「大長編 のび太の宇宙小戦争」は、ドラえもんたちと、小さな宇宙人が住むピリカ星の少年大統領「パピ」が、独裁者に支配されたピリカ星の自由を取り戻すため戦う物語。
大長編ドラえもん6 のび太の宇宙小戦争 (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄
(※2022年5月現在、リメイク映画公開中。世界情勢の問題にリンクしているとして「どくさいスイッチ」とともに話題を集めている)
(リメイク映画紹介動画)
今回はこの漫画の名場面をご紹介。
(当ブログの作品あらすじご紹介記事はこちら)
目次
この場面までのあらすじ
しかし、ピリカ星を乗っ取った独裁者ギルモア将軍の側近ドラコルル(諜報機関PCIAの長官)は、再びパピを捕え、見せしめの処刑のためにピリカ星へ連行する。
パピと友達になっていたドラえもんたちは、パピの愛犬「ロコロコ」に、パピがPCIAにつかまったことを知らされる。
ロコロコは、ギルモアに反抗するピリカの人々とともに戦うために、パピを迎えにきた密使だった。
パピをかくまっていた秘密基地で話し合うドラえもんたち。
(この時、ドラえもんたちは、スモールライトでパピと同じ大きさになっていたが、ドラコルルにライトを奪われてしまい、元の大きさに戻れなくなっている)
しずかちゃんは、パピはドラコルルの人質になった自分を解放するために、身代わりで捕まったと話し、泣き出してしまう。
「泣いてもはじまらない。問題はこれからどうするかということだ」
「どうするかだって!?きまっているじゃないか!!」
ドラえもんの言葉に、ジャイアンはこぶしを振り上げて立ち上がった。
「ピリカ星へなぐりこみよ!!ギル……なんとか将軍をぶっとばして、パピをかっさらってくるんだ!!」
スネ夫は青くなった。相手は軍隊だ。見たことも聞いたこともない星の。
「ぼくらが宇宙戦争なんかはじめて勝てるわけない!」
「やるっきゃないんだよ!」
やらなければ、パピが殺される。
持ち去られたスモールライトを取り戻すことに望みを賭けて、ドラえもんたちはパピの残したロケットでピリカ星を目指すことにした。
ロコロコ、「話相手」になる(ジャイアンとスネ夫のロケット内での行動)
ピリカ星へ向かうロケットの中。
ドラえもんとのび太がみんなの様子を見に行くと、ジャイアンはジョギングに励んでいた。
「ピリカについたらはげしい戦いが待ってるんだ。体をきたえておかなくちゃ。ファイト!ファイト!」
一方、スネ夫。
さすがに、留守番するとは言えなかったのか、一緒に来てはいたものの、個室のベッドで寝込んでいた。
「うまくいくわけないんだよ。かならずつかまるよ、パピと一緒に死刑にされちゃうんだ、わかってんだ」
「なにもそうなるときまったわけじゃなし……」
「い〜や、そうなる!ぜったいに!!」
二人がなだめても再び布団をかぶって心を閉ざしてしまう。
「一人でボヤっとしてるから、クヨクヨろくでもないこと考える」
のび太とドラえもんはロコロコに頼んだ。
「話し相手になってやって」
「ひきうけました」
ちょうど航路も軌道に乗り、ロケットを自動操縦に切り替えたところだったロコロコは、操縦席を離れてスネ夫のところに向かった。
このロコロコ、大統領のファーストドッグなだけあって、かわいくて飼い主思いなだけでなく、人の言葉をしゃべり、密使を務め、ロケット操縦もこなすとても聡明な犬だ。
(前脚のかわりに長い垂れ耳が発達していて、翼のように広げて空を飛ぶことも、人の手のように細かい作業をすることもできるし、危険を感じたときは耳で全身を包んで身を守ることもできる〈そうすると、そら豆そっくりになる〉)
ただ、このかわいくて優秀なロコロコ、一つ欠点があり、それは前にパピからも注意されていた。
「大統領がある日おっしゃいました。
「ロコロコよ、おまえはいい犬だが、ほんの少し口数が多すぎる」
ぼくはハッと反省したんです。
それからというものよけいなおしゃべりをつつしみ、むだ口をきかず、必要なこと以外ワンともスンとも……」
自分がなぜ口数の少ない犬になったかということを、ものすごい口数で振り返るロコロコ。
スネ夫は「++」目で耳をふさいでげんなりしていた。
スネ夫の心のケアをした(?)とはいえ、本当はのび太も不安だった。
「スネ夫の予感……あたるかな」
「楽観はできないと思うよ、はっきりいって」
ドラえもんの表情も重苦しかった。
「でも逃げることはゆるされない。がんばるしかないじゃないか」
ワープした小さなロケットは、超空間に入っていた。
ドラえもんたちは、星の見えない不透明な空間を進み、ピリカ星を目指す。
ドラえもんとジャイアン、それぞれのリーダーシップ
小さな体のまま、未知の星の軍隊に立ち向かうことになったドラえもんたち。
スネ夫が泣いて嫌がるのも当然の、圧倒的に不利な状況。
ドラえもんの言葉も表情も、「ふしぎなポッケ」でなんでも叶えてくれるいつもの明るいキャラクターとは違う、現実を見つめたうえで、みんなと一緒に考え、ともに戦うリーダーのものになっている。
「泣いてもはじまらない、問題はこれからどうするかということだ」
「楽観はできないと思うよ、はっきりいって。でも逃げることはゆるされない。がんばるしかないじゃないか」
そして、ジャイアンも優れたリーダーシップを発揮する。
「どうするだって?決まってるじゃないか!ピリカ星へ殴り込みよ!」
力強くパピ救出を訴えるジャイアンの言動には、みんなを鼓舞し、引っ張っていくパワーがある。
ファンの間では有名な話だが、ジャイアンは大長編になると、友達のためなら命を惜しまない、腹の座った立派な一面を見せる。
ロケットに乗り込んだあとも「はげしい戦い」に備えて体を鍛え、後に危険な場所に乗り込むときにも、のび太を心配するしずかちゃんに、「俺がついてるよ」と、彼を守ることを約束する。
「むしゃくしゃしていたところだ、一発殴らせろ」なんて間違っても言わない(普段は言うけど)。
(普段のジャイアン)
ドラえもんとは別のタイプの、立派なリーダーだ。
ロコロコのおしゃべりの意味
ジャイアンと真逆なのがスネ夫だ。布団をかぶって寝込んでしまっている。
「一人でボヤっとしてるから、クヨクヨろくでもないこと考える」
他人のことには的確に分析できるのび太は、これ以上スネ夫がネガティブにならないようにロコロコに「話相手」になってくれるよう頼む。
落ち込んだときには誰かと話をすることで心が軽くなるというのもよく知られるところだ。
ロコロコは気立てがよくてかわいいので、アニマルセラピーの役目も果たせるだろう。
唯一の問題は、ロコロコが「話相手」だと、スネ夫側が「話す」隙が全く無いところだが、スネ夫の脳をおしゃべりで埋め尽くし「クヨクヨろくでもないことばっかり考える」ことを阻止したので、この点ロコロコは良い仕事をした(多分)。
ところで、ロコロコのおしゃべりは、これから先、いくつかの重要シーンに関わってくる。
もしかしたら、ロコロコというキャラクターは、常に監視され、発言が弾圧される息苦しい独裁政権と対照的な「好きなことを好きなだけ言える」言論の自由の象徴なのかもしれない。
(そのわりに、スネ夫をはじめとして、聞き手がまあまあ迷惑しているが)
その後のジャイアンとスネ夫(かっこいい)
はじめから腹をくくっていたジャイアンは、独裁政権に抵抗する人々「自由連盟」の秘密基地にたどり着いた後も、持ち前の度胸で活躍する。
「地下組織との連絡係は俺たちに任せてください!」
パピ救出を目指して首都ピリポリスの地下に潜む「自由連盟」の同志たちのところへ向かう任務。
だが、既にピリポリスはギルモア将軍の軍隊によって徹底的に監視されている。
「自由連盟」のリーダーで、元大臣のゲンブは、ジャイアンたちを危険にさらすことをためらうが、ジャイアンは、「だれかがいかなきゃどうにもならないんでしょ!?」
と、たたみかける。
「だったらまかせてよ!!それともほかに方法があるの?」
ゲンブを説き伏せ、ドラえもんとのび太、そしてジャイアンが、ピリポリス潜入チームを結成する。
(かっこいい)
一方スネ夫。
ロコロコと話をして(?)気がまぎれた(?)とはいえ、まだ不安を抱えていた。
しかし「自由連盟」の秘密基地到着直前、ギルモア軍の無人戦闘艇を、自作のラジコン戦車で撃破したことをきっかけに、少しずつ勇気が湧いてくる。
寝る間も惜しんで熱心に整備点検した戦車とともに、その後、ある重要な局面を乗り切ったスネ夫は、「自由連盟」の人々の立てた計画が行き詰ったとき、ジャイアンたち以上に危険な任務に自ら志願する。
「ぼくがひとっぱしり行って見てきましょうか」
ゲンブは今度こそ強い口調で止めた。
「いかん!これ以上のぎせいをだすことはぜったいにさけなくては」
「だって時間がないんでしょ!イチかばちかやってみようよ!」
最初はラジコン戦車を「ほんのオモチャ」と謙遜していたが、その強さとそれを創り上げた自分自身を信じることができるようになったスネ夫は、それまでとは別人のように力強く言った。
旅立つ前の気持ちは「勝てるわけない!」「やるっきゃないんだよ!」と、真逆だったジャイアンとスネ夫。
しかし、物語が進むにつれ、二人とも、勇気ある行動を選択する。
大人で「自由連盟」リーダーのゲンブを、逆に力づけるように、危険な役目に志願する二人のことばも表情も、それぞれにかっこいい。
(いやこういう意味ではなく)
日ごろの理不尽ないじめっ子ぶりとは大違いの、頼もしく友達思いなジャイアンもいいが、自分のラジコン戦車がみんなを守ったことを通じて、自分にしかできないことを見つけ、恐怖を乗り越えていくスネ夫の姿にはとくに胸が熱くなる。
ロケット内で、体を鍛えるジャイアンとストレスで寝込んでいたスネ夫。
ギャグシーンでもあるが、「戦いを前にした人」のリアルな行動が描かれ、その後の重要な展開につながる「ロコロコのおしゃべり」と、二人の勇気ある行動の伏線にもなっている。
ぜひ注目していただきたい名場面だ。
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