2021年10月07日

『刑事コロンボ』「指輪の爪あと」名犯人役ロバート・カルプ登場

(犯人ブリマー役のロバート・カルプ)
指輪の爪あと ロバートカルプ - コピー - コピー - コピー - コピー.jpg
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三回犯人を演じた名優、ロバート・カルプ

 『刑事コロンボ』第4話「指輪の爪あと」(1971年)は、コロンボ作品で三回犯人を演じたロバート・カルプ(1930〜2010)が探偵社の社長役で初登場した作品だ。


探偵社の社長ブリマーは、新聞王のケニカットから妻の浮気調査を依頼されるが、彼女は潔白だと報告をする。しかし実は不貞をはたらいており、うその報告の見返りとして夫人にある要請をする。だが、それを断られたブリマーは彼女を殴りつけ殺害。物取りの犯行に見せかけた上、警察の捜査に協力を申し出る。だがコロンボは遺体のほほにあった傷あとから、犯行の状況に疑問を持つ。
※2021年11月現在、動画配信サイトhuluで、新旧「刑事コロンボ」シリーズが視聴可能

 ロバート・カルプは、この「指輪の爪あと」のほか、「アリバイのダイヤル」(1972)、「意識の下の映像」(1973)で、それぞれ犯人役を演じた(また、「新刑事コロンボ」シリーズの「殺人講義」では犯人の父親役で登場している)。

(「アリバイのダイヤル」フットボールチームのジェネラルマネージャー、ポール・ハンロン役)

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(「意識の下の映像」バート・ケプル博士役)

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 同じく何度も犯人を演じたジャック・キャシディパトリック・マクグーハンと並ぶ、コロンボシリーズには欠かせない名優だ。
カルプは、「刑事コロンボ」シリーズの犯人のひとつの典型である都会的でスマートなインテリの犯人像を創り上げ、高く評価された。(Wikipediaより

 知的な容姿と長身で、仕立ての良いジャケットや凝ったデザインのシャツを着こなし、コロンボの質問に理路整然と受け答えをする。

 冴えない身なりで、あちこちに話題が脱線するコロンボとは対照的なキャラクターだ。

 都会的でスマートな風貌のインテリ犯人と言えば、「殺人処方箋」のジーン・バリー、「5時30分の目撃者」のジョージ・ハミルトンなども存在感があったが、彼等の、論理的思考の果ての冷酷と比べると、カルプの演じる名犯人は、かすかに人間味を残していて、コロンボとの対決が進み、緻密な嘘が崩れていくとき、そのほころびから垣間見える、焦燥、敗北感、後悔などが、ドラマに陰影を添える。


(「殺人処方箋」で犯人フレミングを演じたジーン・バリー)

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(「5時30分の目撃者」で犯人コリア―を演じたジョージ・ハミルトン)

ジョージハミルトン5時30分の目撃者Too Many Inconsistencies  - コピー.jpg

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 とくに『指輪の爪あと』の殺人は突発的なものだったため、何食わぬ顔で捜査に協力するふりをしつつ、コロンボの目を真相からそらそうとするブリマーの計算と苛立ちには、カルプの名犯人に通底する「都会的インテリの奥の脆さ」が最もはっきり出ている。

(そして、視聴者は、ブリマーを追うコロンボと、コロンボに追われるブリマーの両方に感情移入して、複雑なスリルを味わう)


 【補足情報】

 被害者ジェーンの夫で新聞王のケニカット役だったレイ・ミランドは、第11話「悪の温室」で、財産目当てに甥を殺害する叔父ジャービス役で再登場する。

(ケニカット役のレイ・ミランド)

新聞王で被害者の夫ケニカット - コピー - コピー - コピー.jpg

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 ケニカットは、年下の妻を心から愛し、真相解明のためにコロンボに協力しながら、一方で捜査が迷宮入りしないようにと圧力をかけてくる。

(そして、遺族で権力者である彼の存在が、ブリマーにとってもプレッシャーになる)

 悲しみと威厳をにじませるケニカットと「悪の温室」の皮肉屋で強欲なジャービスの演じ分けもまた見事だ。

(「悪の温室」の犯人、ジャービス)

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コロンボVSブリマー 静かなる対決シーン

 「刑事コロンボ」の見どころ、コロンボと犯人が表向き別の会話をしながら、頭脳戦を繰り広げる「対決」シーン。

 コロンボが、ブリマーのオフィスで検視報告書を見せながら、遺体のほほについた奇妙な傷あとについて話す場面は、歴代のコロンボと名犯人対決の中でも、最も大胆でスリリングだ。


(※以下、吹き替え版の台詞引用)


「色々と考えた末、ふっと気が付いたんですよ。(ほほの傷は)指輪で出来たんだって。」

「指輪だって……?というと、例えばこういうような指輪かね?」

 ブリマーは手を翻し、自分の指にはまっている(殺人のときにもはめていた)指輪を見せた。

指輪を見せる - コピー - コピー - コピー.jpg
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コロンボはブリマーの指輪を指さす。

「ええ、そういうやつです。殴られた時当たったんでしょう」

 ブリマーは深くうなずきながらコロンボの報告書に目を落とした。

「ところで女性殴るときどうします?相手が女だと拳固はつかわないでしょう?そりゃまあもちろん……例外もあるけど、大抵の人は平手を使って、こうやるか、こうやる」

 コロンボはブリマーのほほに向けて左右に平手打ちのしぐさをした。

「そしてこう殴ったとすれば、指輪のせいで傷がつくはずがない」

 てのひらをほほに向けていたとすれば。

「だからバックハンドでやったことになる。こういうふうだ。うん!」

 コロンボは手の甲を、ブリマーの顔の手前で止めた。ブリマーは身じろぎもせず、その目は、大きな銀縁眼鏡の奥で怪訝そうに細められている。

「どういうわけで殴りかたにそんなにこだわるのかな。ねらいがわからないな」

「今右手でやったでしょう。この右手に指輪がはまってるとすりゃあ、切り傷は、右頬につくはずです」

ブリマーはコロンボの言葉を継いだ。

「だが夫人の傷は、左の頬……つまり犯人は左利きで、こういう具合に殴った」

ブリマーの手がコロンボに降り上げられた。

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もちろん直前で止まったが、その鋭さに、思わず顔をそむけかけたコロンボは、ブリマーの手の向こうで、ぱちぱちと目をしばたかせた。

「推理としては面白いねえ……ホシは左利きか……」

 ブリマーは書類を手にデスクの向こうにまわった。

「しかしそれだけのことで、はたして逮捕の手がかりになるかなあ」


 コロンボの言葉に応えて、「例えば」と前置きをしながら、まさに殺人のときにはめていた指輪を見せ、左利きの人間の犯行を再現する、ブリマーの冷静沈着さ、殴る仕草の鋭さに垣間見える殺気。

 二人がはじめて顔を合わせた時、(既にほほの傷を気にしていた)コロンボは手相に凝っていると称して、ケニカットとブリマーの手をしげしげと見ている。

手相を観るコロンボ - コピー - コピー - コピー.jpg
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 「今更隠したら不自然になるという葛藤」から、「堂々と例示して無関係を装う戦略」への転換が、形の良い手を翻して指輪を見せる、ブリマーのなめらかなしぐさに秘められている。


 最初から犯人がわかっている「倒叙物」の推理ドラマでは、犯人役の俳優は「無実を演じる演技」をする。

 そしてその演技には、

「(視聴者のために)嘘をつく者の白々しさをかすかに含ませる」

「敗北に直面するまでは、犯人の本心を台詞で表現することが出来ない(無実だと嘘をついているから)」

という、縛りがある。

 「刑事コロンボ」の犯人役の俳優は、この繊細で複雑な演技を、名優ピーター・フォークと渡り合いながらこなさなければならないのだが、ロバート・カルプはそれを見事にやってのけた。

 この静かな対決シーンでの、コロンボに自分の犯行を再現されても瞬きもしないブリマーと、ブリマーの鋭い動きに一瞬気おされながらも、彼の反応を見極めようとするコロンボの、表情の対比は見事だ。

コロンボの犯行再現 バックハンドで殴ったはず - コピー - コピー - コピー.jpg
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平静を装うブリマー さぐりを入れているコロンボ - コピー - コピー - コピー.jpg
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 刃物も銃も突きつけあっていないのに、そこには火花が閃いている。
 それは、コロンボとブリマーの対決であり、フォークとカルプの演技力のぶつかり合いでもあるのだ。

(二人の対決シーン動画)※英語音声
A Left- Handed Lead | Columbo



人工的な映像と音楽が斬新な犯行シーン

 「指輪の爪あと」は映像や音楽が緻密に作りこまれている。

 特に、突発的殺害から隠蔽工作までの展開は独特だ。

 スローモーションと音楽の中、被害者ジェーンを殴るブリマー。

 倒れたジェーンがガラスのテーブルに後頭部を打ち付け、飛散するガラスの破片と、暴力から我に返りかけているブリマーが重なる。

指輪の爪あと 砕け散るガラス - コピー - コピー - コピー.jpg

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(これはジェーンの最期の視界であり、同時にブリマーがその頭脳で築き上げてきた成功が砕け散ったことを象徴しているのだろう)


 そして、不穏な音楽が流れる中、呆然と目を見張るブリマーの眼鏡のレンズ左右それぞれに反射して、彼自身の証拠隠滅の一部始終が展開する。

指輪の爪あと 証拠隠滅シーン1ロバートカルプ - コピー - コピー - コピー.jpg

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指輪の爪あと 証拠隠滅シーン2 ロバートカルプ - コピー - コピー - コピー.jpg

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(さらに車で死体を運ぶ時には、BGMがジャズに切り替わる。)


 この人工的な表現が、カルプの存在感と相まって、この作品は「ニュースでよく見る血なまぐさい殺人の話」ではなく「洗練されたミステリードラマ」に仕上がっている。


(犯行シーン動画)




 「何度見ても新しい!刑事ドラマの金字塔」

 これは、2021年のNHKBSプレミアムの『刑事コロンボ』番組紹介ページに添えられた言葉だ。

 50年以上前に生まれた『刑事コロンボ』が、今、「新しい」のはなぜか。

 テレビやネットから、情報が絶え間なくなだれ込んでくる現代。

 人々の脳は、現実の事件や人間関係の生々しい情報に埋め尽くされている。

 一方、旧シリーズ『刑事コロンボ』(1968〜1978)は、死体や性的シーンなどの直接描写は避け、犯人のキャラクター、画面、音楽など全てにおいて、観る者を魅了するように「創られた」作品だ。

 この50年前の製作コンセプトが、今、暗くドロドロとしたリアル情報に窒息しかけている人々の目には、非常に「斬新」に映るのだ。

 中でも、最も作為に徹した「指輪の爪あと」は、今、一番「新しい」作品かもしれない。



【当ブログ関連記事】

(ロバート・カルプが三回目の犯人役を演じた作品のご紹介記事)
スーパーで話すコロンボとケプル博士 - コピー.jpg
c 1973 Universal City Studios LLLP. All Rights Reserved.



画像出典動画(引用順)※注:他の回や物語の核心シーンを含む












参考文献





刑事コロンボ コンプリート ブルーレイBOX [Blu-ray] - ピーター・フォーク, ジョン・カサヴェテス, ベン・ギャザラ, ジーナ・ローランズ, アン・バクスター, パトリック・マグーハン, サム・ワナメイカー, リー・グラント, ハロルド・グールド, ロバート・カルプ, レイ・ミランド, レスリー・ニールセン, ロディ・マクドウォール, アイダ・ルピノ, ピーター・フォーク, ジョン・カサヴェテス, ベン・ギャザラ, パトリック・マグーハン, サム・ワナメイカー, スティーヴン・スピルバーグ
posted by pawlu at 18:31| 刑事コロンボ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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