「ハロー宇宙人」は、UFOマニアの近所のおじさんにUFOの写真を見せて、おこづかいをもらおうとしたのび太とドラえもんが、火星に宇宙人を創るというお話。(てんとう虫コミックス13巻収録)
(コミックスの表紙もかわいい〈この巻には「ジャイアンシチュー」「お金のいらない世界」などの名作も収録されている。〉)
ドラえもん(13) (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄
壮大なようなそうでもないような展開と、キノコ風の火星人の可愛さがみどころ。
ある夏の日。
のび太、ジャイアン、スネ夫は空き地にたむろしていた。
「あついな、氷あずきなんかくいてえな」
「先立つものがなくちゃな」
小学生男子のわりに渋い嗜好と台詞のジャイアンとのび太をよそに、スネ夫が「ぼくはよく冷えたメロンでもごちそうになってこよう」と、立ち上がった。
驚く二人に、「ぼくのやり方を見てな」と言い残し、ある家を訪ねていった。
この家にはUFOマニアの「円番さん(←笑)」が住んでいて、近隣の目撃情報を収集していたのだ。
スネ夫が、またUFOを見たと(でまかせを)言うと、地図まで持ち出して真剣に聞き取りをする円番さん。
(その間にメロンをごちそうしてくれる。)
興奮して矢継ぎ早に質問する円番さんに、ゆうゆうとメロンを食べ、冷たい飲み物を飲みながら、こまやかに嘘をつくスネ夫(酷い)。
いい写真をとってきたらお小遣いをあげるよ、と、円番さんに送り出されたスネ夫が、外から一部始終を見ていたのび太たちに「あんな話をするとむちゅうになってよろこぶよ」とUFO詐欺の手口を教えると、ジャイアンは、「おれもよろこばせてごちそうになろう」と手を打つ。
「やり口がきたないと思うんだ!」
帰宅後、円番さんの情熱を踏みにじるスネ夫(と、詐欺に乗っかる気満々のジャイアン)に憤慨するのび太。
「そうだ!じつにきたない!」
さすがドラえもんは同意してくれるかと思いきや
「そんないいことをなぜもっとはやく教えない!」
すぐに写真をとろう。と、なにやらとりかかろうとする。
インチキなんかよせよと、のび太は止めようとするが、ドラえもんは、ほんもののUFOを宇宙人に作らせるのだと言った。
火星には空気や水があり、コケがある。そのコケの進化を加速させて宇宙人にしたら、10日もすればUFOを作るだろう。
メロンとお小遣いほしさに、創世記の神のような発想で、火星に「進化放射線」をロケットで送り込んだドラえもん。
のび太とドラえもんが地球からモニターで見守っていると、進化放射線の効果でまたたくまに進化した火星の植物は、やがて水をもとめて動けるようになり、ついにキノコのような「火星人」が登場した。
(かわいい)
洞窟暮らしから、カビを育てて収穫する集団農耕生活、人口増加、都市の誕生……と、人類の歴史のように発展を遂げるかわいい火星人。
ちなみに、この間、
UFOのおもちゃでインチキ写真を撮影中のスネ夫とジャイアンを、のび太が余裕の笑みで見下しているところが写りこんでしまい「みるからにインチキくさい写真になった」と暴力をふるわれたり、
(たしかに)
スネ夫たちから、ドラえもんに本物そっくりのUFOを出してもらうなら、「おれたちもインチキのなかまにいれろ!」と言われ、黙秘を通したら重ねて暴力をふるわれたり、
それでも口を割らなかったのび太に、ドラえもんが、「えらい!あんなのなかまにいれたらろくなことないからな」と、シビアな発言をしたり、
スネ夫たちが撮りなおした写真を円番さんに見せに行ったが、「おもちゃみたいにも見える」と言われ、ジャイアンが「今度はもっと本物らしいものをとります」と口をすべらせたり、
……と、地球は地球で、いろいろあった。
やがて生まれた火星の近代都市で、夜空に浮かぶ地球を見ながら語り合う火星人父子。
(子供はもちろんかわいいが、チョビひげのお父さんもかわいい。おしゃれなネグリジェと髪形のお母さんもかわいい。)
「ぼくはぜったいにいると思うよ。」
「ほう、地球に人間がかね」
そして、火星に攻めてくるんだ。「宇宙戦争」という本に書いてあったよ。
SF小説を信じていた少年は、いつかロケットを作って地球を探検したい、と、お父さんに将来の夢を話した。
(補足1)この火星人の少年の台詞はH・G・ウェルズ作のSF小説『宇宙戦争』のパロディ。
小説の「火星人が地球に攻めてくる」という設定を逆にしている。
(画像出典:Wikipedia)(補足2)「宇宙戦争」は名優オーソン・ウェルズのラジオドラマでも有名。「火星人襲来」を告げるニュース場面のあまりのリアリティに、視聴者が事実と誤解してパニックを起こしたという都市伝説がある。
月日は流れ、成長した火星人の少年は、宇宙飛行士になって地球へと飛び立った。
(国家の最高権力者らしき人物も、見送る群衆もかわいい)
(ちなみに、のび太とドラえもんは、この歴史的瞬間を、テレビの特撮番組「UFOレンジャー」を観ていたために見逃した。)
大気圏を越え、雲を抜けた先に姿を現したのは、大都会東京。やはり地球には文明があった!
しかし、なんという汚れた空気と騒音!
宇宙服越しにも伝わる不快感に、火星人はかわいい顔をゆがめた。
そして。
「これが地球人?おおっ!なんという凶暴な顔つきだろう!」
ジャイアンとスネ夫が、いまだにしらばっくれて「インチキのなかま」に入れようとしないのび太を、脅迫尋問している真っ最中だった。
逃げ出すのび太の襟首をつかまえ、ボカボカと殴るジャイアンとスネ夫。
「野蛮人だ!!」
どこかのお宅の庭木の陰に隠れ、一部始終を見ていた火星人は戦慄した。
(コケから生まれてキノコ状に進化したためか、火星人もUFOも小さい〈UFOは灰皿程度の大きさ〉ことが、このコマで判明する。)
どうにか逃げ帰ったのび太だが、なかなかUFOが来てくれないことにしびれを切らして、また、ドラえもんと一緒に、お茶の間に「UFOレンジャー」を観に行ってしまう。
「UFOレンジャー」は特殊部隊が地球の平和を守るために宇宙人と戦うというストーリー。
飛来するUFOを撃墜するレンジャーに「やれ、やれぇ!」「宇宙人なんかに負けるな!やっつけちまぇ!」と結構乱暴な言葉遣いで声援を送るのび太とドラえもん。
野比家の窓から、「火星のものに似た乗り物を次々攻撃する特殊部隊と、他星人の殺戮映像を娯楽扱いする地球人たち」の様子を覗き込み、UFOごとおののき震える火星人。
「な……なんというおそろしい……。地球人は血を見るのが大好きなんだ……。」
もう、とてもこんなおそろしい星には居られない。早く帰って火星の皆にも知らせよう。
動揺が操縦を狂わせたのか、灰皿大のUFOはフラフラと危うげな軌道を描きながら野比家を離れ、近くを歩いていた円番さんにぶつかった。
なんじゃこれは、と、道に落ちたUFOを拾い上げた円番さん。
UFOのおもちゃではないか、さてはこれを使ってインチキ写真を……。
「わしはだまされていたのか!」
「宇宙人は地球人よりもずっと小さいかもしれない」という発想がなかった円番さんは(スネ夫たちの写真にうさんくささを感じていたこともあって)、あれほど恋焦がれていたUFO(かわいい火星人入り)をおもちゃと決めつけ、空に向かってポキャ!と蹴り飛ばした。
(円番さん……!!)
「あっ!UFOだっ!!」
円番さんの怒りの一蹴で飛んでいくUFOを見たジャイアンとスネ夫がそれを撮影し、歓喜の涙ともに手を取り合った。
ついに本物の撮影に成功した!!
メロンも、お小遣いも超え、彼らの中にも宇宙人のロマンに感動する少年の心があったのだ。
一方、帰星した宇宙飛行士からの報告を受けた火星人たち。
地球人の凶暴さを知り、いつ「地球人襲来」が現実のものになるかわからない、と、すみやかに地球から離れた星への移住を決定した。
飛び立つUFOの大群を(こんどはちゃんと)モニターで見たドラえもんとのび太は、地球にUFOが来る!と、屋根の上でカメラを構えて心待ちにしていたが……。
UFOは来ず、モニターに映る火星の都市は、みるみるうちに廃墟になっていった。
「むだ骨だったみたいね」
二人はあきらめて眠りについた。
翌日。
「信じてよっ!今度こそ本物なんですよ!」
「ええい、まだわしをだます気かっ!!」
スネ夫とジャイアンが、「円番さんが蹴っ飛ばしたUFOの写真(本物)」を手に円番さんを追いかけ、「写っているUFOはおもちゃ」と固く信じている円番さんは、ぷんすか怒りながら二人を追い払っていた。
(完)
大人になってから再読すると、少年のように目を輝かせてUFOの情報を集める円番さんと、少年なのに堂々とうそをつきながらメロンを食べ、そつなく調子を合わせるスネ夫の笑顔の対比が味わい深い。
(そしてジャイアンの「おれもよろこばせてごちそうになろう。」という台詞は、「だまして」という重要な問題を気に留めず、「よろこばせて」と、あたかもWin-Winであるかのように考えているあたりが、まんま詐欺師の発想だ。)
しかし、円番さんはUFOが絡むと財布の紐までガバガバになる人のようなので、本物のUFOを撮影したと思えば感涙できる、根は悪人ではないスネ夫とジャイアンレベルの少年たちにちょっと騙された程度で済んでよかったと言えなくもないかもしれない。
(リッチなスネ夫がわざわざ食べにいくほどおいしいメロンを常備しているところをみると、それなりに金銭的余裕のあるお宅のようだし、もっと悪質な詐欺に狙われる可能性だってあっただろう。)
ドラえもんにはこのほかにも「小さな宇宙人」が登場する作品がある。どちらもおすすめだ。
・『大長編 のび太の宇宙小戦争(リトルスターウォーズ)』
大長編ドラえもん のび太の宇宙小戦争 (Vol.6) (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄
円番さんには結構たちの悪い詐欺を働いていたスネ夫が、ラジコン制作のスキルと男気を見せる。スネちゃまファン必見の名作。
(※2021年3月20日現在、コロナの影響でリメイク版「映画 のび太の宇宙小戦争2021」の公開延期中)
・「天井裏の宇宙戦争」(てんとう虫コミックス19巻収録)
ドラえもん(19) (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄
映画「スターウォーズ」のパロディ色の濃い作品。
キャラや建築物のスタイリッシュなデザインと、スケールの小ささのギャップが見事。
ドラえもん (13) (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄
- ドラえもん「のら犬イチの国」のび太と野良犬イチの心温まる物語
- 「あべこべ惑星」あらすじ(のび太がお星さまに捧げた痛切な祈りとドラえもんの反応)..
- 藤子・F・不二雄の名作SF短編「イヤなイヤなイヤな奴」NHKで実写ドラマ放送
- (名場面)パピの愛犬ロコロコ、寝込むスネ夫の「話相手」になる(大長編ドラえもん『..
- ドラえもん「どくさいスイッチ」藤子F先生が単行本収録時に書き足した内容(※Twi..
- ドラえもん「どくさいスイッチ」あらすじ(かっとなるとつい押したくなる、「じゃまも..
- 大長編『のび太の宇宙小戦争(リトルスターウォーズ)』独裁者によって自由と平和を奪..
- ドラえもん「ぐうたらの日」(「誰も働いちゃいけない日」の光と影)(※ネタバレあり..
- 名言「だれにもじゃまされず、いねむりできる勉強べやがほしいなあ」(のび太「人食い..
- ドラえもん「こっそりカメラ」(隠し撮りと野次馬たちへのブーメラン)