【作品について 感想】
人は皮膚でも色を感じるかについては「目隠しして、同じ室温の『赤い部屋』と『青い部屋』に入る」という実験でも確認されているそうだ。青い部屋に入った人は、皮膚の表面温度が上がらず「涼しい、なにかスーッとする、気持ちがよい」と言い、血圧、呼吸数、筋肉緊張が下がり、脳波はアルファ波(ぼんやり目覚め状態)が主流の状態となった。(赤はその真逆で、被験者たちの皮膚の表面温度が上がり、暑さと息苦しさを訴えたという)(現代アートのわかりかたがわかっていない自分には、暑い日に作品を観たのも良かった気がする。「外は暑い」の実感があったから、あの青がいっそう染みた)
ペー・ホワイト作「ぶら下がったかけら」も、かけらの色や形だけでなく、あともう少しでかけらたちが触れ合ってさらさらと鳴りそうな隙間の空気、床に落ちる、重なり合って蝶のような影、天井から釣られた糸の、淡い緑の静かに流れ落ちる滝のような気配を感じた。
この展覧会は、撮影許可エリアもあるが、「レイマ―・ブルー」は撮影禁止になっている。
きれいだから残念な気もするが、これには権利問題以外の意味があると思う。
❝光を表現の手段として用いた作品についてタレルは、次のように述べています。「私の作品には対象もなく、イメージもなく、焦点もありません。対象もイメージも焦点もないのに、あなたは何を見ているのでしょうか。見ている自分を見ているのです」。(展覧会場解説文より一部抜粋)
あの部屋にいるときは、「撮る自分」を忘れて「観る自分」になる、そして観る者が青に浸された自分の感覚に気づく体験、それそのものが作品の大切な一部なのだ。
絵でも物を形作った彫刻でもないからはじめはかなりわかりづらかったけれど、あの空間に立てて本当によかったと思う。
【作者ジェームズ・タレル氏について】
(作品を語るジェームズ・タレル氏)
ジェームズ・タレル氏は、知覚心理学、天文学を学んだ後、芸術の世界へ進んだ。
また、パイロットとしてご自身が操縦する飛行機で空を飛んでいるときに得た感覚が、作品のイメージの源泉になっている。
(操縦室のタレル氏 おそらく1970年代の写真)
あの、不思議な光の空間は、タレル氏の実体験と、人と自然と宇宙のつながりに思いを馳せる、信仰にも似た壮大で瞑想的な世界観、そして緻密な理知から生まれている。
(大作の構想を練る様子 詳細な設計図が引かれている)
(ニューヨーク「グッゲンハイム美術館」の展示のために、機器で光を調整するタレル氏)
ジェームズ・タレル氏ご本人が作品を語っていらっしゃる動画も、とても魅力的だった。
お声が、あの青のように、人の心の奥底までゆっくりと沈んで染みわたるように、深く穏やかに響く。
ご自身の魂と知性から湧き上がるものを作品にし、作品を創り上げることを通じて魂と知性が深化していく、その確かな時間の流れが、風貌と声から滲みでている。
タレル氏は「光を、まるで触っているように感じてもらいたい」、そして、ご自身の創作にとって大切なことは「言葉にできない思考の経験を創造する」ことだと語っている。(※『テート美術館展 図録』p.18/HP「Introduction」)
❝「タレルの光のインスタレーションは、内省と熟考の状態を生み出し、鑑賞者に知覚のプロセスに気づくよう促すことを目的としている」(テート美術館HP解説)
あの美しい青い部屋は「脳を冷まし、皮膚が光を飲んで涼しくなる」という新鮮な感覚の経験を通じて、その場にいた私の思考に、静けさと奥行を与えてくれた。
青に洗われた思考は、他の作品の既にそこに在る美しさを、より鮮やかにとらえることができた。
作品を創る人々が「光をどうとらえたか」を知ることは、私たちがこれから先「自分自身の内面を含めた現実をどうとらえるか」という心の問題につながっている。
タレル作品の光は、観た人の内側に呼びかけて感覚と思考を目覚めさせ、その言葉にはできないけれど大切な力は、感触の記憶として、私たちの内面を、静かに照らし続けるのだ。
ジェームズ・タレル氏のそのほかのおすすめ動画
(補足)超大作「ローデン・クレーター」
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🌃夜間開館追加決定🌃 #テート美術館展 は大好評につき夜間開館日を追加いたします!
− テート美術館展 光 − ターナー、印象派から現代へ (@Tate2023Exhn) August 29, 2023
毎週金・土曜日に加え、【 9月25日(月)・27日(水)・28日(木)・10月1日(日)】も20:00まで開館いたします(入場は19:30まで)。… pic.twitter.com/LY7Ye9xjXb
10/26開幕|ジェームズ・タレル《レイマー、ブルー》1969年#テート美術館展 では、まさに「光」を用いた大型インスタレーション(空間芸術作品)も多数出展。本作は日本会場限定の展示作品のひとつ。青く美しい光の空間をお楽しみいただけます✨
− 大阪中之島美術館 (@nakkaart2022) September 28, 2023
c 2023 James Turrell. Photograph by Florian Holzherr pic.twitter.com/hdcd8Hmtpu
【大阪展】LIGHT! LIGHT! LIGHT!
− テート美術館展 光 − ターナー、印象派から現代へ (@Tate2023Exhn) August 29, 2023
本展はこの秋10/26から大阪中之島美術館へ。
大阪展は「LIGHT」のロゴが目印。
小さいネオンが集まりチカチカと輝くデザインに気分がアガります☆
▽【大阪展】開催情報など詳しくは https://t.co/qGFMzuwPjj#大阪中之島美術館 #TateLight… pic.twitter.com/SCcMtJgwSx
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