2014年02月19日

「腹話ロボット」(『ドラえもん』より)

 最近わりとシリアスな話題の記事が続いてしまいましたが、僕は本来そういう人間ではないので(←……)、また大好きなドラえもんのおススメエピソードをご紹介いたします。
(ネタバレです。先にコミックをお読みになることを強くおススメいたします。)
てんとうむしコミックス32巻に収録されています。

ドラえもん (32) (てんとう虫コミックス) -
ドラえもん (32) (てんとう虫コミックス) -


口下手で損ばかりしているのび太が、ごまかしでいいから要領よく立ち回りたい、とあまりにも正直にドラえもんに泣きついて出してもらった「腹話ロボット」のお話です。

ドラえもんはほのぼの子供向けと思いきや意外にアブナイ展開の作品が紛れ込んでいて、これテレビで放映できたのかな……思うことがままあるのですが、その意味でこの作品のオチが一番危険です。(現実的に最も危ないのはジャイアンシチューのオチですが、放送できなさそうなのはこっち)

そして危険だからこそ、大人にはそのギャップがたまらなく面白いのです……。

(以下結末部までネタバレです)
ある日、空き地で、ジャイアンから「ひさしぶりに新曲ができた。聴きたいか?」と言われたのび太とスネ夫。
 まあ、日本全国に知れ渡っているとおり、ジャイアンの歌声は人体に有害なほどへたくそなのですが(吐き気を催す観客〈義務参加〉続出)、スネ夫はすかさず、
「聴きたい!聴きたい!久しぶりだなあ!遅いんだよジャイアン。いつ新曲ができるのかと、待ちくたびれちゃったよ」
と作り笑顔でおだてます。
怠けて悪かった心の友よ(ジャイアン愛用語)。と、ご満悦のジャイアンから、お前はどうなんだ、と聞かれたのび太は
「遅いんだよジャイアン。もっと遅くても良かったのに。聴きたい聴きたい。どうせきかされるなら、いやなことは早くすませたい。」
と、忍耐我慢のにじみ出た顔で答え、勿論ぶんなぐられ「だれが聞かせてやるか」とジャイアンは空き地を出ていきます。

 おかげで助かった。ジャイアンの気が変わらないうちに帰ろう、とスネ夫に促されたのび太でしたが、「実は0点をとってしまって家にも帰りにくいんだ」と困り顔。
「そんなことか。ぼくも悪かったんだ。でもへいき」
とスネ夫はズルい顔をして、まあ、見てな、と家に入っていきます。
玄関で待ちかまえていたスネ夫ママにいきなりどなりつけられたスネ夫ですが、再びすかさず
「やめてお母様!」
と駆けより、
「怒ると小じわが増えるっていうよ。ママの美しい顔が皺だらけになるなんてボク耐えられない!」
と泣き叫び、
「この次頑張るから。いつまでのママに若く美しくいてほしいから」
という頃には、もうママをホロリとさせて「まあ……スネ夫ちゃんはなんて優しい……」とまで言わしめていました。
 ドアの外でこのやりとりを聞いていたのび太は「うまいことやったなあ」と感心して帰宅。

 同じころ、0点の答案を見つけて叱る気満々のママに、ドラえもんが「ぼくから、よく言い聞かせるから」と一生懸命とりなした(優しいなあ)結果、「今回は私からは何も言わない」とママも納得したのですが、そこにいきなり「やめてママ!」と飛び込んできたのび太。
「その美しい……、というほどでもない顔がしわくちゃになるじゃんか。見るにたえないよ」 
 ……かくして正座させられギャンギャンに叱られる羽目に遭っているのび太に背を向け「ばかだねえ、じつにばかだね」と心底呆れるドラえもん。

 ぼくは口下手で損ばかりしている。ごまかしでも良いからスネ夫みたいに要領よくやりたい、とのび太に泣きつかれたドラえもんは、気が進まないながら「腹話ロボット」を出してあげます。

 腹話術人形と逆に、人形が人間の口を動かし、その人の声でいかにももっともらしいことを喋るという道具だと聞いたのび太はさっそくそれを肩に乗せてみます。

 その直後、まだ機嫌の悪そうなママに草むしりを命じられますが、「ウェー」と言いかけた瞬間腹話ロボットが作動。
「ワーイ、草むしりうれしいな。腰をかがめるのがウェストの運動になるし、指から葉緑素が吸収されて肌もきれいになるんだよね」
と言ったので、ママがソソクサと自分でやりはじめます。
「ママのためなら喜んでゆずってあげよう」と、調子よく縁側で草むしりを見物していたのび太、さらにお小遣いももらえないもんだろうか、と、こっそりロボットに持ちかけると
「お年玉が年に一回と言うのは誰がきめたのでしょうか。現代人は古いならわしにとらわれることなく毎月お年玉を」
との台詞でまんまとお金をせしめることに成功します。

 かなり無茶な理屈でもこの人形が言えば通じてしまうものなのだというのは、ドラえもんも知らなかったようで、これを見て目を丸くしています。
 いい加減なこと言って、ロボットを止めるとごまかしもばれるんだぞ、と、ドラえもんにたしなめられますが、すっかり味をしめたのび太は「いいもん、ずーっとこのままにしておく」と暢気に散歩に出ます。

 直後、道で先生に出くわし、「あんな点をとっておいて宿題もせずに遊びまわれる身分か」とお説教を食いそうになりますが、ここでも、
「僕は自分さえ成績が上がればという考え方はどうしてもできないんです。どんなにみんなが一生懸命勉強しても、テストをすれば必ず順位がついて誰かがビリになる!!だから…だから僕が犠牲になって0点を……世の中にこんなバカが一人くらいいてもいいんじゃないでしょうか……」
と6コマにも及ぶ熱弁と共に涙し(草刈りのくだりを見る限り、この人形に涙を流させる機能は無いようなので、のび太本人の熱演と思われます)、のび太の優しさ(←……)に感動した先生に「これからもがんばって0点をとりなさい」とはげまされます。

 また、突然開催が決まった「ジャイアンリサイタル」では、歌い出しから「ひどい歌だなあ」と言って空き地の観客全員を凍り付かせた後、今にもなぐりかかりそうになっているジャイアンに「ジャイアンの歌はこんなもんじゃないはずだよ。ノドを痛めているんじゃないの?(これを受けて「昨日めざしの小骨がのどにささった」というジャイアンに)やっぱり!無理をしちゃだめじゃないか。将来の大歌手がもっとノドを大事にしてくれなくちゃ」と言う事で、見事リサイタルを中止させることに成功します。

 ……と、ここまでは良かった(?)のですが。
 

 リサイタルに遅れて来ることになっていたしずかちゃんに、中止を知らせてあげようと、どこでもドアを使ったのび太。

 ところがお約束通りしずかちゃんは入浴中だったため、怒らせてしまいます。

 「ま、まあ聞いてよ」
 と再び腹話ロボットが作動。

 ここからの演説が妙に高尚でふるっています。
 「もともとアダムとイブの時代、人間は裸だった。服を着るようになったのは、神様の言いつけにそむいて知恵の木の実を食べたからだ。神様の言うとおりにしていれば、人間はいまでも楽園で暮らせていたはずなんだ。裸のまんまで。」
「じゃ……はだかでいるほうが正しいの」
「そーなんだよ!」
(イタリアルネッサンス絵画の傑作、ボッティチェリ作『ヴィーナスの誕生』がコマに登場)

ボッティチェリ(腹話ロボット).png

「世界の美術館をみたまえ。はだかの絵や彫刻でいっぱいじゃないか。なぜか?それは美しいからだ。はだかこそ永遠の美のテーマなのであります!!」

 これを聞いたしずかちゃん、それまで湯船に身を沈めて隠れていたのにザバっと立ち上がります。
「そうか!じゃあ恥ずかしがるの間違いなのね」
「そ、そう……」
「服なんて着なくていいのね」
と、浴槽からあがってしまい、「それは……」とのび太が口ごもっている間に、
「遊びに行きましょ」
と、どこでもドアから屋外に出て行こうとします。
「極端すぎるよ!」のび太本人は止めますが、不思議そうに
「のび太さんもそう言ったでしょ」
と、ふりむいたしずかちゃんに、腹話ロボットは

そのまま町中をかけまわろう!!.png

「そうとも、そのまま町中をかけまわろう!!」と高らかに言ってしまい、どこでもドアから、生まれたままの姿で両手を広げて空き地に現れたしずかちゃんに、ドラえもん超驚愕(大笑)。

腹話ロボット.png

 大慌てでのび太が腹話ロボットを地面にたたきつけた瞬間、正気に返ったしずかちゃんは悲鳴とともにどこでもドアで浴室に逃げ帰ります。

 「みんなまだ怒っている?」
 空き地の土管の陰に身をひそめるのび太に、ドラえもんは
「当分うちへ帰れないね」
と、淡々と報告します。
 その視線の先には、まんまとだまされたことに気づいたママ、先生、ジャイアン、しずかちゃんが怒りの面持ちでのび太を探し回っていました(まあ特にしずかちゃんはそりゃ怒るわな……)。
(完)

 この作品、まず序盤ののび太とスネ夫の台詞の「似てるようで全然違う度」が見事です。
・「遅いんだよジャイアン待ちくたびれちゃった」⇔「遅いんだよジャイアン、もっと遅くても良かったのに」
・「聴きたい聴きたい。久しぶりだなあ」⇔「聴きたい聴きたい。どうせ聴かされるのなら、嫌なことは早く済ませたい」
・「ママの美しい顔が皺だらけになるなんてボク耐えられない」⇔「その美しい……、と言うほどでもない顔がしわくちゃになるじゃんか、見るにたえないよ」

 そして、旧約聖書やボッティチェリまで引用した格調高き「裸身礼賛」演説。
 とどめは「そうとも、そのまま町中をかけまわろう!!」という高らかな後押し(なにが「そうとも」なんだか……)を受けて急進的ヌーディストと化したしずかちゃんと、それに遭遇したドラえもんの表情……。

 よくこんなの小学生向け漫画雑誌に載せたもんだと思います。今だと不可能なんじゃないでしょうか。

(ところで、今回テレビ放送版についてちょっと調べてみましたが、さすがに外に出てくしずかちゃんはタオルを巻いており、また、「裸身礼賛」も「そうともそのまま町中をかけまわろう!!」もカットされている模様です。無理もない……が、最大の笑いどころが切れているとも言えます)

アブナイっちゃアブナイネタですが、この手のスレスレギャグが持ち味のイギリス・アメリカコメディでもお目にかかれないような過激さと、それでいてなんか非常にもっともらしい高尚な話題とのミックスが私には非常にツボでした。

(こんなこと宣言するものどうかと思いますが「ジャイアンの歌」ネタ以外だと、この「しずかちゃんのお風呂」ネタが大人になって読むととても笑えます。)

 ドラえもん30巻台は全体的にとても面白いので、是非お手にとってみてください。

 当ブログドラえもんご紹介記事はコチラです。(全てネタバレなのでご了承ください。)
 「ジャイアンシチュー」 
「ジャイアンへのホットなレター」
「ジャイアンリサイタルを楽しむ方法」
「きこりの泉」
「ジャイ子の恋人=のび太」
 読んでくださってありがとうございました。
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posted by Palum. at 23:07| ドラえもん | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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