をおさえた。



補足:

 実際には、眼鏡をとったのび太は、出木杉君級とはいかないまでも、藤子Fワールド内では標準〜比較的整った容姿をしている。

眼鏡をはずしたのび太 - コピー.jpg

(小さいころは非常に可愛らしい)。

 小さいころののび太 - コピー.jpg赤ちゃんのころののび太 - コピー.jpg


 それに、ドラえもんはのび太の親友で、子守りロボットなのだから、容姿については「そんなことないよ」と言い、人間の価値については、のび太最大の長所である「性格の良さ」をほめてあげてほしかった。



 鏡なんかあるから悪いんだ。

 自分の顔を知らなければ、引け目を感じたり、うぬぼれたりする者もいないはずだろう。

 ということで、「もしもボックス」で、「もしも誰も自分の顔を見たことがなかったら……」という世界を作ってみることにした。


 さっそくどうなったか見に行ってみると、世界から鏡が消えていて、ママはお化粧に、パパは髭剃りに苦戦していた。

 (人に確認してもらうしかないのだが、なかなかうまくいかない。〈特にママは、のび太たちのでたらめなアドバイスで変顔に仕上がってしまった〉)

 ガラスにも顔が映らない、カメラも無い。だから、誰も自分の顔を知らない。

 これはいい、と、思いながら二人で外に出てみたのだが。



 「スネ夫さ〜ん」

 スネ夫を女の子二人が追いかけていた。

 「おねがい。」「にがおをかいて。」

 「またかい」

 「だってこうでもしないと自分の顔をみられないもの」


 スネ夫は差し出されたスケッチブックに手慣れた様子で鉛筆を走らせると、「これでいいか」と女の子に手渡した。


 スネ夫さんって絵がじょうずねえ - コピー.jpg

 きらきらと輝く大きな瞳が長いまつげにふちどられた美少女たちの絵。

 「そっくり!」「スネ夫さんて、絵が上手ねえ。」

 ぽっちゃり系の女の子とスネ夫系の女の子(親戚ではというほど似ている)は、うっとり「自分の顔」の「にがお」絵を眺めていた。

 (「自分の顔」しか観ていないから、互いの絵の違和感に気づいていない。)


 「あたしにもかいてえ。」

 しずかちゃんも、スケッチブックを手に、スネ夫に頼みに来ていた。


 「すっかり人気者だ。」

 「かがみがないからさ」

 この世界では、絵がうまくて空気が読める男が女の子にちやほやされると気づいて、非常におもしろくないのび太。


 一方空き地では。

「こうしてさわってみると……、おれってどうしてこんなに、男らしいりっぱな顔してるんだろう」

男らしいりっぱな顔 - コピー.jpg

 ジャイアンが自分の顔を両手で撫でまわし、その手触りから伝わる己の美貌に酔いしれていた。

「高い鼻、ひきしまったくちびる……。毎日なでていてもあきないや。」


 そうだ!おれタレントになろう!!

そうだ!おれタレントになろう! - コピー.jpg


 土管に腰かけ、夢を叫ぶジャイアンを見かけたのび太とドラえもん。

 「そんなばかな!!」

 「かがみがないからだよ。」

 (二人とも酷い。)


 「かがみをみせてやろう!!」

 身の程を知るべきだと言わんばかりののび太に、ドラえもんは「せっかくかがみのない世界にしたのに」と、唇を「3」にするが、「鏡を見たことがない人間が、初めて鏡を見たらどうするか実験しようよ。」と言われ、「なるほど、おもしろいかもね。」とポケットに手をいれた。(実験動物扱い)


 「箱入りかがみ」

 等身大の鏡の入った試着室のような箱を出されて、ジャイアンは「なんだいそれ」と、扉を開けてみた。

 「おっ、おまえだれだ。」

 ウ〜〜。

 顔をしかめて中を覗き込んだ後、ジャイアンは笑った。

 「ハハハ…。ゴリラみたいなひどい顔。」

 箱入り鏡の中の「『ゴリラみたいなひどい顔』の少年」も、ジャイアンを指さし、歯をむき出しにして笑っていた。

 「おれの顔見てわらったな!!でてこいこのやろ!!」

 「男らしいりっぱな顔」をあざ笑われたジャイアンは、「ゴリラみたいなひどい顔」の少年に殴りかかるが、相手はガラスのむこうに隠れているので拳をいためてしまった。


 「だれにおこってるの。」

 大きな箱の前で「ずるいぞ!!」と鼻息を荒くしているジャイアン(そしてなぜか側で大爆笑しているのび太とドラえもん)に、通りすがりのスネ夫としずかちゃんが声をかけた。


 ジャイアンから「ゴリラみたいな、生意気な男の子」が隠れていると聞いたスネ夫は、箱の中を覗き込んでみた。

箱入り鏡とスネ夫 - コピー.jpg


 「なるほど。みるからにずるそうな、感じのわるいやつ!(ムカッ)」

見るからにずるそうな感じの悪い奴 - コピー.jpg


 でもゴリラというよりキツネだよ。

 ばかいえ、あんなキツネがいるか。

 印象の良くない顔の男の子というところは一致したが、目鼻立ちについては二人の意見が大きく食い違っているので、しずかちゃんも箱を覗き込んでみた。

 「うそお、かわいい女の子よ」


 3人が決してかみ合うことのない議論をし、のび太とドラえもんがますます抱腹絶倒していたとき、サラリーマンらしき男性が通りかかり、箱の中の人物に目を見張った。

 「こ、これは!!十年前に家出したふたごの兄さんじゃないか!どうしてこんなところに!!」

 ガラスの檻に閉じ込められているのか!!誰がこんな酷いことを!!

 しかし、どう頑張っても兄を助け出せなかった男性は、箱入り鏡を背負って走った。


 あれ、鏡が無い。誰が持って行ったんだろう。

 笑い転げていたドラえもんとのび太が、ようやく異変に気付き、タケコプターで行方を探し始めた。


 「おまわりさ〜〜ん」

 箱入り鏡を背負った男性は、息せき切って交番に駆け込んでいた。

 「なに、その箱に兄さんが?」

 警官が箱を開けると、男性の「ふたごの兄さん」の前に、警官の制服を着た男が立っていた。

 「きみ、みたことがない顔だが、どこの署の者かね。」

 「きっとにせ警官だ、そいつがゆうかい犯人です!!」

 警官の後ろに立つ男性の言葉に、警官も「む、どおりで人相が悪い!」と思わずピストルを抜いた。

 「むこうもピストルをぬいた!」

 「きさま!ていこうするか!!」


 平和な町に激しい銃声が響いた。

 上空から事態に気づいたドラえもんは、大慌てで家に飛んで帰り、「もとの世界に!!」と、受話器に叫んで「もしもボックス」の効果を解除した。


 「なんでかがみなんか撃ったんだろう」

 「なんでかがみなんかはこんできたんだろ」

 穴だらけになった「箱入り鏡」を前に、警官と男性がきょとんとしていた。

 「かがみがなくなってもいいことなかったね」

 大人二人が我に返ったのを見届けたのび太とドラえもんは、タケコプターでこっそりその場を離れた。


(完)




 ジャイアンが、自分を指さして「ゴリラみたいなひどい顔」とあざ笑うのも見ものだが、スネ夫が自分の容姿に「みるからにずるそうなかんじの悪い奴!(ムカッ)」と嫌悪感をあらわにしているのは珍しい。


 他の話では、スネ夫は自分のことを非常に美しい少年だと思っているのだ。

 鏡を見ながら、

 「美しいということばはぼくのためにあるんだなあ」

美しいということばは僕のためにある - コピー.jpg


 「いくら見ても見飽きないや、どうしてこんなに美少年なんだろ」

どうしてこんなに美少年なんだろ - コピー.jpg


 と、ためいきまじりに言ったり(1巻でも29巻でも、ゆるぎなく何コマもかけて自分に見とれている。)、夢の中に登場する自分は、顔立ちも態度も凛々しい少年(しかも長身)だったりする。

先生!生徒にぼう力をふるってはいけません - コピー.jpg


 スネ夫はデザイナー志望だし、この回でも披露されている絵の腕前は、美術評論家にも「ひらめきのようなものが感じられる」と言われるほどで※てんとう虫コミックス8巻「ロボットがほめれば……」、美的センスは確かなのだが、「自分」だと思った瞬間に、大幅に認識が甘くなるらしい。

 (まあ、そのくらい自己肯定感が高いほうが人生は楽しい。)


 「鏡」が登場する作品としては、このほかに、極端に美しい虚像を映しだした挙句、お世辞まで言って観る者の精神を依存状態に引きずり込む「うそつき鏡」(てんとうむしコミックス2巻収録)がある。こちらもおすすめだ。

ドラえもん(2) (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄
ドラえもん(2) (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄

ドラえもん(27) (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄
ドラえもん(27) (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄


posted by pawlu at 16:01| ドラえもん | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年12月06日

ドラえもん「十戒石板」(「きまり」と「裁き」の危うさを描いたシニカルな名作)

悪口を言うな - コピー.png


 「十戒石板(じっかいせきばん)」は、してはならないきまりを刻むと、それを破った者に裁きの雷が落ちるというドラえもんのひみつ道具。

十戒石板 - コピー.png

(てんとう虫コミックス『ドラえもん』39巻収録〈『小学五年生』1983年4月号掲載〉)


 ママの家庭内での厳格なルール決めに閉口したのび太が、対抗手段として使い始めるが、絶大な力を手にしたのび太が、わりと早い段階から増長し、単なる横暴な権力者と化してしまう。

 誰の心にも秘められた「裁く者の快楽」と、スマートなオチが印象的な名作だ。


【補足】

 「十戒」の石板は、旧約聖書の預言者モーセが神から与えられたもの。殺人や盗みの禁止など、十の戒めが記されている。

 (ドラえもんのひみつ道具や設定の中には、聖書やギリシャ神話などをもとにした、格調高いものがある。)

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ホセ・デ・リベーラ作『モーセ』(1638年):十戒が書かれた石板を持つモーセが描かれている(出典:Wikipedia



(あらすじ)  ※結末までネタバレです。

 トイレのドアは開けっ放し(スリッパも片方ひっくり返っている)。

 電話の受話器も戻さない。

 使った道具も戻さない(しかも、はさみを開いたまま床に転がしておくという、かなりダメな行動)。


 のび太のあまりのだらしなさに業を煮やしたママが、とうとう厳罰化に乗り出した。


 「くつはそろえてぬぎなさい」

 玄関にある貼り紙(なかなか美文字)に、靴を脱ぎ散らかしながら気づいたのび太。

貼り紙 - コピー.png

 「かいだんはしずかに」

 「ふすまの開けはなしを禁ず」


 家中の貼り紙を見て、ママにわけを尋ねると、「いくらいってもわすれるから。紙にかいておきました。このきまりを一つやぶるごとにおこづかいから十円ひきます。」と罰金制度の発動を申し渡されてしまう。


 「むちゃくちゃだ…。」

 青ざめうなだれ、力なく部屋に戻ろうとするのび太の背中に「ふすま!(開けっ放し)十円引くわよ」と、ママの容赦ない声が飛んだ。


 「ざんこくだ!!あれが親のすることだろうか。」

 ほんのちょっとも「自分のせいでこうなった」とは考えずに、厳罰化を嘆くのび太に、ドラえもんは、いいことじゃない、と言った。

 「そのうちにはきみもキチンとした人間になるだろう。」(わりと失礼な台詞)

きちんとした人間 - コピー.png

 「その前にぼくはスッカラカンになっちゃう。」

 さめざめと泣くのび太に

 「そういえばそうかも……。」

 と、真顔で同意するドラえもん。

 (「大丈夫、きっとできるよ」とか「きまりを破らなければいいのだから、そうならないように気を付けよう」とは言わない。)


 なんとかやめさせてくれえ!と泣きつかれ、

 「きまりにはきまりで対抗するか。」

 と、ドラえもんらしくなく、何か大切なことを見落としたまま取り出したのが「十戒石板」。


 「戒め」を十まで記すことができ、それを破った者は、雷に撃たれるという石板に、第一のいましめとして

 「のび太の小づかいをへらすな」

 と、鉄筆(石に文字を刻める道具)らしきペンでカリカリと刻み込む。


 もしもおこづかいを減らしたら、ママは雷に撃たれる、と聞いたのび太は、石板を手に、わざと騒がしく階段を下りてみた。

 「十円へらすわよ!!」

 次の瞬間、ふすまの向こうで、鋭い落雷の音。


 「すごい力……」

 ママは茶の間で黒焦げになって気絶していた。


 「こんな使い方するならかさない!」

 「ちょっとテストしただけさ。」

 ドラえもんの叱責を(母親をわざと雷に撃たせておきながら)、ごく軽い調子でかわすと、のび太は「第二のいましめ「かした道具を取り返すな」」と刻み始め、邪魔者(ドラえもん)をすみやかに追い払った。


第二のいましめ - コピー.png


 「あと八つ。どんないましめをきめようかな」

 石板を手に、いたずらっぽい笑顔で外出したのび太。


 おあつらえ向きに、立ち話をしているジャイアンとスネ夫を見かけたので、

 「のび太をいじめるべからず」

 と、さっそく石板に刻んでみた。


 そのまま鼻歌交じりに通過しようとすると、「やい、待て!」と呼び止められる。

 「そらきた。」

 のび太はひそかにニヤついて舌を出した。

 「おまえ、きのうはよくも……」

 「うん、うん。」

 笑顔で因縁をつけられるがままののび太に、薄気味悪いものを感じた二人は、「いじめてやる!!」と、つかみかかった。

  落雷。

「やったあ!!」

 効果の再確認と日ごろの復讐を果たしたのび太は、満面の笑みで拳を振り上げた。

いじめるべからず - コピー.png

 その後。


 すれ違った後、のび太の学校での失敗を密かに笑ったクラスメート二人に「のび太のわる口をいうな」と書いて制裁。

 「ぼくをばかにすると、こうなるんだよ」


 ラジコンで遊んでいた少年に、貸してと言って「のび太にかすとこわすから。」と渋られたら「のび太のたのみをことわるな」と書いて制裁。

 「いうこときけばいいのに」

 (別に落ち度は無いのに黒焦げにされて倒れた少年のつま先と、酷いことを言いながら楽しそうにラジコンを走らせるのび太の落差が怖い。)

頼みを断るな - コピー.png

 いつものび太を噛む犬にうなられ。

 「のび太にかみつくな」

 と書いて制裁。


 「ぼくにさからう者はみなこうなるのだ!!」

さからう者はみなこうなる - コピー.png


 昼寝を愛し、おっとりとしたいつもの彼は、もうそこには居ず、某「死神のノート」を手にした某天才青年が暴走したかのような発言とともに、石板を小脇に勝ち誇って去っていく。


 「すっかりいい気になって。夜おそくまであそびまわっている」

 夜、タケコプターでのび太を探し回るドラえもん。


 「あと一つのこっているけど、あしたの楽しみにとっておこう」

 「裁きの落雷」を「楽しみ」と言いながらのび太が帰宅すると、野比家の玄関のドアに貼り紙がされていた。

 「夜あそびするべからず」


 「ママだな!!またこりないできまりを作って!!」

 大きな雷を落としてこらしめなくちゃ、と、石板に最後の一文を刻み込む。

 「かってなきまりをつくるな」

 落雷がのび太に。

かってなきまり - コピー.png

 石板を刻んでいた手から、衝撃でペンが跳ね飛ばされた。


 「わるく思うな。こうでもしなくちゃ、とりかえせなかったからね。」

 黒焦げになって気絶しているのび太を前に、石板を回収するドラえもん。


石板回収 - コピー.png

 「わるく思うな」と言いつつ、その表情にはうしろめたさも哀れみもなく、ただ、冷静だった。


 (完)





 「階級ワッペンてんとう虫コミックス15巻)「のび太の地底国同26巻)」など、のび太が絶大な力を手にして暴走する物語は名作が多い。

 弁護しておきたいのだが、普段ののび太は、とても人柄がいい。

 しずかちゃんのお父さんが、結婚前夜のしずかちゃんに

 「のび太君を選んだきみの判断は正しかったと思うよ。あの青年は人の幸せを願い、人の不幸を悲しむことのできる人だ。それがいちばん人間にとってだいじなことなんだからね。」

 (「のび太の結婚前夜」〈てんとう虫コミックス25巻)

 と、言ってくれたほどで、その心根の優しさは本物だ。

 そんなのび太でも、強大な力を手にすると、たやすく自分を見失う。

 地底の「のび太国」で首相になった際には、国を豊かにするという名目で「の」印の国旗を振りかざしながら、未来の愛妻しずかちゃんと、最強の恋敵出木杉君を強制的に田植え労働させ、自分は昼寝に行くという暴挙にすら及んでいる。(よく挽回できたものだ。)

地底国の独裁者 - コピー.png

 そのくらい、「権力」は魅力的な猛毒なのだ。


 「こんなにいばったことは生まれてはじめてだもの」(「階級ワッペン」より)

こんなにいばったことは生まれてはじめて - コピー.png

 と、すがすがしい笑顔で言っていたことがあるので、のび太の場合はとくに、日ごろ馬鹿にされたりいじめられたりで溜まった鬱屈が、より彼を暴走させてしまうのかもしれない。


 「十戒石板」でのび太が手にしたのは「きまりに違反した者を裁く力」だ。


 そのきまりには「こづかいをへらすべからず」「いじめるべからず」「かみつくな」など、一応はのび太の財産と安全を確保するためのものもあるが、「かした道具をとり返すな」から、早くも道を踏み外しており、裁きの落雷を受ける直前の石板に至っては「のび太のめいれ(い)」「のび太におやつをや(れ)」などの横暴極まりない文言が垣間見えている。

かってなきまり2 - コピー.png


 その他の「のび太暴走回」は、大抵ジャイアンたちの反乱によって報いを受けるが、「十戒石板」の

 「人を裁く力に酔って自分を見失い、勝手なきまりで人を裁こうとしたために、それまで自分が裁きに使っていた手段で、自分自身が裁かれる」

 という物語は、短編としてきれいにまとまっている上に、今までもこれからも繰り返される人の世の真理を突いている。

 (そしてそれは、今やネットで世界中に意見を発信できるようになった私たち全員が陥るかもしれない、危険な落とし穴でもある。)


 イエス・キリストは、

 「人をさばくな。自分がさばかれないためである。あなたがたがさばくそのさばきで、自分もさばかれ、あなたがたの量るそのはかりで、自分にも量り与えられるであろう。」

 と、戒めている。(新約聖書・マタイ伝第七章1〜2節)

 のび太はまさにそのとおりの結末を迎えてしまったのだ。



 一方、石板を見事回収したドラえもん。


 作中省略されているドラえもんの動きは

  1. いい気になって夜遊びをしているのび太は、自分の非を認めず、他者が「きまり」でのび太の行動(夜遊び)を制限しようとしたら、それを裁こうとするだろうと予測
  2. ママに夜遊びを禁止する貼り紙を書いてもらう(あの美文字はママの筆跡。おそらく、「ママに二度目の雷が落ちることはない」と、説明済)
  3. のび太の自滅まで待機

 ということになる。


 一種の賭けなのだが、石板を回収するときの、ドラえもんのフラットな表情を見るに、のび太の増長がそのくらい酷いことと、石板が書き手自身も容赦なく裁くことに、全能感に目がくらんでいるから(あとのび太だから)、気づかないだろうということを、100%確信していたようだ。

 そして、計画通り、静かに賭けに勝利した。


 ドラえもんはコロコロと可愛らしい外見をしていて、のび太の大親友だ。

 一緒にはしゃいで遊ぶこともたくさんあるが、一方で、こんな、老練な軍師のように相手の心理を見極め、自滅にいざなう罠を張るという一面も持ち合わせている。

 (最初に「きまりにはきまりで対抗するか」と石板を渡してしまったのだけは、らしくないミスだったが。)


 優しくのんきなのび太が裁きの力に酔いしれ、ドラえもんは大親友を冷徹な知略で打ち負かす。


 この、一見、明るく楽しく夢いっぱいの作品世界に秘められた底知れなさもまた、あるいはこれこそが、生誕50年(2020年は連載開始から50周年記念)を迎えても、『ドラえもん』が圧倒的存在感を放つ理由だ。


 (絵に子供向けマンガらしい親しみやすさと暖かみがあり、普段の彼らは仲が良く、原則素直で善良なだけに、そのシニカルなギャップには、ときに現代アート超えのシュールさすら漂う。)



シュールな対比 - コピー.png

もんくいうとたいほするぞ - コピー.png


 ドラえもん側の行動は完全に省略され、最後の一コマだけですべてを物語る、洗練された展開も、何かと説明が過剰な今読むと、新鮮だ。

 「十戒石板」が収録されたてんとう虫コミックス39巻には、「さとりヘルメット」「ジャイアン殺人事件」などの名作が収録されている。

ドラえもん(39) (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄
ドラえもん(39) (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄


 また、『コロコロ文庫デラックス ドラえもんテーマ別傑作選ドキリ風刺編』は、「十戒石板」以外にも「階級ワッペン」「Yロウ作戦」など、エスプリに富んだ傑作が数多くまとめられている。とくにおすすめしたい一冊だ。





【当ブログ関連記事】
独裁者とは - コピー.jpg
「押せば邪魔者をあとかたもなく消すことができるスイッチ」の話。ドラえもん史上最も恐ろしいとも言われるひみつ道具。
当然のび太にはコントロールできず、最悪の事態を引き起こしてしまう。
絶対的権力の危険性を「十戒石板」とは別の形で示した傑作
(てんとう虫コミックス15巻〈『小学四年生』1977年6月号掲載〉)


【参照】

(「階級ワッペン〈『小学六年生』1977年4月号掲載〉」「どくさいスイッチ」収録巻)


(「のび太の地底国」〈『小学五年生』1980年2月号掲載〉収録巻)


(「のび太の結婚前夜〈『小学校六年生』1981年8月号掲載〉」収録巻)
ラベル:鋭い作品
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2020年08月02日

(※ネタバレあり)大長編ドラえもん『のび太と鉄人兵団』あらすじ



 『のび太と鉄人兵団』は、のび太たちが、他の惑星から襲来するロボットの軍団と戦う大長編漫画です。

 全地球人の未来がかかった戦いが繰り広げられるシリアスな物語で、作品に登場する美少女「リルル」は、大長編シリーズの中でも最も印象深いキャラクターの一人。多くファンが、大長編ドラえもん屈指の感動作として挙げるであろう名作です。

(※2020年8月2日現在、「ドラえもんチャンネル」で、大長編『のび太の恐竜』が全編無料公開中です。是非ご覧ください。)



【あらすじ】

 夏のある日、スネ夫に、子供の背丈ほどもあるラジコンロボット「ミクロス」を見せびらかされたのび太は、「ビルみたいにでっかいロボットを出して」と、ドラえもんに泣きつきました

 「きがるにいってくれるなぁ……」

 無茶な頼みごとをするのび太に、暑さも手伝い、苛立ちをあらわにするドラえもん。

(コロコロして可愛らしい国民的キャラクターが垣間見せた狂暴な表情)

きがるに言ってくれるなあ - コピー.png

 「そんなでっかいロボットが、いったいいくらすると思ってんだ!?」

 非常に現実的な理由を言い捨て、涼みに行く、と、どこでもドアで北極に行ってしまいました。

 ドラえもんを探しに行ったのび太は、氷の大地に、光り、音を発する不思議な球体が転がっているのを見つけます。

 見上げると、空間が、水の波紋のようにゆらぎ、そこから、謎の大きな金属製の物体が、ゆっくりと姿を現し、地面に落ちてきました。

何かが空から降りてきた - コピー.png


 何がなんだかわからないまま、「ドラえもんならわかるかも。」と、北極からその物体を部屋に持ち帰ったのび太。

 いつのまにか物体とともに部屋についてきていた球体が、ふたたび音と光を発すると、今度は家の庭に、別の形の物体が落下しました。

 二つを組み合わせるとロボットの脚の形になることに気づいたのび太は、この球体はロボットの部品を呼び寄せる道具で、ドラえもんが巨大ロボットを買ってくれたのだ、と、喜びますが、北極から帰ってきたドラえもんは、そんなものは知らないと言います。

持ち主がわからない - コピー.png


 不思議がるドラえもんをよそに、ロボットを完成させたいと言い張ったのび太は、組み立てて操縦するための場所として「鏡面世界(鏡の中にある別世界、建物や物はあるが、生物は存在しない)」をドラえもんに出してもらいます。


 なぜか頭の中のコンピューターだけが見つからなかったので、未来製のロボットコントローラーで動かせるようにして完成させたロボット「ザンタクロス」(北極から来たのでサンタクロースにちなんで命名)。


 しずかちゃんにも声をかけ、誰もいない鏡面世界で好きに操縦して楽しみますが、ふと操縦室にあったボタンを押すと、ザンダクロスから胴体部分から光線が放たれ、目の前にあったビルが、一瞬にして粉々になりました。

 おもちゃのおもちゃのつもりで、とんでもない物を作ってしまった。

 もしこれが、元の、人の居る世界で暴れたりしたら……。

 誰が何のために北極に送り込んだかはわからないけれど、もう、ザンタクロスは鏡面世界に置き去りにして、誰にも秘密にしよう。

 三人はそう約束し合いました。



 その頃、町に見知らぬ美少女が現れ、スネ夫とジャイアンに声をかけてきます。

 「このへんで大きなロボットを見かけませんでしたか」

リルル - コピー.png

 やがて少女「リルル」にロボットを持っていたことを突き止められたのび太は、ザンタクロスを返すために、彼女を鏡面世界に連れていきます。

 鏡面世界の出入り口である「おざしき釣り堀(広げると川や海などの水面につながる機械、家にいながら釣りをするときに使う道具だが、この時は釣り堀の水面を大きな鏡代わりに使っていた)」をリルルに貸すことと、今日のあったことは誰にも言わないことを条件に、ロボットを持ち去ったことを許してもらったのび太。



 しかし。

 リルルは、ザンタクロス(本当の名前はジュド)のことを、兵器ではなく建築用の工作機械だと言っていたが、あれを使って、誰もいない鏡面世界で何をするつもりなのか。

 そもそも、リルルは一体何者なのか。

 もしかして宇宙人で、何かをたくらんでいるのではないか。

 気になってしかたがなかったのび太が、ぼんやり窓から夜空を眺めていると、うら山に流星のような光が繰り返し落ちているのに気づきました。

 行ってみると、リルルに貸したおざしき釣り堀が山に置かれ、何かが光を放ちながらそこを通って鏡面世界に送り込まれていました。

 のび太の様子がおかしいので後をつけてきたドラえもんと合流し、こっそり鏡面世界の様子をさぐってみると、実世界と同じのはずの町の景色は一変していました。

 まるでSF映画のような建物が立ち並ぶ世界。

 ロボットたちがたえまなく建築作業を進める中、ザンタクロス(ジュド)の肩に乗ったリルルが、彼らを指揮していました。

 一日でも基地を完成させなければ。

 祖国、メカトピアからやってくる「鉄人兵団」のために。地球での戦いのために。

 「地球人捕獲作戦を成功させるために!!」

 リルルの恐ろしいことばを聞いて、思わず叫び声をあげてしまったのび太。

 のび太に気づいたリルルは、鉄人兵団を迎えるために、鏡面世界への入り口を広げてくれれば、のび太だけは地球人の中で特別扱いをしてあげると言いますが、のび太たちは急いで釣り堀からもとの世界へと逃げていきます。


  彼らを追いかけたリルルは、ジュドの腕をおざしき釣り堀にねじこみ、そのまま力づくで二つの世界の入り口を広げようとしました。

鏡面世界の出入り口を広げようとするジュド - コピー.png



 二つの世界に同時に湧き上がる地響きと、空間に散る火花。

 「危ない!逃げろ!」

 ドラえもんは、のび太の腕を引き、走りました。

 直後に、激しい爆発。

 隕石が落ちたように地面が窪み、「おざしき釣り堀」もジュドの腕も消えていました。

 無理やり空間をこじ開けようとしたために起きた「次元震」によって、鏡面世界とのつながりが断ち切られたのです。

 あのロボットたちは、もうこちらの世界に来ることはできない。

 二人は胸をなでおろしました。

 しかし、事態は既に動き出していました……。



 以下、作品の重要な場面のご紹介です。(※ややネタバレです。)



【1】戦いの中ののび太たち

 実際の戦争を思わせるシリアスな物語なだけに、大人になってから読んだほうがより印象的なシーンがいくつかあります。

 大人たちに鉄人兵団の存在を信じてもらえなかったのび太たちは、自分たちだけでロボット兵たちと戦うことになり、ひみつ道具を駆使して、数万の鉄人兵団から地球を守ろうとしますが、やはり、次第に追い詰められていきます。

 ロボット軍との直接対決前夜、隠れ家でそわそわと歩き回るスネ夫。

 ジャイアンは「落ち着けよ!」と叱りますが、スネ夫は泣きながら言い返します。

 「落ち着いていられる!?こんな時に!!もうすぐ鉄人兵団の総攻撃があるってのに!しかも結果が見えてるってのに!!」

 のび太はぼんやりと天井を見上げながら、スネ夫の言葉にうなずきます。

「わかる!こんな気持ち、何度か経験したからね。0点しかとれないのをわかっていて、テストを受ける時の気持ちだよ。」

0点しかとれないのわかっててテストを受ける気持ち - コピー.png

 実にのび太らしいことばですが、「もうどうしようもないと思いながら、絶望的事態が来るのを、ただ待っているしかできない時の人の気持ち」を、とても的確に言い表しています。

 (のび太という人は、学校の成績こそ悪いけれど、非常に鋭いところもあるのです。)

 諦めの空気が充満する中、ドラえもんが檄を飛ばします。

 「よけいなこと考えずに、全力を尽くすんだ!!思いがけない道が開けることもある!!」

余計なこと考えずに全力を尽くすんだ - コピー.png


 どんなに苦しい状況でも、逃げられないとわかっているなら、全力で立ち向かうしかない。

 立ち向かえば、余計なことを考えて泣いていたときの自分には思いもかけない形で、道は開けるかもしれない。

 のび太も深いけれど、ドラえもんも深い。

 そして、深い諦観を、ユーモラスだけれど的確に表したのび太の台詞があるからこそ、ドラえもんの言葉が、きれいごとではなく、生きています。 

 今、この時代にこそ、心に刻みたい場面です。




【2】争いの種


 大長編ドラえもんシリーズの多くは、「別世界の住人と友達になったのび太たちが、力を合わせてピンチに立ち向かう」という展開ですが、リルルは地球人捕獲作戦を企てる「鉄人兵団」側の存在として登場するため、物語には序盤から不穏な空気が漂っています。

 地球人を捕獲して奴隷にしようとするまでのメカトピアの歴史は、強い者が弱い者を道具として利用し、ふみにじる、人類の歴史そのものでした。

 ロボットたちが(そして人間たちが)、強い者は弱い者をふみにじっていいと思うようになったのはなぜなのか。

 物語の中で、あるキャラクターが語っています。

 競争本能。

「他人よりも少しでもすぐれた者になろうとする心だよ。

 みんなが競い合えばそれにつれて社会も発展していく。ただし、ひとつまちがえると……。

 自分の利益のためには他人をおしのけてもという……。

 弱い者を踏みつけにして強い者だけが栄える、弱肉強食の世界になる。」


 競争本能は、社会の発展に役立つものだけれど、一歩間違えば、世界を残酷なものにしてしまう。

 踏みとどまり、全ての者にとっての幸せな世の中を作るには、「他人を思いやるあたたかい心」が必要だ。

 この作品は、私たちに、そう伝えています。


 ドラえもんの大長編シリーズのうち、世界が危機的状況に直面する作品として、このほかに『のび太の大魔境』『のび太の魔界大冒険』、『のび太の海底鬼岩城』などがあります。


大長編ドラえもん3 のび太の大魔境 (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄
大長編ドラえもん3 のび太の大魔境 (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄


大長編ドラえもん4 のび太の海底鬼岩城 (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄
大長編ドラえもん4 のび太の海底鬼岩城 (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄


大長編ドラえもん (Vol.5) のび太の魔界大冒険 (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄
大長編ドラえもん (Vol.5) のび太の魔界大冒険 (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄


 どれも名作なのですが、この『のび太の鉄人兵団』は、誰の心にもある競争本能が争いを生んだと語られる場面を通し、「争いは(戦争でなかったとしても、相手がロボットでなくても)いつでも現実に起こりうる。今、現在起きている」という真実を、読者に示しています。




【3】リルルの心の変化


 ロボットだけが暮らす祖国「メカトピア」に忠誠を誓うリルルは、最初、地球人を奴隷にすることに何の疑問も持っていませんでした。

 「ロボットは神の子、宇宙はロボットのためにあるの。」

 「人間みたいな下等生物が支配者(ロボット)のために働くのは当たり前じゃない。」

 そう言い放つリルル。

 国からそれが正義だと教えられ、ためらいもなく残酷な任務に就いたリルルは、正体を知ったしずかちゃんを殺そうとさえします。

しずかちゃんを殺そうとするリルル - コピー.png


 しかし、次元震で大けがをしていたリルルは、スネ夫のロボット「ミクロス」の邪魔もあって、これを果たせず、逆に、のび太たちとしばらく一緒に暮らすことになりました。

 リルルに殺されかけたのに、「ときどき理屈に合わないことをするのが人間なのよ。」と、笑ってリルルの治療をするしずかちゃん。

ときどき理屈に合わないことをするのが人間 - コピー.png


 ロボット軍に戻ろうとするリルルを撃てないのび太。

リルルを撃てないのび太 - コピー.png


 人間のすることってわからない。

 人間など、ゴミのようなものだと思っていたのに、私たち(ロボット)と同じように、それ以上に、複雑な心を持っていた。

 その行動の意味を、完全にわかることはできないけれど、相手にも、心がある。

 それに気づいたとき、リルルの心に迷いがうまれました。

人間はゴミなんかじゃない - コピー.png


 自分と違う相手を、違うから、弱いからと、ふみにじるのではく、相手を知り、相手の心について考える。

 それが、「他人を思いやるあたたかい思いやりの心」の種となり、リルルを変えていきます。




【4】ドラえもんの真面目な一言(※ネタバレです)


 地球の運命をかけた戦いは、「思いがけない道」をたどることになりました。

 のび太たちにとっても、ロボットたちにとっても無傷ではなかった結末。

 メカトピアと、地球のために、リルルがした選択。


 地球が平和を取り戻したあと、リルルのことが忘れられなかったのび太は、ドラえもんに尋ねます。 

 メカトピアは、リルルが願ったような、みんなが幸せに暮らせる星になったのだろうか。

 ドラえもんは、笑顔で答えます。

 「そりゃあ、素晴らしい星に…、天国みたいになっているだろうよ」

 リルルは、今、幸せなのだろうか。

 のび太の問いに、ドラえもんの顔から、笑顔が消えます。

 「たぶん…。」

 そして、その真面目な顔のまま、ドラえもんはのび太に言いました。

 「そう信じようよ。」

そう信じようよ - コピー.png



 大人になって、もう一度ドラえもんのこの台詞と表情を読み返したとき、ふいに、子供のころの気持ちを思い出しました。

 ポケットもひみつ道具も持っていなくても、ドラえもんと一緒に暮らしたい。

 見た目がコロコロして可愛らしいとか、持っているポケットやひみつ道具が便利とか、そんなことを別にして、ドラえもんの性格がとても好きで、いつも一緒にいて、話ができたらいいのにと、思っていた、と。

 ドラえもんはポケットの中のひみつ道具で、のび太たちの色々な夢をかなえ、ピンチを助けてくれますが、必ずしも万能ではありません。

 (特にこの「鉄人兵団」の物語で、ドラえもんの道具にできたことはわずかでした。)

 ドラえもんは、地球とメカトピアのためにリルルがしてくれたことは、きっと現実に実を結んでいると信じていたから、メカトピアの今を聞かれた時には、すぐに笑顔で答えられましたが、リルルのことは、ドラえもんにも本当のことはわかりませんでした。

 それは、神様の領域のことだったからです。

 でも、のび太と同じように、とても知りたいけれどわからないことに、わりきれない思いを抱きながら、のび太より少しだけ前向きに、のび太を力づける言葉を言ってくれ、のび太の願うことを、一緒に心から願ってくれる。

 ドラえもんのそういう性格が、この「たぶん…。そう信じようよ。」という、真面目な言葉と表情に現れています。

 こういう家族が、友達がいてくれたらいいなと、子供のころ、思っていた。

 そして、大人になると、ドラえもんのこの言葉が、子供だましの無責任な気休めではなく、共感と控えめな励ましであることが、余計に心に響きます。

 未来のロボットであることも、不思議な道具の力も関係なく。

 ただ、のび太を思いやる家族として、たくさんの感情を共有する友達として、「そう信じようよ」と、言ってくれている。

 この言葉、この真面目な顔が、もしかしたら、全ての作品の中のドラえもんの台詞や行動の中で、一番優しく、一番温かく、のび太が(そして読者も)、悲しいこと、わりきれないことがあっても、その痛みを胸に、それでも生きていかなければならないときに、必要なものなのかもしれません。

 ラストシーンは、二人の願いを受けた、余韻に溢れたもので、感動的です。

 私たちみんなの心の中にある、「競争本能」の危険性と、その競争本能を、争いではなく、みんなが幸せに生きられる社会を生み出す力に変える、「思いやり」の価値。

 それを理解したリルルの心の変化と、選択。

 そして、ドラえもんの真面目な言葉と、美しいラストシーン。

 大長編シリーズの中でも、屈指の名作です。ぜひお読みになってみてください。



posted by pawlu at 19:21| ドラえもん | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年06月11日

大長編シリーズの「かっこいいのび太」名場面ご紹介

しずかちゃんをかばうのび太 - コピー.png


 「大長編ドラえもん」は、ドラえもんたちが太古の昔や海の底、はるか遠くの星など、様々な場所で冒険を繰り広げるシリーズ作品です。


(2020年6月現在、ドラえもん公式サイト「ドラえもんちゃんねる」で大長編シリーズが期間限定で五作品順次公開中、現在の公開作品は『のび太と竜の騎士』〈6月25日AM10:00まで、その後さらに2作品公開〉)

 https://dora-world.com/daichohen2020sp


 普段は色々と人間らしい欠点があるのび太たちですが、日常を飛び出し、強大な敵と戦う中で、それまで見せなかった一面を見せてくれる瞬間があります。


 特に魅力が光るのが、のび太とジャイアン。


 のび太は、後にスネ夫に「大長編だとかっこいいことを言う」と言われるほど、激変することがあります。(『のび太の銀河超特急』より)




 今回の記事ではこうした大長編の中の「かっこいいのび太」名場面をご紹介させていただきます。



うそつきかがみ - コピー.png

 (いや、こういう意味ではなく。)





【大長編のかっこいいのび太 その1】 腕利きのガンマン


 大長編2『のび太の宇宙開拓史』は、平和な開拓地コーヤコーヤ星の人々に強引に立ち退きを迫る「ガルタイト鉱業本社」に、のび太とドラえもんが立ち向かうお話です。

大長編ドラえもん (Vol.2)  のび太の宇宙開拓史(てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄
大長編ドラえもん (Vol.2) のび太の宇宙開拓史(てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄


 地球より重力が小さいため、その星では超人的身体能力の持ち主となったのび太とドラえもんは、コーヤコーヤ星の「スーパーマン」となって大活躍しますが、非合法の汚れ仕事をこなすギラーミンの策略でピンチに直面します。


 物語のクライマックスはギラーミンとのび太の早撃ち決闘シーン。


 実はのび太の特技は射撃(と、あやとり)で、普段どんなに周囲にダメな奴扱いをされていても、 そのガンさばきは、早さ、精度ともに天才的でした。


 のび太の射撃の腕前は単行本24巻「ガンファイターのび太」でも観られます。

ドラえもん (24) (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄
ドラえもん (24) (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄


 この回の冒頭、のび太は未来のシューティングゲームで世界最高得点をたたき出しています。

 そして、それを見たドラえもんは「君は天才だ!」と叫んだ後、「実に不思議だ!ほかになんのとりえもない頭も悪い、のろまでぐずで……」と、ボロカス言っていました。

ガンファイターのび太 毒舌ドラえもん - コピー.png



 その射撃の腕前で、ガルタイト鉱業本社の人間たちも、繰り返し追い払ってきたのび太。

 (優しいのび太の武器は、人を気絶させるだけの「ショックガン」)


 ギラーミンは目的のためなら大量殺人も辞さない凶悪な男でしたが、のび太のことは「腕利きのガンマン」として一目置き、一対一の男の勝負を挑んできます。


ギラーミン - コピー.png

 「ぼくにまかせてくれ、なあに負けるもんか」

と、ドラえもんたちを下がらせ、決闘を受けて立つのび太。(超絶かっこいい。)


決闘を受けて立つのび太 - コピー.png


 相対峙したのび太に、ギラーミンは

 「このチビ、ただものではないな」

 と、おっとりした少年にしか見えないのび太の、尋常ならざる才能を見抜きます。


 一方、のび太も

 「ギラーミンがねらいを外すなんてぜったいにありえない。勝負は最初の一発にかかってる。相手より0.1秒でも早く撃つこと……。」

 と、自分の命と、親友であるロップル君たちの愛するコーヤコーヤ星の命運をかけた大勝負で、緊張しながらも真剣に勝機をさぐります。


決闘直前 - コピー.png

(ギラーミンの足の間からのび太の姿が見える大胆な構図のコマは、西部劇の決闘シーンへのオマージュと思われます。)


 「のび太のくせに生意気だ」などと口が裂けても言えない、のび太の本質がわかる名シーンです。





【大長編のかっこいいのび太その2】しずかちゃんへの思い

(おそらく二人の結婚の決め手となった場面)


 大長編の第一作目にして最高傑作とも言える『のび太の恐竜』は、のび太が育てた恐竜の「ピー助」を、故郷である白亜紀の日本に帰そうとするお話です。

大長編ドラえもん1 のび太の恐竜 (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄
大長編ドラえもん1 のび太の恐竜 (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄

(2020年8月、リメイク映画公開予定。これで三度目の映画化。)


 肉食恐竜たちが君臨する世界で、のび太たちはしばしば大ピンチに見舞われます。


 一度目の危機は、巨大草食獣アパトサウルスの群れを、ティラノサウルスが急襲したとき。


 しずかちゃんは、つい先ほど卵からかえったばかりのアパトサウルスの赤ちゃんが、その場にとりのこされたことに気づき、思わず岩陰から飛び出してしまいます。


 しかし、赤ちゃんに駆け寄ったものの、ティラノサウルスと目が合ってしまい、恐怖のあまり、赤ちゃんを抱きしめつつも、その場にへたり込むしずかちゃん。


 しずかちゃんが飛び出した直後、「逃げろ!隠れろ!」と叫び、彼女を追ったのび太は、地響きを立てながら近寄ってくるティラノサウルスとしずかちゃんたちの間に立ちはだかります。


 震えながらも両手を広げてしずかちゃんたちをかばい、「こ、こ、こらっ!」と、精一杯声を上げてティラノサウルスを追い払おうとするのび太。


 普段ののび太は(おそらく日本全国の人が「だろうね」とおっしゃると思いますが)非常に怖がりです。


 「のび太恐がらせコンクール(ジャイアン主催。近所の子供たちが持ち寄った『怖い物』を目の前に突き出された時、のび太が恐怖で飛び上がる高さを測り、その記録で何が一番怖いかを決める)」という、あまりにもむごいイベントを開催された際は、毛虫、クモ、ヘビ(露骨にオモチャ)、そしてジャイアンの怒鳴り声にいたるまで、まんべんなく悲鳴を上げて飛び上がっていました。


 そして、逃げ帰ったのび太から話を聞いたドラえもんは、「なんてざんこくな!!」と激怒した後「よってたかっていくじなしの泣き虫の弱虫ののび太をいじめるとは!!」と、ボロカス言っていました。

〇□恐怖症 毒舌ドラえもん - コピー.png

 そんなオモチャのヘビにも「キャッ」と言って15p飛び上がるのび太が、しずかちゃんのためなら体長15mのティラノサウルスの前で、「こ、こ、こらっ!!」と言って両手を広げる

おもちゃのヘビに飛び上がるのび太 - コピー.png

しずかちゃんをかばうのび太 - コピー.png

 どれだけ、しずかちゃんを大切に思っているかがよくわかります。


 「好き!好き!大好き!!あの子がいるから僕は生きていけるんだよ」という言葉通り、色々なコンプレックスを抱え、さえない日常を送るのび太にとって、可愛くて優しい大好きなしずかちゃんという人がこの世にいてくれることが、のび太の生きる支えであり、彼女のためならどんな恐怖の前でも、命を惜しまず行動できるのです。

しずちゃんさようなら - コピー.png





(※以下、ややネタバレ)

 のび太のこの覚悟は旅の間中変わることはなく、作品クライマックス部では、しずかちゃんが恐竜に襲われかけたとき、泣きながら「こいつめ!こいつめ!しずちゃんをはなせ!!」と恐竜の尾によじのぼって殴りかかっています。

恐竜に殴りかかるのび太 - コピー.png


 「しずかちゃんがなぜ出来杉君という完璧な相手が側にいながらのび太を選んだのか」については、正直我々ファンにもはっきりしたことは言えません。

 しかし、もしかしたら、こうした大長編ののび太の姿が決め手となったのかもしれません。


 大人になったしずかちゃんは「のび太さんと結婚するわ。側についていないと危なくて見ていられないから」とのび太に言い、のび太が涙を流しながらひざまずいてお礼を言っています(笑)が、しずかちゃんほど聡明な人が、出木杉君ほどの逸材から好意を寄せられながら、ボランティア精神だけでのび太を選ぶというのは少し不自然な気がします。

雪山のロマンス プロポーズ? - コピー.png


 (我々ファンはのび太を愛していますが、容姿端麗文武両道の上、誠実で純粋さもある出木杉君は、性格まで含めて欠点が何も無いのです。)


 このため、のび太は何度も本当にしずかちゃんと将来結婚できるのか心配になり、ドラえもんにその不安を漏らしています。


 そして、それを聞いたドラえもんは、「いや、ぼくもかねがね不思議に思っていた。あんないい子がなんだってよりによってのび太くんなんかと。もう少しましな男がいっぱいいるのに…。」と、ボロカス言っていました。

雪山のロマンス 毒舌ドラえもん - コピー.png

(ドラえもんの頭の中に「親友なのだからひいき目に見る」「はげます」「オブラートにくるむ」という発想は存在しないだろうか。)


 しかし、しずかちゃんは、かつて、理想の男性との結婚を思い描いた夢の中で、「ぼくはえらくもないし金持ちでもない。だが、きみを愛する心だけは誰にも負けないよ」と、夫となる男性(まだ具体的に誰だか決まってないので顔が無い)に言われ、幸せをかみしめていました。

ユメコーダー - コピー.png


 のび太が出木杉君を上回っている点、それは、しずかちゃんのためなら、普段の「おもちゃのヘビにも悲鳴を上げて飛び上がる自分」という限界を大きく飛び超え、彼女を守ろうとする捨て身の情熱ではないでしょうか。




 『のび太の恐竜』には、のび太のしずかちゃんへの思いを語る上で、見逃せない名場面が、もうひとつあります。


 タケコプターで移動中、翼竜プテラノドンの大群に囲まれてしまったのび太たち。


 スネ夫が、もうじき訪れるであろう自分たちの恐ろしい最期を想像して、自分たちが食べられる過程を詳細に話し始めます。


 青ざめて、「やめてやめて」とスネ夫の発言を止めようとするしずかちゃん。


 「のび太、泣いているのか?」

 ジャイアンにそう聞かれ、ぽろぽろと涙を流しながら、のび太は言います。

 「くやしいんだよ。しずちゃんを守ってやれないのが」

 あんなにこわがってるのに、なんにもしてあげられない。

しずかちゃんのために泣くのび太 - コピー.png


 自分も、スネ夫の言うような恐ろしい最期を迎えるだろうというときに、その恐怖や苦痛ではなく、しずかちゃんの気持ちを思いやり、大好きな女の子を守ってあげられない無力な自分に悔し泣きをする。


 射撃の名手としてののび太以上にかっこいい、もしかしたら、全作品中最もかっこいいのび太の姿かもしれません。


 愛する人の気持ちを何よりもに真剣に考え、その人を守ってあげたいと心から願う。


 人生をともにするパートナーとして最高の愛情を、まだ片思いのうちから、のび太はしずかちゃんに対して持っているのです。


 地位や財産が無くても、ただ、誰にも負けないくらい自分を愛してくれる人がいい。


 そう思っていたしずかちゃんは、同情ではなく、しっかり「理想の男性」として、のび太を選んだのだと思います。



 今回引用させていただいた作品は、全て笑いあり、涙あり(ドラえもんの毒舌あり)の名作なので、一度読んだことがあるという方も、是非もう一度ご覧になってみてください。


posted by pawlu at 07:16| ドラえもん | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2020年05月27日

のび太の大魔境(大長編ドラえもん3) あらすじご紹介(ジャイアンの男気は必見)

 探検隊出発 - コピー.png


 『のび太の大魔境』は、不思議な犬「ペコ」に出会ったのび太たちが、前人未到のアフリカの魔境にある謎の王国を探して冒険の旅に出る大長編漫画です。



大長編ドラえもん (Vol.3) のび太の大魔境 (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄
大長編ドラえもん (Vol.3) のび太の大魔境 (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄



 大長編ののび太とジャイアンはかっこいいというのはファンの間では有名な話ですが、そのかっこいいジャイアン(×きれいなジャイアン)の男気が見られるという点で『のび太の恐竜』と並ぶ名作です。


大長編ドラえもん1 のび太の恐竜 (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄
大長編ドラえもん1 のび太の恐竜 (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄



(2020年6月4日AM10時まで、ドラえもん公式サイト「ドラえもんちゃんねる」で作品全ページ無料公開中、その後、大長編シリーズからさらに3作が公開予定)

 https://dora-world.com/daichohen2020sp




【あらすじ】


 今年の夏休みは、まだ誰も行ったことが無い魔境へ大探検旅行に出てみたい。


 ジャイアンとスネ夫にそう頼まれたのび太とドラえもんは、「自家用衛星」を打ち上げ、上空から写真を撮影し、アフリカのジャングルの中に隠された場所が無いかを探してみることにしました。


 魔境探しの合間にお使いに行ったのび太は、空き地で、汚れているけれどどこか上品な犬を見かけます。

 お腹を空かせていた犬に同情してエサをあげていると、ジャイアンとスネ夫が通りかかりました。 

 今、アフリカを探している、と、二人に経過を説明していると、犬が急に耳をそばだて、のび太の家までついてきてしまいました。


 動物嫌いのママをどうにか説得して、犬を飼えることになったのび太。

 腹ペコだったからと、その犬に「ペコ」と名付けました。


 ペコ(人間なら出来杉君級と思われるイケワン。実はある秘密を持っている)

ペコ - コピー.png

 ペコを飼い始めてからものび太たちは魔境探しを続けましたが、アフリカの広大なジャングルを写真で確認する作業は果てしなく、心がくじけかけていたとき、ペコが一枚の写真を見つけました。


 写っていたのは謎の巨大な石像。

巨神像 - コピー.png

 そこは「ヘビースモーカーズフォレスト」と呼ばれ、常に雲がかかって衛星写真が撮影できないことで知られる場所でした。


 さっそく巨神像のある謎の王国を目指して探検に出かけることにしたのび太たち。ペコも一緒です。

(この時は巨神像の100km手前を出発点に歩き、毎日夕方には日本に戻るという旅を繰り返すつもりでした。)


 ところが、

 「0点の答案を隠し忘れた」

 「上級フランス語講座の録画をしたい」

 「お手洗いに行きたい」

 という理由で、こまめにジャングルからどこでもドアで帰国し、ドラえもんの道具に頼り切って危険を回避しようとする隊員たちに激怒するジャイアン。

(自分もかあちゃんに呼び出されて一時帰国したのだが)。

魔境のムードぶちこわし - コピー.png

 (ひそかにあきれかえるペコがかわいい。)


 自分ばかり猛獣に襲われた(ドラえもんが「猛獣さそいよせマント」をこっそり着せたから)きまり悪さもあってすっかりふてくされてしまい、「石ころの神様がなんだ!見たくもねぇや!!」と探検を中止させてしまいます。


 その夜、ジャイアンのもとに巨神像の幻が姿を現しました。

 「一度思い立った探検を簡単にあきらめるとは、それでも男か!」

 巨神像は、自分の台座の下に財宝が隠されていると告げ、ジャイアンに巨神像までの地図を渡して姿を消しました。

 がぜんやる気を取り戻したジャイアンは、翌日、再びのび太たちを召集して地図を見せます。
 (アフリカの神様から授かったはずが、なぜかわら半紙にサインペンで書かれていたので、みんなの反応はいまひとつだった。)

 こうして、再び探検の旅に出ることになりましたが、出発前、ジャイアンはドラえもんにタケコプターや武器になる道具を全部出させて、土管の中に置いて行ってしまいます。
  
 「あんなものに頼るのは卑怯だ、この腕と勇気で危険をくぐりぬけるのだ」

 しかし、探検中、空き地に残しておいたどこでもドアが清掃中の近所の大人たちに燃やされてしまったために、みんなは日本に帰れなくなり、ワクワクドキドキの探検は一転、命がけの旅となってしまいます。



 「行こうよ、ぼくらには前に進むしか道はないんだ」

 ドラえもんの言葉どおり、退路を断たれた状態で、のび太たちは、「永遠の霧に閉ざされた神の国」として、人々に畏敬の念で語り継がれる巨神像の王国へと向かうことになります。


 一方、深い谷に囲まれた王国には、人々に知られることがないまま、外界と全く別の文明が存在しており、5000年間続いた王国の平和は、今、危機に瀕していました。


 ある古い言い伝えを信じ、奇跡を待ち望む王国に、数々の困難を乗り越え、のび太たちが徐々に近づいていきます。





【見どころ】ジャイアンの男気(※ネタバレあり)


 実質ジャイアンが主人公と言ってもいいほど、彼の男気が光る作品です。

 自分たちの力で困難を乗り越えたいという冒険心と、人の意見に耳を貸さない普段からの横暴さが裏目に出て、みんなを絶体絶命のピンチに追い込んでしまったジャイアン。


 探検に来たことを後悔するのび太たちに対し、こんなことになったのは全部俺のせいですよ!どうせ俺は元々嫌われ者なんだ!!と、わめき散らして、自分の部屋にこもってしまいます。

 内心は深く自分を責めていましたが、謝って済む問題ではないとわかっていただけに、何も言えなかったのです。


 そんなジャイアンの苦しい気持ちを察して、ペコがそっと慰めにきてくれました。

 「ペコ!お、おれ……どうすれば……」

 そう言った後、ジャイアンはペコを抱きしめ、声を上げて泣くことしかできませんでした。

ジャイアンとペコ - コピー.png


 その日以来、ジャイアンはペコに特別な友情を感じるようになります。




 物語後半、のび太たちがジャングルの中で危険にさらされたとき、ペコは敵を引きつけて、そのすきに、のび太たちを逃がそうとします。


 敵の落とす爆弾の火の手が上がる中、たったひとりでジャングルに消えたペコの運命を思い、言葉も無いのび太たち。


 腕組みをし、厳しい顔をしていたジャイアンは、やがて、のび太たちに言いました。

 「ペコだけじゃどうにもならん、俺も行くぜ」

 「ばかな!死にに行くようなもんだよ」

 「うるせえ、さっさと逃げないと火にかこまれるぞ!」


 「ジャイアン!!」

 「やめろ!帰ってこいよう!!」

 のび太たちの声を背に、覚悟を決めたまなざしで歩き始めるジャイアン。

ジャイアンの覚悟 - コピー.png


 全大長編の中でも屈指の名場面です。



 自分の間違いを認めて、誰にも責められていなくても、償いの思いをこめ、命がけで戦おうとする。


 そんなことができる人間は、自分を含め、この世にほとんどいないと知っている大人になった今、読み返すと、ジャイアンの男気が、子供の時に読んだ以上に心に沁みます。


 そして、それまで素直になれなかったジャイアンの本心と覚悟に気づいたのび太たちがとった行動。


 これはぜひ本編でご覧いただきたいと思います。

 (ドラえもんは、子供たちに向け、常にわかりやすさを最大限意識して描かれていますが、この場面では台詞が約三ページにわたり省略されており、絵だけで展開するドラマと、その後の彼らの言葉が際立ちます。)



 当ブログでは今後も大長編ドラえもんのシリーズあらすじと見どころについて何度かご紹介させていただく予定です。本編と併せてお読みいただければ幸いです。


【参照URL】

ドラえもんチャンネル

https://dora-world.com/



posted by pawlu at 19:09| ドラえもん | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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