「驚音波発振機」は、ネズミやゴキブリなどを強力な音波で駆除するひみつ道具です(コミックス17巻収録)。
(以下、結末までネタバレですのであらかじめご了承ください)一部仮名遣いをひらがなから漢字に一部改めさせていただいています。
冒頭、不機嫌そうに町を歩くジャイアン。
新曲を作ったのに(作ったから)、突如子供たちが町から姿を消したのでストレスが溜まっています。
ドラえもんに何とかしてもらおうとジャイアンから身を隠しながら逃げ帰ってきたのび太でしたが、家から飛び出してきたドラえもんと正面衝突します。
ジャイアンのことを話そうとしてもテンパってて聞きもしないドラえもん。家でドラえもんの天敵、ネズミに出くわしてしまったのです。
「おおそうだ!爆弾で家もろともふっとばしてやれ!」
なんて物市販してんだ未来デパート。
ドラえもんをなだめて、未来のネズミ取り機を使えば良い、とアドバイスをするのび太。
浮かない顔で、「驚音波発振式ネズミ・ゴキブリ・南京虫・家ダニ・シロアリ退治機(※)」を出すドラえもん。(※全ドラえもんのひみつ道具の中で最長の名前を持つそうです。ウィキペディアより。)
超音波で害虫、害獣を駆除する機械を発展させたものだけれど、その驚音波のテープは紛失してしまって手元にない状態。
するとのび太が、ジャイアンの新曲を使うことを思いつきます。
のび太の提案に瞠目するドラえもん。
「そうか!!歌わせてこの機械にかけて、音波の中でも特に有毒な部分を取り出し、うんと強めれば……」
ひどいこと言ってる。
ジャイアンに、是非新曲を家で聴かせてほしいと頼みに行く二人。
「心の友よ!!」と感涙するジャイアンを連れて戻ってきますが、有毒音波を流すにあたりママを避難させなければなりません。(ジャイアンの歌≧バルサン)
しかし、なんのことかわからないママからぴしゃりと断られてしまったので、やむをえずタケコプターを付けてはるか上空へ強制退避させることに。
「ママの命をまもるためしかたがなかった」
(地味に笑いを誘う一コマ)
ひそかに耳栓をして、度胸を決めると、部屋にある驚音波発振機については「歌の力を強める機械」とボヤかし、歌い始めてもらう二人。
耳栓すらも貫通する驚音波に耐えていると、押し入れからゴキブリがよろけ出てきて、力尽きて息絶えます。
「すごいすごいその調子!」「もっともっと」
二人の喝采に気を良くして歌いまくるジャイアン、やがて、窓や壁にひびが走ります。
そして激しく揺れきしむ天井。
敵とはいえ、ネズミたちの阿鼻叫喚に、
「ものすごい悲鳴!この世のものとも思えない」
と戦慄して身を寄せ合うドラえもんとのび太。
劇場の大シャンデリアを揺らしたという伝説のオペラ歌手マリア・カラスに匹敵するほどの超絶声量です。(質はともかく。)
「あっ、見ろ!」
窓からネズミ一家が命からがら逃げ出してゆくのを確認したドラえもんは
「よかった!!」
とのび太にしがみついて泣き崩れます。
「喜んでくれて俺も嬉しい」
食い違ったまま満足げに汗をぬぐうジャイアン。
数日後。
「ネズミ・ゴキブリ・南京虫・家ダニ・白アリ!! 全滅させます。料金――百円 のび太消毒社」
部屋に散らばるチラシを見て大慌てするドラえもん。
のび太はしずかちゃんからの白アリ駆除依頼電話応対中でした。
「うんすぐ行く。あぶないから誰も家に残っていちゃいけないよ」
そしてすぐにジャイアンに電話。
「やあジャイアン。またきみの芸術にひたりたくなったんだけど……」(←笑)
今日の会場はしずかちゃんの家だよ、とワルイ顔で電話を切るのび太に、ドラえもんは「ばれたら殺されるぞ」と警告します。
方法は秘密にしてあるんだからばれっこない、と、聞き入れようとしないのび太。
「ジャイアンもよろこぶ。しずちゃんもよろこぶ。ぼくはもうかる。こんないいことやめられないや」
……とドラえもんの心配をよそに、笑顔で驚音波発振機を持って出かけてしまいます。
しかし、さらに数日後。
「心の友よ、頼みがある」
のび太宅を訪ねてきたジャイアン。
「スネ夫の家のゴキブリを退治したそうだな。うちも頼む」
ジャイアンの家。
「なんだ、歌の機械じゃないか。それでどうやってゴキブリとるんだい。はやくやってみせろよ」
笑顔で興味津々のジャイアン。無言で機械を操作するしかないのび太。
その顔をうかがい知ることはできませんが、その後ろ姿からは幾筋もの冷たい汗が流れていました……。
(完)
かけたものがなんでもおいしくなる「味のもとのもと」をかぶってしまったジャイアンを、一口でいいから食べようと目のイってしまったのび太たちが追いかけまわす「ジャイアンシチュー(コミックス13巻収録)」と並ぶホラーエンディング。
前者がパニックムービー調なら、こちらは迫りくる惨劇をほのめかしながら無情にもフェードアウトしていく静的構成です。
100円で全害虫害獣が駆除できるなら(窓と壁の修繕費が発生するかもしれないけど)破格だから、アイディア自体は良かったのですが……。
のび太はよくドラえもんの道具を活用(≒悪用)して(しばしば無断で)新商売を始めるのですが、軌道に乗るかと思いきや何らかの理由で水泡に帰すというのが定番です。その中でも一番恐ろしい結果になった(に違いない)のがこの回。
このコミックス17巻には、この他にも、ふりかけたものが五分おきに倍になる薬(一個の栗饅頭にかけたら二時間で1677万7216個に増える)「バイバイン」、宇宙人を呼び寄せてしまう「未知とのそうぐう機」など、扱いを間違えると恐ろしいことになるひみつ道具(そしてもちろんのび太は間違える)が登場して面白いです。
是非お手にとってみてください。(当ブログ「未知とのそうぐう機」ご紹介記事はコチラです。)
読んでくださってありがとうございました。
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