2014年01月28日

「いい!いい!どうでもいい」(至言)(『ドラえもん』「ジャイアンへのホットなレター」より)

今回はドラえもんの作品をご紹介させていただきます。

ネタバレなので、大丈夫な方だけお読みください。

 このエピソードは「てんとうむしコミックス35巻」、


ドラえもん 35

 または小学館コロコロ文庫ドラえもん[ジャイアン編]に収録されています。(こちらジャイアンの傑作が集結していて、今からとりあえず一冊読んでみようかという方にお勧めです)


ドラえもん ジャイアン編

 ドラえもんの中で、大人になってから気づく面白みのひとつにジャイアンの存在があります。

 ジャイアン本人というより、ジャイアンの腕っぷしを前にして、言いたいことが何も言えない、さらには心にも無いことを言わざるを得ないという周囲の反応が。
 そして、押し殺した本心をバレないようにぽつりともらしている、その一言が。
 誰でも身を守るためにそういう対応をとらざるをえないときがあります。
 彼らの描写はそんな人生のほろにがい側面を彷彿とさせるのです。
 
 しかし、そこは世界最強の漫画(否定意見不受理)、ほろにがい、ではなく、おおいに笑える、に、ちゃんと変えてくれています。

 その好例が「ジャイアンへのホットなレター」

 歌手ジャイアンに熱い思いのこもったファンレターを書こう、という、根本的に不可能な企画の顛末を描いた回です。

 有名な話ですが、ジャイアンは昔懐かしい言い方をするとガキ大将で、のび太や周囲にしょっちゅう八つ当たりもしていますが、彼の腕力以上に恐れられているのはその歌声です。
(スネ夫が「(彼の)歌よりゲンコツのほうがましだ」と明言し、泣いてチケット購入を拒否していたことがある。)

 気を抜くと気絶するほど酷く、大長編「のび太の魔界大冒険」では怪獣のような化けクジラまで「オエー!」と、尾ひれがクルクルよじれるほどの吐き気を催して退散しています。
(この化けクジラのところまで、ローレライ伝説のように人魚の美声が惹き寄せてしまうのですが、ジャイアンが対抗して歌ったらそういう結果に。)
 
大長編ドラえもん 5 のび太の魔界大冒険

 そりゃ、そんな音声を2〜3時間聴かされる催し(「ジャイアンリサイタル」)に出席しないとぶんなぐられるのは嫌でしょう。

 しかし、本人はそのような反応にあまり気づいておらず(盛り上がりに欠けることはうすうす感じてはいるが、「真の芸術は理解されにくい」という方面に苦悩している)、アイドル伊藤つばさちゃんの人気に激しく嫉妬します。(ポジティブ)
 
 スネ夫が書いた彼女へのファンレターがコンクールで優勝し、サイン入りパネルをもらったという話を聞いたジャイアンは、対抗意識を燃やして、自分のファンにもそのような活動をさせるようにとのび太とドラえもんに強要します。
 
 具体的な企画例として、ジャイアン本人が
「みんなでごちそうを持ちより、ジャイアンを呼び、ジャイアンはサービスに歌を数曲ふるまう)『ジャイアンを囲む夕べ』」
を提示すると、二人は真顔で
「だれもかこみたがらなかったりして」
と、つい本当のことを言ってしまい、慌てて「やたらそんなことすると安っぽく見えるよ」とごまかします。

 それではということで、ファンレターコンクールをやり、優勝者にはジャイアンのサイン入りパネルをプレゼントすることになります。

 ドラえもんの道具を使って、自らデザインしたステージ用の格好に変身したジャイアン(ヘアスタイルはアフロにターバン、片目をふちどりしたアイメークに口紅、ほっぺに☆、衣装は素肌に毛皮調ノースリーブ、ピタピタのヘソだしシャツ、ブリーフ、編み上げサンダルという、ある意味奇跡的なセンス。〈そっぽをむいて「おぞましい……」と吐き気に耐えるのび太〉)はマイクを片手にウィンクをしながら
「ポーズはこれでいいか?」
と、撮影者であるドラえもんに確認をとります。

いい、いい、どうでもいい.png

 ドラえもんは冷や汗を浮かべながらもどうにか笑顔を作って
「いい!いい!」
と、あわせますが、どさくさまぎれに
「どうでもいい」
と、付け加えています……。

 こうして撮影の済んだパネル、大きさはジャイアンが決めるということで、その間ドラえもんとのび太は周囲にファンレターを応募するようにと呼びかけます

(さすがのしずかちゃんですら「そんなの(パネル)もらっても置き場が……」と困惑、ドラえもんが「かざっておけば魔除けになるよ」と無茶苦茶な説得をします)

 最後は投票を呼び掛ける車よろしく、タケコプターで町を巡って、応募を促すのび太とドラえもん。
「ださないとたたりがあるよー」
ジャイアンが聞いたら激怒するであろう一言もまじっています。

 結果、集まったのは、いかにも投げやりな汚い字で書かれた13通。

「(カナクギ字で)どうか入選させないでください。パネルがあたりませんように。とく名希望」
 これはまだ良い方。

 ここぞとばかりに、積年の鬱屈をしたためた手紙も入っています。

ジャイアンの歌にはしびれる.png

「ジャイアンの歌にはしびれる。しびれて気が遠くなって熱が出る。ジャイアンの歌を聴いていて一番うれしいのは終わった時だ」
「この世で恐ろしいのは核兵器とジャイアンの歌だ。世界平和のため、核兵器とジャイアンの歌を追放しよう!!」
 こんなの見せたら殺される。と震え上がるのび太とドラえもん。

 仕方ないので、誰でも心を打つ文章が書ける「模範手紙ペン」でのび太がファンレターを書くことにします。
「ぼくには不思議でたまらないのです。どうして紅白歌合戦にジャイアンが出ないのでしょうか。これからも男の心を歌い続けてください。世界人類のために!!」
……当然これが一等に。

 この「ホットなレター」を読んだジャイアンは、涙ながらに、
「心の友よ!きみのようなファンをもって僕は幸せ者だ!!」
とのび太を抱きしめます。(のび太、うんざりして目が「十」になってる)

 というわけで、ジャイアンが持参した賞品の超特大パネル。

 窓際の天井からドア側の床まで斜めに置いてもまだ「アノステージ衣装のジャイアンの笑顔」いっぱいいっぱいで、部屋の片隅で「ぼくたちの居場所がない!!」
と、のび太とドラえもんが嘆き悲しむというオチ。

 個人的にあまたある傑作のなかでも屈指の作品だとおもっています。

 セリフも名言揃い。

 とくに撮影中のドラえもんの
「いい!いい!」
「どうでもいい」
は、自分にはとても染み入ります。

 集団において平穏に生きていくためには、したくもない同意をしなければならないときがあると悟ってから、人生で何度このフレーズ、しかたなく笑うドラえもんの表情を思い出したことか……(遠い目)←わりと早い時期に悟った模様。

 よろしければ、コミックを手に取ってみて読んでください。
(当然このご紹介文より、藤子Fさんの、あの丸っこくてカワイクて優しい線のキャラがああいうシビアなことを言うコントラストのが圧倒的に面白いですから。)

 そして、ときに本心を押し殺して生きざるをえない人間のせつなさを、爆笑でそっとつつんでみてください。

 読んでくださってありがとうございました。
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posted by Palum at 04:32| ドラえもん | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする