2014年08月23日

War horseウォーホース(戦火の馬)日本公演 感想3 結末部(ネタバレ注意)

 いよいよ2014年8月24日千秋楽となってしまいましたが、今回も東京シアターオーブで上演中の舞台「War horse ウォーホース(戦火の馬)」について、今回は最大の見どころを書かせていただきます。
シアターオーブの公式情報はコチラです。


 第一次大戦期、軍馬(ウォーホース)としてイギリスからフランスへと徴用された馬ジョーイと、彼を追って戦場へ向かった少年アルバートを中心に描かれる、戦争に翻弄された人と馬の物語です。



ロンドン公演のものですが、あらすじ等の情報はよろしければ以下過去記事をご参照ください。
ロンドンの舞台「War horse」@ あらすじと見どころご紹介
ロンドンの舞台「War horse」A ある名場面と、その他のおすすめ作品

最大の見どころ=結末部ネタバレなので、今後日本でも他国でも観に行こうと思って居る人は絶っっっ対に!!!お読みにならないでください。勿体ないから。

(「だいじょーぶ、映画観たから終わり方知っている」と思われるかもしれませんが、映画と舞台は相当味が違います。)

 この場面も、原作小説、映画、舞台それぞれ少しずつ描き方が違っていて、私は舞台版が一番好きです。

 






……では、既にご覧になった方のみ以下概要をどうぞ。(おおまかな場面描写なので、あらかじめご了承ください)

【見どころシーンその@】ジョーイが鉄条網に脚をとられる場面

イギリス軍の軍馬としてフランスに渡ったジョーイ、しかし、戦局の中で、彼と相棒の黒馬トプソンはドイツ軍の所有となり、大砲やけが人を運ぶために過酷な労働を強いられる。

その後、イギリス軍戦車からの攻撃を受け、孤立したジョーイは、銃弾飛び交い、ぬかるむ戦地をやみくもに走り、馬にとって最大の脅威である鉄条網に突っ込んでしまう。

鉄条網から逃れようと暴れ、からみついたとげを歯ではがそうとするジョーイ。しかし、もがけばもがくほど、鉄条網はジョーイに食い込んでいく。

 繰り返される悲鳴のいななき。
 やがて、ジョーイは力尽きて、どうっとその場膝を降り、倒れこんでしまう。
 全身を襲う激しい疲労と痛み。
 もう、動けない。
 動けない。
 荒かった鼻息も次第に小さくなっていく……。

【舞台としての見どころ】
 美しい等身大のパペットジョーイが、恐怖におびえるいななきと激しい息をつき(パペット操作の役者が声帯模写)激しい砲弾音と音楽と光の中、舞台を駆け回ります。

 このとき、数名の役者が鉄条網を手に舞台に駆け出てきて、暴れまわるジョーイに鉄条網を絡め、後ろ足で立ち上がるジョーイを中心に、銀色のとげが、舞台四隅に、大きなXの形に広がります。(ジョーイが鉄条網にとらわれてしまったという表現)

「上演中に人間が舞台装置を運ぶ」、「音楽のクライマックスと共に舞台全体を一枚絵のように固定する」という表現方法は、ともに歌舞伎によく観られるものです。
(舞台装置を運ぶ人間を「黒子」と呼び、この一枚絵のような瞬間、役者は音に合せて「見栄(大きくポーズをとること)」を切り、舞台の構図を完成させます。)
 この舞台の文楽の影響は明言されていますが、歌舞伎も参考にされているのかもしれません。
 痛切ながら視界に焼付く表現でした。

【見どころシーンそのA】倒れたジョーイを見つけたイギリス兵とドイツ兵のやりとり

 鉄条網に絡め取られ、動かなくなったジョーイを、塹壕に潜んでいたイギリス軍兵士が見つける。

 「中立地帯に馬が……」

 時を同じくして、中立地帯を挟んだ先のドイツ軍側もジョーイに気づく。
 
 汚れた白い布を巻き付け、一時停戦の合図の旗としてひらひらと振ると、両軍から兵士が一人ずつおそるおそる這い出してくる。

 状況を知らない兵がドイツ側に発砲、撃ち合いを避けるために、イギリス兵が叫ぶ。
「やめろ!」

 まだ息のあったジョーイを、イギリス兵もドイツ兵も「よしよし、いい子だ。」と互いの言葉でなだめ、ジョーイの脚を持ち、巻き付いた鉄条網を切っていく。
 
「医者に見せないと」
「出血がひどい」
 両軍の兵はそれぞれに呟きつつ、やがてどうにか鉄条網を外す。

 戦争において馬は大切な動力だ。放っておいて敵側に渡すわけにはいかない。

 そう思って塹壕を這い出てきたのだが、お互い身振り手振りで共同作業をすることになってしまった二人の間に、さて、ことが済むと、なんとも言えない沈黙が流れる。

「……この馬はこちらでもらう」
「我が軍の陣地にいたのだから(そう?)こっちのものだ」
 と、声高に主張し合っても、いかんせん言葉が通じない。

 らちが明かないので、ドイツ兵が硬貨を取り出す。
「コイントスで決めよう。表(頭)か裏(尾)か選べ(※)」
(※コインの「裏か表」を、「頭か尾か」と呼ぶ)
「……何?」
「だから!」
 ドイツ兵は自分のヘルメットを叩き、ドイツ語で、
「頭!(Kopf)」
 それから、イギリス兵に突き出したお尻をペチペチ叩き、
「尾!(Zahl)」
「あっ、『Head or tail』か!」

「この皇帝の顔が描いてあるのが『尾(裏)』だ。で、逆が『頭(表)』」
 イギリス兵にコインの裏表の図柄を確認させた後、ドイツ兵の投げたコインが宙を舞う。
 イギリス兵は「頭!」とコールする。
 ドイツ兵は抑えたコインを抑えた手のひらを開くと、イギリス兵にそれを見せた。
 仏頂面で、イギリス兵にジョーイの手綱を渡すドイツ兵。
 と、同時に、への字口のまま、ばっ!と突きつけるように差し出された、ドイツ兵の右手。
 あっけにとられ、一瞬ためらったが、イギリス兵はそれを握りしめ、互いに、不器用だが固い握手を交わし、二人は互いの陣地へと戻っていった……。

【舞台としての見どころ】
 名場面中の名場面です。

 過去記事で、「映画『西部戦線異状なし』主人公(ドイツ兵)と彼が刺したフランス兵とが一対一で塹壕に取り残される場面」や「大岡昇平作『俘虜記』で日本兵の『私』が部隊からはぐれた際に、若いアメリカ兵を発見し、しかし、彼のあまりの無防備さと若さに撃つことができなかった場面」を思い出させる、と、書かせていただきましたが、この「War horse」の兵士二人は、言葉の違う敵同士ながら、身ぶり手ぶりを加えてなんとか相手とコミュニケーションをとろうとしています。

 しかもさっきまで互いに撃ちあっていたのに、ジョーイを助けた後に流れる「……ええっと……」みたいなビミョーな空気感や、「ワタシエイゴワカリマセン!(憮然)」や、お尻ペチペチ。

 この(言葉はほとんど通じていないけれど)対話と、ユーモアは、傑作の誉れ高い上記2作にすら描かれていない、「War horse」だけが到達した高みです。

 戦局の変化でジョーイと行動をともにすることとなったドイツ兵フリードリヒが、主人公アルバートと双璧をなすほどに丁寧に描かれている点と、このジョーイを助けるためにイギリス兵とドイツ兵が協力する場面があること。

 それを、「馬」という国を超えた存在を中心に据えることで自然に表現したこと。

 それがこの舞台「War horse」の最も偉大なところだと思います。

 以前も書かせていただきましたが、この場面、小説ではドイツ兵が片言ながらかなりの英語を話します(児童向け小説にドイツ語が出てきても、単なる嫌がらせになってしまうので小説表現としてはこれでいいのでしょうが)。

 また映画版でも若いインテリ風のドイツ兵士が出てきて、やはり主たるやりとりは英語です。

 お尻ペチペチとぶっきらぼうな握手の味わいは舞台版だけのもので、「笑いながら胸が熱くなる」というとても不思議な感動があります。
 

 以下、いよいよ究極のネタバレとなってしまいますが、書かせていただきます。


【見どころシーンそのB】ジョーイとアルバートの再会

 負傷したジョーイが連れてこられた病院。

 そこには、毒ガスで一時的に目が見えなくなっていたアルバートも運び込まれていた。

 地獄のような戦闘の中、無二の親友デイビットを失い、もはやジョーイも生きてはいまいと無気力に座り込んだアルバート。

 その近くで、治療を受けるジョーイ、しかし、傷は思いのほか深く、この場で完治させることは不可能と判断されたジョーイは、安楽死させられることになる。

 「助からない馬が銃殺される」
 今までに何度もそんな場面にでくわしてきた。
 アルバートは肩を落としたまま、ジョーイの思い出をかみしめる。
 そして、両手を口で覆う独特の口笛をそっと吹く。
 フクロウの鳴き声のような音。
 幼いころからジョーイに聴かせてきた。
「この音を聴いたら、それは僕だ。僕のところに来てくれ」
 そう言って。そしてジョーイはいつも嬉しそうに駆け寄ってきてくれていた。
 
 アルバートの背後が騒がしくなる。

 傷ついて大人しかった馬が急に暴れている。それを聞いたアルバートは激しい胸騒ぎを覚える。
 まさか………。
「ジョーイ、お前なのか?」
 周囲の制止を振り切ってジョーイのもとに駆けつけるアルバート。
「待ってください!」
 抑えられながらも身をよじっていななく馬に、もう一度力の限りあの口笛を吹くアルバート。
 やがて、膝をついて息を飲むアルバートに、よろよろと近づいてくる足音。
 立ち止まる蹄の音。
 アルバートは、おそるおそる、その鼻面に「ふうーっ」と息を吹きかけた。
 その馬は首を少しひっこめた後、アルバートにそっと顔を近づけ、「ふうーっ」と鼻息を返した。
 ジョーイの挨拶。
 それは、お互いのために生まれてきたジョーイとアルバートが、長年お互いだけで交わしてきたやりとりだった……。

【舞台としてのみどころ】
 この再会シーン、小説版でも映画版でも、「泥にまみれたジョーイを奇麗にすると、ジョーイの額にあった星の模様が出てきてジョーイだとわかる」という展開なのですが、クローズアップができない舞台上では、代わりに口笛が使われています。
 
 ロンドン初演版では、口笛を吹くアルバートに、人の手を離れたジョーイがいななきながら駆け寄って、鼻ヅラでドチーンとぶつかるというちょっと荒っぽい再会シーンでした。

 そして今回はひっそりと優しい鼻息語。

 どっちもいいですねえ、味が違うけれど甲乙つけがたい。

 というのも、家族との再会のときには大喜びでわりとブレーキかけずにぶつかっていく、のも鼻息を言葉代わりにするというのも、我が愛犬がよくやっていたもので……(個人的感慨〈前者は勢い良すぎて目から星が出た〉)
 
 人を愛する哺乳動物の情の濃さや感情表現の豊かさが良く出た名場面した。

 以上、ネタバレ編でした。ご覧になった方たちが舞台を振り返る一助になれば幸いです。

当ブログ「ウォーホース」関連の記事は以下の通りです。
ロンドンの舞台「War horse(ウォーホース)戦火の馬)」@ あらすじと見どころご紹介
ロンドンの舞台「War horse(ウォーホース)戦火の馬)」A ある名場面と、その他のおすすめ作品。
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「史実 戦火の馬」(ドキュメンタリー番組)

 読んでくださってありがとうございました。
posted by Palum. at 15:44| 舞台 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする