2016年09月18日

(※ネタバレ)「贋作師ベルトラッチ 〜超一級のニセモノ」あらすじと感想(NHK BS世界のドキュメンタリー)


2016年9月15日にBS世界のドキュメンタリーで「贋作師ベルトラッチ 〜超一級のニセモノ」が放送され、当ブログご紹介記事にもアクセスをいただきました。

(番組公式HP  url:http://www6.nhk.or.jp/wdoc/backnumber/detail/?pid=160915

 現代アートの贋作を2000点、約40年間描き続け、被害総額は45億円に上るという、贋作師ウォルフガング・ベルトラッチ(Wolfgang Beltracchi)。

 2011年にささいなミスから贋作が判明し、刑務所に入る直前の彼を取材した異色のドキュメンタリーでした。
 現在はNHKオンデマンドで、配信中です。
http://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2016072496SC000/?capid=nte001

(今のところ再放送予定が無いようなのですが、いずれまた放送されるのでは?と個人的には思っています。)

 ドキュメンタリートレイラー




 作品は50分中45分、彼の絵の腕前と騙しの手口について語られ、話題としては興味深いと思いつつ、いつも脳のどこがムズムズする感じ。

 でも最後の5分で急に雰囲気が変わり、ベルトラッチ氏自身と作品の両方の、隠されていた奥行が現れます。

 この5分を観るために、45分の脳のムズムズを我慢する価値がありました。

 実在の人物の話ですが、本人と編集の妙で、よくできたフィクションのようにきっちりと、観るものをうならせる余韻が待ち構えている作品でした。

 以下、番組の流れと観ていたときの感想です。(ネタバレなのでご注意ください)

 冒頭、贋作を制作する彼と交錯して、次々とインタビューに答える、美術市場の人々。
 彼に煮え湯を飲まされ、量刑の軽さ(※)に不満を抱くオークションハウス経営者。
 (※)懲役6年が言い渡されたが、約3年で出所
 彼は新しいものを産み出していないと指摘するアートディーラー。
  同じくもっと重い処罰を望む、彼の贋作を買ってしまった美術コレクター。
 わかっているだけでも数百万ユーロの利益を得たという彼の強欲に苦笑するギャラリー経営者。(それでも才能と感性は本物、と付け加えて。)
 彼はたった一人で美術界の第一人者を出し抜いた、凄腕のカウボーイのようだと語る美術評論家。

 妻や娘と談笑しながら贋作を仕上げていくベルトラッチ。

 フランスののみの市で古い絵を物色していたベルトラッチは、気に入った物を入手し、妻と手をつないで家に帰る。

 アトリエに戻ってきたベルトラッチ。
 必要だったのは絵ではなく時代を経たキャンバス。
 手際よくカメラマンに贋作用キャンバスの作り方を説明する彼だが、実は三日後には刑務所に入ることが決まっている。

 出所後にはドイツのアトリエで仕事を続けるつもり、彼はそう語る。

 彼の友人たちは、彼の正体には驚いたが、彼の才能は尊敬する、と、ともに食卓を囲みながら語りかける。
 笑顔でそれを聞くベルトラッチ夫妻。

 アトリエに訪ねてきた美術史家に、ベルトラッチは語る。
 独学で絵を学び、いつのまにやら贋作の世界に足を踏み入れていた。
 私に描けない絵は無い。亡き巨匠の頭の中に入って描き、本当の画家よりもすぐれた絵を描く。私の絵を本物だと喜ぶ人たちは正しい。美しい絵であることに変わりはないのだから。

 別の美術史家は贋作が発生する構造を指摘する。

 絵が市場にでるとき、売り主は無論、ほかの誰も、それを贋作だと思いたがらないことが問題だ。
 鑑定士は真贋鑑定で巨額の手数料を得、オークション会社は巨匠の絵の取引で利益を得る。買い手は巨匠の絵が市場に出てきたことを喜ぶ……。

 古い絵を塗りつぶして、画集を調べながらベルトラッチは贋作のターゲットを決める。

 本物の絵を模写することはしない。製作期間に空白があるところを見つけ、それを埋める巨匠の作風の絵を描き、未発見の作品として売りに出すのが彼の手口だ。

 そうして有名美術館に並んだ自分の作品がいくつもある。それが自分の作品だと名乗れないのがくやしくもある。そう言いながら、ベルトラッチは贋作の実演を続ける。

 妻ヘレーネは語る。
 彼の仕事については、自分が何かを言って変えられるものでは無いとわかっていた。それに贋作作りは、こう言っていいのかはわからないけれど彼の天職であり、自分はそれに魅了された、と。

 絵具を乾かしたキャンバスに、時代をつけるために埃をまぶし、裏からアイロンをかける作業をするベルトラッチ。
 時には絵の来歴の証拠として、絵を掛けた部屋を準備し、妻をモデルに白黒写真を撮ったこともある。

「あえて言うなら、絵は1万ユーロで売るより、50万ユーロで売ったほうが贋作と疑われない」
(ベルトラッチ)
「需要があるものは作られるべきです。美術商が贋作を期待しているというわけではないけれど、売れるものが見つかれば彼らはとても喜びます」
(ヘレーネ)

 彼らの詐欺行為のうち、後に最も大きな問題になったのは、現代アートの殿堂、ポンビドゥー・センターの元館長、シュピース氏を騙したことだった。

 わざわざシュピース夫妻を呼び出し、自身の贋作をマックス・エルンストの真作だと鑑定させたベルトラッチ。

 シュピース氏が、この鑑定の際に受け取った巨額の鑑定料を租税回避地の口座に入れていたことにより問題は複雑化。捜査時にこの情報のことをシュピース氏が話さなかったために、真相の解明が遅れ、贋作のいくつかが再び市場に出回るという事態に陥った。

 マックス・エルンストの贋作制作を実演しながらベルトラッチは語る。
「エルンストを天才とは思わない。それにエルンストのオリジナルより、私の贋作のほうが美しい。なぜなら、私は彼の作品に加えているから」

 尊大にも見えるベルトラッチ。
 しかし、カンペンドンクの大作を描いたときに、彼の贋作に綻びが生じた。
 その時代には存在しない絵具二色を使うというミス。これが彼の逮捕の決め手となった。

 「カンペンドンクの絵の中には迫りくる戦争の悲劇の予感と、それでも絵を描こうとする勇気がありました。その見地からすると、ベルトラッチの作品の背後には何もありませんでした」(ギャラリー経営者)

(ベルトラッチ本人は画家の霊を感じながら描いていると言っているので、これについては一言言いたいでしょうね……。そして絵にこめられた感情こそ絵の価値というのは全くそのとおりでしょうが、これは鑑定の際に証明しにくい……。)

 ベルトラッチの不動産は賠償のために差し押さえられることになった。

 屋敷の窓から庭を眺め、ベルトラッチは語る。

 「この生活がいつか破たんするとは感じていました。もうこんなことはやめようと。でも、ふと思ったんです。あと2作、あと2作だけ描いて、1000万ユーロを儲けてから終わらせるのも悪くはないんじゃないかって。ヴェネツィアに豪邸を買いたいと思ったんです。……そうこうするうちに、豪邸が独房に変わったんです。」

 序盤にも登場した美術史家が、ベルトラッチ作のエルンスト、そしてすぐそばの彼本人の大作を見ている。(※)

(※)二人とも同じ服なので、序盤のやりとりと同じ日に交わされた会話なのではと思われます。

 「みんなあなたの描くベルトラッチ・エルンストを観たがっていますよ。あなたが描いたエルンストは需要が高いでしょうね、またあなた自身の名前でどんな絵を売り出すかも問題です。オリジナルの絵より、贋作のほうが好まれることもあり得ます」
 ベルトラッチは特に気を悪くした風でもなくうなずく。
 「わたしも、そんな気がしています」
 目の前に強烈だが緻密な彼本人の絵がある。
 「情熱を注いだ絵なのに?」
 「情熱なんて注いでいませんよ。単純に楽しんで描きました。情熱は家族に注ぎます。私は現実主義者なんです」
 「芸術から距離を置いているということですか?」
 「市場から距離を置いているんです」
 市場の闇や落とし穴を知り抜いて、そこを40年泳ぎ渡ったベルトラッチは、そう言い放った。

 ベルトラッチは、自身のエルンスト風の絵に、サインを入れた。
 「ベルトラッチ」と。
 「サインしたからといって、贋作を防げるとは限らないし、偽造されるかどうかは私にはどうでもいいことです。ベルトラッチの絵は偽造してはいけないとでも?誰だって描けばいいんです。この私が、そんなことを気に
するわけないでしょう。」

 屋外で作業をするベルトラッチ。
 台車いっぱいの塗料が吹き上げられ、彼の姿が青い煙に包まれる……。

(完)


 ベルトラッチが、あと2作だけ描いて足を洗おうと思っていたと語るところから、青い煙に消えていくところまでが最後の見ごたえある5分です。

 それまでの45分間、妻に愛され、美しい子供たちがいて、贋作師と知りながら彼を尊敬すると言う友人たちに囲まれ、鼻歌交じりのようにサラサラと贋作を仕上げていく姿を見、妻の「需要があるものは作られるべきです。売るものがあれば彼らは喜びます」とか、ベルトラッチ本人の「オリジナルより足している分自分の絵のほうが美しい」を聞いている間は、「凄いけど、わかるような気もするけど、なんか脳がムズムズする……」という印象がぬぐえませんでした。

 いくらなんでも人を騙して(真作よりもっとうまいんだから良いでしょというのが言い分でしょうが、贋作と知った時点で相手を怒らせしまっている)、こんなに明るく充実した勝ち組ライフを満喫していいもんかという疑問が頭のどこかにあったのでしょう。

 ですが、最後の5分間、エルンストの真贋同様、自分の真作の評価を意に介さず、自分がさんざん裏をかいてきた市場を信じず、「これは楽しんで描いたもの。情熱は家族に注ぎます」と言い切る彼には、一般的とは言えないものの、確固たる、そしてどこか魅力もある、彼独自の流儀があったのだと気づかされます。

 彼の存在を煙に巻くようなラストシーンも、この取材内容を「作品」に仕上げていて粋な演出だと思いました。

 ムズムズを我慢して最後まで観て良かった。どんでん返しが効いていて、スタイリッシュな犯罪映画のような後味でした。

 以上、あらすじと感想でした。

 もし再放送情報を入手できたら、当ブログにてお知らせいたします。
 
 読んでくださってありがとうございました。

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posted by Palum. at 23:56| 美術 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする