最近、かわいらしい猫動画をふたつ見つけた。
ひとつめは美猫の「ミモ」さんが鏡を観て、自分に耳があることに気づいている動画だ。
最初、その鏡にはミモさんの両耳だけが映っていて、ミモさんには、そのちらちら見える三角ふたつが何なのかわかっていない様子だったが、伸びあがって、それが自分の姿であることを確認すると、その賢そうな大きな瞳を見開く。
それから、まじまじと鏡に映る自分を見つめながら、自分の頭を前脚でそっと撫でまわし、鏡の中そのままに、確かに自分の頭上に耳がついていることを、静かに、でも本当に意外そうに、確認している。
もうひとつは、小さな黒猫「ゴースト」ちゃんが、自分の後ろ脚に気づいてびっくりしている動画だ。
寝っ転がって毛づくろい中、後脚の存在に生まれて初めて気づいたゴーストちゃんは、飼い主さんの「まあ!それはなにかしら!?」という言葉に合わせて、ほんとうに「にゃっ!?にゃに!?にゃに!?」という顔で、じぶんの後ろ脚をかわりばんこに両前脚で持ち上げて見つめている。
(猫の「あっけにとられた」顔を初めて観た〈かぁわいい〉)
ところで、『ドラえもん』にも「自分がどんな姿をしているか知らないとどうなるか」を描いた作品がある。
「かがみのない世界」は、自分のルックスに自信がないのび太が、誰もひけめを感じたりうぬぼれたりしない「鏡の無い世界」を「もしもボックス」で作り出すというお話だ。
(てんとう虫コミックス27巻収録)
「かがみをみるたび、いやになっちゃう」
洗面所の鏡を見つめ、のび太は口を「3」にとがらせた。
「どうしてぼくのかおは、まんがみたいなんだろう」
(まんがだから)
「気にするな、人間のねうちは顔じゃない、頭だ、力だ!」
のび太は深くうなだれて部屋に戻っていった。
のび太の場合、どちらもかなりいまいちで、「全体的に値打ち無し」と言ったも同然であったことに気づいたドラえもんは「わるいこといったかしら……」と口をおさえた。
補足:
実際には、眼鏡をとったのび太は、出木杉君級とはいかないまでも、藤子Fワールド内では標準〜比較的整った容姿をしている。
(小さいころは非常に可愛らしい)。
それに、ドラえもんはのび太の親友で、子守りロボットなのだから、容姿については「そんなことないよ」と言い、人間の価値については、のび太最大の長所である「性格の良さ」をほめてあげてほしかった。
鏡なんかあるから悪いんだ。
自分の顔を知らなければ、引け目を感じたり、うぬぼれたりする者もいないはずだろう。
ということで、「もしもボックス」で、「もしも誰も自分の顔を見たことがなかったら……」という世界を作ってみることにした。
さっそくどうなったか見に行ってみると、世界から鏡が消えていて、ママはお化粧に、パパは髭剃りに苦戦していた。
(人に確認してもらうしかないのだが、なかなかうまくいかない。〈特にママは、のび太たちのでたらめなアドバイスで変顔に仕上がってしまった〉)
ガラスにも顔が映らない、カメラも無い。だから、誰も自分の顔を知らない。
これはいい、と、思いながら二人で外に出てみたのだが。
「スネ夫さ〜ん」
スネ夫を女の子二人が追いかけていた。
「おねがい。」「にがおをかいて。」
「またかい」
「だってこうでもしないと自分の顔をみられないもの」
スネ夫は差し出されたスケッチブックに手慣れた様子で鉛筆を走らせると、「これでいいか」と女の子に手渡した。
きらきらと輝く大きな瞳が長いまつげにふちどられた美少女たちの絵。
「そっくり!」「スネ夫さんて、絵が上手ねえ。」
ぽっちゃり系の女の子とスネ夫系の女の子(親戚ではというほど似ている)は、うっとり「自分の顔」の「にがお」絵を眺めていた。
(「自分の顔」しか観ていないから、互いの絵の違和感に気づいていない。)
「あたしにもかいてえ。」
しずかちゃんも、スケッチブックを手に、スネ夫に頼みに来ていた。
「すっかり人気者だ。」
「かがみがないからさ」
この世界では、絵がうまくて空気が読める男が女の子にちやほやされると気づいて、非常におもしろくないのび太。
一方空き地では。
「こうしてさわってみると……、おれってどうしてこんなに、男らしいりっぱな顔してるんだろう」
ジャイアンが自分の顔を両手で撫でまわし、その手触りから伝わる己の美貌に酔いしれていた。
「高い鼻、ひきしまったくちびる……。毎日なでていてもあきないや。」
そうだ!おれタレントになろう!!
土管に腰かけ、夢を叫ぶジャイアンを見かけたのび太とドラえもん。
「そんなばかな!!」
「かがみがないからだよ。」
(二人とも酷い。)
「かがみをみせてやろう!!」
身の程を知るべきだと言わんばかりののび太に、ドラえもんは「せっかくかがみのない世界にしたのに」と、唇を「3」にするが、「鏡を見たことがない人間が、初めて鏡を見たらどうするか実験しようよ。」と言われ、「なるほど、おもしろいかもね。」とポケットに手をいれた。(実験動物扱い)
「箱入りかがみ」
等身大の鏡の入った試着室のような箱を出されて、ジャイアンは「なんだいそれ」と、扉を開けてみた。
「おっ、おまえだれだ。」
ウ〜〜。
顔をしかめて中を覗き込んだ後、ジャイアンは笑った。
「ハハハ…。ゴリラみたいなひどい顔。」
箱入り鏡の中の「『ゴリラみたいなひどい顔』の少年」も、ジャイアンを指さし、歯をむき出しにして笑っていた。
「おれの顔見てわらったな!!でてこいこのやろ!!」
「男らしいりっぱな顔」をあざ笑われたジャイアンは、「ゴリラみたいなひどい顔」の少年に殴りかかるが、相手はガラスのむこうに隠れているので拳をいためてしまった。
「だれにおこってるの。」
大きな箱の前で「ずるいぞ!!」と鼻息を荒くしているジャイアン(そしてなぜか側で大爆笑しているのび太とドラえもん)に、通りすがりのスネ夫としずかちゃんが声をかけた。
ジャイアンから「ゴリラみたいな、生意気な男の子」が隠れていると聞いたスネ夫は、箱の中を覗き込んでみた。
「なるほど。みるからにずるそうな、感じのわるいやつ!(ムカッ)」
でもゴリラというよりキツネだよ。
ばかいえ、あんなキツネがいるか。
印象の良くない顔の男の子というところは一致したが、目鼻立ちについては二人の意見が大きく食い違っているので、しずかちゃんも箱を覗き込んでみた。
「うそお、かわいい女の子よ」
3人が決してかみ合うことのない議論をし、のび太とドラえもんがますます抱腹絶倒していたとき、サラリーマンらしき男性が通りかかり、箱の中の人物に目を見張った。
「こ、これは!!十年前に家出したふたごの兄さんじゃないか!どうしてこんなところに!!」
ガラスの檻に閉じ込められているのか!!誰がこんな酷いことを!!
しかし、どう頑張っても兄を助け出せなかった男性は、箱入り鏡を背負って走った。
あれ、鏡が無い。誰が持って行ったんだろう。
笑い転げていたドラえもんとのび太が、ようやく異変に気付き、タケコプターで行方を探し始めた。
「おまわりさ〜〜ん」
箱入り鏡を背負った男性は、息せき切って交番に駆け込んでいた。
「なに、その箱に兄さんが?」
警官が箱を開けると、男性の「ふたごの兄さん」の前に、警官の制服を着た男が立っていた。
「きみ、みたことがない顔だが、どこの署の者かね。」
「きっとにせ警官だ、そいつがゆうかい犯人です!!」
警官の後ろに立つ男性の言葉に、警官も「む、どおりで人相が悪い!」と思わずピストルを抜いた。
「むこうもピストルをぬいた!」
「きさま!ていこうするか!!」
平和な町に激しい銃声が響いた。
上空から事態に気づいたドラえもんは、大慌てで家に飛んで帰り、「もとの世界に!!」と、受話器に叫んで「もしもボックス」の効果を解除した。
「なんでかがみなんか撃ったんだろう」
「なんでかがみなんかはこんできたんだろ」
穴だらけになった「箱入り鏡」を前に、警官と男性がきょとんとしていた。
「かがみがなくなってもいいことなかったね」
大人二人が我に返ったのを見届けたのび太とドラえもんは、タケコプターでこっそりその場を離れた。
(完)
ジャイアンが、自分を指さして「ゴリラみたいなひどい顔」とあざ笑うのも見ものだが、スネ夫が自分の容姿に「みるからにずるそうなかんじの悪い奴!(ムカッ)」と嫌悪感をあらわにしているのは珍しい。
他の話では、スネ夫は自分のことを非常に美しい少年だと思っているのだ。
鏡を見ながら、
「美しいということばはぼくのためにあるんだなあ」
「いくら見ても見飽きないや、どうしてこんなに美少年なんだろ」
と、ためいきまじりに言ったり(1巻でも29巻でも、ゆるぎなく何コマもかけて自分に見とれている。)、夢の中に登場する自分は、顔立ちも態度も凛々しい少年(しかも長身)だったりする。
スネ夫はデザイナー志望だし、この回でも披露されている絵の腕前は、美術評論家にも「ひらめきのようなものが感じられる」と言われるほどで(※てんとう虫コミックス8巻「ロボットがほめれば……」)、美的センスは確かなのだが、「自分」だと思った瞬間に、大幅に認識が甘くなるらしい。
(まあ、そのくらい自己肯定感が高いほうが人生は楽しい。)
「鏡」が登場する作品としては、このほかに、極端に美しい虚像を映しだした挙句、お世辞まで言って観る者の精神を依存状態に引きずり込む「うそつき鏡」(てんとうむしコミックス2巻収録)がある。こちらもおすすめだ。

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