2016年08月12日

自然番組の撮影方法(BBCドキュメンタリーより)


先日、ウミガメ型カメラで捕えたイルカがフグ毒を好き好んで摂取している映像について書かせていただいたのですが、本日は、こうした映像をイギリスの自然番組スタッフたちがどのようにして撮影しているか、その一端についてさらにご紹介したいと思います。

カメラにおさめられた自然もすごいけど、おさめる人々もまたすんげいのです。


1、Spy‐Cam(カムフラージュした小型カメラ)で撮る

「ソックリウミガメラ(そんな名前じゃない)」同様、動物たちの生活圏にあって、特に構われない存在(岩、雪の塊、魚など)の形をしたカメラを作り、それで、ごく自然な姿をとる、という形式。

Spy‐camの紹介と、ディレクター兼プロデューサーのJohn Downer氏のインタビューが見られる動画はコチラです。


https://www.youtube.com/watch?v=PbDn8LGbYM4

カメラによっては遠隔操作が可能なので、そばに寄っていくことも可能。

ウミガメラは昨今の技術で、ぱっと見わからないほどよくできており、シワもリアルな首をきょろきょろと動かして、近くで細やかな映像を撮ることに成功しています。

ウミガメラがイルカの群れに寄っていったとき、目と鼻の先で泳ぐイルカたちの「あ、カメさん、こんにちは」的穏やかなチラ見などもおさめていました。



https://www.youtube.com/watch?v=80BXZfuevkE

また、なんかちょっとフシギと思われたのか、ホッキョクグマが雪の塊型カメラに寄ってきて、レンズ付近を目いっぱいふぐふぐ嗅いでいる鼻まみれ映像も。
(わが身なら死を覚悟するでしょうが、安全圏で見るとかわいいわ……。)

しかし、別番組で、鳥たちのコロニーに卵型のカメラを置いておいたところ、別の鳥にさらわれてしまい、舞い上がる鳥の脚視点から、広大なコロニーの全景を撮るという、まさかのハプニング映像がとれてしまうことも。

また、その小型カメラを模型ではなくまんま鳥につけてもらい、美しい飛行風景を撮影するケースもありました。

Spy‐camについて詳しくまとめてくださっているページはコチラです。
「BBC野生動物ドキュメンタリーの美麗映像はどうやって撮られているのか?(GIGAZIN)」
http://gigazine.net/news/20140821-bbc-wildlife-filming/


2、人が近寄って撮る

シンプル、しかし常に危険と隣り合わせの方法です。

それでも、カメラにおさめたい瞬間はそう何度もめぐってこないので、ときに気の遠くなるほど繰り返し機を待った専門のカメラマンたちは、ここだと思った瞬間には、一気に飛び込んでいきます。

私が度肝を抜かれたのは「BBC EARTH グレートネイチャー(原題:Nature’s great event)」の撮影風景(DVD/ブルーレイでは、最後に10分程度メイキング映像がでてきます)

BBC EARTH グレート・ネイチャー ブルーレイ・デラックスBOX [episode2-6] 3枚組 [Blu-ray] -
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このシリーズで、偉大なる自然番組プロデューサーにしてナレーターでもあるデイビッド・アッテンボロー氏(ここではナレーターのみ担当)を知り、そしてイギリスの自然番組の凄まじさを知りました。
(当ブログでアッテンボローさんについて書かせていただいた記事〈「デヴィッド・アッテンボローさんのサイン会」〉がありますのでよろしければ併せてお読みください。素晴らしい方です。)

どれも驚異的なのですが、光景としても撮影の苦労としても圧巻だったのは「世界最大の魚群」の回。
南アフリカで、潮流の影響によって発生する、5億匹のイワシの大移動(サーディン・ラン)、そしてそれを追う生き物たちの息をのむ捕食風景を撮影しています。

イワシたちが生き残りをかけて形作る球形群(bait ball)を狙うのは、イルカ、サメ、カツオドリ、クジラ。

自ら超音波を発し、探知する能力を持つイルカたちが、イワシの群れを見つけて、互いに情報を伝達しながら集団で移動、その姿を上空から見つけたカツオドリたちが後を追います。
時を同じくして集結するサメやクジラ。

イワシが散ってしまう前に、それぞれが銀色の群れに向かって一斉に突撃します。

数頭隊列を組んで横一列に飛び込み、イワシの群れを乱して捕えるイルカたち。
縦横無尽に泳ぎ回るサメ。口を開けて群れをすくいとるクジラ。

特に目を奪われるのはカツオ鳥たちの攻撃です。

上空で様子をうかがっていた鳥たちは、ひとたびふわりと身をひるがえすと、鋭いくちばしを水面に向け、両翼を閉じて全身を細く細く縮め、海へと突っ込んでいきます。

まるで、数百の剣が海中に撃ち込まれるような勢いと鋭さで。



https://www.youtube.com/watch?v=1Cp1n_vPvYY

この、鳥にとっても危険なダイブ(加減や角度を間違えると首の骨を折る)で潜れるのはせいぜい10メートル、しかし、優れた潜水技術を持つ個体は、そこからさらに翼で強く水をかき、深く潜ってイワシを追います。

この水中の鳥の群れのすぐそばをサメたちも泳いでいるのですが、互いにイワシしか目に入っておらず、鳥が襲われることはないようです。

こうして、銀色の花吹雪のようなイワシの群れの中、白く羽をひろげたカツオドリ、サメ、イルカがそれぞれに水泡をまとい鋭く乱舞する、驚くべき光景が繰り広げられます。



https://www.youtube.com/watch?v=DHeZrLnY3Dk


……で、その渦中にカメラマンが混じって撮るわけです。

メイキングによると、そもそも、このサーディン・ランを見つけるのに大変な苦労があり、海に入って様子をうかがっていたカメラマン氏が、サメに遭遇して慌ててボートにあがるという一幕がありました。
(イワシがいなければ人間も標的になってしまう。)

「危なかったな……」という風に声をかける他のスタッフに向かって、カメラマン氏は「(ダイビング用の)ヒレを少し噛まれた。蹴って追い払ったけど」と恐ろしい報告をしています。
(撮影に使用しているのは数人乗りの小型ゴムボートで、あんなにサメがいる地域にあんなので行く時点でイヤダ。)

それでもひるまないクルーたちは、上空からセスナで偵察していた撮影班から、「千頭近いサメが集結している、きっとサーディン・ランだ」という情報を得ると全速力でそこへ向かい(「全速力で逃げ」ではない)、カメラマン氏は、サメとイルカがぶつかりあうようにしてひしめき、カツオドリ魚雷ナイフがひゅっひゅっと鋭い音を立てて突き刺さる海に「今だ!!」と飛び込んでいます。もはや人間の防衛本能を超越している。

こうして撮影されたのが、かの銀色の花吹雪の中の捕食者たちの映像です。

そして確かに原則サメはイワシ以外は狙わないのですが、この状況で冷静なはずもなく、牙を剥いたまま、カメラマン氏の方へも繰り返し突っ込んできていました。

しかし、カメラマン氏は、おそらくは武士の気配を殺す技術のような絶妙な距離感で、サメを逆なでせず、しかしカメラは手放さずに、身をひるがえし、ときにそっと手や足やカメラでサメの方向を変えて撮影を続けていました。

サメってそっとなら蹴っていいんだ……。

いや、常人がやったなら、その足をもってかれるでしょうけれど、この人たちはおそらく繰り返し死線を乗り越えた果てに、野生動物の攻撃性を刺激しない間合いを身に着けているのでしょう。

驚異の撮影風景(一部)はコチラ。



https://www.youtube.com/watch?v=AGKa8wlXvhk

(日本でこういう番組を放送してくださる方々〈NHKやWOWWOW等〉が万が一この記事をご覧になってくださったらお伝えしたいのですが、アッテンボローさんたちの美しくて聞き取りやすい英語ナレーションと、こういう撮影秘話は絶対に削らないでいただきたいです……)

また同シリーズ「大いなる海の宴」では、アラスカが舞台となっています。

壮絶な冬を超えて生き延びているわりに無邪気なところがあるアシカたちが、カメラマン氏の水中撮影に「アラマフシギフシギ、ナニコレダレコレ」とカメラやカメラマン氏本人にコンコン鼻を近づけているというほほえましい映像がある一方、サーディン・ラン同様の魚群(今回はニシン)捕食の際、鳥たちに上空と海中から襲われ、一か所においつめられて水面スレスレでびちびちのたうっている魚群を水中撮影していたカメラマンの目と鼻の先をかすめ、水面そのものが割れ、波間に山の立ち上がるように、体長十数メートルのザトウクジラがぱっくりと大口をあけて突っ込んでいく瞬間がありました。(HPの解説によれば、「Within a feet」なのでその巨大口とカメラマン氏は約30pしか離れていなかった。)



https://www.youtube.com/watch?v=quwebVjAEJA

人なら呑みこんでも多分吐き出してくれるだろうと言ったって、そのとき無傷でいられる保証はどこにもなく(そもそも吐き出してくれる保証からしてない)まさしく命がけの映像でした。

(ザトウクジラが海面に姿を現した際、魚群近くでカメラマンを見守っていたボートから叫び声が上がっていた。)

「怖かった……」
そう言いながら上がってきたカメラマン氏、しかし、その顔は、前代未聞の映像をものにし、その目に焼き付けた達成感に紅潮していました。

スタッフたちの撮影風景ダイジェスト版動画はコチラです。


https://www.youtube.com/watch?v=qPS3mP3fIQs

壮大で厳しい自然の驚異、スタッフたちの度胸と執念、美しい音楽にアッテンボロー氏の重厚かつ熱のこもったナレーション、どれをとっても素晴らしい作品なので、是非ご覧になってみてください。

各回エピソード紹介や動画を含む「Nature's Great Event」のHPはコチラです。
(動画集はコチラ)

当ブログの海の生物にまつわる記事は以下のとおりです。よろしければ併せてご覧ください。

夏向き癒しのイルカ動画
イルカたち、フグ毒を回し飲みしてハイになる(イギリスBBCドキュメンタリーより)
自然番組の撮影方法(BBCドキュメンタリーより)


読んでくださってありがとうございました。

posted by Palum. at 05:01| イギリスのテレビ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする