2025年08月03日

刑事コロンボ「溶ける糸」コロンボと婚活迷走中の看護師マーシャのコミカルなワンシーン

(くしゃみが止まらないコロンボに、半強制的にくしゃみ止めの水を飲ませる看護師マーシャ)
コロンボに問答無用で水を飲ませるマーシャ - コピー.jpg
c 1972 Universal City Studios LLLP. All Rights Reserved.

刑事コロンボの「溶ける糸(原題:A Stitch in Crime〈1973年2月〉)」は、心臓外科医メイフィールドが犯人。共同研究者であるハイデマン博士を手術中の細工で亡き者にしようとした際、それに気づいた看護師シャロンをも口封じで殺害する。
※2025年8月現在、動画配信サイトhuluで、新旧「刑事コロンボ」シリーズが視聴可能

まるで手術のように、人の命そのものをこの世から切り離してしまうメイフィールドを、名優レナード・ニモイが演じ、非常に知的で洗練された空気をまとう犯人像が、冷酷な犯行を不気味に際立たせている。

(無表情でシャロンを撲殺するメイフィールド)
殺人の瞬間の表情 - コピー - コピー.jpg

(ハイデマン博士への犯行の隠ぺい工作として、薬を入れ替える姿にもまったく動揺が見られない)
薬に細工をするメイフィールド - コピー.jpg

このシリーズ屈指の名作、メイフィールドの底知れない存在感とは真逆の、ずいぶんコミカルなシーンが、効果的に挿入されている。


・被害者シャロンのルームメイト、マーシャ

マーシャに困惑するコロンボ - コピー.jpg

捜査でシャロンの自宅に行ったコロンボ。シャロンは同じく看護師のマーシャとルームシェアをしていたので事情を尋ねてみたが、どうもマーシャの話は、親友が死んで動揺しているということを除いても、相当わかりにくかった。


シャロンに人に恨まれるような事情があったかという意味で、シャロンの性格を聞いてみたのだけれど、

「私は内部思考型でシャロンは外部思考型だったのよ。わかるでしょ?」
マーシャとシャロンの違いの分析1 - コピー.jpg

「私は職業上の必要から、彼女は他人の願望によって…わかる?私は利己的な目的を持ち、シャロンは人間性に献身してたの、わかる?」

「ええ、どうやらわかりかけてはきたようですが…」
マーシャの言葉を理解しようと努めるコロンボ2 - コピー.jpg
(そんなにはわかっていなさそうなコロンボ)

「ええ、でもシャロンは治療に全力を注いで病院に勤め続け、私はビバリーヒルズの美容整形病院に移ったの、上流社会の中にいることに利己的な喜びを見出したの…!でも私の勤め先じゃ独身の男性に出会うことなんて…!」

婚活用の自己分析が煮詰まりすぎて、こんなしゃべり方になったのかなというところで、どうにかマーシャの脱線を食い止めたコロンボは、とにかくシャロンは人に恨まれるような人ではなかったという証言を得る。


一方コロンボの疑いの目が自分に向いていることに気づいていたメイフィールドは、マーシャを呼び出し、シャロンが以前交際していたベトナム帰還兵のハリーの存在を、コロンボに話すように彼女を誘導して、疑惑の目をハリーに向けさせようとする。

メイフィールドが自分の親友を殺したと知らないマーシャの目に映る彼は、「評判の高い心臓外科医、高身長、高収入、スマートな容姿」と諸々そろった「ウルトラ超絶優良物件」にしか見えないので、なんとかその後の展開につなげようとするが、ハリーのことをコロンボに話すという結論に到達した(させられた)時点で、メイフィールドにすみやかに家に送り返されてしまう。

(メイフィールドの邸宅の一部。プールがあり眺めもよく、数十人単位のパーティを自宅で開ける広さがある)
メイフィールドの邸宅、プールと景観 - コピー.jpg

メイフィールドの言葉にがっかりするマーシャ - コピー.jpg

不発に終わったアプローチにモヤモヤしていたところにコロンボが待ち構えていて、聞き込みをしようとしたものの、メイフィールドの邸宅パーティで食べた高級オードブルが体質に合わなかったのか花粉症なのか、くしゃみが止まらなくなってしまう。

コロンボをアパートに招き入れたマーシャは、「秘伝のくしゃみ止めがあるの」とコロンボに水を渡す。

「7口飲んで息を4秒止める」という「水飲み息止めくしゃみ止めメソッド」を「さあはじめてごらんなさい!」と、コロンボの遠慮を押し切ってスタート。
水の飲み方の指導3 - コピー.jpg

逆らえずに水を飲み始めたコロンボに、ちゃんとごっくんするようにコップの底を押さえて、数を数えて、と、問答無用ながらテキパキ処置したマーシャ。

飲み終わって、まだくしゃみをしそうになったコロンボに、ハンドバッグからティッシュを差し出してあげたが。それは不要だった。
ティッシュを渡すマーシャ - コピー.jpg

「ぴったり治った。奇跡のごとしだ……」

コロンボの様子をじっと見ていたマーシャは、くしゃみが止まったのを確認してから、お礼の言葉ににっこり笑った。
コロンボのお礼とマーシャの笑顔 - コピー.jpg

入り組んだ心理学的自己分析とか、「優良物件探し」に血眼になるのではなく、そういうあったかい笑顔と面倒見のいいところでシンプルに勝負したら、コロンボみたいな実のある男性といいご縁があるから、そうしたほうがいいですよと言いたくなる。

この「コロンボがくしゃみ止めの水を問答無用で飲まされる」場面は、事件の捜査にはほとんど関係がないのに、とても丁寧に描かれていて、登場時はなんだかめんどくさいキャラだったマーシャの、濃すぎるお化粧の奥の人柄の良さがよくわかる。

コロンボのくしゃみが止まって笑顔になるマーシャ2.jpg

マーシャを演じたニタ・タルボットのコメディ演技の見せ場であるだけでなく、コロンボが彼女に勝てずに、小さい子のようにおとなしく水を飲まされたり、ティッシュをもらおうとするほほえましいシーンは、ストーリーの重い展開を効果的に和らげている。

この後、ベトナム帰還兵でトラウマから一度麻薬中毒になった過去があるハリーがメイフィールドに襲撃され、ハイデマン博士の死も迫ってくる。コロンボはこの事態にメイフィールドに強い怒りを見せて宣戦布告する。

コロンボの激昂 - コピー.jpg

被害者が「殺人を阻止しようとした女性」、「ベトナム帰還兵」、「犯人を信頼している人格温厚な患者」であり、犯人のメイフィールドはなんら良心の呵責を感じていないという状況を、そのまま見続けていると、いくらニモイの洗練された演技に魅力があるといっても、観る側の感情まで麻痺して無機質になってしまう。
そして、視聴者の心が、血の通った人間の温度を失ってしまったら、ドラマの繊細な奥行に気づけなくなる(そうなるとスリルとショッキングな展開にしか目が行かなくなるかもしれない)

しかし、この後のドラマ最高の見せ場である、コロンボとメイフィールドの手術中の静かな対決は、メイフィールドは手術室、コロンボは見学エリアに居る状況で、窓に隔てられ、セリフの応酬がまったく無いので、その迫力を目に焼き付けるには、視聴者側も、感情を研ぎ澄ませた状態で臨む必要があるのだ。

コロンボに見張られながら手術 - コピー.jpg
(ハイデマン博士の手術をするメイフィールドを見張るコロンボ。本来は血を見るのが苦手なコロンボが、メイフィールドの犯罪を暴くべく、手術の一挙一動を凝視している。その突き刺さるような視線を知りつつも、メイフィールドは依然として冷静に「死の仕掛け」を解除していく)



こうした緊迫した展開の前に、コロンボとマーシャのコミカルで温かみのあるシーンが視聴者に一息つかせ、その後のコロンボの激昂の凄みや最後の対決の迫力も際立たせる役割を果たしている。

コロンボもマーシャもそれぞれカワイイし、それだけでなく、視聴者に人間味のある感情を維持させたまま、ドラマに惹き付ける役割を果たした、陰の名場面と言えるだろう。

※2025年8月現在、動画配信サイトhuluで、新旧「刑事コロンボ」シリーズが視聴可能

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【当ブログ関連記事】
コロンボの推理を笑うメイフィールド - コピー.jpg

二つの顔 料理ショー - コピー.jpg
コロンボが捜査中、容疑者の一人で料理研究家のデクスターと料理番組に出演するコミカルなシーンもご紹介、今回のくしゃみ止めのように巧みにドラマに緩急をつけている。

c 1972 Universal City Studios LLLP. All Rights Reserved.


【参照動画】※英語音声

(メイフィールドのシャロン殺害シーン)
A Doctor's Ingenious Plan For Murder | Columbo

(メイフィールドの邸宅が映るシーン)
Columbo - "Everyone's A Suspect In My Eyes" | Columbo

(「溶ける糸」12分間のあらすじ動画)※結末部ネタバレ
'A Stitch in Crime' in 12 Minutes | Recap - S02 EP06 | Columbo



posted by pawlu at 10:28| 刑事コロンボ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2025年07月31日

刑事コロンボ「意識の下の映像」行動心理学博士が犯人。トリックの欠陥がドラマの魅力を際立たせる異色の名作

(コロンボと犯人ケプル博士。ケプルがスーパーマーケットで顧客を観察している現場に訪ねていく場面)
スーパーで話すコロンボとケプル博士 - コピー.jpg
c 1973 Universal City Studios LLLP. All Rights Reserved.

刑事コロンボ「意識の下の映像」(第21話 1973年12月、原題:Double Exposure)は、行動心理学研究所を主宰するケプル博士が犯人。クライアントのノリス社長に、自身の脅迫行為を告発されそうになったためにノリスを殺害する。

※2025年7月現在、動画配信サイトhuluでも、新旧「刑事コロンボ」シリーズが配信中
(NHK HP内あらすじ)
自らが主宰する研究所で、意識調査の研究を行っているケプル博士。野心家の彼は研究所拡大のため、クライアントのノリスをキャンペーンガールに誘惑させ、その現場をとった写真をネタにゆすっていた。だが地方検事局に真実を調べさせるというノリスを恐れたケプルは、人間の潜在意識に訴えかけるサブリミナル効果を利用してノリスを殺害。凶器として使用した銃にも一工夫こらし、鑑識の目をくぐり抜ける。
犯人役は、刑事コロンボで3回犯人役を演じたロバート・カルプ。(犯人の名前「バート・ケプル」は彼の名前のパロディ)
意識の下の映像 映像編集シーン ロバートカルプ - コピー - コピー - コピー.jpg
(犯行に使用するフィルムに細工をするケプル博士)

指輪の爪あと」「アリバイのダイヤル」でも、都会的なインテリの名犯人を演じ、「洗練された社会的成功者である犯人と冴えない一般庶民のコロンボの対決」というシリーズの魅力を決定づけた功労者の一人だ。
フィルムについて話すコロンボとケプル博士 - コピー.jpg

(ノリス社長を射殺するケプル)
犯行シーン - コピー.jpg

(撃たれて崩れ落ちる被害者の側を通り過ぎていく。アリバイ作りが時間との戦いだったためとはいえ、恐ろしく冷静な犯行シーン)
死体の側を歩くケプル - コピー.jpg


ケプル博士が用いたトリックの「サブリミナル効果」は、現代では効果が疑問視されているという、推理ドラマとしては致命的な点があるにも関わらず、「仕組まれた性的スキャンダルの罠」や「広告戦略と心理学研究の発達により、観察され操作される人々」など、50年後の現在にも完全に一致する社会問題を描いてて見ごたえがある。

(性的スキャンダルのネガで脅迫してきたケプルに激怒する被害者ノリス)
ノリス社長のネガ - コピー.jpg
(キャンペーンガールの女性とのスキャンダルを仕掛け、クライアントたちの弱みを握って財を成したとケプルをなじる)
ハニートラップで財をなしたとなじるノリス - コピー.jpg



(顧客リサーチの一環としてスーパーマーケットの監視カメラで撮影されているコロンボ)
監視カメラに映るコロンボ - コピー.jpg

(監視カメラの角度を調整するケプル)
監視カメラの位置を調整するケプル博士 - コピー.jpg
(知らないうちに撮影されていたことに驚くコロンボ)
怖い世の中 - コピー.jpg

(コロンボが読み込んでいるケプルの著書のひとつ『心の糸とその引き方(The Mindstring and How to Pull it)』というタイトルには、今でも不穏なものを感じずにはいられない)

ロバート・カルプの演じる名犯人に共通する「理知的な成功者が張り巡らした企みが破綻したときの哀れ」が結末に光り、心理学研究が進んで明らかになった「トリックの脆弱さ」が逆に「コロンボシリーズの魅力は鉄壁のトリックではなく、俳優の演技力と、普遍的な社会や人間の描写」ということを証明した。

欠陥がありながら迫力を失わず「50年生き残る名作ドラマに必要なものは何か」を問いかけてくる異色の名作だ。

席を立つケプル - コピー.jpg

c 1973 Universal City Studios LLLP. All Rights Reserved.

【当ブログ関連記事】
指輪の爪あと ロバートカルプ - コピー - コピー - コピー - コピー.jpg
c 1971 Universal City Studios LLLP. All Rights Reserved.



【「意識の下の映像」の一部が観られる動画】※英語音声

(「サブリミナル効果」」を含む映像を研究所で見せてもらうコロンボ)
Are You Feeling Hungry Now? | Columbo

(第二の犯行が起こり、ケプル博士と現場に向かうコロンボ、この時点でケプルはコロンボに疑われていることに気づいていて、互いの会話に含みがある)
“Can’t Win Them All” | Columbo


【参照】
【心理学】サブリミナル効果とは? 事例でわかりやすく解説 (マイナビウーマン)桑野量(心理カウンセラー) 更新: 2021.12.16





posted by pawlu at 17:12| 刑事コロンボ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2023年01月06日

新刑事コロンボ「復讐を抱いて眠れ」(悪徳葬儀屋を名優パトリック・マクグーハンが演じたブラックユーモアが光る作品)

(コロンボと葬儀会社社長で犯人のエリック〈パトリック・マクグーハン〉)
二人でお茶を コロンボとエリック - コピー - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube)(C) 1998 Universal City Studios, Inc. All Rights Reserved.

 新刑事コロンボ「復讐を抱いて眠れ」(1998年)は、葬儀会社の社長が、自分のスキャンダルを暴露しようとした元愛人の芸能ゴシップレポーターを殺害するストーリー。

 犯人役は、コロンボシリーズに4回登場したパトリック・マクグーハン。今回は、ピーター・フォークとともに、製作総指揮と演出も手掛けている。

 旧シリーズ「祝砲の挽歌」(1974年)では、陸軍幼年学校の校長ラムフォードを演じ、冷徹と孤独の入り混じる名犯人像で強烈な印象を残した名優だ。
コロンボとラムフォード - コピー.jpg
(Image Credid:Youtube (C) 1974 Universal City Studios LLLP. All Rights Reserved.)


 今回は、良心のかけらもない役だが、際立った長身と洗練されたしぐさが醸す風格が、悪どい所業とのギャップを生み出している。

 俗っぽい犯人や生々しい展開の多い「新」シリーズの中で、むしろ「俗」を極めてブラックユーモアに仕立てたことで、成功した作品でもある。

NHKBS 放送情報 2023年1月7日(土)午後4:30  〜6:00

※2023年1月現在、動画配信サイトhuluでも、新旧「刑事コロンボ」シリーズが配信中


 『刑事コロンボ 完全捜査ブック』でも、「ミステリとしての脚本の上手さや、個々の演出の見事さ以前に特筆しておかねばならないのは、本作で、本当にようやく、「刑事コロンボ」らしい品格がシリーズに戻ってきたことだろう(p.188)」と高く評価されているこのドラマ。

 ただし、その「品格」はキャラクターたちのものではない。

 むしろ、犯人エリックはもちろん、それ以外の主要キャラクターも「どうかと思う」ところがある。

 遺体を探ることで、故人が文字通り「墓場まで持っていこうとした」秘密を暴き、それをマスコミに売り渡していた葬儀業者。

 自分を捨てた男を破滅させるためには手段を選ばず、復讐のあとで暴露祝いパーティーまで開くつもりだったゴシップレポーター。

 夫の葬式後、一晩も喪に服せず、葬儀業者にしなだれかかる未亡人(いつも酔っている)。
(こういう未亡人たちを「お慰め」したことも、エリックの「成功の秘訣」だった)

  マクグーハンとともに、ベテランの名女優二人が、こういう「どうかと思う」主要キャラクターを演じている。

 (犯人エリックと、エリックに「よろめく未亡人」ヒューストン夫人(サリー・ケラーマン)(左)被害者のゴシップレポーター、ヴェリティ〈ルー・マクラナハン〉(右)。「ついていけない」感じの人々に囲まれ、「やれやれ」とお手上げ状態のコロンボ)
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(Image Credit:trakt.tv) 

 ほかにも、不仲だった夫の葬式代をケチって、裕福なのに段ボールの棺を使おうとする妻や、スムーズに式を進めるために、ストップウォッチでタイムを計られながら弔辞を組み立てる牧師など、葬儀の「実際にある話なのだろうけれど、知りたくなかった」一面も、容赦なく登場する。

 被害者すら「因果応報」感が漂い、「俗物」の人口密度が高いドラマだが、それでもこの作品は確かに品格がある。

 こういう人間模様を、殺伐としたリアルではなく、軽妙な「ブラックユーモア」、観る人が苦笑いするべきものとして描いているからだ。


 この作品が、あくまで「ブラックユーモア」であることを示している、短いが重要な場面がある。

 往年の名ダンサーの葬儀で、銀髪の紳士が、棺の前でタップダンスを踊るシーン。

Sending Them Away In Style | Columbo

 踵に羽の生えているような軽やかなタップはもちろん、人々に壇上へと送り出される背中、チャーミングな微笑、シルクハットのつばを整える指先の動きまで、暖かなエレガンス漂うこの人物は、アメリカタップダンス界のレジェンド、アーサー・ダンカン氏。
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(Image Credit:IDMB) 

「素晴らしい、実に素晴らしい……」

 彼のダンスにコロンボが見惚れるこのシーンにだけ、敬愛する人を見送る「葬い」の本当の思いやりがあり、彼だけが、ほかの主要人物には著しく欠けている優しい気品を持っている。

タップダンスとエリックとコロンボリサイズ - コピー.jpg
(Image Credit:IDMB

 エリックとコロンボが話しているその真ん中で、ステンドグラスを背景に、踊りながら光に浮かび上がる姿は、二人の対決の天秤がどちらに傾くかを見守っている、運命の天使のようだ。
(コロンボの良作には、こうした一枚絵のようにぴたりと「決まっている」シーンがある。)


 この美しいダンスがキラリと閃くことで、ドラマの中の俗物模様は、人間の「スタンダード」ではなく、「コメディ」だとはっきりわかるのだ。

(タップの音色そのものまで、軽やかで心地よく、どこか、天使のくすくす笑いのようにも聞こえる)


 エンディングテーマは、彼が踊った「二人でお茶を」。

 コロンボとエリック(そして、常に「名犯人」であったマクグーハンが演じたキャラクターたち)の、ある意味で「息の合った」関係を暗示させながら、「葬式泥棒」を繰り返した男自身の「葬式」というエンディングを、悪残りさせずに軽やかに幕引きしている。

 「こんな立派な葬儀で送られたら気分いいでしょうねえ」

 天使のようなダンスを見つめるエリックに、去り際のコロンボがそっと言い残した言葉を、観る人に思い出させながら。

 時代が変わり、視聴者の嗜好が変わり、悪人すら、凄みや憐れがあった、かつての名犯人を登場させることができなかった(と判断してしまっていた)コロンボシリーズに、違う形ででも品格を呼び戻すため、実力者たちが「笑い」を演じ、美しいダンスが、犯人エリックには持たせられない「気品」をドラマの中に含ませた。

 アメリカを代表するドラマシリーズだった「コロンボ」の意地を感じさせる、新シリーズトップクラスの名作だ。




(画像引用動画)

Tea for Two | Columbo


(参照)


・Ashes to Ashes(IMDb)

https://www.imdb.com/title/tt0144141/

・Columbo: Ashes to Ashes 1999

posted by pawlu at 13:04| 刑事コロンボ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年09月10日

刑事コロンボ「だまされたコロンボ」成人男性誌オーナーが犯人の「新シリーズベスト」作品

(コロンボと成人男性誌オーナーで犯人のブラントリー〈イアン・ブキャナン〉)
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(Image Credit:Youtube)(C) 1989 Universal City Studios, Inc. All Rights Reserved.

(ブラントリーとモデル美女たちのリムジンでの「買いまくり」に同行するコロンボ)
買いまくりに同行するコロンボ - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube) 

「だまされたコロンボ」(1990公開)は、男性誌オーナーのブラントリーが、共同経営者のダイアンを殺害した容疑をかけられるストーリー。

 最初に犯行が明らかにされる「倒叙」形式が多いコロンボのなかでは異色で、視聴者にも、被害者とされる人物の行方と生死がわからない展開になっている。

 『刑事コロンボ完全捜査ブック』では「手がかりの美しさ」「鮮やかな幕切れ」を併せ持つ、「新シリーズのベストを争う一作」と評価されている。(p.156〜157)

 NHKBS 放送情報 9月10日(土)午後4:25 〜6:00

※2022年9月現在、動画配信サイトhuluでも、新旧「刑事コロンボ」シリーズが配信中


(あらすじ)

 人気男性誌「バチュラーズワールド」のオーナー、ブラントリーは、邸宅に美人モデルたちを集め、派手な生活を楽しんでいた。

 彼の共同経営者で恋人でもあったダイアンは、彼との関係を断つために、イギリスのメディア王に自身の持ち株を売却しようとする。


(ダイアン)

ダイアン - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube) 

 そうなれば『バチュラーズワールド』の実権を失うことになるブラントリーは、ダイアンと激しく口論、ダイアンはロンドンへ出発したが、空港での目撃情報を最後に行方不明となる。

 イギリス側の依頼をうけて捜査に乗り出したコロンボは、ブラントリーがダイアンを殺害し、遺体を隠したと推理する。


(見どころ1)犯人ブラントリーのモデル

 ブラントリーの仕事と生活は、おそらく雑誌『プレイボーイ』の発刊者、ヒュー・ヘフナー(1926〜2017)がモデル。

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画像出典:ウィキペディア

 雑誌名『バチュラーズワールド(直訳:独身男の世界)』も『プレイボーイ』のパロディになっているし、ブラントリーの豪邸「シャトー」のように、ヘフナーも「プレイボーイマンション」で美女たちと生活したことで知られている。

(「プレイボーイマンション」のプール)

プレイボーイマンションプール - コピー.jpg

(Image Credit:Youtube) 

 また、「シャトー」のラマやトナカイなどたくさんの動物と同様、ヘフナーも邸内に150頭以上の動物を飼育し、動物園資格を所有するほどだった。(※Youtube動画より)

 ブラントリーがテレビのインタビューで、同席した雑誌のモデル、ティーナと婚約予定であると話すシーンは、ドラマ公開の前年にあたる1989年、ヘフナーが彼のフィアンセ(「プレイボーイ」のトップモデル)と同席したインタビュー映像に似ている。


(コロンボの聞き込みに答えるブラントリーとフィアンセのティーナ)

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ブラントリーに聞き込みをするコロンボ - コピー.jpg

(1989年、インタビューに答えるヒュー・ヘフナーとフィアンセで後の妻のキンバリー・コンラッド)

インタビューに答えるヘフナーと婚約者 - コピー.jpg

(Image Credit:Youtube

 つまりドラマ制作当時、世間の注目を集めていた人物を、詳細な部分までモデルにして犯人像を作り上げている、かなりきわどい作品なのだ。


(見どころ2)マスコミの寵児ブラントリーの戦略

 ブラントリーが、美女たちを引き連れ、高級ショッピングモールで繰り広げるイベント「買いまくり(Shop speer)」。

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(Image Credit:Youtube)

 時間内に、好きなものを好きなだけ買っていいと言われた美女たちが店に飛び込む姿を、マスコミが追いかけている。

買いまくりを取材させるブラントリー - コピー.jpg

(Image Credit:Youtube)

 人々の嫉妬と羨望をかきたてる生活を披露して、世間の興味を惹きつけるブラントリー。

(これもおそらくヘフナーをモデルにしているのだろう)

 金と美女を手に入れた成功者としての自分自身をブランドに、より大きなビジネス展開を企てる彼の生き様は、現代の、ネットとマスコミを巧みに操り、成功をつかむ人々の戦略に通じるものがある。

マスコミを利用するブラントリー - コピー.jpg

(Image Credit:Youtube)

 彼を追うために、列車のように長いリムジンに無理やり乗り込み、「買いまくり」に向かう美女たちに囲まれるコロンボ。

豪華リムジン - コピー.jpg

(Image Credit:Youtube)


 一見役得だが、よれよれのレインコートで、美女たちとマスコミにもまれながら、フラッシュを浴びるコロンボは、シリーズ内で一番状況に翻弄されているようにも見える。

 1980年代末、アメリカが経済的繁栄を迎え、より鮮烈で刺激的であることが求められた時代(日本もバブル経済の頃)。

 コロンボが「だまされた」事件の犯人は、そのキャラクターと、あの時代の潮流そのもののような狂騒でも、コロンボをかく乱している。



(見どころ3)ブラントリーのキャラクターと、イアン・ブキャナンの演技力(結末部ネタバレご注意)

ブラントリーの笑顔 - コピー.jpg
コロンボの推理を聞くブラントリー - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube)

 設定上、「目線がチラチラして」(※)しまうシーンが多いが、がんばって集中して観てみると、実はブラントリーのシンボルのような、ハンサムだが「とってつけたような愛想笑い」の狭間に、ビジネスパーソンとしての抜け目のなさや、人を人とも思わない尊大な冷酷さが、ナイフの光のように閃いている。

(※「自縛の紐」で、水着の美女相手にしどろもどろになったときのコロンボの台詞)

 吹き替えの中尾隆聖さん(バイキンマン、ドラゴンボールZのフリーザ役でも知られる)の声も、人々を平然と操る成功者の余裕を見事に漂わせているし、ブキャナン本人の「いかにもあの時代のハンサムなプレイボーイ」の声も面白い。

 ブラントリーは、悪人であれ、同情の余地があれ、重厚な風格があった旧シリーズの典型的な名犯人たちとは正反対のキャラクターだ。

しかし、彼は享楽的な生活をしながら、それに溺れず、緻密な計算をして、成人男性誌を文化と巨大ビジネスにまで高めた。

(最初にコロンボが捜査に来た時、パーティーの大音量へのクレームを伝えに来たのかと思ったブラントリーは、「(あの派手なパーティーは)『ビジネス』だからやめる気はない」と、宣言している。)

快楽主義もここまで極めれば、軽薄を通り越して迫力がある。

 重厚ではないが、「大物」ではあり、コロンボの対決相手にふさわしい。


(以下、結末部ネタバレ)



 成功と快楽への飽くなき情熱、それを実現するための冷静な知能。

それが表に見える範囲の彼。

しかし、ブラントリーには、深層にもう一つの姿が秘められていた。


 ブラントリーの衝撃的な犯行シーン。

 雑誌と華麗な生活を奪われそうになった瞬間に現れた、秘められていた彼の姿、どの犯人たちよりもストレートな凶暴さが、あの犯行に現れている。


 そんな危険な迷路のような内面を持つブラントリーが、コロンボの最後の推理を聴くシーンは見事だった。

彼に惑わされ続けてきたコロンボが、「美しい手がかり」によって、ついに彼を捕らえたとき、彼はもう笑わない。そしてマスコミを操った巧みな言葉ももう発しない。

いかにもあの時代らしい、キャッチ―でゴージャスなイメージのBGMを身にまとい、時代を踊らせていた男が、制止する。

暗く沈んでいくような音楽に覆われ、ただ、自分の罪を瞳に映して沈黙する。

ブラントリーの沈黙 - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube)

 ブラントリーは、その華麗さが「はぎとられた」沈黙の瞬間、新シリーズで最も印象的な名犯人となった。


ブラントリーの沈黙(英語音声)(※ドラマ結末部ネタバレ注意)
Solving A Crime That Never Happened | Columbo



(見どころ4)「だまされたコロンボ」独自の「対決」

新聞を楽しむブラントリーとティーナ - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube)

 旧「刑事コロンボ」シリーズ(1968〜1978)では、犯人とコロンボの、真意を秘めた台詞の応酬が、「対決」の醍醐味となっていた。

 「だまされたコロンボ」では、犯行の全貌が明かされていないし、美女たちの肢体と嬌声、マスコミの騒々しさにかき消され、犯人とコロンボの、一対一の静かな対決は見られない。


 だが、ブラントリーとコロンボが、別の形で「対決」している瞬間がある。

 婚約者の美人モデル、ティーナとともに、新聞や雑誌を広げ、ダイアン失踪を伝えるテレビを観ながら、自分たちが世間の注目を集めていることを喜んでいるブラントリー。

 そこにコロンボが訪れ、二人が共謀してダイアンを殺害したのではないかと問いかける。

「ナンセンスだ。ぼくたちに容疑がかかったのは、ぼくたちみたいな不道徳な人種は、殺人も含めてあらゆる罪を犯しかねないという偏見のせいだ」

ブラントリーとティーナ - コピー.jpg

(Image Credit:Youtube)

ブラントリーはティーナを腕に抱いたまま、コロンボに事件を掲載した新聞や雑誌を投げつける。

「(シャトーを捜索してダイアンの遺体を見つけたいなら)やれよ、マスコミは大喜びさ。この雑誌も大喜びだ。さあ、やってくれ!ハッピーにしてくれ!」

されるがまま、笑みのむこうで、つくづく呆れているような、苛立ちを押し殺しているようなコロンボ。

新聞を投げつけられるコロンボ - コピー.jpg

(Image Credit:Youtube)


 ブラントリーは、コロンボの存在に、旧世代の「中産階級の一般人」が持つ道徳の、硬直した偽善を見ている。

そして、それを嘲笑し、殺人容疑にすらひるまずに、強烈に挑発する。

自分たちの力の象徴である、マスコミの産物たちを投げつけて。

新聞を投げるブラントリー - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube)

 (コロンボとブラントリーの対決シーン)

An Identical Blonde | Columbo

 この事件では、ブラントリー個人だけでなく、彼を取り巻く美女たちや、事件を追い回すマスコミ(さらにはそれを気にする上司たち)もコロンボを翻弄する。


 このとき、コロンボがかつてないほど苦戦しながら「対決」し、ブラントリーの沈黙という形で、かろうじて勝利したのは、繁栄と欲望の華麗な狂乱が支配した、「あの時代」そのものだったのかもしれない。

リムジン内のブラントリーとコロンボ - コピー.jpg

(Image Credit:Youtube)

新聞投げつけられるコロンボ2 - コピー.jpg

新聞を投げつけらられるコロンボ3 - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube)



(C) 1989 Universal City Studios, Inc. All Rights Reserved.


※2022年9月現在、動画配信サイトhuluで、新旧「刑事コロンボ」シリーズが配信中





(参考文献)

この作品の推理ドラマとして秀逸な点が詳細に解説されている。

シリーズの全作品について、制作事情から、日本の吹き替え声優陣の情報まで網羅され、挿絵も素晴らしい、コロンボファン必携の名著。



【画像引用動画(英語音声)】

The Switch | Columbo


As You Can See, I Have Better Things To Do | Columbo


(ヒュー・ヘフナーの「プレイボーイマンション」を紹介したニュース動画。※性的な映像を含む)
Inside the Legendary Playboy Mansion: 12 Bedrooms, 21 Bathrooms and All the History


The Double | Columbo

Columbo Goes on a Shopping Spree | Columbo


An Identical Blonde | Columbo

(※結末部)
Solving A Crime That Never Happened | Columbo
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2022年09月02日

刑事コロンボ「殺意のキャンバス」コロンボの肖像画(ハリウッドの舞台美術家ヤロスラフ・ゲブル氏について)

(コロンボと、犯人の画家バーシーニ〈パトリック・ボーショー〉)

画像 コロンボとバーシーニ - コピー.jpg

(Image Credit:Youtube)(C) 1988 Universal City Studios, Inc. All Rights Reserved.


 「殺意のキャンバス」(1988年)は、前妻、現在の妻、若いモデルの三人と複雑な愛情生活を送る画家バーシーニが、彼のもとを去ろうとした前妻を、溺死に見せかけて殺害するストーリー。


 コロンボシリーズの名脇役ヴィト・スコッティとコロンボの愛犬ドッグが登場するほか、バーシーニの描く絵画の数々が見どころだ。

画像 コロンボとヴィト - コピー.jpg

(Image Credit:Youtube)

殺意のキャンバス コロンボとドッグ - コピー.jpg

(Image Credit:Youtube)

画像 コロンボを描くバーシーニ - コピー.jpg

(Image Credit:Youtube)


(NHK HP内あらすじ)

何度見ても新しい!ミステリードラマの金字塔。豪邸で3人の女性に囲まれて暮らす天才画家バーシーニの声は、数々の作品の吹き替えなどで活躍した森山周一郎。 海辺の豪邸で3人の女性に囲まれて暮らす画家のバーシーニは、となりに住む前妻のルイーズから、再婚することを告げられる。彼女だけが知るバーシーニの重大な秘密がもれることを恐れた彼は、浜辺にいたルイーズを失神させ、溺死に見せかけた。だが遺体のある状況から、コロンボはバーシーニに接触する。ルイーズが悩まされていた悪夢の断片に隠されていた天才画家の秘密とは?

NHK放送予定:BSプレミアム 9月3日(土)午後4:28 〜


(以下、結末部ネタバレ注意)




コロンボの肖像画について



 いきなり結末部を明かしてしまって申し訳ないが、この作品について、ぜひご紹介したい方がいる。

 一度ドラマをご覧になった方は、バーシーニの描くコロンボの肖像画の出来栄えに驚かれただろう。

コロンボの肖像画と本人 - コピー.jpg

(Image Credit:Youtube)


 この肖像画を実際に描いたのは、長年、舞台美術家としてハリウッドで活躍したヤロスラフ・ゲブル(Jaroslav Gebr)(1926〜2013)という人物だ。

ヤロスラフ・ゲブラ氏写真 - コピー.jpg

(Image Credit:Hollywood (gebrart.com)


 1926年チェコで生まれたヤロスラフ氏は、1949年、クーデター勃発後に祖国から亡命し、1950年代にアメリカに移住した。

 その後、ハリウッドで、「サウンドオブミュージック」、「マイフェアレディ」、「スティング」などから「24」まで、数々のドラマ、映画の舞台美術を手掛け、オーソン・ウェルズ、キム・ノヴァク、ジュリー・アンドリュースら、名優たちの肖像画も描いた。

 ハリウッドスターの中にはヤロスラフ氏に、自身の所有する高額な絵画コレクションの複製を依頼し、真作は安全な場所に保管しながら、壁には彼の複製画をかけて楽しんだ人々もいた(そして誰も彼の複製と真作の違いがわからなかった)という。(※ヤロスラフ氏訃報記事より)

 様々な時代、作風の絵を自在に描き分ける彼の才能は、犯罪者に目をつけられたら、そそのかされたり監禁されたりして、凄腕の贋作師にされてしまいそうだが、彼は舞台美術家という自分の才能を最大限に活かせる仕事で、50年間アメリカの映像作品を支えた。

 大きな眼鏡の似合う知的な風貌も、そのミステリアスな才能も、どこかコロンボの名犯人を思わせてファンの心をくすぐる(この方のドキュメンタリーがあったらぜひ観てみたい)。


 「殺意のキャンバス」も、彼の絵の力がなければ成立しない作品だ。

 前妻ルイーズを捨てて再婚しながら、彼女に執着して隣の家に越し、若いモデルとも同棲しているバーシーニ。

 挙句、ルイーズが彼の秘密を彼女の再婚相手(心理学者)に暴露するかもしれないと思い、殺害。

 その後、現在の妻と若いモデルとの間に勃発した修羅場に悩まされ、自分が殺したルイーズの、穏やかな聡明さを、天を仰いで懐かしんでいる。

 コロンボシリーズの犯人中、最も自業自得感の強いバーシーニは、控えめに言ってもクズ野郎だ。

 しかし、そんな彼が、画家としては、やはり見事な才能の持ち主だったいうのが、このドラマのポイント。

 そして、それぞれ知性もプライドもある魅力的な三人の女性が、「三人の中の一人」に甘んじてでも、バーシーニとの関係を断ち切れなかった理由も、絵の力がなければ表現しきれない。

 人間としてはクズでも、画家としては天才で、彼女たちは、その才能に魅了されてしまった。

 女性たちが彼の名声や金にしがみついているだけなら、ただの味気ない愛憎劇だが、バーシーニの、ヤロスラフ氏の絵が、彼女たちの人物像にも深みを与えているのだ。

 ドラマのエンドクレジットは、コロンボの素晴らしい肖像画を背景に流れ、最後に、「Painted by Jaroslav Gebr」とヤロスラフ氏の名前が出て締めくくられる。

(NHK版だとカットされているかもしれないが、hulu配信では観ることができる)


 実は、ヤロスラフ氏の絵は、すでにコロンボシリーズに何度も登場している。

 (「二枚のドガの絵」に登場する現代画家の絵と、「忘れられたスター」の犯人グレースの肖像画〈おそらくほかにも使われている〉)


(「二枚のドガの絵」内の作品)

二枚のドガの絵の中の作品 - コピー.jpg

(Image Credit:Youtube)

(「殺意のキャンバス」内の作品〈コロンボがすごくじっと観てる〉)

ヌード絵画とコロンボ - コピー.jpg

(Image Credit:Youtube)


 「殺意のキャンバス」、とくにそのエンドクレジットは、長年、コロンボシリーズとハリウッドに貢献してきたヤロスラフ氏の実力を、映像で「展示」している。

 それは、自身も絵を愛するピーター・フォークと、コロンボシリーズ制作陣の、ヤロスラフ氏への感謝のしるしなのかもしれない。


 ピーター・フォーク自身も画家として活動し、本人役で登場した名作映画「ベルリン天使の詩」(1987年)(註)には、彼がスケッチをしているシーンがある。

絵を描くピーターフォーク - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube)

ベルリン天使の詩でスケッチをするピーターフォーク - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube)

 ヤロスラフ氏のコロンボ肖像画のオリジナルは、現在「ピーター・フォーク財団」が所有している。

 (ヤロスラフ氏のHPより)





(あともう一つだけ)「四次元への招待(Night Gallery)」 


(「四次元への招待」「復讐の絵画」の主人公ジェレミー(ロディ・マクドウォール)とヤロスラフ氏作の絵画)

NightGallery_201910_12 - コピー.jpg

(画像出典:映画ナタリー記事)


 ヤロスラフ氏の絵画が重要な役割を果たした傑作として、ホラーオムニバス「四次元への招待(原題:Night Gallery)」がある。

四次元への招待 -日本語吹替音声収録コレクターズ・エディション- [DVD] - ロディ・マクドウォール, ジョーン・クロフォード, ラリー・ハグマン, ジョセフ・ワイズマン, ダイアン・キートン, バージェス・メレディス, ヘンリー・シルヴァ, ウィリアム・ウィンダム, ダイアン・ベイカー, ロッド・サーリング
四次元への招待 -日本語吹替音声収録コレクターズ・エディション- [DVD] 


 一枚の絵画にまつわる不気味な物語を描いた作品で、映画「猿の惑星」の脚本家として知られるロッド・サーリング脚本、彼が物語の案内人も務めている。(世にも奇妙な物語のタモリさんのような役割)

 ヤロスラフ氏はこのシリーズのパイロット版(シリーズ化される前の作品)三作(1969年制作)の絵画を手掛けていて、彼の絵により、作品の重厚な不吉さに、凄みが増している。

(「四次元への招待」パイロット版トレイラー)

Night Gallery (1969) Pilot Trailer

 パイロット版三作のうちの二作に、コロンボの犯人役の俳優が主演(「死の方程式」のロディ・マクドウォールと、「権力の墓穴」のリチャード・カイリー)、のこりの一作はスティーブン・スピルバーグが監督しているので(コロンボの「構想の死角」担当)、コロンボファンに特におすすめだ。


 個人的な思い出だが、子供のころにこのパイロット版第一話「復讐の絵画」を観て、夜うなされた。

(ヤロスラフ氏の絵が怖かったから)

 うなされたのに、もう一度観たいと、ずっと探していた。

 恐怖作品の中には、大人になったら「トラウマ」から「引力」、そして「圧倒」に変わる作品がある。

それは、恐怖を通じて、人間の愚かさや、怒り、悲しみといった、真実を突いた名作なのだ。



※2022年8月現在、動画配信サイトhuluで、新旧「刑事コロンボ」シリーズが配信中

(C) 1988 Universal City Studios, Inc. All Rights Reserved.

 





【画像引用動画(英語音声※ドラマの重要シーンや他の回の内容を含む)】

Nightmares | Columbo
All the Characters Played by Vito Scotti | Columbo


Celebrate National Love Your Pet Day!


Peter Falk On Columbo's Success | Columbo



Columbo's Portrait Act I | Columbo


Columbo's Portrait Act II | Columbo


Columbo's Portrait Act III | Columbo

The Artist and the Detective | Columbo

(※結末部)
A Portrait of a Lieutenant | Columbo

「ベルリン天使の詩」(1987年)ヴィム・ヴェンダース監督

 まだ東西に壁で分断されていた時代のドイツ、ベルリンを舞台の抒情的な映画。
 ひっそりと人々の心の声を聴き、彼らの魂を温めようとする天使たちのうちの一人、ダミエル(ブルーノ・ガンツ)が美しい空中ブランコ乗りの女性に恋をする。
 ピーター・フォークはベルリンに撮影に来た本人として登場する。


 Wings of Desire (1987) Original Trailer [FHD]



(参照書籍・ディスク)




(参照URL)
ヤロスラフ・ゲブル氏のIMDb紹介ページ

ヤロスラフ氏の訃報ページ

ヤロスラフ・ゲブル氏HPトップ

上記HP内、コロンボの肖像画、ほか氏の作品が観られるページ


海外の「刑事コロンボ」解説サイト

同サイト「殺意のキャンバス」の解説ページ


ラベル:美術
posted by pawlu at 22:22| 刑事コロンボ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

刑事コロンボ「殺意のキャンバス」森山周一郎さんの名吹き替え

(「殺意のキャンバス」の犯人バーシーニ〈パトリック・ボーショー〉)
バーシーニ役パトリックボーショー - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube)(C) 1988 Universal City Studios, Inc. All Rights Reserved.

(バーシーニの吹き替えを担当した森山周一郎さん)
森山周一郎さん - コピー.jpg
画像出典:ウィキペディア

「殺意のキャンバス」(1988年)は、天才画家画家バーシーニが、彼の前妻を、溺死に見せかけて殺害するストーリー。

 三人の女を同時に愛し、利用する男バーシーニの吹き替えは「刑事コジャック」のコジャック、「紅の豚」のポルコ・ロッソなど数々の役を演じた森山周一郎さん。




(映画「紅の豚」トレイラー、ポルコ(森山さん)の「飛ばねえ豚はただの豚だ」という台詞が有名)
Porco Rosso - Official Trailer

 実は、森山さん唯一無二の、渋く低い、男らしいしゃがれ声は、バーシーニ役のパトリック・ボーショーとはかなり異なっている。

 ボーショー自身の声と話し方は、エレガントで歌うように軽やか(そして軽薄)だ。

 ハンサムで、その魅力を自覚しながら、言葉巧みに自分を愛する女性を操るキャラクターは、むしろ「美食の報酬」(1978年)の犯人ポール(ルイ・ジュールダン)に近いものがある。

(ポールとコロンボ)
美食の報酬の犯人ポール - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube)

(バーシーニ〈ボーショー〉と、ポール〈ジュールダン〉の演技)
All of Columbo's Real Wife Appearances in Columbo | Columbo

 ちなみに、バーシーニとポール、それぞれに愛情を利用される女性を、同じ女優シェラ・デニス(ピーター・フォークの妻)が演じている。

バーシーニとヴァネッサ - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube)

美食の報酬ポールとイヴ - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube)

(彼女が犯人の不誠実さに愛想をつかしたことがきっかけで、犯人が窮地に陥る展開も似ている)

 他人の愛情も命の重みもわからない、コロンボ流に言えば、「あなたの才能は尊敬しますが、あとはてんでいけませんなぁ……」な性格も同じ。(「美食の報酬」より)


 だが、元の声に似ていないのに、森山さんの声は、吹き替えとして素晴らしい。

 バーシーニは、彼の最初の妻で隣人だったルイーズを殺したあと、彼にとって思いもかけない事態に陥る。

 彼が「決して手放そうとしない人生の一部」で、まだ成功者でなかったころに連れ添ったルイーズ。

 彼女は、現在の妻、ヴァネッサにも、彼の愛人で若いモデルのジュリーにも、穏やかに接し、食事のときには、美味しい手料理をみんなにふるまっていた。

 ルイーズが死に、ヴァネッサとジュリーが、好感を抱き、一目置かざるを得なかった存在がいなくなったことで、均衡が崩れ「二人のうちどちらが」バーシーニのただ一人のパートナーになるかをめぐり、露骨にいがみあう。

 バーシーニがいくら言い聞かせても、彼女たちはつかみかからんばかりの争いをやめない。

 この修羅場に、バーシーニが、森山さんの「男らしさ」の頂点のような声で憤っているのを聴くと、ルイーズが彼らの間を補っていた、もの柔らかな思慮深さ、バーシーニに本人には、才能と引き換えに完全に欠けているものを、失ったことが、よりはっきりと伝わる。

 「ああ…ルイーズ……」

 「男には思いやりを求める権利があるんだ」

 自分で殺しておいて、ルイーズを懐かしむバーシーニは身勝手以外の何物でもないが、森山さんの声が魅力的であればあるほど、「男らしさ」ではどうにもできない、そしてもはや取り返しのつかない状況に直面したバーシーニの、みじめな苦渋がにじみ出るのだ。

 バーシーニの声を森山さんに依頼したのは、当時『刑事コロンボ』日本語版演出を担当した左近充洋(さこんじゅう・ひろし)さんの「ほぼ趣味」だったそうだ。

 左近充さんが、『刑事コジャック』も担当していたつながりで決まったことらしいが、刑事コロンボ吹き替え版と、日本の素晴らしい声優の歴史を示す好例だと思う。

(※『刑事コロンボ完全捜査ブック 』日本語版『刑事コロンボ』演出、壷井正 吉田啓介インタビューp.212より)

 軽薄なエレガントさが、突然エゴイスティックな激情に変わる不気味なボーショー版バーシーニと、男性的魅力に溢れ、才能と「男らしさ」以外のものを、彼を愛する女性たちから平然と搾取する、あるいは搾取するしかない森山版バーシーニ。

 声によってバーシーニのキャラクターが変わるので、聞き比べてみていただきたい。


 『刑事コロンボ完全捜査ブック』と、左近充さんとの名コンビで、翻訳を担当した額田やえ子さんの『アテレコあれこれ』では、今も語り継がれるコロンボの名吹き替えについて知ることができる。



How Did the Poison Get Into the Wine? | Columbo

Columbo's Portrait Act II | Columbo

All of Columbo's Real Wife Appearances in Columbo | Columbo
posted by pawlu at 15:47| 刑事コロンボ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

刑事コロンボ「殺意のキャンバス」ホッパーとワイエスとの関係

(犯人の画家バーシーニの絵を観察するコロンボ)
画像 ヌードとヴィトの店の絵2 - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube)(C) 1988 Universal City Studios, Inc. All Rights Reserved.


 「殺意のキャンバス」(1988年)は、天才画家画家バーシーニが、彼の前妻を、溺死に見せかけて殺害するストーリー。

  NHK放送予定:BSプレミアム 9月3日(土)午後4:28 〜
 前妻の隣の家に住み、現在の妻と若いモデルと同棲するバーシーニのキャラクターは、多くの愛人を持ったピカソがモデルと考えられている。(※)

 だが、作中に登場する彼の(捨てた前妻に依存しながら彼女を殺すという酷い人間性と裏腹の)美しい絵は、おそらくアメリカの国民画家、エドワード・ホッパーとアンドリュー・ワイエスの作品がモデルとなっている。

 (※)「刑事コロンボ 完全捜査ブック」p.154 「episode50 殺意のキャンバス」解説


 バーシーニの「ヴィトのバー」の絵と、エドワード・ホッパー作「ナイトホークス(Nighthawks)」


 バーシーニは前妻ルイーズ殺害のアリバイ作りのために、昔なじみのヴィトのバーに行く。

「二階の部屋(元はバーシーニとルイーズが住んでいた場所)に一日こもって、店の絵を描いてやる」

 今は売れっ子のバーシーニにそう言われたヴィトは大喜びで、店を一日バーシーニの貸し切りにする。


 当日、バーシーニが持ち込んだ純白のキャンバス。

しかし、実はそれは二重になっていて、すでに完成したバーの絵が隠れていた。

 二階の部屋を抜け出し、ルイーズを殺して戻ってきたバーシーニ。

 利用されたと知らないヴィトは、絵を見て狂喜乱舞する。

「素晴らしい!傑作だよバーシーニ!!」


 長いカウンターごしに話し込む客と店の主人、閑散とした空間に際立つ鮮やかな赤、独特の遠近感と、どこか哀愁漂う光と影。

画像 絵を見せるヴィト拡大2 - -.jpg
(Image Credit:Youtube)

 それはエドワード・ホッパーの「ナイトホークス(「夜更かしする人々」の意味)」を思い出させる。


 ホッパーは、都会、または郊外の寂寥感漂う情景を描いた作品で知られ、「ナイトホークス」はアメリカ近代絵画でもっとも有名な作品のひとつだ。



 ホッパーの作品は、誰もいない屋外の風景を描いたときには孤高の静けさがあり、むしろ、「ナイトホークス」のような、人間が描かれている都会の絵ほど寂しさが漂う。

 「ヴィトのバー」の絵は、そんなホッパーのテイストを巧みに取り入れている。

(ヴィトはとてもにぎやかで陽気なので、彼がいるとあまりホッパー風ではないのだが)

 このヴィトのバーの絵は、のちにコロンボの捜査の重要な手掛かりになる。



 バーシーニとアンドリュー・ワイエスのヌードの絵


コロンボとヌード画 拡大 - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube)

 バーシーニが描く、美しいヌード。

 「ヴィトのバー」の風景画とは全く違う、写実的で緻密な描写と、肌を透かして内側からにじむような光、少し沈んだ色使い。

 この作風は、ホッパーと並ぶ、アメリカの国民画家、アンドリュー・ワイエスがモデルになっているのかもしれない。

 アンドリュー・ワイエスは、ヘルガというドイツ系女性をモデルに、優れた裸体画を描いた。

アンドリュー・ワイエス作「溢れる(Overflow))」(1977年)
ワイエスoverflowヘルガ -  -.jpg
画像出典:「アンドリュー・ワイエス展」カタログ(企画 愛知県立美術館/中日新聞社 1995)p.159

 しかし、その作品が、ワイエスの妻にも長年隠されていたため、1985年、マスコミがヘルガの絵の存在をセンセーショナルにとりあげた。

 彼女を描いた絵の多くがヌードであったために、世間はワイエスとヘルガの間に男女関係があったのではないかと疑ったが、二人はそれをともに否定した。
(※『アンドリュー・ワイエス作品集』高橋秀治p.68〜71「ヘルガ――画家とモデルの揺るぎない関係」東京美術)

 ワイエスはヘルガの存在と、自分との関係をこう語っている。

❝ 
彼女は私の完璧なモデルであった。彼女が完璧でありえたのは、一生懸命に良いモデルになろうとしていたからだ。画家とモデルの間には、ある関係が成立していなければならない。それは性的な関係ではなく、一緒のキブ・アンド・テイクの関係だ。モデルが冷たくて、自分がしていることに興味を示さない場合は悲劇だ。あるいは、モデルが自分のやっていることを仕事だと思っている場合も、だめだ。(中略)ヘルガは休みなしにポーズをとってくれた、かえって、私のほうがくたびれてしまうと、「何を言っているの、私はまだ疲れていないんだから、もっと続けましょうよ」と言うのだ。

 (「アンドリュー・ワイエス展」カタログ 1995 p.156「83 ローデン・コート」ワイエスによる自作解説)

 「殺意のキャンバス」は、このマスコミの騒ぎから約3年後の作品なので、ワイエスの絵とヘルガのエピソードを知っている人なら、バーシーニの描くヌードと、それらを重ね合わせたかもしれない。

 ただし、バーシーニのモデルのジュリーは、若く美しいが、良くも悪くも正直で、冒頭からポーズをとりつつも「おなかがすいた」「体が痛い」と文句タラタラだし、バーシーニと露骨に愛人関係にあって、現在の妻ヴァネッサは自分の立場をあやうくすると思って彼女をとても嫌っている。

 ドラマは、ワイエスのゴシップを最大限俗っぽく解釈し、ジュリーをヘルガとは真逆のキャラクターにし、ワイエスの絵の空気は取り入れたのかもしれない。

(これでジュリーの絵が美しくないと殺伐としたドラマになってしまうが、舞台美術家ヤロスラフ・ゲブル(Jaroslav Gebr)氏の画力が作品を支えている

 ところで、ワイエスはバーシーニとは(全然)違って静かな人物で「少年時代からその生活を変えることなく、アメリカの地方で暮らす人々とその周りの自然を見つめ、自分の描きたいもの、心動かされたものだけをひたすら描き続け」た。(※同『作品集』p.187「あとがき」

 その、超絶技巧が描き出した、物思いにふけるような、清澄でしんとした静けさの漂う作品は、『ピーナッツ(スヌーピー)』の作者チャールズ・シュルツ氏や、イギリスのコメディグループ「モンティパイソン」のメンバー、マイケル・ペイリンなど、すぐれたアーティストたちにも深く愛されている。


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『完全版 ピーナッツ全集 9』p.299 1968年11月25日発表)

※2022年8月現在、動画配信サイトhuluで、新旧「刑事コロンボ」シリーズが配信中

(C) 1988 Universal City Studios, Inc. All Rights Reserved.



(ナイトホークスの解説動画)


(アンドリュー・ワイエスの解説動画)
アンドリュー・ワイエスがどのように絵を描いたか


【画像引用動画(英語音声)】



Columbo's Portrait Act I | Columbo


(参考文献・資料)





Wikipedia

posted by pawlu at 09:26| 刑事コロンボ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年07月30日

刑事コロンボ「策謀の結末」酒と音楽を愛する陽気な詩人、そして冷酷なテロリストの名犯人

(コロンボと、犯人ジョー・デヴリン〈クライヴ・レヴィル〉)
コロンボとデヴリン - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube)

 「策謀の結末」(1978年5月)はアイルランド出身の詩人で、ひそかにIRA(アイルランド共和国軍)の闘士として活動していたジョー・デヴリンが、武器の密輸資金をだまし取ろうとした銃の仲買人を殺害するストーリー。

 シェイクスピア演劇から、「スター・ウォーズ」の声優まで幅広く活躍している個性派名優クライヴ・レヴィルが、犯人デヴリンを演じた。

 アイリッシュウィスキーをこよなく愛し、バンジョー(アイルランド音楽でよく使われる弦楽器)をかき鳴らして温かな声で歌う陽気さと、少年時代からテロ活動に参加し、顔色一つひとつ変えずに裏切り者を「処刑」する冷酷さの、どちらもが彼自身である、底知れない男デヴリン。

 アイルランドの豊かな文化と、苦難の歴史が透けて見えるこの名犯人は、ドラマのキャラクターとしては魅力的だったコロンボの犯人たちの集大成のような存在だ。



 「刑事コロンボ」では、コロンボと犯人が、「罪を隠す者」と「暴く者」の静かな頭脳戦を繰り広げる一方で、互いに人間としては一目おく、不思議な交流が生まれることがある。


 捜査に協力するふりをするデヴリンは、シリーズ中でも一番距離が近く、隣り合ったベッドに並んで横たわって話合ったり、アイリッシュウィスキーを傾けながら掛け合いをしたりする姿は、もはや旧知の友のように見える。

(いい加減なようで大変な切れ者なデヴリンは、全犯人中一番コロンボに似てもいる)


 かつてコロンボは、姪を事故死に見せかけて殺害した男に復讐した小説家アビゲイル(ルース・ゴードン)の講演会で、(内心すでに彼女を疑いながら)こんなことを話している。(「死者のメッセージ」より)


わたくしは人間が大好きです。

今まで会った殺人犯の何人かさえ、好きになったほどで。

時には、好意を持ち、尊敬さえしました。

やったことにじゃありません。殺しは悪いに決まっています。

しかし犯人の知性の豊かさや、ユーモア、人柄にです。

誰にでもいいところはあるんです。

ほんのちょっとでもね。

これは刑事が言うんだから間違いがありません。


(壇上で話すコロンボと見つめる犯人アビゲイル)※英語音声
Sometimes I Even Like The Murderers | Columbo

 おそらくデヴリンも、コロンボにそう思わせた人物であり、デヴリンもまた、そう思っていたはずだ。

(アビゲイルとデヴリンは、金銭欲や保身以外の理由で犯行に及んだ点が共通している)

 言葉通り、コロンボは誰に対しても「やったこと」は「悪いに決まってる」と、絶対に追及の手を緩めないが、彼らの「人間」を「犯罪」とひとくくりにして切り捨てたりもしない。

 そして犯人も、対決の中でそういうコロンボの人柄に気づいていく。

 思惑を隠した言葉を交わしながら、「敵ながらあっぱれ」という目で好敵手を見つめるコロンボと名犯人。それがこの作品の奥深い魅力だった。


 決着がついても、笑顔のままのコロンボとデヴリンの姿は粋であり、旧「刑事コロンボ」シリーズの結末にふさわしい。(エンドクレジットの陽気なアイルランド音楽と、デヴリンの歌声も余情がある)



(※以下、結末部ネタバレご注意)



 ドラマの結末、コロンボにアイリッシュウィスキーを勧めるデヴリン。

それに応じたコロンボは、ウィスキーボトルに爪で線を引いたあと、デヴリンを見て、こうつぶやく。

印をつけるコロンボ - コピー.jpg

(Image Credit:Youtube)


 「ここまで、ここを過ぎず(This far, and no farther)」

 前にデヴリンとコロンボが酒を酌み交わした時、デヴリンが飲んでも良い量の目盛りとしてウィスキーボトルに印をつけ、酔いすぎないよう自分を戒めて言った台詞。

 コロンボの言葉と爪でつけた線は、そのときの、刑事と犯人とは思えないような親し気なやりとりをふまえている。

 それは、同時に、人としては魅力的だったデヴリンと、自分との心の距離について、彼に好感は抱いていても、境界線はしっかり引くことを、デヴリンと自分自身に示すものだったのではないだろうか。


 コロンボは、デヴリンにただちに手錠をかけて連行したりはしない。

「どう、一緒にやらないかね」

ウィスキーを勧めるデヴリン - コピー.jpg

(Image Credit:Youtube)


彼から、そうボトルを向けられれば、笑顔で受ける。

デヴリンが、負けを認めれば、暴れて逃げたりしないことはわかっている。

一緒に酒を飲める男であることも。

でも、自分を失うほど酔うつもりもない。

刑事として、犯人を見逃すつもりも。


 「ここまで、ここを過ぎず」

ボトルに印をつけて、デヴリンをじっと見る。

ここを出ず - コピー.jpg

(Image Credit:Youtube)

 コロンボの、人懐こく、だが、抜け目ない表情は、(デヴリンの複雑な人物像とともに)ドラマ「刑事コロンボ」の魅力を象徴している。

(さらに、このドラマシリーズは「ここまで」という意味も含んでいる)


 ところで、このコロンボの正面からの映像は、向かい合って座るデヴリンの視点とも重なる。

きっとデヴリンもコロンボの言葉としぐさの意味がわかっているし、それを不快だとも(酔わせて隙を見て逃げるなど)目論見が外れたとも思っていない(自分を負かした男が、そんなに甘くはないことくらいわかっている)。

コロンボの笑顔を見つめるデヴリンもまた、ウィスキーを勧めたときのままの笑みを浮かべているだろう。

コロンボを見つめるデヴリン - コピー.jpg

(Image Credit:Youtube)


 そういう二人の、絶妙の心の距離感を、観る者に想像させてくれる結末だ。


(結末)ウィスキーを勧めるデヴリンと受けるコロンボ※英語音声

"This Far, And No Farther!" | Columbo

(C) 1977 Universal City Studios LLLP. All Rights Reserved.








(画像出典動画)※英語音声、ドラマの重要シーンを含む

Columbo Drinks with the Murderer | Columbo

(※ドラマ結末部)
"This Far, And No Farther!" | Columbo



Sometimes I Even Like The Murderers | Columbo

20227月現在、動画配信サイトhuluで、新旧「刑事コロンボ」シリーズが視聴可能

hulu「刑事コロンボ」トップページ

hulu配信「策謀の結末」字幕版

hulu配信「策謀の結末」吹替版

 NHK BSプレミアム 放送予定

2022730日(土)午後4:23〜午後6:00

https://www.nhk.jp/p/columbo/ts/G9L4P3ZXJP/


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2022年04月01日

刑事コロンボ「祝砲の挽歌」コロンボVS陸軍幼年学校校長ラムフォードの静かな対決シーンに注目

(コロンボと犯人ラムフォード〈パトリック・マクグーハン〉)
コロンボとラムフォード - コピー.jpg
(Image Credid:Youtube (C) 1974 Universal City Studios LLLP. All Rights Reserved.)

 刑事コロンボ「祝砲の挽歌」(1974)は、陸軍幼年学校校長ラムフォード大佐が、学校を一般の共学短大に切り替えようとした理事長を、式典の大砲暴発事故に見せかけて殺害するストーリー。


(NHK HP内あらすじ)

何度見ても新しい!ミステリードラマの金字塔。本作でエミー賞を受賞した犯人役のパトリック・マクグーハンとピーター・フォークとの演技合戦に注目! 陸軍幼年学校の開校記念祝典で大砲が暴発し、理事長のヘインズが爆死した。経営難に陥った学校を男女共学の短大にしようとしていたヘインズ。彼と対立していた校長のラムフォード大佐が、伝統ある学校を守ろうと大砲に細工したのだ。コロンボは、祝砲を撃つはずだったラムフォードを狙った犯行と推理したが、現場に残されたある物から真実を見抜く。


※2022年3月現在、動画配信サイトhuluで、新旧「刑事コロンボ」シリーズが視聴可能


 ラムフォード大佐役のパトリック・マクグーハンは、この演技でエミー賞を受賞。

 広い額と鋭い眼光の知的な風貌と、188pの長身、高い演技力で重厚な存在感を放ち、コロンボシリーズで計4回犯人を演じた、ドラマの重要人物だ。

 (大砲の弾に仕掛けをするラムフォード大佐。数分間、完全な沈黙、BGMも無い中で、彼の慎重な表情としぐさだけが映し出される。マクグーハンの演技力が遺憾なく発揮されている)
砲弾を準備するラムフォードのしぐさ(帽子で彼の立場を示す) - コピー.jpg

砲弾を準備するラムフォードの表情 - コピー.jpg
(Image Credid:Youtube (C) 1974 Universal City Studios LLLP. All Rights Reserved.)

 ラムフォード大佐の、「戦争が終わることはない、今も、多くの人々がこの国の破滅を画策している、だからこの学校を廃止することはできない」という犯行動機は、コロンボの犯人の中でも異色だ。

 この信念のもとに、爆死の惨劇を前にしても、まばたきひとつしない殺害シーンは凄みがある。

祝砲の挽歌 パトリック・マクグーハン - コピー.jpg
(Image Credid:Youtube (C) 1974 Universal City Studios LLLP. All Rights Reserved.)

(コロンボシリーズは残酷な描写を伏せるので、理事長の死は爆音と周囲の人々の悲鳴でほのめかされ、その前も後も、ラムフォードが完全に静止していることで、彼の犯行であることと、彼の冷徹な性格が示されている)


 殺害される理事長は学校の創設者の孫で卒業生だが、在籍時から指導の厳しいラムフォードと不仲だった。いかにも金儲け一辺倒の人物として描かれている。

(ヘインズ理事長 ガムを噛みながら大砲に向かう姿から、学校の式典を軽視していることが伝わる)
大砲に向かう理事長 - コピー.jpg
(Image Credid:Youtube (C) 1974 Universal City Studios LLLP. All Rights Reserved.)


(犯行準備から殺害まで 犯行の瞬間は5:36〜6:00
Best Murders of Season 4 | Columbo

(コロンボの捜査開始)
Explosion in a Military Academy | Columbo


 圧巻は、厳格で周囲に恐れられているラムフォードが、捜査中のコロンボに葉巻を勧めながら話をするシーン。

 「人間が互いに殺し合うことをやめる世の中が来れば」自分の仕事もコロンボの仕事も必要が無い、そうなれば喜んでこの制服を脱ぐ、庭で白いバラを育てたい、と、不器用ながら笑みを見せ、コロンボが言葉を失う瞬間は、このドラマの持ち味である「コロンボと犯人の対決と共感」の中でも、最も印象的だ。

白いバラがいい - コピー.jpg

黙って聴いているコロンボ - コピー.jpg

黙って聴いているコロンボ2 - コピー.jpg
(Image Credid:Youtube (C) 1974 Universal City Studios LLLP. All Rights Reserved.)



(コロンボとラムフォードの対話)
The Best of Patrick McGoohan | Columbo


 筋金入りの軍人である一方、コロンボに、もしも引退できたなら、と、かすかに笑みを浮かべて夢を語ったり、独り、ベッドに身を投げ出して、物思いにふける姿も見せる複雑な人物。

ベッドに身を投げ出しているラムフォード - コピー.jpg
(Image Credid:Youtube (C) 1974 Universal City Studios LLLP. All Rights Reserved.)


 「人間が互いに殺し合う」世界の現実を見据えた結果、選んだ殺人。

 コロンボがラムフォードの内面や動機を知って言葉を失ったように、ドラマを観た人間も、彼に沈黙させられる。

 名作の多いコロンボの中でも、特に今の時代、考えさせられる作品だ。




【画像引用動画(英語音声※ドラマの結末シーンや他の回の内容を含む)】
Best Murders of Season 4 | Columbo


Explosion in a Military Academy | Columbo


Did Columbo Ever Get That Pair of Socks? | Columbo

The Best of Patrick McGoohan | Columbo

Columbo Spends the Night at the Military Academy | Columbo

(※作品結末部)
Columbo Solves the Cider and Murder Cases | Columbo

(参考文献)

posted by pawlu at 21:47| 刑事コロンボ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2022年02月26日

刑事コロンボ「愛情の計算」科学者とロボットによる異色の犯罪(コロンボの犬にもご注目)

(コロンボと、科学者でシンクタンク所長の犯人ケーヒル〈ホセ・ファーラー〉)
コロンボとケーヒル - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube)

 「愛情の計算」(1974年)は科学者でシンクタンク所長のケーヒルが、彼の息子の研究盗作を暴露しようとした研究者を、車でひき殺して殺害するストーリー。

放送予定:NHK BSプレミアム:2022年2月26日(土)午後4時46分〜午後6時

※2022年2月現在、動画配信サイトhuluで、新旧「刑事コロンボ」シリーズが視聴可能


 アリバイ作りのため研究所のロボットを共犯者として利用する異色のトリックが見どころだ。

共犯ロボット - コピー.jpg

(Image Credit:Youtube)

 (このときケーヒルたちが研究所でシミュレーションしているのは「第三次世界大戦」の戦略。1970年代当時と現在の緊張感を考えさせられる

アリバイ作り - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube)

戦略シミュレーション - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube)

 犯人ケーヒルを演じたのは舞台出身で、アカデミー賞主演男優賞も受賞した名優ホセ・フェラー

 成功した科学者の冷たい威厳と、繊細な息子を守ろうとする父親の思いが混在するケーヒルを巧みに演じた。

ケーヒルと息子ニール - コピー.jpg

(Image Credit:Youtube)

 この作品で、ひとつ残念なのは、もともとは120分だった予定のストーリーが短縮されている点だ。

 ケーヒルと被害者ニコルソンの口論の中で、「君はわたしを恨むあまり、息子を破滅させようとまでするのか」という台詞があるが、二人の確執にははっきりした原因があったのに、それを示すやりとりは、本編ではカットされてしまっている。

 ニコルソンはケーヒルが「研究所を軍需工場の一翼を担う巨大なビジネスの場にしてしまった」ことに憤っていて、息子ニールの盗作の責任をとらせる形でケーヒルを所長の座から降ろそうとしていた。(※『刑事コロンボ完全捜査ブック』p.78より)

 (冒頭の大戦シミュレーションも確執の伏線となっていたのだ)

 厳格で気難しそうではあるが、どちらも理知的な人物であるケーヒルとニコルソンがなぜ、ここまで対立してしまったかの説明があれば、名優たちの演じたキャラクターがより鮮明になっただろう。

(被害者ニコルソンとケーヒル)

盗作を指摘される - コピー.jpg

(Image Credit:Youtube)

(純粋な研究への情熱と、ビジネスと国益の追求の対立は、彼らの確執の原因として説得力がある)


 一方、天才少年科学者スペルバーグ(スピルバーグ監督のパロディネーム)が開発した、少年らしさが反映されたSF映画を思わせるロボットのレトロなデザインと、相変わらず何をするわけでもないが、かわいいコロンボの犬が、緊迫感のある作品のアクセントになっている。

(スペルバーグとケーヒル)

ロボット研究者を外出させる - コピー.jpg

(Image Credit:Youtube)

(ロボットMM7と握手するコロンボ)

ロボットと握手するコロンボ - コピー.jpg

(Image Credit:Youtube)

 コロンボの犬のユーモラスな場面が多いので、彼のマニアにはそういう意味でも見逃せない一作だ。

犬を預かってもらえるか聞いてみる - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube)

(ロボットMM7)に散歩されるコロンボの犬
ロボットに散歩されるコロンボの犬 - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube)

※2022年2月現在、動画配信サイトhuluで、新旧「刑事コロンボ」シリーズが視聴可能

 当ブログ 「愛情の計算」関連記事



【参考文献】




(画像引用動画)※英語音声、作品の結末部等重要シーンを含む

(作品10分ダイジェスト)
Columbo in 10 Minutes | Season 3 Episode 6 | Mind Over Mayhem

(コロンボと天才少年とロボット)
Boy Genius | Columbo

(コロンボの犬登場シーン集 ※「愛情の計算」以外の作品の場面を含む)
The Best Of Columbo's Dog | Columbo
posted by pawlu at 12:34| 刑事コロンボ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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