2016年09月11日

「驚きの明治工芸」(おすすめ展示作品1 加納夏雄 「梅竹文酒燗器」)


 先日概要をご紹介させていただいた上野の東京芸術大学大学美術館で開催中の「驚きの明治工芸」について、展示作品のうち、個人的におススメだったものについて書かせていただきます。

 展覧会公式HPは以下のとおりです。
 http://www.asahi.com/event/odorokimeiji/

 今回ご紹介させていただくのは、金工師 加納夏雄(1828-1898)の「梅竹文酒燗器」(銀製)


梅竹文酒燗器 縮小版.png


 すらりとした円筒形の縦長燗器で、鏡のような銀の胴の上部に、余白を大いに生かして、それぞれ細筆を用いたかのような強弱のある線で梅と竹の姿が描かれています。

 細身でシンプルな対の酒器は、遠目にも目を引く輝きながら周囲の陰影を映しこんで空間と調和し、今復刻版を出したら確実に支持を集めるであろうと思わされます。

 平たく言うと欲しい。これ対で並べてウットリ眺めながら一杯やりたいおじさん多そう。

 スッス……と描かれた水墨画のタッチのように、迷いなく気品溢れる彫りの線。

梅竹文酒燗器 部分.png

 実際はスッスじゃなくてココココ……とタガネという細い刃のついた工具を金づちで打ちながら彫っていくのですが、加納夏雄は「片切彫り」という、この独特の筆の線のように強弱巧みな彫りを得意としました。

 片切彫りについて詳しく説明してくださっているページがあったので、引用させていただきます。

< 片切り彫り >
片切り彫りは金工で言う技法です。彫刻で言うとノミにあたる「タガネ」という刃物、道具と金槌を使い、まるで筆で描いたような線を生み出していくものです。切先が鑿のような形で、彫り線の片方を浅く、他方を深く彫り込んでいく技法です。絵画の付立画法(補:濃淡をつけて一筆で描く技法)の筆勢を鑿で表現するのに適しており、筆で言えば穂先になるところを深く、腹のところを浅く一気に彫っていきます。江戸時代中期の金工師 横谷宗a(1670ー1733) の創始と言われ、幕末から明治にかけての加納夏雄はこの技法の名手でありました。 

出典: 宮本彫刻HP「彫刻の技法」より

 加納夏雄は幕末から明治期に活躍した、京都出身の金工師で、7歳で刀剣商の加納家の養子となりました。刀の鍔や鞘に魅了されて、少年時代から独学で道具を握り始めた夏雄を見た養父母の勧めで、わずか12歳で彫金師奥村庄八に師事、さらに14歳で円山四条派の絵師・中島来章のもとで写生を学び、19歳で金工師として独立。東京神田に店を構え、小柄(こづか・短剣のこと)や鍔の制作に勤しみました。

 加納夏雄の作った鍔や小柄の鞘は、非常に限られた面積ながら余白と高い画力をいかした、構図の妙と気品の光る作品となっています。


 作品画像例1(清水三年坂美術館HP 帝室技芸員シリーズW加納夏雄と海野勝aより)
  http://www.sannenzaka-museum.co.jp/kikaku_13_2_22.html
 作品画像例2(根津美術館 コレクション 金工・武具 「牡丹に蝶図鍔」)
  http://www.nezu-muse.or.jp/jp/collection/detail.php?id=80991

 そのこまやかさと余白、筆遣いのような線が持ち味であるために、私ではなかなか写真で良さをとらえるのが難しかったのですが(下手だから単にツルんとした図に撮れてしまった……)、こちらのページでより鮮明な画像を観ることができます。(その他展示作品も画像あり)

http://www.cinra.net/news/gallery/104877/11
(カルチャーサイト「CINRANET」ニュース 日本工芸の表現と技法に迫る『驚きの明治工藝』展 自在など130点)

 夏雄は明治維新後新貨幣の原型、型の制作を手掛け(型の制作はイギリスに依頼する予定だったが、あまりの技術の高さに技師が辞退し、夏雄が手掛けることとなった)、廃刀令によって同業者が廃業に追い込まれる中でも、海外も視野に入れながら、煙草入れや花瓶、置物などを作り続けることで、成功をおさめました。

 ※こちらの記事で夏雄の貨幣についてのエピソードを詳しく紹介してくださっています。

  http://www.nnn.co.jp/dainichi/rensai/naniwa/101127/20101127041.html
  (大阪日日新聞 なにわ人物伝 −光彩を放つ 造幣局の人たち(3))

 後に第一回帝室技芸員(宮内庁によってえらばれた一流の作家に与えられる身分)にも選ばれた夏雄は芸大の初代教授となり、同大助教授の金工師海野勝a(うんのしょうみん)ら後進の指導にあたりました。
(参照:ウィキペディア記事


 実は東京芸術大学大学美術館の敷地内に加納夏雄の胸像があったそうなのですが、見損ねてしまいました(米村雲海作)。これから行かれる方は探してみられてはいかがでしょうか。

 先ほどの大阪日日新聞の記事の中に「夏雄の風采(ふうさい)は中肉中背、口調は京都弁で柔らかいが、起居すこぶる謹厳であった。身を持することすこぶる倹素(けんそ)」と、加納夏雄の人となりをふりかえる文章が紹介されていますが、まさしく少年時代から生涯を金工に捧げた努力と才能の人の重厚な品が感じられる風貌をしていらしたようです。(この人が作者ですと言われるととても納得の行く御顔をしていらっしゃる。)

 加納夏雄像 文化遺産オンラインより

 http://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/223342

 次回は同展示のうち海野勝aの作品や、その他おすすめ作品についてご紹介させていただく予定です。

 当ブログの「驚きの明治工藝」展に関する記事は以下のとおりです。よろしければ併せてご覧ください。
 「驚きの明治工芸」(台湾の宋培安コレクション 東京芸術大学で開催中)

 「驚きの明治工芸」(おすすめ展示作品1 加納夏雄 「梅竹文酒燗器」)
「驚きの明治工藝」(おすすめ展示作品2 海野勝a 「背負籠香炉」海野a乗「犬図薬缶」)

読んでくださってありがとうございました。


【関連する記事】
posted by Palum. at 23:43| 美術 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする