2024年02月23日

ドラえもん「のら犬イチの国」のび太と野良犬イチの心温まる物語

一緒に遊ぶイチ - コピー.jpg

 「のら犬イチの国」はのび太が自分になついた野良犬「イチ」を、動物ぎらいのママに隠れてこっそり飼おうとするお話。
ドラえもんの協力があっても、エサや散歩など、生き物の世話を秘密でするのは大変で、のび太はイチを守るのに苦労する。
同じころ、ニュースでは、それまで知られていた人類の文明より、はるか昔の遺跡が発見された話題で持ち切りだった。

 意外な結末の名作、とくに最後の一コマがすばらしい。

 そして、イチがとてもかわいい。
待ってた - コピー.jpg

ラブラドール・レトリバーの血をひいているような、大きい犬ならではの頼もしい温かみもあり、優しく聡明な瞳は、犬という生き物の魅力に溢れている。

(のび太をジャイアンから守ってくれるイチ)
ジャイアンから守ってくれたイチ - コピー.jpg


 イチとのび太の絆が描かれたシーンを読めば、犬の親友がいる人は、きっと自分の大事な犬を思い出すだろう。



【あらすじ】

 一度エサをあげたことがきっかけで、のら犬になつかれたのび太。
本当は飼いたいけれど、ママが極度の動物嫌いで、とても許してくれそうにない。

 それでも、庭のかげの「壁掛け犬小屋」でこっそり飼うことに。
鳴き声の「ワン」にちなんで「イチ」という「国際的な名前」をつけ、犬と絆を深めるのび太。

 しかし、隠れて犬を飼うのはやはり大変だった。

見えすいた言い訳 - コピー.jpg
(冷蔵庫からよく食べ物が消えることについてママに詰問され、「夜中に勉強してるとお腹が空いて」とごまかしたものの、直後に「ちょっと見えすいた言い訳だった」と悔やむのび太〈「ちょっと」……?〉)

 しかも、優しいイチが、捨て猫を「一緒に飼ってほしい」と頼んできたので、状況はますます厳しくなってしまう。
ネコが心配 - コピー.jpg

一緒に飼ってほしい - コピー.jpg

(最近はSNSや動画で、種類の違う生き物にも優しい動物の話題が見られるので、イチの性格にリアリティを感じて、いっそう染みる。〈猫もとてもかわいい。そして元は飼い猫だったことをうかがわせる首のリボンがせつない〉)
断られて悲しむイチと猫 - コピー.jpg
見つかってしまったイチと猫 - コピー.jpg

 ついにママに見つかり、追い出されたイチと猫を、せめて彼らが自力で暮らせそうな山奥に連れて行くのび太とドラえもん。

 ところが、そこには、保健所の檻が壊れて逃げ出した犬猫が、すでにたくさんいた。

これだけの生き物が食べるものが山にあるとは思えない、ゆくゆくは人里に食べ物を探しにきて、トラブルになってしまうかもしれない。

 見捨てることができずに、みんなをスモールライトで小さくして連れ帰ったふたり。

 途方にくれたドラえもんは、小箱の中の犬猫の鳴き声を聞きながら、ポロリと泣いた。
せっかく生まれてきて住むところもないなんて - コピー.jpg

「かわいそうなもんだなあ。せっかく生まれてきて、住むところもないなんて」

のび太もくやしがった。

「無責任に犬やネコを捨てる人間が悪いんだ!!」

「そうなんだ。だいたい人間は自分かってな生き物…。」
人間は自分勝手な生き物 - コピー.jpg

そのとき、ドラえもんは、解決策をひらめいた。



(ご注意:以下、結末部内容)



 ふたりは、タイムマシンで、人間がいない昔に、動物たちを連れて行ってあげることにした。

 まだ恐竜もいない、三億年前、ここなら犬猫たちは安全に暮らせる。

 「進化放射線源」で進化したイチが、「無料ハンバーガー製造機」(クロレラを培養して人工肉を作る機械)を操作できるようになったのを見届けると、のび太は、別れ際にイチに言い聞かせた。

「きみは勇気もあるし、りっぱなリーダーになれるよ」

 こうして現代に戻ってきたのび太とドラえもん。

 テレビでは相変わらず、「三億年前の謎の文明」が話題になっていた。

 「ひょっとして!」

何かに気づいたドラえもんはのび太を連れて、イチたちと別れたときから千年後に行ってみた。

 そこには、洗練された高層建築が整然と立ち並ぶ大都市が広がっていた。

 犬猫たちは、残された「進化放射線源」でさらに進化していたのだ。「謎の文明」を創り上げたのは、人間ではなく彼らだった。

 しかし今は町に誰もいない。

 いや、ただひとり、鞄を持って、二本足で歩いてきたのは……。

「イチ!!」

のび太たちに声をかけられた、イチそっくりの若い犬は足を止めた。その名前には聞き覚えがあった。

「ご先祖にそんな名前の方がいました。遠い昔です。我が国の初代大統領です」

 今、この町に誰もいないのは、気候変動が予測され、みんなすでにほかの星に移住したからだった。

忘れ物をとりに来たイチの子孫は、そのことをのび太たちに教えてくれたあと、UFOのような乗り物で去って行った。


 いつの日か、どこかの星で、イチの子孫とのび太たちの子孫が会える日がくるかもしれない。

 現代に帰ってきたのび太とドラえもんは、そんな未来に思いをはせた。


 また別の日、近所の空き地で、子供たちが「謎の文明」の本を見ていた。

本の遺跡写真を見せている指の主は、おそらく出木杉君だろう。

神殿の神様 - コピー.jpg

「寺院跡から出てきた神さまの彫刻が、ほら!野比くんそっくり!!」

 遺跡の神像は堂々たる翼と獣の体を持ち、頭に大きな光輪を戴きながら、その顔はまさにのび太そのもの。
三億年の年月にも朽ちることなかった「神さまのび太」は、丸い眼鏡の奥の瞳で天を見据え、超然と座していた。

「アハハ!けっさくだ」

ジャイアンとスネ夫は、神像の「神々しい姿」と「のび太に激似の顔」のギャップに大笑いしていた。

 ちょうどそこにのび太とドラえもんが通りかかったが、空き地の会話には、気が付かなかった。


  ―(完)―



 子供のころにこの作品を読んだときには、ジャイアンたちと一緒にオチの「のび太神像」に笑っていたが、今回再読して、やっぱり一度は笑い、でも、そのあとじんわり感動が湧いてきた。

 一緒に暮せた時間は短かったけれど、深い愛情を注ぎ、自分と猫たちのために一生懸命になってくれたのび太のことを、イチは初代大統領となった後も、「神さま」と思っていたのだ。

 そして、立派な神殿を建ててのび太の像を据え、その思いを後世にまで遺した。

 ジャイアンたちと我々読者は、普段ののび太のイメージのせいで、つい笑ってしまうけれど、イチには、おかしくもなんともない、彼の透んだ瞳に映るのび太は、「神さま」の像そのままの、世界で一番立派で素晴らしい存在だったのだろう。

さびしかったの? - コピー.jpg

神様のび太 - コピー.jpg

 イチの、のび太への深く純粋な感謝の気持ちが、あの「神さま」の像に、こめられていたのだ。




『ドラえもん』てんとう虫コミックス22巻には、このほかに、

・田舎から出てきたおばあちゃんを「迷信深い」と馬鹿にするスネ夫に、ドラえもんが「科学がすべてではない!」と思い知らせる「しつけキャンディー」

・ジャイ子がのび太に恋をしていると思ったジャイアンが、脅迫とともに仲をとりもとうとする「ジャイ子の恋人=のび太?」

・子供たちの間で税金を徴収して、経済格差を是正しようとする「税金鳥」

・のび太が悪魔から「小銭300円と身長1oを交換するカード」を受け取ってしまう「デビルカード」

などの名作が収録されている。



【補足1】

 大長編ドラえもん『のび太の大魔境』(1981年8月連載、1982年映画公開)は、犬のペコが活躍し、アフリカの奥地にある大魔境を探検する物語。

 「一度エサをあげた犬がのび太についてきたので、こっそり飼おうとする」、「アフリカ奥地に秘められた文明」などの設定は、「のら犬イチの国」がもとになっているのかもしれない。こちらも感動的な名作。
(イチとペコの、黒目がちな瞳のイケワンぶりにも共通点がある)



【補足2】

 今回「ドラえもんチャンネル」HPで「のら犬イチの国」とともに2024年2月27日昼まで公開予定の作品「恋するドラえもん」「名画(?)と鬼ババ(エスパー魔美)」「メフィスト惨歌」はいずれも名作ぞろい。

 とくに「名画(?)と鬼ババ」は『エスパー魔美』屈指の傑作なのでお見逃しなく。

(「名画(?)と鬼ババ」収録巻 魔美のパパが描いた穏やかな田舎の風景画を、血も涙もないような高利貸しの女性がもぎ取ろうとする話)

(「恋するドラえもん」収録巻、ドラえもんが好きになる上品なペルシャ猫さんがほんとうにかわいい)

(「メフィスト惨歌」収録巻、NHKで実写ドラマ化もされた(又吉直樹さん・遠藤憲一さん主演)。藤子F先生はシニカルな大人向け作品にも秀作が多い)



posted by pawlu at 11:22| ドラえもん | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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