2016年09月16日

クリスティのフレンチ・ミステリー「ABC殺人事件」(ドラマ独自の年の差恋愛も見どころ)


 AXNミステリーチャンネルがご覧になれる方限定なのですが、お勧めの推理ドラマがあるのでご紹介させていただきます

 クリスティのフレンチ・ミステリー
(原題:Les Petits Meurtres d'Agatha Christie−)

Les Petits Meurtres D'agatha Christie: Set 1 [DVD] [Import] -
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2016年9月19日(月)22:00より、「ABC殺人事件(Les Meurtres ABC)」を皮切りにシリーズの再放送が始まります。(ABC殺人事件は 10月15日 (土)22:00〜再度放送予定)

Les Petits meurtres d'Agatha Christie - Les meurtres ABC -
Les Petits meurtres d'Agatha Christie - Les meurtres ABC -

番組公式HPはこちらです。(右上に放送予定表示ボタンがあります。)
http://mystery.co.jp/programs/agatha_french

 アガサ・クリスティ作品の大筋をふまえつつ、探偵役のポアロやミス・マープルを登場させずに、ドラマ独自のキャラクター、ラロジエール警視とランピオン刑事が事件を解決するという風変わりな構成です。

 名作に手を加えて成功する例は稀だと思うのですが、このドラマに限って言えば、原作に忠実という意味では他の追随を許さない、恐ろしいほどに完璧なイギリス版ドラマには無いユーモアがあり、原作を読んだ人でも別物として楽しめる構成になっています。

 一見エリートダンディなのに、おこりんぼで毒舌で日常的に部下に八つ当たりし、女好きで、それなのに落ち込むと前後不覚の酒浸りになるという、名探偵としては稀にみるほど手に負えない性格のラロジエール警視(ランピオン曰く「長所を見つけるのが難しい人(酷)」)と、まじめで優しく、地道に捜査に臨むランピオン(ちなみに同性愛者で男女問わず結構モテる〈ラロジエールが押しの一手なのに比べ、向こうが静かに寄ってくる感じ〉)の掛け合い(半分口論)や、ここぞというときには発揮される仕事への情熱と冴えわたる推理力も見ごたえがありますし、クリスティ作品にしばしば見られる薄暗い後味を、設定を少しずつ動かすことで、印象を変えてくれている回もあります。

 見た範囲で、このアレンジが最も冴えわたっていると思ったのは今回第一回目で放送される「ABC殺人事件」と以前紹介記事(ネタバレ)を書かせていただいた「五匹の子豚(今回は10月31日 22:00〜)」です。

 「ABC殺人事件」は、本来ポアロが登場する、クリスティ作品の中でも屈指の人気を誇る作品です。

ABC殺人事件 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫) -
ABC殺人事件 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫) -

 異なる町で名前にA、B、Cの頭文字を持つ人物が次々と殺され、直前にラロジエールたち(原作ではポアロ)のもとに届く殺人予告。

 同じころ、戦争で受けた傷がもとで、記憶が途切れるという症状を持っていた中年男性キュスト(原作ではカスト)は不安にさいなまれていた。
 彼が得た、ストッキングのセールス業で行く先々で殺人が起こり、自分にはどうしても思い出せない記憶の空白がある……。

 もしや自分が犯人なのではという疑念が離れず、苦しむキュスト。

 しかし、普段は控えめだが優しい目をした彼に、下宿先の娘リリが年の差を超えて好意を抱き、彼の苦悩を薄々感じながらも、彼を支えようとします。

 一方、犯人の足取りがつかめないまま殺人が重ねられ、激しく自分に落胆するラロジエール。ランピオンは彼を励まし、再び捜査に乗り出します。

 原作自体、事件の全貌があまりに意外で、読み応えがありますが、このドラマでは、原作よりも登場人物を絞り込み、キュストとリリの交流を、この殺伐とした連続殺人と対比させています。

 原作にもこのリリに当たる下宿屋の娘(リリー)が登場するのですが、彼女にはトムという恋人がいて、カスト(キュスト)の境遇に同情的ながら、一方で彼が犯人ではないかという疑いもぬぐえず、恋人と彼の周辺を調べたりしています。
(なので、原作ハヤカワ文庫では完全に脇役扱いで、冒頭の登場人物紹介から外されている。)

 一方ドラマのリリは、彼女が男としての自分を好いているなどとは夢にも思わないで、ただ穏やかに話し相手をしてくれるだけのキュストをなんとか振り向かせようと、下宿屋の仕事を超えて彼に尽くし、彼の部屋の前に入る前には身だしなみをととのえたりしています。

 こういう、「好きな人に好かれたくて頑張る人」の描写ってなんか和むんですよね……それにミステリー作品に、一生懸命家事をするとか、服や髪形と気にするなどのさりげない場面が織り込まれるのも珍しいと思います。

 母子家庭で父親にいい思い出が無い様子なので、キュストに優しい大人の男を求めたのかもしれませんが、甘えるよりむしろいつもキュストを励まし、いそいそと世話を焼いているリリは、初々しいけれど包容力があるという、ある意味理想の女性です。
(ずば抜けて美人ってわけじゃないけれど、話し方に温かみがあってピンクの似合う可愛い人)

 メインは推理ドラマなので、それほど長く登場するわけではありませんが、このつつましいしぐさややりとりが心に残ります。

 最近大ヒットしている年の差恋愛漫画「恋は雨上がりのように」(※)がお好きならおススメしたい回です。

恋は雨上がりのように 1 (ビッグコミックス) -
恋は雨上がりのように 1 (ビッグコミックス) -

 (※)女子高生橘あきら(クールな雰囲気〈中身は違うけど〉の激美少女)が、バイト先の一見冴えない雇われ店長(45歳、作中では頼りないとか、なんかクサいとかさんざんな言われようだが笑顔と性格がとても良い。あきらちゃん見る目あるぞ)に片思いをして、彼の心を掴もうと奔走するストーリー。抜群に美しい絵やどこか文学的な心理描写と光景、二人以外の登場人物たちも魅力。

 この「フレンチ・ミステリー」そのほかの回も非常にレベルが高く、特に序盤にギャグ、最後に美しい余韻がある「五匹の子豚」は必見です。

 当ブログのフレンチミステリーに関連する主な記事は以下のとおりです。よろしければ併せてご覧ください。(一部内容が重複しています。またリンク切れが多いのであらかじめご了承ください。)
クリスティのフレンチ・ミステリー(AXNミステリー・フランスドラマ)
「クリスティのフレンチ・ミステリー」再再放送(AXNミステリー
「五匹の子豚」(クリスティのフレンチ・ミステリー※ネタバレ編)
クリスティのフレンチミステリー「ABC殺人事件」(ドラマ独自の年の差恋愛も見どころ)

 なお、私はビタ一文読めないのですが(汗)、ドラマに関するフランス語のウィキペディア記事があったので、貼らせていただきます。
「クリスティのフレンチミステリー(原題:Les Petits Meurtres d'Agatha Christie)」の紹介ページ
同上「ABC殺人事件(Les Meurtres ABC)」の項目

 読んでくださってありがとうございました。
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posted by Palum. at 19:56| 日本の海外テレビ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする