(コロンボと双子の容疑者〈ともにマーティン・ランドー〉)
(料理研究家のデクスター〈弟〉)
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(銀行勤務のノーマン〈兄〉)
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「二つの顔」(1973年3月放送)富豪の叔父の財産を狙った甥が、若い女性との結婚を控えた叔父を感電死させるストーリー。
一見心臓麻痺と思われた死に疑問を抱くコロンボ。
だが、容疑者となる甥は二人いて、しかも双子だったために、コロンボの捜査は混乱する。
映画「北北西に進路をとれ」(59)、大人気ドラマシリーズ「スパイ大作戦」(66〜73)などに出演、その後も名優として長く活躍したマーティン・ランドーが、性格の異なる双子の兄弟を一人二役で演じた。
最初から犯人がわかる「コロンボ」シリーズには珍しく、犯行シーンで犯人が登場しているのに、視聴者にも双子のどちらの犯行かわからないという、ひねりの効いた展開になっている。
※2022年1月現在、動画配信サイトhuluで、新旧「刑事コロンボ」シリーズが視聴可能
❝(NHK HP内あらすじ)BSプレミアム2022年1月15日午後4:46放送
何度見ても新しい!ミステリードラマの金字塔。結婚式前日に殺された富豪。容疑者は遺産相続人の双子のおい?料理番組にコロンボが出演するコミカルなシーンが楽しい。 孫のように若いリサとの結婚式を控えた富豪パリスの遺体が発見された。入浴中、電源を入れたままのミキサーを放り込まれて感電死したのだ。彼の死は心臓まひによるものと判断されかけるが、コロンボは殺人とみて、遺産相続人である双子の甥(おい)に目をつける。仲が悪くお互いに罪をなすりつけあう双子の兄弟のうち、どちらが真犯人なのか!?
見どころ1 料理ショー(二人の名優のアドリブ合戦)
容疑者の一人、デクスターが料理研究家のため、捜査のためにスタジオに行ったコロンボ。
生放送で料理番組を撮影中だったデクスターは、コロンボを指名して一緒に料理を作り始める。
デクスターにエプロンを着せられて、アシスタントを務めるコロンボは、緊張で作業中「あ〜…」としか言えない。
(確かに料理をしながら、カメラに向かって流ちょうに話すというのは、できる人とできない人がいるだろう)
しかし、デクスターの
「『あ〜…』なんです?アハハ」
という、軽妙な「いじり」と、おかげで「温まってきた」コロンボの
「こりゃ失敗しちゃった。いいですよね見えなかったから」
「(こぼしちゃったのは)あんた(デクスター)のせいですよ」
という掛け合いで、観客は爆笑、収録は大成功だった。
(二人ともものすごくいい笑顔〈注、容疑者と刑事〉)
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『刑事コロンボ完全捜査ブック』(p.67)によれば、この収録シーン、「(「コロンボ」には)珍しくもすべてアドリブだった」そうだ。
楽しい場面だが、互いの呼吸を捉えて盛り上げるピーター・フォークとマーティン・ランドーの華麗なアドリブ合戦でもある。
そして、このシーンは、ドラマ全体にも大切な役割を果たしている。
実は、生活の派手なデクスターは、堅実な銀行員のノーマンよりも犯人の可能性が高いとコロンボに思われていた。
(デクスターの私生活については、彼と不仲のノーマンが告げ口していた)。
この収録直後、コロンボにハンドミキサー(犯人が感電死に使った凶器)の所在に聞かれたデクスターは、コロンボがノーマンの差し金でここに来たとすぐに気づく。
そして、兄にも叔父の金を欲しがる動機があると言い、コロンボをノーマンの「動機」の場所に連れていく。
「番組収録」から、「料理器具の話題に絡めた捜査」、そして「兄弟の深刻な確執」へのスムーズな展開。
徐々に緊張感を増していくストーリーの前に、コロンボとデクスターの大笑いを入れるギャップ。
場面展開の意味でも、ユーモアとシリアスの緩急で視聴者を疲れさせないという意味でも効果的な、陰の名場面なのだ。
見どころ2 最強の敵、ペックさん
(コロンボとペックさん)
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「二つの顔」には、ある意味、全シリーズ中で最もコロンボを苦しめた人物が登場する。
犯人ではない。被害者の屋敷を管理していた女性「ペックさん」だ。
この女性は、屋敷と、雇い主であった被害者と、双子の甥を愛し、屋敷はちりひとつないほど完璧に整えている。
遺体発見現場である屋敷のジム(犯人が心臓発作に見せかけるためにそこの運動器具に遺体を座らせた)にやってきたコロンボは、うっかり葉巻の灰を落としたことがきっかけで、ペックさんに、そりゃもう視聴者も引くほど猛烈に怒られ、以後、おっかなびっくり捜査しなければならなくなる。
別にコロンボに悪気があったわけではないのだが、通報が遅い時間で寝起きだったのが災いした。
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コロンボの寝起きの悪さは「溶ける糸」でも発揮されていて、コーヒーが無いか探し回った挙句、ゆで卵の殻をむくために、凶器の工具を使うという信じられない行為に走り、現場に殻を散らかすなと捜査担当者に叱られている。
それに比べれば葉巻の灰などまだマシなのだが。
(ジムの床なので「家の中」感が薄かったのかもしれない)
ペックさんからすれば、つい先ほど、「今後も屋敷のことはあなたに頼む」と言って微笑んでいた大切な「旦那様」が突然帰らぬ人となり、呆然としている最中。
まだ、「旦那様」の死を受け止められていないのに、旦那様の亡骸があった運動器具に、いかにも眠そうによりかかった男が、葉巻の灰をぽんぽんと指ではじいて床に落としたのだ。
「あなた、ここをなんだと思っているんですか。だらしない。おうちでそんなことしますか?」
ペックさんにとって、まだここは「大切な旦那様のお屋敷」だった。
それを、絶望的に寝起きが悪いとはいえ、いちいち感情移入していたら仕事にならないとはいえ、いきなり「事件現場」にして、雑に扱ったのは、やはりコロンボがよくない。
(この台詞を思い出した)
この後、慌てて床をきれいにしようとして、「旦那様の大切な」水差しまで割ってしまったコロンボは、捜査の一挙一動を彼女に監視されるようになる。
(ペックさんの激怒)
ドラマの中でコロンボに腹を立てるのはペックさんに限ったことではないが、その多くが犯人で、コロンボも、もうその人物が犯人だと思っていることが多い。
だから相手をいらつかせても、「あともうひとつだけ」と、のらくら食い下がれるし、なんならわざと「怒らせて」ペースを崩そうとしている節すらある。
また、警察側の人間はコロンボが「いい加減でも優秀な刑事」なことをよく知っている。
(そうでなければ、殺人現場に卵の殻なんて散らかしたら始末書ものだろう)
しかし、ペックさんは犯人でも警察側の人間でもない。
そして、コロンボは女性に強く出られない性格だ(犯人相手ですら)。
こうなるとペックさんにとってのコロンボは「ただひたすら失礼でだらしのない人間」で、コロンボにとってのペックさんも「犯人だから怒らせてもいい」わけでも、「警察側の人間だから大目に見てもらえる」わけでもなく、落ち度のない女性を威圧するのは彼の流儀ではないので、平謝りする以外、なすすべがないのだ。
後日、高級な銀食器に葉巻を放り込んで再びペックさんの逆鱗に触れたコロンボ(弁解「灰皿かと思って……うちにあれとそっくりものがあるもんで」(←火に油))は、困り果ててついに彼女に抗議する。
ペックさん。
あたしはハナからあなたの気に障るようなことばかりやってきました。
あんたが宝のように思っている屋敷にずかずか入りこんできたんだから、嫌われるのも無理はないでしょうけれども、あたしにだって感情はありますよ。
そりゃあ、だらしがなかったのはお詫びします。
こいつはどうもあたしの悪い癖で、長年治そう治そうとは思っているだが、どうも治らない。つまり生まれつきだらしがないらしいんですよ。
しかし、あんたに不作法を働いたことはありませんよ。
あたしゃぁ、あんたの長年のご主人を殺した犯人を一生懸命探そうと来ているのに、そのあたしを目の敵にして責めるんじゃあ、そりゃあ筋が違うんじゃないでしょうかね。
(コロンボのペックさんへの謝罪と抗議)
この謝罪と抗議に、ペックさんはようやく少し態度を軟化させ、「旦那様のお好きだった」クッキーとミルクを出してくれる(残念ながら長くはもたなかったが)。
このやり取りではコロンボが自分自身について本音で話している。
他の回でも、コロンボは、「うちのカミさん」や多彩な親戚についてなど、捜査中事件に関係の無い話をするが、その多くが、犯人たちとのかけひきの中のもので、本当のことか(親戚に至っては実在するかどうかも)わからない。
そのコロンボが、自分にも怒られれば傷つく感情があることや、自分のだらしなさを治そうと努力しているけれど、どうにも治らないということなどを打ち明けている。
逮捕を狙う犯人相手なら、どんなに怒られようと「あらあら、ごめんなさいね」くらいで済ませて傷つきもしないし(実際、「殺人処方箋」では、犯人フレミングから名士のコネを用いて捜査から降ろすと凄まれても、柳に風で受け流している)、引き続いてだらしなさを戦略的に用いそうだが、ペックさん相手ではそういうわけにはいかないからだろう。
「一見さえないけれど有能」と、犯人も警察も認めているコロンボが、本当に自分の弱点を認めてさらけだしている印象的なシーンだ。
だが、コロンボが被害者はジムではなく浴室で殺されたと気づいたのは、彼が眠気覚ましに顔を洗おうと勝手に屋敷の浴室のタオルを使ったことと、ペックさんがそのタオル一枚に至るまで厳重に管理していたことがきっかけだった。
コロンボのだらしなさとペックさんの神経質なまでの几帳面さは、捜査中常に衝突してきた(というか、あの抗議までは、コロンボが防戦一方だった)が、最終的には、この二人の性格が事件を解決に導いた。
しかし、それはペックさんが旦那様と屋敷に負けないくらい、愛情を傾けた人間が犯人だったという結末だった。
物語の終わり、犯人が連行される瞬間、コロンボはペックさんの手を取り、支えるようにして彼女を連れていく。
コロンボに投げつけられ続けた彼女の怒りが、屋敷の一家への愛情のためだったと知っているコロンボの優しさがそうさせ、ペックさんもその手を振り払わずに一緒に歩いていく。
【ディスクと配信情報】※一部。2022年1月14日時点情報
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第17話「二つの顔」 - ロバート・バトラー , マーティン・ランドー, ポール・スチュワート, ジャネット・ノーラン
(画像引用動画)※英語音声。結末部など作品の重要場面を含む
(参考文献)
- 刑事コロンボ「溶ける糸」コロンボと婚活迷走中の看護師マーシャのコミカルなワンシー..
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