(てんとう虫コミックス14巻収録)
ドラえもん(14) (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄
「だれもはたらいちゃいけない日」として、全国民のぐうたらが法律で義務化されたことにより、思わぬ事態が起こる。
(あらすじ)※ネタバレご注意
「ついに今年もきたか、ああ……」
カレンダーをむなしく見つめるのび太。
6月、一年を通じてもっとも不愉快な月。
6月には国民の祝日が一日も無い。日曜のほか一日も休めない。こんなつまんない月があるか。
「ああ、ゆううつ……」
ドラえもんに一通り6月への愚痴をこぼすと、ぐったりと寝そべる。
「そんなに休みたきゃ休日を作ればいい」
ドラえもんが出したのは「日本標準カレンダー」
ごくシンプルなデザインのカレンダーだが、日本中のカレンダーを変えることができる。
休日を作るには、その日にちに日の丸マークシールを貼ればいい。
そう聞いたのび太は喜んで休日を作ろうとするが、
「しかし……日本中に影響するとなるとちょっと……」
「休みがふえておこる人がいるかい。みんながよろこぶならいいことだろ」
「やるか!」
「やろう!」
ふたりともごく軽いノリで、6月2日を祝日に制定。
「勤労感謝の日」があるのだから、この日は「ぐうたら感謝の日」。
「だれもはたらいちゃいけない日!法律でそう決まったの!」
翌日。
寝坊した、学校に遅刻する!と焦るのび太。
しかし、パパもママも「ぐうたら感謝の日を忘れるなんて」と、そんなのび太を笑って、のんびりしている。
外に出れば、どの家も国旗をかかげて「ぐうたら感謝の日」を祝っている。
「底抜けに遊ぼう」
のび太とドラえもんは、喜び勇んで空き地に行ったが、意外にも誰もいない。
家で何かしているのかな、と、訪ねて行ってみると、
「べつになにもしてないわ。一日ごろごろするつもり」
窓に肘をついて、とろんとした目で答えるしずかちゃん。
「いっしょうけんめい遊ぶなんて、ぐうたら精神にそむくことになるんだぞ」
ぐうたらを中断されたのか、「++」目で唇を「3」にとがらせて、のび太たちをたしなめるジャイアン。
「言われてみればもっともだ。ぼくらもダラーっとして過ごそう」
ぐうたらの意味をはき違えていたことを反省し、家に戻ってテレビを観ることにする。
「とかく日本人は遊ぶことにさえ必死になりますからねえ。こういう日が定められたことはとてもいいことですな」
ブラウン管の中では、評論家とアナウンサーが、二つ折りにした座布団に片肘を突いて寝っ転がり、グダグダな空気を醸しながら適当なことを話していた。
(ちなみに事前収録されたものをコンピューターで自動放映している)
ぐうたらしていてもお腹は空く、腹の虫が鳴いて、朝ご飯を食べていないことに気づいたのび太とドラえもん。
しかしママは、はたらいちゃいけない日だから、食事のしたくなんかしませんよ、と言った。
そ、そんな!
顔面蒼白になる二人に、
「一日ぐらいたべなくても死なないわよ」
「法律は守らんといかん」
と、冷静に諭すパパとママ。
ラーメンの出前を頼もうとすると、
「きょうがなんの日か知ってるの?ラーメンくいたきゃ自分で作りな!」
とガチャ切りされるが、家には食料が何も無い。
ないとわかったらなおさら飢餓感が増し、ドラえもんは「ぐうたらの日が終わるまでスイッチ切っておこう」としっぽを引っ張って自ら機能停止してしまう。
「ずるいずるい!」
苦しみを共有できるはずだった友に離脱され、
「ううう、目が回って死にそうだ。なんでもいいからたべたい」
と、よだれをたらしながら食料を探しに外に出るのび太。
偶然家から魚を盗んで飛び出した猫に出くわし、激しい格闘の末、魚を奪い取ることに成功。
「ゴロニャン!」
ボロボロになりながらも、四つん這いで魚をくわえて鳴くのび太。
空き地で焼いて食べようとしていたところ、
「おれによこせ!よこさねえと……」
今度は飢えで目が「##」になったジャイアンが乱入し、いきなりのび太に火をつける。
「火事だ。どろぼうだ。110番。119番」
しかし、どこも休みだ。
(警察にかかった「本日休業」の札のなげやりな字体が怖い〈あとのび太のお尻まだ燃えてる〉)
限界を感じたのび太は、ドラえもんのしっぽを引っ張って再起動する。
「なんとかしてくれ」
目を覚ましたドラえもんは、ためらいがちにつぶやく。
「シールをはがせば、もとにもどるけど……」
「もどそう!」
シールをはがすと事態は急変。
「けさから私たちは、何をかんちがいしていたのでしょう」
ねぐせをなでつけきれないまま、ニュースデスクのアナウンサーも、何が起きているのかわからないようす。
「どうして、今日が休みだなんて思いこんだんだろう」
スーツの袖に腕を通しながら家から飛び出すパパ。
のび太を含めた人々が、大慌てで平日行くべき場所に走っていくのを見ながら、ドラえもんは、
「みんなにめいわくかけたな」
と、「3」唇でつぶやいた。
(完)
全国民がぐうたらする日、働いちゃいけない日、とは、何も食べられず、安全も健康も守られない日のことだった。
結果、のび太は猫が盗んだ魚を「ゴロニャン!」と四つん這いで鼻息荒く奪い取り、ジャイアンはついさっき予定を聞きに来た友人に火を放つという、人間性を見失った行為に走る。
(せいぜい朝昼抜き程度なのに、我の忘れ方が早すぎる&強烈すぎる気もするが)
「いっしょうけんめい遊ぶなんて、ぐうたら精神にそむくことになるんだぞ」
「とかく日本人は遊ぶことにさえ必死になりますからねえ。こういう日が定められたことはとてもいいことですな」
「ぐうたらの日」の意義を説くこの二つの台詞は、何かとせわしない現代人の胸を突く、名言のような気もするのだが、度が過ぎると、「勤労感謝の日」以上に、日ごろは見落としがちな他者の勤労に痛烈に感謝することになる、意義深くも全然ぐうたらできない日となってしまうようだ。
(出典)(このほかに「人食いハウス」「からだの皮をはぐ話」「ムード盛り上げ楽団登場!」「無人島へ家出」「すてきなミイちゃん」などの名作も収録されている)
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