前回、射撃のオリンピック出場者(張 富升選手〈中国〉)がのび太に似てるとのウワサが……という話題をご紹介させていただきましたが、原作内でのび太が未来のオリンピック選手としてその才能を嘱望された回がありました。
種目名は「いねむり」(スポーツじゃない)。
どうして誰も射撃の選手になることを勧めてあげなかったのかということについては残念ですが、ネット上の、
「のび太がオリンピックのクレー射撃に出たら、金メダルですか?」
「出たら金メダルですが、のび太君の場合、寝坊→遅刻→失格という天敵がいます」
という秀逸なやりとりどおり、大いにありうること(※)なので、ならば種目「いねむり」のほうがより選手として安定した活躍が見込めそうです。
(※)大人になっても、愛するしずかちゃんとの結婚式にすら寝坊して遅刻しかけている。(日にちを間違えるというダブルミスでセーフ)(「のび太の結婚前夜」コミックス25巻)
こののび太のいねむりの才能について余すところなく堪能できるのが、「ねむりの天才のび太」(コミックス30巻)です。(「ホンワカキャップ」等その他の名作も収録された巻)
のび太が「もしもボックス」で世の中を「ねむればねむるほどえらいという世界」に変えた結果、身の回りの人々はおろか、日本中から尊敬を集めるというお話です(笑)。
以下あらすじです。(結末までネタバレですのであらかじめご了承ください。)
今日も学校で居眠りをして先生にきつく叱られたのび太。
学校からの電話を受けてお説教をするママの前ですら寝てしまい、怒りを倍増させてしまいます。
「いねむりしながらおきていられるくすり(難しい)をだして」とドラえもんに泣きつこうとしますが、ドラえもんが部屋にいなかったのでまたひるね。
帰ってきたドラえもんが「ゆめグラス」でのび太の夢の中を覗いてみると、見ていたのはひるねの夢
(南国でハンモックにゆられているというすてきな夢)。
あきれかえるドラえもんに、
「むりしておきたってべつにいいことがあるわけじゃなし……」
と、何やらせつないセリフで反論し、おきてりゃえらいなんて誰がきめたんだろう、と、また眠りかけたのび太。
しかし、ここで、「もしもボックス」を使って、逆に眠ればえらいという世界にすることを思いつきます。
翌日より、授業中の居眠りも先生から絶賛され、眠れない他のクラスメート全員が廊下に立たされる羽目に。
女の子たちや出木杉君にまでその能力を羨望のまなざしで称えられ、いい気分で帰宅するのび太
(ジャイアンとスネ夫は「へんな世の中になったなあ」と腑に落ちない顔。)
昼寝をせずに家事をしているママを見とがめて、
「やる気がないんだ、ねむくないからとおきていれば、いつまでたっても眠れないよ」
と正座でお説教、ママは優秀な息子に頭が上がりません。
うとうとしかけていたのにのび太の帰宅で目がさめてしまったというドラえもんに、こんなことくらいで目が覚めるのは本物じゃないからだ、と、一蹴するのび太。
「ぼくなんかこうだぞ」
枕代わりの座布団を手に、本物のいねむり(?)を披露するのび太。
見事、たたまれた座布団が床に落ちると同時に眠りに落ちます(本当にすごいはすごい)。
そこにしずかちゃんが訪ねてきて、中学進学時の「ひるねテスト」を習得するべく、のび太先生の指導を申し込みます。
「体の力を抜いて、頭の中をからっぽにして、なんにも考えないで……」
のび太にそう言われても、テストのことなど考えてしまうしずかちゃんはなかなか眠れません。
「頭の中をからっぽ!ど〜してこんなかんたんなことができないの!?」
「そりゃのび太の頭はもともとからっぽだもの」
ドラえもんの冷酷な指摘から口論になる二人。やかましくて眠れないとしずかちゃんが起きてしまいます。
「やりかたをかえよう。目を閉じて……なにか楽しいことでも考えよう。と、いっても、ワクワクこうふんするようなことはだめだよ。なにかおだやかな、のんびりした……そうだ春の野原を想像しよう。お日様、そよ風、一匹の蝶がひらひらと……つづいて二匹目のちょうがひらひら……」
今流行の瞑想を先取りしたような見事な誘導で、しずかちゃんを眠りにいざなうことに成功します。
涙すら浮かべて感謝するしずかちゃんの口コミで先生のもとへつめかける女の子たち。
さらに、教養番組「正しいひるね」への出演依頼が舞い込みます。
いねむり評論家由目見さんから
「眠りは世界を救う!!ねむりながら戦争はできません。平和のため、のび太先生をお手本にして、みんなねむりましょう」
と、部屋に入ったロケカメラの前で紹介されます。
さっそくもはん演技として、かの「座布団落下時にはもう寝ている」技を披露するのび太。
この驚異の早業に対し、スローモーションによる分析が入ります。
今回は頭の上で手を組んで寝るスタイルだったのですが、実は中空ですでに両手を上げて、たたまれかけた座布団の上で目を閉じ、眠りのポージングをとっています。
(「う〜む、むだのないアクションですなあ」〈by由目見さん〉)
眠りに落ちるまでの時間は驚異の0.93秒。(「おそらく世界新記録でありましょう!!」)
「あのねすがたのみごとなこと。一すじのよだれがなんともいえませんねえ。ねむりの天才というほかありません」
テレビの中でアップになるのび太のスヤ顔(一すじのよだれ付)。
「オリンピックのいねむり種目に、日本代表として、大活躍が期待されます」
(たしかにウサイン・ボルトばりの伝説の絶対王者ぶりを発揮することでしょう。)
テレビでののび太の圧倒的ないねむりぶりを知り、これまでの非礼を土下座して泣きながら詫びるジャイアンとスネ夫。
絶対王者は、王者の風格漂う笑みを浮かべ
「つまらないうらみは水に流し、手をとりあってねむりの道をきわめよう」
と二人を赦します。
「しずかだねえ……この平和が永久につづくよう祈ってぼくらもねむろうか」
ねむりの天才がゆったりと見つめる先には美しい満月。
天才の慈悲深さに感涙するジャイアンとスネ夫。
しかしその前に晩御飯たべなくちゃ、と、空腹を抱えて家に戻るのび太。
息子の言いつけどおり寝ていたママは食事の準備はおろか買い物も済ませておらず、あくび混じりにでかけましたが、みんなすでに眠っていて何も買えませんでした。
愕然とするのび太、しかし次の瞬間に居眠り運転のダンプが突っ込んできて、居間が大破。
さすがの天才もたまらず「もとに戻して!!」と「もしもボックス」に駆け込んだのでした。
(完)
中学入試の「ひるねテスト」とは、由目見さんとは、ねむりの道を極めた先とは、等々、気になるところだらけですが、のび太の「あたまをからっぽに」という指導や、のどかな野原を想像させる誘導は、ある意味、現代のストレスケアを先取りしています。
クライマックスは、放り投げた座布団の着地点を確認せずに中空で眠りのポージングに入っているスローモーション映像。スピードを妨げないという点において、今回王者ボルトのいるジャマイカチームに次いで銀メダルをとった男子陸上400mリレーのバトンパス技術をも彷彿とさせます(多分)。
のび太がもしもボックスに入って世の中の価値観を逆転させるエピソードは他にも数編あり(13巻「お金のいらない世界」など)、いずれもこの回に劣らぬウィットに富んでおり、こちらもおすすめです。
読んでくださってありがとうございました。
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