2014年03月21日

(台詞編A)刑事コロンボ「忘れられたスター」

2014年3月15日(土)15:30〜17:08 BSプレミアムで刑事コロンボの「忘れられたスター」が放映されました。

往年のミュージカル女優グレース(ジャネット・リー〈サスペンス映画「サイコ」でシャワールームで殺害される美女マリオンを演じたことで有名〉)が、自身の再起をかけた舞台への出資を断った富豪の夫ヘンリーを殺害するという筋立てです。

当ブログでこの作品についてご紹介させていただいた過去記事は以下の通りです。
1,ご紹介編
2,ネタバレ編
3,台詞編@

本日は、この作品の中の名場面の英語の台詞についてご紹介させていただきます。
(以下ネタバレですのでご了承ください。)



(場面)グレース宅で、コロンボがネッドに彼女の犯行を立証する場面。(※この場面の詳細についてはネタバレ編に書かせていただきました。)

 グレースは自宅で自分の作品を観ている間に、部屋から抜け出して夫ヘンリーを自殺にみせかけて射殺。2階にある夫の部屋から木をつたって出ていき、部屋に戻りました。
(こうして彼女の家の執事に「奥様は旦那様が亡くなった時には、ずっと部屋で映画を観ていた」と証言させることに成功。)

コロンボはいくつかの状況の不自然さから、グレースが犯人であると確信しますが、捜査のために医師であるヘンリーのカルテを調べていた際に、グレースが、実はもって2か月という脳の深刻な病にかかっていたことも知ります。

ヘンリーはそのことを妻には秘密にしつつ、舞台に立ったりすれば、それが命取りになりかねないからと、復帰を反対していたのですが、グレースはヘンリーの思いを知らずに、彼を殺してしまった。

だが、記憶障害が出る病にかかっている彼女は、もはや自分の犯行を忘れてしまっているかもしれない。

コロンボからその話を聞かされたネッドは言葉を失います。

ネッドは今でこそ舞台の指導者として、グレースの復帰を後押しする立場ですが、元々は彼女の舞台でのパートナーであり、思いを告げることはできませんでしたが、長年彼女のことを愛していました。

そのグレースが、夫の思いも知らずに彼を殺してしまった。

この残酷な事実を、コロンボがグレースに告げようとしたとき、ネッドは二人の間に割って入ります。

 以下英語の台詞と私的直訳、そして吹き替え版の台詞です(コロンボの吹き替えは声もセリフ回しもとても素晴らしいので、今回から字面でだけでもご紹介させていただくことにしました)。

【ネッド】
This has gone on long enough. I killed Henry.
(直)もう十分だ。僕がヘンリーを殺した。
(吹)もう茶番劇はこの辺で幕にしよう。僕が殺したんだ。

I took the gun out of the glove compartment.
(直)僕がグローブボックスから拳銃を取り出して
(吹)僕が彼の車から拳銃を持ち出して
glove compartment……車のダッシュボードについている小物入れ


I came through a rear window.I went up to his room and I shot him.
(直)裏窓を通って、彼の部屋に上り、彼を撃った。
(吹)書斎の窓から入り、二階へ行って彼を撃った。
rear……後ろ・背面

and I made good my escape over the balcony.
(直)そしてバルコニーからうまく出て行った。
(吹)そしてあのバルコニーから木へ飛び移った。

(グレース、ショックを受けた様子でネッドに詰め寄る)
You don’t know what you are saying!
(直)あなた何を言っているのか自分でわかっていないのよ!
(吹)嘘よネッド!嘘よ!

【ネッド】
It's true, Grace. It’s true.
(直・吹)本当だグレース。本当なんだよ。

【グレース】
No, it can’t be true.
(直)いいえ、本当なわけないわ!
(吹)嘘よそんなこと嘘!

(このやりとりのとき、カメラはネッドとグレースではなく、そのやりとりを聞いて目をふせるコロンボを映しています。自分の犯行を忘れて事態を嘆き悲しむグレースと、彼女のために、彼女がしたことをそっくりそのまま自分の仕業と言ってかばおうとするネッド。コロンボが、二人の心をおもんばかっているのが表情からにじみ出ています。)

Why? Why would you do anything like that? Why?
(直)どうして?どうしてそんなことをしたの?どうして?
(吹)ねえ…ねえ、どうしてそんなことをしたの、どうして?

(ネッドにすがりついて泣くグレース)

【ネッド】
For you, Grace.For you Grace. For you.
(直・吹)君のためさ。君のためだ。君のね……。

【グレース】
For me?
(直・吹)わたしの?

【ネッド】
Henry was preventing you from assuming your rightful position as a star.
(直)ヘンリーは君がスターとしてしかるべき立場を引き受けることを邪魔していた。
(吹)ヘンリーは君が再びスターの座につくことに反対していたからね。

prevent from doing……(を)妨げて〜させない
assume………(役目などを)引き受ける
rightful……正当な

【グレース】
What am I going to do?
(直・吹)私はどうなるの?

【ネッド】
Oh, you will be all right, Grace. My Grace will be all right.
(直)ああ、君は大丈夫さ。僕のグレースは大丈夫だ。
(吹)君は大丈夫さ、グレース・ウィラーはスターだ。

【グレース】
No, I can’t do anything without you.
(直・吹)だめ、あなたなしじゃわたしなんにもできない。

I’ll just wait. That’s what I’ll do.
(直)私、待つわ、そうする。
(吹)私、待ってる。そう、待ってるわ。

I’ll take a long rest. A rest.
(直)私、長い休みをとるわ。休暇を。
(吹)私、休暇をとるわ。休む。

I’ll just a rest. Isn’t that a good idea?
(直)休むわ。いい考えじゃない?
(吹)しばらく休むわ。そのほうがいいわね?

【ネッド】
That’s what you should do, Grace.
(直)それこそ君のすべきことだグレース。
(吹)そうだ、それが一番良い。

Now, you sit over here and you watch Rosie.
(直)さあ、ここに座ってロージー(グレースが若い頃演じた役名)を観るんだ。
(吹)さあ、いい子だ。あそこに座って、ロージーを観ていなさい。

Just watch Rosie.
(直)ただ、ロージーを観ているんだ。
(吹)君の、大好きなロージーをね……。

Shall we go, Lieutenant?
(直)行きますか。警部補(Lieutenant)?
(吹)さあ、行きましょう、警部。(※吹き替え版ではコロンボの役職が当時なじみの薄かった「警部補」ではなく「警部」に変更されている。)

【コロンボ】
It’s not going to take much to break your story.
(直)あなたの(作り)話を打ち破るのにそう時間はかかりませんよ?
(吹)あなたの自白なんてすぐひっくりかえされますよ?

【ネッド】
It might take a couple of months.
(直)おそらく2か月はかかるだろう。
(吹)頑張ってみせる。ふた月間は。

(玄関の扉を開けていたコロンボ、振り返る。ネッドは覚悟を決めた目でコロンボを見つめ返している。しばらく言葉を失うコロンボ。)

【コロンボ】
Yes. Yes, it might.
(直)はい……はい、そうかもしれません。
(吹)そう……それがいいね。
(コロンボより先にグレースの屋敷を出ていくネッド。扉を閉める前に、部屋の中のグレースに目をやるコロンボ。若く美しかった「ロージー」の頃の自分の演技に見入り、もはやネッドやコロンボが来ていたことも覚えていないように背中を向けているグレース。映画の世界と同じように幸せそうに微笑む。)

(完)

 以上が英語の台詞およびふき替えです。英語の台詞も素敵ですが、吹き替えだとネッドのグレースに対する想いが、もっと、永遠に大人の心を持てなかった彼女をかばい守りたいという感じがしますね。

とくに
「(自分が犯人でないという結論が出るまでに、グレースの余命である)二か月はかかるだろう」と、それに対するコロンボの「そう(二か月はかかる)かもしれません」
と、
「頑張ってみせる。ふた月間は」
「そう……それがいいね……」
は、両方ちょっとずつ味が違いますが、どっちも良い台詞だと思います。

 またコロンボ名場面と台詞、吹き替えについては折をみてご紹介させていただきたいと思います。

 読んでくださってありがとうございました。
posted by Palum. at 22:56| 刑事コロンボ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年03月15日

(ネタバレ編)刑事コロンボ「忘れられたスター」

2014年3月15日(土)15:30〜17:08 BSプレミアムで刑事コロンボの「忘れられたスター」が放映されました。(先日15:00からと書いてしまい大変失礼いたしました。)

往年のミュージカル女優グレース(ジャネット・リー〈サスペンス映画「サイコ」でシャワールームで殺害される美女マリオンを演じたことで有名〉)が、自身の再起をかけた舞台への出資を断った富豪の夫ヘンリーを殺害するという筋立てです。

本日はこの作品の見どころであるラストシーンについてご紹介させていただきます。(というわけでネタバレなので、一度ご覧になった方だけお読みください)




グレースは自分が若かりし頃出演した映画のフィルムを所蔵、自宅の映写機を使い、それを毎日のように観るのが習慣でしたが、犯行の日は、この映画の上演中に抜け出してヘンリーを拳銃自殺に見せかけて殺害。

そして、「フィルムの準備」、「フィルムへの交換」、「片づけ」の数回戻ってくる執事に、映画を観ている自分を目撃させることで「旦那様が亡くなった時刻には、奥様はずっと映画を観ていた」と証言させました。

しかしコロンボは、執事の証言から、本来1時間45分の上演時間のはずの映画が、終わりまでに2時間かかったことに気づきます。

 この空白の15分に何があったのか。

 おそらく、老朽化していたフィルムが上演中に1度切れてしまったのだ。

 しかし、何度もフィルムを観ていたグレースなら、自分でフィルムの修復をするのに4分程度しかかからない。

 最後に執事が来るまでの残りの11分はなおも空白。

 その間、グレースは何をしていたのか。

 11分間、続きの映らない白いスクリーンを見つめてから、やがて、切れたフィルムを直しに映写機のところへ行った?

 いや、それは不自然すぎる。

 グレースは11分間、フィルムが切れたことに気づかなかったのだ。

 その場にいなかったから。

 ヘンリーを殺しに行っていたから。

 この、状況の不自然さをあぶりだして逮捕で終わりなら、普段のコロンボですが、この作品はふた味違います。

 グレースは事件直後、コロンボ(と彼の「カミさん」)が自分の作品の熱烈なファンであると聞いて、自宅でのフィルム上演にコロンボ夫妻を招きます。

 しかし、上演会の日、なぜか「カミさん」を連れてこず、かつて自分のミュージカル映画のパートナーであったネッドと一緒に来たコロンボ。

 コロンボの妻が来なかったことを残念がりながらもコロンボのリクエストした映画「ウォーキングマイベイビー」(犯行の日にもグレースが観ていたもの)の上演を始めるグレース。

 ですが、そのフィルムが途中で切れてしまいます。

 必要以上にイライラしながら映写機に駆け寄るグレース。

 実はフィルムはコロンボが途中で切れるように細工をしていたものでした。

 それを知る由もないグレースはあっという間にフィルムを直します。

 あまりにも無心に。

 自ら、犯行時11分間の空白があったことを証明してしまう手際の良さで。

 コロンボは既に気づいていました。

 昔のことは鮮明に覚えているのに、最近のことはすぐに忘れてしまうグレースの異変に。

 そして、医者であったヘンリーが、ひそかに「ローズメリー」という女性のカルテを書いていたことも。

 「ローズメリー」は脳に重い病気を抱えており、この病気では記憶に障害が出、激しい運動をすれば死ぬ危険がある。

 安静にしていても余命は長くてふた月。

「再起のステージに立つなどという夢は忘れて、一緒にクルーズの旅にでも出ないか?」

 殺される直前、ヘンリーがグレースに言っていたこと。

 「ローズメリー」

 ロージー。

 それは、かつてグレースが演じた役の名前。

 余命いくばくもないグレースが、ステージに立てば命取りになることを知っていたヘンリーは、彼女の復帰を反対した。

 そうとは知らないグレースは、自分の夢を阻む夫に怒りを覚え、おそらくは症状のひとつとして、感情のコントロールが利かなくなって彼を殺害した。

 しかし、今となってはそのことを覚えているか……。

 そう、ネッドに話しているコロンボに対し、映写室から出てきて話の断片を聞きつけたグレースは、「あなたはまだ夫が誰かに殺されたとおっしゃるつもり!?この家の人間がヘンリーを殺すなんてありえないわ!!」と詰め寄ります。

 やはりもう記憶は無いのだ。

(二度観するとわかりますが、執事が最後に様子を見に来る直前、グレースは怪訝な顔で額を押さえており、おそらくこの時点で自分の犯行を忘れています。)

 真相を話そうとするコロンボに、ネッドが割って入ります。

「もうたくさんだ。ヘンリーを殺したのは私だ」

 それを聞いたグレースは、ネッドにすがりついて悲痛な声で叫びます。

「あなたが!?嘘よ、そんなこと嘘!!なんでそんなことを!?」

「君のためだ。ヘンリーが君の復帰を阻んだからだ。」

 かつて想いを告げることができず、しかし本当は今も愛しているグレースの魂を守るため、ネッドは彼の胸で泣きじゃくるグレースにそう言います。

「あなたなしじゃ私何もできない。私待っている。あなたが帰ってくるまで復帰はやめて休暇を取るわ……」

 涙ながらに力弱くそう言うグレース。

ネッドはその折れそうに細い両肩を抱くと、グレースをソファに座らせます。

「それがいい。さあ、いい子だ。座ってロージーを観ていなさい」

 君の大好きなロージーを。

 腰かけたグレースの頬に、そっと口づけをするネッド。

「あんたの自白なんてすぐひっくり返されますよ?」

 そう言いながら玄関の扉を開けるコロンボ。

「頑張って見せる。ふた月間は」

 シルエット帽をすこしかしげた形でかぶり、真面目な顔で答えるネッド。

 その、覚悟を秘めたまっすぐな目に、しばし、言葉を失ったあと、目を伏せ、コロンボはうなずきます。

「そう……それがいいね……」

 コロンボを追い越して屋敷を出るネッド。

 扉を閉めようとしたコロンボは、残されたグレースの後ろ姿を見ます。

 ソファに腰かけ、コロンボたちに振り向きもせず。

 若く、完璧な美を誇る自分の、軽やかな歌声とダンスの光を浴びるグレース。

 彼女を守るつもりだったとも知らず彼女自身が殺した男。

 彼女のために汚名を被ることを決意した男

 彼女の残り2か月のために、愛を捧げた二人の男の存在すらも忘れてしまったように、その顔に笑みが広がり……。

 そして、幸せに満ち溢れたため息のような歌声と音楽が、物語の幕切れを告げます。

(完)

 個人的コロンボ3大名作の一つと思うこの作品。
(あとは「祝砲の挽歌」と「別れのワイン」が好きです)

 何が素晴らしいって犯人およびその周辺のキャラクターと、このラストです。

 栄光を忘れかねるかつてのスターの悲哀と言えば、前回ご紹介させていただいた「サンセット大通り」、それから最近ではアカデミー賞受賞作「アーティスト」がありますが、それぞれ名声を博したこの2作に一歩も譲らぬ見事なラストです。


サンセット大通り(Blu−ray Disc)


アーティスト コレクターズ・エディション(Blu−ray Disc)

 何度も観たくなる余情と言う点では、個人的には3作中「忘れられたスター」が一番好みです。(全部好きですが。)

 というのも、この作品は古きよきアメリカ映画の美と、それを見る者の哀愁をとても上手に作品の味付けに使っているからです。

 ちなみにこのとき、グレースが観ている「ウォーキングマイベイビー(原題Walking my baby back home)(1953年)」という映画は実際にジャネット・リーが主演した映画だそうです。


 当ブログでは「1950年代の映画は美しさという点では最高だが、1980年代後半〜1990年代のアメリカ映像作品が人生の哀歓をとらえているという意味で最も素晴らしい」とよく書かせていただいています。

 アメリカの1950年代以前の作品(とくにミュージカル作品)はあまりにも美しい。

 ストーリーは幸せと明るさに彩られ、あらゆる意味で技術が高く、登場する人々は軽やかで善良。

 それは一抹の陰すらささない光の美しさです。

 こういう作品、当時はどう受け取られたか定かではありませんが、今の我々が観ると感動しつつ、なぜか曇天の向こうにこの世ならぬものを垣間見たように胸しめつけられます。

 このため、後々の名作の中で「現実との哀しい落差」を示すものとして、引用されることとなりました。(それこそ1990年代の映画の中で)

 以前ご紹介した「レオン(1994年)」の中でも、殺し屋レオンが、人の少ない映画館で、ジーンケリーが歌いながらローラースケートで街中を滑る場面のある「いつも上天気(1955年)」という作品に目をキラキラさせて魅入る場面があります。
(この作品にはすでに現実のほろ苦さが含まれだしているようですが)

レオン/完全版(Blu−ray Disc)

 また、観てる作品の時代はだいぶ下りますが、同じように「美しい映画に見とれる現実の人」という場面で最も印象深いのは「グリーンマイル(1999年)」で最悪の犯罪の冤罪を被ることとなった癒しの人コーフィーが、フレッド・アステアの「トップハット(1935年)」を観る場面でしょう。


グリーンマイル


トップ・ハット


 雨の公園のあずまやで恋の芽生えたフレッド・アステアとジンジャー・ロジャースが優雅にダンスを踊る場面。

 コーフィーは、暗がりの中に映画の光を受けて目をきらめかせ、思わず「この二人は天使だ」と呟きます。

 余談ですが「トップハット」のミュージカルは今イギリスで全国ツアー中です。

 宣伝のために初演時のキャストがテレビに出てきた素敵な映像があったのでよろしければご覧ください。なんかホントなぜか泣けてくる……。



 「なにもかも無くしても、世界が不条理でも、バレエだけは美しかった。あそこには幸福の青い鳥がいた」

 大好きな萩尾望都さんのバレエ漫画「青い鳥」の名台詞ですが、アメリカの古き良き美しいミュージカル映画には、この幸福の青い鳥が宿っています。

(「青い鳥」収録の文庫本「ローマへの道」名作です)

ローマへの道

 その中に生き、そしてそこから出られなかった人間の哀しみと罪。

 そして永遠に夢を見るその人の苦しい無垢をいたわり愛する周囲の人々。

 おそらくは昔、彼女にとても美しい夢をみさせてもらった。その思い出ゆえに。

 「忘れられたスター」の中では、彼女の舞台上のパートナーネッドや、夫ヘンリーだけでなく、執事夫妻もグレースのそういう一面を愛しています。

 映画を観るグレースへの執事の目や、彼女のドレスアップを手伝う妻の態度がとても優しい。

 そして、ある意味結局罪を追求しきれなかったコロンボもその一員かもしれません。

 こういう情や、現実と美との哀しい落差が、温もりの残る複雑な陰影を成し、すぐれた余韻となっています。

 陰の無い世界は現実には無い。

 でも、そこが温かく眩しいということは何故かもう知っていて、憧れる。

 多分そこに立ったことは一度も無いし、絶対にたどり着けないことはもう知っているのに。

 そういう、私たち全員の知っている胸かきむしられる感覚が、罪を犯しながらそれすら忘れて夢に魅入るグレースの涙混じりの微笑に重なる。

「忘れられたスター」はそういう味わいを持つ作品です。

 犯人との頭脳戦という点ではほかにも名作がたくさんありますが、こういう抒情はコロンボの中でも突出しているので、是非繰り返しご覧になってみてください。

 読んでくださってありがとうございました。

 (近々このラストシーンでの英語の台詞についてご紹介させていただきますのでよろしければ併せてお読みください)
posted by Palum. at 20:15| 刑事コロンボ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年02月03日

刑事コロンボ「愛情の計算」コロンボの犬(ある意味)大活躍の場面紹介

 少し先の話になりますが、BSプレミアムで2014年2月15日(土)午後15時30分〜16時44分に刑事コロンボ「愛情の計算」が放送されます。
公式番組情報ページはコチラ

 犯人はシンクタンクの所長ケーヒル(ホセ・ファーラ―)。

 息子の研究が盗作であることを同僚に暴露されそうになったために、彼を車でひき殺して殺害、アリバイ作りにロボットを使って犯行を隠蔽しようとします。

 こういう「当時は超ハイテク」という題材のものほど、残念ながら今見ると違和感が出てしまうもので、心理の落とし穴や人間ドラマが見どころのその他コロンボの名作に比べると(個人的には「祝砲の挽歌」がこの手の最高傑作だと思っております。)、筋立てそのものの出来栄えは劣ります(ただ、その犯行を手助けするロボットがブリキのオモチャをでっかくしたみたいな思い切りレトロな造作〈「禁断の惑星」という有名な映画に登場するロボットがモチーフになっているそうです〉なのは遊びが効いていて逆に見栄えがします〈製作者が少年【名前はスティーブン・スペルバーグ(笑)】〉だったので、このデザインになった模様)。

 が、しかし、コロンボの犬ファンは絶対に見逃してはならない作品です。

 この回、コロンボの犬「ドッグ」(どう呼んでもどうせ来ないからこの名前になった)の出てくる場面がとてもカワイイのです。

 ありがたいことに、当ブログの過去記事がなぜか「コロンボ 犬」でググると現在結構上位にくるので、御礼がわりにもう少し情報を補足させていただきます。(過去記事はコチラ

というわけでドッグ登場場面のひとつと英語の台詞をご紹介。(英語の字幕と僕なりのあてにならない〈←……〉直訳をつけさせていただきました。それだけだとあまりにもあてにならないので〈←二度言った〉一部言い回しのWeblio辞書等のリンクも貼らせていただきました)

とある、賞状などが飾られている一室、銀髪に蝶ネクタイの厳格そうな紳士が口を開く。
「Lieutenant(※), I’ve been dealing with this academy for over twenty years」
警部補(※)、私はこの学園を20年以上経営してきました。

Lieutenant……警部補〈コロンボの本当の肩書き〉)
※ドラマ内吹き替えではコロンボは「警部」と呼ばれているが、語呂やわかりやすさを考えて意訳されている模様。
これをもとに脚本家三谷幸喜はドラマ「警部補・古畑任三郎(田村正和主演)」で主人公の肩書を「警部補」にした。

Deal with……〜を扱う、対処する )

「and we have never had a situation like this.」
そしてこのような状況になったのは初めてのことです。

(椅子に座ったコロンボ。残念そうな顔で紳士の話に同意する。)
Believe me, sir, I know you’ve done your best.
信じてください先生。あなたがベストを尽くしてくださったのはわかっています。
Sir……男性への敬称
Do (one’s) best……(その人の)ベストを尽くす

If a student fails we consider it our failure, not his.
もし生徒が落第した場合、我々はそれが我々の失敗だと考えています。彼(の責任)ではなく。
Consider……考慮する・みなす
Failure……失敗(動詞=Fail)


To be honest with you, I was afraid of something like this.
正直に申しますと、こんなことになるんじゃないかと心配していました。

To be honest with you……正直に言えば

We’ve had a lot of problems with him at home
彼は家でもたくさん問題を起こしまして。

Then you do understand we consider it best that you withdraw him.
それでは彼を退学させるのが一番だという我々の考えをご理解くださいますね。
Withdraw……この場合は「退学する」の意味(預金を引き出すの意味もある)

Yes, sir
はい、先生

(立ち上がるコロンボ)

I’m very sorry Lieutenant.
残念です。警部補

(コロンボの足元でぽてーんとくつろいでいるドッグ、あんよを前に伸ばし、コロンボを「ん、どしたの?」みたいな顔で見上げる。)
(コロンボ、そのドッグの様子を〈犬訓練学校の〉校長に指し示しながら)

He just sits around house and drools. Never moves.
(ご覧の通り)家で座ってよだれをたらしているだけで、ちっとも動きません。(←スゴイ形容……)
Drool……よだれをたらす 
We love him but a dog should do something.
可愛いとは思っていますが、犬なんだからなにかするべきです。

Even if he just barks now and then.
たとえ時々吠えはするとしても……

Even if……たとえ〜としても (even thoughより起こる確率が低い〈笑〉)
Now and then……時々

(渋々ドッグを抱き上げるコロンボ〈ホントにもーなすがままのドッグ〉)
(そこに電話がかかってきて、コロンボに取り次ぐ)
Where? ……I’ll be right over.
どこで?……すぐ行くよ
(電話を切るコロンボ)

I got to go to work. My wife and kids, they are visiting my mother-in law up in Fresno.
仕事に行かなければなりません。カミさんと子供たちはお義母さんを訪ねてフレズノ(カリフォルニアの地名)に行っていまして。

Got to go……もう行かないと got to はここでは「〜しないと」のhave toに近い意味

mother-in law……義理の母親

You don’t suppose you could keep him for another week?
もう一週間こいつを預かってもらえないでしょうか?
(I don’t suppose you couldで、「〜してくれませんか」という意味合いらしいので、その変形かと)

(校長、言いにくそうに、だが毅然と)
I’m sorry, he demoralizes the other students.
申し訳ありませんが彼は他の生徒たち(犬)に悪影響を与えるので……
Demoralize……士気を下げる・混乱させる・風紀を乱す〈笑〉

 日本語でも「モラル」と言いますので、この語で「モラルに悪影響がある」みたいな意味合いのようです。このくだりでこの単語覚えました。二度と忘れない自信あります……。
 (ちなみに吹き替えでは「怠け癖がうつる」字幕では「やる気がうせる」となっていました(笑)。)

 コロンボ、ひとっつも返す言葉無く、仕方なさそうにドッグを抱え直して背を向ける。ドッグの尻尾とあんよがゆらゆら揺れて部屋から消える。

 以上です。
 感動するほどにきびきびしたところの一切無い犬ですが、実にカワイ子ちゃんだよなー。
何もしてないのに、いや、していないからこそあんなにもっちーんとカワイイなんて反則……。

 それと、今回書いていて思いましたが、コロンボってこういう推理とあんま関係ない場面が大事な魅力みたいです。こんなに推理に不必要な場面があっていいもんなんですね。そういえば古畑任三郎にもこの手のやりとりがあります(主に使えない部下今泉君が担当)。奥行きとか、サスペンスの部分とのいい緩急とかになっているんですね。

 この台詞がどうあの名吹き替えで展開しているかも併せてお楽しみください。DVDをお持ちの方は字幕もご確認してみてください。うまいこと訳されてて楽しいです。

 余談ですが、AXNミステリーチャンネルではコロンボのエピソードが全話丁寧に紹介されていて(ネタバレも含みますのでそこはご注意ください)、ユーモラスなイラストつき。
 下の部分にコロンボのオンボロ自動車に乗ってるドッグのミニアニメがついています。
 風にちょっと遅れてそよぐ耳がラブリー。
 こまかくて面白いので(NHKの放映を紹介するのに引き合いに出していいのかなとも思いますが〈汗〉)よろしければ併せてご参照ください。

 読んでくださってありがとうございました。
posted by Palum. at 21:30| 刑事コロンボ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年01月22日

犯人役ドナルド・プレザンスの名演技にご注目 刑事コロンボ「別れのワイン」

 2014年1月25日から刑事コロンボの「別れのワイン」が放映されます。
(公式番組紹介情報ページはコチラ

 過去記事でもご紹介させていただいたのですが、今回もう少しくわしく書かせていただきます。

 ワインづくりに生涯を捧げてきた男エイドリアン(ドナルド・プレザンス)が、そのワイナリーの所有権を持つ弟リックにワイナリーを売却されそうになり、思い余ってリックを殺害、死体を海に投げ込んで、ダイビング中の事故に見せかけようとするという筋立てです。

 コロンボファンならベスト3、あるいはナンバー1に挙げる人も多いであろう人気作。

 しかし、彼が自白に至るまでの経緯が一回観ただけではわかりにくいので、録画してご覧になることをお勧めいたします。

 というのも、コロンボの推理と罠はよくできているのですが、実はこの時点では犯人エイドリアンは「ミスをした」とシラを切れば切りとおせなくもないんですよね……。(何のミスかはご覧になってお確かめください。)

 でも、この手の筋はコロンボにはよくあります。結局、後で自分の行動の不自然さを絞られて白状させられるよりは、観念して罪を認めるという……。

 とりあえず、全て失ったという実感とともに、罪を認めるという心理であったということだけ心の片隅に留めておいていただければ、ラストシーンがしっくりくるかと。

 過去記事でも描かせていただきましたが、見どころは、ワインに命をかけたエイドリアンに対する、コロンボの執念深い追及(中にはエイドリアンと話をするために、短期間でワインのティスティング力を身に着けるというコロンボの意外な才能も見られます)の奥にあるそこはかとない敬意と奇妙な心の交流(これぞコロンボシリーズの味)。

 それから、エイドリアンの犯罪に気づきながら、彼に同情し、おそらくはかねてより押し殺していたであろう好意を打ち明けて、彼をかばうことと引き換えに、彼との結婚を懇願する秘書カレン(ジェームス・ディーンの傑作「エデンの東」恋人を演じたジュリー・ハリスが演じています)の想い。

 そして、殺害までのエイドリアンの激昂、殺害を決行した後のさまよう心を演じたドナルド・プレザンスの名演技です。

 このかた、本当に素晴らしい演技力の持ち主ですが、この他に日本で有名な彼の主演作と言うと「ハロウィン」(殺人鬼が次々と人を襲うスプラッタホラーものの元祖ともいえる作品)で、犯人を追い続ける医師役だそうです。

 ……10代のころ、同じくホラーの名作と名高い「シャイニング」を観て、恐怖のあまり寝てしまった(別名「ゆるやかな気絶」)私には、残念ながらこの作品で彼の演技力を凝視する機会(強心臓)は永遠に得られそうにないので、ここで目に焼き付けておくしかありません。

 そういうわけで(?)、皆様に第一の注目ポイントとしてご覧いただきたいのは、リックとエイドリアンの口論の場面です。

 自分が全身全霊を捧げて育ててきたワイナリーを、リックが金儲け主義の量産ワイン会社「マリノ・ブラザーズ」に売り渡すと聞かされた時、それまで英国上流階級の紳士のように物静かに、しかし、享楽的な弟への皮肉たっぷりな態度で接していたエイドリアンの様子が一変します。

 エイドリアンがリックに小遣いを渡した直後からのやりとりにご注目ください。
 
 以下そのときの台詞と英語を抜粋いたします。

(例によってDVD字幕丸写し+私的直訳です〈なんであまりアテになさらないでください【汗】。あと、ドラマでの訳はもっと工夫されています〉)

「この土地〈ワイナリー〉を売る(I’m selling the land)」

「何?(What?)」

「マリノ・ブラザーズ社から申し出があった(The Marino Brothers have made me an offer)」
「で、受けるつもりだ(and I’m accepting it)」

マリノ・ブラザーズ社だと……?

みるみる息が切れ、顔が紅潮してくるエイドリアン。

マリノブラザーズ社だと!?

「1ガロン(約3.5リットル)69セントの(安酒を売る)マリノ・ブラザーズ社だと!?(Sixty-nine cents a gallon Marino Brothers?)」

「奴らが作っているのはワインじゃない!(They don’t make wine!)」

「奴らの作っているものなんぞ、うがい薬にもなりゃしない!(They don’t even make good mouthwash!)」

「だが金になってるだろう!(But they make money, huh?)」

「あんたらはワインが飲めればいいんだろうが、俺は金が欲しい(You snobs can drink the wine but I want the cash.※すみません、ここあんまりうまく訳せないです〈汗〉〈とくにsnobs(気取り屋)のここでの使い方が。ただ「ワインにうるさい連中」というような意味かなと思います」〉」

(略)
 怒りのあまりなんども言葉を切りながら、エイドリアンは叫びます。(ここが特に巧い。)

「私は…私は…私は25年間、ここに人生を捧げてきたんだぞ!(I’ve given twenty-five years of my life to this land!)」

「ほかに選択肢は無いと思うね(I don’t think you have any choice)」

 目を見開いて震えていたエイドリアンはかすれた声で言いました。

「……あるさ(Yes, I do.)」

そして、いきなりリックを近くにあった陶器で殴りつけて気絶させます。

 個人的には、人が感情あらわに大声あげている演技の場面で巧いと思うことが少ないのですが、ここでのドナルド・プレザンスの演技は、それまでの品よく、しかし、つかみどころのない感じから一気に切り替わっている点や、顔色、目の見開きかた、荒い息での間のとりかたなどで、「怒り・激昂」を巧みに表現していて圧倒されます。

 そしてこの後、気絶したリックを縛り上げてワイン蔵に閉じ込めて窒息死させることにしたエイドリアンは、ワイン蔵を後にし、秘書のカレンとともにニューヨークへの出張に出かけます。

(余談ですがこのとき飛行機の中でピアノ〈エレクトーン?〉演奏をしていて、乗客の何人かがその周りに立ってお酒を飲んでいます。今では安全基準上見られない光景でしょうね。)

 この時の彼の演技も見ものです。

 ワイン業界の名士としての優雅な登場から、弟を殴りつけるまでの演技の切り替えが「静から動」なら、その後の機内での演技は「動から虚無」と言えます。

 大きなファーストクラスのシートに、ぐったりと沈み込んだエイドリアン。

 実は、刻々と迫るワイン蔵のリックの死を待っているのですが、秘書のカレンには、彼はアカプルコにいるから連絡をとるようにと伝えます。

 電報にしますか?と尋ねるカレンに、うつろな目をしたエイドリアンは、「手紙が良い、電報は嫌いだ」と答え、

「電報は……何か悲劇が起きたような気を起こさせるから(Something about telegram makes one feel that…… some kind of tragedy has occurred.)」
 と、口走ります。

この奇妙なセリフや、彼の口調・しぐさの虚脱感を傍で見ていたことが、カレンが後にエイドリアンの犯罪に気づくきっかけになります。

 コロンボ登場からエイドリアンとコロンボの対決場面は、ワインの薀蓄もあり、少なくとも表面上は穏やかで、これはこれで非常に粋なのですが、こうしてその前の段階から役者の演技力が堪能できるという点でも、この作品は名作です。(これ以外だと、犯罪前の演技力が光るのは前回ご紹介した「毒のある花」です。よろしければこちらもご参照ください)

 コロンボは吹き替えが素晴らしいのですが、もしよろしければ二度目は英語にしてみて、英語での台詞まわしもお楽しみになってみてください。

 ちょっと殺伐とした話題が多くなってしまったのであともうひとつだけ(Just one more thing〈コロンボ風に〉)。

 この作品、オープニングはグラスになみなみとそそがれた美しい赤ワインの輝きからはじまります。

 そのときのエイドリアンの台詞

「あのティツィアーノが苦心しようとも、これほどの赤を作り上げることはできなかったでしょう(Titian would have gone mad trying to mix so beautiful a red)」

 で、出てくるティツィアーノは1500年代ヴェネツィアの画家です。

 2008年には彼の代表作「ウルビーノのビーナス」が来日して話題を集めました。

 エイドリアンもこの絵を思い浮かべ、この美にもまさるものとして、ワインへの愛と誇りを語っていたのでしょうか……。

 読んでくださってありがとうございました。
posted by Palum. at 06:11| 刑事コロンボ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年01月16日

コロンボ史上最もセクシーな被害者(刑事コロンボ「毒のある花」より)



2014年1月18日(土)BSプレミアムで刑事コロンボ「毒のある花(1973)」が放映されるそうです。
(公式番組情報はコチラ)

 ちなみに原題は「Lovely but lethal(直訳:美しい、しかし、致命的)」だそうです

 化粧品業界のやり手社長にして、その美しさで自ら広告塔も務めるビベカが、会社の命運を左右するような画期的な化粧品の機密をライバル会社に持ち込もうとしたスタッフ(彼女の元愛人)を殺害するという筋立てです。

 この間の「二つの顔」でもそんなこと言ってしまいましたが、ドラマとしての出来栄えは中の中(コロンボシリーズ内ではという意味です)。

 でも、まず、ビベカを演じたヴェラ・マイルズの美しさとファッション、コロンボと渡り合う凄味が見応えあります。

 ちなみに彼女はサスペンス映画「サイコ(1960)」で、行方不明の姉マリオン(実は宿泊先のモーテルで殺害されている。シャワーシーンでの刺殺シーンとカーテンをつかんで崩れ落ちる場面があまりにも有名)を探す妹ライラを演じています。

 妹ライラ役のときはしとやかな感じでしたが、今回はきついまなざしに優雅な声の、まさしく毒のある花の美を披露しています。(ちなみに日本語ふき替えの声がまたとても色っぽくて綺麗です。日本の声優さんって素晴らしいですね)

 今だと、彼女の年代(40代)ではあまり着ないような色や形の服で登場しますが(薄紫のスーツとかウェストシェイプの白いドレスとか)、オシャレです。今のこの世代の女性だって着ていいと思うけどなー。

 ヴェラ・マイルズの話が長くなってしまいましたが、今回私がご紹介したいのは、被害者カール役のマーティン・シーンのほうです。

 チャーリー・シーンのお父さんと聞くとピンとくる方も多いかもしれません。
 
 最新の出演作は「アメージング・スパイダーマン」、息の長い実力派俳優です。

 私はこの方主演の「星の旅人たち(2010年 スペインサンティアゴ巡礼をモチーフにしたロードムービー)」を観て、シクシクと泣いたのですが、ま、それはまたいずれ書かせていただくとして……。

 この、今はいぶし銀の名優が、まだ若くてハンサムな姿(当時30代前半、チャーリー・シーンに似てますが、やや小柄で、大きな瞳に憂いがあります)で、ヴェラ・マイルズと交わす殺気立ったやりとりのシーンが、短いながら個人的にはこの作品最大の見どころです。

 彼女にとって、彼は若い遊び相手の一人。

 しかし、彼は何もかもなげうってもいいほどに愛してしまった。

 本気の恋が、一時の手慰みの玩具のようにあっさりと捨てられてしまったとき、彼の心は怒りに震え、復讐を誓った。

 そういう過去や、激しくうずまく狂気にも似た愛憎が、虚無的な表情やくずれたしぐさの奥から漂い、現在の演技力につながる確かな実力を感じさせます。

 場所はカールの部屋。彼が重要な化粧品の秘密を盗み出したと知ったビベカが、彼に詰め寄ります。

 しかし、化粧品の開発に必要な化学式は、今や彼の頭の中にしか無いと知らされたビベカは、彼が他社に移ることを恐れ、大金を支払うことを申し出ますが、彼はそれだけでは首を縦に振りません。

以下、わりとシンプルな英語なので、少しだけ英語でなんと言っているかご紹介させていただきます(DVD字幕を写しただけですが)。つけた訳は直訳です。字幕や吹き替え版ではもっと巧い言い回しに変えられています。

「何が望みなの?(What do you want?)」

苛立ち交じりに聞くビベカ。

ソファに足を投げ出し、背もたれに頬杖をしながら座っているカール。

大きな瞳が、じっと、ただじっと、彼女を見つめます。

 その様子に、ビベカはとても意外に思いながら尋ねます。

「(望みは)……私?(You want……Me?)」

表情を動かさずに、かすかにカールはそれを認めます。

 そんなことならなんの問題も無い、とすり寄るビベカに、カールはさらに、もうひとつ、自分を共同経営者にしろと言い放ちます。

 はじめは激しく拒絶しますが、他にどうしようもないと思ったビベカは、屈辱を押し殺しながら、笑顔で同意します。

 そのビベカの返事に、カールははじめて笑みを浮かべ、彼女に手を伸ばし、その髪を撫でながらつぶやきます。

「君にはわからないだろう(You have no idea)」

「どんなに長い間この瞬間を待ち望んだか(how long I’ve waited for this moment.)」

「待って、計画して、そして今!(Waited and planed, and now!)」

 カールはビベカの首を折らんばかりに髪をつかんで、その目を見据え

「お断りするよ。ダーリン(No thank you darling)」

 憎しみを込めて言い放ちます。

 突きはなされたビベカは、背を向けたカールを、傍にあった顕微鏡で殴りつけて殺してしまいます。

 こうして普段のコロンボの謎解きがはじまるわけですが……。

 ご紹介した二人のやりとり、特に、ビベカに「望みは私?」と言わせ、静かに認めるまでの数秒のマーティン・シーンの沈黙とまなざしが非常に絵になってます。

 女性が観たら色っぽいとすら思うでしょう。(なんで記事タイトル「コロンボ史上最もセクシーな被害者」にさせていただきました。)

 この二人の過去の関係で作品作っても結構ゾクゾクするものになったんじゃないかなとすら思います。

 ごく短いやりとりなのですが、何度も見ると、二人の美貌と殺気と表情が味わい深いので、なんでしたら録画してお楽しみください。

 読んでくださってありがとうございました。
posted by Palum. at 19:56| 刑事コロンボ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年01月09日

二つの顔(刑事コロンボ・「優しい嘘と贈り物」のマーティン・ランドー出演)

 本日は簡単にご紹介まで。

 2014年1月11日(15:00〜16:44)BSプレミアムで1「刑事コロンボ『二つの顔』」が放映されます。

 NHKの放送予定紹介はコチラ

 富豪の叔父が、若い娘と結婚寸前、甥にミキサー(泡だて器)を浴槽に放り込まれて感電死。
 
 コロンボはすぐに遺産相続権のある甥を疑いますが、実は動機を持ちうる甥は二人、そして、双子でした。

 料理研究家で陽気なデクスターと、冷静な銀行員ノーマン。

 不仲の二人は、互いに自分の無実と兄弟の有罪を主張します。

 犯人が最初から分かっているケースが多いコロンボシリーズの中で、映像には犯人の顔が出つつ、デクスターとノーマンのどちらが犯人かがわからないという異色作です。

 実は、後味や謎解きの出来からいうと、個人的にはそんなに好きな作品ではありません。コロンボ・第一シリーズにつまらない作品などありませんが中の中。

 でも、この作品は、私がこよなく愛する映画「優しい嘘と贈り物(年配カップルの暖かく切ない恋のお話)」で主演した、マーティン・ランドーが容疑者役(デクスター/ノーマンの二役)です。(あんまり感じが違うので最近まで気づきませんでした〈汗〉)

 「優しい嘘と贈り物」では、子犬のような目をした、シャイでチャーミングな銀髪紳士を演じているマーティン・ランドーが、いずれにせよクセのある容疑者二人を声音や表情を使い分けて演じているところが見ものです。

 「優しい嘘と贈り物」がお気に入りの方は、彼の演技力や年の重ね方がわかって興味深いと思います。よろしければご覧になってみてください。

 「優しい嘘と贈り物」をご紹介した過去記事はコチラです。@ご紹介編 Aネタバレ編(ご覧になっていない方は絶対にお読みにならないでくださいね……)

 BSプレミアムではこの後「毒のある花」「別れのワイン」を放映するようなので、それぞれ個人的に好きな部分を追ってご紹介させていただきます。よろしければご覧ください。

posted by Palum. at 07:05| 刑事コロンボ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
カテゴリ