2024年02月23日
ドラえもん「のら犬イチの国」のび太と野良犬イチの心温まる物語
2023年07月05日
「あべこべ惑星」あらすじ(のび太がお星さまに捧げた痛切な祈りとドラえもんの反応)
2023年06月07日
藤子・F・不二雄の名作SF短編「イヤなイヤなイヤな奴」NHKで実写ドラマ放送
(NHKBSプレミアム) ※前後編同日連続放送
(番組HP内ドラマあらすじ)※予告動画つき(前編)宇宙船が任務を終え、船長ツキシマ(竹中直人)と5名の船員を乗せて地球へと帰還中。長い航行で船員たちのストレスも限界。血気盛んな機関主任ヒノ(萩原聖人)は航宙士キヤマ(野間口徹)がポーカーでいかさまをしたと激高。通信士のキンダイチ(飯島寛騎)と機関助手ドイ(浅利陽介)がなだめようとするが乱闘騒ぎになりかける。様子を見ていた整備士ミズモリ(増田貴久)は、賭け事は服務規程違反と知りつつ船長に告げ口し…
❝
(激情型のヒノにおもねるドイ)
【#藤子・F・不二雄SF短編ドラマ】
− NHKドラマ (@nhk_dramas) June 7, 2023
『#イヤなイヤなイヤな奴 前後編』
\✨予告動画を公開!✨/
▼あらすじが気になった方は公式HPをどうぞhttps://t.co/78S8eTxFE6
▼出演#増田貴久 #萩原聖人 #野間口徹 #浅利陽介 #飯島寛騎 #竹中直人 ほか
6/11(日)よる10時50分〜11時20分[BSP/BS4K] pic.twitter.com/kPBxRZxMCI
【#藤子・F・不二雄SF短編ドラマ】
− NHKドラマ (@nhk_dramas) June 7, 2023
『#イヤなイヤなイヤな奴 前後編』#増田貴久 さんのロングインタビュー公開!
メイキング映像も盛りだくさん!お見逃しなく👀✨
▼インタビュー動画は公式HPをどうぞhttps://t.co/i9dCI38m1a
6/11(日)よる10時50分〜11時20分[BSP/BS4K] pic.twitter.com/4qUreGQKjW
【本日配信開始】藤子・F・不二雄SF短編作品TVドラマ化を記念して4作品の原作を順次配信中!第4弾は6/11(日)よる10:50〜BSプレミアム/BS4Kにて初放送される「イヤなイヤなイヤな奴」。
− 【ドラえもん公式】ドラえもんチャンネル (@doraemonChannel) June 9, 2023
リンク先の特設ページから【SF短編コミック無料配信】のバナーをタップしてね! https://t.co/qdMWrfKf2E pic.twitter.com/SkJQyvOvsa
【#藤子・F・不二雄SF短編ドラマ 】
− NHKドラマ (@nhk_dramas) June 9, 2023
『#イヤなイヤなイヤな奴 前後編』
キンダイチ(#飯島寛騎)のペット・謎の宇宙犬ムックを大公開!
🔻あらすじはこちらhttps://t.co/N3dxmSY5X7
6/11(日)
【前編】夜10:50〜【後編】夜11:05〜[BSP/BS4K] pic.twitter.com/vxA1unBcrk
【#藤子・F・不二雄SF短編ドラマ】
− NHKドラマ (@nhk_dramas) June 8, 2023
『#イヤなイヤなイヤな奴』
お待たせしました。メインビジュアル公開です!
出演#増田貴久 #萩原聖人 #野間口徹 #浅利陽介 #飯島寛騎 #竹中直人
公式HPhttps://t.co/lkumwyKPAe
6/11(日)
前編 夜10:50
後編 夜11:05(連続放送)
[BSP/BS4K] pic.twitter.com/Ke9udgLzXq
哲学者トマス・ホッブスの国家の政治哲学を解く著書「リヴァイアサン」のタイトルにもなっている。(Wikipediaより)
2022年05月03日
(名場面)パピの愛犬ロコロコ、寝込むスネ夫の「話相手」になる(大長編ドラえもん『のび太の宇宙小戦争』より)
「大長編 のび太の宇宙小戦争」は、ドラえもんたちと、小さな宇宙人が住むピリカ星の少年大統領「パピ」が、独裁者に支配されたピリカ星の自由を取り戻すため戦う物語。
大長編ドラえもん6 のび太の宇宙小戦争 (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄
(※2022年5月現在、リメイク映画公開中。世界情勢の問題にリンクしているとして「どくさいスイッチ」とともに話題を集めている)
(リメイク映画紹介動画)
今回はこの漫画の名場面をご紹介。
(当ブログの作品あらすじご紹介記事はこちら)
目次
この場面までのあらすじ
しかし、ピリカ星を乗っ取った独裁者ギルモア将軍の側近ドラコルル(諜報機関PCIAの長官)は、再びパピを捕え、見せしめの処刑のためにピリカ星へ連行する。
パピと友達になっていたドラえもんたちは、パピの愛犬「ロコロコ」に、パピがPCIAにつかまったことを知らされる。
ロコロコは、ギルモアに反抗するピリカの人々とともに戦うために、パピを迎えにきた密使だった。
パピをかくまっていた秘密基地で話し合うドラえもんたち。
(この時、ドラえもんたちは、スモールライトでパピと同じ大きさになっていたが、ドラコルルにライトを奪われてしまい、元の大きさに戻れなくなっている)
しずかちゃんは、パピはドラコルルの人質になった自分を解放するために、身代わりで捕まったと話し、泣き出してしまう。
「泣いてもはじまらない。問題はこれからどうするかということだ」
「どうするかだって!?きまっているじゃないか!!」
ドラえもんの言葉に、ジャイアンはこぶしを振り上げて立ち上がった。
「ピリカ星へなぐりこみよ!!ギル……なんとか将軍をぶっとばして、パピをかっさらってくるんだ!!」
スネ夫は青くなった。相手は軍隊だ。見たことも聞いたこともない星の。
「ぼくらが宇宙戦争なんかはじめて勝てるわけない!」
「やるっきゃないんだよ!」
やらなければ、パピが殺される。
持ち去られたスモールライトを取り戻すことに望みを賭けて、ドラえもんたちはパピの残したロケットでピリカ星を目指すことにした。
ロコロコ、「話相手」になる(ジャイアンとスネ夫のロケット内での行動)
ピリカ星へ向かうロケットの中。
ドラえもんとのび太がみんなの様子を見に行くと、ジャイアンはジョギングに励んでいた。
「ピリカについたらはげしい戦いが待ってるんだ。体をきたえておかなくちゃ。ファイト!ファイト!」
一方、スネ夫。
さすがに、留守番するとは言えなかったのか、一緒に来てはいたものの、個室のベッドで寝込んでいた。
「うまくいくわけないんだよ。かならずつかまるよ、パピと一緒に死刑にされちゃうんだ、わかってんだ」
「なにもそうなるときまったわけじゃなし……」
「い〜や、そうなる!ぜったいに!!」
二人がなだめても再び布団をかぶって心を閉ざしてしまう。
「一人でボヤっとしてるから、クヨクヨろくでもないこと考える」
のび太とドラえもんはロコロコに頼んだ。
「話し相手になってやって」
「ひきうけました」
ちょうど航路も軌道に乗り、ロケットを自動操縦に切り替えたところだったロコロコは、操縦席を離れてスネ夫のところに向かった。
このロコロコ、大統領のファーストドッグなだけあって、かわいくて飼い主思いなだけでなく、人の言葉をしゃべり、密使を務め、ロケット操縦もこなすとても聡明な犬だ。
(前脚のかわりに長い垂れ耳が発達していて、翼のように広げて空を飛ぶことも、人の手のように細かい作業をすることもできるし、危険を感じたときは耳で全身を包んで身を守ることもできる〈そうすると、そら豆そっくりになる〉)
ただ、このかわいくて優秀なロコロコ、一つ欠点があり、それは前にパピからも注意されていた。
「大統領がある日おっしゃいました。
「ロコロコよ、おまえはいい犬だが、ほんの少し口数が多すぎる」
ぼくはハッと反省したんです。
それからというものよけいなおしゃべりをつつしみ、むだ口をきかず、必要なこと以外ワンともスンとも……」
自分がなぜ口数の少ない犬になったかということを、ものすごい口数で振り返るロコロコ。
スネ夫は「++」目で耳をふさいでげんなりしていた。
スネ夫の心のケアをした(?)とはいえ、本当はのび太も不安だった。
「スネ夫の予感……あたるかな」
「楽観はできないと思うよ、はっきりいって」
ドラえもんの表情も重苦しかった。
「でも逃げることはゆるされない。がんばるしかないじゃないか」
ワープした小さなロケットは、超空間に入っていた。
ドラえもんたちは、星の見えない不透明な空間を進み、ピリカ星を目指す。
ドラえもんとジャイアン、それぞれのリーダーシップ
小さな体のまま、未知の星の軍隊に立ち向かうことになったドラえもんたち。
スネ夫が泣いて嫌がるのも当然の、圧倒的に不利な状況。
ドラえもんの言葉も表情も、「ふしぎなポッケ」でなんでも叶えてくれるいつもの明るいキャラクターとは違う、現実を見つめたうえで、みんなと一緒に考え、ともに戦うリーダーのものになっている。
「泣いてもはじまらない、問題はこれからどうするかということだ」
「楽観はできないと思うよ、はっきりいって。でも逃げることはゆるされない。がんばるしかないじゃないか」
そして、ジャイアンも優れたリーダーシップを発揮する。
「どうするだって?決まってるじゃないか!ピリカ星へ殴り込みよ!」
力強くパピ救出を訴えるジャイアンの言動には、みんなを鼓舞し、引っ張っていくパワーがある。
ファンの間では有名な話だが、ジャイアンは大長編になると、友達のためなら命を惜しまない、腹の座った立派な一面を見せる。
ロケットに乗り込んだあとも「はげしい戦い」に備えて体を鍛え、後に危険な場所に乗り込むときにも、のび太を心配するしずかちゃんに、「俺がついてるよ」と、彼を守ることを約束する。
「むしゃくしゃしていたところだ、一発殴らせろ」なんて間違っても言わない(普段は言うけど)。
(普段のジャイアン)
ドラえもんとは別のタイプの、立派なリーダーだ。
ロコロコのおしゃべりの意味
ジャイアンと真逆なのがスネ夫だ。布団をかぶって寝込んでしまっている。
「一人でボヤっとしてるから、クヨクヨろくでもないこと考える」
他人のことには的確に分析できるのび太は、これ以上スネ夫がネガティブにならないようにロコロコに「話相手」になってくれるよう頼む。
落ち込んだときには誰かと話をすることで心が軽くなるというのもよく知られるところだ。
ロコロコは気立てがよくてかわいいので、アニマルセラピーの役目も果たせるだろう。
唯一の問題は、ロコロコが「話相手」だと、スネ夫側が「話す」隙が全く無いところだが、スネ夫の脳をおしゃべりで埋め尽くし「クヨクヨろくでもないことばっかり考える」ことを阻止したので、この点ロコロコは良い仕事をした(多分)。
ところで、ロコロコのおしゃべりは、これから先、いくつかの重要シーンに関わってくる。
もしかしたら、ロコロコというキャラクターは、常に監視され、発言が弾圧される息苦しい独裁政権と対照的な「好きなことを好きなだけ言える」言論の自由の象徴なのかもしれない。
(そのわりに、スネ夫をはじめとして、聞き手がまあまあ迷惑しているが)
その後のジャイアンとスネ夫(かっこいい)
はじめから腹をくくっていたジャイアンは、独裁政権に抵抗する人々「自由連盟」の秘密基地にたどり着いた後も、持ち前の度胸で活躍する。
「地下組織との連絡係は俺たちに任せてください!」
パピ救出を目指して首都ピリポリスの地下に潜む「自由連盟」の同志たちのところへ向かう任務。
だが、既にピリポリスはギルモア将軍の軍隊によって徹底的に監視されている。
「自由連盟」のリーダーで、元大臣のゲンブは、ジャイアンたちを危険にさらすことをためらうが、ジャイアンは、「だれかがいかなきゃどうにもならないんでしょ!?」
と、たたみかける。
「だったらまかせてよ!!それともほかに方法があるの?」
ゲンブを説き伏せ、ドラえもんとのび太、そしてジャイアンが、ピリポリス潜入チームを結成する。
(かっこいい)
一方スネ夫。
ロコロコと話をして(?)気がまぎれた(?)とはいえ、まだ不安を抱えていた。
しかし「自由連盟」の秘密基地到着直前、ギルモア軍の無人戦闘艇を、自作のラジコン戦車で撃破したことをきっかけに、少しずつ勇気が湧いてくる。
寝る間も惜しんで熱心に整備点検した戦車とともに、その後、ある重要な局面を乗り切ったスネ夫は、「自由連盟」の人々の立てた計画が行き詰ったとき、ジャイアンたち以上に危険な任務に自ら志願する。
「ぼくがひとっぱしり行って見てきましょうか」
ゲンブは今度こそ強い口調で止めた。
「いかん!これ以上のぎせいをだすことはぜったいにさけなくては」
「だって時間がないんでしょ!イチかばちかやってみようよ!」
最初はラジコン戦車を「ほんのオモチャ」と謙遜していたが、その強さとそれを創り上げた自分自身を信じることができるようになったスネ夫は、それまでとは別人のように力強く言った。
旅立つ前の気持ちは「勝てるわけない!」「やるっきゃないんだよ!」と、真逆だったジャイアンとスネ夫。
しかし、物語が進むにつれ、二人とも、勇気ある行動を選択する。
大人で「自由連盟」リーダーのゲンブを、逆に力づけるように、危険な役目に志願する二人のことばも表情も、それぞれにかっこいい。
(いやこういう意味ではなく)
日ごろの理不尽ないじめっ子ぶりとは大違いの、頼もしく友達思いなジャイアンもいいが、自分のラジコン戦車がみんなを守ったことを通じて、自分にしかできないことを見つけ、恐怖を乗り越えていくスネ夫の姿にはとくに胸が熱くなる。
ロケット内で、体を鍛えるジャイアンとストレスで寝込んでいたスネ夫。
ギャグシーンでもあるが、「戦いを前にした人」のリアルな行動が描かれ、その後の重要な展開につながる「ロコロコのおしゃべり」と、二人の勇気ある行動の伏線にもなっている。
ぜひ注目していただきたい名場面だ。
当ブログ関連記事:
(戦争、社会の問題が描かれたドラえもん作品のご紹介記事)
2022年04月11日
ドラえもん「どくさいスイッチ」藤子F先生が単行本収録時に書き足した内容(※Twitterご指摘情報引用)
本日放送の「どくさいスイッチ」は初出時10ページだったものをなんと6ページも書き足して16ページになっています。
− 河井質店 (@kawai_shichiten) April 9, 2022
特にのび太が生物すべて消し去って一人きりになってしまった5ページは、まるまる描き足しです。
藤本先生がこの作品を通して何を伝えたかったのかがよく分かりますね。 pic.twitter.com/8oBHe1UO2D
ドラえもんがハエを消し去って、悪魔の囁きをする印象的なシーンも描き足しです。 pic.twitter.com/raQNyvwRFW
− 河井質店 (@kawai_shichiten) April 9, 2022
2022年04月08日
ドラえもん「どくさいスイッチ」あらすじ(かっとなるとつい押したくなる、「じゃまもの」を消すスイッチ)
「どくさいスイッチ」は、スイッチを押すと、消したい存在を消せる道具。
(てんとう虫コミックス15巻収録、初出『小学四年生』1977年6月号)
ドラえもん(15) (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄
スイッチを手にしたのび太が、ジャイアンを消してしまったことを皮切りに、恐ろしい事態を引き起こしてしまう。
「ドラえもん」史上最も危険なひみつ道具であり、ちりばめられた台詞の不気味さと深さが、人間の心と社会への警鐘となってたことに、改めて気づかされる。
❝毎週土曜日ごご5時からは、「ドラえもん」! 2022年4月9日(土)は「いただき小ばん」と「どくさいスイッチ」を放送します! https://www.tv-asahi.co.jp/doraemon/
(あらすじ) (※ネタバレご注意)
野球で18対2という惨敗を喫したのび太たちのチーム。
監督のジャイアンはもろもろ換算した結果、のび太に20点分の過失があるとして、「20発殴ってやる!」と追いかけてくる(昭和鬼監督的制裁)。
逃走中、すでにある程度殴られたらしく、でこぼこ頭になったのび太は、帰宅後、どうしてこんなめにあわなきゃならないんだ、と、悔し泣きする。
そんな目に遭わないように練習しよう、と、力づけるドラえもんに、いや、問題はジャイアンだ、あいつさえいなければこんな目に……と、ふて寝をしてしまうのび太。
「ふうん……。そんなふうに考えるの……。」
じゃ、やってみる?
ひどくあっさりと、ドラえもんは「どくさいスイッチ」という、ただスイッチを押すだけの見た目のひみつ道具を取り出す。
未来の独裁者(自分一人の考えで世の中を動かそうとする人)が、自分に反対する者、邪魔になる者を、次々に消していくときに使った道具だ。
「けすって…。どういうふうに?」
「いなくなっちゃうんだよ。あとかたもなく」
「3」唇に似つかわしくない冷酷な台詞とともに、近くを飛んでいたハエを見て、スイッチを押すドラえもん。
ハエは空間から消滅し、スイッチをポン、ポン、と、お手玉のように軽く投げたドラえもんは、ウィンクしながらのび太にささやきかける。
「な、かんたんだろ。じゃまものはけしてしまえ。すみごごちのいい世界にしようじゃないか」
スイッチを渡されたのび太はさすがに躊躇する。
しかし……。人一人消すというのは……、おそろしいことだ。しばらく考えてみたい。
「どうぞどうぞ。ごゆっくり」
ちょっと予算オーバーの買い物に迷う客を送り出すがごとく、部屋を出ていくのび太を笑顔で見送るドラえもん。
ジャイアンはにくたらしい奴だけど、消しちゃうってのはかわいそうだよな。
そう考えながら家を出たのび太の後頭部に、バットの一撃が降りかかる。
ジャイアンが殴り残しの七発を食らわせようと待ち構えていた。
殴られつつ追いかけられたのび太は思わずスイッチを押してしまう。
「わあ、ジャイアン消えろ!」
のび太の目の前で、きょとんとした顔のジャイアンが、空間から「スッ」と消失した。
たいへんなことをしてしまった。
青ざめるのび太に、通りすがりのしずかちゃんが声をかける。
ジャイアンを消してしまったと正直に告白するのび太に、しずかちゃんは首をかしげる。
「それだれのこと?」
その後、先生やジャイアンのかあちゃんに聞いても、そんな子は知らないと言われる。
「きえるというよりも、はじめからいなかったことになるらしい」
人を消しておいて、隠ぺいの必要すらない。
そのあまりの手軽さに、逆に背筋が寒くなるのび太。
ところが、恐怖もつかの間、またしてもバッドの一撃が頭に振り下ろされた。
「きょうのゲームはおめえのせいで負けたんだ!」
ジャイアンのいない世界ではスネ夫が監督だった。
ジャイアンと全く同じ体罰指導方針で20発殴られそうになり、「スネ夫きえろ!」と、スイッチを押してしまうのび太。
スネ夫の振り上げていたバットだけが、「コロン」、と道に落ちた。
「またやった…。ぼ、ぼくが悪いんじゃないぞ」
もう二度と使わない、ドラえもんに返そう、決意して家に戻ろうとしたのび太を、ほかのチームメイトたちが追いかけてきた。
「のび太!負けたのはきみのせいだぞ」
いいかげんにしないとみんなけしちゃうぞ。騒ぎ立てる少年たちに背をむけて家に駆け込んだら、のび太のママが待ち構えていた。
説教を始めようとするママに必死で叫ぶのび太。
「おねがいだからぼくをおこらせないで!!」
消えた二人をまた出してくれって?
のび太の希望にドラえもんは「3」唇になった。
無理言うな、これは手品じゃないんだから。
「わすれろ」
のび太は、部屋でひとり、畳に置いたどくさいスイッチをみつめながら、苦しそうにつぶやいた。
「おそろしいスイッチだなあ…。かっとなるとつい………。おしたくなるもんな。しんけいがくたびれちゃうよ」
すっかり消耗して、いつのまにかうたたねしたのび太。
夢の中ではみんながのび太の敵だった。
あざわらうしずかちゃん。のび太を責めるチームメイト、お小言を言うママ。
スイッチを使いたくない!耳をふさいで逃げ出したのび太に、ドラえもんまで特大のあかんべえを見せて馬鹿にしてきた。
「みんなでよってたかってぼくのことを。だれもかれもきえちまえ!!」
うなされてもがいた手が、どくさいスイッチの上に振り下ろされた。
目が覚めると、いやに静かだった。
ママも、ドラえもんもいない家。
外に出てみても誰もいない、空き地も静まりかえっている。
しずかちゃんの家を訪ねて行って、ノックをしたが、返事がない。
真っ青になったのび太はそこらじゅうの家のドアを叩いた。
「こんにちは!こんにちは、こんにちは!」
公衆電話からパパの会社に電話をしても、つながらない。
タケコプターで空から見た町は、見渡す限り、建物を残し、人々が忽然と消えた沈黙の世界だった。
世界中の人間を消してしまった。
屋根に降りてきたのび太は、自分のしたことの重さに、へなへなと崩れ落ちた。
だが、なんとか立ち上がった。
「ものは考えようさ」
もう、馬鹿にされることもいじめられることもない、叱られることもない。
「いつどこでなにをしてもかってなんだ。この地球がまるごとぼくのものになったんだ。ぼくはどくさい者だ、ばんざい!」
誰もいない町で、両手を振り上げて意気揚々と歩く。
「それにしても…。ドラえもん一人くらいのこしといてもよかったな」
いつの間にか、その歩みが、手を後ろに組んでうつむいた姿に変わり、とぼとぼと長く伸びた影を引きずっていたことに、のび太は気づかなかった。
テレビをつけても、当たり前だが何もやっていない。
「いつでもなんでもできるとなると……。べつにしたいことなんてないなあ。」
誰もいない店から食べ物やおもちゃをもらって、好き放題食べたり遊んだりしても、その気持ちは結局晴れなかった。
日が暮れて、自分の家しか明かりが点いていない中、家じゅうの電灯をつけて眠りにつく。
と、思ったら、それすらも消えてしまった。
暗闇で、停電を直してもらおうとしても、どこにもつながらない。
「でてきてよう……。誰でもいい。ジャイアンでもいいからでてきてくれえ!」
のび太はわずかな月明かりをたよりに、屋根に出て、身を縮こまらせて泣いた。
「一人でなんて…。生きていけないよ…。」
「気に入らないからってつぎつぎにけしていけば、きりのないことになるんだよ。わかった?」
「うん、わかった」
ドラえもんが部屋の窓から顔を出して笑っていた。
「じつはこれ、どくさい者をこらしめるための発明だったんだ。もとへもどそう」
翌日、空き地でキャッチボールをしているのび太とドラえもんを、スネ夫とジャイアンがからかってきた。
「やあい、へたくそが練習してる」
「こんどはなぐられないようにがんばれよへたくそ」
のび太は苦笑いした。
「まわりがうるさいってことはたのしいね」
ドラえもんはにっこり笑って大きく振りかぶった。
(完)
(当ブログ『のび太の宇宙小戦争』あらすじと見どころご紹介記事)
※「どくさいスイッチ」の雑誌掲載時と単行本収録時の違いについてのご指摘ツイートを引用させていただいた記事
当ブログ関連記事:
2022年03月03日
大長編『のび太の宇宙小戦争(リトルスターウォーズ)』独裁者によって自由と平和を奪われた世界の戦いを描いた、今、読むべき作品
『のび太の宇宙小戦争(リトルスターウォーズ)』は、小さな人々が住むピリカ星の少年大統領パピを助けたのび太たちが、恐怖政治を敷く独裁者に戦いを挑む物語だ。
『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 2021』スペシャルPV【2022年3月4日(金) 公開】
そして、このたび重なる延期で、奇しくも作品の世界観と世界情勢の緊張感がリンクした。
既に実現可能な監視技術や、独裁者によって自由を奪われた人々の苦しみと戦いが描かれた、今観るべき作品だ。
普段はこずるい奴のイメージがあるスネ夫が、プラモデル制作のスキルや、勇気を見せるシーンも見どころになっている。
(※注、今回の記事は一部原作漫画のネタバレを含みます)
目次
あらすじ
ある星で反乱が起き、大統領が、彼を守る人々によって、ロケットで強制的に宇宙へ避難させられた。
そのころ、スネ夫とジャイアンと一緒に特撮SF映画を撮影していたのび太は、ドジを踏んで撮影から外されてしまう。
悔しがって、今度はしずかちゃんとドラえもんと特撮映画を撮り始めていた時、偶然撮影場所で小さなおもちゃのロケットを見つけ、撮影に使えそうだからと家に持ち帰る。
しかし、そのロケットはおもちゃではなかった。
それは、のび太の手のひらに乗るほど小さな宇宙人たちの住む、ピリカ星のロケットで、乗っていたのはその星の少年大統領パピだった。
パピはロケットを持ち帰ったのび太たちの前に姿を現し、自分は恐ろしい敵に狙われていると、切れ切れに事情を話す。
(補足)
おそらくこの「ピリカ星」の名前は、「美しい」「豊か」という意味を示すアイヌ語「ピリカ」がもとになっている。
パピの住むピリカ星は、反乱者ギルモア将軍に乗っ取られ、ギルモア配下の情報機関PCIA(ピシア)の長官ドラコルルが、地球にたどり着いたパピの行方を捜していた。
ギルモアとドラコルルは、既に彼らに逆らう人々を大勢殺害している恐ろしい人物だった。
一方、のび太を外して出木杉君をブレインに特撮映画を撮影していたスネ夫とジャイアンは、突然現れた謎のクジラ型宇宙船の攻撃を受ける。
のび太とドラえもんの嫌がらせと思い込んで、野比家に殴りこんだ二人は、そこでパピに出会い、あのクジラ型宇宙船がドラコルル長官のものだと聞かされる。
パピの危険を知ったジャイアンとスネ夫はのび太たちと一緒に、ドラコルル長官からパピを守ることを約束した。
その後、パピの行方を捜すドラコルル長官は、超小型探査球(スパイボタル)でドラえもんたちを監視し始める。
昼夜を問わず付きまとうホタルにいら立つジャイアンに、「気にしたらきりがないよ。かんじんなところさえみせなけりゃいいのさ」と、冷静に言い聞かせるスネ夫。
しかし小さなスパイボタルはジャイアンのポケットに忍び込み、大統領パピの居場所(しずかちゃんの家にドラえもんが設置した「かべ紙秘密基地」の中)が明らかになってしまう。
一方、そのことに気付いていないドラえもんたちも、スパイボタルの命令電波を逆探知して、ドラコルルのクジラ型宇宙船が裏山に隠れていることを突き止めていた。
スモールライトでパピと同じ大きさまで小さくなり、武装したスネ夫のラジコン戦車で、ドラコルルをつかまえ、そのままピリカ星に乗り込もうとする。
急いでいるからと、そのとき留守だったしずかちゃんには何も言わないで。
しかし、そのせいで、帰宅後、小さくなってパピを尋ねていったしずかちゃんが、パピを捕らえに来たドラコルルたちに見つかり、人質にされてしまう。
ドラコルルたちを見つけられずに戻ってきたのび太たちは、しずかちゃんがつかまったことを知り、元の大きさに戻ろうとするが、基地に置いてあったスモールライトは、ドラコルルたちに奪われてしまっていた。
(補足)
このピンチについて、「ビッグライト(照らしたものを大きくするライト)は?」と思う人もいるかもしれない。
実はドラえもんのひみつ道具は使い捨てが多く、いつも同じものを持っているとは限らないのだ。
(てんとう虫コミックス『ドラえもん』45巻「四次元くずかご」より)
パピは自分の身柄とひきかえにしずかちゃんを助けようとして、ひそかに姿を消す。
夜の公園で、ドラコルルとの駆け引きの末にしずかちゃんを解放させ、代わりに拘束されたパピ。
なぜ助かったのかわからないしずかちゃんが、クジラ型宇宙船から逃げ出して振り返ると、彼女を解放した宇宙船が飛び立った。
そして、それを必死で追いかけるそら豆大の犬が、悲しげな遠吠えとともに叫んだ。
「せっかくはるばるとピリカから来たのに〜〜〜〜!!」
そら豆大の犬の名前はロコロコ。
ギルモア将軍に反抗し、秘密基地に潜む人々とともに決戦に挑むために、パピを探しにきた、パピの愛犬だった。
ピリカ星に連行されたパピに待つのは、形式だけの裁判と、ギルモア反対派を完全に抑え込むための死刑。
パピに助けられたしずかちゃんと、正義感に燃えるジャイアンは、パピを助けだそうと訴える。
「ぼくらが宇宙戦争なんてはじめて勝てるわけない!」
制止するスネ夫。
ドラえもんは口を開く。
「勝てるとしたら……道はひとつ。ピリカ星へ行って、スモールライトをとりかえすことだ」
ピリカ星へ行く方法はある。パピが乗ってきた大統領のロケットが、まだ残されていた。
ドラえもんたちはロコロコの案内で、ピリカ星を取り囲む小衛星群の中に隠された「自由同盟」の基地へと向かう。
注目ポイント1 スネ夫の活躍(プラモデル制作スキルと勇気)
スネ夫といえば鼻持ちならないお坊ちゃんのイメージだが、実はプラモデル製作の優れた技術を持っている。
(プラモに関しては、名人であるいとこからの厳しい指導も甘んじて受ける努力家だ。〈てんとう虫コミックス『ドラえもん』32巻「超リアル・ジオラマ作戦「より〉)
そんなスネ夫は、自作の高性能のプラモで、PCIAからパピを守ろうとする。
(その出来栄えは、スパイボタルのカメラで彼の「プラモ軍団」を観たドラコルルたちが、「恐るべき軍備だ。あの少年は地球の兵器製造大臣に違いない」と脅威を感じるほど)
一方で、他の大長編では、ピンチになると誰よりも怯え、この作品でも、ぎりぎりまで戦いに参加したがらないスネ夫。
(『大長編1のび太の恐竜』より)
(敵は星全体に恐怖政治を敷く独裁者、そして他の回でも、肉食恐竜とそれを狩る密猟組織や、地球を攻め滅ぼそうとするロボット軍団が相手なのだから、臆病と言うより、現実を見ているだけなのだが)
しかし、ドラえもんたちの留守中に「自由同盟」本部が無人戦闘機の一団に攻撃され、しずかちゃんが彼が作ったラジコン戦車で立ち向かおうとしたとき、ついにスネ夫も勇気を振り絞る。
しずかちゃんをラジコン戦車で追いかけてきたスネ夫のつぶやき。
「しかたないじゃない……女の子一人で危険な目に……いくらぼくだって……」
彼の心根の優しさが、諦め混じりにでも恐怖に勝ったことが伝わる名台詞だ。
(言葉にも表情にも、「ふつうの人」らしさがにじんでいるからこそ、心に響く)
注目ポイント2 科学技術の悪用と暴君の人間不信
彼らが、反対勢力の動きを探るために、さまざまな科学技術が使われている。
対象を追跡する、カメラ付きの超小型探査球スパイボタル。
敵の兵器に付着する小型発信機(盗聴機能付き)
町中に掲げられたギルモア将軍の肖像に仕込まれた、監視カメラ。
この作品が発表された1985年時点の読者にとっては、SFの世界のことだったが、現在は全てほぼ実現可能な(そしておそらくもうある程度稼働しているだろう)技術だ。
これらによって、ドラえもんたちはたびたび危険に見舞われる。
そして、パピ側の人々「自由同盟」の潜入先を探す、無人戦闘艇(シャチ型)。
自動で敵を追跡して攻撃、最後には自爆で敵を巻き込む上、破壊されたときには盗聴機能付き小型発信機をばらまくという恐ろしい機能を持っている。
ただ、この兵器は、結果としてギルモア将軍の弱点にもなった。
ドラえもんたちと「自由同盟」の人々の潜入先に、無人戦闘艇の大群が迫ったとき、そこにいたしずかちゃんがためらわずに戦車で迎撃したのは、それが無人と知っていたからだ。
人間が乗っていたら、いくらパピを助け出すためでも、しずかちゃんには撃墜できなかったかもしれない。
ギルモア将軍がテレビ電話でドラコルルに無人戦闘艇の出撃命令を出したとき、ドラコルルは「空軍の主力をさしむけたほうが……」と言うが、ギルモアは「人間は信用ならん」と一蹴する。
指示を受けたドラコルルは、ギルモアに背中を向けた時、
「なるほど、反乱を恐れているのか、自分の不人気をよ〜〜くごぞんじだ」
と、ひそかに冷笑している。
恐怖で人を支配する独裁者が、歴史上繰り返してきたことなのだろう。
だが、『ドラえもん』に、こうした独裁者の内部の人間への不信感や、直属の部下も本当の意味では味方ではないことまでしっかりと描かれていることに、いまさらながら驚かされる。
注目ポイント3 戦いに向かう人々
「おいていくなんていってみろ、ぶんなぐるぞ!!」
ジャイアンらしいせりふで、ドラえもんの頭をぐりぐり撫でながら快諾するジャイアン。ロコロコも勇んで加わった。
「どうしてあたしが行っちゃいけないの?」
「るすを守ることも大事なんだ」
ドラえもんになだめられたしずかちゃんは、涙を浮かべてのび太の両手を握りしめた。
「気をつけてね。きっと帰ってきてね」
優しく笑うのび太。
ジャイアンが「おれがついてるよ」と請け合った。
だが、ドラえもんたちが基地を出発したあと、前の戦闘でスネ夫のラジコン戦車に付着した小型発信機からの信号を受け、無人戦闘艇の大群が基地を襲撃する。
わずか11機の戦闘機で迎撃にむかうピリカの人々。
警報のサイレンが鳴り響く中、しずかちゃんはスネ夫を探す。
スネ夫は薄暗い倉庫の片隅で息をひそめていた。
しずかちゃんに、今こそ戦車が役に立つ時だ、と言われたスネ夫は泣きだした。
「敵は何百、何千だよ、かなうわけないだろ!だからこんな星にくるのはいやだったんだぁ!」
しずかちゃんは黙って倉庫から出て行った。スネ夫の制止を背中に聞いて。
そして、スネ夫から操縦を教わったばかりのラジコン戦車に乗り込んだ。
「そりゃあ、わたしだってこわいわよ……。でもこのまま独裁者に負けちゃうなんて、あんまりみじめじゃない!!やれるだけのことを、やるしかないんだわ」
このしずかちゃんの覚悟が、スネ夫も動かすことになる。
以前読んだときは、ただ、「名場面」だと思っていた彼らの言葉や行動が、今はより重みを感じさせる。
注目ポイント4 恐怖政治下の世の中と国民
今は、ギルモアの肖像についた監視カメラがいたるところで光り、町は静まり返っている。
息を殺すようにして暮らしながら、いつどこにいてもPCIAに見張られている人々。
(すでに将軍に反対した大勢の人間が消されている)
「自由同盟」のメンバーは約600人、対するギルモア軍は80万人。
数の上では圧倒的に不利な状況だが、元治安大臣でパピをサポートするゲンブは、勝機はあると考えていた。
「ピリカ一千万人の国民のほとんどが、ギルモアをおそれ、憎んでいる。だから……自由同盟が火の手をあげれば……。みんなわれもわれもと立ち上がって、大暴動になる可能性がある。われわれはそこに賭けているのです」
ゲンブがドラえもんにそう語っているころ、裁判で死刑を言い渡されたパピは、鎖につながれた両手を上げて毅然と告げる。
「ひとつだけいっておこう。こんな無法がゆるされる日も永くはないぞ。やがては国民の怒りがピリカの空に燃え上がり、独裁者を焼き尽くすことになるだろう!」
【補足】 もうひとつの名作『のび太と鉄人兵団』
作品に描かれた世界が、今ほど読者に響いたことはなかっただろう。
この作品を観ること、あるいは読むことを通じて、自由と平和の大切さ、科学を正しく利用することなどについて、保護者の方とお子さんでぜひ話し合ってみていただきたい。
(今の時代に新しいドラえもんの映画が上映されることは素晴らしいことだが、原作も本当におすすめだ。第二次大戦を知っている世代の藤子F先生だからこその実感や洞察がある。)
また、この作品に続く大長編7の『のび太と鉄人兵団』も読んでいただきたい。
大長編ドラえもん (Vol.7) のび太と鉄人兵団 (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・ 不二雄
こちらは、ロボットだけが住むメカトピア星から、ロボット軍団が人間を奴隷にするために地球に攻めてくる物語だ。
彼らのスパイで人間そっくりのロボット少女リルルは、最初、「人間みたいな下等生物が支配者(ロボット)のために働くのは当たり前じゃない」と言い、自分たちの行動が正しいことだと信じている。
また、あるキャラクターは、行き過ぎた競争精神の危険について語っている。
「自分の利益のためには他人をおしのけてもという……。弱い者を踏みつけにして強い者だけが栄える、弱肉強食の世界になる」
自由と平和を奪われた社会を描いた『宇宙小戦争』に対し、『鉄人兵団』は、なぜ他人を踏みつけにし、戦争を起こしてもいいと思うようになるのか、その心の内側を描いている作品だ。
両方読むと、自由と平和、そして思いやりの心が、きれいごとではなく、この世界に確かに必要なのだと、より深く実感できる。
そして、この言葉も、今こそ、現在を生きるあらゆる世代、立場の方に読んでいただきたい。
大人になって、のび太と結婚することになったしずかちゃんの結婚前夜、彼女のお父さんが贈った言葉だ。
(『ドラえもん』25「のび太の結婚前夜」(てんとう虫コミックス)より)
「のび太君を選んだきみの判断は正しかったと思うよ。あの青年は人のしあわせを願い、人の不幸を悲しむことのできる人だ。それがいちばん人間にとってだいじなことなんだからね」
大長編ドラえもん6 のび太の宇宙小戦争 (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄
大長編ドラえもん (Vol.7) のび太と鉄人兵団 (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・ 不二雄
ドラえもん (25) (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・ 不二雄
当ブログ関連記事:
2021年11月23日
ドラえもん「ぐうたらの日」(「誰も働いちゃいけない日」の光と影)(※ネタバレあり)
(てんとう虫コミックス14巻収録)
ドラえもん(14) (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄
「だれもはたらいちゃいけない日」として、全国民のぐうたらが法律で義務化されたことにより、思わぬ事態が起こる。
(あらすじ)※ネタバレご注意
「ついに今年もきたか、ああ……」
カレンダーをむなしく見つめるのび太。
6月、一年を通じてもっとも不愉快な月。
6月には国民の祝日が一日も無い。日曜のほか一日も休めない。こんなつまんない月があるか。
「ああ、ゆううつ……」
ドラえもんに一通り6月への愚痴をこぼすと、ぐったりと寝そべる。
「そんなに休みたきゃ休日を作ればいい」
ドラえもんが出したのは「日本標準カレンダー」
ごくシンプルなデザインのカレンダーだが、日本中のカレンダーを変えることができる。
休日を作るには、その日にちに日の丸マークシールを貼ればいい。
そう聞いたのび太は喜んで休日を作ろうとするが、
「しかし……日本中に影響するとなるとちょっと……」
「休みがふえておこる人がいるかい。みんながよろこぶならいいことだろ」
「やるか!」
「やろう!」
ふたりともごく軽いノリで、6月2日を祝日に制定。
「勤労感謝の日」があるのだから、この日は「ぐうたら感謝の日」。
「だれもはたらいちゃいけない日!法律でそう決まったの!」
翌日。
寝坊した、学校に遅刻する!と焦るのび太。
しかし、パパもママも「ぐうたら感謝の日を忘れるなんて」と、そんなのび太を笑って、のんびりしている。
外に出れば、どの家も国旗をかかげて「ぐうたら感謝の日」を祝っている。
「底抜けに遊ぼう」
のび太とドラえもんは、喜び勇んで空き地に行ったが、意外にも誰もいない。
家で何かしているのかな、と、訪ねて行ってみると、
「べつになにもしてないわ。一日ごろごろするつもり」
窓に肘をついて、とろんとした目で答えるしずかちゃん。
「いっしょうけんめい遊ぶなんて、ぐうたら精神にそむくことになるんだぞ」
ぐうたらを中断されたのか、「++」目で唇を「3」にとがらせて、のび太たちをたしなめるジャイアン。
「言われてみればもっともだ。ぼくらもダラーっとして過ごそう」
ぐうたらの意味をはき違えていたことを反省し、家に戻ってテレビを観ることにする。
「とかく日本人は遊ぶことにさえ必死になりますからねえ。こういう日が定められたことはとてもいいことですな」
ブラウン管の中では、評論家とアナウンサーが、二つ折りにした座布団に片肘を突いて寝っ転がり、グダグダな空気を醸しながら適当なことを話していた。
(ちなみに事前収録されたものをコンピューターで自動放映している)
ぐうたらしていてもお腹は空く、腹の虫が鳴いて、朝ご飯を食べていないことに気づいたのび太とドラえもん。
しかしママは、はたらいちゃいけない日だから、食事のしたくなんかしませんよ、と言った。
そ、そんな!
顔面蒼白になる二人に、
「一日ぐらいたべなくても死なないわよ」
「法律は守らんといかん」
と、冷静に諭すパパとママ。
ラーメンの出前を頼もうとすると、
「きょうがなんの日か知ってるの?ラーメンくいたきゃ自分で作りな!」
とガチャ切りされるが、家には食料が何も無い。
ないとわかったらなおさら飢餓感が増し、ドラえもんは「ぐうたらの日が終わるまでスイッチ切っておこう」としっぽを引っ張って自ら機能停止してしまう。
「ずるいずるい!」
苦しみを共有できるはずだった友に離脱され、
「ううう、目が回って死にそうだ。なんでもいいからたべたい」
と、よだれをたらしながら食料を探しに外に出るのび太。
偶然家から魚を盗んで飛び出した猫に出くわし、激しい格闘の末、魚を奪い取ることに成功。
「ゴロニャン!」
ボロボロになりながらも、四つん這いで魚をくわえて鳴くのび太。
空き地で焼いて食べようとしていたところ、
「おれによこせ!よこさねえと……」
今度は飢えで目が「##」になったジャイアンが乱入し、いきなりのび太に火をつける。
「火事だ。どろぼうだ。110番。119番」
しかし、どこも休みだ。
(警察にかかった「本日休業」の札のなげやりな字体が怖い〈あとのび太のお尻まだ燃えてる〉)
限界を感じたのび太は、ドラえもんのしっぽを引っ張って再起動する。
「なんとかしてくれ」
目を覚ましたドラえもんは、ためらいがちにつぶやく。
「シールをはがせば、もとにもどるけど……」
「もどそう!」
シールをはがすと事態は急変。
「けさから私たちは、何をかんちがいしていたのでしょう」
ねぐせをなでつけきれないまま、ニュースデスクのアナウンサーも、何が起きているのかわからないようす。
「どうして、今日が休みだなんて思いこんだんだろう」
スーツの袖に腕を通しながら家から飛び出すパパ。
のび太を含めた人々が、大慌てで平日行くべき場所に走っていくのを見ながら、ドラえもんは、
「みんなにめいわくかけたな」
と、「3」唇でつぶやいた。
(完)
全国民がぐうたらする日、働いちゃいけない日、とは、何も食べられず、安全も健康も守られない日のことだった。
結果、のび太は猫が盗んだ魚を「ゴロニャン!」と四つん這いで鼻息荒く奪い取り、ジャイアンはついさっき予定を聞きに来た友人に火を放つという、人間性を見失った行為に走る。
(せいぜい朝昼抜き程度なのに、我の忘れ方が早すぎる&強烈すぎる気もするが)
「いっしょうけんめい遊ぶなんて、ぐうたら精神にそむくことになるんだぞ」
「とかく日本人は遊ぶことにさえ必死になりますからねえ。こういう日が定められたことはとてもいいことですな」
「ぐうたらの日」の意義を説くこの二つの台詞は、何かとせわしない現代人の胸を突く、名言のような気もするのだが、度が過ぎると、「勤労感謝の日」以上に、日ごろは見落としがちな他者の勤労に痛烈に感謝することになる、意義深くも全然ぐうたらできない日となってしまうようだ。
(出典)(このほかに「人食いハウス」「からだの皮をはぐ話」「ムード盛り上げ楽団登場!」「無人島へ家出」「すてきなミイちゃん」などの名作も収録されている)
2021年10月09日
名言「だれにもじゃまされず、いねむりできる勉強べやがほしいなあ」(のび太「人食いハウス」より)
「『勉強』べや」の概念を根底から覆す名言。
(場面紹介)
「だれにもじゃまされず、いねむりできる勉強部屋」の陰に隠れているが、何気に「一日中、ひるね」も、「『ひるね』とはなにか」について考えさせられる。
(作品紹介)
『ドラえもん』てんとう虫コミックス14巻「人食いハウス」(1977年8月号『小学三年生』掲載)の台詞。
ドラえもん (14) (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・ 不二雄
名言を発した直後、のび太が部屋にもどると、大きな組み立て式の家が床に放置されている。
「ドラえもんよ。口にださなくても、きみにはぼくの心がわかるんだねえ…。ありがとう、ありがとう」
のび太はドラえもんのこまやかな思いやりに涙し、勝手に空き地に組み立てハウスを持って行ってしまう。
仮にドラえもんがのび太の「いねむりできる勉強べや」が欲しい心を察したとして、そんな怠惰助長設備を出しておいてくれるのかという読者の疑問どおり、ドラえもんにそんな気はさらさらないし、置いてあったのは、ただの組み立てハウスではない。
のび太が空き地に組み立てハウスを建てたあと、しずかちゃんを招待しようとそこを離れた間に、ジャイアンやスネ夫ら、家を見かけた人たちが次々と家の中に入ったきり出てこなくなる。
(家を見た人は、なぜか、そこに入らずにはいられなくなる)
白昼、人々を飲み込んで沈黙する、小さなかわいらしい家。
一方、のび太から招待を受けたしずかちゃんは、ついこの間観に行った「不思議な家の映画」の話をする。
「こわあいの。おばけみたいな家よ」
入った人を食べてしまう家。
同じ頃、部屋に戻ったドラえもんは、「あの組み立てハウス」が無いことに気づく。
まさか、のび太が……。
「たいへんだ!」
動転したドラえもんは、急いでのび太を探しに行く……。
※元ネタは、大林宜彦監督の、カルト的人気を誇るホラー映画、「HOUSE(ハウス)」(1977年公開)と思われる。
HOUSE (ハウス) - 池上季実子, 神保美喜, 大場久美子, 松原愛, 南田洋子, 大林宣彦, 桂千穂親戚の女性の家を訪ねた女子高生たちが次々と姿を消していく物語。
ファンタジック・ホラーと呼ばれているらしいが、今観てもかなり不気味。
(この時代特有の、サイケデリックな映像や音楽と俳優達の存在感による、精神的不協和音をかきたてる世界観は、今の作品とは別の迫力がある)。
しずかちゃんがわざわざ映画館に観に行ったというのは意外だ。
「組み立て式の」「なぜか入らずにはいられなくなる」謎の家。
家の中に吸い寄せられた人々が迎えた、恐ろしい結末とは……。(笑)
14巻には、「からだの皮をはぐ話」「ムード盛り上げ楽団登場!」「無人島へ家出」「すてきなミイちゃん」「ぐうたらの日」などの名作も収録されている。
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2021年07月14日
ドラえもん「こっそりカメラ」(隠し撮りと野次馬たちへのブーメラン)
「こっそりカメラ」は、スネ夫にビデオカメラで私生活を隠し撮りされて大恥をかいたのび太が、復讐のために未来のビデオカメラで、スネ夫を撮影しようとするお話。(てんとう虫コミックス15巻収録)
(この巻には「ゆめのチャンネル」「階級ワッペン」「どくさいスイッチ」などの名作も収録されている。)
スネ夫の盗撮行為をいさめずに、一緒になってのび太を笑いものにした友人たちも、思わぬ事態に巻き込まれていく。
あらすじ(ネタバレご注意)
道を歩いていても、家で昼寝をしていても。
「へんだなあ、この二、三日、誰かに付け回されている気がする」
のび太が目を向けるたび、誰かがすばやく隠れるような気配がするのだ。
気のせいでなかったことは、わりとすぐに判明した。
「苦労したよ、気づかれないようにとるんだからね。」
ビデオカメラを片手に、「ありのままのすがたがとれたよ。」と得意がるスネ夫に、おもしろそうだな、見せろよ。と、ジャイアンたちがニヤついて立ち話をしていた。
「ぼくにも見せて!」
のび太が混ざろうとしたら、スネ夫は、「のび太は見ない方がいいのに」と、妙にそっけなかった。
おもしろいものならぼくも見たい!と、食い下がって、上映会に参加するのび太。
(このほかに、ジャイアン、少年二人(はる夫と安雄〈よく登場する脇役友人、野球帽の少年が安雄、丸顔のほうがはる夫〉)、しずかちゃんが参加。)
野鳥か昆虫の観察記録なのかと期待していたら、
「のび太のしっぱい日記」
失礼なタイトルと、スネ夫の解説とともに次々と映し出される、のび太の「ありのままのすがた」。
「女の子に見とれているところ。」
そして、水たまりに足をつっこむのび太。(観客〈ジャイアンたち〉から笑い声が上がる)
「おい、へんなところとるなよ。」
「いいところを見せようと思って。」
道で遊ぶ小さな子に、けん玉を借りてお手本を見せようとしたものの、繰り返し失敗してこぶだらけになり、笑われながら立ち去るのび太。
「おひるね。あどけないお顔。」
鼻ちょうちんにヨダレを垂らし、熟睡するのび太。
「おやつのあとは、おさらもきれいにペロペロ。」
「もういいよ、やめろよ」
電柱に用を足そうとして立ち止まったら、その足めがけて犬に用を足されるのび太。
「やめろってば!!」
猛抗議するのび太に、「だから見ないほうがいいと言ったろ」と、スネ夫はニヤつき、ジャイアンも「怒ることないだろ」とヘラヘラのび太を制止した。
「ほんとにおまえがやったことばかりだろ」
安雄とはる夫も、ジャイアンに同意した。
「たとえばさ、かがみにうつした顔がみにくいからって、かがみにおこるのはまちがいだよ。」
と、はる夫。
「ようするにいつだれに見られてもはずかしくないように、生活してればいいんだ」
と、安雄。
「イエース」
スネ夫がなぜか英語でとどめを刺した。
「フーン……、みんなりっぱなこというなあ」
帰ってきて悔しさにむせび泣くのび太の話を聞いたドラえもんは、冷ややかな目にへの字口をとんがらせた、もの言いたげな顔で腕組みをしていた。
もちろん、この残酷な仕打ちを許す気は無い。
復讐として、スネ夫を撮影し返すために、未来のビデオカメラを取り出すドラえもん。
撮影機は昔ながらの8ミリビデオカメラに似ているが、「電送レンズ」は、小豆粒くらいに小さい。
機能を説明するために、通りすがりのママに、その小さな電送レンズを投げてくっつけた。
「うつさないの。行っちゃうよ」
「いまうつしてる」
ドラえもんはカメラを床に転がしたまま、のんびりねそべっていた。
そろそろいいか。
ビデオカメラの時間を戻すと、カメラがそのまま映写機になって、壁に映像が映し出された。
映像の中では、一階に降りたママが、鏡台に向かっていた。
鏡の前で少し不満そうなママ。
「ふしぎねえ……。だれにもいわれたことがないわ。こうしてニーッとわらうと……。池内淳子そっくりだと、思うんだけどな。」
(池内淳子 上品な色香漂う美人女優。『男はつらいよ』8作目「寅次郎恋歌」でマドンナを演じた。)
この映像を観たのび太とドラえもんはお腹を抱えて笑いながらやってきて、
「ママは池内淳子ににてるなあ」と、言ってあげた。
そして、な、なによ突然、と赤面するママから、ひそかにレンズを回収。
「ぼくはこそこそぬすみどりなんかしない。どうどうと予告する!」
カメラを手に表に出たのび太は、スネ夫たちを前に高らかに言った。
「スネ夫のありのままのすがたをとって、今夜大公開する!」
「ぼくの!?」
おもしろそうだな。必ず見にいくぜ。
さっきはのび太を笑っていたジャイアンたちが、また無責任に面白がっていた。
とれるものなら、とってみろ!
走り去ろうとするスネ夫の背中に、のび太は電送レンズを投げた。
しかし、このとき風が吹いて、小さなレンズはスネ夫のそばを歩いていた猫にくっついた。
のび太もドラえもんもこれに気づかず、家に帰ってしまう。
夕方、みんなに見せる前に試写をしてみたところ……。
猫の歩いている姿が映った。
続いて、しずかちゃんが両手で口を左右に広げ、目を上下にぎょろぎょろさせながら、あかんべーをしている顔。
「顔の美容体操ってほんとにきくのかしら。ベロベロバー。」
しずかちゃんの家の中を通り道にしているらしき猫が、しずかちゃんの変顔美容体操を見ながら廊下を歩いて行った。
「電送レンズをネコにくっつけたな!」
ふたりはようやく失敗に気づいたが、猫の行く先々が映し出されたその映像を「すごい記録映画になるぞ」と見続けた。
「きょうは塾へ行くのをさぼって、ゆっくりとマンガを立ち読みしよう」
本屋に入りびたり、サボり時間を堪能する安雄。(幸せそうに読んでいるのは『オバQ』)
「ひそかにためたハナクソがこんなボールになった。」
野球ボールを二回りほど大きくしたようなキングサイズハナクソを前に、嬉しそうに鼻をほじって引き続いての増量にいそしむはる夫。
窓の向こうで気持ちよさそうにお風呂に入るジャイアン。
湯に浮いてきた大きなあぶくにすかさず定規をかざすと、もろ手を挙げて満面の笑みとともに叫んだ。
「やったあ!!ついに直径五センチのおならアブクをつくったぞ」
そして、スネ夫。
ママのお使いも断り、カーテンも閉め切って隠れていたが、ついにママに引きずり出された。
「どうしておもらしするまで、おしいれにこもっていたざますか!」
夜、スネ夫以外の四人が野比家を訪ねてきた。
「スネ夫はきたくないって。」
「ぼくたちだけにみせてよ。」
のび太の部屋で待つ四人を前に、のび太とドラえもんは小声で話し合った。
「これうつしたらおこるだろうね。」
「……だろうね。」
「もったいぶらずにさっさとうつせよ」
「スネ夫のありのままのすがた」「だけ」を観られると思い込んでいるジャイアンはのび太たちをせかし、ほかの三人もそう信じて、ニコニコと笑っていた。
(完)
(結末部に、記録再生後、忍び足で去るドラえもんとのび太のカットが添えられている。)
注目ポイント1 凄腕潜入カメラニャン
ネコは、家々の塀を越え、窓際を歩いても、家によっては勝手に上がり込んでも気に留められない。
そしてターゲットは、ネコに見られたからといって、逃げたり見栄を張ったりする必要がないと思い込んでいるので、「ありのままのすがた」をさらしてしまう。
2017、8年頃から、アメリカやイギリスの自然番組で、小型カメラを野生動物自身に取り付ける、または、動物や雪の塊や卵などにそっくりの姿をしたカメラ付きロボットで撮影する手法が登場した。
(小型カメラを装着したチーター)
Image Credit: Yotube
(ウミガメ型のロボットカメラ)
Image Credit: Yotube
(NATURE | Animals with Cameras, Episode 2: Official Trailer | PBS)
こうした自然番組の「見えていても、気に留められない存在」のカメラは、警戒されずにターゲットのテリトリーに潜入し、至近距離から動物たちの「ありのままの姿」を記録している。
(家族にふざけて顔面パンチするチーター)
Image Credit: Yotube
(海水で薄めたフグ毒でハイになろうと、つかまえたフグを口にくわえて悪い笑みを浮かべるイルカ)
「こっそりカメラ」のかわいいカメラニャンは、このアイディアを1970年代前半(1973年10月発表)に実行して、衝撃映像をものにしているのだ。
Image Credit: Yotube
すぐにその価値に気づいて「すごい記録映画になるぞ」と言ったのび太も鋭い。
(マナーとしてはアウトだが。でもまあ、最初に盗撮されたのび太をバカにしたのはジャイアンたちだし……。)
そして、カメラが、スネ夫ではなく、人々のテリトリーの越境者である猫についたことで、盗撮を肯定し、他人のプライバシーを笑っていた友人たちの秘密も等しく暴かれていくことになる。
注目ポイント2 友人たちの発言とドラえもんのまなざし
「いつ誰に見られても恥ずかしくない生活をすればいいんだよ」
ゴシップとプライバシーの問題はいつもぶつかり合い、人の私生活の秘密を暴く側とそれを娯楽にする側の理屈は、安雄のこの台詞によく似ている。
しかし、彼らがのび太に投げたブーメランは、のび太を傷つけた後、見事に自分たちに戻ってきた。
いつ誰に見られても恥ずかしくない生活を24時間365日続けるなんて誰にもできない。
ドラえもんの「ふーん、みんなりっぱなこと言うなあ……」と言った時の、全然同意していない表情が、それを物語っている。
(ドラえもんの表情の中でも名作の一つだろう。「のび太の痛みに思いをはせながら、人生の幾山谷を越えた長老のような、世の中の裏表を知り抜いているような冷めた達観を漂わせ、相変わらずかわいくておもしろい」顔をしている)
きっとドラえもんは、自分だってそんな生活は無理だと自覚している。どら焼きがかかると意地汚いし、ネズミを見れば地球破壊爆弾を出そうとするし。
だから、ドラえもんは即座に「よしっ、きみも8ミリでスネ夫を撮れ!」と言う。
堂々と宣言して撮っても、プライベートを追い回せば、「イエース」と小憎らしい顔で笑っていたスネ夫だって、必ずどこかでボロを出すとドラえもんにはわかっていたのだ。
(そして案の定スネ夫は〈よっぽど身に覚えがあるのか〉即座にうろたえ、ありのままの姿で暮らすどころかトイレにもいかずに籠城してしまう。)
しかし、この作品でより印象深いのは、ストレートに復讐されたスネ夫よりも、自分たちだけは品行方正なつもりで面白がろうとしていたジャイアンたちのほうだ。
彼らは、自分が現在進行形で行っている「見られたら恥ずかしい」ことをきれいさっぱり忘れてのび太を嘲笑し「かがみにおこるのは、まちがいだよ」だなんて追い打ちをかけている。
そんな「りっぱなこと」を言う前に、ほんのちょっとも、塾カバンを下げたまま立ち読みする本屋、机の中のキングハナクソ、おなら計測用の定規が頭をよぎらなかったのか。
よぎればスネ夫にやめろと言えたかもしれないし、少なくともあんなかっこいいがゆえにかっこ悪い台詞を言わずに済んだし、そうすればのび太は復讐を思いとどまり、まわりまわって自分たちの秘密を暴かれずに済んだのに。
しかし、人が人をあざ笑っているときの脳内は、そんなものなのかもしれない。
腕組みしたドラえもんの冷めた目は、彼らの「(ご)りっぱな」言葉が棚上げしたものを見つめているようだ。
注目ポイント3 のび太のために怒るドラえもん
泣いているのび太の話を静かに聞いた後、どこに隠れようが全てを映し出してしまう恐ろしいビデオカメラを取り出すドラえもん。
確かにのび太はだらしないし、落ち度もあるが、そこを付け込まれ、みんなの笑い者にされて泣くのび太に、教育と世間体ありきの大人のように、そのタイミングで説教をしたりしない。
※(もちろん、ふだんのドラえもんは、のび太の生活態度を何度も注意している)(例:コミックス23巻「ぼくのまもり紙」)
そして、付け込んできた相手のことは許さない。
「のび太くんをばかにするということは、ぼくをばかにするということだ、ゆるせぬ!」(4巻「のろいのカメラ」より)
そんなふうに、まず、のび太の悔し涙に寄り添い、残酷なことをした加害者に対して一緒に腹を立ててくれるドラえもん。
味方としては理想的だが、ひみつ道具できっちり「目には目を」的な復讐をするので、敵にまわすと非常に恐ろしい存在でもある。
時代を40年以上先取りしたかわいい潜入カメラニャン。
正論風のことを言いながら他人のプライバシーを娯楽にする人々自身が棚上げしているもの。
そしてドラえもんの冷めた達観と、味方としての頼もしさ、復讐者としての容赦無さ。
『ドラえもん』の奥深い魅力が凝縮された一作だ。