2014年03月22日

「ラファエル前派展」混雑状況と展示の工夫

 六本木の森アーツギャラリーで、「ラファエル前派展」が開催されています。
 19世紀イギリスで生まれた、「ラファエル前派」の芸術家たちは、丹念な自然描写と奔放で幻想的な画面表現で、ラファエル以降に形作られた美術の概念を打ち破ろうとしました。

 彼らの作品の典型として最も名高いのは、美しく謎めいた女性たちの、主に詩や伝説を題材としたロマンチックな絵画です。

 当ブログでも、過去記事でこのラファエル前派屈指の女神(ミューズ)とも呼ぶべき女性、エリザベス・シダルを描いた傑作絵画「オフィーリア」および「ベアタ・ベアトリクス」(どちらもこの展覧会で観ることができます。)と彼女の生涯についてご紹介させていただきました。

 今回は実際に会場に行ってみての印象と、その他のおススメ絵画について少し補足させていただきたいと思います。

 @混雑状況
 公式HPには、比較的余裕を持って鑑賞可能というようなことが書いてありましたが、いえ……結構混んでます。

 10時台に入場したのですが、既に第一室「歴史」の絵のまわりは結構ぎうぎうでした。後ろの方は程よい感じでしたが。

(入口部にはアーサー・ヒューズの「4月の恋」という少女の絵が一枚のみ。背景がガラスで描いたように透明な光沢のあるこちらも綺麗な絵でした。)

 というのも、ここに先ほどご紹介した、ラファエル前派展の至宝「オフィーリア」があるからです。

 ・ラファエル前派の中で最も高い技術を誇るミレイの最高傑作
・モデルはラファエル前派絵画のスターにしてロセッティの妻、エリザベス・シダル
・「ハムレット」のオフィーリアの死の場面(当ブログ関連記事はコチラ
・夏目漱石も「草枕」でその美を絶賛(当ブログ関連記事はコチラ
・というか普通に「花に囲まれ、透き通った水を流れていく美しい女の人と緑の水辺」というとても不思議な綺麗な絵

……という数々の理由で人目を集めるので、ここでどうしても人が溜まってしまうのです。
そもそも、ラファエル前派の絵は、たいてい非常に描写が緻密で、なにか物語の一場面であったりするため、絵の中にそれを示す小道具がたくさん書いてあったり、傍の解説文も内容が濃かったりで、一枚一枚観るのに時間がかかります。

 なかには双眼鏡やモノキュラーなるスコープで細部を鑑賞していらっしゃる方もいらっしゃいました。この展覧会の場合、確実に役に立ったことでしょう。

 しかし、こういうときあまり最初から律儀に観ると疲れてしまうタイプなので、「オフィーリア」に後ろ髪をひかれつつ、まずはこの部屋を通過してしまうことにしました。(後で戻る戦法。これでなんとかまんべんなく堪能できました。)

 A展示の工夫

 この後は「宗教絵画」「風景画」「近代絵画」「詩的な絵画」「美」「象徴主義」とテーマごとに区切られて展示されていたのですが、この展覧会で見せ方として特に面白いと思ったのが、この「美」の前の一部屋でした。

 通路部のところに、画家たちの肖像画や略歴があり、非常に入り組んでいた画家とモデルの人間関係がきちんと説明されていたのです。

 なかでも、ラファエル前派をある意味象徴するとも言える、ロセッティ、妻シダル、ジェイン(ロセッティの友人モリスの妻)、モリスの四角関係と、ロセッティとの冷え切った夫婦関係に悩んだシダルの死について、通りすがりに大きな人間関係相関図でしっかり学んだ後に、「美」の間に進んで、ロセッティがシダル、ジェインそれぞれを描いた傑作「ベアタ・ベアトリクス」と「プロセルピナ」が並んでいるのを見るという作りになっていたのです。

「ベアタ・ベアトリクス」
468px-Dante_Gabriel_Rossetti_-_Beata_Beatrix,_1864-1870.jpg

「プロセルピナ」
Proserpine-(utdrag).jpg

 一枚の絵それだけでも非常に美しい、時代を作った傑作なのですが、夜明けの光にとどめるすべもなく消えてゆく金色の靄のような「ベアタ・ベアトリクス」と、謎を秘めた強い瞳に血と薔薇を含んだような唇で、見る者の瞳に食い込むような存在感を放つ「プロセルピナ」、二枚並ぶとそこに描かれた女性と絵画そのものの美のコントラストに圧倒されます。

 そして、この2枚の絵の陰に秘められたドラマも。

 こういう、「いきさつを知ってから見る」ように組まれた順路や絵の配置というのは、大美術館の常設展示ではなかなかできないことなので、今後日本で展覧会が開かれる際には踏襲されてゆく展示テクニックとなるような気がしました。

 この展覧会、この有名な美女たちの絵画以外にも「ラファエル前派の人って何でも描けたんだなあ」と思わされる、風景画、宗教画、小品等の名作揃いでしたので、とてもおススメです。

 最後に、とりあえず、上記の絵以外に特にこりゃスゲーと思った作品を一つ。

 バーン・ジョーンズの「愛に導かれる巡礼」
 ラファエル前派展HPの画像はコチラ http://prb2014.jp/archives/artworks/artworks_14/
 ラファエル前派後期の画家バーン・ジョーンズが20年もの間格闘し続けたという大作(約150cm×300p)で、「薔薇物語」という寓意詩の一場面を描いた作品です。
 夢の中である「薔薇」に恋をした詩人が、薔薇を追い求めるという内容で、絵の中では若い詩人が翼を持ち、薔薇の冠を被った「愛」に手を引かれて、いばらの道を進んでいます。
 色が暗いので、チラシなどではあまり良さがわからなかったのですが、実際に見ると「大きくてとてもきれいだ」とすごく素直に感動しました。
 バーン・ジョーンズの持ち味である、非常に丁寧で静かで神秘的な世界。ひんやりとした霧を醸すような画面。
 等身大の人間が描かれていると巻き込まれるようで圧倒されます。
 また中性的な華やかな顔立ちの「愛」の美しさは一目見てすぐわかりますが、大きなフードの陰になってほとんど見えない「巡礼(詩人)」もひたむきで透明感のある目をした青年でした。ギャレス・マローンさんとかセント・オブ・ウーマンのチャーリーをまじめそうで賢そうできれえな青年だなあと思う人は感動すると思います。

 展覧会の結びを飾っているのでご注目ください。

 会期があとわずかとなってしまいましたが、今後もこのブログで展覧会の名画を少しご紹介させていただきたいと思います

 読んでくださってありがとうございました。

 参考文献「ラファエル前派展」朝日新聞社
posted by Palum. at 15:23| 美術 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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