2017年03月18日

「この世界の片隅に」映画と漫画の補足情報(漫画の一コマとクリスマスカード)




 先日、映画も大ヒットした名作漫画「この世界の片隅に」のご紹介記事を書かせていただいたのですが、今日は漫画と映画それぞれの補足情報を書かせていただきます。

 過去記事は以下のとおりです。
 ・(※ネタバレあり)「この世界の片隅に」映画で語られなかった場面(2) 雪に描かれた絵と、桜の花びらの舞い降りた紅
 ・(※ネタバレあり)この世界の片隅に 映画で語られなかった場面(1)ノートの切れ端とリンドウのお茶碗


この世界の片隅に 上 (アクションコミックス) -
この世界の片隅に 上 (アクションコミックス) -

この世界の片隅に 中 (アクションコミックス) -
この世界の片隅に 中 (アクションコミックス) -

この世界の片隅に 下 (アクションコミックス) -
この世界の片隅に 下 (アクションコミックス) -

 1,髪をとかすリンさん(漫画)

 漫画のみの描写なのですが、主要キャラのリンさんが、髪をとかしている絵があります。

この世界の片隅に 髪を梳くリンさん.png

 ストーリーに直結しているコマというより、章のはじまりのカットのような箇所で、長い髪を片手で束にしてまとめて高く持ち上げ、もう片方の手で櫛をかざし、髪をまとめる紐を、微笑む唇に軽くくわえているというポーズです。

 こうの史代さんの描く女性の、比較的大きく描かれた手とほっそりした全身のしぐさの、曲線を成すたおやかさには、大正時代の画家竹久夢二の美人画に似た情緒が感じられるのですが、この絵はそうした女性らしさに加え、大きく上げた腕と長く横に引いた艶やかで豊かな髪から、颯爽とした動きと、しなやかな色気を感じられ、涼しいまなざしにリンさんの個性がうかがえる名作だと思います。

 竹久夢二「秋」(出典:ウィキペディア、「竹久夢二展」図録、毎日新聞社、1992年)(拡大画像はコチラ

TakehisaYumeji-MiddleTaishō-Autumn.png

 なお、長く豊かな髪をすく美しい女性というのは、古くより、ほのかで神秘的な色香を漂わせる画題として愛されており、ラファエル前派の画家ロセッティや、夏目漱石に支持された装丁作家、橋口五葉らも、それぞれに名作を残しています。

 ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ「レディ・リリス」(出典:ウィキペディア、Delaware Art Museum)(拡大画像はコチラ

Lady-Lilith.jpg

 橋口五葉「髪梳ける女」(出典:ウィキペディア、The Trustees of the British Museum The British Museum Images)(拡大画像はコチラ
 
Goyo_Kamisuki.jpg

 物思いにふけるような目でゆるやかに髪を梳く、ロセッティと五葉の絵の静けさと比べ、肌襦袢に細袴(ズボンのような下着)姿で、大きな動きをしているリンさんからは、これから髪を結い、着付けをして、場に出てゆく生身の女性の勢いや生活感が感じられ、既に歴史にその名を刻まれた画家たちの絵に勝るとも劣らない魅力があると思います。

 この後、漫画の展開としては、彼女がこの美しい髪を日本髪に結って、花見に出掛けており、そこは、非常に印象深い名場面となっています。(その場面をご紹介した記事はコチラです。)

 2、「この世界の片隅に」のクリスマスカード

 2016年12月下旬、映画の大ヒットを記念して、来場者に作品の主要キャラクターが描かれたクリスマスカードが配られたそうです。

 クリスマスカードの画像が見られるニュースURLはコチラ
 出典:「この世界の片隅に」第2弾来場者プレゼント12月23日から配布、すずがサンタに」
 (「映画ナタリー」、2016年12月22日http://natalie.mu/eiga/news/214405

 周作さん、すずさん、リンさん、水原さんの4人が、サンタの格好をして並び、前の人の肩に手を置いた電車ごっこのようなポーズでこちらを向いて笑っているというデザインです。

 少しデフォルメされて頭身が縮み、顔もまるっこく、映画の中よりもあどけない感じが可愛らしいのですが、この姿でサンタ服を着ている彼らを見ると、急に、「ああ、そうだ、この人たちまだ20代なんだな……」と思って、(そういう意図でデザインされたのではないでしょうが)急速に切なくなりました。

 今の時代を生きていれば、クリスマスなら、どんなデートをしようとか、プレゼントがほしいとか、そんなことを考えていられる年頃に、戦争に巻き込まれ、リンさんはもっと幼いころに親に売られて苦労して、水原さんは軍人になって……という人生を送っていたのか……と……。

 そして、彼らが今の時代に生きていれば、たぶんこの4人の関係性は変わっていたんだなとも思いました。

 貧しさのあまり親に売られるとか、結婚の自由がないとか、戦争で明日の命もわからないとか、そういう時代でなければ。

 たぶん作品の中でむつまじく生きているすずさんと周作さんは夫婦になることはなく、水原さんとリンさんがそれぞれの伴侶になっていたかもしれない。

 そして、そうなったら、それはそれで、きっと相性の良い幸せな夫婦だっただろうと思います。

 作中の彼らは、それぞれに恋する人や友達に対して暖かく接し、自分の人生を誠実に生きている人たちですが、彼らはそれを「選んで生きた」わけではなかった、時代と戦争が彼らからその他の人生を無言で奪っていたのです。

 現代もせちがらく、先が見えず、快適にはほど遠い世の中だとは思いますが、それでも、彼らが生きていた環境よりは、平和であり、自由であり、そういった意味では、確かに今を生きているということは幸運なのだと、この一枚のほんわかと可愛らしいカードを見ながらしみじみと考えさせられました。




 しばらく記事更新の間隔が開いてしまっていましたが、これからはもう少しペースアップする予定です。よろしければまたお立ち寄りください。

 読んでくださってありがとうございました。
posted by Palum. at 23:36| おすすめ漫画 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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