2016年09月14日

イギリスの贋作師ジョン・マイアット(NHK BS世界のドキュメンタリー 「贋作師 ベルトラッチ 〜超一級のニセモノ〜」によせて) 


先日、NHK BS世界のドキュメンタリーの「贋作師ベルトラッチ 〜超一級のニセモノ」(2014年 ドイツ 原題:BELTRACCHI - THE ART OF FORGERY)2016年9月15日(木〈水曜深夜〉)午前0時00分〜0時50分放送。)という番組にちなみ、ベルトラッチ氏の周辺情報をご紹介させていただきました。

 前回ベルトラッチ氏関連の記事はコチラです。

今回は、さらに、イギリスの有名な贋作師ジョン・マイアット(John Myatt)氏について書かせていただきます。

 彼がインタビューを受けている動画はこちらです。(BOSSコーヒーのトミー・リー・ジョーンズと蟹江敬三さんを足して2で割ったみたいな風貌。この中で彼が描いているモネ風の絵は非常に丁寧で見事です。)



https://www.youtube.com/watch?v=tbfx6wbznzE

こちらがオルセー美術館所蔵のモネ作 国会議事堂(ウィキペディア Pimbrils

モネ 国会議事堂.jpg

 かつて20世紀最大とも言われた大規模な贋作事件に関わり、今はその贋作のノウハウと高い技術を、ベルトラッチ氏同様ドキュメンタリー等で堂々と披露しています。

 贋作師としての腕前のみならず、その数奇な経歴、そしてそれを経た後の彼自身の独特の個性が、一目見て印象に残る人物です。

 (彼についてはかつてNHKでも「贋作の迷宮」というハイビジョン特集で紹介していたそうです。)

 ジョン・マイアットは、1945年生まれ、もともとは美術教師だったのですが、幼い子供二人を残して家を出てしまった妻の代わりに育児をするため、退職を余儀なくされました。

 生計を立てるため、「本物の贋作(Genuine Fakes)を数万円で描く」という複製画作成の広告を出したところ、ジョン・ドリュー(John Drewe)という人物が顧客としてあらわれ、やがて、彼に複製画を本物と偽って売る詐欺を持ち掛けます。

 真贋鑑定の際、非常に重要になるのが、絵の来歴がわかる資料の存在なのですが、 ドリューの手口は大胆不敵、教授と身分を偽って名だたる美術館に寄付を持ち掛け、館内資料室に入りこむと、マイアット氏が描いた絵の来歴が記された偽造書類を資料室所蔵の資料に紛れ込ませ、あたかもその作品が過去から存在するかのように見せかけました。

 絵が本物として名門オークションハウスクリスティーズで高値がつくなど、計画は順調に進んでいましたが、ドリューの関係者が、彼の詐欺行為の証拠となる書類を発見、通報したことで二人は逮捕されました。

 マイアット氏には懲役1年の計が課されましたが、実際に刑務所に入っていたのは約4ヶ月、非常に恐ろしい経験ではあったものの、囚人に頼まれ鉛筆で似顔絵を描くなどしてコミュニケーションをとっていたそうです。

 元々子供を育てながら収入を手に入れるためにはじめてしまった詐欺行為でしたが、自分が逮捕されたことが子供にどう影響するかを思って心を痛めていたマイアット氏。

 しかし逮捕時思春期だった子供たちは、世界的美術館やオークションハウスをも翻弄した父の腕前を、「fabulously cool(非常にカッコイイ)」と思い、状況をあるがまま受け入れ、面会にも来てくれました。
(おそらくは父親の動機を理解していたのでしょう。実際利益はほとんど子供の養育に費やされていたそうですから)

 出所した彼は、自分の詐欺行為を反省し、二度と絵を描かないという誓いのもと、まったく異なる仕事(ガーデンセンター職員)を選びました。

 しかし、そんな彼に一本の電話がかかってきました。

 そして彼に再び絵筆をとるように勧めたのは、彼を逮捕したスコットランドヤードの刑事。

 刑事の家族の肖像をマイアット氏自身の作品として描いてほしいと5000ポンド(当時の価値で140万円相当)を支払ったその刑事は、さらに仕事上の関係者から次々と制作依頼を集め、マイアット氏を後押ししました。

 そして今、マイアット氏は有名画家たちのタッチをふまえた作品や、彼独自の作品が高値で売れる画家となり、彼の贋作師時代の経験や技術を生かしてテレビにも出演、また彼の数奇な運命はかつて彼が出した広告のフレーズと同じ「Genuine Fakes」というタイトルで映画化されました。

(出演作品の一部)
 ・「Fake or Fortune(BBC)」……オランダの贋作師メーヘレンの技術を再現する実験に協力(激面白)
 ・「Fame in the Frame(Sky Art)」……有名人の肖像を、フェルメールの「真珠の耳飾りの少女」やマネの「草上の昼食」等の代表作模写に紛れ込ませた絵を制作(自分が名画に入り込めるわけですから、普通にほしがる人多そうですね。)
 ・「Forgers masterclass(Sky TV)」……絵を学びたい人たちに「有名画家風」の絵を描くテクニックを、実際のモデルや風景を使いながら実技指導

 彼が制作した贋作200点のうち、押収されていない120点についてはいまだ本物として扱われているらしい。彼はそう告白していますが、司法の裁きを終え、思いもかけない刑事からの励ましや子供たちの反応を目の当たりにした彼は、いまだ眼光鋭く、笑みにどこか骨太な不敵さが漂いながらも、険のとれた、話術の巧みなチャーミングな紳士です。
(喋っているのを聞くと不思議と人を引き付けるところがある。私も「Fake or Fortune」観てすぐ、なんか味のある人だなと思いました。)

 「事実は小説より奇なり」を地で行く、不思議な人物だったので、ご紹介させていただきました。

 今回資料として使用させていただいたネット情報は以下のとおりです。


1 ウィキペディア(日本語版
 (英語版「John Myatt」)
  https://en.wikipedia.org/wiki/John_Myatt
 (英語版「John Drewe」)
  https://en.wikipedia.org/wiki/John_Drewe

2 「贋作の天才」 更生して売れっ子に 英画家 服役後、刑事の支援で再出発(「サンケイビズ」 2015年12月26日)
http://www.sankeibiz.jp/express/news/151226/exg1512260730001-n1.htm

3 英画家「日本にも贋作」 120点なお未回収
(「日本経済新聞」 2015年 10月24日)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG24H4W_U5A021C1000000/

4 The talented John Myatt: Forger behind the 'biggest art fraud of 20th century' on his criminal past - and how he went straight
(「Independent」 2014年2月28日)
http://www.independent.co.uk/arts-entertainment/art/features/the-talented-john-myatt-forger-behind-the-biggest-art-fraud-of-20th-century-on-his-criminal-past-and-9889485.html

5 Celebrity frame academy: The stars as you've never seen them before
(「Dailymail」2011年1月29日)
http://www.dailymail.co.uk/home/you/article-1351004/John-Myatt--The-art-forger-using-celebrities-models-create-world-famous-masterpieces.html


6 http://www.johnmyatt.com/index.htm (マイアット氏の個人ページ、「gallery」部で彼の作品が観られます。)

 読んでくださってありがとうございました。
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posted by Palum at 23:53| 美術 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする