2023年06月07日

藤子・F・不二雄の名作SF短編「イヤなイヤなイヤな奴」NHKで実写ドラマ放送

(ドラマ版ミズモリ〈増田貴久〉と原作漫画のミズモリ)
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画像出典: NHK HP

マンガミズモリの笑い - コピー.jpg


 ドラえもんの作者、藤子・F・不二雄の短編「イヤなイヤなイヤな奴」がNHKで実写ドラマ化される。


 物資輸送の宇宙船という密室で、次第に張りつめていく人間関係。みんなの嫌われ者のミズモリの行動が引き金となり、全員の怒りがついに爆発。
 だがその後、事態はいがみあっていた乗組員たち同士も予想しなかった危機的状況を迎える。

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原作漫画の発表は1973年4月(ビックコミックス掲載)。

 子供たちを夢中にさせたドラえもんに、ひそかに紛れ込むシビアで不気味な影のように、世の中や人間の現実を見抜いていた藤子F先生の洞察が閃く。
(ちょうど50年前の作品だが、その洞察の鋭さは、1970年代の延長線上に発展しながら、次々問題が噴出している今、いっそうの冴えを見せている)
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藤子・F・不二雄先生 
藤子F不二雄先生写真 - コピー (2).jpg

 藤子F先生の長女の匡美さんは、「父は真面目で丁寧で、優しく、悲しませるわけにはいかない人だった」(※)と、思い出を振り返っていらっしゃるし、そのお人柄が作品にもお顔にも表れているけれど、こうしたシニカルな世界観の作品にも、数多くの名作がある。

(前編)
宇宙船が任務を終え、船長ツキシマ(竹中直人)と5名の船員を乗せて地球へと帰還中。長い航行で船員たちのストレスも限界。血気盛んな機関主任ヒノ(萩原聖人)は航宙士キヤマ(野間口徹)がポーカーでいかさまをしたと激高。通信士のキンダイチ(飯島寛騎)と機関助手ドイ(浅利陽介)がなだめようとするが乱闘騒ぎになりかける。様子を見ていた整備士ミズモリ(増田貴久)は、賭け事は服務規程違反と知りつつ船長に告げ口し…

 宇宙船という逃げ場のない空間で、ストレスをためてゆく乗務員たち。人間関係の悪化は、「悲劇」と呼ばれるほど深刻な事態を引き起こす。
(そしてそれは「長距離宇宙船につきものみたいになってる」というほど頻発する)
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 ミズモリたちが乗る「レビアタン号」(※)も、地球への帰還を間近にしながら殺気立ち始め、全員からまんべんなく嫌われているミズモリ、そしてそれ以外の乗員同士の関係も、一触即発状態になっていく。

(激情型のヒノにおもねるドイ)
気に食わない奴が多すぎる - コピー.jpg

(ヒノとキヤマのにらみ合い〈地球の自然を仮想体験する「実体感映画」の「環境浴」も、彼らのストレスを解消しきれない〉)
マンガ対立、いやらしい笑い方 - コピー.jpg

 実写ドラマ版のミズモリを演じる増田貴久は、容姿だけ見ると原作にまったく似ていないのだが、普段の好青年な雰囲気を反転させて、得体のしれない男の不気味な笑みを浮かべている。

(「ミズモリの笑い方は原作通り「フェーヘッヘッ」とやりたいなと思って」練習したそうだ。ミズモリの逆チャームポイントが実写だとどうなっているだろうか)※出演者コメントより

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画像出典: NHK HP 予告動画

 鋭いストーリーの中で、竹中直人ら演技巧者たちのキャラクターと対立する、すこぶるつきの「イヤな奴」を演じるのは、やりがいのある大仕事だろう。
ドラマヒノ船長キヤマ - コピー.jpg
画像出典: NHK HP

(乗組員のキンダイチが可愛がっている「アルタイル犬」のムックも実写版に登場。藤子F先生のデザインを忠実に再現しつつ、原作よりモコモコ度が増していてかわいい〈彼の鳴き声が他の乗組員を逆なですると、ミズモリが「アルタイル犬の試食会を開こう」と不穏なことを言う〉)
ドラマムック - コピー.jpg
画像出典: NHK HP

 原作は、幕切れが鮮やかで、スリリングだけれど、気力が削られるようなストーリーではなく、繰り返し楽しめる。

 個性の違う乗組員6名の、対立と結託の人間模様は、舞台劇にも似ていて実写向きだと思うし、ドラマ版も全員の演技力の見せどころが多い作品になっているはずだ。
イヤなイヤなイヤな奴番組情報 (2) - コピー.jpg
画像出典: NHK HP

ドラマ銃を向けるミズモリ - コピー.jpg
画像出典: NHK HP

(ドラマ出演者全員が、優れたストーリーと共演者の顔ぶれを喜び、演じていて楽しかったと語っていらした出演者コメントより


【Twitter情報】








【補足】ミズモリたちの宇宙船の名前、「レビアタン(別名リヴァイアサン)」は、旧約聖書に登場する海中の聖獣、または悪魔の名前。渦を巻いて船を飲み込む生き物とも言われている。
哲学者トマス・ホッブスの国家の政治哲学を解く著書「リヴァイアサン」のタイトルにもなっている。(Wikipediaより

(原作「イヤなイヤなイヤな奴」収録単行本)
大人向け作品代表作のひとつ「ミノタウロスの皿」も収録されている。
(前出の匡美さんのエッセイも併録。藤子F先生のお人柄や生活が家族の目から語られた魅力的な文章だった)

(その他の画像出典)
(楽して大金持ちになろうとするのび太にドラえもんが冷酷な笑みを浮かべて鉄槌を下す「円ピツで大金持ち」のほか、感動の最高傑作「のび太の結婚前夜」と恐怖の最高傑作「ヘソリンガスで幸せに」が収録された、ドラえもんファン必携の一冊)


【参照】

(NHKドラマシリーズのYoutubeドラマ予告)


(ドラマ関連情報)
【NHK HP情報】

【ドラえもんちゃんねる】

※Youtube概要欄より
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posted by pawlu at 22:55| ドラえもん | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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