「大長編ドラえもん」は、ドラえもんたちが太古の昔や海の底、はるか遠くの星など、様々な場所で冒険を繰り広げるシリーズ作品です。
(2020年6月現在、ドラえもん公式サイト「ドラえもんちゃんねる」で大長編シリーズが期間限定で五作品順次公開中、現在の公開作品は『のび太と竜の騎士』〈6月25日AM10:00まで、その後さらに2作品公開〉)
https://dora-world.com/daichohen2020sp
普段は色々と人間らしい欠点があるのび太たちですが、日常を飛び出し、強大な敵と戦う中で、それまで見せなかった一面を見せてくれる瞬間があります。
特に魅力が光るのが、のび太とジャイアン。
のび太は、後にスネ夫に「大長編だとかっこいいことを言う」と言われるほど、激変することがあります。(『のび太の銀河超特急』より)
今回の記事ではこうした大長編の中の「かっこいいのび太」名場面をご紹介させていただきます。
(いや、こういう意味ではなく。)
【大長編のかっこいいのび太 その1】 腕利きのガンマン
大長編2『のび太の宇宙開拓史』は、平和な開拓地コーヤコーヤ星の人々に強引に立ち退きを迫る「ガルタイト鉱業本社」に、のび太とドラえもんが立ち向かうお話です。
大長編ドラえもん (Vol.2) のび太の宇宙開拓史(てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄
地球より重力が小さいため、その星では超人的身体能力の持ち主となったのび太とドラえもんは、コーヤコーヤ星の「スーパーマン」となって大活躍しますが、非合法の汚れ仕事をこなすギラーミンの策略でピンチに直面します。
物語のクライマックスはギラーミンとのび太の早撃ち決闘シーン。
実はのび太の特技は射撃(と、あやとり)で、普段どんなに周囲にダメな奴扱いをされていても、 そのガンさばきは、早さ、精度ともに天才的でした。
のび太の射撃の腕前は単行本24巻「ガンファイターのび太」でも観られます。
ドラえもん (24) (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄
この回の冒頭、のび太は未来のシューティングゲームで世界最高得点をたたき出しています。
そして、それを見たドラえもんは「君は天才だ!」と叫んだ後、「実に不思議だ!ほかになんのとりえもない頭も悪い、のろまでぐずで……」と、ボロカス言っていました。
その射撃の腕前で、ガルタイト鉱業本社の人間たちも、繰り返し追い払ってきたのび太。
(優しいのび太の武器は、人を気絶させるだけの「ショックガン」)
ギラーミンは目的のためなら大量殺人も辞さない凶悪な男でしたが、のび太のことは「腕利きのガンマン」として一目置き、一対一の男の勝負を挑んできます。
「ぼくにまかせてくれ、なあに負けるもんか」
と、ドラえもんたちを下がらせ、決闘を受けて立つのび太。(超絶かっこいい。)
相対峙したのび太に、ギラーミンは
「このチビ、ただものではないな」
と、おっとりした少年にしか見えないのび太の、尋常ならざる才能を見抜きます。
一方、のび太も
「ギラーミンがねらいを外すなんてぜったいにありえない。勝負は最初の一発にかかってる。相手より0.1秒でも早く撃つこと……。」
と、自分の命と、親友であるロップル君たちの愛するコーヤコーヤ星の命運をかけた大勝負で、緊張しながらも真剣に勝機をさぐります。
(ギラーミンの足の間からのび太の姿が見える大胆な構図のコマは、西部劇の決闘シーンへのオマージュと思われます。)
「のび太のくせに生意気だ」などと口が裂けても言えない、のび太の本質がわかる名シーンです。
【大長編のかっこいいのび太その2】しずかちゃんへの思い
(おそらく二人の結婚の決め手となった場面)
大長編の第一作目にして最高傑作とも言える『のび太の恐竜』は、のび太が育てた恐竜の「ピー助」を、故郷である白亜紀の日本に帰そうとするお話です。
大長編ドラえもん1 のび太の恐竜 (てんとう虫コミックス) - 藤子・F・不二雄
(2020年8月、リメイク映画公開予定。これで三度目の映画化。)
肉食恐竜たちが君臨する世界で、のび太たちはしばしば大ピンチに見舞われます。
一度目の危機は、巨大草食獣アパトサウルスの群れを、ティラノサウルスが急襲したとき。
しずかちゃんは、つい先ほど卵からかえったばかりのアパトサウルスの赤ちゃんが、その場にとりのこされたことに気づき、思わず岩陰から飛び出してしまいます。
しかし、赤ちゃんに駆け寄ったものの、ティラノサウルスと目が合ってしまい、恐怖のあまり、赤ちゃんを抱きしめつつも、その場にへたり込むしずかちゃん。
しずかちゃんが飛び出した直後、「逃げろ!隠れろ!」と叫び、彼女を追ったのび太は、地響きを立てながら近寄ってくるティラノサウルスとしずかちゃんたちの間に立ちはだかります。
震えながらも両手を広げてしずかちゃんたちをかばい、「こ、こ、こらっ!」と、精一杯声を上げてティラノサウルスを追い払おうとするのび太。
普段ののび太は(おそらく日本全国の人が「だろうね」とおっしゃると思いますが)非常に怖がりです。
「のび太恐がらせコンクール(ジャイアン主催。近所の子供たちが持ち寄った『怖い物』を目の前に突き出された時、のび太が恐怖で飛び上がる高さを測り、その記録で何が一番怖いかを決める)」という、あまりにもむごいイベントを開催された際は、毛虫、クモ、ヘビ(露骨にオモチャ)、そしてジャイアンの怒鳴り声にいたるまで、まんべんなく悲鳴を上げて飛び上がっていました。
そして、逃げ帰ったのび太から話を聞いたドラえもんは、「なんてざんこくな!!」と激怒した後「よってたかっていくじなしの泣き虫の弱虫ののび太をいじめるとは!!」と、ボロカス言っていました。
そんなオモチャのヘビにも「キャッ」と言って15p飛び上がるのび太が、しずかちゃんのためなら体長15mのティラノサウルスの前で、「こ、こ、こらっ!!」と言って両手を広げる。
どれだけ、しずかちゃんを大切に思っているかがよくわかります。
「好き!好き!大好き!!あの子がいるから僕は生きていけるんだよ」という言葉通り、色々なコンプレックスを抱え、さえない日常を送るのび太にとって、可愛くて優しい大好きなしずかちゃんという人がこの世にいてくれることが、のび太の生きる支えであり、彼女のためならどんな恐怖の前でも、命を惜しまず行動できるのです。
(※以下、ややネタバレ)
のび太のこの覚悟は旅の間中変わることはなく、作品クライマックス部では、しずかちゃんが恐竜に襲われかけたとき、泣きながら「こいつめ!こいつめ!しずちゃんをはなせ!!」と恐竜の尾によじのぼって殴りかかっています。
「しずかちゃんがなぜ出来杉君という完璧な相手が側にいながらのび太を選んだのか」については、正直我々ファンにもはっきりしたことは言えません。
しかし、もしかしたら、こうした大長編ののび太の姿が決め手となったのかもしれません。
大人になったしずかちゃんは「のび太さんと結婚するわ。側についていないと危なくて見ていられないから」とのび太に言い、のび太が涙を流しながらひざまずいてお礼を言っています(笑)が、しずかちゃんほど聡明な人が、出木杉君ほどの逸材から好意を寄せられながら、ボランティア精神だけでのび太を選ぶというのは少し不自然な気がします。
(我々ファンはのび太を愛していますが、容姿端麗文武両道の上、誠実で純粋さもある出木杉君は、性格まで含めて欠点が何も無いのです。)
このため、のび太は何度も本当にしずかちゃんと将来結婚できるのか心配になり、ドラえもんにその不安を漏らしています。
そして、それを聞いたドラえもんは、「いや、ぼくもかねがね不思議に思っていた。あんないい子がなんだってよりによってのび太くんなんかと。もう少しましな男がいっぱいいるのに…。」と、ボロカス言っていました。
(ドラえもんの頭の中に「親友なのだからひいき目に見る」「はげます」「オブラートにくるむ」という発想は存在しないだろうか。)
しかし、しずかちゃんは、かつて、理想の男性との結婚を思い描いた夢の中で、「ぼくはえらくもないし金持ちでもない。だが、きみを愛する心だけは誰にも負けないよ」と、夫となる男性(まだ具体的に誰だか決まってないので顔が無い)に言われ、幸せをかみしめていました。
のび太が出木杉君を上回っている点、それは、しずかちゃんのためなら、普段の「おもちゃのヘビにも悲鳴を上げて飛び上がる自分」という限界を大きく飛び超え、彼女を守ろうとする捨て身の情熱ではないでしょうか。
『のび太の恐竜』には、のび太のしずかちゃんへの思いを語る上で、見逃せない名場面が、もうひとつあります。
タケコプターで移動中、翼竜プテラノドンの大群に囲まれてしまったのび太たち。
スネ夫が、もうじき訪れるであろう自分たちの恐ろしい最期を想像して、自分たちが食べられる過程を詳細に話し始めます。
青ざめて、「やめてやめて」とスネ夫の発言を止めようとするしずかちゃん。
「のび太、泣いているのか?」
ジャイアンにそう聞かれ、ぽろぽろと涙を流しながら、のび太は言います。
「くやしいんだよ。しずちゃんを守ってやれないのが」
あんなにこわがってるのに、なんにもしてあげられない。
自分も、スネ夫の言うような恐ろしい最期を迎えるだろうというときに、その恐怖や苦痛ではなく、しずかちゃんの気持ちを思いやり、大好きな女の子を守ってあげられない無力な自分に悔し泣きをする。
射撃の名手としてののび太以上にかっこいい、もしかしたら、全作品中最もかっこいいのび太の姿かもしれません。
愛する人の気持ちを何よりもに真剣に考え、その人を守ってあげたいと心から願う。
人生をともにするパートナーとして最高の愛情を、まだ片思いのうちから、のび太はしずかちゃんに対して持っているのです。
地位や財産が無くても、ただ、誰にも負けないくらい自分を愛してくれる人がいい。
そう思っていたしずかちゃんは、同情ではなく、しっかり「理想の男性」として、のび太を選んだのだと思います。
今回引用させていただいた作品は、全て笑いあり、涙あり(ドラえもんの毒舌あり)の名作なので、一度読んだことがあるという方も、是非もう一度ご覧になってみてください。
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