2018年02月14日

「ポカリ=百円」(「イシャ料しはらい機」でジャイアンから取り立て)


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 今回は漫画『ドラえもん』の名作、「ポカリ=百円」(てんとうむしコミックス28巻)のあらすじをご紹介させていただきます。

ドラえもん (28) (てんとう虫コミックス) -
ドラえもん (28) (てんとう虫コミックス) -

(ネタバレですので、未読の方は先にコミックをお読みください。)  

 
日頃ジャイアンの暴力に泣かされているのび太たちが、「イシャ料(慰謝料)しはらい機」を使い、ジャイアンからお金を取り立てようとするお話です。


 (あらすじ)※セリフ部、一部仮名遣いを改めています。

 頭にタンコブをのせ、力なく部屋に帰ってきたのび太。

 ジャイアンにぶたれた。

 泣きべそで報告するのび太に、ドラえもんは一言。

 「あ、そう。」

 内容が非常に気になる本、『ドラヤキ百科』から目も上げません。

 「ぼくがなぐられても平気なの!?」

 「しょっちゅうだもの。いちいち気にしてられないよ!」(シビア)
 
 「それもそうか」

 泣き言が引っ込んでしまったのび太。寝転がり、これからもずっと殴られ続けるであろう運命をかみしめます。

 さすがに気の毒になったドラえもんが、ポケットから取り出したのは「イシャ料しはらい機」。

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 ジャイアンになぐられるたび百円ずつとろう。

 ドラえもんの提案に、のび太は、ジャイアンはお金を持っていないと指摘しますが、ドラえもんは機械を持って、のび太と空き地に向かいます。

 土管に腰掛けるジャイアンにアンテナを向けて、徴収設定完了。

 試しにジャイアンの前に出てみたところ、すぐにジャイアンに呼び止められたのび太。

 「むしゃくしゃしてたとこだ。一発殴らせろ」(ひどい)
 
 ゴツン!! 

 「さっそく殴られた」

 「よかったね」

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 とても暖かい笑みを浮かべたドラえもん、「げんこつ一発百円」と慰謝料金額を設定し、被害者であるのび太にボタンを押させます。

 支払い口から百円が出てきて喜ぶのび太。

 あと、二、三百円欲しいので殴られに行こうして、わざとはダメだとドラえもんに引き留められます。

(ちなみに、ジャイアンが現金を持っていなくても、持ち物から百円分何かが消えることで支払われる仕組みです。)



 のび太は、スネ夫たちに、「これからは殴られても損はしないよ」と、支払機の存在を教えてあげます。

 スネ夫たちからの指摘を受け、暴力の強度や種類に応じ、より詳細な料金設定をした上で、のび太の庭に支払機が設置されました。



 含み笑いを浮かべ、さっそく空き地のジャイアンの側にたむろする少年たち。

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 不審がるジャイアンに、まず、スネ夫が行動を起こしました。

 「ジャイアン。こないだぼくからとってったまんが返せよ」

 カッしたジャイアン。

 「とったんじゃない。借りたんだぞ。いつ返すかきめてないだけだ。ドロボーみたいに言うなっ!」

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 後に読者の間で「ジャイアニズム」(※)という新語を生んだ、ジャイアン本人以外誰も納得できない主張とともに、スネ夫にゲンコツを落とし、空き地を出ていきました。

 殴られてもドヤ顔のスネ夫にやり方を学んだはる夫と安雄(サブキャラとしてよく二人一緒に出てくる少年たち。ぽっちゃりめのほうがはる夫、野球帽をかぶっている方が安雄。)も、ジャイアンを追いかけます。

 「ぼくらのまんがも返せ!」

 「すぐ返せ!」

 「ワ〜〜イ。」 

 青あざとコブを作り、朗らかに去っていく二人。(シュール)

 
 憤慨したまま家に戻ったジャイアン。

 「こういう不愉快な日は、心静かに読書しよう。」

 友人たちに(無許可無期限で)借りた漫画をごっそり押し入れから取り出し、「ムヒョヒョ。ウヒョヒョ」と「読書」を開始。

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 一方、殴られたスネ夫はさっそくイシャ料支払機のもとへ。

 「たった七十円」

 殴られ方が弱かったため、「並」の料金しか出ずにガッカリ。

 「やややっ!」

 時を同じくして、「読書」中のジャイアンは、漫画の結末部が突然五分の一ほど消失したのに気づきます。

 さらに、はる夫と安雄がのび太家にやってきて、イシャ料支払機のボタンを押します。

 「ぼくらはうんと殴られたもんね」

 二人合計で1340円の支払い。

 「ム!?」

 まだ読んでない漫画が四冊も消え、ジャイアンは「どうなってんだ!?」と飛び上がりました。


 もっと殴られて儲けようとするスネ夫たちを、「負けてたまるか」と追いかけようとしたのび太でしたが、ママにつかまり勉強させられてしまいます。

 「ぼくがこうしているあいだにもみんなはせっせと殴られて、お金をかせいでいるんだ」
 
 机に向かいつつ、うらやましがるのび太。

 (のび太達を静観しているドラえもんのフラットな表情が味わい深い。)

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 「おもしろくない!!誰かぶん殴ってやろう。」

 「読書」を中断して出かけたジャイアンに、もろ手をあげてアピールするスネ夫たち。

 「殴りたければ僕を。」

 「いや、僕を。」

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 「ワ〜〜イ」

 再びあざとコブを作って喜んで去っていきます。(シュール2)


 スネ夫たちがイシャ料しはらい機のもとに戻ってくる賑わいを、机に乗って「いいなあ」と、うらやましく見下ろすのび太。

 「だから早く勉強すませな。」

 ドラえもんが冷静にのび太を椅子に戻らせている間、庭のスネ夫は勝手にしはらい機の金額設定ダイヤルをいじっていました。

 「ゲンコツ一発千円にしよう」

 

 「なんで次から次へと……腹立つなあ。」

 その頃、噂を聞きつけた少年たちが、イラつくジャイアンの前にワルイ顔で長蛇の列を作り、笑顔で殴られては去っていっていました。(シュール3)

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 「もう殴るの飽きた」

 逃げ出したジャイアンでしたが、急に靴が消えて立ち止まります。

 「お!?お!?……」

 みるみるうちにズボンが短くなり、上着まで消えていきます。

 「ワ、ワワ!!なんだ、なんだ!?」



 「やっと終わった!」

 勉強を済ませ、心置きなくジャイアンに殴られに行こうとしたのび太とドラえもんの前を、全裸で赤面したジャイアンが、両手で前を隠して一目散に走っていきました。

 「ジャイアンが全財産を無くしたらしいから、もうおしまい」
 
 目を丸くしながらも説明するドラえもん。のび太はがっかりして、一糸まとわぬジャイアンを見送りました。

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 「きれいなジャイアン」のような、絵的インパクトは無いものの、ウィットを感じさせる佳作回です。

 「むしゃくしゃしていたところだ、一発殴らせろ」 
 「とったんじゃない。借りたんだぞ。いつ返すかきめてないだけだ。ドロボーみたいにいうなっ!」

 という突っ込みどころの多いジャイアンの台詞や、小遣い稼ぎのために率先して殴られに行く少年たちのシュールな情景(特に殴られようとワルイ顔で列を成すコマが秀逸)、あたかも労働の成果物を受け取るかのように明るくイシャ料支払機の前に集う姿には、今なお大人たちも惹きつけてやまない、『ドラえもん』独自の深みがあります。
(あとやはり『ドラヤキ百科』の芸の細かさも忘れ難い。)

 まったくの余談ですが、「こういう不愉快な日は、心静かに読書しよう。」とジャイアンが友人たちからいつ返すか決めずに借りた(?)漫画を読んでいる「ムヒョヒョ。ウヒョヒョ。」なコマが、私自身が「こういう不愉快な日は、動物の生態を鑑賞してストレスを軽減しよう」とか思ってYouTubeの犬とか猫とかの動画を観ている姿に非常に似ているので、ここも個人的に好きです。

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 コミックス28巻は「新種図鑑で有名になろう」(のび太が新種を見つけようとしてモンシロチョウを追いかけたりする)や、「のび太航空」(のび太がドラえもんの懸念をよそに国際線のパイロットを目指す)など、名作が多いので、是非ご覧になってみてください。

 読んでくださってありがとうございました。



(※)
「ジャイアニズム」

「お前の物は俺の物、俺の物も俺の物」というフレーズ(出典:単行本33巻「横取りジャイアンをこらしめよう」)で名高い思想。


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ドラえもん (33) (てんとう虫コミックス) -
ドラえもん (33) (てんとう虫コミックス) -

 ウィキペディアの説明が素晴らしかったので一部引用させていただきます。

「ジャイアニズム(和製英語: Gianism)(←笑)または剛田主義(←笑2)」
 (中略)
 「自らの所有物(占有物)については当然に自分の所有権を主張しつつ、他者の所有物に対してさえも全く法的な根拠なしにその他者所有権を否定し、所有権が自分に属することを暴力的に主張するという、極端に利己主義、独占主義的な思想を指す」


 こんな法律書のような格調高き説明文が作成されているのも驚きですが、同ウィキペディア情報によれば、2006年「国語辞典に載せたい言葉」を公募、収録した「みんなで国語辞典!―これも、日本語」にも選ばれるほどその思想は広く浸透している模様。


posted by pawlu at 21:25| ドラえもん | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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