2021年11月19日

刑事コロンボ「黒のエチュード」名監督ジョン・カサヴェテスが犯人役で登場(そしてコロンボの犬も)※一部ネタバレあり

(コンサート会場でピアノを弾くコロンボと、拍手をする犯人アレックス〈ジョン・カサヴェテス〉)
ピアノを弾くコロンボとアレックス - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube)

 「黒のエチュード」(1972年)は名指揮者アレックスが、妻との離婚を迫るピアニストの愛人をガス自殺に見せかけて殺害するストーリー。

 映画「グロリア」(※1)ほか、インディペンデント映画の監督として活躍したジョン・カサヴェテスが犯人アレックスを演じた。

アレックス(犯人役ジョンカサヴェテス) - コピー - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube)

※2021年11月現在、動画配信サイトhuluで、新旧「刑事コロンボ」シリーズが視聴可能



(NHK HP内あらすじ)

一流楽団の理事長の娘を妻に持ち、楽団の指揮者を務めるアレックス・ベネディクトは、愛人のピアニスト、ジェニファーから離婚を迫られていた。離婚すれば今の地位を確実に失うアレックスは、コンサート本番前に楽屋を抜け出し、ジェニファーを殺害。用意しておいた遺書をタイプライターに残して自殺に見せかける。だが、タキシードの襟につけていた花を現場で落としたことに気づく。

見どころ1 華麗な世界観

 犯人が指揮者のため、作品全体にクラシック音楽が流れ、美しい妻と愛人、高級車、大豪邸が登場する、シリーズ中最も華麗な世界観で、場面展開も洗練されている。

 たとえば次のような場面。

・犯行シーン

 犯人アレックスは、コンサート直前、タキシードに着替え、控室で休憩しているふりをして抜け出したのち、愛人のピアニスト、ジェニファーの家を訪れる。

 彼女がピアノを演奏している隙に背後から頭を殴って気絶させ、キッチンに運ぶアレックス。

 花の飾られた豪華なインテリアの部屋(そして重厚な音楽)の中、タキシードの男が、リボンベルトを垂らしたドレス姿の美しい女性を抱きかかえて運ぶ光景は、現実の犯行とはかけ離れ、フィクションドラマならではの、不思議な「絵になるシーン」を作り上げている。

犯行シーン リビング - コピー.jpg

(Image Credit:Youtube)

 ジェニファーを殴る瞬間も、打撃、悲鳴などはカットされ、インパクトのある音楽と、驚いてとさかを逆立てたインコの激しい鳴き声がそれをほのめかしている。

犯行時に驚いて鳴くインコ - コピー.jpg

(Image Credit:Youtube)

 (このインコは、アレックスがガス自殺を細工した際に、ジェニファーとともに死んでしまう。そして、籠の中のインコの亡骸を見たコロンボは、自殺なら、なぜ、その前に逃がしてやらなかったのかと思い、殺人の疑いを強めていく。被害者が殴られたときの鳴き声と、その死によって、アレックスの犯罪を告発する存在。)

(犯行準備から実行までのシーンダイジェスト動画)


・花を落としたことに気づくシーン

 アレックスはコンサートの時には、いつもタキシードの胸元にカーネーションを付けている。

 しかし、犯行後のコンサートで、情熱的に指揮棒を振っているとき、彼はその胸にカーネーションが無いことに気づく。

 オーケストラの音楽と眩しい照明の中、画面が静止し、凍り付いたアレックスの脳裏によぎる、ジェニファーの部屋と、インコの悲鳴にも嘲笑にも似た声。


 それでも動揺は一瞬、アレックスはコンサートをやり遂げるが、そこにジェニファー自殺の報が入り、駆け付ける体を装って彼女の家に戻る。

 この時、すでに警察が入っている部屋で、さりげなく花を探す彼のサングラスに床に落ちた花が映る。

 現実にはあり得ないほどくっきりと、黒いレンズに淡いピンクの花が浮き上がるのだが、その不自然な鮮明さがアレックスの緊張を視聴者に追体験させる。

レンズに映る落ちた花 - コピー.jpg

(Image Credit:Youtube)

※犯人のレンズの反射を際立たせる演出は、過去に「指輪の爪あと」にも登場している。

(「指輪の爪あと」犯人ブリマーが証拠隠滅をする過程が本人のレンズに映っているシーン)

指輪の爪あと 証拠隠滅シーン2 ロバートカルプ - コピー - コピー - コピー.jpg

(Image Credit:Youtube

(花を落としたことに気づくシーン〜事件現場でさりげなく花を拾うまで)


見どころ2 ジョン・カサヴェテスの存在感と、犯人とコロンボの関係

 監督でありながら、性格俳優としても活躍したジョン・カサヴェテス。

鋭い眼光で、激高する姿すら、創作者のほとばしるエネルギーを感じさせる。

(「映画監督」という彼の本業は、人々を指揮してひとつの作品を創り上げるオーケストラの指揮者に通じるものがあったのかもしれない。はまり役だ。)

その独特の存在感と演技力で、口封じに愛人を殺害する身勝手な犯人に「天才のエゴと残酷」という深みを与えた。

 この回のコロンボは、アレックスの熱狂的なファンということで、サインを貰いに行ったり、聞き込みのときには、アレックスの友達と名乗ったりと、やけに親しげだ。

(話しながらアレックスの袖を離さないコロンボ)

アレックスの袖をつかまえるコロンボ - コピー.jpg

(Image Credit:Youtube)

(高級なジャケットが皺になってしまい、さりげなく払うアレックス。おそらくコロンボが自殺説を否定していることへの不快感も相まっての行動)

さりげなく袖を払うアレックス - コピー.jpg

(Image Credit:Youtube)

 捜査のためなのか公私混同か、相変わらずつかみどころがないが、刑事と犯人が額を合わせるような距離で話す絵面とテンポの良さは、スリルとユーモアの入り混じる妙味がある。

アレックスにタイプライターを見せるコロンボ - コピー.jpg

(Image Credit:Youtube)

コロンボとアレックスアップ 自動車修理工場にて - コピー.jpg

(Image Credit:Youtube)

 ただ、コロンボは指揮者としてのアレックスのことは、本当に敬愛していたのだろう。

そして、最後にはアレックスもコロンボの名刑事ぶりを認め、握手をする。

まるでもう一人のアーティストに対するように。


 事件の解決後、コロンボはある形で、アレックスの音楽にもう一度耳を傾ける。

このドラマらしい、コロンボと犯人の不思議な心の交流が、美しい音楽に姿を変えて、アレックスの去った部屋に余韻を残す。


(修理工場での会話シーン)


(コンサート会場での会話シーン)


・カサヴェテスとピーター・フォークの友情

 ジョン・カサヴェテスとコロンボ役のピーター・フォークとは親友で、彼が珍しく映画ではなくテレビドラマに出演したのも、その友情が縁だった。(※2)

❝ 

フォークはカサヴェテスを尊敬をこめて“親しいライバル”と呼び、カサヴェテスはフォークを「自分自身に対して絶対に真正な演技をする驚異の男優」「微笑みながらどんな状況も切り抜けられる」「これほど才能のある人間を見たことがない」と評しています。

(※)『刑事コロンボ完全捜査ブック』「調書 ピーター・フォーク (共鳴 ピーター&ジョン)」p.25 文:国分佑子より

 コロンボとアレックスの火花散る対決に、フォークとカサヴェテスの絆を重ねると、心に染みる光景に変わる。

 彼らは嫉妬と欲望渦巻く芸能界で、互いの才能が響き合う、数少ない「盟友」だったのだ。

握手するコロンボとアレックス - - コピー.jpg
(Image Credit:Youtube)

 

見どころ3 コロンボの犬と車

 この回で、コロンボの飼い犬「ドッグ」が初登場。

 池で溺れていたところを助けられ、そのままコロンボに飼われることになる。

(獣医にて。助かった直後の割に非常にくつろいでいる。)

コロンボの犬獣医にて黒のエチュード - コピー.jpg 

(Image Credit:Youtube)

 この時、獣医さんは、犬の名前の候補として「ファイド(Fido、「忠実なる者」という意味)」という素敵な名前を提案してくれるが、捜査中に会った女の子に「ダサい」と一刀両断され、この後も「ドッグ」と曖昧に呼ばれるだけになる。

(「どう呼ぼうが来ない」から結局同じことらしい。確かに忠実なる者とは言い難い)

 この犬は、ピーター・フォーク自身の愛犬で、「愛情の計算」「断たれた音」などにも登場する。

(登場はするが、警察犬のように活躍したりはしない。しかし、その「特に何もしないところ」がかわいい)

コロンボの犬、二回目の獣医さんにてくつろぐ姿 - コピー.jpg

(寝そべると、ほっぺたのふちと分厚い耳が、つきたてのおもちのように広がるのもかわいい)

(Image Credit:Youtube)

 抱っこされると、たるたるした姿と緊張感のなさが、しわだらけのレインコートと調和して、どこからどこまでがコロンボだかわからないくらいだ。

抱き上げられるコロンボの犬拡大 - コピー.jpg

(Image Credit:Youtube)


 そして、コロンボの車。

(高級外車専門修理工場にて。聞き込みのついでに自分の車の調子も見てほしいと頼むコロンボと、見るからにあまり見たくなさそうな修理工場の人)

コロンボの車 黒のエチュード - コピー.jpg

(Image Credit:Youtube)


 黒のエチュードでは、アレックスの高級車が犯行に使われる。

アレックスの車 - コピー.jpg

(Image Credit:Youtube)


 聞き込み中のコロンボが勝手に乗り込み、大絶賛するとおり、しなやかな猫科の獣のような、艶やかな音色を秘めた楽器のような、気品ある光沢と流線型が美しい、アレックスの車。


 かたやコロンボの車は、「エンジン落っことしたって感じ(ひどい)」で、しぶしぶ点検したエンジニアに、「買い換えちゃどうです?」と言いにくそうに言われる。

 くったりした犬とボロボロの車。

 コロンボ自身を象徴するような、重要なキャラクターふたり(あえてそう呼ばせていただく)がこの回で出揃う。

 彼らは、特に裕福ではない、冴えない風貌のコロンボが、成功者たちの世界に連れて行く、コロンボの日常を共に生きる仲間。

 おかげで捜査がはかどるということはあまりないが(とくに犬)、ドラマにアクセントと奥行きを作ってくれる。

 彼らが出てきた瞬間に、華麗で洗練された、だがどこか雲の上の出来事のようなストーリーに親近感が湧くし、犯人たちの世界の「豪華さ」と「殺人」という非日常性も際立つ。

 「美しい女性たちと高級車」と、「拾われた犬と買い換えを勧められる車」が合わせ鏡のように登場する「黒のエチュード」は、特にそのコントラストが鮮やかだ。


(自殺に見せかけるためにジェニファーを運ぶアレックス)

犯行シーン拡大2 - コピー.jpg

(Image Credit:Youtube)

(連れて帰るためにドッグを運ぶコロンボ)

ドッグを抱き上げるコロンボ 拡大2 - コピー.jpg

(Image Credit:Youtube)


(コロンボの犬初登場シーン)

(二度目の予防接種で再び獣医を訪れるシーン〈背後でアレックスのコンサートが放送されている〉)



(見どころ番外)ドアマンのミヤギさん

 コロンボがアレックスの豪邸を訪ねた際、応対してくれたアジア系のドアマン。

玄関ホールのパットモリタさんとコロンボ - コピー.jpg

(Image Credit:Youtube)

 空手映画「ベスト・キッド」で主人公ダニエルの空手指導をした「ミヤギさん」こと、パット・モリタ氏が演じている。

ベスト・キッド (字幕版) - ラルフ・マッチオ, ノリユキ・パット・モリタ, エリザベス・シュー, マーティン・コーヴ, ウイリアム・ザブカ, John G. Avildsen, Jerry Weintraub
ベスト・キッド (字幕版) - ラルフ・マッチオ, ノリユキ・パット・モリタ,

 コロンボは警察手帳を見せて刑事であることを説明しているが、「ミュージシャンで、楽団員になりたがっているらしき変な男」と勘違いされてしまう。

(いまいちよくわかってくれていないが笑顔がチャーミング)

玄関でコロンボを招き入れるパットモリタさん - コピー.jpg

(Image Credit:Youtube)


 (パット・モリタ氏登場シーン)



見どころ4 「優しいジャニス」ブライス・ダナーの美しさ

ジャニス - コピー.jpg

(Image Credit:Youtube)

 今回、アレックスの妻で、オーケストラの理事長の娘ジャニスを演じたのは、ブライス・ダナー

 グウィネス・パルトロウの母としても知られ、今も活躍する名女優だ。

 憂いを帯びた青く大きな瞳、月光に縁どられたような淡い金髪、細い顎と華奢な肩の線、少しかすれた柔らかな声で、「銀河鉄道999」のメーテルを思わせる神秘的な美しさ。

「刑事コロンボ」には大勢の美女が登場するが、個人的には彼女が一番印象深い。

 事件が起きた時から、アレックスが被害者と関係を持っていたのではないかと疑いつつ、夫を問い詰めきることができない「優しいジャニス」。

 才能あるアレックスがなぜ自分と結婚したのか(理事長の娘だという理由だけではないか)と不安を抱き続けている。

 コロンボの推理が核心に近づきつつあることを感じたアレックスは、コロンボとの最後の対決の直前、彼女を無言で見つめて頬に触れる。

 自分の過ちによって、彼女をこれから失うことになるのかもしれないと思っているように。

こうなって初めて彼女の大切さに気付き、その心を繋ぎとめようとするように。


 

見どころ5 (※結末部あり)アレックスの退場シーン(吹き替えと英語の台詞の違い)

 コロンボによってジャニスの前で犯行を明らかにされたアレックスは、彼をかばいきることのできなかったジャニスを抱き寄せ、「僕は有罪だよ」と耳元にささやく。

君を愛していた - コピー.jpg

(Image Credit:Youtube)


 この後、アレックスがジャニスに語りかける言葉が、吹き替え版と英語版で少しニュアンスが異なっている。

【吹き替え版】

僕は有罪だよ。

だが今わかった。愛していたよ。

僕は君を愛していた。証言の時それを思い出してくれ。

いいね。



【英語版】

I'm guilty, you know that.

Just for the record, I love you.

I always loved you.

I hope you don't have to go through your life alone.


※ブログ筆者意訳

僕は有罪だよ。

(だが)言っておく、君を愛している。

僕はいつも君を愛していた。

君が孤独な人生を送る必要がないことを願っているよ。


 吹き替え版のアレックスの台詞は、裁判のときに、ジャニスが自分に有利な証言をしてくれるよう、情に訴えかける意味合いが強い。


 一方、英語版は、もはや彼女の夫ではいられないことを覚悟し、新しいパートナーを見つけて幸福になってほしいと告げているように響く。

(軽い刑で釈放され、また一緒に生きられるよう助けてほしいと言っているなら、吹き替え版とほぼ同じ意味だが。)


 「愛していた」と繰り返して、その言葉を彼女の心に刻み付けようとしたアレックス。

それは、彼女を不実で傷つけてもなお、彼女の愛を引き出して自分を守ろうとする、天才の並外れたエゴのためなのか。

それとも全て失う瞬間に、ようやく自分が本当は抱いていた彼女への真実の愛を、思い知ったためなのか。

 囁いた後、彼女の髪に頬を寄せて、虚空をめぐる鋭いまなざしは、どちらとも解釈できる。

しかし、個人的には、英語版の台詞を、ただ、その言葉通りに聴きたい。

 立ち去り際、アレックスは指揮棒をまっすぐに立てて顔の前に掲げ、彼女にかすかにウィンクをする。

騎士が戦いに赴く前に、剣を掲げて礼をするように。

 過ちを犯し、それを殺人で隠そうとしたアレックス。

犯行自体は確かに非常に身勝手だ。

だが、彼は最後にコロンボに敗北を認め、彼を讃えている。

そして、手錠もかけられず、楽団の関係者たちに別れを告げて、自ら部屋を出て行っている。

そういう潔さや、ジャニスの頬に触れたときの沈黙、指揮棒での騎士のようなしぐさ、最後に流れる彼の音楽。

それは、保身のために殺人まで犯した強烈なエゴが、コロンボへの敗北で打ち砕かれた瞬間、浮き彫りになった妻への愛、そして芸術家の誇り、本質的にははじめから持っていた、彼の人としての魅力を物語っているのではないだろうか。

 どちらの解釈がしっくりくるか、ご覧になってみていただきたい。


【引用動画(英語音声※ドラマの重要シーンや他の回の内容を含む)】

(アレックス他、シーズン2の犯人たちの犯行シーンダイジェスト)

(自動車修理工場での会話、車の買い替えを勧められる)

(コンサート会場での会話)
※ちなみにここでコロンボが弾いている「チョップスティック」という曲は、日本の「猫踏んじゃった」のような「とても有名な誰でも弾ける曲」の位置づけのようだ。
(マリリン・モンローの映画「七年目の浮気」でも、彼女の気を引きたい主人公が、ラフマニノフを弾きたいけど無理なのでこの曲を弾いているシーンがある)


(邸宅を訪問し、玄関ホールでアレックスと話すコロンボ〈冒頭にパット・モリタ氏登場〉)
How Much Money Do You Make? | Columbo

(コロンボの犬登場シーンダイジェスト〈他の回も含む〉)


(「黒のエチュード」12分ダイジェスト〈※結末部を含む〉)
'Etude in Black' in 12 Minutes | Columbo

(※1)「グロリア」(1980年)

 麻薬取引のトラブルで家族を殺された少年を連れて逃げることになった女、グロリアの物語。
 リュック・ベッソン監督の映画「レオン」はこの作品を下敷きにしている。
 グロリアを演じたジーナ・ローランズ(カサヴェテスの妻。コロンボシリーズにも「ビデオテープの証言」で出演している)が、少年をかばいながらハイヒールで走り、小さな拳銃で裏社会の男たちと渡り合う凄みは必見。



(※2)『刑事コロンボ完全捜査ブック』EPISPDE 10「黒のエチュード」p.52 監修:町田暁雄



ラベル:
posted by pawlu at 19:32| 刑事コロンボ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
カテゴリ
×

この広告は90日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。