「ユーレイぐらしはやめられない」はジャイアンへのうらみを晴らそうとしたのび太が、一時的に幽霊になれる「うらめしドロップ」を飲んで、復讐しようとする話。
(てんとう虫コミックス29巻 1982年12月『小学六年生』掲載)
日本における「幽霊のたたり」とだいぶイメージの違う恐怖がジャイアンを襲う。あと諸事情により途中参加する「ドラえもんの霊」のビジュアルがとても味わい深い。
※2025年8月12日まで、ドラえもん公式サイト「ドラえもんチャンネル」でこの作品の一話まるごと試し読みができる
2025年7月26日土曜午後5時からテレビ朝日系列でアニメ放送
【あらすじ】(ネタバレご注意)
嗚咽しながら家に駆けこんだのび太。
「覚えてろジャイアン!このうらみはいつかかならずはらすぞ!!」
部屋でようやく怒りを吐きだしたのび太に、ドラえもんは、
「ジャイアンにうらみを?いつはかはらすっていつ?」と「3」唇で尋ねた。
「いまに……いまにぼくが年とって死んだらばけてでてやる!!」
「気の長い話」
あまりにも遠大な復讐の誓いに、ドラえもんはおなかをかかえてウヒャヒャヒャゲラゲラと笑った。
部屋の隅に座り込んで落ち込むのび太に、ドラえもんは謝りながら励ました。
そのうらみのエネルギーをむだにせず、なにくそ!と、がんばっていまにりっぱな人になってジャイアンを見返してやれ。
「死なずにばけてでる方法もないでもないけど…」
一言余計だった。
「かしてくれ!かさないと一生うらむぞ!」
殴りかからんばかりの依存的脅迫に押し負けて、ドラえもんはつい「うらめしドロップ」を出してしまう。
これを飲んで寝ると、魂が抜けだして一時的に幽霊になれる。そう教わったのび太はさっそく一粒飲んでみた。
その夜、眠るのび太の口から、もやもやと煙のようなものが湧き出てきて……。
「あっ。ほんとにユーレイになれた」
喜ぶのび太はそのまま壁を抜けて外に出てみたが……。
「暗いからついてきて」
「ユーレイのくせに!!」
押し入れ寝室のドラえもんにすげなく断られ、しかたなく夜の町を単身飛んで剛田家に向かうことに。
ジャイアンめ、うんとおどかしてやるぞ。
ジャイアンの寝室に侵入したのび太は、幽霊らしく両手をだらりと下げ、彼なりに重苦しい表情を作ると、眠るジャイアンの枕もとで陰鬱な霧雨のようにつぶやいた。
「うらめしや……。」
ンガ〜〜。
しかし、口を開けて爆睡するジャイアンは一向に目覚めない。
「3」唇になったのび太は、幽霊の白いそでで、ジャイアンの顔をちょいちょいつついてみた。
「うらめしい……。うらめしいんだよ。うらめしいってのに」
物理的にうっとうしかったので目が覚めたジャイアン。
「なんだのび太か」
「なんだとはなんだ。ユーレイだぞ、こわいぞ」
のび太は憤慨したが、ジャイアンは眠たげな「++」目のままだった。ユーレイはこわいが、のび太のユーレイはこわくない。
「さっさときえないとぶっとばすぞ!!」
「なんのためにユーレイになったんだ!」
ドラえもんは幽霊袖で顔を覆ってシクシク泣いているのび太にあきれ返った。あべこべに脅かされて帰ってくるなんて……。
ドラえもんはドロップを口にほうりこんだ。
ドラえもんに付き添ってもらって、再び剛田家に向かいながら、のび太は言った。
「ロボットのユーレイか、あんまりかっこよくないね」
「ほっとけ!」
ロボットにも幽霊になれる「ゴースト(魂)」が宿っているという、生命の根幹にまつわる現象が起きているのに、「ドラえもんの頭で首から下が幽霊」という「まん丸とヒラヒラ」のビジュアルにのみ注目して、ごく軽く流してしまう、ドラえもんとのび太と我々読者。だって「ドラえもんは生きている」と普通に誰一人として疑っていないから。
❝(でも『攻殻機動隊』ならきっと大騒ぎになってる)※画像出典:『攻殻機動隊』(1)士郎正宗「09 BYE BYE CLAY」 (ヤングジャンプコミックス 1991年10月)
「いいか、うらみをはらすには手段をえらぶな」
そう厳しい顔でのび太に告げると、ドラえもんは爆睡するジャイアンの枕もとで、声を張り上げた。
「うらめしやあ!!!」
のび太も幽霊袖で耳をふさぐほどの声量に、ジャイアンは「ンナロー!!!(この野郎)」と跳ね起きた。
「うるさい!!何時だとおもってんだよ!!」
注意しに来たかあちゃんに、事情を説明しようとしたが、部屋には誰もいない。
腑に落ちないまま再び眠りについたジャイアン。
「もっとにぎやかにやろう」ドラえもんは、のび太にいたずらっぽくウィンクをすると、本棚の上にあったラジカセを爆音再生した。
「お、おれしらねえ!ほんと!ひとりでになりだしたんだよ!!」
かあちゃんに胸ぐらをつかまれたジャイアンは必死に弁解した。
どうもおかしな夜だ。二度と鳴り出さないようにラジカセを抱え、布団の中に潜り込んだジャイアン。
そのジャイアン入りの布団を、二体のポルターガイストが笑顔でズンズン踏みつけた。
「もうかんべんできねえ!!!」
ジャイアンは、ウガーッ!!!とバットをやみくもに振り回したが、「幽霊側は物質に作用できても、人間は幽霊に物理介入できない」という恐ろしい法則のため、のび太たちは「してやったり」のあざけり顔で跳梁し……。
部屋中に物が散乱し、ふすまと障子は破れ、骨組みまで折れ。
「ユーレイが、ユーレイが……」
ジャイアンの涙ながらの訴えは、かあちゃんのビンタのペチペチ音に無情にもかき消された。
(余談だが、多分このシーンでふすまの内部構造を知った子供は多い)
「じつにすばらしいドロップだ」
「うらみをはらしたらあんなもの忘れろ!」
復讐には素晴らしい参謀役を果たしたドラえもんだったが、帰路ののび太のニコニコ顔に不穏なものを感じて、ぴしゃりと言った。
残念ながらその戒めの効果はなかった。
翌朝。
「やい、のび太!!ゆうべはよくもよくも」
通学路でジャイアンに胸ぐらをつかまれたのび太は、目をそらしてつぶやいた。
「今夜もばけてでよう」
ひるんで立ち去るジャイアン。
放課後、骨川邸の前で、スネ夫に漫画を見せてもらっているクラスメートたちを見て、近づくのび太。
「おもしろそうなまんがだな。かして。」
「だれがおまえなんかに!!」
頼み方がわりと図々しかったのも相まって、スネ夫は非常に冷ややかに却下した。
「うらめしい!」空き地に駆けこんだのび太は、土管の陰でドロップを飲んで再び生霊と化した。
化けて出たのび太に、スネ夫たちは「おもしろそうなまんが」を読んでいるときより、もっともっと大笑いした、スネ夫なんて指まで差して笑っていたが、それを見かけたジャイアンは笑わなかった。
「あまくみるなよ、じつはゆうべ……」
ジャイアンは話した。昨晩、ポルターガイストが引き起こした惨劇を。
真夜中の怨念怒声、ひとりでに鳴りだすラジカセ、布団に潜り込んでもトランポリンにされ、ついにはめちゃくちゃになった部屋、どれだけ「ユーレイが……」と泣きながら訴えても止まらなかった、かあちゃんの往復ビンタ……。
その恐怖物語に、スネ夫たちの心臓は凍り付いた。
「貸してやる……」
これで味をしめたのび太。
「ユーレイはいいなあ。一度やったらやめられないよ」
人間のルールと物理攻撃から完全に自由であることに、すっかり解放感を覚えてしまい、復讐ではなく単に気ままに人の生活を侵害しはじめる。
「もう宿題がおわったの?うらやましや〜」と、出木杉君の家に侵入して問答無用で宿題を写し、「遊ぼう」と入浴中のしずかちゃんに声をかけ。
「フワフワ遊んでばかりいて!!」
生活態度を叱るママ(背後のドラえもんが事前に状況を説明していたらしく、息子が幽霊姿であることには動じていない)にもどこ吹く風で、上空に飛んでいってしまう。
「きらくだなあ。ずうっとこのままでいようかな」
空に浮かぶ雲のひとつになったように、自由きままを謳歌するのび太。
しかし地上では、この理不尽にみんなが怒り始めていた。恨まれる覚えもないのに幽霊が出るなんて。
そんな中、スネ夫が空き地で、土管を背に座り込んでいるのび太を見つけた。妙にぐにゃりとして、ポケットにはへんなドロップが……。
漫画を強奪された腹いせか、無断でドロップを口に入れたスネ夫。
「これがユーレイの正体か!!」
自分も幽霊姿になったスネ夫はからくりに気が付いた。そして……。
ドラえもんは空を見上げながら肩をすくめていた。
「こんなことになりそうな気がしたんだ。だからやめろと言ったんだ」
幽霊は人間の物理攻撃を受けない。しかし幽霊同士なら話が別らしい。
ジャイアンの霊とスネ夫の霊に追いかけまわされながら、のび太は上空から必死に叫んだ。
「ブツブツひとりこといってないで助けてえ!!」
―(完)―
























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