2016年09月29日

(※ネタバレ)ドラえもん「王冠コレクション」

王冠コレクション1.png

 本日は「ドラえもん」より、「王冠コレクション」をご紹介させていただきます。

 コミックス9巻収録

ドラえもん (9) (てんとう虫コミックス) -
ドラえもん (9) (てんとう虫コミックス) -

 物の価値について意外とシニカルな目を持つドラえもん。

 周囲のコレクション熱に振り回されるのび太を見て、ちょっとしたいたずらを思いつくというお話です。

 以下あらすじです。結末までネタバレなので、あらかじめご了解ください。
  

「ありがたぁくおがめよ」
 スネ夫の切手用ピンセットの先で燦然と輝くプレミア切手、「月に雁」(※)

(※)歌川広重の浮世絵を元にした800円切手。希少性から切手ブームのこの頃(1970年代)、価格が高騰した(購入価格1万8千円〈スネ夫談〉)。2016年現在でも状態の良いものは1万円近いプレミアがついている。

 目を丸くするのび太たちの前で、
「切手マニアならこの程度のものをひとつくらい持ちたいもんだねえ」
と、自慢を兼ねて感慨にふけるスネ夫。(たまに言動が妙に中年じみる)

 パパは骨董品、ママは宝石。道は違えど、うちの家族に共通しているのは一級品しか相手にしないってことだね。

 それを聞いたしずかちゃんとジャイアンは、それぞれシールとコインのコレクションなら自信がある、と、胸を張りました。

 のび太一人うかない顔をして家に帰り、切手を集めたいとママに資金援助を願い出るが、どうせあきるんだから無駄なことだ(一度挫折しているから)と、見事な正論で却下されてしまいます。
 「こういうわからないことを言うんだよ!」と愚痴るのび太に対し、ママに完全同意するドラえもんでしたが、自慢できるコレクションがなくて肩身がせまい、としょんぼりする姿を見て、君だってすごいコレクション持ってるじゃないの、と、押し入れから談ボール箱を出してきます。

 中にぎっしりはいっていたのは飲み物の王冠。(昔特に意味もなく集めていたモノ)

 こんなもん持ち出して僕をバカにしてるの!?と怒るのび太を笑ってなだめるドラえもん。
「そもそも物のねうちってなんだろう。みんなが欲しがるってことじゃないかな。切手だって宝石だって、みんなが欲しがらなければ、ただの紙切れや石ころにすぎない」(←おおお……〈汗〉)

 おそるべき達観を披露して終わりかと思いきや、「だからなんだっての?」とちっとも納得していない様子ののび太に対し、「ちょっとしたイタズラをやろうっての」と部屋を出ていくドラえもん。

 取り出したのは「流行性ネコシャクシビールス」。

 ウィットに富んだ名を持つこのひみつ道具、流行させたいものをビールスに言い聞かせて培養し、空中散布すると、感染した周辺の人々にブームを巻き起こすことができます。

 ドラえもんが何をしていたか知らないのび太が外出すると、ジャイアン、しずかちゃん、スネ夫が王冠コレクションを見せあっていました。

  中でもスネ夫の1ダースものコレクション (専用ケース入〈笑〉)には、印刷ズレの珍品があり、二人の羨望を集めます。

 なんにするのこんなもん集めて、と、勝手にレア物王冠を手に取り、スネ夫に派手に叱り飛ばされるのび太。
「ピンセットで扱うもんだぞ。錆がついたらどうする!」

 さっぱり状況が飲み込めずにいると、三人が「遅れてる」のび太に口々に説明します。

 切手やコインなんて時代遅れ、この一日眺めていても飽きない形の美しさ、面白さ、王冠コレクションはすぐに世界的ブームになる。  
 
 それを聞いたのび太が、3人に自宅の箱一杯のコレクションを披露すると、三人は「いつのまに!?」と言葉を失います。
「いやあ、たいしたことないよ。諸君とはちょっとばかり目の付け所が違っていただけさ」
 のび太くんは進んでいるからね。と、ブーム仕掛人のドラえもんもさりげなく煽ります。

 完敗を認めるも羨ましくてならない3人は、家に駆け戻り、「3食おやつも全部コーラにして、とママに一生のお願いとして懇願(しずかちゃん)」、「コーラ10本一気のみして、ザブンザブンのお腹を抱え、サイダーを買いに行く(ジャイアン)」、「親のビールを6本一気に開栓(スネ夫)」等の暴走をはじめます。

 町の子供達が数を競う中、悠々と登場した希代の収集家のび太は、数が少ないものにこそ値打ちがあるんだよ、と、「王冠コレクション道」を説きます。

 そしてドラえもんがピンセットで(笑)とりだしたのは、「8月12日三河屋で売れたコラコーラ」。
 この日三河屋で売れたコラコーラはこれ一本!世界中探してもこれしかないんだ。10万円だしても、100万円だしても手に入らないんだよ。と、熱弁をふるうと、素直に瞠目する子供達。

王冠コレクション2.png

 ああおもしろい、と、密かに笑う二人でしたが、ママから、「駅前の切手屋が王冠屋になった」と聞かされたり、パパが「5月7日にスーパーで売れたスポライト」を2000円もしたんだぞ!と、達成感ある笑顔で買って帰ってきたのを見て、ビールスが予想以上に広範囲に広まってしまったことに気づき、にわかに恐怖を覚えます。

 はやく効き目が消えないかな……と、落ち着かない気持ちの二人。

 そこへ、恰幅と身なりのよい紳士が訪ねてきます。

「わたくし、王冠のコレクションをやってるものです」
 のび太に丁重に名刺を差し出した紳士。

王冠コレクション3.png

「素晴らしい王冠をお持ちだとか……是非、8月12日の三河屋の王冠を200万円で売ってください」
 金額にあっけにとられ、あんなもの売るわけには!と言う二人に、どうしてもほしいのです!と札束を差し出して粘る紳士。

「おねがい!おねがい!」
 畳に手をついて懇願する紳士を前に、顔を見合わせる二人。

王冠コレクション5.png

 「いいのかなあ……」
 我が物となった三河屋のコラコーラ王冠をピンセットでとり、歓喜の面持ちで眺めていた紳士。
 しかし、急に「!?」と真顔になると、
「……なんでこんなもん欲しがったんだろう」
 と首をかしげて、王冠をぽい捨て、札束を手に帰っていきます。

 あとには「ビールスのききめが消えたらしい」と、ほっとしたの2割、残念8割みたいな顔をしたのび太とドラえもんがのこされました。

王冠コレクション6.png

(完)


 何とは言いませんが、わからない人間にはまさしく王冠をつまむのび太のごとく「こんなもん集めてどうすんの」と思うものに高値と熱狂的コレクターがつくことがありますよね……。そういう現象を実に巧みに描いています。

 なお、この「流行性ネコシャクシビールス」は、過去にもファッションの流行に一石を投じるというイタズラで登場しており(コミックス6巻)、「ドラえもん」という作品それ自体は圧倒的クオリティと知名度を誇りながら、流行や物の価値評価については一定の距離をおいていることがわかります。

ドラえもん (6) (てんとう虫コミックス) -
ドラえもん (6) (てんとう虫コミックス) -

 こういう奥深い世界観だからこそ、40年経過した今も、流行を超えて伝説として生き延びているのかもしれません。

 先日、贋作師の人々のお話をいくつかご紹介させていただきましたが、ああいう事件は、
「『形の美しさ面白さ』が好きなら、十分ご希望に沿うものを作ってあげたでしょ、だから買ったんでしょ、たしかに『8月12日三河屋でただ一本売れた』という話は嘘だけど、それって作品の美とは関係ないでしょ、え?美じゃないところの価値ってなになにそんなに重要?」というリクツのもとに、あの200万の紳士みたいな人のお財布開かせちゃうんだろうなぁと思い当たったので、書かせていただきました。

 よろしければ当ブログ以下の記事を併せてご覧になってみてください。


「贋作師 ベルトラッチ 〜超一級のニセモノ〜 (NHK BS世界のドキュメンタリー)」 番組情報ご紹介
イギリスの贋作師ジョン・マイアット(NHK BS世界のドキュメンタリー 「贋作師 ベルトラッチ 〜超一級のニセモノ〜」によせて) 
(※ネタバレ)「贋作師ベルトラッチ 〜超一級のニセモノ」あらすじと感想(NHK BS世界のドキュメンタリー)


 読んでくださってありがとうございました。
 
posted by Palum. at 23:57| ドラえもん | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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