(犯人の画家バーシーニの絵を観察するコロンボ)
(Image Credit:Youtube)(C) 1988 Universal City Studios, Inc. All Rights Reserved.
「殺意のキャンバス」(1988年)は、天才画家画家バーシーニが、彼の前妻を、溺死に見せかけて殺害するストーリー。
NHK放送予定:BSプレミアム 9月3日(土)午後4:28 〜
前妻の隣の家に住み、現在の妻と若いモデルと同棲するバーシーニのキャラクターは、多くの愛人を持ったピカソがモデルと考えられている。(※)
だが、作中に登場する彼の(捨てた前妻に依存しながら彼女を殺すという酷い人間性と裏腹の)美しい絵は、おそらくアメリカの国民画家、エドワード・ホッパーとアンドリュー・ワイエスの作品がモデルとなっている。
(※)「刑事コロンボ 完全捜査ブック」p.154 「episode50 殺意のキャンバス」解説
バーシーニの「ヴィトのバー」の絵と、エドワード・ホッパー作「ナイトホークス(Nighthawks)」
バーシーニは前妻ルイーズ殺害のアリバイ作りのために、昔なじみのヴィトのバーに行く。
「二階の部屋(元はバーシーニとルイーズが住んでいた場所)に一日こもって、店の絵を描いてやる」
今は売れっ子のバーシーニにそう言われたヴィトは大喜びで、店を一日バーシーニの貸し切りにする。
当日、バーシーニが持ち込んだ純白のキャンバス。
しかし、実はそれは二重になっていて、すでに完成したバーの絵が隠れていた。
二階の部屋を抜け出し、ルイーズを殺して戻ってきたバーシーニ。
利用されたと知らないヴィトは、絵を見て狂喜乱舞する。
「素晴らしい!傑作だよバーシーニ!!」
長いカウンターごしに話し込む客と店の主人、閑散とした空間に際立つ鮮やかな赤、独特の遠近感と、どこか哀愁漂う光と影。
(Image Credit:Youtube)
それはエドワード・ホッパーの「ナイトホークス(「夜更かしする人々」の意味)」を思い出させる。
ホッパーは、都会、または郊外の寂寥感漂う情景を描いた作品で知られ、「ナイトホークス」はアメリカ近代絵画でもっとも有名な作品のひとつだ。
(オバマ前大統領がホッパーの風景画を大統領執務室に飾ったこともニュースになった)
ホッパーの作品は、誰もいない屋外の風景を描いたときには孤高の静けさがあり、むしろ、「ナイトホークス」のような、人間が描かれている都会の絵ほど寂しさが漂う。
「ヴィトのバー」の絵は、そんなホッパーのテイストを巧みに取り入れている。
(ヴィトはとてもにぎやかで陽気なので、彼がいるとあまりホッパー風ではないのだが)
このヴィトのバーの絵は、のちにコロンボの捜査の重要な手掛かりになる。
バーシーニとアンドリュー・ワイエスのヌードの絵
(Image Credit:Youtube)
バーシーニが描く、美しいヌード。
「ヴィトのバー」の風景画とは全く違う、写実的で緻密な描写と、肌を透かして内側からにじむような光、少し沈んだ色使い。
この作風は、ホッパーと並ぶ、アメリカの国民画家、アンドリュー・ワイエスがモデルになっているのかもしれない。
アンドリュー・ワイエスは、ヘルガというドイツ系女性をモデルに、優れた裸体画を描いた。
しかし、その作品が、ワイエスの妻にも長年隠されていたため、1985年、マスコミがヘルガの絵の存在をセンセーショナルにとりあげた。
彼女を描いた絵の多くがヌードであったために、世間はワイエスとヘルガの間に男女関係があったのではないかと疑ったが、二人はそれをともに否定した。
(※『アンドリュー・ワイエス作品集』高橋秀治p.68〜71「ヘルガ――画家とモデルの揺るぎない関係」東京美術)
ワイエスはヘルガの存在と、自分との関係をこう語っている。
❝彼女は私の完璧なモデルであった。彼女が完璧でありえたのは、一生懸命に良いモデルになろうとしていたからだ。画家とモデルの間には、ある関係が成立していなければならない。それは性的な関係ではなく、一緒のキブ・アンド・テイクの関係だ。モデルが冷たくて、自分がしていることに興味を示さない場合は悲劇だ。あるいは、モデルが自分のやっていることを仕事だと思っている場合も、だめだ。(中略)ヘルガは休みなしにポーズをとってくれた、かえって、私のほうがくたびれてしまうと、「何を言っているの、私はまだ疲れていないんだから、もっと続けましょうよ」と言うのだ。(「アンドリュー・ワイエス展」カタログ 1995 p.156「83 ローデン・コート」ワイエスによる自作解説)
「殺意のキャンバス」は、このマスコミの騒ぎから約3年後の作品なので、ワイエスの絵とヘルガのエピソードを知っている人なら、バーシーニの描くヌードと、それらを重ね合わせたかもしれない。
ただし、バーシーニのモデルのジュリーは、若く美しいが、良くも悪くも正直で、冒頭からポーズをとりつつも「おなかがすいた」「体が痛い」と文句タラタラだし、バーシーニと露骨に愛人関係にあって、現在の妻ヴァネッサは自分の立場をあやうくすると思って彼女をとても嫌っている。
ドラマは、ワイエスのゴシップを最大限俗っぽく解釈し、ジュリーをヘルガとは真逆のキャラクターにし、ワイエスの絵の空気は取り入れたのかもしれない。
ところで、ワイエスはバーシーニとは(全然)違って静かな人物で「少年時代からその生活を変えることなく、アメリカの地方で暮らす人々とその周りの自然を見つめ、自分の描きたいもの、心動かされたものだけをひたすら描き続け」た。(※同『作品集』p.187「あとがき」)
その、超絶技巧が描き出した、物思いにふけるような、清澄でしんとした静けさの漂う作品は、『ピーナッツ(スヌーピー)』の作者チャールズ・シュルツ氏や、イギリスのコメディグループ「モンティパイソン」のメンバー、マイケル・ペイリンなど、すぐれたアーティストたちにも深く愛されている。
❝(『完全版 ピーナッツ全集 9』p.299 1968年11月25日発表)
※2022年8月現在、動画配信サイトhuluで、新旧「刑事コロンボ」シリーズが配信中
(C) 1988 Universal City Studios, Inc. All Rights Reserved.
(当ブログ関連記事)
(ナイトホークスの解説動画)
(アンドリュー・ワイエスの解説動画)
アンドリュー・ワイエスがどのように絵を描いたか
【画像引用動画(英語音声)】
Columbo's Portrait Act I | Columbo
(参考文献・資料)
Wikipedia
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