2014年02月07日

「五匹の子豚」(クリスティのフレンチ・ミステリー※ネタバレ編)

 今回はAXNミステリーで2月15日(土)15:00から放送される「クリスティのフレンチ・ミステリー」の「五匹の仔豚」についてご紹介させていただきます。

 当ブログの「フレンチ・ミステリー」過去記事はコチラ

 複雑な人間関係と海辺の景色、小さな子供の歌うマザーグースが織りなす、悲しい事件と、ラロジエール警視&ランピオンのギャグの緩急、そしてラストシーンの情緒。

 みどころの多い良作です。

(あらすじ)以下かなりネタバレです。大丈夫な方だけお読みください。

 母親が画家の父を毒殺した罪で投獄され、15年後、当時幼かった娘が真相を探ろうとするという筋立て。

 原作では探偵役がポアロ。

 そして、原作では獄中死したことになっている母親が生きていることになっているところが最大の違いです。

 ドラマは、事件当時まだ幼かった娘マリーが、成長して、かつて住んでいた古い邸宅の鍵を開くところから幕を開けます。

 誰もいない家で、マリーの心の中に響く、「五匹の仔豚」の歌。

 15年前の、黄昏の砂浜での思い出。

 父が自分の手をつかんでくるくると回して遊んでくれ、まだ少女だった叔母コレットが、むつまじい親子3人の写真を撮ってくれた。

 幸せだったはずなのに、父バルガは心臓発作で死んだ。

 母のエマも悲しみのあまり病気で死んだと聞かされ、彼女は親戚のもとで育てられた。

 でも、そこには二つの嘘があった。

 父は殺され、犯人として逮捕された母は今も牢屋の中にいた……。

 場面が変わり、警察そばのレストラン。

 既に優秀な部下として知られるようになっていた若手刑事ランピオンが、尾行してきた探偵ルブランからヘッドハンティングされています。

 最初は、自分は上司であるラロジエール警視を尊敬しているから、と言っていたランピオンですが、話を続けているうちに、

「確かに安月給だし、意地悪だし、不当な扱いも受けるし、寛大なところを見せてくれたことも一度も無いし、長所を見つけるのがむずかしい人ではある……」

と、日ごろの積もり積もった不満をつらつらと愚痴りだしましたが、それでも一応誘いは受けずに店をでました。

 ところが、戻って来るなり、そんなこととは知らないラロジエール警視から、最悪のタイミングで「昼食からの戻りが遅いし机が汚い」という理由でことのほかひどく叱責され、机の上の資料をバラまかれます。
(たしかにはためには雑然として見えるのですが、本人としては使いやすく配置していたつもりみたいです。ランピオンはマメな性格なのでホントにこれでよかったでしょう〈のび太的屁理屈ではなく〉)

「不当な扱いだ」
「不当だろうが正当だろうが部下なら上司に従え、(私にとって)君はクソと同じだ。簡単に潰せる!」

 この、その国の言語を解する人なら100人中120人が腹を立てるであろう暴言(ホントこんな酷い言いぐさ聞いたことない……)に憤慨したランピオンは、辞表を置いて探偵社へと去ります(無理もない)。

 その探偵社へ、マリーが母の事件を再調査してほしいと訪ねてきたのです。

 マリーの境遇に同情したランピオンは捜査に(警察から資料を盗み出してまで)尽力しますが、新しいボスのルブランは金の亡者で真相に興味を示しません。

 一方、ランピオンがこの事件を調べ出したと知ったラロジエール警視も負けじと再捜査に乗り出しますが、ランピオンに比べると頼りない部下ばかり。

 結局お互いを見直すことになります。

 理不尽だが正義感だけはある上司だった。(byランピオン)
 生意気だがよく気の付く男だった。(byラロジエール警視)

 結局、ランピオンのほうが先に折れて、復職させてほしいとラロジエール警視に懇願します。

 警視の部屋を訪ねてきて、しおらしく自分の非を認めるランピオンに、ラロジエール警視は内心嬉しい癖に
「ドアを閉めろ」
(いそいそ指示に従うランピオン。)
「違う、君が外だ(=出ていけ)」
と意地悪を言います(うまい……)。

 それでも、その後はどうにか二人の知恵を合わせて、当時の調書から状況の矛盾をあぶりだし、真犯人を見つけることに成功します。

 こうしてマリーの母エマは、ようやく自由の身となります。

 このエマが解放された後のラストシーンがおすすめなんです……。

(以下ネタバレ部)
 
 15年前、エマは、夫バルガの度重なる浮気に耐え兼ね、離婚を切り出しますが、バルガとって浮気相手はあくまで絵の題材。

 美しさを引き出してそれを描くために、若い女たちに恋を仕掛けますが、本当に愛し、必要としていたのはエマだけでした。

 エマが今回は本気で自分と別れようとしていると気づいたバルガは、それまでの勝ち気なエゴイストぶりから一変、「なんでもする。僕を捨てるな!エマ!!」と、ひざまずいてエマの懐に顔を埋め、許しを請います。

 そんなバルガにエマはどうにか怒りをおさめ、もう二度とこんな思いをさせないでくれと夫に頼みます。

 しかし、その直後、バルガは殺され、エマは冤罪で長い間自由を失うことになったのでした。

 ランピオンたちのおかげでようやく無実が証明されたエマはバルガと暮らした屋敷に戻ってきます。

 結婚を控えたマリーはエマにこの国を出て、一緒に暮らそうと懇願しますが、エマは生涯この屋敷から離れないと言います。

 そして一人、海辺へと素足で歩いて行くエマ。

 15年の月日を経た彼女の心の中で、かつて彼女にひざまずいて愛を誓ったときの夫バルガが付き添って共に歩き、やがて波打ち際で彼女を抱きしめると、そっと口づけをします。

 背後から妻を抱く、亡きバルガと、夫に振り向くエマ。

 現実の風景の中で、波の音を聴きながらわが身を抱きしめ、砂浜で独りほほ笑む、老いたエマ。

 バルガは死んだ。

 でも、エマの記憶の中のバルガは、エマにひざまずいて愛を誓った姿で永遠に止まっている。

 バルガと生きた思い出の屋敷と、海の景色を見つめ、あの悲劇の直前の、夫の愛の記憶を何度でも思い出して、生きていく。

 繰り返し打ち寄せるさざ波のように。

 それが、バルガを失ったエマの、この世で得られるいちばんの幸せ。

 砂を踏みしめて波打ち際に立つ、エマの満ち足りた微笑から、そんな想いが伝わってきます。

 原作ではエマが獄死しているので、この場面はドラマでしか観られないのですが、個人的にはこの「フレンチ・ミステリー」シリーズで一番好きな場面です。

 美しい海辺の景色と、夫バルガを演じたヴィンセント・ウィンターハルターの(「ワイン探偵ルベル」で刑事を演じている人〈リンク先画像右の人〉)、エゴイストながら本当に人を恋うることを知っていた人間という複雑な役どころを演じきった技量もあって、もの寂しいながら印象的な映像になっています。

 笑いどころも多々あり、結びはこのような情緒ありという奥行きのあるドラマですので、よろしければ是非ご覧になってみてください。


 当ブログのフレンチミステリーに関連する主な記事は以下のとおりです。

(一部内容が重複しています。またリンク切れが多いのであらかじめご了承ください。)
クリスティのフレンチ・ミステリー(AXNミステリー・フランスドラマ)
「クリスティのフレンチ・ミステリー」再再放送(AXNミステリー
「五匹の子豚」(クリスティのフレンチ・ミステリー※ネタバレ編)
クリスティのフレンチミステリー「ABC殺人事件」(ドラマ独自の年の差恋愛も見どころ)

ドラマに関するフランス語のウィキペディア記事は以下の通りです。
「クリスティのフレンチミステリー(原題:Les Petits Meurtres d'Agatha Christie)」の紹介ページ
同上「ABC殺人事件(Les Meurtres ABC)」の項目

読んでくださってありがとうございました。




posted by Palum. at 22:58| 日本の海外テレビ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
カテゴリ