2014年01月15日

「メッツェンガーシュタイン」(「世にも怪奇な物語」A「黒馬の哭く館」の原作として)※ネタバレ

「メッツェンガーシュタイン」原作挿絵(ウィキペディアより)

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 前回、エドガー・アラン・ポーの作品を下敷きにしたオムニバス映画「世にも怪奇な物語」(1967年)を紹介させていただきましたが、この中の「黒馬の哭く館」(監督:ロジェ・ヴァディム、主演ジェーン・フォンダ)ご鑑賞の際のご参照として、原作であるポーの「メッツェンガーシュタイン」のあらすじと、映画との相違点をご紹介します。
というかほとんど違うんですが……。
先に映画のご紹介記事(コチラ)をお読みいただけると助かります。


以下、原作「メッツェンガーシュタイン」の結末までのあらすじです。(『岩波文庫「黄金虫・アッシャー家の崩壊(他九編)」参照)

黄金虫・アッシャー家の崩壊 他九篇

 西洋では珍しいことに輪廻転生が信じられていたハンガリーでの物語。

 メッツェンガーシュタイン家とベルリフィッツイング家はともにその地方では知らぬ者の無い名家。

 しかしその領地が隣り合っているがゆえなのか、長年にわたり不仲だった。

 ベルリフィッツイング家の当主ウィルヘルムは既に老年。

 年に似合わず馬で駆けることと狩猟を好んでいたが、その性格は執念深く、自分たちよりもあきらかに栄えているメッツェンガーシュタイン家を深く憎悪していた。

 メッツェンガーシュタイン家のフレデリックは15歳の少年。

 両親は立て続けに世を去り、天涯孤独の身。
 しかし、美しく優しい母が死んだときには、フレデリックの身の内からそれを嘆く心はすでに消え失せていた。
 幼いころからの酷薄な性格は、富が許してしまった子供時代からの奔放な放蕩生活によってさらに堕落し、この年よりはるか以前に、彼の中から良心や追憶というものは失われていたのである。

 父の死により、国でもまれなほどの遺産を手にしたフレデリック。
 このような性格の若者に、これほどの財産。
 結果は明白。
 フレデリックは相続後三日のうちに、残忍、放蕩の限りをつくし、それは、かつて彼を崇拝していたものですら戦慄を覚えるほどのものであった。

 四日目の夜、宿敵ベルリフィッツイング城の厩舎から火の手が上がった。
 これもあの残虐なフレデリックの仕業に違いない、人々はそう噂した。

この騒ぎをよそに、壮麗な宮殿で一人もの思いにふけるフレデリック。
彼は、壁にかかる豪奢なタペストリーの中の馬に眼を止めた。

タペストリーの中に描かれていたのは、まさしく両家の確執を象徴したような光景。

ベルリフィッツング家の先祖、サラセン人の馬。
馬の後方に、その馬の騎士。
その騎士が、メッツェンガーシュタイン家の者によって剣で刺されて死ぬ場面だった。

一瞬、窓からさしこむ火事の光に目をやって、また、タペストリーを見たフレデリック。

彼は自分の目を疑った。

それまで、主である騎士に向けられていたはずの馬の首がこちらを向いている。
その瞳は赤く燃え、怒りに歯をむき出しにしていた。

よろめき、扉を開いたフレデリック。

光が部屋に差し込み、フレデリックの長く伸びた影が、タペストリーの中で、ベルリフィッツイング家の先祖サラセン人を殺めて勝ち誇る、自分の先祖の意思にぴったりとその輪郭まで重なるのを見て、彼はますます恐怖した。

怯えて外に出たフレデリックは、正門のところで、家来が一頭の暴れ馬をいさめているのを見つける。

たけり狂う赤い馬。

その姿は、先ほどフレデリックが見ていたタペストリーの馬に瓜二つだった。

 ベルリフィッツイング家から逃げてきたと思われたが、その家の者は誰も見たことがないという馬。

 それを聞いて、フレデリックはこの馬を自分の物にすることに決める。

 この火事で、ベルリフィッツイング家のウィルヘルムは愛馬を救おうとして火にまかれて死んでいた。

 そして、ほぼ同じころ、フレデリックの見つめていたタペストリーの一部が、消え失せていたのである。

 あの火のような目をした憤怒の馬が。

 この日以来、フレデリックはあの退廃の日々をふっつりと忘れ、そして昼夜すら忘れたかのように謎の馬に乗って領地を駆け続けた。

 ほとんどの人々は、彼があの馬を非常に愛していると思っていたが、一人の小姓は、フレデリックがあの馬にまたがって城に戻ってくるとき、その表情に勝ち誇った悪意があると感じていた。

 ある嵐の晩、フレデリックは突然馬にまたがり、森へと駆けて行った。

 よくあることと思い、家来は誰も気にかけなかったが、それから数時間後、あの壮麗な、それゆえに老ウィルヘルムの憎悪の的であったメッツェンガーシュタイン宮殿が突如謎の猛火に包まれた。
 
 避難した家来や近隣の者たちはなすすべなく、やがて跡形もなくなるであろう宮殿を見つめていたが、そのとき、森の中から、嵐のごとくあらわれた影。

 フレデリックを乗せたあの謎の馬であった。
 
 馬上のフレデリックの表情は、それを見た者たちを呻かせた。

 恐怖と苦悶にゆがむ少年の顔。

 フレデリックにはもはや馬を御することができていなかった。

 裂けた唇から洩れた、一瞬の悲鳴。それだけ。

 馬は蹄の音高く門と堀を乗り越え、階段を上り、フレデリックもろとも、火炎に飛び込んでいった。

 炎が異常な閃光とともに輝き、白い煙の雲が、城壁の上に、巨大な馬の姿となって、おおいかぶさった。
                                              (完)

 これが原作の概要です。
 映画との共通点・相違点を考えると際立つのはこのあたりかと。
 
(共通点)
  ・長年確執のあった名家
  ・フレデリックは若くして巨万の富を継ぎ、退廃的な生活を送っている
  ・ウィルヘルムは狩猟と馬を愛好している
  ・フレデリックがウィルヘルムの城の厩舎に火を放ち、結果ウィルヘルムが死ぬ
  ・フレデリックの城のタペストリーから馬が消える
  ・代わりに姿をあらわした謎の馬に、フレデリックが昼夜を問わず駆けるようになる
  ・馬に乗ったフレデリックが火の中で死ぬ

 (原作のみ)
  ・フレデリックは少年、ウィルヘルムは老人で血縁関係は無い
  ・ウィルヘルムは執念深く嫉妬深い性格
  ・フレデリックが厩舎に火を放った理由は不明、おそらくただ彼の残酷な性格がそうさせただけ
  ・フレデリックは馬を御することができず、馬が彼もろとも火へと飛んで死ぬ
  ・城を燃やす煙が馬の形をとる
 
(映画のみ)
  ・フレデリックは若い女性、ウィルヘルムは青年で、いとこ同士
  ・ウィルヘルムは聡明で孤高
  ・フレデリックは自分がウィルヘルムに自分の恋心を拒絶されたと思い込んで厩舎に火を放つ
  ・フレデリックがタペストリーの馬を急いで修復しようとする
  ・フレデリックは自分の意思で荒れ地の火に馬を飛び込ませて死ぬ

 ……比較してみると、原作のほうの少年フレデリックが馬で駆け続けたのは、老ウィルヘルムの呪い・復讐が馬の形で姿を現したことをうすうす知りながら、その呪いすらも乗りこなそうという大胆不敵な驕りを持っていたからのようです。
(小姓の証言にある、遠乗りから帰ってきたときのフレデリックの「勝ち誇った悪意」ある表情というのがそれを物語っています。)

 しかし、映画の女性であるフレデリックにとって、この馬は青年ウィルヘルムそのものでした。
 彼女はこの馬の出現に恐怖しますが、明らかに愛しています。
 (遠乗りをし、自分のリンゴを馬に食べさせている場面があります。)

 一方で一日も早いタペストリーの修復を望み、馬で駆けているとき以外はタペストリーの前に立ち、その様子を凝視しています。

「老人の指で織られているのが、彼女自身の運命のように見えた」
 という語りにあるとおり、彼女はタペストリーの馬を元に戻すことで、あの謎の馬をそこに封じ込めようとしていたのかもしれません。

 自分が、今も燃え盛るウィルヘルムへの想いに連れ去られ、それに焼き尽くされる覚悟を決めてしまう前に、タペストリーが織りあがっていたら、そこにウィルヘルムの呪いと復讐(あるいは互いに惹かれあっていた心)を織り込んでしまえば、自分の命は長らえる。
 そんな風に思っていたのではないでしょうか。
 ですが、老職人がタペストリーの馬の瞳に炎の色を織り込んだそのとき、彼女は既に、馬と、ウィルヘルムと共に死ぬために、炎の中へと疾走していったのです。
 純白の衣装に、喜びの笑みさえたたえて。

……原作もさすがポー、少年フレデリックの影がタペストリーの中の先祖の殺戮の輪郭に重なってフレデリックが恐怖する場面とか、なによりもラストの閃光と煙の馬の描写とかが見事なのですが、個人的には映画のほうが好みです。

 原作の魅力的な要素を使いながら非常に巧みに別の、そしてさらに情感と美のある作品に仕上げてあると思います。

 ロジェ・ヴァディムといえば、このときフレデリックを演じたジェーン・フォンダのほか、カトリーヌ・ドヌーブ、ブリジット・バルドーなどの有名女優を妻にした人で、なんてうらやま、いや、イヤな奴……と男性からどついたれ光線の集中砲火を浴びそうな男ですが、なるほどあれだけの美女たちが心惹かれるだけあって、確かな才能と実力のある人だったのだなと今回作品を比べてみて思いました。

 あのポーを向こうに、それを超えるのだから見事です。

 よろしければご覧になってみてください(とくに映画)。この文章が皆様のご鑑賞のお役に立てば幸いです。

 同じ『世にも怪奇な物語』の「悪魔の首飾り」についても以前記事を書かせていただいたので、コチラもよろしければお読みになってみてください。


 読んでくださってありがとうございました。
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posted by Palum at 00:11| おすすめ映画(英米) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする