本日はドラえもんのひみつ道具「ホンワカキャップ」(コミックス30巻収録)についてご紹介させていただきます。
(コミックス30巻 表紙でドラえもんが持っているのがホンワカキャップです。〈※この巻、前回ご紹介の「ねむりの天才のび太」も入っていておススメです〉)
これを瓶につけて注いだ液体はホンワカ放射能なるものを帯びて、アルコールによく似たホンワカした気分になれるというひみつ道具です。
なんと素晴らしい、と、思ったら、酔いすぎると危険というところまでアルコールに似ていて、大人の飲み会そっくりのトラブルが起こってしまいます。
以下あらすじです。
(結末までネタバレですのであらかじめご了承ください。)一部仮名遣いを変更させていただいています。
自慢の切手コレクションを、「一緒に切手を集め始めて、おまえばっかりたまるのはどういうわけだ」と逆ギレされたジャイアンと公平に分ける(=大量に持っていかれる)ことになったスネ夫。
この件についてのび太に愚痴ったら「見せびらかしたりするからだよアハハ」とノー同情だったのに腹を立て、「他人の不幸を笑うな!!」と膝を蹴っ飛ばしてむしゃくしゃ顔で家に帰ります。
口を滑らせたとはいえ、いきなり蹴られたのび太も非常に面白くない思いで家に帰ると、パパがお友達と家呑み中でした。
「いやなことはみんな忘れて楽しくやろうじゃないの」
「大人はいいよな。お酒飲んで良い気持ちになれて」
不公平だと嘆くのび太に、ドラえもんが「ホンワカキャップ」を出してくれます。
ジュースにキャップを付けて注いだものを飲んでみると、ホワ〜といい気持ちになるのび太。
一口だったのですぐ覚めましたが、これはいい、と、キャップを持ってドラえもんと一緒にしずかちゃんの家に遊びに行きます。
ホームサイズのコーラでさっそく家呑み開始。
真っ赤な顔で、飲めや歌えの楽しい時間を過ごします。(しずかちゃんもちゃんと加わってる。)
楽しかったけど飲みすぎたな、と、千鳥足で帰る途中、ジャイアンに出くわした二人は、
「いいものやるぞ!!いいからとっとけって」
と、ホンワカキャップを渡してしまいますが、酔いが醒めてから半べそで大後悔。
「宴会やるからコーラ持って俺んちへ来い」
塾へ行こうとしていたのにそんなことをジャイアンに言われたスネ夫は断ろうとしましたが、
「俺とじゃ飲めねえってのか!?」
と嫌な先輩みたいな脅しをかけられ、仕方なしにコーラを一ケース持ってジャイアンの家に行きます。
「じゃ、かる〜く一杯……」
「せこいこといわねえでガバガバやれ!」
(注、小学生の発言)
しかし、一杯飲んだらいい気分になったスネ夫は、喜んでグラスを重ねていきます。
「もりあがったところで、カラオケといこう。」
「いよっ、待ってました!!」
完全にどこかで見た光景です。
ジャイアンの家をゆるがす、あの有名な歌声。
いつもならじっと耐えるスネ夫ですが、その日は違いました。
しだいに歌を聴く表情が険しくなっていったかと思うと、コーラを手酌でガバっと飲み干し、吐き捨てるように言いました。
「ケッ!やめろやめろ、へたくそ」
「今なんと言った!?」
激怒するジャイアンの顔に激しくあびせかけられたコーラ。
「へたくそをへたくそといってなにが悪いへたくそ!!」
さらに、ジャイアンにかけたから空になったグラスをさしだし、
「ほれ、つげよ!!」
と酌を要求するスネ夫。
「お前コーラぐせが悪いな……」
完全に圧倒されて、コーラをしたたらせながら言われたとおりにするジャイアン。
そろそろ塾へ行かなくていいの?と愛想笑いをしますが、るせえ!もっとつげ!!と命じられ、もうない、と答えた瞬間コーラ瓶が飛んできます。
「買ってこい!!」
もはや瓶から直飲みしながら、空瓶のいくつも転がる部屋にあぐらをかき、
「でっかい顔しやがって!!てやんでえ!!みんな泣かされてんだぞ。お前なんか町の公害だぞ!!バーロー」
と、こめかみに青筋を立てながら、日ごろのうっぷんをぶつけるスネ夫に対し、次第にうなだれるジャイアン。
「グス……なにもそんなに……言わなくても……」
そしてシャツで顔を覆い、肩を震わせ、さめざめと泣きだします。
「心の中では……みんなに悪いと……あたし、つらい!」
何故かオネエ化したジャイアン、その胸ぐらを容赦なく掴んだスネ夫、
「悪いと思ったら切手返せ!!」
と恫喝。
「返すわよ!!ほかの人のおもちゃも本もみーんな返すわよ!!(泣)」
家の前でホンワカキャップを手にしたドラえもんと、数冊の本を抱えるのび太。
「さっさと次の家へまわれ!!」
巨大なふろしきを背負い、涙を浮かべるジャイアンの尻を蹴って追い立てるスネ夫を見て、のび太とドラえもんは
「さめた後が思いやられるなァ」
と、つぶやきます。
(完)
ドラえもんの大人向けの魅力を伝えたいとき、例として向いている回です。
(絵的なインパクトとしては、ひみつ道具に煽られたしずかちゃんがとんでもない行動に出る「腹話ロボット」や、現代アートをもしのぐシュールさの「からだの部品とりかえっこ」が良いと思いますが。)
ジャイアンのホンワカハラスメント(≒アルコールハラスメント)と、普段抑圧しているジャイアンへのストレスが解放されすぎてしまったスネ夫の、前代未聞の豹変ぶり(酔ってからの表情や台詞がやたら生々しい)が、大人心にツボです。
薬物問題を暗示した、最も危険な傑作「ヘソリンガスでしあわせに」(てんとう虫コミックス25巻収録)と同様、強すぎる快楽は(たとえ肉体に副作用が無かったとしても)危険だということをギャグに織り込んで巧みに伝えています。
アルコールのもたらすいい気分につい惹かれてしまう方も、その先に待ち受けている危険を心に刻みたいとき、ジャイアンにコーラを浴びせかけるスネ夫を思い出してみるといいかもしれません。
読んでくださってありがとうございました。
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