2010年12月12日

ヒッチコックのスピーチ


 前回「プレミアム8 ヒッチコック サスペンスの深層」で、ヒッチコックがアメリカ映画協会功労賞を受賞した時のスピーチ、とても印象深かったのでご紹介させていただきます。


 トロフィーを手にしたヒッチコックは、あの、言葉をふっふっと区切る、独特のゆっくりとした語り口でこう話しはじめます。

「皆さんにご紹介します。

 これまで私の仕事を支え続け、愛情と励ましを与えてくれた四人の人物です。

 最高のパートナーでした。

 1人目は映画の編集者。

 2人目は脚本家。

 3人目はわたしの娘、パトリシアの母親。

 4人目は素晴らしい名コック。長年キッチンで奇跡的な腕をふるってくれました。

 彼女の名前は、アルマ レヴィル。」

 あまり表情を変えずに、言葉をひとつひとつ慎重に置くように語るヒッチコック。
 
 その言葉がとぎれるたびに、大きな眼鏡の奥の瞳をうるませ、唇をかみしめて、彼を見つめる奥さん、アルマの映像が重なっていました。

 華やかなハリウッドで、映画監督として成功を収めたヒッチコック。

 長い結婚生活のいつもが、波風がたたないものだったとは言えないかもしれませんが、しかしそれでも、彼にとって日々、「4人のベストパートナー」であってくれた人は、彼女1人だったのでしょう。

 最高の4人として、数十年連れ添った重みが、ヒッチコックの言葉と、それを聞いて涙を浮かべるアルマの間に感じられました。

 自らストーリーテラー役をこなした「ヒッチコック劇場」(※)(「世にも奇妙な物語」のタモリのポジション)では、シニカルでユーモラスながら、やはり相当怖いとも思わせる内容を、飄々と話していたヒッチコックが、ちょっと聞き同じような語り方で、しかし厳粛に、こんなことを語っていたのというのは、わたしにとって意外な、温かい驚きでした。

 失礼ながら、当初、いくつか彼の映画を観たときは、あんまり頭が良すぎて、もっとドライな人間観の持ち主なのではないかと勝手に思っていたもので。
 
 しかし、彼の側には、「パートナー」という言葉がこんなにも相応しい人がいたのですね。



 ご覧にならなかった方にも、あのスピーチの印象が少しでもお伝えできていたら幸いです。

(※今週(2010年12月13日~)もBS2でヒッチコック映画がたくさんご覧になれます。番組表はコチラです。。)




(※)ヒッチコック劇場……ヒッチコックほか複数の製作者と豪華俳優陣(いまや古典と言われるような名作映画で主役を張っているような人々が登場)による短編ドラマ集。

 「チャッチャチャララチャッチャラ×2」というテーマソング「マリオネットの葬送行進曲」はどなたもお聴き覚えがあるはずですが、あの曲の、コミカルなのに妙に不安になる空気が、作品全体に漂う特異な名作です。
(いずれ何作かご紹介させていただきたいです)

 このときのヒッチコックの、どこか他人事のような語り口や、スポンサーCMへのブツクサ、なんでもやらされる感が、本編のサスペンスと対照的で絶妙なスパイスになっています。

 ちなみに日本版ヒッチコックの声優は、名探偵ポアロでも有名な熊倉一雄さんだったそうです(ミステリーにとぼけたユーモアと品を足して、奥行きを出す素晴らしい声をお持ちです)。

※わたしが持ってるDVDでは、ご挨拶だけ熊倉さんの声ですが、どっちも好きなんで切り替え出来たら最高だったなあ……。

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posted by Palum. at 21:33| 日本の海外テレビ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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