2021年11月23日

ドラえもん「ぐうたらの日」(「誰も働いちゃいけない日」の光と影)(※ネタバレあり)


日本人は遊ぶことにさえ必死になる - コピー.jpg


 「ぐうたらの日」は、6月に一日も祝日が無いことを嘆いたのび太が、「日本標準カレンダー」で、祝日「ぐうたらの日(6月2日)」を制定する話。

(てんとう虫コミックス14巻収録)

ドラえもん(14) (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄
ドラえもん(14) (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄

 「だれもはたらいちゃいけない日」として、全国民のぐうたらが法律で義務化されたことにより、思わぬ事態が起こる。


(あらすじ)※ネタバレご注意


 「ついに今年もきたか、ああ……」

カレンダーをむなしく見つめるのび太。

 6月、一年を通じてもっとも不愉快な月。 

6月には国民の祝日が一日も無い。日曜のほか一日も休めない。こんなつまんない月があるか。

「ああ、ゆううつ……」

ドラえもんに一通り6月への愚痴をこぼすと、ぐったりと寝そべる。


 「そんなに休みたきゃ休日を作ればいい」

ドラえもんが出したのは「日本標準カレンダー」

ごくシンプルなデザインのカレンダーだが、日本中のカレンダーを変えることができる。

休日を作るには、その日にちに日の丸マークシールを貼ればいい。

そう聞いたのび太は喜んで休日を作ろうとするが、

「しかし……日本中に影響するとなるとちょっと……」

「休みがふえておこる人がいるかい。みんながよろこぶならいいことだろ」

「やるか!」

「やろう!」

ふたりともごく軽いノリで、6月2日を祝日に制定。

「勤労感謝の日」があるのだから、この日は「ぐうたら感謝の日」。

「だれもはたらいちゃいけない日!法律でそう決まったの!」

ぐうたらの日制定 - コピー.jpg


 翌日。

寝坊した、学校に遅刻する!と焦るのび太。

しかし、パパもママも「ぐうたら感謝の日を忘れるなんて」と、そんなのび太を笑って、のんびりしている。

外に出れば、どの家も国旗をかかげて「ぐうたら感謝の日」を祝っている。

「底抜けに遊ぼう」

のび太とドラえもんは、喜び勇んで空き地に行ったが、意外にも誰もいない。


 家で何かしているのかな、と、訪ねて行ってみると、

「べつになにもしてないわ。一日ごろごろするつもり」

 窓に肘をついて、とろんとした目で答えるしずかちゃん。

「いっしょうけんめい遊ぶなんて、ぐうたら精神にそむくことになるんだぞ」

ぐうたらを中断されたのか、「++」目で唇を「3」にとがらせて、のび太たちをたしなめるジャイアン。

ぐうたら精神にそむくことになる - コピー.jpg

 「言われてみればもっともだ。ぼくらもダラーっとして過ごそう」

ぐうたらの意味をはき違えていたことを反省し、家に戻ってテレビを観ることにする。


 「とかく日本人は遊ぶことにさえ必死になりますからねえ。こういう日が定められたことはとてもいいことですな」

ブラウン管の中では、評論家とアナウンサーが、二つ折りにした座布団に片肘を突いて寝っ転がり、グダグダな空気を醸しながら適当なことを話していた。

(ちなみに事前収録されたものをコンピューターで自動放映している)


 ぐうたらしていてもお腹は空く、腹の虫が鳴いて、朝ご飯を食べていないことに気づいたのび太とドラえもん。

 しかしママは、はたらいちゃいけない日だから、食事のしたくなんかしませんよ、と言った。

 そ、そんな!

 顔面蒼白になる二人に、

「一日ぐらいたべなくても死なないわよ」

「法律は守らんといかん」

と、冷静に諭すパパとママ。

一日ぐらい食べなくても死なない - コピー.jpg

 ラーメンの出前を頼もうとすると、

「きょうがなんの日か知ってるの?ラーメンくいたきゃ自分で作りな!」

とガチャ切りされるが、家には食料が何も無い。


 ないとわかったらなおさら飢餓感が増し、ドラえもんは「ぐうたらの日が終わるまでスイッチ切っておこう」としっぽを引っ張って自ら機能停止してしまう。

しっぽのスイッチを切る - コピー.jpg


 「ずるいずるい!」

苦しみを共有できるはずだった友に離脱され、

「ううう、目が回って死にそうだ。なんでもいいからたべたい」

と、よだれをたらしながら食料を探しに外に出るのび太。


 偶然家から魚を盗んで飛び出した猫に出くわし、激しい格闘の末、魚を奪い取ることに成功。

「ゴロニャン!」

ボロボロになりながらも、四つん這いで魚をくわえて鳴くのび太。

猫の魚を奪い取るのび太 - コピー.jpg

 空き地で焼いて食べようとしていたところ、

「おれによこせ!よこさねえと……」

今度は飢えで目が「##」になったジャイアンが乱入し、いきなりのび太に火をつける。

「火事だ。どろぼうだ。110番。119番」

のび太に火を放つジャイアン - コピー.jpg

しかし、どこも休みだ。

(警察にかかった「本日休業」の札のなげやりな字体が怖い〈あとのび太のお尻まだ燃えてる〉)

警察も休み - コピー.jpg

 限界を感じたのび太は、ドラえもんのしっぽを引っ張って再起動する。

「なんとかしてくれ」

目を覚ましたドラえもんは、ためらいがちにつぶやく。

「シールをはがせば、もとにもどるけど……」

「もどそう!」

シールをはがすと事態は急変。


 「けさから私たちは、何をかんちがいしていたのでしょう」

 ねぐせをなでつけきれないまま、ニュースデスクのアナウンサーも、何が起きているのかわからないようす。

「どうして、今日が休みだなんて思いこんだんだろう」

スーツの袖に腕を通しながら家から飛び出すパパ。

のび太を含めた人々が、大慌てで平日行くべき場所に走っていくのを見ながら、ドラえもんは、

「みんなにめいわくかけたな」

と、「3」唇でつぶやいた。


(完)


 全国民がぐうたらする日、働いちゃいけない日、とは、何も食べられず、安全も健康も守られない日のことだった。

 結果、のび太は猫が盗んだ魚を「ゴロニャン!」と四つん這いで鼻息荒く奪い取り、ジャイアンはついさっき予定を聞きに来た友人に火を放つという、人間性を見失った行為に走る。

(せいぜい朝昼抜き程度なのに、我の忘れ方が早すぎる&強烈すぎる気もするが)



 「いっしょうけんめい遊ぶなんて、ぐうたら精神にそむくことになるんだぞ」

「とかく日本人は遊ぶことにさえ必死になりますからねえ。こういう日が定められたことはとてもいいことですな」

「ぐうたらの日」の意義を説くこの二つの台詞は、何かとせわしない現代人の胸を突く、名言のような気もするのだが、度が過ぎると、「勤労感謝の日」以上に、日ごろは見落としがちな他者の勤労に痛烈に感謝することになる、意義深くも全然ぐうたらできない日となってしまうようだ。


(出典)

 (このほかに「人食いハウス」「からだの皮をはぐ話」「ムード盛り上げ楽団登場!」「無人島へ家出」「すてきなミイちゃん」などの名作も収録されている)


posted by pawlu at 14:14| ドラえもん | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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