特に改めて注目したいのは、『獄門島』の長谷川博己版金田一耕助だ。(初回2016年11月放送)
(NHK番組情報)終戦直後、瀬戸内の孤島を訪れた金田一耕助(長谷川博己)。僧の了然(奥田瑛二)の案内で島の実力者・本鬼頭家にやってきた金田一は、そこで美しい女性・早苗(仲里依紗)と出会う。さらには島に似つかわしくない奇抜な風体の3姉妹にも。そしてある晩、末妹の姿が消える…。金田一耕助再起動! 数々のミステリー・ランキングで1位に輝く横溝正史の最高傑作! 封建的な島で繰り広げられる怪奇な連続殺人の謎に金田一が挑む!
敗戦後、戦地から日本に帰る復員船の中で、マラリアの熱に蝕まれて死んだ友、鬼頭千万太(きとうちまた)が、金田一に託した奇妙な遺言。
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むんむんするよう な復員船の熱気のなかで、 腐った魚のように死んでいっ た鬼頭千万太。その千万太が、最後の呼吸とたたかいながら、あえぎあえぎ、くりかえしくりかえし言い残していったことば……。「死にたくない。おれは…… おれは……死にたくない…… おれがかえってやらないと、三人の妹たちが殺される…… だが…… だが…… おれはもうだめだ。金田一君、おれの代わりに…… おれの代わりに獄門島へ行ってくれ……」(小説『獄門島』より)
なぜ、千万太が生きて戻らなければ、彼の妹たちが殺されるのか。
理由を聞けないまま、彼の妹たちを守るために、千万太の故郷の「獄門島」を訪れた金田一耕助だが、悲劇を食い止めることはできなかった。
最高傑作とも言われる原作を、極力忠実にドラマ化しつつ、虚ろさの陰にかつてないほど激しい怒りを秘めた金田一像が描かれている。
個人的には、あの作品には、横溝正史の文章だけが表現できる凄みがあると思うし、過去に観た時には、ドラマの解釈はやや過剰なような気がしていた(映像版では石坂浩二の優しい目をした金田一が好きだったのもあって)。
でも、コロナや世界情勢の変動を経て、あのドラマ版を顧みると、身勝手な考えで他人の命を軽んじた犯人への怒りは、戦地に送られ、見捨てられた金田一本人と、死んでいった友人の、どうしようもない無念でもあったのだと気が付いた。
(彼は帰国して間もなく獄門島に向かっている。あの殺気だった危うさは、心の傷がまったく風化していないからかもしれない)
今なら「あの金田一の怒り」が、よくわかる。
ドラマと併せて、ぜひ原作もおすすめしたい。
戦中を生き抜いた横溝正史の名文が描き出す、過酷な時代と風土が招いた悲劇。
その重厚な迫力と哀切は、推理トリックの妙以上に読者を圧倒する。
また、横溝正史ファンのJETさんが手掛けた漫画版も、独特の妖艶な不吉さの漂う絵で、原作の空気を巧みに表現している。
(金田一の前に姿を現した、鬼火をまとうような美しい三姉妹)
とくに、結末部の衝撃、「背後にあった運命が目の前に現れ、すべてを絡めとってさらっていく」ような光景は、原作にも無く、漫画だけ、美しさと恐ろしさがたゆたうJETさんの絵だけが表現できる迫力があった。
\NHK版 #金田一 シリーズ一挙放送/
− NHKドラマ (@nhk_dramas) July 20, 2023
【#獄門島】
【#悪魔が来りて笛を吹く】
【#八つ墓村】
【#犬神家の一族】
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市川崑監督、石坂浩二が金田一耕助を演じた映画版