(漫画『犬神家の一族』表紙)
(犬神家の人々の姿をした菊人形の中に「あるもの」をみつけた金田一耕助)❝
戦後まもなく、信州の旧家「犬神家」で起きた連続殺人事件を描いた横溝正史の代表作『犬神家の一族』(1951)
謎の覆面男「スケキヨ」や、湖面から逆さに両脚を突き出した死体など、衝撃的なビジュアルで、繰り返しドラマや映画、漫画化されている。
※NHK BSドラマ『犬神家の一族』放送予定(※当ブログNHK版ドラマご紹介記事はこちら)【再放送決定】2023年5/21(日)、5/28(日)午後4時〜5時29分<前後編>BSプレミアム
(戦争で顔を負傷した佐清(すけきよ)が犬神家の人々の前で頭巾をとる場面。その下はさらにゴム製のマスクで隠されていた。)❝
長尾文子作画版漫画『犬神家の一族』は、横溝正史と同時代を生きた挿絵画家たちを思わせる、緻密で美麗な作画と、原作に忠実な展開が見どころの作品だ。
横溝正史と、彼の先輩江戸川乱歩が活躍した時代、推理小説の傑作たちには、トリックの謎とともに、もうひとつの謎があった。
身の毛がよだつほど恐ろしいのに、凶悪な出来事が起きているのに、作品としてはどこかで「美しい」と思わされてしまう、得体のしれない世界観。
それは現実の犯罪より、魔性の気配に似ている。
(その後、松本清張が、徹底した取材で、現実社会の様相をより色濃く反映した作品を産み出した)
市川崑監督版映画『犬神家の一族』(1976)にもその謎めいた魅力が充満しているが、それよりも先に、彼らの小説の世界観を目に見える形にしたのが、同時代の挿絵画家たちだった。
【参考】(岩田専太郎(1901〜1974)の作品集表紙 横溝正史と乱歩の挿絵を手掛けた画家のひとり。美人画でも人気を集めた)
当時の挿絵画家の多くは、着物や、当時の風俗、人々のこまかな仕草まで、日常として目に焼き付けてきた。
そして何より、彼らは、作家や登場人物と同じ、命が今よりもはるかに儚く、潔癖も退廃も極端な時代の空気を吸って生きていた。
そういう画家たちが描いた挿絵は、線が自在で、闇が濃く、こちらの視線が否応なく吸い込まれるような鮮烈さと緊張感があった。
もう、現代では観ることができないタイプの絵だろうと思っていたのだが、この漫画の絵には、そうしたかつての挿絵に通じる迫力がある。
しかもそれが一コマ一コマ展開していくのだから、横溝正史や乱歩の挿絵に魅了されたことがある読者には、とても贅沢な眺めだ。
(とくに、欲望と憎悪渦巻く人々が集結する場面の、張り詰めた空気が見事)❝❝(着物の皺や、全員の立ち居振る舞いも細部まで描きこまれている)
物語の恐ろしさと美しさの核である、女性たちの描写(とくにまなざし)も素晴らしい。
(佐清の母、松子)❝❝(犬神家の莫大な遺産をただ一人相続することになった美女、珠世)❝(珠世が佐清に時計を見せる場面 伏せた目に気品と艶が漂う)❝
金田一耕助は冴えない風貌のはずが美青年ではないかというのは、「そんなこと言ったら石坂浩二も二枚目だ」ということで……この顔がたまにコミカルになって、原作の愛嬌を表現している。
❝(髪の線の描き方に昔の版画の彫りのような趣がある)(ドラマや映画ではよく省略される、ある重要な場面での金田一のスキーの腕前も、この作品では見ることができる。クライマックスを目前に挟まる、ちょっとかわいいシーン)❝
長尾文子さんが漫画化した横溝正史の最高傑作『獄門島』は、現在入手困難らしいが、ぜひとも読んでみたい。
(もうひとりの横溝正史漫画の名手、JETさん版の『獄門島』も素晴らしいけれど、ドラマが何回も作られるように、作者によってそれぞれの良さがあるはずなので、復刊を本当に心待ちにしている)
【当ブログ関連記事】横溝正史の代表作「犬神家の一族」ドラマ版NHKで 4/22・29(土)夜9時放送
【補足】
長尾文子さんの作品には、横溝正史などの推理もののほか、中国の昔話や、日本の歴史ものなどがある。
(表紙とタイトルが怖いけれど、中身は芥川龍之介の「杜子春」のような中国の伝奇物語集)
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